講師:仙頭正四郎(せんとうせいしろう)
≪開講にあたって≫
21世妃に入り、私たちは無意識に未来への模索を始めているように感じられます。今までは無批判に当然であったことが当然ではなくなり、yesであれnoであれ、一つひとつのことがらに個人の考えが求められる時代でもあります。これからの世紀は、真実を、ひとの眼ではなく自分の眼で見つめる世紀であり、それはすなわち、自分の心を見つめる世紀でもあるように感じています。
同じ視点を医学の領域に向けたとき、私たち医療者に必要なものは、受け売りの知識や確率統計をもとにした統一規範ではなく、それらを道具として扱いながら目の前の事象をしっかりとつかむ医療者の眼です。そのためには、自分自身の眼による分析と判断が求められます。そして、最終的に自分自身の手による医療への介入、ひとのものではない自分の気持ちの通った治療手段を提供することが21世紀には求められているように感じてなりません。そうしたものを本講座で追究したいと思っています。
さて、東洋医学の歴史と変遷はともかく、現在、臨床の現場にエキス剤の形で漢方薬が溢れています。漢方薬が使用される理由にはいくつかの要因があるようですが、その中にひとつに、医療者が感じる必要性や患者さんの要請が存任するのは事実です。それは時代の要請でもあり、新しい医学観への模索の姿でもあるように思います。私は、新しい医学観が形成されないかぎり、現存のどの医学も、今の発展の方向性では、遅かれ早かれ壁にぶつかり壁を乗り越えられずに途絶えてしまうのではないかと危惧しています。しかし、どれが残るとかどれが吸収されるとかいったことではありません。お互いが補完し合いながら、新しい医学を作る時代になると感じています。
私が個人的に描いている未来像は、全体観やシステム観に優れた中医学的な視点を核にして、技術や情報分析に優れた現代医学がそれを検証、具現化していく姿です。そのことで、東洋医学でもなく西洋医学でもない、その時代時代に求められるものに進化しうる医
学が生まれ、それを人が「現代医学」と呼ぶような時代になって欲しいと考えています。
現在、臨床の場に漢方薬は存在しても、東洋医学教育は卒前にも卒後にも皆無です。多くの人々が東洋医学に惹かれながらも、学びの場がないがゆえに、あるいは挫折し、あるいは迷路に迷い込み、東洋医学から離れて行っているのもまた現実です。今現在の問題を解決するためにも、そして、新世紀医学への夢を実現するためにも、今必要とすることは東洋医学教育の充実であると痛感します。その想いが、本講座開講の原動力となりました。