赤まるち
『あの子、壊れるの・・・・・・・そのままだと』
「あ?ナニ言ってんだ、この太股」
『あ・や・か(怒)・・・・・・・・・、あの子の性能見てきたでしょ?』
「あのじゃじゃ馬を飼い慣らすのが目下、俺の最大の目標だ、邪魔をせんで貰おう」
『・・・・・・・・・気付いてないの?・・・・作り直されている身体がだんだんと不具合が出るようになってるって』
「はぁ!?・・・・どこがだよ、あんな山吹っ飛ばすような力の」
『OSのバグは、ほとんど奇跡で動いているの・・・・わずか五機だけに見つかったバグ、
でもね、それぞれが違うバグなの・・・・・・3103のは・・・・・バグ自体が、自己修繕されて
全く別のOSになりつつあるの、わかる?・・・・・・すると、ハードがついていかないわ
自己進化型は、まだ早いのよ、全てにおいて』
「作り替えるんだろ?、ハードだってそれに伴って・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・伴って変わる姿が、果たして・・・・・』
「・・・・・・・・・・・てことは」
『・・・・・・・・・・』
「そのうち、巨乳になるって・・・・・・・げあっ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「大丈夫、メンテナンスしたらすぐに戻るわよ」
綾香がセリオを引き連れて、マルチを引き取りに来た
権助が背負っている幼い顔を、セリオに引き継ぐ
渡した瞬間に尻のあたりを撫でたが、目にも留まらぬスピードの拳で
鼻面を殴られて、そのまま立ち去られた・・・・シャープだ(なんだそりゃ)
「それじゃ・・・・・・あと、そうそう、アパート直ったみたいよ、じゃね☆」
「ああ・・・・・・・・パンツたまには、白以外履けよ・・・・・・」
すかーーん☆
走り去る車の中に目を閉じたマルチと、髪の青いのや緑のマルチが同乗しているのが
ちらりとだが見えた、あいつらはメンテナンスが終わった他の姉妹なんだろうか
さておいて、取り残されて淋しくなった権助が、やれやれと部屋に戻る
一人だと流石にこの部屋は広すぎる
「とっとと出るかな・・・・・・・エロ本も無いし」
コンロにかけられた鍋が目に入った、昨晩のカレーの残りだ
それも持っていく事にして、たいした荷物もなく
つれつれと元の自分の家へと帰るコトにした
歩いていくと、まるで壊れる前と同じ建物が立っている
「・・・・・・・・折角新しくしたんだから、改装しろよ・・・・・」
見事に再現されたボロさがたまらない、築数十年の貫禄が
未だ保たれているのに凄く疑問が涌くが、まぁ、金持ちというか
来栖川グループの技術力のすごさと融通の利かない所が身に染みてわかった
これだからブルジョワって奴わ・・・・・脱力しながら権助が部屋の戸を開ける
「ただいまーっと」
部屋に戻ると中身は素っ気ないもので
家財道具などはあるが、私物の類は残念ながら支給されていないらしい、なんてことだ
結局あれほどあった、えろ画像ファイルや動画ファイルは全て
無くなってしまったわけだ・・・・ふふ、全世界のえろえろ同士が泣くかのう(ナニしてるんだお前)
持ってきた鍋をコンロにかけて、久しぶりの我が家の畳を踏みしめる
真新しい畳だから、なんとも芳しい、い草の香りがたまらない
腰を下ろして時計を見ると、昼を過ぎたところだ
食べるモノを冷蔵庫に探すが、調味料しか入ってない
つうか、なんで、冷蔵庫に調味料が入ってるんだ?
新手の嫌がらせに苦悩しつつも、仕方無いのでコンロにかけた鍋を温める
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うおー、たまらん匂いだな」
ターメリックとサフラン
そういう色と匂い、カレー好きにはこの香辛が食欲をそそるらしいが
権助のような生粋のカレー嫌いには、毒でしかない、食欲は減退するわ
吐き気を覚えるはそれはそれは・・・・・しかし、食べるものが
これしか無いとなれば話は別だ、そう思って火にかけること15分
「・・・・・・・・・・・・・・・・しまった、ご飯が無ぇっ!!!!」
真っ青になる権助、気付くの遅い
既にできあがったというか、温め直ったカレーがぐつぐつと鍋の中から
存在を表に広げている、また温め直すのは面倒だし、しかしご飯は無い・・・
他に代用出来る食べモノはないかと探したが、冷蔵庫に入れられていた
塩こしょう以外には、おおよそ食べるものは無い、ちくしょう、非常食に取っておいた
カビがふさふさ生えたモチも全部無くなってやがるのか・・・・
「仕方無ぇ・・・・・・・」
鍋をそのまま、ちゃぶ台に持ってくる権助
ちゃぶ台にはあらかじめ鍋敷きの代わりになるような新聞紙を
乗せておき、そこにカレーの鍋を置く
寝かせたカレーってのは美味しいと聞く、それをいざ確かめる事となる権助
「・・・・・・・・・・・・・・??・・・こ、このカレーの肉・・・・ま、まさか・・・・」
深く考えるのをやめにした、いいのだ肉が入ってるだけで
貧乏学生は喜ばなくてはいけない、吉野屋の牛丼が、廃牛の肉だとしても
牛肉には変わりないのと一緒、そう、この肉がたとえなんであろうとも
肉なのだ、喜ぼう俺・・・・権助が、自分を説得しつつスプーンでカレーを掬う
むぐむぐむぐ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まずい」
一言呟いて手が止まる、肉のせいではない
なんともいえない独特のカレーの味だ
カレー嫌いにしかわからない、あの食べた瞬間に鼻腔へ突き抜けていく
鮮烈で兇悪な臭気と辛み、いや辛さはどうでもない、ともかく
この匂いがいけないのだ、それでももう一掬い口に運ぶ
むぐむぐうぐうぐうぐ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
諦めたように言葉もなく、もくもくと運び続ける
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「しかし」
かなりを食べた、独り言を呟くのは一人暮らしが長いせいだろう
一言区切って、また一口放り込み
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんっと、不味いなこの食いもんは」
ああ、泣くほど、不味いんだ
スプーンを持つ手も震えてしまうよ
一週間して、荷物が届いた
「あのー、黒猫ですが、ハンコもらえますかー?」
「んー・・・・・・・・・ハンコで本当にいいのか?」
「は?」
「拇印でなくていいのか?」
「は?」
「拇印でなくていいのか?ああ?ぼいんでなくていいのか?ボインでなくて・・・」
「な・・・・ナニ言ってんだあんたわ!!!」
「がはははっ!今、お前・・・・・・拇印をボインだと思っただろっ、このどスケベがっ!!!」
黒猫が泣きながら逃げ出した、これは権助の数少ない趣味の一つなのだ
権助の家に訪問販売などに来たら、それこそさぁ大変、過去に二人ほど
有能な人間を葬り去った事もある、多くはここでは語らない
思った以上に手応えの無かった黒猫から受け取った荷物の送り主を見る
『来栖川エレクトロニクス』
「??・・・・・・・・・・・なんだ?」
訝しげに荷物を部屋の中に入れて、添えられていた手紙を見る
ワープロで打ち出した小綺麗な字が、丁寧に並べられている
内容はこうだ
『今しばらくメンテナンスに時間がかかります
その為、代わりのメイドロボをお送りいたします
ご自由にお使い下さい』
非常に簡素で、人間味もナニもない
大手企業のいかにもな感じがこの手紙一つから漂ってくる
がさがさがさ・・・・・
「おわ・・・・・・・・・・・っかし、この顔はいつ見てもビビるモノがあるな・・・」
箱を開けるといきなり、あの幼顔がどどんと現れた
目を閉じてはいるが、なんだか戦慄を覚えるその顔にひやひやしつつ
バラバラ死体のようになってる部品を組み立ててみる
「・・・・・・・・・・・・・・・」
緑色の髪、のっぺりと凹凸の無い身体
白のワンピース型の下着、拾ってきた時のマルチをなんとなく思い出す
ああ、そういえば、あの後電源入れたら酷い事になったんだったな・・・
そう思いながら、耳の裏を探り電源にスイッチを入れる
ぱちん
う゛ーーーーん・・・・・・
お決まりの音とともに起動する、しばらくお待ち下さいという
台詞が機械の声ですると、カリカリカリカリと処理の音が聞こえだした
それが数秒続いた後、ばちっと電気音がしてOSに灯が入った
幼い顔がむくりと起きあがり、瞳が色を帯びてくる
「おはようございます、ご主人様・・・・・・・・・私めに名前をおつけください」
感情の乏しい声が、つらつらとHDD内にデフォルトで入れられていた
命令をそのまま口にした、ホンモノのメイドロボって奴はこんなんなのか
改めて権助が感動する
「・・・・・・・・・しかし、マルチそっくりだな」
「マルチですね、ありがとうございます、かわいらしい名前です♪」
「!?・・・な、お前、今、ち、ちが・・・・・だ」
「マルチにご主人様のお名前を教えてください」
「ば、バカ・・・おま・・・」
「ご主人様、バカですか?」
「な、なんだとお前っ!!・・・主人に向かっていきなり・・・・」
「バカ様、バカ様♪」
思わずぶん殴る権助
「痛い・・・・・・・訴えますよ、バカ様」
「(怒)」
メイドロボが殴られた頬をさすりながら、メイドロボ尊厳法を盾にして
主人をバカと呼びながら脅す、とんでもない事になってしまった
権助がなんとかして、設定を変更しようと色々いぢる事にする
「くそ・・・・・さっぱりわからん・・・・どこのdiskに設定フォルダがあるんだ?」
「あまり中を覗かないでください、恥ずかしいです♪バカ様♪」
かわいく言う所がまたムカツク
権助が、アドレナリンを大分泌しながら懸命に処理を行う
というか、ご主人様と呼べば問題無いのに、このバカメイド
解ってやってんじゃないのか?
色々と探ってみたが結局、どうする事も出来ずに仕方無く
そのままOSに直接覚えさせる事にする、そう教えたら色々と
覚えるというのが、このHM−12型の良いところだ
「いいか、マルチ」
「はい、バカ様」
「ま、まず俺の事は、ご主人様と呼べ・・・・・・んでもって、お前の名前わ・・・・えーと・・・」
「ご主人様、ちなみに登録されました名前は、次の機検(車検みたいなモノ)まで継続されますので変えられません」
「な、んな理不尽な・・・・」
「ポストペットだってそうなんですから、諦めてください」
マルチと同じ顔だが、全く違うタイプの困った奴を貰ってしまった
てきぱきとしてる言葉遣いと、その考え方がデジタルなところは
本当にロボという感じがする、良いような悪いような、メイドロボってのは
結構疲れる代物だったのだな、しみじみとホンモノのご主人様になって
実感する権助
「まぁ、いいや・・・・・・よし、早速だがメイド、飯作って掃除してくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
メイドロボは固まったまま動こうとしない
笑顔はにこにことしているが、それ以上なにもない
なんだ?ひょっとして、どっか飛んだか?
のぞき込むと、ぽつりとメイドが呟いた
「教えて頂かないと、ナニも・・・・・・・」
「つ、使えねぇ・・・・・・・・・・」
心底残念な、落胆した声で権助がうなだれる
その姿を見て、突然メイドが狼狽え始めた
「ふ、ふえええええっっ、い、一生懸命やります、だ、だからどうか、マルチに掃除の仕方を教えてくださいぃぃっ」
「おあわ、な、泣くなっ!!・・わ、わかったから、ほらとりあえず泣くな、あーもうっ」
とんでもない手間だ、権助が必要以上のエネルギーを消費しながら
渋々、掃除と飯を作る・・・・・・なんだ、結局メイドが居ても居なくても
一緒じゃないか・・・・釈然としない所を思いながら、まぁ、仕方無いと
一から色々と教えていく
「これは、こうしてだな・・・・・・、部屋の電気のスイッチとかは食パンでこするといいんだ」
「はい、わかりました、網戸は両手の力を均等に食パンで挟んで・・・・」
「網戸はスポンジだっ」
しかし覚えが悪い
その上
「はわわわわっ!!!、ご、ご、ご主人様、ど、ど、ど・・・・・・わあああっっ!」
「へ?・・・・ぎやああああああああっっっ!!!!」
さくっ
包丁が壁に突き刺さる、今さきほどまで確か
刺身を切っていたはずなのだ、凄い事だ
刺身を切るつもりが、殺人になりかけるほど、手際が悪い
始末に負えない
「ったくー・・・・・・・」
「ふええ、ご、ごめんなさい・・・い、一生懸命・・・こう、一生懸命やってるんですが・・・」
よしよしと頭を撫でてやりながら、一日が暮れていく
疲れる、ほろほろと泣かない日が無い
この前は風呂を空焚きして、火事になりかけて
「これが本当の、かじてつだい♪」
などと笑顔で言い放ったので、迷わず殴り散らした
すると訴えてやると、喚かれて結局謝る・・・・・・
忙しい毎日が過ぎていく
「ご主人様?」
権助が寝ている、上半身は裸で
下もGパンを履いてはいるが、チャックもベルトも閉めずに
だらんと、履いたままにして寝ている
横で、もじもじとしていた裸のメイドが、少し揺するが
どうにも起きる様子がない
ぱたぱたぱたぱた
そっとその場を小走りに立った
少しして
どんがらがっしゃーーん☆
「ん?・・・・・・・・・・・なんだ?・・・・・・」
お約束の音で権助がぱち、と目を開ける
どうもメイドがナニかしたんだろうと、特に気にとめない
しばらくしていると、ナニをどうしたのかわからないが
ともかく、戦争帰りのような出で立ちで、毛布を持ってやってきた
「あ・・・起こしてしまいましたか・・・・ごめんなさい」
メイドが頭を下げる、ぼーっとそれを見ている権助
その横に滑り込むようにメイドが座ると、二人で毛布に
くるまるように広げてかけた、不器用にだが、ようやく
二人がすっぽりと落ち着いた
「・・・・・・・・気が利くな・・・・」
「ありがとうございます♪・・・・・・まだ、眠いですか?」
「ん?・・・・・ああ・・・・・」
もたっとした頭で、権助が答える
するとメイドが優しく頭に手をまわして、自分の膝に
倒れかかるように促した、されるままに、権助がメイドを
枕にする、目を閉じる
「ゆっくりお休みください・・・・・・・・ご主人様」
うららかな春の陽が窓から落ちてくる
温かさが心地よく、すぐに眠気がやってくる
うろうろと意識がはざまに誘われていく
「ねーんねん・・・・ころーりーよー・・・・おこーろーりーよー・・・・」
優しい歌声が脳味噌に油断無く広がる
溶けるような思いが、なぜか切ないと感じて
春の温かさが
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マルチ」
「はい、ご主人様」
冬は、もう終わるんだと
突き放すように告げている
おわり
長々とご愛読ありがとうございました
心からお礼申し上げます 見城あ〜る