スピリット オブ ヤーパン


昨夜越してきたばかりだというのに、せっせと剣術の練習をしていたらしく
瑞々しい肌に玉の汗を浮かべて、清々しいを具現化した17才物体が
だらしなくて涙が出そうな26才の前を通った
現状と現実を同時に認識させられた、なんだろう、私がなんかしたんだろうか

まるで別の生き物を見るように、その若い娘を目で追った
今日のOLは目覚めが早い、だが、気分は決して良いもんじゃない
なんの罰だこりゃ、カミサマとやらに毒づいて食卓に移る

モーニングタイム

「お、ご飯できてる」

「あ・・・・・・はい、ご厄介になりますので、せめてこれくらい・・・あと、お夕飯の方もしますが」

「え、いや、別に・・・・・・・・・・って言いたいけど、あたしの数百倍旨そうだからお願いするよ」

照れてるのか、面白いのか、どちらか判断しかねる
というか、ひょっとしたら愛想笑いなのかと、疑らせてしまうくらい
女子高生はやっぱりなんとも、ぶきっちょな顔を見せた、シャワーを浴びてきたらしく
きりりと整った顔立ちが、涼しげに食卓に座る
この日から、朝飯が和風にスイッチするようだ、ま、いいか、糖分ないのは寂しいけど

はむはむ

「うあ」

「え?」

「美味しい」

「あ、ありがとうございます」

朝からご飯なんてたんと食べられないと思ってたのに・・・・・
久しぶりに、本当にいい気分の朝というのを思い出したような
炊き方一つで、ご飯の旨さが変わるのは日本人の常識だが、実際に出会うと唸る物だな
OLはぱくぱくと食べて英気を養う、女子高生は先に食べ終わって
そそくさとセーラーに着替えて出ていく、その背中に言う

「いってらっしゃい」

「い、いってきます」

ぱたむ
緊張してるねぇ
みそ汁をすすりながら、初い(うぶい)所を見てとる
昨夜の内に、一応最低限の情報は仕入れた
女子高生は、学校の特別実習でこちらに上ってきたらしい
普通、そういう場合は寮生活を強いられるものだが、どうも違うらしく
各々が下宿を探してそこに居候するという形、もしくは
完全な一人暮らしをすることが義務づけられているらしい、変わった学校

名前を、帝國女子武道専修高等学校
帝女、あるいは、武専と呼ばれる
最高の女子を作る学校だ、エリート校とでも言うと通りが良いだろうか

「よもや天下の武専様とはねぇ・・・・・・、しかし、美味い味噌汁だ」

味噌汁を美味く作る奴は、料理上手だ
そんな誰かから聞いた台詞を、今度言ってやろうとか思いながら
食べ終わり、食器の類を台所に移す、いつもより15分ほど早く仕度が整った
なんというか、眠い感じが微塵もない、ここ数年無かった状態だ
今日はいい仕事ができそうだと、少し息巻いて、家を出る
青空だ、昨日に続いてゴキゲンだ


いつもより早い出社
朝から喫茶店に寄るというのも悪くないが、
そこまでの時間的余裕は持ち合わせてない、まだ人がまばらな社内にすたすたと入る
いつもの席、その隣に昨日は会えなかった相方が居る

「あれ?早いな、花」

「ん、まぁな、おはょ」

幼顔、八重歯、ショートカット
多分これで想像できる女性像が、彼女の容姿を実物以上に物語る
身長は、155を越えているかどうからしい、小型人間
名前を、原田 初(うい)
こう見えて25才になる立派な女だ、花と同じく営業を担当している、コピー機売りの女その2だ

「今、あたしの事、小型とか、スモールとか、ジュブナイルとか思っただろう」

「何年一緒にやってんだ、今更思うかバカ」

かちん、と来た顔で小人は不平を吹いた
小さいという事にはかなり敏感で、相当なコンプレックスらしい
背が低いだけでなく、スタイルまでも幼いとなっているから始末が悪いと
酔った時に言っていた、原田はそういう女だ

「昨日は?」

「ん、3台売っただけかな・・・・つうか、お前はどこ行ってたんだ、一日でばってただろ」

「そうそう、その件で昨日の続きがあって・・・・・・・出られる?」

「相方の言う事は断れません」

くくく
花の言い方が面白かったのか、初が含んだような笑い方をする
その仕事の詳細を説明する前に、朝礼が始まった、もそもそそっちに注意を向ける
各部員が、それぞれのスケジュールを告げる、そして

「今日も一日頑張りましょうヽ( ´ー`)丿」

部長が、やる気あんのか無いのかわからない顔でそう告げる
毎日それが行われるので、誰も咎めたりしない
一部課長が、ああいうのは部下に示しがつかないとか言っているらしいが
部長は、言ってる事はちゃらちゃらしていても、仕事はこなす人
礼節ばかりに気を取られる人間よりはいいと、下で働く奴はみんな思ってる
いわゆる、慕われる最上の上司と、おたおたする中間管理職、そして底辺社員の図だ

「おい、長坂、原田」

「はい?」

その部長が二人を呼んだ、花は事態がわからないので、
気の抜けた返事をして向かう、初はわかっているのか黙っている

「今日、鹿児島藩邸に行く、いけるな」

「はい」×2

言われてすぐに、二人で更衣室に降りた、初が取ってきた仕事がどうやらこれらしい
更衣室は道場の脇にあって、シャワーなんぞも取りそろえてある場所だ
もぞもぞとスーツの下に、着込みを入れる
着込みと言っても、戦国候の鎖帷子(くさりかたびら)ではない
そういう働きを持った、Tシャツだ、その上にYシャツとスーツを着る
無論それも、そういう能力を持っている、当然といえば当然だ

「鹿児島藩邸って、大きいの取ってきたな、初」

「へへへ、まだ取ってきたってわけじゃないんだけどな・・・・・・・まぁ、取れるだろう?」

勝ち気な顔をしている
ロリータショート娘はいつもこんな感じだ、男勝り(この時代では差別用語)と言うような
そういう性質の持ち主だ、意気揚々と、籠手をはめる、スーツの下に忍ばせる黒光りのステータス

「あ、お前それ」

「いいだろー、カルティエだぜ、カルティエ・・・・大人の女のたしなみよ♪」

「お前、自分の事いっぺん鏡見ろ・・・・・・どう考えても、フェンディかグッチだろ」

「お黙り、花こそヴルガリとかエルメスとかするべきよ、なんでそんなに興味無いかなぁ」

「無いわけじゃないよ、スーツはMAXMARAだ」

「それは当たり前、今日日シャネルなんて着てられますか」

しゅ、香水を振る

「・・・・・さて無駄口聞いてる暇ない、行くよ」

「うん」

ちゃらり
二人の留め金が鳴った、鎖で繋いだ刀が微かに喜んで見える、出陣
玄関を出ると名物部長こと瀬田が待っている、相変わらずのほほんとした顔だが
裏腹に隙は全く無い、少なくともOL二人から見て、打ち込む事はできない
先手を取ってもやられるのがわかるほどだ、流石部長職

初が運転をして、花が助手席、そして部長が後ろに乗る
社有車のクラウンだ、後ろからもう一台コンフォートがついてくる
そっちには営業職の男が3人乗っている、合計で6人の商談だ
会社の前を抜けて、御所近くの鹿児島藩邸に向かう、街並みが静かにそして、雅てくる

「しかし原田、よく取ってきたな・・・・・・コピー機30台は大したもんだ」

「いえ、まだですよ・・・・・部長の力をお借りしないといけませんし」

どうやら初がナイナイの内に鹿児島藩邸にコピー機の納入を取り付けていたらしい
昨日は大詰めだったんだろう、花は助手席で静かに部長との会話を聞いて情報を集める
大した手柄だ、もっとも取れたらの話だが

「しかし話を聞いてる限りだと、来るな、競合になりそうだ」

「はい・・・・・・・・うち以外に、老舗コピーメーカーはほとんど来るかと・・・・・」

「5人じゃ厳しいか?」

「いえ」×2

随分と台詞めいた言い方で部長が言う、それに女二人が同時に返事をした
お互いやる気は充分だと部長に告げている、聞くまでもなく知っていた部長は満足顔だ
商談というのはつまりはそういう事なのだ、刀を持った営業職のお仕事だ
他メーカーはいずれも老舗、新参である彼女たち「三菱電機」は
注文を勝ち取ることで、信用を得る必要がある、胡座をかけるほどの栄光が過去に無いのだ

今出川通りに入る、静かにその門構えが見えてくる

「・・・・・・・富士とCか?」

「そのようです・・・・・・・まだ二、三くるかもしれないですね」

「一社あたり、だいたい8人か・・・・・・やっぱ、少なかったかな」

瀬田がへへら顔のまま、そう呟く
いかにも、やっちゃった♪手屁♪って感じだが、目は違う
おどおどした言葉の割りに、車をさっさと駐車場に向かわせた
降りる、後続のコンフォートからも降りる、そして

鉢合わせる、本来は、居合うと表現される

「三菱電機営業本部長 瀬田だ・・・・悪いが今回は、うちがこの話貰ったはずだが?」

「冗談はそれくらいにしておけ、三流メーカー・・・・・・・うちのような老舗さしおいてそんな話あるわけないだろう」

先に富士の社員が絡んできた、数は8人
男ばかりで揃えてきている、編成からして、古くさい
そう思ったらなんだか可笑しい、初が薄く笑う、この期でこういう顔する奴は本当に怖い

「ま、なんと言われてもな、悪いが行かせてもらうよ」

それが構えのかけ声だ
鋭い音がいくつも重なった、その時にはもう始まっている
瀬田はひょいひょいと門をくぐって奥に向かった、花、初は門まで後ろについた、そこで瀬田と別れる
門の手前で気を張った、瀬田狙いの刺客が3人やってくる、多方面では既に乱刃

営業活動というのは、二つある
一つは商談をまとめること、もう一つはライバルを蹴散らすこと
これはその蹴散らす行為の一端だ、毎度こうやって乱刃になるわけでもない
代表を出して試合の形式を取ることもあるし、示談だってある
しかし、この二つどちらを取っても、新参会社は不利を強いられることが多い
そうなると、リスクは高いが、一番てっとり早い方法として、こうなるのだ

取引先の迷惑を考え、決して邸内で争いは行われない
その外で、名目上、取引先はその場を関知しないという位置づけで行われる
だが、取引先は、この騒動によって、本当に強い商談先を自然と選ぶ
当然だ
強い奴が信じられるなんてのは、摂理なんだから

花と初が構える、花は少しさがり射抜くような目で挙動を探る、
初が抜く、しゃん、目が覚める音が響くと、その分厚く反りの無い刃が真っ直ぐに添えられる
敵の一人が抜き放ち大上段に構えた、初とやる気だ
花は抜かずに別の二人に集中する

「三菱営業一課の原田だっ、尋常にっ」

「小兵が聞いたか、富士の佐々木だ、参るぞ」

台詞が嘘臭い上に古い、そして、かぶきすぎてんだよ
毒づいた感じで、初は目を細めた、同時に四肢に力を漲らせ
一気に前に出た、ががっ、踏み込みの音が地面を削った、滑ったのではない
体重が乗って削ったのだ、その上半身、既に刀が佐々木の心臓を抜いている
ずすり、何かを擦り合わせるような音、佐々木の刀が下りる前に全てを終わらせた

一撃必殺、原田 初は突きを最も得意とする小兵には珍しいスタイルの営業だ
ねぶるような感触を手の平に残し、思い切って引き抜く、返り血を浴びる、嫌な顔を一つ晒す
小声で「汚れた、さいてい」なんて、品の良くない言葉が漏れる
同時に花が一人斬っていた、低い筋から胸のわずか上を深さ10cmほど切り裂いた
研ぎ澄まされた居合いなら、鉄の板すら紙のように斬れる
見事な一閃で、鮮やかな血しぶきが上がる、見とれるまもなく刀は鞘に戻っている

じり

「・・・・・・・・・・初、あっちを頼む」

「・・・・・・・・・・」

花が声をかけると、八重歯娘は黙って味方の加勢に走った
取り残される花と、中背の男
男は黙ったまま、だらりと刀をさげている、無防備に見える、誘っている
ならば
と、無防備に対して不用意に撃ち抜く、宙を掻いた右手が再び柄を握り閃光を放つ

かきぃっっ

花が抜く、刀が伸びる、瞬間、男の垂れた刀が打ち上がる
花の刀が弾かれる、振り上げられた男の刀はもう上段、男の刀が下りる
世に聞く、龍尾剣だ、男は茨城の出身なのだろうか
それを花が知覚するのは、1分後だ、この瞬間は殺し合う動作で忙しすぎる

がぎぃっ・・

「残念だったな・・・・見え見えなんだよ」

男の刀が下りる前に、花は左腕で振り上がった刀の根元を圧している、籠手がギリリと音を鳴らす
にやりと笑う、吐きかけた言葉半ばで花の右手は脇差しに伸びている
ずぶり、肉に呑まれる刀、数秒で男は絶命した

刀の争いは刹那で決まる、言葉ではとても追い続けることが叶わない
圧倒的なスピードの中で行われる、無音、そういう世界があるなら
多分、刀の争いはその世界の一端だ、音如きが追いつける速さじゃない

だから、乱刃なんてのも、ものの10分もあったら終わってしまう

「・・・・・・・・・・・さて」

一息をついて睨みを効かす
仲間の内、後続だった3人の男営業から1人を失い
1人を怪我でかばう形となった、現在、3人
地面には死体が既にごろついている、富士は見事蹴散らした
問題は、今次に移っている、静観を守るC社
どういうつもりがあって見ているのか、測りきれない、それ故に緩めることはできない

「少し下がろう、門前に敷こう」

仲間の男が一人そう言う、花と初は、けが人を抱き起こして下がる
C社は動いてくる気配がない

「作戦かな」

「なんのさ」

「焦らす、精神的に追いつめるとか」

「考えられないこともないな、消耗戦になると少しだけ厄介かな」

「瀬田さんが帰ってくるまであと10分も無いだろう、いける、10分なら持つ」

それぞれがひそひそと会話を紡ぐ
残った男は、一刀流の男だ、地味だがそこそこ腕は立つ
門前で、しかも、居合いを含む3人という構成で、比較的戦力の方はどうにかなる
にらみ合いが続いた、体感的には長時間、しかし、確実に時間は経過する

「おう」

「部長」

「帰るぜ・・・・・・・・よくやった」

どっ、抜ける緊張、結局何も無かった、C社はどうやら目的が別だったようだ
知ったことではないが、ともかく諍(いさか)い無く車で帰った、疲れが酷いけど
達成感がそれを凌駕する
社につくと、後は部長の瀬田の仕事となる、出動した担当はこれで帰宅だ
更衣室で着替える

「花、今夜どう?」

初が誘う、その達成感は他の誰よりも大きいのだろう
昂揚した自分を抑えられない感じがしている
得意になっているとは少しずれてるけども、そんな感じだろう
気持ちの良さが充満している匂いがする、我慢がきかないのか
もう一度誘う言葉を吐いて、にじり寄るように花にとりついた

「悪い・・・・・今日はやめとくよ」

「なんでだよ、2人も斬っといてどこでなだめるつもりだよ」

「いや、乗り気じゃないだけだよ」

「あー、さては他にだれか出来たな?女か?」

玄関を出た所で、雨が落ちてきた
ずっと快晴だと思ってたのに、突然の雨だ、初は閉口したのか
急に黙ると、とっとと他に行くことにしたらしい

「ちぇ、いいや、四条でも行くさ」

「悪いな」

駅に向かう、途中で初はタクシーを捕まえるつもりらしい
服が濡れるとかそういうのを気にするようなそぶりは無い
少し歩く、花は雨で少しでも高ぶりが収まるようにと願ってる

流石に女子高生をどうこうは、ちょっとイヤだし

「?・・・・・なんだ」

「ん、・・・・・・あれ。」

初が先に見つけたらしく小さく声をかける
花がそれに促されて前を観察する、セーラー服が立っている

「あ、れ、・・・・・・・・・・・・春か」

「はる?・・・・・・・・・・・・・・はー、なるほど」

初は、全てを悟った顔して、全くカンチガイしてる
花が説明しようかと言葉を探したが、途中で面倒になって辞めた
八重歯娘は、にやにやっとしてから、ちょうどタクシーを見つけたらしくそれを止めた

「悪い、四条鴨川まで」

しとしとしとしと

「じゃ、明日な」

「ああ、女子高生とはなかなか、ほどほどに」

そら見たことか
そういううんざり顔で、横を向いて事態がわかってない春を見る
春はやや大きめの傘を差して立っている、もう一本を差し出す
花に持ってきたらしい、ふぅと一つ息を吐いてそれを受け取る
ポン、ジャンプ傘ってのは、凄いアイデア商品だよな
歩き出す、ありがとうと言葉をかける

「・・・・?・・・・・・・・」

何事もあまり気にとめない花、特に今は
斬った後の精神状態をどうにかすることに躍起になってる
それが、春にとっては怒っているというように写ったらしい、戸惑っている

「・・あ、怒ってるわけじゃないから、いいんだ、違う違う」

「え、あ、・・・・・・・・・・」

「すまない、さっき2人斬った、だから」

ややナーバスな声だ、春はその様子に気圧されたように
萎縮してしまった、だが実際は、様子じゃなくその
2人斬った
という事実に気圧されている、花は少し血が騒ぎ過ぎてる
そこに気付いてやれない、一人歩きしてしまう

「・・・・・・・・・・・・・・・」

どうしたらいいかわからない
春の姿は、それ
花がようやく気付いた、そして別の事にも気付いた

「ああ・・・・・・・・いないよ」

それは別の事についての否定

「え」

「男だろう、こういう後に・・・・・・・・・・でも、居ない、少し前に死んだ」

OLは身の上を話した、そこでまた黙る
女子高生は重く黙る、だけどこういうのが日常なんだ
雨は止まない、傘を打つ

この話はもう少し続く

つぎ

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