赤まるち


青赤

ばちんっ・・・・・・・がきっがきんっ

けたたましい金属音とともに檻の鍵が解けると、ゆっくり鉄格子が開き
中の青い髪の少女を、娑婆へと送り出す手はずが整う
自分のペースなのか、静寂と静止をふんだんに散らした間で
青い少女が立ち上がり、重石を引きずり外へと出た

両腕を固める拘束具、両足に鉄球を繋ぐ鎖
髪は日に当たると輝くように美しい蒼、瞳孔も青いのか
瞳の印象が大分違って見える
同じ顔でもずいぶんと大人っぽく映えて
ふふんと、鼻で笑うような顔で、目の前の赤い少女を見ると
両腕に力をこめて、ずばっ、と拘束具を引きちぎった

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・妹か・・・・・・・・・・」

番号はD1103
青いのが、赤い同じ物体を見てそう言う
引き裂かれた拘束具に続いて、足枷も軽々と粉砕される
今まで何しにそれつけてたんだ、あんたわ・・・

「んー・・・・・記憶が残って無いわけじゃないんだけどさ・・・・OS入れ替えられて
絶対服従だから・・・・・・殺るよ・・・・・・悪いけどね」

青が話しかける、その台詞に反応したのは、赤ではなく綾香

「違うっ!殺るんじゃないのっ、捕獲っ、捕獲が目的なのっ!」

「やはり、お嬢様早すぎたのでわ・・・・・・」

「セバス・・・・・・あたしが悪いって言うの?」

「!?」

ざざーっ

管制塔のスピーカーからそういうやりとりが流れてくる、どうやら向こうも緊迫してるらしい
ふふっと、自分の主人の様子に悪い気がしないのか
青いのがきれいな笑顔で笑う・・・・・数秒その表情をさらして
ようやく・・・・いや、充分時が満ちたようにして、引き締めた面
檻の中から向けていた視線と同じ、寒冷、それに応えて

「悪いけど、わたしのモップ・・・・・・・・・無敵だよ?」

「奇遇だな、わたしの身体も無敵なんだよ、やる気の時わね・・・」

力が充実している感のある青、宣戦布告の合図に腕に絡みついた拘束具の断片を投げ捨てる
それが地面に落ちると同時、ホバリングするようにして間合いを滑って詰めた、無歩の間隙詰め
拍子を計れないその動作、それがモップの動きに戸惑いを生じさせる
ここからがショータイムだ

葵に捕まった時とは比べモノにならないような動きを見せる青
動物的とはとても言い難い、流れる水のごとく身体を踊らせて
接近戦のレンジを確保する、当然ながらモップのような長い武器が
接近戦に使えるわけがない、素早く手放すと脇差しのようにして
隠していた、ハタキを使用せざる得なくなった赤

ばしぃぃぃぃっっっ

打撃音だ
今までのような、単純な衝撃音ではない、打撃がhitした時の
独特の音、青の掌打が右の頬を突っぱねると同時に
抜き出したハタキの柄が青の脇腹あたりに食い込んでいる
お互いがそのダメージを知覚すると、第二破に移る
青がさらに踏み込んで肩から突進すると、受ける赤が柳のようにしない
そのパワーを四散させ、岩間を抜ける岩魚の如く、鋭敏で力強い動きを以て
その死角を打つ、しかし余裕のある瞳が青から覗かれると

「意外とっ」

「っ!!!!???」

「やるようだねっ!!!!」

死角を打ったはずの赤の身体が不用意に伸びる
存在した場所には、既に青の姿はなく・・・・無いどころか
かがみ込んだ体勢から、充分のバネを蓄えて、みしみしと筋肉を叫ばせ
左足を軸にして回転上昇してくる、うなる右脚が赤の首筋を吹き飛ばしにくる

「蹴りっ!?」

紙一重で、かがみ込んでかわす、しかし回転軸がぶれることなく
間髪入れず次弾がくる、独楽の如く廻り続けざまに下段の後ろ回し蹴り
しゃがみ込んでいた所、今度は小ジャンプでそれを裁く
しかし、これが

「ま、まずっ・・・・・」

「そう・・・・・フェイクだよ」

青がにやりと口元に笑みを浮かべると、三段目・・・いや、本命が中段から
上昇する軌道で、居合いの切っ先のように首に向かい一閃、どごむっと肉の感触が
下品に食い込むと気道を塞がれ、頭部へと繋がるダメージから気が飛びかかる
下段の足払い、もしくはスネ打ちをジャンプでかわすのは愚の骨頂、この場合
どんな手練れであれかならず構えに隙が生じる、これは正しくは、やや後方へと
重心をそらし片足をあげることでそれをやり過ごすと同時に上げた足を踏み込み
一撃を加えるらしい・・・・なんかに書いてあった(ぉぃ
思い出した時には、青の蹴り足が容赦なくめり込みフクザツで重いダメージを残していた

「はぐっ・・・・・・・・・」

「まだまだ」

呟くとやおら青の蹴り足が、首筋に巻き付くようにして変化した
撃ち抜きじゃない刈りにきたっ、気付くや否や、青の脚が首を挟むように圧迫すると
やられた赤がバランスを大きく崩して前につんのめる

「んのぉぉっ」

だむっ

無理にこらえる所を、青が落ち着いて体を裁いて、狩り足を軸としたまま赤に身体を預けてきりもみ
同時に腕を捕らえて抱え込み、両脚で締め上げるようにしてから赤の前へと体重を移す、
前傾になって耐える赤、その足を青が手で薙いだ、支えを失いごろりとそのまま前方へと転がる
成す統べなく、鮮やかに地面へと引きずりおろされる
青が不敵に囁く

「グランドだよ・・・・・・・これからどれだけ保つかな?」

下三角締めのような形で青が得意とするそれへと持ち込んで笑う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おわああああぎやああああああああっっ」

権助だ
後ろのほうからは未だに謎の黒い物体が追いかけている
所々壁などを壊す・・・・いや、削り取ってどこか異次元へと消し去りながら
権助を追いかける、ともかく逃げる権助、そんな騒ぎを起こして
なんともないはずは無く、管制塔にて

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、逃げてる」

「・・・・・・・直ちに・・・・」

モニターに、疾走する権助の姿が見える、なお、黒い物体は
カメラ越しでは写らない物体らしいので、ただ脱出したようにしか見えていない
セバスがその事態に気付くとすぐさま、現場へと向かおうときびすを返した
しかし、それを止める男、杉本金之介
セバスの横でそっと手を出して、行く道を塞いで止めると、セバスを見ることなく
綾香に直接申し出る

「僕が行くよ、綾香さん・・・・・・」

「先生・・・・・・・うん・・・・お願いする」

綾香の承諾を得た以上、これは金之介の仕事となる
かなり不服そうな顔でセバスがそれを睨むが気にした体もなく
するりと部屋を抜けてでた、セリオが横目でそれを見送り
扉が閉まる、セバスの不平が漏れたのはその後

「綾香様・・・・・・・・・・・この屋敷の警護に外様のモノを用いるなど・・・」

「・・・・・・・・・・・仕方ないじゃない、あたし悪者なんだから、それに・・・」

「?」

綾香はモニターを見つめて、青赤の攻防をつぶさに観察している
セリオは、何も語らない、表情も変わらない
扉の外、いや、もう他のフロア・・・・権助が来ようとしているルートの上に金之介が立っていた
ぱちっと、ライターをおろすと煙がなやなやと上がる、タバコ
脇にさきほど綾香が使用していた棒よりも、さらに一尺ほど長い特別あつらえのモノを携えている

「芹香さんの仕業かな・・・・・・・・・髪が、ぱちぱちするし・・・・・」

妖怪アンテナか?
その手の現象の仕業であると、すでに感づいている
ともかく、金之介は、権助が現れるまでの一服を楽しむ
しかし権助は、まだ離れた場所、逃げ回るばかりではいずれやられると
一旦さっきの女、芹香の所へと戻っていた

「悪かったって言っただろっ・・・・っていうか、ご、ご、ご、ごめんなさいいいいいっ」

廻りを取り囲むようにして、黒い物体が浮遊している、いつでも殺れるという感じで
嘗められるような感覚に悪寒を感じる権助が、平謝り
芹香も、どうやら怒りが解けたのかまた、ぼそぼそと何かを呟くと
手をそっと権助の頭においた

なでなで

和解の標しなのだろうか・・・・・よくわからないが、とりあえず撫でられておく
なんか気持ちいいし・・・・ああ・・・・こう・・・・なんだろうな、年下っぽいけど
なんか落ち着かされる・・・・・・・いいな、ぬくもりって、こういうのに飢えてたな
・・・・・・・・・ああ、・・・・・・・はぁはぁ
後半家庭的なぬくもりではない、別のぬくもりを感じる権助
ようやく手を離されて、改めて謝ろうと頭を上げると濡れた瞳がじっと見つめてくる
また、イケナイ癖がでそうになるが、わずかに動く口元に言葉を紡ぎ出す

「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・マルチが?」

こくこく

「そ、そんな・・・・・・・・・・・・だって、ただの俺専属メイドロボだぜ?」

ふるふる

芹香が頭を振る、声が聞こえないので内容をかいつまんで説明すると
「綾香ちゃんが探しているのは、逃げたメイドロボなんですが
そのOSが自己進化型で、そのうちある可能性を超えてしまう危険があるんです
それは、たくさんのいけない事を生んでしまう事になって、みんなが困るんです
だから、綾香ちゃんが必死になって、来栖川グループとしては
何もしてないように繕ってがんばってるの、だから、あの子も
綾香ちゃんに渡してあげて、すぐ返すから」
と言うことらしい、なお二つ目の権助の台詞の否定については
「あなた専属ってのは間違ってます」
という意味だ、控えめな性格ながらもちゃんとした目で人を判断しているようだ

そこに芹香を置き去りにするように、つまりはその態度で申し出を断ったのだが
目指すのは外、今、おそらくは銃撃戦なりなんなりを繰り広げているのだろう
どたどたと品の良くない走り方で広い廊下を抜けていく、マルチと帰るんだ
角を二つ曲がり、一つ階段を上る、そして

「・・・・・・・・・・駄目、いかせない権ちゃん・・・・・マルチちゃん、まずいんだ
あのままだと、戦争兵器になりかねない・・・・・・OSの入れ替えが必要なんだよ」

もう驚かない権助、いきなり現れて台詞を呟くというキャラクタに慣れたのか
その台詞に噛み付くように何かを叫ぶが、言いたいことが多すぎて
言葉が後を続かない、うぐっとツバを飲み込むと一言吠える

「エロガッパッ!!!!」

「違うよっ!」

即否定、そして金之介が棒を持って構えをとった
それは不自然なまでに無防備にみえる、しかし、これが金之介の流派における
自然本体、間合いに入り次第、叩き伏せることができる無敵の構えだ
それにびっくりしたのが権助

「ね、ねこやん・・・・・・身体弱いんだから、無理したら駄目だぜ?
悪いが俺も今日は本気だよ・・・・・・・」

「ごめん、権ちゃん・・・・・・・・・君じゃ、絶対に僕に勝てないよ」

ふざけてるのか?武器持ってるだけで強いと思ってるのか?
そんな事を思う権助、その構えがいかに屈強で、恐ろしいモノなのか
素人の彼に分かるわけがなく、すたすたと躊躇いもなく結界に踏み込む
目の前を棒が横切ると、宙を舞い吹き飛ばされて、気付くと殴られ放題

「ぎやあああっっ、て、て、っってめっ」

ばしばしばしばしばし

「こ、この・・・・だ、黙ってれば、いい気に・・・・」

ばしばしばしばしばしばし

「ふぐっ・・・・ば、ばかやろ・・・・・あ・・・・て、てめ・・・」

ばしばしばしばしばしばしばしばしばし

「ぐあ・・・・・ちょ・・・・・ま・・・・・・・た・・・・・・・・・・あ・・・・あん♪」

「!?」

ざざっ

「あ、危なかった・・・・・・はぁはぁ・・・・・」

口から流れる血を拭う権助、最後に悩ましい声を上げる事で一瞬の隙を作って
なんとか脱出したのだ、ぐいっとまた立ち上がり金之介を睨み付ける

「次は本気で殴るよ、権ちゃん・・・・・下手すると殺してしまうかもしれない」

「馬鹿め・・・・・見切った・・・・つうか、マルチより痛くねぇ、この程度のハードSMなら・・・」

蛮勇をもって権助は踏み込む
つむじが舞う、棒が容赦なく権助を打ち付ける、みるみる赤く染まる権助
それでも足は進む、一応ガードのポーズをとって、頭部へのダメージだけ軽減している
しかし、それだけだ、がら空きの他の部分にしなう棒が痛打を繰り返す
打ち込まれる度に、「うふーん」だの、「あはーん」だの、「はふーん」などと
意味不明の言葉を呟きながら、権助はそれでも前に

「・・・・・・・・・・・・」

「あいーん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・権ちゃん」

どごっっ!!!!!!!!
棒が折れるほどしない、権助の頭をガードの上から叩きつぶした
手を緩めなかった一撃、殺したかもしれない・・・・・手元にそういう感触が上ってくる
それでも、目元に後悔を見せず一瞥をくれるだけの金之介がある、今は鬼だ、エロガッパではない
だが、その正面で醜く潰れた物体がまた起きあがって歩き始めようとする

「おっぱ・・・・・・」

ばしっっ!!!!!!!!!
権助の謎の台詞を途中で寸断するよう、無慈悲に振り下ろされる二つ目の撃
そして続けざまに、殴り続ける、飛び散る血、飛沫ではない
だが、血が飛ぶ、ぱたぱたっと奔るような音がすると
壁に血痕が駈ける、なおも殴り続ける金之介、何も言わない
権助も何も言わない、いや、言えない、殴打の音が廊下を震わせる

「権ちゃん・・・・・・・早く・・・・・・倒れればいいんだ、倒れれば、マルチちゃんだってちゃんと返るから」

「悪いな・・・・・・・・・・マルチ待たせると、殺されちゃうからさ・・・・」

権助が金之介の横を抜けた、棒が空を切り壁を撃った

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また、学校でな・・・・今度こそロシアモノのエロ本・・・・」

「駄目だよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね、権ちゃん・・・・ごめんね」

権助は床を打って走った


路線ちがうー

すすむー

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