斬り


「流石だね・・・・・・」

「・・・・褒める所じゃねぇだろう」

猫又と鬼は一言ずつ声をかわした
5つ目の岩の所まで来た
ぱらぱらと飛んでいた矢は今
一本も飛んでこない
静かに城は黙りこくっている

「・・・・・・・・やられたな」

味方の数は300くらいまで減っただろうか
20人一隊に別れて、岩間を駆けて移動してきた
しかし、5つ目の、最後の岩まで来られたのは
残念ながらこの二匹だけだ、後は3つ目のところで足止めを喰っている
もしくは、途中に亡骸を晒している

最初はぱらぱら飛んでいた矢が
第一隊が5つ目の岩へ移動する時、突然一斉射撃に変わった
それまでの散発は囮だったと気付いた時には
急射に反応できた二匹以外は、羽虫を払う如く蹴散らされた
しかも5つ目に移動する隊だけでなく、その後ろも随分やられた
この矢の攻撃有効範囲は思っている以上に広い

「ちょっと距離あるけど・・・・・どうする?」

猫又が良夫の顔を伺う
この二匹なら矢をかいくぐって近づけるかもしれない
良夫の程度の低い脳では、二匹だけで城へ近づき
砲台となってる矢衆を叩いて、一気に近づかせる
などと短絡的な作戦が描かれている
猫又も当然それはわかっているが、あまりの愚策に踏み切れない

なにせ鬼殺しの根城だ、二匹が本当に近づけるかわかったものではない

「飛んでる矢を見たか?」

「普通だった・・・・・さっきまでは」

黙る二匹
今は散発が止んでいる、だから、どの矢が飛んでくるか見当が付かない
魔殺しを撃たれたら、良夫も猫又も流石にまずい
時間はそれほど経っていない、待つのも一つの手だ
今、全国で火の手を挙げている衣夢の勢がとこかしこから
援軍としてかけつけることも充分期待できる
しかし、到着してもこの矢衆だけは片づけておかないと
悪戯に味方が死ぬ
せめて砲台を潰すことが、500人と二匹に課せられた使命だろう

「ぐれごりーぺっく・・・・・・・いや、とむはんくすの方かな」

「なんだ、呪文か?」

「いや、今回に似たような話を思い出したんだ、海の向こうの国の話さ」

猫又がなぜか自嘲気味に話す
どっちも全然違うとか言うな、雰囲気の問題だ(・・・・。
猫又が後ろを伺う、2つ向こうの岩に味方が何隊か隠れ前を伺っている
何度か突撃を試みたが、見事な射的がそれを全く許さない
再三、良夫達がそこで待てと吼えたが、聞き入れず
それを悟るまでにまた、何人かを犠牲にしていた
血気に逸るから、こういう硬直状態の戦闘は不利だ

「とりあえず後ろは静かになったし、待てるだろう、忍耐が必要だね」

「待つ・・・か、暗くなれば、あるいは・・・」

「それしか・・・・・?」

びゅんっ、がごっ

二匹が諦め口調
だが予断を許さない状況は簡単に仕立てられた
3つ目の岩が突然、音を上げて砕けた、連携して一斉射撃が続いた
空が真っ黒になるほど、岩のあった場所に矢が降り注がれた
狼狽えるままにそこに居た味方は殲滅された
一瞬だ、理解するまでの方が時間くってる、それほど短い間に皆殺しにされた
何か一本の矢が岩を砕いた、それはわかったがそれがどういう矢なのかわからない

「冗談じゃねぇっ・・・待ってられねぇぜ」

「くそっ・・・僕らじゃなくて、人間の方を狙って・・・・見透かされてる」

当然の如く今のは一斉に伝播する
恐怖が伝播する
後続は一気に浮き足立ったろう
勝ち気ムードから、一転すれば脆い
後ろを見せて下がる可能性が高い、悠長なことはもう言ってられない
二匹は決断する、おそらく二匹をあぶり出すことも含めた
先ほどの攻撃だろうが

「乗ってやるっ、だが、お前らが考えるより俺達ぁ」

「速いし、強いってねっ」

ざぁっ
岩の左右から二匹が飛び出した
猫又はその姿を猫に変え、直角に何度か方向を変えつつ
飛び跳ねるように近づいていく
良夫は直進のみだ、ただ金棒を片腕に握りしめ
いつでも払える準備はしている
5つ目の岩から、城壁までは200歩くらい
斉射の攻撃間隔から計算すれば、一回のみ、一度だけ凌げば勝てる

「?」

ずだだだだっ!!!!!
凄まじいスピードで猫又が城壁に着く
良夫もやや遅れたがすぐに到着する
一本も攻撃が無い
不審、二匹は怯えてしまう、なぜだ、予定外のことに
思考を掻き乱される
これこそが狙いだと、うっすらと解るが、わずかな動揺は確実に身体を蝕んだ

「良夫さんっ、心を立てろっ、こうなったら行けるだけ行くんだっ」

「お、おおおっ、上等だっ」

城壁を駆け上がる
二匹ともケダモノだから直角の壁を平気で駆け上がっていく
窓は暗く、人が居るのかわからない
殺気だけはかすかに感じるが、それも何か違和感がある
二匹が城壁の上に立った、敵はっ!?

「??・・・・おかしい?・・・なんだ」

「・・・油断するなよ良夫さん」

二匹、全身で全ての気配を伺う
見えていない部分も脳味噌にそのまま入ってくる
里の奥で、うまそうな煙があがってるのもわかる
洗濯物が風でそよいでいるのもわかる
少量の水がまな板を流れる音もわかる
だけど、だけどもだ

「敵意が、殺気はどこ行った」

「狼狽えるなって、良夫さんっ」

焦る良夫、苛立つ猫又
二匹の不協が募った、びぃぃいんっ

「弦の音っ」

どぉっ!!!!!!!

「くあっ!!!!」

「猫又、野郎っ、ど・・・」

びぃぃぃぃんんんんんっっっ
きちぃっんっ

弦の音が二度、一度目とほぼ同時に猫又が吹っ飛ばされた
二度目は金属音がして消えた、良夫が金棒で振り払った
辺りはまた、静かになった
遮蔽物を、いや先に、猫又っ

「猫又っ!!!どこだっ、無事かっ!!!」

びぃぃんっ

「っのっ!!!!」

きぃんっ、良夫が弾く、音の方向で場所がわかる簡単に叩き落としそちらを伺う、敵影は見えない
この時、全く逆の死角からもう一本来ていた、同時だったから音が一つだけ
良夫は見えていない、直撃を受ける
ずぐっ!!!!!!!

「くぁっ・・・・・な・・・・・っ、どっから、いや、何人も?・・・くそがっ」

ぐあら、思いっきり身体が揺れた
撃たれたのは幸い右肩、骨に当たったらしく
かなり痺れたが大事はない、ただ凄まじい衝撃だ、どんな弦を引いたらそんな矢を撃てるのか
城壁の内側へと降りる、降りるしかない、そして身を隠せる、いや
死角を消せる場所に姿を止める
辺りを伺うが全く気配は読めない

びぃぃぃんっ

「また・・・・・・・」

どがっ!!!!!ぶしっ

「ぐああっ・・・・・・・ああ・・・・・、らあぁぁああああああっっっ!!!!」

ごがっ!!!!!!!
家屋が一軒吹き飛んだ
死角を消していた部分を貫通して、家もろとも矢は良夫を貫いた
間違いなく魔殺しの矢を使っている
しかも手に取るように位置を知られ、いいようにいたぶられている
すぐに撃たれた方向を金棒で砕いたが、その先に敵影は見えない

「くそ・・・・くそ・・・・・畜生・・・・・」

良夫は鬼の姿を出すこともできない
大きくなれば、その分死角が増える、おまけに的がでかくなっては
相手の思うつぼだ、策を弄する、なんとか考えろ
今、一番やらなくてはならないのは

良夫が走り出す、音をどかどかと上げて
もはや隠れるという行為はしない、するだけ無駄だと悟った以上
余計なコトを省いて最速を目指した
何を目指すか

門を・・・・・城門を開けて、まずは味方を呼べる準備だけはっ

低い家が連なる、だから屋根の向こうにやや高くなった城壁と
その継ぎ目、門が見える、輪中のような作り
真っ直ぐにそちらへと向かう、気配を探ることすら辞めた
ただ耳だけ確かにして、音の瞬間、受け止める用意だけをする
防げないなら、耐えるまでだ
良夫らしい、おバカな見解だが、単純は最速だ
目指すべき門はすぐそこに

「・・・・・・・・・・・・・・鬼、予定通り」

ぎりりっ

「・・・・・・・・・そうだろうね、見えたよ矢衆さん」

「!!物の怪っ」

びんっ!!!ぶぅんっ!!!!
弦の音のすぐあと、空を切った矢の音だけ誰の痛みも伴わなかった
良夫の耳にも当然届いた、今までと異なる音

「!?・・・・・弦の音・・・・・なんだ?」

「良夫さん、門開けたらすぐに城にっ」

「ね、猫又・・・・そうか、見つけて」

「矢衆は僕がやる、速く、速くだっ」

姿は見えない、しかし確実に声は届いただろう
猫又は矢衆を睨みつつ叫んだ
矢衆、いや、射手を目の前にしている

「考えてみれば酷く単純な将棋だった、僕らの動きは単純だったから射るのは簡単だったわけだ」

「・・・・・・・・・」

「いや、違うな、射る方向に僕らを差し向けたのが正解か・・・・・大した心理戦だ」

「ご明察、流石、万の歳世を生きていると博学だな、化け猫」

「博学というのは、物知りのコトを言うんだ、国語を小学校からやり直してこい、貴様」

「笑わせるなよ、黒衆一位の矢、貴様如きに弦は斬られん」

男は半弓を構えた、間もなく速射
猫又はかわす、見えているならかわせる
そして、かわした後に、もう一度身を翻す

びぃんっ!!!!ぞくぞくっっ

「からくりは見えてる、もうかからないよ、少なくとも僕にはね」

敵は一人だけだ
どういうことかわからない、しかし現状はそうだとしか思われない
この男が射る矢は本命ではない、そこかしこに仕掛けてある
強弓の一撃へ誘う為に、速射を繰り返している
強弓は弩(ど)を用いている、大陸で古くから伝わる弓を引く器械のことだ

「人手不足なのかい?一人で500を止めようとはなかなか豪気なことだよ」

「・・・・・・・・・・」

「弩を操れるのは凄い、けど、少し大陸にかぶれすぎたね、仕舞おう」

すあ、猫又が化けた
同時くらいだろう、門の開く音がした
わぁっ、遠くに味方の歓声が上がった、狼狽えは取り戻した
形勢は逆転する、不審点はいくつもあるが
今は勝つことが先、この戦は勝つ、勝てる
と、猫又の足音が消えた、黒の衆とケリをつけるまで消えたままだろう

一方

どだだだだだっ
良夫が走る、猫又に言われた通り
結局猫又とその相手がどこに居るのかはわからない
見えない位置で戦っているらしい
しかし、相変わらず定期的とも思える間隔で
びぃんと、弦の音が良夫を狙ってくる、いや
最近はむしろ良夫の通り道と関係の無いところに矢が刺さる

「・・・・・下手くそだな」

バカだから、からくりに気づけない、ただ走り続ける
矢が脅威で無くなり、目標の城を捕らえ
一心不乱に走るだけ、闇雲に全力をかけて城へと向かう
思えば、この時から、いや
多分、岩を投げ入れて突入の経路を作った時に
この違和感に気付くべきだったのだろう

あの突入手段も、よくよく考えればやすやすと
あんな手の込んだことをしなくても、迎撃隊を出せばつぶせたはず
だのにしなかった
城門も衛兵が居れば、もう少し保ったはず
だのにいなかった
今も歩兵を並べればなんとでもなるはず
だのに出てこない

ちりぢりの殺気
明滅する気配
静まり返った里

これだけの不審に一つも気づけない、バカはこれだから困る、都合良くて困る

内門をくぐり迷路のような垣へと足を踏み入れていく
走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る

「って、長ぇっ!!!!」

思わず叫ぶ良夫、ずっと垣を走り回っているのに
ちっとも近づいていく気配がない、それどころかむしろ遠ざかる気すら覚える
おかしいと感づいたのはここで初めてだ
やむなく足を止めて、左右を見る、天地を見る、前後を見る

「迷路か?・・・・・まさか遁甲(とんこう)」

八門遁甲の陣
おそらくその類、強面の迷路、厄介な場所に迷い込んだ
焦って前だけ見て走ってくるとろくなコトにならない
困った時こそ、焦る時こそ落ち着くべきなのだ、これはミスだ

注意深く辺りを観察する
よくよく見れば、霧がかかってすこぶる妖しい
見えていた城も、今は霧散している
幻を見せられ、そちらへと誘われた
なんと単純な罠だろう、いや、単純だがハマルと怖い

「門・・・・・・・・・・・ハズレを引いたら死ぬんだったか・・・」

うあり

空気が、むせるように重い
妖しく煙る奥に8つの門を見つけた
死門、驚門、あとなんとかかんとか
良夫の脳ではその程度、なんか間違った知識っぽいんだが
ともかくヘタを打つと門の向こうでは死が待ってるような話を聞いた

「八分の一・・・・・・いける、俺なら大丈夫だ」

考え方が桜子に似てきた
迷うことなく、一つ目の門を選ぶ
決めたら最後、走り抜ける
それだ、行く、行くぞ、行くんだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「衣夢様、間もなく都です」

「・・・・・」

「浮かない顔ですな」

「私は酷い」

「・・・・・衣夢様・・・」

「辿り着いた結論が、圧倒的な力で全てを極短期間に蹂躙すること、なんと野蛮で粗暴なんでしょう」

「・・・しかし、それでようやく叶うのです、いずれの国も歴史もそうして塗り替えられてきたのでしょう」

「・・・・・・・・」

「何よりも、痛めることが、功徳となり、今の衣夢様を支えておられるはずです、大丈夫、誹りは私めが浴びます」

衣夢の脇で静かに笑顔を零している
懐かしい顔、かつては悪行の限りから膨大な富を築き上げた男
通り名は「芥子屋」
今は、衣夢の傘下で諜報の仕事をしている、自ら進んで汚れる役を引き受けることで
贖罪とすることを望んでいる、立派な信者だ

「後悔は後から何度でも、どれだけ深くもできます、今は進んでください、予定通りとなっております」

「・・・・・・・ありがとう、それより息子の方は?」

「帝の側に、近衛として参上した次第」

「そう、なら城の方はもう・・・・」

「間もなくでしょう、我々の切り札が目覚めます、さすれば息子は討って出るまで、絵の通りです」

衣夢がどこかをまた痛めた
目に見えない傷がまた増えた、魂の出血は止まらない
今までで一番酷い傷かもしれない
この戦で死ぬ全ての命が、衣夢を平等に傷つけていく
消える命にはその権利がある
傷つく衣夢にはその義務がある

圧倒的な力による蹂躙、仏は暴力を選んだ

鬼という異形の力に恃んだ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「??・・・・・・お、ぬ、抜けられた・・・・・なんだ、余裕じゃん」

門を抜けた所、いきなり城内だ
良夫は少々狼狽えながらも
暗い城内を歩いていく、みしみしと床が鳴る
薄気味悪い静けさ、そして暗がり
真っ直ぐ続く廊下をただ歩いていく
流石に走らない、音は鳴り続ける、みしみしと軋む、耳に障る音

「・・・・・・・・・・妙な」

廊下の奥、途中は全て板張りで部屋は無かった
奥に白く浮かび上がるふすま、木戸ではなく、紙のそれが鎮座している
ためらいながらも良夫は進む
随分時間を稼がれた、足止めを喰った
その割りに、命の危険は、罠だけしか無かった

「・・・・・・・・・」

開けるしか無い
手をかける
そこで初めて、全身が、五感が息を吹き返した
焦るばかりで目の前だけを見てきた集中力が
暗がりと、静けさとになだめられ
ゆとりを持った、蠢く、良夫の五感が警告を鳴らす

血の匂い、死臭、たわる不自然な静けさ
まるで闘争の後を伺わせる
破壊の後が浮かぶ、囲われる空気はその様子を顕わしている
がちがちがち、歯が鳴る音
なぜ、震えてる、頭より先に身体が何かを読み取った
不快感を全身にたゆまなく流し込む

よしたほうがいい

する、
どこからか来た声に反してふすまを滑らせた
整えられ、手入れの行き届いたふすま
蝋が塗ってあるのだろう、滑りがいい、音がまるでしない
何も聞こえない

「・・・・・・・・・・・・・・・さ」

「おそい・・・・・・ばか・・・・・・・ばか・・・・・・」

紫の衣
銀色の飾り
趣味の悪い組み合わせに加えて
真っ白な紙の花が咲き散って
葬式
葬儀
葬礼

「さくらこぉっ!!!!!!!」

駆け寄る
畳の匂いがする
新しい畳が敷き詰められているんだ
だけどなんだ
随分と汚れているじゃないか
赤く、紅く、あかぐろくよごれているじゃないか

「さく・・・さくらこ・・・さくらこ」

「何度も呼ぶな、バカ」

「どう、どうして、なんで」

「おなかがすいた」

「し、しっかり、いいか、喋るな、大丈夫、持って、持ってくる、ご飯、山ほど」

「朝御飯を食べ損ねたんだ、凄いんだ、この国でおとうちゃんは一番偉くて
この国の人はみんな優しくて、あたしゃ継いでもいいかしらとか思ったわさ
どう良夫、お前も、この国の人と会ったろ、見た?珍しい物を素直に珍しいって言う
ずけずけと、なれなれしくて、凄い、本当、超ステキな人々よ、知ってる?」

まるでかみ合わない意識
目の前の女をどうしようもできない、無力を声に知らされるのみ

良夫は言われて
ここに来るまでにただ一人の人間を見なかったことに気付いた
走り抜ける時に、人の気配がまるでなかったことに気付いた
そして、今、押し寄せる自分が所属する軍が、里を荒らし回る音が聞こえてくる
家屋を倒し、社を焼き、奪い、壊し、潰す
桜子が紹介する素敵なものが、全部、そうやってねじられていく音がする

「外、騒がしい・・・・・」

「う・・・・・」

「耳だけが随分鋭くなってきたんだ、なんでも聞こえる、お前の声も聞こえてた、よしお」

少女は笑ったのかもしれない
造形が、それかどうかわからない
琥珀だった左目は、紅く、血だまりとなり輝きは無い
だから、余計に耳へと力が移っているのかもしれない

「あ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・よしお、おなかすいた」

「あ、あ・・・・・」

「そこかしこが、痛いよ、随分、長いこと痛いよ」

「俺が、着くのが、遅かったから、ごめん、ごめんな・・・・・・・ごめんな」

「うく・・・・・・・・っ・・・・・うぐっ・・・・・よしぉ・・・・ぉ」

ぼろり
桜子の顔から涙があふれ出した
良夫はそれを掬う、すぐに紅く染まるそれを掬う

「いたいぃぃ・・・・・いたいよぅ・・・・うううっ、いたいよぅ・・・・いたいよぅぅ・・・
凄く、いたい、すごくいたいよ・・・・もう、ずきずきとかじゃなくて、痛い、泣きたいくらい、痛いの、いたいよぅ」

ぎぅ
桜子が良夫の衣服を掴んだ
良夫がすぐに掴み返す
起きあがらせることすら叶わない
耳には、痛みに悶える声が飛び込んでくる、防ぎようもなく続く、続けられる

「桜子・・・・・・し、静かに、暴れたら障る、障るから」

「だけど・・・・いたい・・・もう、もう・・・・・もうっ、よしぉ」

びぐびぐびぐ、ぐ
不規則に桜子の身体が躍った
鬼は目を開く、全てを飲み込む為、片時とて瞼を閉じない

「おなかすいた・・・・・・・ごはん、」

波紋が広がる

菩薩の手から一滴の水が落ちると
空に波紋が広がる
その波紋がやがて命となる
時が経ち
それが枯れ、最後の一滴が落ちたとき
波紋が広がる

わん・・・・・・

最後の一滴が落ちた音がした
何もかもが終わる音がした
ただ一つだけ音がした

「・・・・・・どうだってよかったんだ」

ぼろぼろ・・・・
新たに落ちる雫、鬼の眼より落ちる雫

「反旗だとか、救世だとか、そんなこたぁ、どっちだっていいんだ」

ぼろぼろぼろ

「俺ぁ、ただ、桜子と、今のままでだって充分・・・・・・・・・だったのにっ」

ずぐっ
ずぐっ
ずぐっ
大きな反動が、体中をかけめぐる
今までのくすぶりが、全て寄り集まって
この時を待っていたかの如く、一斉に吹き上がる
山が火を噴く如く
体内から、熱くたぎる怒りが沸き上がる
体中に力が漲る
溢れるばかりに黒いものが充満する
ぎりりりぃいっ
歯ぎしの音、噛み締める音が木々が折れるような音が

怒りはとうに棄てたはずだった
生まれた理由は忘れたはずだった
鬼であるコトは諦めていたはずだった

違う

棄てた物は拾える
忘れた理由は思い出せる
諦めたコトは取り返せる

ずぐっ、ずぐっ、ずぐっ

「どいつもこいつも、度し難ぇえええええええええっっ!!!!!!」

ずぐっ

体中から憤怒を吹き上がらせる
身体はひたすらに膨れ上がる、岩はごりごりと大きくなる
背中が、腕が、脚が、なにもかもが
赤黒く大きな体、巨躯が解放される、降臨する鬼

よぐるいのしおん

世に狂う、死の音

桜が散り荒ぶ

つぎ

もどる





えー。
というわけで
来週で終われるのかはなはだ疑問でありますが
なんとか頑張ります

劇中注釈
ぐれごりーぺっく→ナバロンの要塞
とむはんくす→プライベートライアン
八門遁甲→実は帝都大戦に書いてあったコトしか知らない

以上、駄文長々失礼いたしまいた
終わり近づくと一話の長さが5割り増しになるのは
いつものことなのです、申し訳ございません