赤マルチ・・・・・その3


「ねえ、あれ買って♪」

「をいをい、もうどれだけ買ったと思ってんだ、いい加減にしろよぉ♪」

「やーん、だってあれ欲しいんだもぉん♪」

軽い殺意を覚えるような会話が商店街で「♪」を振りまき徘徊している
悲しい事にあの二人である、マルチが服や日用品を権助からたかっているのだ
なお先の会話の水面下で「てめぇ、買えつってんだから黙って金だしゃいいんだよ、こら」
とか、「か、勘弁してください・・今月の食費が・・・もうパン買う金だって・・・・」という会話も
織りなされているのが実状、とりあえずかわいらしい服をささっと手に入れ
アクセサリのような物、そしてICチップやジャンク品、雑多に色々買い込み
ようやく帰ろうかという事になった

「あ、待て・・・・最後に、買わないといけないものが・・・」

「まだ、あんのかよ・・・・・」

「今までどうせ女に貢いだ事ないんだろ?この際、一生分あたしに貢ぎな」

酷い事を言いつつ、ぱたぱたとパンプスを鳴らし、マルチがガソリンスタンドへと
入っていった。ゆっくりとそれについていきマルチの後ろに立つ権助

「おい、これにガソリン買ってこい」

「が、ガソリン?・・・・・・・あ、そうか・・・ん、わかった」

一瞬疑問に思ったが昨日の惨劇を思い出せばなるほどである
灯油じゃなくていいのかしらと思ったが、ガソリンが好いというのだから
ここは黙って従う権助、灯油缶を持ってスタンドの兄ちゃんに話しかける

「悪いんだけどこれにガソリン入れてくんない?」

「ガソリンですか?・・・いいっすけど・・・・何に使うんす?」

いぶかしげな顔をして権助を見る、確かに灯油缶でガソリン買いに来るような奴
妖しい事この上ない、放火でもされた日にはかなわないという感じの視線をぶつけるが
ささっとそれをかわすように、適当に嘘をつく

「いやぁ、小型の原動機動かしたいんだけどねえ・・・これがなかなか」

「へー、草刈りでもやるんですか?」

「まぁ、そんな所だな」

人狩りかもしれないけどね、てへへ♪と心の奥深くで呟く権助をよそに
25ccのエンジン搭載した草刈り機の事を想像するガソリン兄ちゃんが缶を受け取る
マルチが何ccのエンジンを搭載しているのか(そもそもエンジンなのか?)わからないが
適当にはぐらかしながら商談に入る

「えっと・・・・・・・レギュラーでいいっすよね」

兄ちゃんが笑う。うん、と即答しようかと思ったが一応ちらりと後方を振り返ってみる
「レギュラー買ったら、お前の生き血でカクテル決定な♪」という笑顔が
痛いくらい突き刺さる、慌ててハイオク満タンと涙目で訴える

「まいどありがとうございましたー」

スタンドから妙なカップルがガソリンを抱えて去っていった
曲がり角をいくつも折れる、人気がなくなったのを確認しマルチが灯油缶の蓋をあけて
中身の選別にかかる・・・ストローを取り出しそれをそこに差し込む・・・試飲でいいのかな?

んくんく

「・・・・・・・・・ち、薄い・・・・混ぜもんだなこれ・・・・・」

「マジかよそれ・・・・俺いつもあそこで給油してんだけどさ・・・・・」

青ざめる権助をさておき、不味そうにそれをストローで吸うマルチ
気を取り直しその様子を見ながら権助が色々と内部構造について考える
(・・・・・・ガソリンで動くって事はそういう原動機積んでるって事か?その割りにこの体躯・・・
どこにそんなでかいエンジン入ってんだ?小型にしても・・・・うーん、15ccくらいか?
つーかよく考えると昨日灯油で動いたっつうことは・・・・こいつ、ディーゼルなのか!?(注:ディーゼルは軽油です)
マジかよ今時レアじゃん!!(そうでもない)、しかも確か充電してたし・・・は、はやりのハイブリッドかよ
燃料電池がどっかに入ってるって事か・・・うーむ・・・・・・)
まじまじとそういう目で身体を見ていくと昨日気付かなかった事に気付く

「な、なあマルチ・・・・・・・・」

「ん?」

ストローをくわえたロリ顔、それだけ見るならかわいいただの女の子のような反応をするマルチ
今はさきほど買った服を着ているのだが、胸元が大きく開いたデザインのその服、
胸は昨日も思った通り大きくないのだが、その右の乳房であろう部分にタトゥーが・・・・・・って

「お前・・・その胸元のマーク・・・・・」

「んあ?・・・・ああ、放射能注意のマークだよ、知らないのか?」

「でなくて・・・・・・お、お前・・・・・原子炉を・・・・」

かつかつかつかつかつ

権助が非常に近隣住民にとって重要な事を聞こうとした時、陽が落ちて月とその役目を替わろうとする空の下
まだまだ冷たい空気を一定のリズムが震わせた、耳に規則正しい靴音が聞こえる
それは確実に近づいてきている・・・・等間隔の足音に不穏な空気を感じる権助

「??・・・・なんだろ」

かつかつかつかつ

曲がり角に髪の長い女が現れた、いや女というと語弊がある
女のような身体をしたロボット・・・・・・来栖川のメイドロボ、HMX−13
高級な方の市販型メイドロボだ
長い髪にいかにも切れ者という感じの目元、そそる唇に耳にはマルチのものとは
また違うそれが付いている、スーツに身を包んだ彼女が権助の方へと
ゆっくりと歩み寄ってくる

「なんだろ・・・・っていうか、おい、マルチ・・・同族だ・・・・・・?」

いない?、さっきまでそこでストローくわえていたロリ顔少女が忽然と姿を消した
きょろきょろとあたりを見回すが見あたらず不思議に首をかしげる権助
HMX−13が近づく

「・・・・・・・髪を染めていてもその体躯から容易にあなたの正体を想像できます
諦めてください・・・・・・・・・D3103」

13型が権助の前でそう喋った、独り言のように権助ではないどこかへとその
言葉は向けられてそれが闇に吸い込まれていく、ふいに緊張感が生まれている事に
気付く、空気がぴりぴりと張りつめて音がしないのだ・・・・ごくりと喉の鳴る音が脳の下から
直接聴覚を刺激する・・・・・なんだろう・・・すごく嫌な予感がする・・・権助の直感がエマージェンシーと
英語で告げる、そう、権助は洋画が好きだ(無関係)

「・・・・なぁ、あんた・・・・・・」

権助が13型に話かけた時、始まった

がきぃぃぃぃぃいぃぃぃぃんんんんんん!!!!!
凄まじい金属音がけたたましく響いたかと思うと、爆風のような空気の固まりが
権助を吹き飛ばした、何が起きたのかさっぱりわからない権助
ひっくり返りながら自分の天地を確認し前を見る、そこに一方通行の標識を
槍のように構えたマルチが仁王立ちして何かを睨み付けている
視線の方向には、さきほどの音の主と思われる土煙がこうこうと視界を汚している
おそらく手に持っている標識で力任せに殴りつけたのだろう

「な、な、な・・・・・・・・」

「ああああああああ!!!!!!」

狼狽というか事態に身体がついていかない権助の目の前を、雄叫びをあげて
マルチが走り抜ける、ずだだだだだだだ!!!足音が地響きのように辺りに響き
続いて、ごうっん!!!と鈍い音が・・・・・・

「あああああああ”!!!!!!!ああ”!!」

気が狂ったようにマルチが土煙に向かって・・・・いや、さきほどの13型に向けて
標識を殴りつける、ごずごずと鈍く重い音が鼓膜から脳を揺さぶる、そして大きく振りかぶり
マルチが思いっきりそれを叩きつけた

ばごぉ!!!!!、ずむずむ・・・・・・リアルな肉の音とともに、文字通りぶちのめされた13型が
権助の前に転がってきた、おそれおののいて腰を抜かす権助、一瞬の静寂の後

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

マルチが息を切らせたように一息ついた、そして標識をだらりと降ろす
ピピー・・・・ガガガガガガ・・・・・カタ・・・カラカラカラカラカラ・・・・・・電子音に続いてHDDが回るような
音がしたかと思うと、髪をかき上げながらゆっくりと13型が体勢を立て直した
あれだけ殴りつけられたにも関わらず壊れた気配はない、さきほどと変わらぬ表情をたたえ
沈黙したままマルチに向き直る

標識を握り直すマルチ、13型が呟く

「・・・・・・・・・ダウンロード終了、迎撃開始」


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