斬り


「降りろさくらこっ!!!!」

「ええ!?」

珍しく、女の子のように狼狽する桜子
良夫が、おんぶの状態を解いた、両腕をフリーにして構える
というか、おんぶのままで光よりも速く走れていいのかお前
色々交錯するが、人外魔境なので仕方がない
今は、瞬間が大切だ、間髪をいれず
優しさ、思いやりを意識する暇もなく、乱暴に桜子を後ろ側に棄てた

「う、あっ」

「そうだ、鳥居のそっちに、入ってろっ・・・・・・・・・オ・オ・ヅ・ツッ!!!!!!!」

どごぉっ!!!!
爆裂音が響きわたる
囂々(ごうごう)と土煙が騒ぐ、口を開けた何かが声を挙げて大騒ぎだ
良夫は鬼の姿を晒す、ありがたみもなく何度も見せている気がするが
今回は、いつかの、桜子に斬られた以来の

「『夜狂イ』様相手に、闇が喧嘩売るたぁ、上等っ!!!!!!!!」

ぅっ!!!!
かっこわるい音だが、仕方ない、そうとしか聞こえない
耳が腫れる、脳が震える、目が潰れる
そう思うほどの激しい圧力が、ただでさえ何もなくなった世界を
より一層、ホコリまみれにして宴を開いてる

ごっ!!!どっ、ぼぎぃっ!!!

打突音は5回に4回は聞こえない、音が大きすぎる
衝撃が凄すぎる、まるで桁がはずれてしまっている
闇の鬼は、隆々とした体躯を駆使し、羅刹かくやと良夫と組み合う
ショートレンジでの打突の応酬
お互いの短いカットパンチが、どずどずと行き交う
両者ともガードが堅く、確実に相手の打撃を防ぎきる
へたれの良夫とは思えないほど、ガチンコの接近戦だ

「くのぉっ!!!」

ぶぅんっ
時折大振りのパンチを混ぜるが、嘲笑うようにそれを闇の鬼はかいくぐる
カウンター気味に蛇に似た軌道で腕が伸びてくる
良夫はその腕自体を殴る、ごいんっ、ごいんっ、にぶい音は
肉を殴る音と異なる、岩と岩がぶつかる音
鬼の喧嘩は音が派手だ、しかし、その殴り合いにも飽きたのか
はてまた弱ったのか、クリンチのようにずるりと身体を滑り込ませる闇の鬼
良夫も受けて立つ、クリンチじゃない、がっぷりと四つ

相撲

近い
最も強い格闘技だから、間違いがない
神の舞に相当するのだから、相違がない
素手で、ふんどしのみで、羅漢が闘う姿は、相撲でしかない
良夫が軽くいなす、実際は凄まじい力だが円動作を交えて
闇の鬼をふりまわす、一度左上手から右の下手で捻りを加える
闇の鬼がこらえる、体重が左足に乗る、それに抗う
その刹那、逆の方向へと技をかける、左の上手をひねり右下手は脇を掬うように投げを打つ

ぶぉんっ

定型を、約束稽古でも見るかのように
闇の鬼は、その巨躯をごく自然に宙へと舞わせた
良夫の力と技が、一際に輝いた、呼び戻し炸裂
浮いた身体は、ごろりと音をたてて地面を転がる、大きく叩きつけたそこへ
すぐに追いかけるよう良夫が踏みつける、そして上から殴りつける
容赦は一つも無い、しかし闇の鬼はどうということはないらしく

すぃー

「!!!野郎、桜子、耳をふさげっ!!!!」

「ぅえっ、っつうか、お前、あたしに命令す」

言う間にちゃんと耳塞いで鳥居の奥、社まで下がった
桜子は賢い、というか、この状況ならそりゃそうだ
口答えができるのがむしろ奇跡だろう

あああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!!!!

ぷぁっ

波動が球形に広がる
生白い光に似た空気の揺れが、波になり伝わり広がる
同時に、何人かの黒い男達は息絶えた
魂が砕けた、粉微塵になった、鬼の慟哭は人の魂では受け止められない
辺りの何もかもが、破砕され尽くす
土が砂になり、空気が水になり、雲は雪になる

「ったく、いっつもいっつも同じ表現ばかりで使う単語が無くなったじゃねぇか・・・・」

良夫が何云ってるのかわからない
鬼語なのかもしれない、それくらいその言葉はガラガラ声で形を留めていない
どちらも吼えている、がなっているとしか形容できない
どでかい声だ、言葉にもはや意味は無い気がする(・・・・。)

良夫のマウントは、ただの雄叫びで易々とひっくり返された
また距離が開いた、開かされた
闇の鬼は屁とも思っていないのか、一度の咆哮で顔を元に戻した
にじり、そして今一度良夫を睨み付ける

すわ

一旦離れていた両者だが、思い出したようにぶちかまし、そして四つへ
そこから、今度は力相撲、両者の腕は3倍にも4倍にも膨れ上がり
今にも何かが産まれそうなほど動いている
ぎじりぎじり、歯がみの音、骨の軋む音
純粋に、ただ、力と力だけの勝負だから
小細工を挟む余地がない
相撲の真骨頂、最終的に決まるのは、地力の強さだ

ずずり・・・・ずずるり

「お、圧されてるっ、バカ野郎、頑張れ良夫っ、ヘタレを返上しろっ!!!」

るせぇバカっ、わかってるから黙って隠れてろ
言いたいが、憤怒の表情、食いしばった歯は微塵も動かせない
そんな所に力を注ぐ裕福さは、初手の頃に棄ててきた
もう、既に土俵際だ、真剣勝負

ごいぃいい、ごぎぃぃいいいいぃぃ、ごぐぃいいいい

にじり合う不気味な音、見ている方の全身が岩となるほど、
二匹の鬼は力の限り踏ん張っている
しかし、その均衡も崩れ始める
全力の勝負は3分と続かない、水入りが無い以上仕方ない
全身が酸素を欲しがる、急激に増えた乳酸が蝕む

良夫が圧されていく、鳥居に片足をつっこむ

「あれ、お前鳥居くぐれるじゃん」

「よ、け、ろ」

ずり、
地滑りの轟き、良夫が声をかけた途端に
その音が社の中腹までを食い破った
電車道
そこまで一気に圧しこまれた
桜子は間一髪でかわしたのか、その場には居ない姿が見えなくなった

「ぬぐぉ・・・・・」

ぐりっ
已然、四つで組む二匹
良夫が仕掛ける、左上手を引き絞り前まわし近くまで絞り込む
一方で右腕は小さく折り畳みおっつけた
そして額を相手の胸ぐらにつけるようにして
喉元に頭を押し込む、背骨が真っ直ぐとなるように良夫はアゴを引いて
我慢の型としては、最高の形まで持ってきた

「ぬぅんっ!!!!」

良夫が力を入れ直す、ずず、わずかに押し返した
闇の鬼の顔は見えない、だが力相撲を辞めるつもりは無いらしい
あくまで正面から良夫の型を受けて尚、そのまま堪えている

社まで押し込まれたが、身体に異常が無い
神域の力が無くなってやがる・・・・・何かあったのか
良夫はようやく、考えるいとまを得た
我慢の型で少しだけ脳を動かした
位置もしっかりと確認する、目視は無理だが、おおよその見当をつける
あと、どれほど圧されたら、こいつの目的地に到達してしまうのか

「てめぇ・・・・・・・エサだけを欲しがるってのあ、鬼じゃねぇ、豚のやることだっ、誇りを失いやがって」

闇の鬼は答えない
答える脳を持たないのか、理解する脳を持たないのか
どっちにしろ酷く旧式の生き物に成り下がっているのがわかる
ただ力、力だけが総ての安い生き物に成り下がっている
怒りより産まれ、怒りの為に生きて、やがて

怒りに堪えきれなくなり自らを失う

鬼が怒りから出来ているとは
高山でさくらに会った時呟いた台詞
良夫は見知った鬼が、この闇の鬼が魂を貪る姿を
正視することができない
あまりに浅ましく、だらだらと魂を喰らい続けるそんな風にしか見えない
人の魂は美味い
しかし
美味い物を食い続ける生き物は堕落する

見るに堪えない、愉悦の表情が赦せない

「押し相撲はこれまでだ、冥土へ帰れ、六波羅まで失せろバカ野郎っ!!!」

良夫が今一度押し返しに一歩を踏み出した

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「サンっ、サンっ!!!私だ、サンっ!!!」

「ぐ、宮司様っ」

ぎぃ、祠の戸は内側からしか開けられない
サンは待っていた声に導かれ、すぐにその戸を開いた
青白い光を纏って、宮司がその入り口に見える
無事、それだけで喜びが顔から漏れる
サンの白い顔は、ようやくわずかな赤みを帯びた、死人のような顔は
相変わらず、不幸な面構えも相変わらず

「サン・・・・・よかった」

「宮司様、もう、よろしいのですね?」

ぎゅ
求めるようにサンは宮司によたれかかる
かかりながら、上目遣いに見る、端整な顔立ちが
凛々しさを緩めない、むしろ、迫るものが見える
長く切れる目の縁を追う、その影に、その造形に悲壮が見える
感覚でわかる、まだ何も済んではいない
むしろ、悪い方向へと歩み始めている

「サン、よいか、聞け」

「宮司様」

「お前はこのまま、この森づたいに逃げるのだ、京と滋賀との国境まで逃げよ」

「宮司様はどうなさいます」

「私は、ここを守らなくてはならない」

「ならば、私もお供いたしますっ」

ぎぃっ、続けて、宮司がすぐにでも
バカ呼ばわりをして叱りつける所、だが
それを解っているからか、それを許さないほど強く
サンは宮司をしかと抱き締めた、苦しめるかのように
真剣な動作は、時にその想いだけで何もかもを動かしてしまう

「サン、わからぬか、お前が生き延びてこそ意味があるのだ、ここに残ってわ」

「では、宮司様は死ぬおつもりですかっ」

「そうではない、社の為に命を張る、みすみす死ぬつもりではない、一矢報いるのみ」

「ならば同じこと、死ぬか生きるかでは、あなたは死ぬおつもりではありませんか」

「サン、聞きなさい・・・・・お前が死ぬことは、私が死ぬのとまるで意味が違う」

「違いませんっ、いえ、私にすれば、私なんかよりも遙かに重い」

「サンよ、違う、お前は神のよりしろだ、お前が居なくなれば、この社は、この邑は無くなってしまうのだ」

「宮司様・・・」

「そうだ、宮司なんて生き物は、すぐに出てくる、次は禰宜が継ぐ、禰宜が新しい禰宜を選ぶ、代々続く」

「わ、私とて・・・・・サンとて、次の、次の」

「見つかると言うのか?お前と同じ境遇の女が・・・・」

りん、、、、、
水がしたたり、たまりに落ちた
ここだけは音が静かだ、他方での良夫の大相撲大会なんぞ
感じることすらできない、荘厳はただ、荘厳を守り続けている
サンは押し黙った、代々受け継がれる巫女「サン」
引き継ぐ娘が、なぜいつも一人だけ、身寄りもなく現れるのか

作っているからにキマっている

今は、まだ作る段が出来ていない、今のサンが若いから用意をしていない
人族でも直系の由緒或る血筋の娘を見つけ
その親を、親族を、四に関わる親等を総て殺し尽くし
初めて出来上がる、おぼこい娘、怒りを、理由を、哀しみを何も知らず、鬼になることも許されず
ただその身の上の不幸が蝕み巣喰った躰と心
それが神に捧げられる、選ばれた巫女、舞女

代々のサンは、本来名家の娘だ、現存の帝により近い血筋の娘ばかりだ
この秘密は宮司と禰宜以外は知らない、総ては社の中だけで行われ
社の中だけで完結する、不健康で理不尽で道理の敵わぬ世界の申し合わせ
このサンはその話を知らない、しかし、うすうす気付いている開けてはならぬ扉と解っている

「よいか、サン、私の死を無駄にするな、お前は生き続けねばならぬ」

「しかし、私は出来損ないです、神をおろせぬ、神をおろせぬ身で・・・・」

「そんなことは・・・・・・・・・・・仕上げは近い」

「しあげ?」

宮司はそれだけ言うと立ち上がった、すると振り返る
ぱたぱたと駆けてくる音を聞きつけてのことだ
サンの疑問には答えず、その足音の主を伺う
おおかた解っている

「いやがったわねっ」

「来たな、ちょうどいいバカ娘」

「だれが、バカかっ!!!」

くぁっ
桜子が牽制する、なんというか動物くさい威嚇だが
産まれも育ちもそうなのだから目をつむろう
ともかく、蒼い宮司の前に相変わらず琥珀の瞳はれいれいと輝いている

「金、払うだけ持ってんでしょうね?」

「倒してないではないか」

「見てなかったの?ちゃんと斬ったわよ、まっぷたつに」

「話にならん、今まさに動いているアレは、なんだ」

「あれは良夫の遊び相手よ、それよか、あんた報酬無しじゃ、あたしゃ働かないわよ」

桜子がでかい声で金ばかりを無心する
宮司は別に気にした風でもない、ただ
桜子に喋らせたいだけ喋らせている

「サン、よいか、このバカ娘が代わりになる、その間に、よいな」

「!!そんなっ」

「ちょうどいいんだ、何もかもが」

「ああ?何云ってんだお前わ、あたしを外して話を進めるな」

ゥゥン・・・・・・・
振動が近づいてくる、ちぃ、桜子が小さく舌打ちをする
思った以上に早いところここまで圧されてくるな、あのバカじゃ限界か
少ない脳味噌がはじき出す打算を色々考えている
桜子の思考回路内では、こうなってる
「ここで報酬の値上げをしておいてから、一気に鬼を叩き斬る」
桜子の脳内では、絶対に斬れると判断されている、ただ、それを賭けるだけの意味があるか
それをここに問いただしにきてる、ゥゥゥゥンン・・・・・・また、振動が一つ近づいた

「ほらほら、近づいてきたわよ、恐怖でちびりそうでしょう、あたしにすがるしかないのよぅ」

にたにた
桜子は品のない顔つきで、精一杯に脅しかけている
正直滑稽を通り越えて、薄ら寒い、なんだこの空気を読めないバカは
宮司は冷たくそう思う、このような程度の低さでは身代わりとするのも
勿体ない、そうやって素で思っている
かりそめにもサンの血を引き、身代わりとするには充分の素体を持つとはいえ、浅まし過ぎる

「・・・・・・・・金はあそこだ、宝物庫に社の総てが寝かせてある、斬ったらお前のものだ」

「宝物♪・・・マジでっ!!!はっ、そりゃ頂きよっ、目ん玉かっぽじってよおぉーく見てなさい」

目はかっぽじったら、大変なことになるからやってはいけない
宮司とサンは思ったが、つっこみもしない
それより先に三度目の余震、今度はでかい
ぐらりと、この祠の領域までもが揺れた

ちゃぃんっ
桜子が一等大きな音で太刀を取った
その宝物庫に寝かせてあった品だ、よく斬れそうな気がする
にまにまと笑い、それが波紋に映る
庫から出てくる、まだ不可解に二人は棒立ちしている
桜子が声がけする、総ての利害が、温情が、物語がこれで解決へ向かう

「宝は確かに♪」

「・・・・・・・・・」

「ところでなぁ、お前ら逃げる必要があるんだろう」

「!」

「いいよ、鬼は余裕だ、その後のうちのおとうちゃんはあたしが止める、その間にお前ら二人で逃げたいんだろ」

「小娘貴様・・・・・・」

「うるさい、ハゲ、お前じゃない、不幸女、お前の方に聞いてんだ、二人で逃げたいんだろう」

「さ、桜子さん・・・・・・は、はいっ!」

とんっ、大きな思い切りが
祠を撫でた、わんわんと音は反復して不思議な音響となる
宮司は一人、面白くなさそうな顔で、目で、桜子を睨み付けている
罠だと勘ぐっている、未だに、桜子という小娘を信用はおろか
人として扱おうとしない

「貴様、何を考えている」

「別に、今宝見たらたくさんあったから、あたしがわざわざ骨折ってあげようって言ってんのよ、つべこべ言わずイケよ」

きぃ、桜子が太刀のデキを確かめている
黄金作りで見事なサヤ、柄、鍔、刃は宮司と同じような独特の蒼を帯びている
どこか重たく、冷たく、鈍く光っている
どれほど前から生きているのか、どれだけの何を斬ってきたのかわからないが
ぞくぞくと、持ち手に何かを訴えかける肌を持っている

「意味がわからんな、貴様を信用する道理がまるで」

「だから、お前に言ってんじゃないって何度・・・・・るさいな、そういう理屈ばって融通のきかない男は一番ダメだっ」

「バカが小難しい言葉を使うなっ」

「あー、そうかよ、人が折角気をきかせてやったっつうのに、あたしは本当に余裕であの鬼を斬るからな
そうしたらおとうちゃんとか来て、それこそ大変になんだぞ、わかってんのか?
お前らが考えてるってのは、あたしがやられて、お前もやられて男と女が原形留めないほどここで倒れていたら
その不幸女は死んだと思われるとか打算だろう、バカじゃねぇの、あたしが死ぬかっつうのっ、例え・・・」

きぃんっ
刀が鳴った、一度大きく振ったのだ、桜子が大見得を切る

「お前が、あたしを殺そうとしてもだ」

凄みがある、何より、頭が良さそうだ
この時点でこの桜子をみくびるコトは命を左右すると考えられる
宮司はそこまで思った、面影が、言動が、声色が
似ている、忌み嫌ったあの女に似ている
だから警鐘が鳴る、危険だと訴えてやまない

「・・・・・・・さ、サン様・・・・の、声・・・・・」

「違うっ!!サンはお前だ、しっかりせんかっ」

びくっ
宮司が何に苛立つのか、サンを叱責する
ぎぃっ、なぜか睨み付ける、もうどうしようもないほど
この男の中で、桜子の中に流れる血、いや、それに纏わる人々総てが憎い
そういうことなんだろう、相容れぬ存在というのは必ずある
そして、桜子も当然思ってる、こいつ嫌いで鬱陶しい
それでも生かしてやろうと考えた、理由は簡単だ

母を知る女が必要としてる

結局、桜子も人の子、いや、もっと純粋に子供なのだ
複雑に入り組んだこの邑の呪われた習わしや、母を殺された怨念
自分を棄てた憤懣、今浴びせかけられる侮蔑に対する憤怒
桜子がバカなりに感じていることを、総て押し黙ってまで
母を知るというだけの女を生かしたいと動いた

「なんで、お前はわからないかなっ、早く行けつったらイケよっ!!!!」

ずごあああっっっ!!!!

「!!!!!鬼っ」

「ほら、来ちゃったじゃないかっ」

すあんっ、桜子が蒼い光をほとばしらせて
その方向へと敵意を向けた
宮司は衝撃に対して、反射的にサンを庇っている
その様子は結局、桜子に初心を貫かせるに充分の動機となる
バカで大嫌いでどうしようもない奴だが
生かさないといけない奴にとって、要る奴なんだ
桜子なりの我慢が入る、ずごぁずごぁああっ、壁が崩れ出す、鬼が二匹じりじりと迫ってくる
良夫の全身からは凄まじい湯気が立ち上っている、相手も同じようなものだ

「汗くさい良夫っ!!!!」

「はぁはぁっ・・・・・るせぇっ、どこ行ってやがんだお前わっ」

どだだだだだっ、桜子が駆けていく
大きさのまるで違う二匹のもとへと、刀を一本で走り込んでいく
後目に見えた、ようやくあのバカが二人、視界から消えるのが

「宮司様っ、桜子様に従いましょうっ、桜子様ならなんとかしてくださいますっ」

「しかし、・・・・・・」

「宮司様っ!!!桜子様の気持ちを汲んであげてくださいっ、あの子は、あの子は、母親を邑に殺されたと知ってもなお、邑の為に・・・」

ぽろ、サンが涙をこぼす
杉の根元が静かに濡れていく
宮司はぎゅっとそれを抱く、そして歩みを始める
ようやくようやく従う、だが、心内は相容れないままだ
恨み言を、とてもうれしそうな顔で呟く

「ふんっ、親の仇にこのような情けをかける時点、あれは親の情や義を解さぬ、獣に劣る生き物だということだ」

「ぐ、宮司様っ!!!!何を、そんなことっ」

「確かに、獣に私をハメようなどという智恵が備わるわけがない、これは千載一遇だ、神が与えた機会だ、急ごうサンっ、神の導きだ」

「宮司様、あなた、本当に、本気でそのような」

「当たり前だ、サン、お前は神に代わるほどの器だ、お前を生かす為には神は幾つでも奇跡を用意するのだ、さぁ」

「・・・・・・・・・・」

「私としたことが気付くのが遅れた、そうだよ、お前を守る為に神は天より様々な力を及ぼされるのだ」

サンは、初めて桜子の言った
役に立たないバカな男
の意味を理解した、だが、理解したがそれでもこの男を好いている自分を知っている
仕方がないのだ、本当は、とうの昔から解っていたのだ
この男が守りたいのは、自分ではなくサンという、空想の器であり、巫女であり
それを守ることでしか、自尊心を満たせぬ、とても弱々しい男だというコト
いつも見せている姿、真摯な態度も全てそこに至ること
だが、それ故に愛おしいと感じた、この狂い狂った歯車が、哀れに見えて愛おしいのだ

「許してください、先代様っ・・・さくらこさま・・・・どうか、ご無事で・・・・・」

不幸の女は
祈りという安い代償で
静かにそこを落ちた、後ろでは大きな音がしている
音は責めるようではない、ただ、守るように鳴っているのがわかる
わかるだけに

不幸の女の涙は止まらない

つぎ

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相撲のところは
思いっくそ
ああ播磨灘
参照してますが、気にしないでください
好きなんです

駄文長々失礼しております