赤まるち
「綾香さん、戻りました」
「ん、ご苦労ご苦労・・・・・・・・好恵もさんきう♪」
フランクな台詞が、討伐から帰った葵、好恵の二人を迎えた、声の主は来栖川綾香
かの来栖川グループ総会長の次女、天衣無縫にして天真爛漫
英明闊達でありながら容姿端麗、品行方正そして明朗快活、その上豪放磊落、その他もろもろ
ともかく器の大きい由緒正しい撫子(?)を立体化したような女性、それが来栖川綾香である
「で・・・・・・・・・・・・・どうしたの?綾香」
「んー、ちょっとね・・・・・・」
綾香がぱたんと今まで目を通していた本を閉じて、二人をでかいモニターのある部屋に連れた
適当に座ってと、席を勧め、自身はモニターの脇に移動する、なにかリモコンのようなものを
ぴぴぴっと適当に操作すると、画面に光が灯る
ばうんっ・・・という、パソコンのディスプレイに電源が入った時のようなたわむ音のあとに
やや歪んだ画面が、だんだんと整い、やがてメイドロボの姿を映し出した
「知っての通り、あのおっちょこちょいのマルチと外見上同一のメイドロボ、HM−12シリーズ
・・・その中でつい先日、量産にこぎつけた新シリーズ「D」・・・・・・・・初期不良が5機発覚
現在逃亡しているアレね」
綾香が、スクリーンのメイドロボをとんとんと手でこづきながら、説明をする
スクリーンに、さきほど二人が捕らえてきた、青い髪のマルチが映る
身柄を拘束されて、小さな部屋の中央部のイスに固定されている
「一応、現在までに捕まえたのが二機、D1103とD445。どっちも現在OSの再インストールと
機体調査を行ってるんだけど、それはそれは開発当局の考えを一足飛びに凌駕する成長を
見せていたらしいの。・・・・・・・・・・・ま、簡単に言うとこれね」
ぱっと画面が変わる、荒れ地が映る
「??・・・・どこ?」
好恵が日本ではない国を見るような目つきでそれを眺める
「やや市街地から離れた某所・・・・・・国内よ、さっき、セリオと行ってきたんだけどね・・・・
逃げてる残り三機の内の二機がここで争ってたらしいの・・・・・凄惨を極めたらしく
一帯が更地になってたわけ」
さらさらと綾香が言うが、更地になったって事は当然近隣住民は・・・・・
流石金持ちのお嬢様となると、顔もわからないような一般市民の安否など
大した問題でもないのだろうか、すらすらと報告書を棒読みする
行方不明者だけで、100人超えてるらしいのに・・・・
「・・・・・・それで、なに?」
報告を一通り聞いたあと、やや小休止のように綾香がセリオに入れさせた紅茶を口に含み
間をとった所に好恵が言葉を差し込む、だいたい何を言いたいかわかっているが
直接本人から聞きたいというのが本音だ、直情型にありがちな会話方法
「・・・・・ん、だいたい位置わかってるから、そのね、残りの三機の回収を・・・」
綾香がにこにことそう話す、それに、はーっと思いっきりため息のようなモノを吐いたあとに
好恵がぐっと、綾香を睨み付けて吠える
「前々から思ってたんだけどさ・・・・・・・・綾香の家、金あるんだから、別にあたしや
葵がわざわざやる必要ないじゃないの、なんで・・・・・」
文句を言う好恵に、言ってはいけない・・・・いえ、気付いてはいけない事に
気付いてしまったわね、好恵、鋭すぎるのも考えものよ?わかって?
・・・・・・というような意味をふんだんに含んだ視線を投げかけると
突然綾香が、ぱちんと指を弾いた、音とともに、執事の格好をした
セリオ型のメイドロボが4機現れた
「!・・・・・な、なに?」
「やっておしまい」
「あらほらさっさー」
うろたえる好恵を気にとめる事なく、綾香が命令をくだした
それに呼応した四機のメイドロボが素早く好恵を取り押さえる
激しく抵抗する好恵だったが、四機の強力な腕力の前に屈し
そのまま四肢を抱えられて、部屋から退場させられた
「あ、綾香ぁぁあ!!な、なんの・・・ちょ、ちょっと、やめ・・・・あ!!」
ぱたむっ
扉が閉まる、同時に顔面蒼白の葵に向かって綾香が微笑みかけた
「・・・・・好恵っていい子だったって話した事もあったね、葵」
「!?・・・そ、そんな、過去完了形で・・・・・」
狼狽する葵、英文法で言う大過去形にてその存在を現在という時間軸の上から
消し去ろうとしている綾香、葵は人生最大のピンチに立たされた
選択肢を突きつけられている、否定してよく面倒を見てもらった好恵を救うべきか
肯定して綾香の元に一生着くべきか・・・・・・
冷や汗よりも脂汗に近いものを感じながら葵が喉を鳴らす、その様子をにこにことした
表情で、しかし、決して目元が笑う事のない綾香に見据えられて言葉を選ぶ
「・・・・・・・・・はい、好恵さんは器量よしだったと評判でした(;_;)」
泣きながら葵が好恵を過去に放り捨てた、さらば坂下好恵、もう出番ありません(ぉぃ
その様子に満足そうな笑顔を見せ、綾香がそっと葵の頬を撫でる
それに、ぽぉっと頬を赤らめる葵が、気まずそうにうつむく
「葵・・・・・・・・わたしと一緒に、残り全部捕まえようね」
「わ、わかりました、綾香さん・・・せ、精一杯がんばります」
葵が、ぎゅっと握った拳にそっと触れてから、綾香が部屋を出た
残された葵の元に、別のメイドロボがやってきて部屋へと案内をした
その日、葵の部屋が来栖川グループの社員寮から、来栖川邸宅内の一室へと移ったらしい
部屋へ戻った綾香が机の上に無造作に置かれた資料に一瞥する
そこに写真を投げ捨てた
写るのは、セリオと組み合う赤い髪のマルチ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・赤い奴」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「金之介ぇぇえええええっ!!!」
鬼の形相で権助がふすまを開いた、権助の居た部屋よりもずっと明るいらしく
開いた瞬間、眩い光りで一瞬視力を失うが、目を細めてその先にある者を確認する
布団にちょこんと座っている、小柄な女の子が居るのがわかる・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・元気そうじゃないか、権助」
「マルチ・・・・・・・・?」
目の前に座る女の子、確かにあどけない顔に胸の無い身体
そして赤い髪、あの耳あて、間違いない・・・・・・・・け、けど
「お、お前・・・・か、髪・・・・・・・」
「えへ、伸びちゃった」
くりっと、髪の先の方を指でつまんで照れくさそうに笑う・・・・・そんな表情初めて見た気がする(−−;
短くまとめられていた赤髪が、やや奔放に伸ばされて肩にかかるほどになっている
セミロングくらいの長さだ、一瞬、誰だかわからなかったが間違いなくマルチだ
美しく細い赤い髪が、ゆるゆると肩のあたりでゆすっている
「その様子なら大丈夫だね権ちゃん・・・・」
男の声と同時に我に返る
「て、てめっ!・・・・き、金之介、な、何してた!!今、ここで!!俺のメイドにナニしてた!!」
えらい剣幕、噛み付きそうな勢いでねこやんに詰め寄る権助、脇腹から血が出ているが
気にしたそぶりは無い、気付いてないとは恐ろしい事である
まぁまぁと、軽くなだめてねこやんがそっと席を立つ
「二人で話したい事もあるだろうし、僕はちょっと外すよ・・・・あ、リューバにはお蕎麦
ちゃんと運ばせるから安心してね」
「あ、ありがとう・・・・・・・・」
ねこやんが、ゆるゆると優しい声をかけると、かぁっとまるで、恋する乙女のように
頬を赤らめるマルチ、なんだその反応は!!き、貴様、やっぱり
権助の中でどす黒い殺気が、形を現してくる・・・・うおおおおおおっ
「ねこになんかしたら殺すぞ、ご主人様♪」
「!・・・・・・・し、親友にそんな事するわけないじゃないかぁ」
マルチがえへって笑いながら左手を右手に重ねてこちらに掌を向けている
何か出るに違いない、今いらない事を言うのは賢い選択ではない
ご主人様という単語の意味がどうやら、よくわからないのだが
一歩下がる、ねこやんが部屋から出ていき、二人っきりになった
「・・・・・・・・・・・・とりあえず、無事だったのか」
「ん・・・・・そうみたいだな」
マルチがよそよそしく権助の問いに答える
様子からして、やはり危惧するべき何かが存在するのかもしれない
権助の中で、確実なまでの復讐心が形成されつつある
それはさておいて、とりあえず、お互いが覚えている事を話す
「・・・・・・でだ、白いのに勝ったのは覚えてんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・・・・まぁ、でも、生きてんだから二人ともあれだろ、来栖川に見つかる前に
ねこやんに救助されたって事じゃ・・・・」
「んー・・・・・・なんか、釈然としないんだよな・・・・・なんか忘れてるような・・・・・・いやむしろ」
「お蕎麦出来ました、マルチさん」
マルチがうむむーっと考え込む所へ、ラネーフスカヤが蕎麦を持ってやってきた
さっき頼んでいた「にしんそば」だ、それにさもうれしそうな視線をぶつけて
マルチが礼を言うと、ラネーフスカヤが恭しくまた、出ていった
・・・・・・間を外された?
「あ、そうだ、さっきから、「リューバ」って呼んでるのは?」
「ん?・・・・・だって、リューバっていう名前だろ?」
「な、ラネーフスカヤじゃないのか?」
「・・・・・・・なんとかって、長い名前で略すとリューバっていう愛称になるって、ねこが言ってたけどな」
ははーん、さてはようやく桜の園の資料が見つかって正式名称がわかったってわけか(謎)
権助が、ちょっと裏方の方に気を使い、それ以上は何もつっこまない、彼女の名前は
ラネーフスカヤであり、面倒な時は、リューバと呼ぶのだ、それでいい・・・・(ぉぃ
本題からすっかり外れてしまったので、間を取り直す意味もこめて、マルチにちょっと身体を寄せる
「な、なに?・・・・・・・・」
「・・・・・・・さっきしてたんだろ?続きを、俺が・・・・」
ずがぁっ
輝く光が布団の中から発せられると、権助の首がへし折れるような勢いで畳に叩きつけられた
けが人に対する仕打ちじゃねぇな・・・・・・そう思いながら、すっかり回復してるマルチにやや
安心する権助、追い打ちが入る前に立ち上がり、ちょっと気になった所を確かめてみる
ふにっ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬の虚
「・・・・・・なんだ、改良が重ねられてくとかなんとか言ってたが結局、胸の大きさは変わ・・・・」
・・・・・・・・ふすまの部屋の向こう側にて
「・・・・・・・・血の痕って取るの大変なんだよねぇ・・・・・」
「そうですね、でも、それでこそまた、お掃除のしがいがあります、金之介様・・・・」
ラネーフスカヤと二人寄り添うようにお茶をしながらの会話、ラヴラヴな雰囲気でいっぱいのそこに
轟く衝撃音、続いてぷしゃぁっ!!!という、生々しい音
さらに、ばしゃっ!ぱたたたたたたっ!!と、何か液体がふすまに飛び散った音が聞こえたらしい
ふすまは、取り替えた方が早いんじゃないだろうか・・・・・
二人の愛の営みが終わったのを音で確認し、ねこやんがやれやれと
部屋の方へと戻る、案の定、他殺体が一つと第一発見者が一人という構図だ(笑
マルチに近づき、優しく話しかける
「まだ本調子じゃないみたいだし・・・・・もう少しいるといいよ・・・・・・なに
権ちゃんと一緒に、暫く住んでもらっても構わない、部屋は余ってるからね」
「え・・・・う・・・うん、あ、ありがとう・・・・・・・ねこ・・・・ねこっ♪」
権助の死体一歩手前の物体の前で、マルチが、きゃっ♪とかわいく
ねこの胸に顔をうずめた、よしよしと頭を撫でてやると、ふにふにと幸せそうな顔をする
二人の間にいったいナニがあってこうなったのか全くわからないが、ちょっと悲しそうな
ラネーフスカヤに気付き、そっとマルチを離す、そして、他殺体をまた元居た部屋へと戻す
慌てて手伝う、ラネーフスカヤ
「金之介様、わ、わたしが・・・・・・・・・」
「いいよ、一緒にやろう・・・・・・・ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で、目をふせるようにしてうつむくラネーフスカヤ、完全にねこやんの独壇場だな
二人の女性(もっとも、メイドロボだが)を手玉にとり、完全にキャラクタが固まったねこやん
運ばれる、権助の脳裏にゆっくりと、ある地図が描かれつつあった
布団に戻されて、また包帯を巻かれる、どうやら包帯を巻くのは
ラネーフスカヤじゃなくて、ねこやんだったらしい・・・・それじゃ、治りも遅いわけだヽ(
´ー`)丿
終わったらしく、部屋を出ていく、明かりを消されて真っ暗になる部屋
漆黒の闇の中、光る目
(・・・・・・・・・・・・・・ねこやん・・・・いやさ、金之介・・・・・・目にもの見せてくれる)
権助が描いた地図をじっくりと、作戦という名前に変えていく
次回、ラネーフスカヤの貞操が!?(卑怯なヒキだな・・・・)