赤まるち


平和という日々を知る

「マルチー」

「なんですかご主人様」

「悪いがお使い行ってくれ、昼飯の買い出しを頼むわー」

「わかりましたー、マルチはハイオクですが、ご主人様はレギュラー?それとも、軽油?」

そう言っては、権助が買い物へと出かける毎日
あれほどの喧噪はなんだったのか、まるでわからないが
ともかくこの二人を取り囲む世界は平和という言葉で事足りた
そう、これは1000点分の幸せ

不思議と来栖川グループの追っ手は来ない、また
金之介も帰ってこないため、すっかり、その2LDKは
権助とマルチのモノとなっている、二人で、せせこましく
毎晩のように激しいバトル、時折悩ましげな夜、そういう生活が
繰り広げられている、金之介とリューバの時は、どんな生活が
送られていたのか、やや気になるところだ

一週間経った、無事に、何事もなく

「・・・・・・・・事後処理って奴に追われてるのかな」

権助がテレビの向こうで陰惨な事件として伝えられる
前回の、魔女っ子大作戦の結果をまじまじと見つめている
リポーターが、まるで毎日が葬式のような顔をして、つれつれと
呪詛かと思うほど、テンション下げて来栖川邸一大事と唄っている

「・・・・・・というわけで、謎のロボットの襲来により、大打撃を受けました
来栖川邸からお送り・・・・・きゃぁっ!!!な、な、ナニか黒い物体がっ!!
い、いやぁあああああああっっっ!!!」

ざざざーーーーー

「・・・・・・・・・・・・・・・ったく、人間は全員無事だったからいいじゃんかよー」

「・・・・・いや、なんか部隊全滅とか色々言ってるし・・・・・人が死ぬ死なないよりも
金持ちがなんらかの事件に巻き込まれたってトコがみそなんだよ・・・・
それより、この前の時、結局、マルチはどれだけ殺ったんだ?」

テレビのレポーターの謎の叫び声と、最後に画面にちらりとだけ映った
謎のとんがり帽子をやや気にしながらも、権助が真面目な顔で聞く
前回の来栖川事件においての、大惨事のほとんどが
D33によるものだろうという予測はつくのだが、このマルチが
ナニもしてないわけもないと勘ぐる
じーっと見つめてやると、目線を上へとずらして
何事か数を数えるそぶりをするマルチ、指折りで数えるところが
本当にロボなのかと疑わしくて素敵すぎる

「最初に、目からビームで屋敷に攻撃したのがあたしだろ?・・・・・
んでもって、庭先にいた、警備のセリオ型を3体くらい、ぞろぞろ出てきた
戦闘配備型の奴は、わたしじゃなくて、姉さんが殺ったのを見たよ、確か」

どうやら、そんなに暴れてないらしい、なんだつまらん(ぉぃ
権助が、話の興味を失い、暇な午後をだらだらと過ごす
流石に一週間、マルチと、あれやこれやとしたので
落ち着いたものだ、節操無く脈絡無く襲いかかったりという
無粋なマネは割としなくなったようだ、成長成長

「夕方になると冷えるな・・・・・・・」

ふと、権助がそう漏らした。部屋の壁に隙間があるようには見えない
やはり気温そのものが下がってきているのだ、なんたって冬だから
呟いたよそでマルチが、突然立ち上がって部屋から出ていった
ミカンでも取ってくるのかと、気にもとめずに
テレビをビデヲに変更して、えろえろしいのを観賞する

「ガイジンのは正直アレだよなー、声が怖いよなー」

素直な感想を漏らしていると、また後ろのふすまが開いた
マルチが入ってきたのだろう、間髪入れず居合い切りボンバー(ラリアート)にて
豪快に権助が吹っ飛ばされる、メイドさんてば技が多彩だわねヽ( ´ー`)丿

「ナニ見てんだよ・・・・つうか、どっから見つけてきたんだよっ」

「るせーなー、俺の珠玉のコレクションだぞ、ケチつけんな・・・・・って、なんだそれは」

吹っ飛ばされた権助が、首の位置を固定して
大事にいたっていないのを確認しながら、話に答える
そしてマルチが持っているモノに目を付けた

「・・・・・・・・・・・寒いって言うから・・・・・」

やや斜め下に視線を逸らして、ぶっきらぼうにマルチが言う
その手には、毛布が握られている、ばつが悪そうな表情
権助は不思議いっぱいという視線をぶつけ続ける

「・・・・・・・・・お前、もしかしてそれで・・・・・」

マルチが、かぁっと赤くなる

「首でも締め・・・・」

マルチが、カァッと紅く染まる

血塗れマルチがお約束を踏襲しながらも、目的をちゃんと果たす
ご主人様に毛布をかける、権助も甘んじてそれを受ける
なんだか照れくさいような気がするが、メイドがご主人様の
身体を気遣うのは当たり前の行動だ、まぁ、本当の所なら
ご主人様・・・・ふつつかですが、この、いやらしいアンカをお使いください
とかなんとかいって、裸になって飛び込んできてこそ真のメイドだろう
でも、及第点はやろう

「ったく、ご主人様、風邪などお召しにならないようにお気をつけくださいねっ、あと夜道とねっ」

マルチが怒りを露わにしながら部屋を出ようと立った
しかし、その手を、さっと権助が握った
びっくりして、思わず、取られた手を小手で返して
関節を極めてしまったマルチ、タップに気付いて慌ててそれを解く

「いたたたっ・・・・・・・お、お前・・・・、あのな、マルチ・・・・・」

「なんですか?」

「折角だ、一緒に入っていけ」

権助が真顔でそう言った、マルチの成長したCPUが必至に演算処理をする
これは優しい言葉なのかそれともえろえろしい言葉なのか・・・・
考えてる最中、強引に権助がもう一度手をとって、自分の懐へと
招き入れた、ふらっと崩れ落ちるようにして、権助の胸に飛び込むマルチ

ぽふむっ

抱きかかえられるようにして、マルチが胸に顔をうずめる
権助がそれを器用に毛布でくるめる、一緒の毛布に
二人で収まることが出来た

「・・・・・・・・・・なんだ?」

「い、いや・・・・・・あ、暖かいなって思って・・・・・・」

どきどきとマルチが自分のエンジンの回転数が上がるのを感じている
権助の思わぬ目新しい行動に、ドギマギしてしまう
OSに、恋愛ゲームのよくない情報が残っているせいで、こういう時に
女の子ちっくな反応を起こしそうになり、困るマルチ
悟られまいと、必至に顔を隠す・・・・・けど、その行為こそ女の子ちっくだよ

「なぁ、マルチ・・・・・・・・・・・・・・・」

「は、はい・・・・・・」

窓から入る西日が二人を紅く染める
もとより赤いその髪が、紅葉のような赤から
うっすらと橙がかった、朱色に染まる、ガラスの瞳も
ゆらりと光をこぼしながら、その部分を朱に染めて

「そのーーーーーーーー、なんだ・・・・・・・・・」

なんだかマジな様子だ、権助が珍しく言葉を選ぶように
会話を濁して、一向に進もうという気配が無い
不審に思ったマルチだが、この至近距離で攻撃をすると
自分にも被害がでる可能性があるので、黙って見守る
傾く西日が、音もなく、するりするり落ちて消えていく
世界が赤から青へと色を変える、今はそのはざま
空が、赤、紫、白、紫、青と曖昧に分かれる

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・世界一のメイドにしてやるよ」

選んだ割りに大したコトのない台詞だった
しかし、マルチは幸せを表情にする、メイドロボとしての本望を遂げる
緊張を解いたマルチが、権助に身体を預けるように力を抜く
でも権助は何もしない、すすと抱き締めて、マルチを優しく扱う
月が射す、白く淡い、それでもはっきりと見える光が落ちる
部屋は暗くない、不思議と電灯の光無しで、全てが見透けるような
凛と冷えた夜が更ける

「おやすみなさい、ご主人様・・・・・」

二人、毛布にくるまって明かした、落ちるように眠った
何をしたわけでもなく、それでも朝は、さくさくとやってきた

「びえっきしっ!!!!!」

「・・・・・・お前、ムード台無しー」

「るせー・・・・がー・・・・風邪ひいちまったか・・・・・」

権助のカトちゃん並のくしゃみで、お互いが目を覚ました
そう、世迷い事のような恥ずかしいテンションともおさらばだヽ( ´ー`)丿
しかし寒い夜に毛布一枚で寝てればそりゃ、風邪もひこう
原因のわかった風邪というのは、不思議と怖くなくて
ぼーっとしながらも、朝を確認する権助

「・・・・・・・?何してんの?」

「あ?・・・・・朝だから、ちゃんと、起きてるかどうかを、確か・・・・・・」

ずぼしっっ!!!!

至近距離から溜めの無い拳が、権助の脇腹をえぐった
ささっとマルチが、毛布から逃れてやれやれと、髪をかきあげて
洗面所へと消えていく、女の朝は大忙しだ
パンツの中に手をつっこんだ権助の遺体が、寒い朝の空気に30分
晒されることとなり、体調不良は肺炎手前までレベルを上げたという

「・・・・・・・・・あ”〜〜〜・・・・・喉痛ぇ・・・・・・」

再び目を覚ました権助が、洗面を終えて食卓へと出てくる
マルチが珍しく、朝飯の仕度をしてくれたらしく、朝から台所は
生活の匂いに溢れている、とんとんとんとん、包丁が何かを刻む音が
小気味良く耳を刺激してくれる、おやおや、何作ってるのかなー♪

「あ、ご主人様♪、んもう、駄目ですってばぁ♪、すぐ出来ますから、座って待っててください♪」

笑顔で振り返るマルチ、かわいいコトこの上ないのだが
鍋の中の物体が全くかわいくないのに気付いて、権助が固まる
と、すぐに我に返って、鍋にかかるお玉で、中身を掬おうと手を伸ばす
目、目の錯覚か!?、獣の足のようなモノが見えた気が・・・・・

がしっ!!!

「!?」

「ご主人様・・・・・・・・おいたがすぎますと、いくら私でも、怒りますよ・・・・・」

優しい口調と愛らしい笑顔、口元からのぞく歯がかわいさを演出している
いつの間にか、八重歯になってるじゃないか、やるなマルチ・・・・
妙な所に感心したが、それはそれ、その顔とは裏腹に力一杯に止められた
権助の右手首から先が、紫色に変色しつつある
にへらーっと、得意の愛想笑いで権助がそっと下がる
それを確認してマルチはようやく手を解く、そして権助が席に座るまで見つめ続け
諦めたのを確認してから、また、とんとんとんとん、が始まった

「ね、ねえマルチさん・・・・・その、鍋は何かなー?」

「な・い・しょ・♪」

このアマ・・・・・・・・・・・・
久しぶりに殺意を明確に覚える権助だが、何も出来ない
なんたって包丁持ってるし・・・・・仕方無いので、やはり何もせずに
時を待つことにした、なぜ、朝からこんなに緊張しないといけないのか
昨日弛みきったバチなのか?色々画策する権助の視界に
マルチの脇にあるポリバケツが入った
なんかはみ出てるぞ!?・・!?、い、今、う、動いたっ!?

ぱくんっ

いきなりポリバケツの蓋が開くと、マルチがそこへ
さっきまで切っていた野菜の屑を放り込んだ、そして
その瞬間に見えた何かに拳を食らわしてバケツの奥底へと沈めた
なんだ?く、黒くなかったか?く、熊っぽくなかったか!?
うぐぅぅぅ、謎の声のような音のようなモノがバケツから聞こえた
いわくありげにマルチが、振り返って、にまーーーっと笑いかけた
寒気がするほど美しい笑顔に、権助も釣られて笑いかえした
にへらーーー・・・・・・・・・・笑顔で始まる爽やかな朝

「はい、出来ました♪このおみおつけで、暖まってから行ってきてくださいね♪」

出されたみそ汁の実をさささっと確認する
しかし、おおよそヤバイと感じる物体は無い、ってことはダシなのか?
こわごわとすすってみる・・・・・・う、旨い(−−;
濃厚で非常にコクのある、強いクセを感じるこの風味、だが嫌味じゃない
唸るような旨さに驚きを隠せない権助、茶碗から湯気が立ち上る

「う、旨い・・・・・・・・・・・・・・・・が、初めてのダシだ・・・・・」

いりこダシでもないし、カツオだしでもない
昆布でもなければ、おおよそ海産物の匂いではない
マルチは目の前で、気にした様子もなく、何時の間に仕入れてきたのか
ガソリンをすすっている、一応固形物も食べるつもりなのか
目の前には、権助には出されていない、卵焼きが置いてある

ちらっと視線に気付いたのか、ぽつりと呟く

「ご主人様・・・・・お手が止まっておいでですわ、手伝いましょうか?」

「いや、結構です・・・・・・・・ところで・・・・・」

「なにか?」

マルチは視線を合わせない、しかしなぜか口元が変に笑っているように見える
ぱくぱくむぐむぐ
気にしないコトにして、権助が飯を平らげた
軽く咳をしながら、風邪の具合が芳しくないのを感じつつ
久しぶりの学校へと出るために、玄関に腰を下ろす

「・・・・・・・・・じゃ、行ってくる、留守頼むわ」

「はい、ご主人様♪」

メイドから鞄を預かる、かわいい声それと同時に

・・・・・

「・・・・・・・・・・は、恥ずかしいコトを朝からするんじゃないっ(−−;」

「あ〜ら、お帰りになられた時にもさしあげますわ♪いってらっしゃいませ」

ぶんぶんぶん、マルチが手を振る姿が朝日で輝く

たむたむたむっ
朝の寒さに負けない、ずいぶんと暖まった身体を携え
権助の足音が、冬の冷たい空気を震わせて
姿は、もやのかかった町へと消えた


吐血

つづく

戻る