<−第四夜

宮内レミィは先輩で、松原葵は後輩だ

「アヤカに憧れてる?」

「え、あ、はい、そうです、だって綾香さんは凄く強くて、綺麗で、ステキで」

「それは、好きなんだよネ?」

「そ、そんな、その、憧れてるだけで、凄いからで、そんなわけじゃ」

くす、レミィは彼女らしい笑顔を見せる
目を細める、いや、つむってしまうような感じで
ニカっと八重歯を見せて破顔う
葵は、どぎまぎとして、そのころころと変わる
言葉よりも説得力のある表情を見つめる

「葵はかわいいネ」

「そ、そんな宮内先輩、からかうのは」

一方で、
戸惑う表情一つ一つがいちいちくすぐるなぁ
レミィはそんなことを思い、美しい金色の髪を
左手ですくう、ポニーテールにしてまとめた髪は
太陽の光を受けると、自身が輝いているように映る
青い空によく映える

「ダイジョーブよ、葵のその可愛いところを、アヤカにアピールする方法教えるよ」

「アピールだなんて、そ、そんな」

「ん〜、謙遜しない、よくないよ」

「謙遜じゃなくて、遠慮のつも」

「そうと決まったらレッスンレッスン、任せて、なんたって」

ここでぐっとレミィが顔を近づける
そしてデコをつけて視線を捕まえる
葵からは、接近した顔が魚眼レンズみたいにして円く映っている
それだけで、ただでさえそんな経験がないのに
不必要なくらい近づいてくる同性に、一層戸惑う
でも、逃げられないでもじもじと見返してしまうから、

「いいネ、葵は素質があるヨ、こういうときに素でそんな顔するんだから」

「そんなって」

顔を赤らめる
神社で、二人ぎりで、こんなに接近するなんて
生真面目に過ごしてきたからとか
そんな言い訳が浮かんでしまう
他人とこんなに近づくってことが不自然で
気付いたら、弱い立場に居着いてしまっている

「葵はレスリングの時も近づかない?」

ぱちくり

「そ、そんなことは、無いです」

「ならOKネ、意識しすぎネ、いつも」

「そういうものですか?」

おどおどとしながらも、真っ直ぐに見つめてくる瞳を真剣に見つめ返す
美しい瞳の色、自分とは違う血統なんだと改めて
葵はその青い瞳を見つめて思う
誰が考えたか知らないけど、黄色と青がこんなに合うなんて
春の風が心地よいと、突然に気付いたけども
そんなのはどうだってよかった
目の前の美しい人に釘付けになってしまう

「そういうのが好きな人もいるケド、アヤカは違うヨ、頑張らないと獲られちゃうよ」

「獲られるだなんて」

「誰にだと思う?」

「そんなのは・・・・坂下さん?」

「ダレヨ?」

「そんな酷い、空手部の先輩で凄く強いんですよ」

「私が知らないから、きっと違うヨ、相手は多分、」

「し、知ってますっ、い、言わなくてもいいですっ」

「リアリィ?」

「知ってます…それに、私もって、な、何言ってんだろう」

あわてふためく葵は、赤い籠手をはめた手で
顔を覆うようにしてわしわしと指と言わず手を動かしている
おかげで表情は見えないが耳が真っ赤なので、どうこうしてるのはわかる
レミィはそういう不思議な反応を見て、きょとんと白いリボンを揺らしている

「意外とそうでもないのかもだけど、葵は積極性が足らないネ」

「積極性ですか?」

「イエス、好きな人に好きって言うような、そういうのが無いよネ」

「なんでそんな話に」

「あと、葵は『そんな』て単語多いね、口癖?そんな教?」

「なんですかそんな教って」

支離滅裂な会話ながら、
葵は口調が和らいでくる
それを自覚できたので、ひょっとすると既にレッスンに入っているのかもなどと
考えてみたりする

「葵にその積極性があれば、きっとうまくいくようになるヨ」

レミィがまたキツネのような目をして笑う
何一つ、まるで、全てが、どうやっても、
アヤカとは違う人のはずなのに、なぜかダブって見える

「前に、綾香さんにも似たことを言われました」

「なんて?」

「『葵が自分の力に自信を持って、もっと前に出たら強くなる』って」

「そう、それで葵はどう答えたの?」

するりと言葉に出して
葵はその時の感情をもう一度呼び起こしてみる
そんなわけがないです、
すぐに困り顔で否定したあの日
今も、そう思っている、やっぱりそう言うだろう

「そんなわけないです」

見つめ返して葵は言い放つ
レミィはその顔を見て、それまでの会話と
全く別の表情になる葵を見つける
困り顔の中に眠る、とってつけた瞳、わずかに逸らされた視線から
鋭敏に感じ取る、レミィの目にはその仕草が、白い首をさらしたエモノの様子に見える
それくらいよくできた仕草をしている

「そう、なりたいのね、葵は」

「え・・・?」

「葵は、自分のままで相手にされたいんだネ」

「そんな」

呟いて、また言ったと自分に気付いて葵は口に手を当てる
レミィははやし立てない、この流れならニパっと笑ってもよさそうなのに
そのままで、表情はいつもの朗らかな様子だけども
茶化してくれない
葵は不安になって、それが瞳に映った、レミィは弛めない

「葵は意外とワガママさんなのよ、でも、そんなことにアヤカは気付いているかもしれないけど
付き合ってくれないの、だから、強くなることを勧める、違ウ?」

「酷いです、宮内先輩、そんなのなんて」

「じゃぁ、なんで今でも前に出ない?綾香の言うこと聞けば、きっとうまくいくのに」

「そ、それは」

声が弱々しい
言われたことの意味が頭を殴られる時と同じように響く
葵は知らず内に身を縮めて、仰ぎ見るようにしてレミィの顔を見つめ返す
睨むわけじゃなく、哀願する子犬のように見つめ返す
言葉が出ずに、おずおずとレミィを待っている

「葵は愛されないと愛せない恋愛のスタイル、酷く偏ってるけど、とても愛らしいことだネ」

「だから、なんでまた恋愛観なんて」

「だって、そうじゃない?」

「違いますっ、もうやめてください、宮内先輩っ」

ぎゅ、と涙を浮かべて葵はレミィを突き戻す
ふにゅ、とその肌の柔らかさがグローブ越しでもよくわかる
しなやかな触り心地、不覚にも葵は
そのことに気を取られてしまう

「プリンセス シンドローム」

「!?・・・?」

「葵はお姫様ヨ、だから、王子様が必要なんだネ」

「宮内先輩っ、もう、やめてくださいっ」

「それも王子様は、リボンの騎士じゃないといけないのね、でもねアヤカは違うよ」

「宮内先輩っ」

ぐいっ
ここで、レミィがまた近づく
やすやすと葵の両手首を掴んで組伏すかのようにして
レミィが身体を、いや、顔を寄せる
最初の時みたいに、また、額を寄せるように
コツリ、デコを付け合う目の前にお互いの顔だけがある
そういう世界に入る、葵は四肢の力が抜けている
あらがえずにいる、組み手のような形だったのに
いともたやすく落ちる

「アヤカも王女様なんだヨ、だから、葵の願いは叶わない、アヤカはアヤカで王子様が必要」

「先輩、やめて、やめて・・・」

「お姫様同士じゃ幸せになれないよ、綾香となるには、葵が言われる通りに王子様にならないと」

「私には、そんなの」

「でもネ」

すい、葵の鼻腔を野性的な匂いがくすぐり、追いつめられた表情が一つ弛む
汗の匂いだけど、不快じゃない
そんな匂いがした、目の前をもう一度見る
背けていた瞳は、美しく、とても深い青い色をしている
まぶたを二回降ろした、睫毛が躍る
葵はその瞳術に魅入られる、怯えをそのまま魅了される気持ちにすり替えられる

「私はネ、王子様になれるヨ?」

「先輩??・・???」

「葵はお姫様のままで、私なら愛せるヨ?」

「宮内先輩」

「make a promise」

「せんぱい、なに、え?」

「No. Call me "Helen"」

「へ、ヘレンさん・・・」

ふるふる、大きな瞳を一つ閉じて
レミィは首を横に降る、髪が揺れる、陽光に煌めく
金色だ、青い空に広がる幾重もの光の束
空の色よりも、透き通って綺麗な瞳

「HELEN」

「ヘレン・・・」

「Yes,My Princess」

「・・・・・ヘレン、わ、わたし」

「・・・・なーんて」

パチ、魔法が解ける
葵は顔を真っ赤にして動揺を全身で顕わしている
レミィは、優しくそんなお姫様を静かに離す
すっかり腰砕けになっている葵から離れて立つ
葵はそれを見上げて
さきほどと同じ色の髪と瞳と空を見る
なんて綺麗なんだろう

「冗談よ、It's JOKE. But 葵が可愛いのは本当だヨ、それは保証する」

「みやうち先輩・・・・・驚いて、凄くどきどきしてしまいましたよ」

「葵はそういう所が可愛いんだから、それをもっと出していけばいいんだよ、
前に出るにも色々あるじゃない、ね、五十歩百歩って言うじゃない?」

「それ、誤用というか、まるで意味わからないですよ」

葵が苦笑を交えながら言う、
安堵の表情が残念そうな顔に見えるくらい、そそる
レミィはそれを目を細めて、極力見ないようにして笑顔だけを向ける
そして、そのままそこを後にすることにする
長居はできない、なぜかって

「Hi,アヤカ、元気してる?」

「I'm fine.and you?」

「Hum,.......me too.」

困った笑顔でレミィは口を濁す
場所は神社からは見えない、椿の垣根の陰
レミィを待っていた綾香との会話は
一定の緊張を保ち、それに似合う静けさがある

「それじゃぁ、セリカにもよろしくね」

「Bye-bye」

綾香は笑顔のままで、敢えて英語で会話をする
いつもの猫のような目元と口元だけど
油断のならない気配を漏らしている
レミィは大げさに手を左右にして、アメリカンな残念のポーズをとり
ここを抜ける、すれ違いざま

「・・・気を抜いてると、獲られるヨ」

「お気遣い感謝、狩人さん」

Ha-ha,声は無いけど、そういう笑い顔でレミィと綾香が交差する
金色のシッポを左右に揺らして石の階段をレミィが降りていく
綾香は振り返りもしないでそのまま足を進める

「あ、綾香さん」

「はぁい葵、元気してる?」

「も、もちろんです」

す、綾香が軽く構える
慌てて葵は応える
ひとつ綾香が踏み出す、釣られるように葵が繰り出す
それを綾香が優しく抱き留める

「うん、元気だけど、まだまだね」

「あ、綾香さん・・・」

「照れる仕草も可愛いね、葵は」

柔らかく抱き締めたまま、綾香は耳元でそう呟く
お姫様は、すっかりその気になるだろう
神社は静かにそんな二人を包み込んでいる

「Helen?」

「Hai, た、だ、い、ま」

「ゴキゲンじゃない、なんかいいことあったの?」

優しい声が返ってくる

「惜しいところまで言ったんだけどネ、でも、狙いはつけたヨ」

「それはそれは」

言いながらゆっくりと近づいてくる
爽やかな香りがする
レミィの背中にあるその人が
挨拶代わりに頬へと口づける
当たり前にそれを受けて、レミィは得意顔で振り返る

「すぐに、獲るよ」

「勇ましいことで、Take care.My sister.」

「Yes, My "Master"」

次は唇が重なる
上等な姉に仕込まれた妹は、高等な教育を受けている
どうすれば妹は喜ぶのか、姉は知り尽くし、妹も教えられる
レミィはシンディの妹を17年続けている
お互いの青い瞳が、潤み濡れて光りを増す

お姫様を守るのは
高貴な拳闘士か
金色の弓使いか

いずれつかず、晴れた空に跳び上がる鳩の群
青い空が暗く落ちる第四の夜も終わる

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Lemmy Christopher Helen Miyauchi

久しぶりに書きました
もともとこのカップリングまでは想定してたんですが
脳がそれ以上小説にするの無理だと判断していたのですが
初心に返って書いてみました
次が既に思い浮かびません

駄文、誠に失礼しました
R(05/05/02)