赤マルチ
夜だった、月が煌々と夜道を照らし街灯の明かりなど
問題にしないほど明るい夜だった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ほどなくして、集合住宅地のゴミ捨て場に一人の男が現れる
貧相な格好に、決して好くないであろう栄養状態を伺わせる顔色
近くの貧乏大学生であろう、その男が大きなゴミ袋を持って、そこへとやってきた
「ゴミ・・・・さすがに、冬はナマモノもあんまり臭くなんなくていいけど・・・
一月ためるとまずいな・・・・・」
呟きながら、鼻をつまんでそれを投げ捨てる、もさっという音とともに
積み上げられているゴミ袋の山がどすどすと転がり崩れた
いつもならそのまま立ち去る所だが、妙なモノが目に入り
じっとそれを見つめる
「手?」
人の手がゴミ袋の山の中から突き上がっている、手首でくにゃりと折れて
手のひらが下を向いている、ここで男は考える
1.死体
2.酔っぱらい
3.ああいう人形(謎)
「そうか!!!!、ああいう人形か!!!」
そう叫ぶと、喜び勇んでその手をひっぱる、いささか乱暴に、ぐいっと力を込める
ずももも・・・・崩れる山の中から、頭が出てきて、やがて身体が
だらんとした、一人の女の子を拾い上げた
いや、正式には女の子ではない
「・・・・来栖川の、メイドロボじゃねえか?・・・・・・」
無垢な女の子型のメイドロボ、HM−12・・・・市販用のメイドロボとしては
簡易タイプである、俗に言う量産機、緑色のショート髪、耳にはメイドロボ特有の耳あて
身にまとうのはぴちっと身体にフィットする白のワンピースタイプのレオタード
薄汚れているが、間違いなく最新式のそれである
「俺もご主人様の仲間入りか・・・・・」
ここで、どうしてこれが生ゴミの場所にあったのかしら?などという一般の人間が考える
思考を一足飛びし、即回収、背負ってそのまま来た道を何事も無かったように戻る
背負ってみると思った以上に軽い身体となんだかリアルなふにふに加減に
色々な期待を昂らせる男、軽い足取りで行きよりも重いゴミを部屋へと持ち帰る
「最新式のメイドロボか・・・・・ま、期待したモノとは違ったが、そういう機能も
あるとか言うしな・・・・・」
口の端を上げる笑顔を浮かべつつ、貧乏長屋のようなアパートに戻り
ぱちんと電気を点ける、ワンルームの台所などすべてが一体化した簡素な部屋
その割りに、トイレと風呂は完備されていて、部屋の奥には趣味であるインターネット活動を
行うためのマシンがぐいんぐいんとうなりを上げている
「さて・・・・・・・・とりあえず、洗うか、病気は怖いしな」
いったいなんの病気にどうしてかかりそうなのかわからないが、几帳面に拾ってきたロボを洗う事にして
風呂場へとそれを持っていく、途中で着ているモノを脱がせる、ぐいぐいとひっぱっても
その頑丈な布は破れる事はなく、無理矢理に脱がしていく
「・・・しかし、なんだな・・・・・どうせなら13型の方がなぁ・・・・おっきぃし・・・」
ぶつぶつと謎の不平を口にしつつ事を進める、やがてつるりとした身体が露わとなる
相変わらず瞳は閉じられたままで眠っているようだ、なんだか危ない犯罪を犯しているようで
妙な興奮を覚える男
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふにふにふに
「おおおお・・・・・・」
むにむにむに
「・・・・・・・・・な、無いのは無いので、なんていうかな・・・あ、新しいな・・・・」
何が新しいのか分からないが、とりあえず一人で大盛り上がりしつつ、丁寧に洗う
時折、じーっと一点を見つめたり、何かを確かめたりしながらその作業を手際よく進めて、
タオルでふきふき頭をくしゃくしゃと拭いてやる、きっとちっちゃい女の子と、
お風呂入った後はこういう事になるんだろうと、
イミのわからない事を思い浮かべつつ隅々までふきふき
「・・・・・・・・・・・・さてと」
と、だけ呟き部屋へとそれを持っていく、つるつると光るボディ、決して金属光沢のような光りではなく
つるぺたな感じが印象的で健康的な肌の光、それでいて心地よい柔らかさ、なんとも言いようのない至福の感触に
うきうきしつつ、男が電源に繋げる、続いてUSBでそれをつなぎ(?)マシンの電源を入れてそれの内部へと侵入する
とりあえず動作確認、続いてスキャンディスク、フォーマットしてみて
「・・・・・・・・・・・・・・壊れてるわけじゃないな・・・・新しいドライバでも落としてくるか」
と、来栖川の公式サイトへと移動し、サポートセンターへと移動・・・・・・・が
「閉鎖??・・・・・・・なんで・・・・」
HPが閉鎖されている、不思議な事もあるものだと特に気にとめる事なく、素早く内部侵入にかかる
慣れた手つきでてきぱきと製品を探して回り、ドライバが保管してあるディレクトリを発見する
「うーんと・・・・・こいつの品番は・・・・・・・・」
シリアル番号を探すためうなじを見る、hm12−D3103、と記してあるのを確認し、それを探す
すると、Dシリーズという商品列を見つけた、おそらくこれがそうなのだろう、素早くダウンロードに移るが
ファイルが見あたりませんなどとマシンに告げられる
「??・・・・・無いのか・・・・・なんで・・・・・と、仕方ねえか」
侵入時間が10分を越えてそろそろヤバくさいので、一旦退散し
仕方なく、そのメイドロボからケーブルを引き抜き、そのまま起動させる事にした
耳の裏あたりにある、電源を入れる、冷蔵庫のようなう゛いーんという低重音の後に
いかにもHDDが回っているという音が頭部からしたと思うと、瞳が開かれる
ゆっくりとその瞳に光りが灯り始め、やがて瞳孔が閉じる
「・・・・・・・おーい」
くるり、声に反応して男の方を向く少女、誰の趣味で造られた顔なのかわからないが
なかなかこう、萌えあがる顔をしている。かわいい顔に似合うように、幼児体型がなんとも
微笑ましい、じーっと見ていると、少女が自分の姿に気付いて呟いた
「服を・・・・・・・・」
男が優しい目をして、ゆっくりと首を横にふる
「いいんだ」
不思議そうな顔をして首をかしげる少女、そしてもう一度呟く
「服を・・・・・・・・」
「だから要らないんだよ、これからする事には、さぁ、ご主人様と呼びなさい」
男が誇らしげにそう言う、が少女の台詞は途中だったとこのコンマ数秒後に気付く
「・・・・・・・貸せっつってんだろが!!!!」
ぶぅん!!!!、拳が男のこめかみをかすめる、はらはらと髪が何本か落ちる
一瞬何が起こったかわからないが、さきほどまで天使のような寝顔を見せていた
それが、凶悪な目つきでこちらをにらみつけつつ、舌打ちをしている
「ち・・・・照準がずれてる・・・・・」
「・・・・・・・・・は?」
男が事態を理解するよりも先に少女が動いた
「動くな喋るな目を閉じろひざまづけ手は頭の後ろだ・・・・・・・」
全裸の幼女体型少女に突然命令されて何がなんだかわからない男・・・・・
呆気にとられて思わず、言われた通りにする、人間こういう時が一番素直だという話の
手本である、よくわからない内に両手を頭の後ろに持っていき膝立ちしている男
「って、なんで俺がメイドロボにそんな事されないと・・・・・」
「動くな!!!」
ごすっ!!!
いきなり殴り倒されて踏みつけられる男、よもやの事態に唖然とするも
頭を踏みつけられていて、身動きが取れずじっとする
(あ、でも、裸の女の子に踏みつけられるのも・・・・・・・・)
がすっ!!!!
「ぎわ!!!」
「なあ、服はどこだ?」
「服?・・・・っていうか、このメイドロボ!!!てめ、いったい何してるかわかってんのか!?」
少女は黙って見下ろす
「サポートセンターに連絡して駆除してもらうぞ!!だいたい、なんだその口のきき方は!!」
一瞬困ったような顔をして、するりと寝ていた時のようにかわいい顔に戻る少女
そして、優しく足をどけて、横面を踏み直す
「ぎっわああああっ」
「申し訳ございません、ご主人様・・・・服はどこにございますでしょうか?」
ぐりぐりぐりぐり・・・・・顔を思いっきり踏みにじられる男
うすら寒い笑顔を浮かべて男をのぞきこみ、ぐりぐりと足をにじる少女
「いぎぃ・・・・・あ、あのタンスのな、中です・・・・・うう」
少女がゆっくりと足をはずしタンスの所へと歩いていく
やれやれと起きあがり、畳の後がくっきりつけられた頬を撫でる男、タンスを物色する少女を見つめる
もさもさと物色する少女が呟く
「ち、ろくなものないな・・・・・・」
「文句言うな、この・・・・・」
きらり
「いえ、す、すみません、び、貧乏なもんで、へへへ」
無造作にタンスからジーンズとトレーナーを取り出し
もぞもぞと着替える、その姿をじーっと見ている男、やがて少女が着替え終わったのか
くるりときびすを返して男の前にやってきた
「名前」
「・・・・・・・・・・・・・・」
がすっ!!!、黙っていると、少女が冷たい目で男を蹴り上げ
改めて、笑顔で聞き直す
「ご主人様お名前を教えてくださいませ」
「うう・・・・・・、・・・ご、権助です」
聞いて目を円くしてから、大笑いする少女
「権助!?・・・・・なんだ?芋でも掘るのか?・・・は、あはははははは♪」
なぜ芋掘りなのか最近の若者にはちょっと理解が苦しいだろうが
屈辱的な台詞に思いっきり殴り倒したろうかこのアマと思うものの
どう考えても自殺行為であると悟り、そっと殺意を胸に秘める
食卓の上に座り、足を組み上げ権助を見下ろす少女
「さて・・・・・・・とりあえず、ここどこだ?」
「お、俺の家です・・・家賃3万の・・・え、駅まで徒歩15ふ・・・・げふっ!!」
鈍い音とともに、権助が血を流してひれ伏する
やれやれという顔で少女が、脇腹あたりを蹴り上げて
「なんでお前の家にあたしがいるんだ?って意味なんだよ」
と、耳元に優しく囁いてからゆっくりと部屋を観察する
「・・・・・まぁ、いいか、逃げ切れたなら・・・よし、でかけるぞ権助用意しろ」
「はぁ?」
「財布持てよ、金ないなら無担保で貸してくれる所行く事、いいな?」
すくりと立ち上がり少女が権助の肩にそっと手を置いて呟いた
いったい、俺は何をしてこうなってしまったのか、こっからどうなるのか・・・
色々思ったが、素直に従い着替える事にした・・・・えっと、何着よう・・・
この、金ラメのジャケットなん・・・・・・・
ずばっ!!
「先に言っておくが、私と歩くんだからそれ相応の格好・・・わかってるな?」
「と、当然です・・・・・・・」
買い物に出るためとだけ言い、玄関脇に少女が立ってまだかまだかと、権助を目で牽制する
ちょっとでもトロい仕草を見せようものなら、あの、残忍な笑顔で拳が飛んでくるに
違いない、恐怖に顔を凍り付かせながら、ブーツの紐を結び終わり立ち上がる権助
「あの・・・・・・・・」
「なんだ?」
「名前・・・・・・は?・・・・・・」
そう聞いて、ふっと笑い頭をかきながら少女が答える
「・・・・・・・・・・基本的にユーザーが決めるんだけどな・・・」
「じゃ、あの・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(笑顔)
一瞬、「はなざわさん」という名前が喉まででかかったが、飲み込む
えへへーと、愛想笑いを返して、こう名付ける事にした
「マルチ」
その名を聞き驚いたように顔をあげた後
一拍置いて、マルチと名付けられた少女が含み笑いをしつつ呟く
「・・・・・・・よろしくお願いいたします、ご主人様♪」
妖艶な微笑みと上目遣いの誘うような瞳に
権助、悪魔と盟約を結んだ