赤まるち


「お嬢様首尾の方は?」

「・・・・・・・・思ってる以上に強くなってる・・・・というか、ヤバイね本当の所
早いところ、次の・・・・・最後の奴の所在を掴んでおいて」

綾香がやや機嫌を悪くしながら部屋へと戻っていく
その様子に少々戸惑いを覚えながら黙って見送る、執事セバス
彼は、芹香および、綾香の二人のお目付ではあるが
それ以上に執事としての能力が高い
屋敷の中では執事であり、ただの口うるさい爺ではない

「綾香様の部屋へ、茶を持っていけ」

「はい、かしこまりました」

近くを通ったセリオにそう言いつけ
自分自身は次の仕事へと移っていった、意外と忙しいらしい
言われたセリオが、給湯室へと向かい、銀製のポットを手に取る
カップは綾香お気に入りの、マイセンだかなんだかの
小粋なカップ、何世紀も前の代物でどこか気品溢れる作り、しかし割りに
かわいい容姿が非常に好ましいらしい
綾香は、見かけによらず意外とかわいい物好きのようだ

からからからから・・・・・・

セリオが荷台を押して歩く、向かうのは綾香の部屋
美しい調度品の並ぶ廊下をするすると足音を立てることなく歩いていく
途中、何体もの他のメイドロボとすれ違う、中にホンモノの
メイドさんもいらっしゃるのだが、最近では、もっぱら雑用は
メイドロボの仕事となっている、俗称で言う、マルチ型、セリオ型
半々ほどが投入されていて、暇さえあれば掃除、洗濯に精を出している

「・・・・・・・・・そこ、汚れてます、すぐにモップで」

「は、はい、かしこまりました・・・・セリオさん」

ぼーっと立っていたマルチ型の量産機が慌ててモップを探しにいった
セリオはメイド総代のような役もかっている
メイドロボの一番上にいると考えてもらえれば分かり易い
ただの、綾香専属メイドではないのだ
やはり彼女も職務が忙しい、人間ではおおよそ一週間ともたないであろうほどの
就労量、もくもくと働き毅然とした態度を崩さない所は
さすがロボである

からからからから・・・・・・・

こんこん

「綾香様・・・・・・・紅茶をお持ちしました」

「開いてる」

かちゃり、セリオは豪華そうなドアが開いて中の綾香を認めると
また、すぐに辞去しようと頭を垂れた

「失礼しました・・・・・・」

「いいよ、気にしない」

風呂上がりだったのか、綾香が裸にバスタオルで歩いていたのだ
主人の風呂上がり姿を拝むなどと、あまり品の良いコトでないと失態を謝罪したのだが
気にとめた風もない綾香が、さらりと流して紅茶を促した
しかし、富豪のお嬢様がそういう格好してていいのかわからないが
中流階級の家族が一つ入りそうなほどの無駄に広い部屋
トレーニング後に使うようにと設置してある、私用のシャワーから出てきたばかり
綾香が、艶めかしい身体を光の下に晒している

「お風呂上がりでしたら、アイスティーにいたしましょうか?」

「出来る?」

「タプロース&アール・グレイでいかがでしょう」

その答えにいつになくうれしそうな笑顔を見せる綾香
とてつもなくかわいい笑顔だ、普段人に見せることのない
いつものような微笑む感じではなく、無邪気に笑う
セリオの前で、また、自分の部屋という場所だから
そういう一面が垣間見れる

普段を飾っているわけではないが、この場合あまりに無防備な笑顔
男なら撃沈確実のそんな”女の子”の部分を惜しげもなく晒している時間
姉の芹香と共にいる時、一人で静かにしている時
”来栖川”ではなく、綾香として存在している時間に見せる
もう一人、これを知るのはおそらく、セリオとあの男のみだろう

「セリオ・・・・・・ところで大丈夫?」

「はい・・・・・さきほど自分で診断しましたが、特に問題は見られませんでした」

よく冷えたグラスにアイスティーを注ぐ、そして、きゅぱっと小気味の良い音を鳴らして
ウィスキーの蓋をあける、タプロース・ウィスキー、どうやらスコッチの一種らしいが
それを、きんと冷えたアイスティーに静かに溶かす
美しい香りがすーっと突き抜けて、一層の清涼感を与えると同時に
ややとした苦みが、きゅっと頬に赤みを宿す
どうも綾香のお気に入りらしい、とたんにご機嫌になる

「葵様は無事なようです、少しお休みになられればとの事、後遺症も今のところ心配はないそうです」

「うん、さっき聞いてきた・・・・・・・よかった・・・・・」

小さく視線をグラスの中に落とす、波紋がほわほわっと広がる
歪む顔を見て、ふふっと含み笑いをしてそれを机に置いた
いい加減に何か着るべきかと、タオルと落として服を探す

「お嬢様・・・・・・・・・」

「んーー、いいじゃない、ナイショにしててね」

惜しげもなく、その端麗な裸を外気に晒して歩き回る綾香がてへっと笑う

「そんな格好をなさられますと、萌え萌えです、お嬢様」

「はぁ!?」

セリオの意外すぎる台詞に、驚愕する綾香が聞きかえすように振り返る

「萌え萌えです」

「・・・・・も、もえもえ?」

「萌へ萌へです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご、ごめんなさい」

過ちに気付く綾香、躾係としても素晴らしいメイドだセリオ
そそくさと部屋着を探し当て着替える綾香
再び口を付けて、紅茶を飲み干すと時計をちらりと確かめた
セリオがその仕草に気付き不思議そうに首を傾げる

「あ・・・・今日は、棒術の先生が来るから・・・・・」

綾香が微笑った、セリオがスケジュールの確認をして頷いた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「問題は、どうやって来栖川邸に入るかだと思うんだけど、どうなの?」

「正面突破、男ならまずは前から、何事もだよ、後ろは二回目以降さ」

男気溢れる意見をばばんっと権助が言うが、即却下を金之介が申し立てる
まぁ、正面からいきなりいったら、おそらくは門をくぐる前に二人揃って鬼籍に入る
一説では、あの屋敷周辺では治外法権が認められてるとかなんとからしいし
金持ちとまともにやり合うのは頭の良いコトではない

「だからって・・・・・・・・ねこやんはどうするのがいい?」

「手は、あるんだよ・・・・・・実は、あの屋敷に何度か行った事があるんだ」

頭悪い考えしか浮かばない権助が、閉口していると
金之介が、笑顔で告げた、その言葉に一瞬間を置いて聞き返す

「・・・・・・・・・夜這い?」

「したら今頃生きてないよ・・・・・・・・・バイトで入った事があるんだ」

権助の台詞を軽く蹴飛ばして説明する
しかしなんのバイトやってると、あの屋敷に入れるのかわからないが
なるほどそれが確かと思わせる屋敷の見取りの説明を受ける
そして、侵入の手口の講釈

「でね、ここが・・・・・・・・・・薄いんだ、いわゆる鬼門だね」

「・・・・・・・・・・・なるほど、脇から責めますか・・・・」

「権ちゃん字が違うよ」

金之介が、つっこみを入れつつ足を進めていく
やがて見えて来る邸宅、それを前にして権助が
ぐっと息を呑む・・・・・・

「すげぇ・・・・・・だから、あんな太股が出来るのか・・・・」

権助なりの金持ちに対する賞賛だ、こういう家で育つと立派な娘さんに育つと
言いたいらしい、うむうむと何度か頷いて、その鬼門という脇のほうへと走る
なるほど確かに見張りのような者が見あたらない、まぁ、元々そこまで厳重に
回りを警備しているわけでもないのか、静かなものだ

「で、あいつの部屋はどこ?」

「なんで部屋なのさ権ちゃん・・・・・地下牢っていうか、捕らえられてると思われるところへ行くよ」

権助が既に目的を変えてしまっているので
金之介がため息まじりにそれを修正、そしてこそこそと
裏口のような所から中へ侵入する

「ひ、広い・・・・・う、裏口だと?・・・・実家の玄関より立派じゃねぇか・・・」

「お金持ちだもの・・・・ほら、見つかるといけない、こっちへ」

金之介がお上りさんになってる権助をひっぱってするすると先へと進む
途中にトラップがいくつも仕掛けてあるんだと、一つずつ丁寧にクリアしていく
しかし一度だけ、廊下の真ん中にえろえろしい本が落ちているという罠があり
権助がひっかかりそうになったのだが、金之介の助けのおかげで
地下数十メートル先の竹槍の中へとロープ無しバンジーを決めることなく済んだ
どれほどの時間進んだかわからないが、さきほどまでちらちらと見えていた
メイドロボ達も姿が見えなくなり、少々薄暗いところへとやってきた

「ねこやんは堅いなぁ・・・・・・・・メイドがせっかくメイドの格好して給仕してんだから、ヤらないと・・・」

「ここのメイドはみんな、メイド服着て給仕してるんだよ・・・・・」

権助が前回では放出しきれなかったナニかを持て余しながら
じっと我慢してついてきている、それでもやはり、一度だけどうにもなくなった権助が
セリオ型のメイドに襲いかかろうとしたが、ねこやんが必死に止めた
おかげで実はメイドだと思ったら、傭兵タイプだったというセリオに
発見と同時に射殺、以後市中引き回し、張り付け、さらし首を免れていた

「ねこやん、大丈夫か?・・・・・・息上がってない?」

「権ちゃんが、心配かけるからだよ・・・・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・」

どうも病の塩梅がよくないらしい、金之介は黙っているが
実は心の臓を患っており、激しい運動は医者から10分までと、止められている
だから、もっぱらフィールドの外から指令を出すタイプだ、おそるべし武蔵FC
トリカゴ作戦だ(ネタが古い)

「少し休もう・・・・・・まずいよ、そのままじゃラネーフスカヤと会うところじゃ・・・」

「いかないと・・・・待ってるから・・・・大丈夫だから・・・」

金之介が沈痛な面もちでそう答えて、大きく息を吸い
また歩き始めた、こうなると権助に止める手だてはない
仕方なくなるべく気を使わせないようにしようと努力する

「あ、更衣室っ!!!」

「ご、権ちゃんっっ!!!!!!!」

途中ねこやんが血を吐きそうになりながら歩みはいよいよ
目的地に接近したらしい、金之介が、息を整えようと
ふぅふぅといくつか深呼吸をして、そして目の前にある
5つの扉のうち、左から二つ目の扉を選んだ

「なぁ、扉の数と左から二番目ってのに意味は?」

「思いついただけだから勘ぐりしても無駄だよ」

そうなんです(意味不明)
と、扉を開く、そして金之介が入り権助が続く
部屋の奥に鉄格子がはめられている・・・・あ、あの向こうに・・・
権助が足早にそこへと進む
金之介もやや遅れて後を追う、部屋半ばで苦しそうだった息が
幾分和らぎ、権助に声をかける金之介

「ねぇ、権ちゃん」

「なに?」

「ロシュフーコー・・・・知ってる?」

「新しいプレイスタイルか?・・・いや、勉強不足だ」

真顔で権助が金之介の問いに答える
金之介が足を止めた、権助も足音がなくなったのに気付き
止めて振り返る、やや遅れたところで、ふぅと一息ついてから
金之介が背を伸ばす、そして言葉を続ける

「彼曰く『人間には、裏切ってやろうと企んだ裏切りよりも、心弱きが故の裏切りの方が多いのだ』」

「?・・・・・・・ねこやん?」

権助がえろい話しをされると思って聞いていたのに
違ったので狼狽する、そして聞き返そうと口を開くその前に

ずだんんんんっっ!!!!!!

「どわわっっ!!!!!」

突然鉄格子が権助の目の前に落ちてきた
あまりの出来事に腰を抜かす権助、へたれっぽく砕けていると
金之介の後ろの扉、つまり入ってきた扉が開いた

「ご苦労様♪・・・・・・・・・先生」

「が・・・・・・・ふ、太股っ!!!!!」

「綾香よ・・・・・・・・・・・・・・・柏木さん」

お嬢様がやってきた、いきなりの登場に
ゴキブリのように権助がそっちに近寄って鉄格子に触れ・・・

ジバババババババババッババッッッ!!!!!

「ぎやあああああああああああああああああっっっっ」

「触らない方が身のためよ、電気走ってるから」

触るのを見届けてから綾香がイタズラっぽく微笑む
権助がもんどりうって倒れる、微弱とは言わなくとも
死ぬには至らない電圧だったからかすぐに頭を起こす

「ねこやんっ!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・」

金之介は答えない

「ねこやん?・・・・・・・・へー、知ってるの?先生のこと」

知ってるって?

「チョールナヤ・コーシカ・・・・・・・・・・だっけ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・コートですよ」

不思議な単語を口にした綾香の唇にそっと指をあてると、
唄うようにささやき、ねこやんが扉から出ていく
綾香が格子に近づいて、権助に必要事項だけ告げる

「ごめんね、囮になってもらうわ・・・・・・・赤いの、まだ捕まえてないから・・・・
オーナーのあなたで釣って捕まえる事にしたから・・・・・・・しばらく、ここで生活してね♪」

「捕まってない?・・・・・って、ま、マルチは、今っ」

「まだあの家にいるのよ」

言い残すと綾香が立ち去る、扉が閉まる音が部屋に響いた

「先生・・・・友達だったの?よかったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

綾香が側によって金之介の顔を見上げる、ふいに
金之介が綾香を抱き留める、そして耳元に囁く

「当然ですよ、僕は、綾香さんが一番だから」

・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・

ぱたぱたぱたぱた

「権助ー、ねこー♪・・・・・・夕飯買ってきたよぉ♪、今日はカレーを作りまーす♪」

赤い髪を揺らしてマルチがねこ家に帰ってきた
階段に封筒が落ちている、宛名が「マルチ」となっている
拾い中を空けると、紙が出てきた、そこに目を落とす

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごんすけ・・・・・・」

くしゃっ

手紙が潰れた


つづくと思う

続いたよ

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