赤まるち


綾香が恐れる「柏木」の血
かつて日本に住んでいたとされる、人ではない種族「鬼」
その末裔、その血を継ぐ者が「柏木」の人々であるとされる
全国でどれほどの分家があるかは、定かでないが
純粋に「鬼」としての、柏木の血を引く家系は少なく
また、鬼の力は
女子に産まれればその力を征する事が容易であるが
男子が産まれた場合、その子はいずれ自分の中の鬼と
戦う事となる、多くが、最終的にその鬼に全てを奪われ
野獣と化して、野山を駆けめぐり、人間を狩り、その血を呑み
肉を食らう

そうなる前に、その男子は命を断つ

呪われた柏木の血・・・・・・・・・・鬼は今も生きているのだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

目の前では、マルチにこづき落とされて、ひぎぃっとか泣いてる
その血を引くであろう男が立っている

「鬼・・・・・・・・・・」

「な、なんて事言うんだこの太股っ!、だ、誰が・・・・い、いや
別にな、そ、そんな、鬼とか言われるほど俺は・・・えっと・・・じゃ、じゃあいいよ
姉妹でとか贅沢言わないから、えっと、そうだな・・・・挟んで・・・・」

だうっ!!!

権助の台詞の最中だというのに・・・・・・・・突然、突風が吹いた
綾香が軽くのけぞって、その音源・・・・・・・マルチのハイキックをかわす
火蓋は容易に切って落とされた
それを先駆けとして、続けざまマルチが左右に大きく足を振り回し
空気を震わせる、悲しそうな目をして、綾香がするするとそれをかわし
やや後退、たむっという音とともに身体を躍らせると
マルチの蹴り足をくぐってかわし、前方回転して頭上から踵を落とす

切れ味鋭いそれが、寸分の狂い無く真二つにマルチの服を割いた
薄い胸が露わになる、間一髪でバックステップでかわしていたが
その威力を身を以て知る、ごくりと喉が鳴る、美しい赤い髪がはらはらと舞い落ちる
モップを両手で持って構えると、突きで前に出た
しかし、踏み込んだにも関わらず間合いが遠い
綾香の動きが良いせいだ、駆け引きの時点で綾香に敵わない
不用意な攻撃が、わずか一撃で撃墜される

ばしっ!!!!

蹴り足が美しい弧を引くと
マルチのモップが跳ね上がった、瞬間に逃げるように下がる、綾香は追わない
最初の場に立っているだけだ、格が違うのだろうか
その態度にいきり立つマルチ、しかし

「待てマルチ、そこまでだ・・・・・帰ろう、な?」

「うるさい、・・・・あいつが・・・・・・」

「何をムキになってんだか知らないが、別にいいだろう
戻るぞ、マルチ・・・・・・もう、お兄さん、その格好だけでドキドキなのだよ」

権助がはだけた薄い胸を見て、男らしく力強く言う
胸が無い事への鎮魂歌もやや含むものの、そこから欲情を導き出すあたり
血の力は凄まじい(そうなのか?)
その様子にも、カチンとくるマルチがとりあえず権助をぶん殴り
続いて、もう一度・・・・・・

「どきな、3103・・・・・・お前じゃ役不足だよ」

「ね、姉さ・・・・・・」

すぱんっ!!!!!

今までずいぶんと存在感の薄かった33型が、赤い影を落とした
マルチの三倍のスピードで迫る、前に出かけたマルチの足下を
軽く払うと、宙に浮いた所で掌を腹にぶつけた、だむっと重低音が響くと
権助の胸元に向かってマルチが吹っ飛ぶ
いきなり飛んでくる赤い髪の少女、それを力の限り抱き締めるため
大手を開いて待つ権助、感極まった声で叫ぶ

「ま、マルチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

「気持ち悪いから、辞めんかっ!!!!」

すかーんん

ここは描写しなくていいや(ぉぃ
マルチを吹っ飛ばしてから、ぎっ、と初めて構えを見せる33型
真上から、さきほど蹴り上げられたマルチのモップが落ちてくる、それを
美しく裁き、手に携えると、綾香に向き直る、しかし
すぐにその間に、さっきまで顔真っ赤にしてた髪の長いメイド、セリオが入る

「どきなさいセリオ・・・・・・・・・・・・・」

「綾香様・・・・・・・・・・・」

「命令です下がりなさい・・・・・・・・・・・・」

重い言葉に従ってセリオがすっと道を譲るように退がる
綾香は、正面を向いて自然本体で構える、
腹の下のほうに空気を溜めて、気を練る
空手などでも良く使う呼吸法だ、ラマーズ法とはわけが違う
気が充実していくのが目に見えるようにわかる
顔つきが変わり、瞳の奥が深く色濃くなっていく
だがそれの完成を待つこと無く、33型が攻撃をしかけた

右からやや大振りのモップ、綾香がそれをスウェーでかわす
いや、かわしただけじゃない、クロスカウンター気味に鋭い右が
33型を捕らえた、ガコッとカタカナの音がすると
続けざまに綾香が、打突を放つ
基本通りの前蹴り、右で腹を、左で胸元を小気味良く蹴り上げ
腰を落として踏み込んだ正拳、みぞおちをこれで突く
ずどんっ!!!と、米袋が地面に落下したような音
33型が目を見張り、後ろへ吹っ飛ぶ、先の時よりも綾香の動きがいい

「・・・・・・・・・・・・・」

33型が台詞も無く、両腕を前へ突き出した
体内を流れる電流の多くを結集させて、例の奴を作り上げる
手製のどでかい雷弾がバリバリとでかい音をたてて構築される
ぱうっ、妙な音とともに射出、体内の電力の一時的なダウンによって
ガクンと力無く後ろへ下がるが、すぐに、回復して前を見つめる

空気を伝う電気が、心地よく回路を刺激する
瞳がパチパチと紫電を放つ、その紫が走る赤い瞳に
綾香が電撃をものともせずにその場に立っている姿を刻み込む
それを見て、ほくそ笑む赤い髪の33

「・・・・・・・・・・・・そうか、芹香の・・・・・」

「ご名答・・・・・・・・・・あまり長い時間はかけない、いくよ」

綾香が輝く、そのやや後方で目をつむり、少し顔を上向けて
小さな声で、何かを呟いて・・・・いや、唱えている少女、芹香がいる
芹香を源として空に向かって、一条の光が昇っている
そしてその輝きが綾香を照らすことでどうやら特殊な効果を及ぼしているのだ

「なら仕方ない・・・・・・・・・・卑怯とか言うなよ?火力は戦術においてもっとも重要なステータスなんだ」

33型がその本性をもってそれを迎え撃つ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「だ、は、離せっ馬鹿っ!!!・・・・あいつと・・・・この、馬鹿っ!!!」

「るさい、てめぇ、だいたいメイドのくせに主人の事を馬鹿馬鹿言うんじゃねぇっ!」

痴話喧嘩をしながら権助が、マルチを抱え上げて強引に離脱していた
権助にとっては、マルチが来栖川邸でどうしたかったとか、そういうのはどうでもいい
大切なのは、この、たまりにたまったアレをどうやって放出するかという所だ
つうか、アクションシーンでもう、飽き飽き、あなたの魅力も半額ね♪って感じだから
テコ入れの意味もある、血の力が災いして(?)マルチは身動きもとれずにさらわれる

「くそおおおおおっ離せぇぇっ、この××野郎っ」

「女の子が、そういう言葉を使うんじゃない・・・・・・・・・・」

権助が諭すように耳打つときょろきょろと辺りを見回した
やや陰った林みたいな所がある、なるほど暗くなってて好い感じだ
そこで、マルチをするりと下ろすと、もういきなり

「さて・・・・」

「さ、さてって・・・・・・・や、やだ、お前ここ、外だよ、野外なんて・・・・」

外だと妙に盛り上がる人種がいるらしいが、少なくともマルチは違うらしい
脅えきった表情で嫌々と首を横にふるが、スイッチの入った権助にしたらそれは
素晴らしいオードブルでしかない、さきほど巻かれたマントの前のほうが
非常に妖しげに突起物を象っていて、危険度10度を記録

「さて・・・・・・・・・・マルチ、後ろからと前からとどっちがいい?」

「ど、どっちも・・・・い、いやぁ・・・・・」

ぺしっ!!!!

「きゃぁっ!!・・・・てめ、ご、権助・・・・・・・あ・・うあ・・・・」

凶暴だ、血に目覚めてから立場が逆転している、マルチの脅しも
攻撃も今のこいつには効かない・・・・いや、もともとこの状態になった権助には
何も効かないような気がしないこともないが、権助はマルチのアゴを捕まえると
上を向かせる、涙を浮かべるマルチ、その脳裏には疑問が
なぜだろう・・・・主人を助けるついでにもう逃亡生活に終止符を打って
そう、死ぬはずだったのに・・・・どうして、今主人に凌辱されそうなんだろう・・・・
・・・・・・・・・・・・・なんだかとてもかわいそうなマルチさん・・・

「さ、後ろか前か」

「・・・・・・・・うう・・ま、前がいいです・・・・」

「じゃぁ、後ろだな」

「!!!」

まるでゲスを絵に描いたような台詞であざける権助、いい塩梅で悪者だ
彼としてはちょっとそういう気分を味わってみたいという
気持ちがあってこの意地悪ぶりを発揮しているのだが
マルチの中では、この主人に対する想いが、だんだんと・・・・そう、確実に殺意へと
花開きつつあるのを感じていた

「とりあえず、後ろむいて・・・・そうだな、やっぱスカート履いたままでパンツだけ下ろ・・・・・・・」

がさっ

「・・・・・・・・・・・!!」

「!?、・・・・・セリオっ!!!」

マルチが情けない格好になろうかというところで突然、彼女が現れた
追っ手だ、綾香が33型を相手している間に目を盗んで逃げたはいいが
よく考えてみると、この子は暇してた(><)
セリオとしてはようやく追いついて、いざと思った矢先に、これ・・・
かなりびっくりして一瞬たじろいてしまった

「・・・・・・・・・てことは、つまりまた、三人でって事で」

権助が振り返る、その目に戦慄を覚えるセリオ
ああ、なんだか貧乏くじを引いたような気がしますね・・・・
そういう感じで、普段よりもやや感情を表に出してしまっている
そう、理屈じゃなくて生理的に嫌ですって事だ
それでも忠実に仕事をこなそうと、やや気乗りしない構えで権助の前に立つ

「そういえば、今履いてな・・・・・」

「さきほど別のを履きました、残念ですが二度目はありません」

冷静な秘書のような口調できりりと答える
セリオはわかっていない、そういうのがこういう男にとって美味しい
調味料になってしまうという事を、ほら、女教師とか女医とか好きそうじゃん
権助ってばさ・・・・・、趣味はさておき、折角のそのシーンの邪魔をされた以上
権助は本気だ、ぎらりと鋭い視線を投げつける

「待て権助、今度こそあたしが・・・・・・」

ふにっ

「うきゃああああっっ!!!!」

出てきたマルチの胸をいきなり揉むとそのまま押し返した
女の子として怒りを覚えるマルチが、どごどごと権助を殴るが微動だにしない
シリアス顔でやる事は、痴漢以下だ(ぉぃ
しかし目つきはホンモノの気配が漂っている、セリオをどうにかするという思考で
いっぱいだから、そりゃ本気にもなる

「・・・・・・・・・・・・・・鬼の子・・・・・・力に振り回される事はないのですか?」

「さすがに、振り回されるほどは、でかくない」

両者真顔

「・・・・・・・・・・もしかしたら、あなたも駆除対象に入るかもしれません」

「婦女対処なら大いに歓迎なんだがな」

やはり真顔

「彼女を素直に渡さないと・・・・・・・・・本当に後悔します、だから」

「本当に後背位するから、さっさと来い」

それは無茶だろう・・・・・、誰かがつっこむと同時に
セリオが布団たたきを振りかざした、前にも言ったが彼女の武器は布団たたき
そして得意家事は布団干しと洗濯(特に濯ぎ)
一歩目を踏み出す、林の構成樹は広葉樹が多く、美しく色づいている
葉が一枚舞う、イチョウの、目に痛いほどの黄色が、儚く舞う
二人の間には10歩とない間があった、踏みしめる土の感触
そして跳ね上がる落ち葉、接触するまさにその時に

「双方、下がってっ!!!」

「!?き、金之介様!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うごああっ、死ねぇぇぇ、セェェェェリィィィィオォォォォォォォォォォ!!!!」

すぱかーんっ☆、冷静にそれを裁く金之介

「権ちゃん、今、俺だってわかってから殴りかかってきただろう」

ちぃっ
なぜか舌打つ権助だが、突然の旧友の登場に驚きを隠せない
しかし、それ以上にセリオの狼狽が激しい、ふらふらっと後ろへ下がると
まるで人間のように、気を引き締めるために、ぱしぱしと頬を叩いた
金之介が、権助を背にしてセリオに言う

「・・・・・・・・・・・・・・・・・悪いが見逃してあげて・・・」

「で、できませんっ!・・・・・・・そ、そのような事を仰られるなら、金之介様といえども」

言い合いをする二人、置いてけぼりで面白くない権助だったが
ふと妙な事に気付いた、まさか・・・・・いや、でも・・・・・・・・・
想いを口にしてみる

「・・・・・・・・・・・・・・・・ラネーフスカヤなのか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・違うよ、権ちゃん・・・・・彼女は、セリオ・・・・・綾香さんの専属メイドだ」

「嘘だよそれは・・・・・・・・リューバ・・・・そうだよね?」

マルチがひょこっと出てきた、もう、ねこやんを見ても
こう、発情したりしないのが大人になったというか、なんというか。
4体の人型が、美しく燃ゆる林で影を落とす
セリオの表情は変わらない、美しく流れる髪の色は
色づいた広葉樹のそれに近しい、マルチの赤もそこに映える

セリオの髪は、確かに、黒、ではないのだが


以下次号

つづき

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