スピリット オブ ヤーパン


そういえば、友達というのはどうするもんなんだろう

「どした?」

「あ、いえ・・・・・・・」

朝飯中、珍しくぼーっとしている女子高生に同居人が声をかけた
はっと気付いて、またぱくぱくと白米を口に運んで咀嚼を繰り返す
まぁ、そんな事もあるか・・・・なんてぐらいの事しか考えず
OLも同じ様に朝食を進めた、のんきな朝だ

「あの、花さん」

「ん?別に、みそ汁辛いとか無いよ?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・その・・・・・・・」

「なに?重要な事?学校でなんかあった?」

「あ、いや・・・・・・・・・初さんの事なんですが・・・・・」

「なんだ?まさか、あいつ、あんたにちょっかいだそうとしたとか!?あの、バカ女・・・・」

「いや、違いますって、その・・・・・・お友達なんですよね」

ぱくぱく

「んー、そうだなぁ、同僚で歳も比較的近いし・・・・・・話も合うし、考え方も嫌いじゃないしー」

指折り数えるようにして花が初の気に入っている所を並べる
女子高生は、ぽーっとしてそれを聞いた、朧気ながらに答えを出してみる
多分、友達っていうのは、そういうことなんだろうな
どれだけ相手を知ってあげられるか、そんな事なんだろうな
私は、彼女の事をどれくらい解ってあげられるんだろう
どれだけ、解って貰えるんだろう
少しだけ、自分が知られるという事へ恐怖を覚える、知られたくないこととか
友達の間には、あってはいけないのかな、どうなのかな

答えの如何は、誰が教えてくれるわけでもない、永遠のなぞなぞに挑む

きーんこーんかーん
何百年も前からどうやら、こんな音が授業を開始すると告げているらしく
今日も今日とて授業風景が展開される、退屈な座学
あくびをしながら受ける生徒も居るし、真剣にノートに書き込む生徒だって居る
居眠りだって、小さな手紙を回すことだって、女子高生の集団は
色々と忙しい、個人の集まりだ、女子高生と一つでまとめるには
あまりにも標準偏差が違う、集合だ

相変わらず、集団の中で孤立する形で過ごす春
グループに居るが、自分を誇示することはない
前回の膳所との友達疑惑で、噂になったがそれもすぐに忘れられた
というか、熱い話題ではなくなった
春は、目の前のトークをずーっと、耳で捉えて目で追う
誰も彼女のそんな態度を咎めない

「つってさー、こいつ男ができたって話でー」

「うわー、あんたそれ黙ってろって言っただろ、最低っ」

「えええーー、なんで?あたしら友達じゃなかったの?ひっどー、教えてくれてもいいじゃない」

トモダチという単語は、そんなに頻繁に会話に上ってこないし
誰も彼もが意識してるわけじゃなさそう
理屈で、追い求めてしまう春、誰もそれを間違っているとも、合っているとも言ってやれない
彼女は自分が信じている本当に従って、ただ、その意味を探している

やっぱり、信頼しているってのを示すためにも秘密は無い方が、トモダチなのかな

外は相変わらず風が心地よいらしく、教室に閉じこもって座学なんて
身体や精神に悪そうとか、ぼんやりと考えた、片隅で自分の秘密なんてのも意識した
4限目のチャイムが鳴る、また座学だ、春は一人で耽る
むずがゆい感覚を覚えたまま、時間をゆっくりと過ごした

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

黙って弁当を食べる女子高生が二人並んでいる
春と膳所だ
こんな昼も既に3度目になる、何度も色々考えるのだが
どうしたらいいかわからない春は、ただ一緒に居るだけで
特に何もできないで過ごしていた、そういうわけだから、昼も静かなものだ

彼女はどう思ってるんだろう

気にかかるが、特に膳所も話を無理にしたりなんてしなかった
時折、気を利かせたように話題をふられてそれを答えるなんていう
定型のなんかをなぞったようなやりとりで済んでいる
気まずい、それが一番分かり易い表現だろう

「・・・・・・・・・・・・あのーー、ね」

「?」

意を決した春が、会話で初めて先制を取った
すっかり三日の間に、春の間(ま)というのに慣れていた膳所は
少し驚いた様子で、箸を止めた、麗人の弁当は意外と素朴だが今は関係無い

「ごめんな・・・・さい」

「な、なにが?」

「いや・・・・・・・その・・・・・・・・、折角、トモダチにって言われたのに、私ったら、何もできなくて、
どうしたらいいかわからなくて・・・・・なんていうか・・・・・うん、謝らないとって」

ずき

何かが痛んだ、そういう顔をする膳所
それに遠慮した笑いを見せる春、儚いというか
なんか申し訳ない気分になる顔をする、膳所は少し戸惑って
そしてうろたえた感じで、やんわりとそれを否定した
かりかりと、頭を掻いて、そして言葉を選ぶ

「いや、いいんだよ・・・・・・ほら、私もそんなに話好きじゃないし、斉藤さんだってそうなんだろう?」

「うん」

「だったらいいよ、強制しあうのは違うし、無理して友達ぶらなくても・・・・・・・」

苦い顔で膳所が言う、正しい意見だ
だけど頑固者の春は、それでも申し訳無い顔を緩めなかった
まぁ、そんな事もあったせいだろう、膳所が結局気を使うようにして話を始めた
3度目の昼にして、なんだか初めて会話をしようとしてる気がする
不可思議、思いながら膳所はゆっくり言葉をつむぐ

「斉藤さんは、一人暮らし?」

「あ、違うよ・・・・・・今は、社会人の従姉妹の家に、居候してます」

「そうなんだ・・・・・・、意外だな」

「意外?」

「あ・・・・・・・うん、なんていうか、斉藤さんは人嫌いな所がありそうだから」

「ひとぎらい!?」

「え、いや・・・・・・そんなに驚かれると困るけど・・・・・・なんていうか、寄せ付けない雰囲気をさ」

「それは・・・・・なんていうか・・・・・」

「人付き合いが苦手ってことかな?」

艶のある、いたずらな笑顔で膳所が聞く
どきりとして、その笑顔に顔を赤らめる
咳払いをするような仕草をして、小さく言う

「うん・・・・・なんていうかな、どうしたらいいか、わかんない」

「それは、今も一緒だね」

「え、あ、そ、そう・・・・・うん、どうしたらいいかって・・・・・・解らないんです」

静かに長い睫毛がふせられるように、流すような目をした
膳所は、素でそんな仕草をする春を、少し違う目で見てしまいそうになる
無防備な女
そういう雰囲気がする、でも、拒絶という暗い一面が拭いきれない
不思議な仁(ひと)だ、膳所は細かく分析を繰り返した、目の奥が冷えている

「昔から、そうなの?」

「え?あ・・・・・・うーん・・・・・・・・・こっちに来る前は、そうじゃなかったんだけどね、うん」

春は困った顔でそう答える
武専の特別実習で来る前は、地元にいくらかの友達は居た
だけど、それも今考えると刹那的な、卒業、或いは、こうやって離れてしまえば
どうでもなくなる、そういう人たちだった
春は情けないような気持ちを抱えて、ただ表情で膳所に答えた
膳所は、特に何も追求はしなかった、言葉を続ける

「・・・・・・ねぇ、斉藤さん」

「?」

「今日さ・・・・・・・・・一緒に、帰ろうか」

「あ、いいよ・・・・・・うん」

ぱちり
音がするような、まばたきのあとに春が返事をした
昼が終わり、また二人別れて教室に戻る、
二人が比較的親しい間柄になりつつあると、誰も知らないでいる、授業は退屈に過ぎた

下校のピークが過ぎた頃、目立たないように
二人で裏門から学舎を後にした、赤々と染まる世界
静かに二人で並んで歩いた、小気味良さそうに春のシッポが左右に振れている
膳所は、相変わらず背をぴんと伸ばし、歩く様が実に麗々としている
春も姿勢はかなり良い方だが、膳所のはそれに風格がある

「・・・・・・・・・・どうしたの?」

「え?なにが?」

「・・・・・・・なんか、いい事あった?」

膳所が笑いかける、確かに心持ちが上向いてる感じがしてる
春は苦笑して、饒舌に答える

「あ、うん、・・・・・・なんか、私、うれしくて」

「うれしい?」

「えー・・・・・・・、私、人に必要って思われたことが、あんまり無いから・・・・・・・うれしい」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ・・・・ごめん、重たいね・・・・・ダメだね、こういう事言うから」

春がいつもの、申し訳無い顔をした
膳所が、驚いた顔をして暗く黙った
夕陽が、街を染めている
そのせいだろうか、膳所は春がどうしようもなく寂しい生き物に見えて仕方なかった
沈黙が紅い世界をしばらく整えた、二つほど角を曲がった

「・・・・・・・・だけど、こういうのを秘密にしておくのって可笑しいね、悪いことじゃないのにひっそり帰るのって」

春が顔を拓いて言った
うつむいたまま少しだけ前を歩いていた膳所が
そっと囁く

「うん・・・・・・・でも、秘密にしておかないといけないんだ」

「?・・・・うん?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が、風紀委員で、あなたが・・・・・・そうだから」

りん

その音を追って、刀が空気を斬った声が往復した
弛緩していた気持ちでも、一瞬の殺気と、いつかの朝に聞いた刀の走る音
それだけのヒントがあったおかげで、春は一太刀目を下にかわし
返る刃を距離でかわした、だが、そこまでは訓練のたまもの
動揺と喫驚、不安と困惑
負の要因が、春の動きを縛り付けている、なぜ?
単純な事に気を捕らわれるばかりに、刀を抜くことを忘れている

「どうしてっ!!!!!!」

力一杯、哀しい声を上げた
膳所は聞いた風もなく、淡々と刀を構えそして、しかける
先手を外したのがやや予想外だったのか、わずかに技が精彩を欠いた
おかげで、春は命を拾う、必死に間合いを測り学年筆頭の刃をかわす

が、きぃっ

甲高い金属音、春が抜いた、抜きざまに膳所の刀を振り払った
白刃が紅い世界を照らす、正眼に構えると
一旦の落ち着きを見せる、心に迷いはあるが
身体は体勢を整えた、第二幕が上がる

春は正眼、膳所は上段

膳所に言葉は無い
1分流れただろうか、お互いが構えたままで
突然、春の目が冷えた、心持ちが変わった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ねない、殺そう

「その・・・・・・・・・・・・瞳が・・・・・、貶めてるんだ、斉藤」

「・・・・・・・・・・・・」

膳所は、ぞくりと春の目を据えて
研ぎ澄ました、次の動作

「せいぃぃやああああああああっっ」

どたんっ、春が地面を大きく蹴った
全身を前に送り出す、膳所は一瞬遅れる慌てて上段を下げ
突きの構えを見せた、だが遅い、既に春の刃は整っている、整った刃が下りる

!!!!

ずりっ

膳所の突きが春の脇をかすめた、その時点で春は勝ちを確信した
が、振り下ろした刀はコンクリートを弾き、あるはずの肢体は
そのすぐ横に立っている、左右の足は生き体、突いていた刀が
両腕を折り畳んで作ったスプリングの真ん中に装填されている
春は気付かぬうちに足を払われ、這い蹲っている

死ぬ

死ねない、と考えるよりも、感じたままに春は身体を捌いた
春ののびたうなじに白刃がするりと伸びてくる
ぎぃっ、奥歯が擦り合わさった音が春の頭骨を奮わせた
刀を捨て、伸びてきた刃を強引に握る、ぷしっと音がして手の皮が爆ぜた
内側から、どくどくと紅い液体が流れ出る、熱い

「・・・・・・・・・ぬぁっ」

握った刃を強引に急所から外す、しかし脇腹に突き刺さる
ずぶり、肉を貫き刃が焼くような痛みを全身に走らせる
噛み締めるように堪え、平の方向に身体をよじる、刀の動きはこれで封じた
生きるには今しかない、精神が神経を超越する
痛みにひるまず、血のしたたる右手を脇差しに伸ばす

「かっ・・・・・・・・はっ・・・・・・・・・」

勝負がついた、ぴたりと全ての喧噪が止んだ
嗚咽をもらしたのは春だ
膳所は、動かない刀をすんなりと捨て、そのまま組み付いて春の背骨を極めた
みしみしと骨が鳴る音がする、あと少し力が加わると、春の身体が壊れる

春の頬を涙が伝う

だが、一向に最後の音は鳴らされない
春は、絶望する、その耳に優しい声が注がれる

「・・・・・・・・・・・・・斉藤さんは、強いねぇ」

「・・・・・・・・・・ぜぜ・・・・・さん?」

「頼まれたんだ、あなたを試せと」

「・・・・・・・」

「あなたが見せる瞳・・・・・・・それが、何かよからぬ意味を秘めてるんじゃないかって、そぐわないんじゃないかって」

「・・・・・・・」

「うん、言わなくてもいい、あなたは黙っている方がずっと美人だ」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・どうしても強くなる、それを求めるあまりに、外道となる人がいる。
だけど、斉藤さんは違うね、志があってそのために求めてるんだね」

「・・・・・・・」

「私は、佐幕だから死ぬ事が士道で、美しさに殉じていくのが定めだって信じてる、けど
どうしても生きてやらなければいけない、だから死ねないという強い意志
・・・・・それも、美しさだと私は思ってる。どちらも覚悟の先にある境地だ
・・・・・・・・・他人をなんとも思ってない目をしてるんじゃなくて、その先を見ている、勤皇だね」

「・・・・・・・」

「ごめんね、踏みにじったね・・・・・・・・・・信じていなかったね」

そんなことはないよ

「大丈夫、・・・・・・・・・・・明日からは大丈夫だよ・・・・・・・あなたは、そんな人じゃないものね」

違う、隠し事や信頼が乏しいのは、本当だよ

春は思っても口にしなかった、できなかった
ぐっと、鉄の味を噛み締めた、口の中が切れている
どろりと熱い液体が、強く噛むほど溢れるのがわかった

「でもね・・・・・・・・・・友達になりたいって思ったのは本当だよ・・・・・うれしいのは・・・・・むしろ、私なんだ」

「・・・・・・・」

「だから・・・・・・・・・・・だから、泣かないで・・・・・・・・・・・・・お願いだから、ごめんな・・・・さ・・い」

言った膳所が泣いている
友を裏切る行為が、思想とか、生き様とか、道とか、そんな程度ではなく
純粋に痛んだ、だから泣いている
16,7の女の子だ、友情を踏みにじることの痛みは、言葉にすると希薄になる崇高な存在だ
伴う痛みは身体の内側から自分の存在理由を八つ裂きにする

イケナイコトだとわかってるから

そう流す涙の痛みを、春も当然わかってやれる
裏切られた痛みもある、膳所を思う気持ちもある
だが
春の涙はもう少し理由がある、勤皇という囲いにある志が人に言えないから
言えない事がある、そんな事から自分を春は呪った

様々な痛みの中で、もう一度想った

・・・・・そういえば、友達というのはどうするもんなんだろう・・・・・

こんな時、どうするもんなんだろう

つぎ

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