鬼斬り
「サン、もう少しだ」
「・・・・・・・・」
「どうした?どこか痛めたのか?」
「ぃぇ」
「声が小さい・・・・・まだ、気にしているのか?」
不幸女は黙ることでしか抵抗を示せない
抵抗というほどでもない、抗議でもない、反抗では当然ない
やりどころのない気持ちを少しでも軽くしようと
些細な罪滅ぼしをしているだけだ
気持ちはそうじゃなくても、事実はその程度だ
先代サンの娘である桜子を置きざりにした罪は、いや、置き去りにしただけではない
桜子に対する、邑からの全ての仕打ちは罪だ、心に鎖が絡まるような後味の悪さが
ずっとつきまとう、人間は裏切りを続ける弱い生き物だ、心に枷をはめることで
心持ちを軽くしようとする、随分脆弱な生き物だ
「さぁ、もうすぐ禰宜達にも追いつく、いそ」
ど、
「宮司様?」
サンは宮司の背中を見ている
言葉が途中でとぎれた男の背中を眺めている
じわりと、その背中に赤い模様が広がるのを視界に入れている
「ぐ、ぐうじさまぁっ!!!!」
「さ、さがれサン・・・・・・・き、きさま・・・・・・」
どばどばどばどば、とてつもない量の血がしたたり落ちる
音をたてて地面を濡らしていく、赤く濡れていく地面は
暗闇で見えない、見えないが、ずぶずぶ広がる波紋が
世の下、薄暗い地獄を思わせる
宮司は刺された、目の前の小男に、信頼していた禰宜に
「ね、禰宜様っ・・・・な、なんてことを・・・・」
「うるさい偽物、お前のような偽物舞女のせいで、どれだけの労苦を伴ったかっ」
「愚か者・・・・・・・何を、バカなことを」
「宮司様、あんたは本当に丈夫だね、確かに立派だったね、だけどね、立派すぎて足下見てなかったね」
ずぐっ、じぐっじぐっじぐっ!!!
続けていくつもの暴力が働かれた、もう宮司は死んだ
息はあるかもしれないが、それも長くない、今に死ぬ
守ったはずの、村人に突かれて息絶える
口からも大きく血を吐き出す、声は出まい、宮司は呪わしい瞳を闇に向ける
いくつか見える、脆弱な生き物達に恨みをこめる
この、バカどもが・・・・・・・・・・・・
「そんな・・・・なぜ・・・・あ・・・・ぁ・・・・・」
じゃり、倒れた宮司など気にした風もなく
続けてサンに竹槍を向ける、凶器を突き出す、暴力を浴びせる、邑人達は信じている
この騒動が、この女と宮司により引き起こされていたと
小男が先導している、黒い衣服をまとった禰宜が誘導している
村人達の目は酷く冷静だ、こんな時は迷いがまるでない
一縷の希望が、この殺人にあると疑いを抱いていない
不幸女
桜子の声が聞こえた気がする、もう体中には
いくつもの宮司と同じ傷が加えられた
痛んでいく身体、飛ぶ意識、闇が目に入る
月のない夜が相応しいと、はらわたを吐き出しながら、微笑んだ
そう、この期(ご)、巫女は微笑ったのだ、儚い顔はさらに薄倖を極めた
暖かい光を感じる、死を受け入れる為、全身の痛みが抜かれていく
生暖かい自らの生き血が、ずるずると冷えていくのがよくわかる
なぜ笑っているのか、そうだよ
私の不幸はこれで終わるからだよ
何もかもを諦めた刻、器ができあがった
人の形をしつつも、心を失った、とても立派な器ができた
絶望する先に見える幸福、わかる?
神は、こんな女の身体にこそ降りるのだ
「そ、え?は、話が違・・・・」
「禰宜・・・、まだ何か・・・え?あ・・」
「か、神様は本当にいらしった、いらしったんだっ、こら禰宜っ、言うことが違」
闇は光に呑まれる、山を覆い尽くして暗闇を照らし喰らう
よりしろが呼ぶ、神を呼ぶ、杉(サン)の木から降りる神
八百万に並ぶ神は呼ばれた、儚い女の命と引き替えに、裏切りを続ける愚かな人間に神罰を与える為に
いや、慈愛と慈悲をかざし、今一度愚かな生き物達に機会を与えようと降りてきた
降臨する光は、無量
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よろしいのですか?」
「ん、娘と約束したんだ、鬼と猫又には手を出すな、仕方あるまい」
側近が静かに下がる
いつの間にか、すっかり廃墟の中には
黒い男達が充満している
どこから涌いてきたのかわからない
桜子はじとじとと、一人一人を見てみる
いや、誰かを探している
「どうした、娘」
「あの・・・・・なんだ、おとうちゃんの息子はどこ?」
「ん、ああ、あいつは置いてきてる、国の守りに付かせてる・・・・・気になるのか?」
「そりゃぁね・・・・なんつーか、今考えると、弟のくせに凄まじく生意気だったから」
「・・・・よく弟だってわかったな」
「だって、まるで子供だったもの」
琥珀瞳の娘と琥珀瞳の父親、顔立ちなどは違うが空気がよく似てる
父親はじっと見守る、さきほどまで焦っていた娘は
今じゃすっかり落ち着きを取り戻している、これだけ殺気だった集団の中に居るのに
随分と肝の据わったものだ、もしくは、俺と一緒でそういう所が欠けてるのか
あるいは、バカなのか
「それよか、おなかすいた、もう行こう、その国とかいうの、連れてってくれんでしょ?」
「ああ、そうだ・・・・・な」
黒い男が視線を一つ動かした、それを機に手下どもは陣を下げ始めた
鬼の姿はすっかり闇の中だ、もうそろそろ、外へと出る頃だろう
せいぜい気張って逃げるがいい
桜子は目を離した隙に、宝物庫の方へと行ったようだ
財宝と言うほどでもないが、煌びやかな金銀を
うはうは、楽しそうに手にとっている
なんともいえない、卑しい顔がステキすぎてたまらん
卑しいことこの上ないが、どこかかわいげがある、親の贔屓目だ
「しかし、よかったですな、少し予定と違いましたがすっかり邑も破壊して、鬼もなんとか」
残った側近がぐるりと見回しながら
鬼殺しに話しかける
ほとほとその破壊後に感服している様子だ
尋常ではないその場は、得体の知れない力で作られた
そう思っている
「そうだな、偶然俺が森で迷ってる間に、偶然娘が鬼と一緒に堂を壊し、偶然俺が到着して鬼を殺す」
「・・・・・・・・・守護様」
「偶然とは恐ろしいだろう、わかるか?」
にこりともしない
この男には、そんな表情が作れないと思っていた
側近は、それほどキモを抜かれた
恐ろしい、繰り返される偶然という言葉の陳腐さ、その裏を取る、なお寒々しい
琥珀の瞳は黙って側近を映している
不意に瞳の輝きが増した気がした、いや、実際増している
「?」
「おとうちゃん?・・・・・あ」
都合悪く、いや、良いのか
わからないタイミングで桜子が宝物庫から出てきた
ちょうどぴったり、外が急に輝き始めた
世界が恐ろしく明るくなる、側近は腰を抜かした
桜子はその正体を勘で理解した、鬼殺しは微動だにしない
むしろ微笑んでいる
「おとうちゃ・・・・・あっ」
ど、飛びかかるように近づく娘
その腹に刀のサヤを突き当てた
急所を突いたせいだろう、ぐたりとその場に娘は落ちる
父親は、この時、父親という生き物ではない
「さて、驚いたことに偶然ここに神が降りたわけだ」
「しゅ、守護様っ、あれは、あれは手に負え」
「バカを言え、凄い偶然だ、活かさない手はなかろうて」
ぐん、刀を抜いた
いつもの普通の刀
だけども、この男の身丈に異様なほど似合う
身体の一部と紛うほど似合う
それを振りかざす、ぶぅっ、屁をこいた
「目に焼き付けろ、神が死ぬ瞬間だ、俺は神殺しとなる、本当超偶然」
「お、おとうちゃ・・・・・ちくしょ・・・・・バカおやぢ・・・・約束違う」
「それは違うぞ桜子、おまえのかあちゃんの仇はアレだ、それにアレは邑の「人間」じゃない、あの神さえいなければ」
きぃん
「お前の母は、親姉弟を殺されることもなく、巫女ともならず、喰われることもなかった、真の仇はアレなんだよ、見ておけ娘、母の仇の最期を」
光が、山を覆う光の主が
鬼なぞ物ともしないその巨躯が
ゆっくりと、白い身体をたえる
闇に映える、美しい輝き、そこへ黒い男は土足で踏みいった
おとうちゃんの言うことは一理ある
だけど、あれは、神でもあるが
よりしろの、サンを、あの不幸女を巻き沿いにっ
桜子が泣く、なぜ泣いているかはわからない、首にまきつけた白い布が切ない
「泣くな、あの巫女は死んだ、村人に殺されたんだ、神はそんな可哀想な奴にしか降りてこない、赦せんだろう、その前に救えって思うだろう」
言葉は随分と荒々しい調子だった
桜子は初めて、この男が母の大切な男であり、また母を大切に想っていたと気付いた
演技かもしれない、いや、嘘だってかまわない、父と仰ぐ人が
ただ母の仇を取る、うれしいことじゃないか?望んでいたんじゃないか?
白い光は一度だけ大きくうねって、すぐに崩れ落ちていった
いともたやすく、神をこんなにも簡単に殺すなんて
側近は改めてその畏怖を抱かざるを得ない
この男を敵に回してはならない、この男は危険だ、なによりも危険だ
そう知らしめた、崩れていく神を見て、強く戒めた
返り血と言えばいいのか、神より浴びた不可解な何かで
黒い身体は、不気味に輝いている
神殺しの洗礼、神通力も、妖気も、外道の力も
どれとて当てはまらない、この男は自らの力だけで神を討った、仇として討った
神は、解っていて討たれたのだろうか、神殺しは思った、あまりに手応えが無いから
討たれる為に降りてきたのかもしれぬ
神に解らぬはずもない、討たれなくてはならぬと覚悟したか
様々な利害が絡み、その間で利用される、誰かと誰かと誰かと誰かと誰かと・・・
とめどなく続く、人間の鎖、その先端にこの父娘(おやこ)が居た
いや、神同士のいざこざのせいで生き死にを遊ばれる、無力な家族が居た
興味を失った、神殺しはどうでもよくなっている、いつもの顔に戻った
「さぁ、帰るぞ、おら、立て桜子、というかおとうちゃんの大きな背中で背負ってやろう」
「ぎわっ、やめろセクハラ親父、っつうか、納得いくかバカ野郎、バカ野郎、ばかっ、ばかっ、ばかっ、痴呆っ」
「るさい、口が悪い、女の子がそんなこと言うんじゃねぇ」
「うぎぃっ、ちくしょう、なんで、身体動かないし、約束違うっ、触るなっうそつきっ」
「暴れるな、女の子らしくしろ、おとうちゃんのぬくもりを感じろ、少しはファザコンぽいところをだな」
「お姫様だっこなんかするな、それじゃ背負ってねぇだろうが、セクハラ親父がっ!!」
ごいん☆
可愛らしい音だったりするが、桜子は本気で泣いているし
黒い男は、お父さんの顔だったりしている
側近は黙ってついていく、帰り道を急ぐ
桜子が国へと連れられる、国長が第一子として連れて帰る
「・・・・・・・・守護様」
「なんだ、今、親子のスキンシップで大変忙しいんだが」
「だからやめんか、このエロ親父っ」
暴れまくる娘とそれをどうにかしようと頑張る親父の所
伝令は戸惑うが、なんとか使命を全うする
「鬼と猫又が、衣夢の勢にさらわれました」
「・・・・・・ほぅ」
「衣夢様?・・・・なんで」
「様づけか・・・・・・随分親しいのか?」
「あんたには教えてやんない」
「わかった、いい、ほっておけそれよりも戻る、隊列を乱すな」
「はっ」
返事の後にすぐ伝令は戻っていった
夜明けとともに、明るい朝がやってくる
朝日を浴びながら、黒い軍は進んでいく
隊列は乱れず、ゆっくりと離れていく
何処から離れていくのかはわからない
後ろにはもう何もない
桜子は無論、誰一人として振り返らない
歩みは遅く、前に進むのみ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お久しぶりです、子音」
「・・・・・・・・・」
「もう大丈夫です、ここは我々の仲間しかいません、帝の息はかかりませんよ」
8人の従者と衣夢
それが目の前にいる、良夫の隣には猫又が居る
包帯を巻いていて、見るに痛々しい
闇の鬼の傷だけじゃなく、黒い奴らとの傷も深い様子だ
「・・・・・・・・」
「順を追って説明した方がよろしいですか?」
「・・・・・・・いいよ、面倒だし、大方はわかってるつもりだ」
「それならば」
ぱちり、衣夢は手を一つ叩いた
従者が一人、良夫の前に布を持ってきた
深い赤色、よくよく見れば、衣夢を始め従者は全てこれをどこかにつけている
つまりはそういうことだろう、当然のように猫又もつけている
「どこにつけたらいいんだ?」
「どこでも、解るところにつけておいて頂けましたら、仲間と確認されますよ」
黙って従う、とりあえず右腕に巻いておく
すぐに部屋の場所へと通され、休養を与えられた
良夫はずっと黙って従う
頭の中は、桜子のことしか考えられない、動揺を隠せない
後悔や憎悪や悔恨が後を絶たない、いつまでも涌いてくる
「良夫さん、ご飯食べよう」
「おう」
随分経って猫又が部屋に来た
誘われるままに二人で飯を喰うことにした
質素だが、栄養価の高そうなものばかりが
ずらりと並ぶ、桜子と一緒している時には
あまり良いものを食べられなかったから、これは贅沢だろう
「桜子さんは?」
「親父と一緒に国に帰った」
「そうか・・・・・・・じゃぁ、仕方ないね」
「そうだ、仕方ない」
「衣夢様とは面識があったんだね」
「ん、京都で少しだけな・・・・」
「本当に少しだけ?」
「・・・・・・・・・・嘘ついた、少しじゃないな」
「やはし」
猫又は顔をほころばせた
もさもさと食事は進んでいく
ちなみに昼餉だ、夜通し奔り通してここまで来ている
だから、くだんの翌日になる
外は随分と明るく、昨夜のおぞましい時間はまるで虚
蒼い空の下に、わずかに風の音がしている、長閑
「僕もね、色々言われたよ、元来猫として生きていたんだけど、猫又となり、そして世の中の理不尽と・・・」
猫又は、気のない風で話を続けている
良夫も、気がない風でそれを聞いている
外の日よりがあまりに良いからか、お互いもそもそと口を動かしはするものの
上の空、意味のないやりとりを続けている
会話よりも日に当たることを好んでいる調子だ
どちらも抜け落ちている、まるで熱意が無い
猫又は、本来、熱心な衣夢信者だったはずだ
再会した時に感銘と敬服を謳っていた程だから、相当だろう
それがどうだ、今はまるでそうとは思われない
外側だけで続けている
そんなむなしさが匂っている
「良夫さん、桜子さんを、どうしても助けよう」
「?」
「僕は今、衣夢様よりも桜子さんを旗として挙げたい、そんな気持ちだよ」
「旗」
「そう、桜子党、そういうのさ、喜ぶだろう?きっとさ」
「・・・・・・・確かに、喜びそうな話だ」
良夫はぽつりと答えた
猫又は、気を使ったわけでもなく
本心からそう思っている
桜子の意識は、衣夢のようにどこか「救い」を匂わせる
しかし衣夢ほどの説教臭さが無い
その分だけ、桜子の方を信頼してしまう
魔法は解けてしまうと、一気に白ける、多分猫又は衣夢の魔法が解けた状態なのだろう
「しかし、静かなものだ、外はいつも蒼くて綺麗だな」
時折縁側から見上げては、良夫は意味の無いことを呟いた
猫又はそれを聞いて耳を躍らせる、空は言う通りに蒼い、遠い、高い
一片の雲さえ見えぬ、澄み切った色を寝かせている
ぼーっとそれを眺めていると、空の青が脳へと染みてくる
やがて思考は青に解けて、ぐるぐると回り続けて、ひっそりと暮れていく
しばらくはそんな怠惰な日々が続いた
毎晩、衣夢の従者達が様々な作戦や戦略を練っている
良夫と猫又も参加した
猫又は雄弁にその知略を講じて、積極的に関与した
良夫は見ている、ただ黙って組み立てられる方策を聞いている
自分の出番はどこか、それを探して語らずにいる
作戦の主眼は、宮に巣喰う愚を滅ぼし帝を手に入れること
その為に、京へと攻め入る手段を考えている
聞くところでは、衣夢は布教活動を着々と実らせ
今では従う信者が、帝の軍を凌ぐほどいるそうだ
勝算は充分ある、既に地方では小競り合いや、衣夢の息がかかった国守が
取りつぶされたりしているらしい
一週間はゆうに過ぎた
数えるのもおっくう、だらだらと、だけども
確実にその日が近づいてきているのがわかっていた、けれども
焦りをなぜか感じない、迫るものも覚えない、良夫は平生を続けていた
この日、良夫を訊ねて客が来た
「客?」
「ああ、子音に用があるとさ」
その名で呼ぶな
何度も思っているが、従者の内の半分くらいはその名前で呼ぶ
いらいらするが、言ったところで始まらないので黙っておく
夜に狂い、理不尽に怒り、何もかもを壊したがる
そういう性質を「子音」の名前は顕わす、だから嫌いだ
やや不機嫌を顔にして、客とやらに会いに行く
通された部屋には女が座っている、懐かしい顔だ
「久しぶりだね」
「・・・・こいつは、わざわざ、高山からご苦労だな、さくら」
百識の鬼女
高山のさくらが座っている、相変わらずの武家風
凛々しい顔立ちと整った姿は、一角の美を備えている
「お前も、この話に荷担しているのか?」
「荷担ね・・・・・・・言いようでお前の立場が伺えるな」
「そいつは答えになってねぇ」
「ああ、私は中立だよ、高山はいずれにも荷担しない、自治を認められる限りそれを通す、今日は私用さ」
「私用?」
「なに、借りを返しに来ただけだ」
偉そうな口調でさくらは、良夫に包みを差し出した
受け取るなり衣を脱がす、中からはどす黒い鋼が出てきた
まるで磨きが無い、だが、異常に強い、堅いというのが正解か
「なんじゃこりゃ」
「関の鍛冶屋を覚えてるか?曰く『鬼は斬れねぇが、なんだってぶん殴れる優れ物でさぁ』とさ」
「おっさんらしいな・・・・・・・なるほど、鬼にゃ、金棒か」
ぶぅんっ
一振りすると良夫の腕にぴったりの重さが響いた
音は重たくそれでいて鋭い、打ち込まれた神鉄とでも言うべきか、強く重い
さくらは黙ってその姿を見ている、気に入った様子の良夫を視線に入れている
「こいつぁありがたい、礼を言っておいてくれや」
「ああ、わかった・・・・・・・・で、お前は荷担するのか」
「聞くまでもなかろう、百識ともあろうお方、俺如きが考えることなんざ、お見通しでしょうな」
良夫は嫌味のように言う
さくらは声を立てず笑う、実際透けるように見えてる
百識は、世情と私情を手に取るように理解できる
良夫が何を思ってここにいて、時を待っているのか
「まぁ、お前が勝手に選んだことだから、私がとやかく言う必要はないな」
「その通りだ」
「そうだな助言を一つ、息子の方に気を付けた方がいい」
「・・・・・・」
「父親の方は無類の強さだったろうが、今に事態は急転する、抑えるのは息子の方だ」
「・・・・・・なるほどな」
「人の間で生きることは辛い・・・・なぜ、こんなに絡み合いを望むのか、気を付けろ巻き添え喰わぬように」
「ご忠告、感謝いたします」
良夫は百識に頭を垂れる
鬼女は帰っていった
見送りながら心の底でねぶる熱を覚え始めている
ここに来て何度目か、蒼い空をまた見上げた、何もない空
「猫又、そろそろか」
「うん、そろそろだ」
三日後、進軍が始まった