斬り


村人は逃げまどっていた
すでにその情報が伝わった後らしく
わらわらと右往左往しながら、大事なものを抱えて
桜子達と逆の方向へとなだれこんでいく
宮の域なら、安全だと、皆が知っているのだ
仕方在るまい、混乱が予想されるが
そんなのはこの三人には関係がない、悠然と歩いていく桜子
ちょっとかっこいいぞ

「なぁ、桜子、お前、勝算」

「あるにキマってんじゃない、もう何度鬼相手してると思ってんのよ」

「いや、二回くらいじゃねぇか、しかも、俺とさくらだろ、全然・・・」

ばちこんっ
とりあえずぶん殴って、身体の調子を確かめる
だいぶ具合はいいらしい、勝ち気な表情が
ありありと自信をあらわしている
この娘、今晩はやる気だ、本気だ

「なんていうかな、あんたにはわかんないでしょうけど、夢を見たのよ」

「夢?」

「そうよ、得体の知れないどでかい鬼を、ばちーんっとあたしが横薙ぎに一閃するのよ
するとどうでしょう、鬼の左腕が肩から吹っ飛びました、さらに戻りの太刀で胴をまっぷたつ
泣いてすがる鬼は後悔してやまなかったのよ、まぁ、ステキ、流石鬼斬り様っ♪」

「お前、その歳でよく恥ずかしくもなく夢に酔えるな・・・」

「歳は関係無いわよ、歳わっ」

ごいんっ
またどつく、猫は苦笑しながらついてくる
どつかれた鬼はいつもの顔を作っている、作っている、自動詞
夢と言われた事象の半分は事実だ、どこかで覚えているんだろう
それに実際、あの鬼殺しの親玉と同じ色の瞳が顕れた
これはひょっとするのかもしれない

「さ、正面から叩き斬るわ、なんとなく、あたし、今夜はやれる気がするし」

「いや、お前いつもそういう気じゃねぇか、何今更」

「お黙り、あんたらはしっかり、あたしのサポートすりゃいいのよ、わかってて?」

しとしとしと
言われる頃に、一つ足音が人のものでなくなっていた
猫がその姿になった、夜になりあたりは暗い、人間どもは
ことごとく逃げていくので三人に気を遣らない
だから、猫も平然と姿を晒したようだ

「わかってますよ、精一杯応援させて頂きます」

「よしなに」

桜子が随分と気をよくして、ねこと歩く
良夫が戸惑った顔をしてついていく
いや、顔だけじゃない、戸惑った声が出た

「・・・・猫又、桜子を頼む」

「??なに云ってんですか」

「ん、鬼はお前らに任せた、黒い奴らも来てるみたいだ、俺ぁそっち行く」

「マジで?」

桜子が振り返って止まった
ちょうど邑の出口だ
桜子にはちっともそれがわからない、だが良夫は敏感に悟った風だ

「あんた一人で大丈夫?」

「まかせろ、俺ぁこう見えて鬼だぜ」

「相手は鬼殺しよ、うちのおとうちゃんよ、うちに勝てないのに勝てるわけがないわよ」

「勝つとか負けるとかじゃねぇだろう、お前が親父に会えるようにすりゃいいんだから、待ってろって言うだけさ」

そういうことだったかしらん
桜子はちょっと考えるが、とりあえず一刻も早く鬼を斬ってしまう必要があると決断
そっちは良夫にまかせることにして、猫を連れて森の方へと入っていく
一度だけ振り返る、良夫がぴらぴらと手をふっている
桜子はそれを見ると何も言わずにすぐに前を向いた
何かに怒っている風だ、猫が気付く

「・・・・・・・・・どうしました、浮かないですよ」

「ううん、なんでも・・・・・・・・・・・・手を振るのってさ、なんか、別れの挨拶みたいできらい」

さくさくさく
土をならして、桜子が森に消えた
良夫ももう邑の出口には居ない
鬼は森の中に、黒い軍は里の街道に

「宮司様」

「サン、奥に隠れていろ、祠に居なさい、社の中ですら危険だ、邑人の言うことは気にするな」

「・・・・・そうではなくて、あの、桜子さんが・・・」

「バカ女はほっておけばいい、今までだってそうして来たんだ、好きなようにさせよう」

「ですが」

「くどい、私は邑とお前を守らなくてはならない、よそ者のコトまで関わってられんのだ」

「桜子さんはよそ者じゃないです、それに、邑の為に」

「それもどうだかわからん、父親が攻めてきているのだ、あいつが手引きしたとしか思えん」

「そんなこと」

「いいから、祠に隠れていなさい、あそこなら誰もいかない、私以外は近づかないから、さぁ」

宮司は忙しそうにあれこれと仕度をしていた
禰宜の声がところどころから罵声として聞こえてくる
社に格納する村人と戦える人間を選別する必要がある
守るためには闘う必要がある
それを徹底させなくてはならない
闘う以外に方法がないと知らしめる必要がある

「サンを生け贄などに出せるか・・・・・神の巫女を守らずして、なんの宮司か」

宮司は一人で小さく呟いた
目にはあいかわらず余裕がない、それでもただ
全身から漏れる荘厳さは失われることがない、むしろ
鋭さが加わり、より、威圧感を持つようになってきた
この宮司も何代目だかわからない継承者だ
ただ、ここに伝わる10代の間では、もっとも強く、正しいと評判だ
実力は確かに高い

かたくなに、弱り切った邑と社を守ることに全てを尽くしている

先代のサンの頃から宮司をしている
先代のサンとはあまり話をしなかった
なぜだかはわからない、歳が離れていたせいかもしれない
なんとなく、巫女にそぐわない人だと思っていたのかもしれない
娘をみごもった時に、少なからず、軽蔑を催した
巫女を汚した、この社の巫女を汚したのだ
彼女が巫女なのだが、巫女の器を汚したコト、そういう風にしか考えられない
おそらく彼女のコトを巫女とは認めていなかったせいだろう
すんなりと、今のサンに地位は移ったが、あまりにも軽々しく
そして相手が、とんでもないロクデナシだった

その子供を生かしておくことはできない

そう思ったが、今のサンが娘をかばって
記憶を失い外へ出すということで全てを集束させた
集束ではない、終局のはずだった
だが、今、またも災難はやってきた、整えられたようにして
娘が送り込まれ、鬼が出て、伊勢の宮が攻めてきた
赦せない

「禰宜、選別はできたか」

「はい、およそは揃えました、ただ・・・」

「まぁ、お前が言ってまわってもな、いい、私が出よう」

「おそれいります」

生意気ざかりの子供にしか見えない禰宜が
苦笑いで広間へと案内する
宮司の瞳に迷いはない、村人からの声が、想いが届く
だが、それには決して答えない
何度でも否定する、し続ける

「サンを生け贄には出さない、出すことに意味はないのだ、あの時と状況が違うのだ」

「そったらこと言っても、宮司様っ、前ん時も巫女が喰われたら鬼が」

「あの時、あの人はもう巫女ではなかった、鬼殺しの妾だったのだ、だから狙われたのだ」

「そうだとせれども、今回は、ほやたら」

「伊勢の軍も来ているのだ、それにさきほどまで、先代サンの娘が居た」

「娘!?・・・・あの忌み子がっ、なにしに、仕返しか」

「静まりなさい、今、その娘は鬼の所へ行った、鬼を斬るなどと言ってな」

「どういうつもりで・・・・まさか、もともと敵で・・・」

「そうかもしれぬ、だが、幸い外に出たのは確かだ、今大切なのは、向かってくる敵から邑を守ることだ」

「ほだら」

「そうだ、さぁ、禰宜によって選ばれたであろう、闘うのだ、闘うことでしか打開できぬ問題だ、行くぞ」

ざわざわざわ
村人の間から動揺は消えない、むしろ色が強まった
少々は仕方がない、だが、サンへ向ける憎悪は薄まった
消えてはいないが

なんとかうまく、あのバカ娘に向けさせるのも手かもしれぬ

そんなコトを思う宮司
禰宜が具足をそれぞれに渡していく、整える
無理矢理にでも準備をさせる、時が近いと
宮司は焦っている、巫女は祠にこもっている
邑は窮地に立っている
だが、それでも攻撃を持って守ることを選んだ、邑からその気配だけは漏れている

「鬼が居る?・・・・・桜子のツレか」

「いえ、でなくて鈴鹿に棲むという・・・・・・・もしや、守護様のかた」

「お前はよけいなコトを喋るね」

「し、つれいしました」

「そうだな、失礼だった、謹んでもらおう」

守護の軍はゆっくりと、堂々と街道を歩いている
里へじっくりと向かっている、伊勢から直々に命令を受けている
神の降りる巫女を消滅させること
伊勢の宮では、神をおろせない巫女というのはフリだと勘ぐっている
どうあっても、伊勢以外に神と近づく社を存在させてはならない
そういうことなんだそうだ
鬼殺しにはなんら興味もない話だ、だが帝と親しい側である以上
命令に背くわけにはいかない

「よし、一旦停止、ここらで休息だ、隊列乱さず休憩せい」

ざわ、
一瞬緊張が弛んだ、軍は静かに待機の姿勢をとった
鬼殺しの声はよく通る、守護職代の地位は人を作った
ただのバカがずいぶんと立派に出世したのだ

「鬼が出たか・・・・・そうか・・・・・」

ぶぅ、
でかい屁の音がしたが、軍は一人も笑わない
軍規が厳しい?違う、慣れているだけだ(ぉぃ
鬼殺しは、前を見る、黄色い瞳がじっと見透かしていく
向かってくる鬼を見ている
桜子のツレの奴か、弱いな

この男の思考は、常に乱れている
深く考えている時は実に仔細なまでの策略をめぐらすが
浅く考えている時は全て適当になってしまう
性格にムラがあるというと聞こえがいいが、先天性の病気のようなものらしい
黄色い瞳のせい、どこかで混じった異形の血のせいだと
今では自覚するようになっている

バカだと言われてもとりたてて腹が立たない
利用されていようとも、あまり気にならない
時折自分が、何をしたいのかわからなくなる

軍のトップに立たせるにはあまりにも危険な内面だが
異常な強さと強烈なカリスマが、彼をそこにさせている
今、この男は、利用されて伊勢の巫女と出会ったことを知っている
知った時に怒りは覚えなかった
どうしてかはわからないが、正妻と子供が無事ならそれでかまわなかった
気がかりは、その子供の瞳が両方とも漆黒であることだけだった
過去形だ、今ではもう一つ増えた

「・・・・・・・・・娘か」

「何か、問題があったのでありますか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが、参ったなと思ってさ」

「参る、とは?」

嫌いな息子より歳が上だから、俺がその気になったらあの娘に継がせることができんだよ
バカだが、流石にそんな悩みはうち明けなかった
不思議そうな顔をして、答えを待つ若い兵に
にまりと笑って適当を言う

「あれだ、俺に似てると屁の音がでかいだろうなぁってな」

「それは、なんとも魅力的であります」

「お前はバカか」

「いえ、元気な女性が好きなだけであります」

「ん、返事はいいし元気もいいが、うちの娘はお前にはやらん」

若い兵は笑って持ち場に戻っていった
やれやれとまた、物思いにふける
非常にやっかいな問題を抱えてしまった
少し話しただけだが、随分いい人柄を出してた
自分に似たな、違いない
ちょっと親バカしてるが、まぁ、おおむね悪い印象は持っていない
それを考えると、どうしたものかとまた考えてしまう
しかし、考えるのにも飽きた、そろそろ答えを出そう

「そうだな、今日、連れて帰るか、したらなんか変わるかもしれん」

とん、膝を叩いて立ち上がった
気付いたのか軍の連中も立ち上がる
一度ぐるりと全体を見回して
男は声を上げる

「もう一つ任務を追加する、鬼斬りを名乗る娘と出会った場合、生かして捕縛せよ、俺の前に連れてこい」

全軍は黒い目をしてそれを聞いていた
黒い甲冑は黙って、音もたてずにそれを吸い込んだ
がちゃり、少しして一つ音がする
続いて、がざん、と具足の音が揃って鳴った
また行軍が始まる、良夫の姿はまだ見えていない
黒い絨毯は静かに街道を進む
やがて見えてくる杜へと姿を沈めていく、わずかながら敵意を感じている
杜の中から向けられる敵意に、全員が意識を集中する

この軍は強い

「展開が安っぽいのよね、いつものことだけどさ」

「いきなり、なんの話ですか」

「いや、なんのと言われてもね・・・・・」

桜子が猫又と色々世間話をしながら
もくもくと森の中を進んでいく
鬼の居場所がまるで解っているような足取りだが、残念ながら
何一つ手がかりはない、それでも、何か自信は揺らがない
必ず鬼は、自分の目の前に現れると信じてやまないらしい
猫又は、疑問とも思わず、にこにこしながら桜子についている
ただ、彼は賢い
黙ってついているわけではない、遣いを出している
幾匹かの猫が、森の中を走り回っている
それが、逐一猫又に状況を報告している、その上で今進んでいる方向を
正しいと解釈している

確実に鬼に、鬼斬りは近づいている
どういった具合かわからないが、惹かれ会うようにして
全く摩擦のないまま、無駄のないまま、じりじりとその距離を縮めているらしい

「近いようです、桜子さん」

「トイレ?」

「違いますよ」

「わかってるわよ、なんとなく見える、見えるとは違うな、感じる、そんなトコ」

きん、金属音がして刀が姿をさらした
久しぶりの戦闘態勢、どれくらいぶりか忘れるほど
自分の正装に懐かしさを感じている
桜子の足取りは軽い、遠足のような気分すらしている
心持ちが、明らかに違っている
今日は斬れる、間違いなく斬れる、鬼をようやく斬ることができる

心の中にはそればかりが繰り広がる
一つだけ気がかりなのか
時折、良夫の顔が浮かんでは消えたりするくらいだ

なぜだかは解らない、解るわけがない

ただ、鬼を斬って

「一刻も早く合流した方がいいよね」

「さて、そううまくいきますか・・・・・・・・・援護、しますよ」

「よしなに」

ぱぁっ
声に合わせて夜の闇に紅蓮の炎が舞い上がる
猫又から炎が駆ける、炎の猫が何十匹も駆け回る
暗い森に浮かび上がる、大きな影
岩と見紛うほどの隆々とした姿
既に何匹かの猫は喰われたらしい、血を浴びている
それを見る猫又の目は、容赦なく鋭い

鬼が出た

桜子は、狼狽えない

この日、空に月が無かった

全てが始まるこの夜は、真っ暗だったのだ、闇ばかりが謳歌する夜だったのだ

つぎ

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何を書いているのか
もう、勘で書いているので
大変申し訳ございません
なんとか一刻も早く終わらせようと
そういう展開だと思って頂きたく思っています

自分で書いている最中に弱音を吐くのは
決して赦されることじゃありませんが
なんとしても、どうにか形だけはつけようと鋭意がんばりますので

今暫く、おつき合いください

駄文、大変長々申し訳ございません