斬り


神の宮は2つ要らない

全国にいくつも神社はあるが
本当の「神宮」というのは、伊勢神宮のみだ
それ以外は違う、偽物とはいわないが格が下がる
唯一神信仰ではない、が、序列は大切なのだ
出雲大社は所詮、大きな集会場
熱田神宮は所詮、ニワトリ小屋
明治神宮は所詮、ヤクルトの本拠地
その程度なのだ
どれもこれも、伊勢神宮には敵わない

そうやって、帝が決めたから、それ以外はされるべくして従属している

帝が玉を、伊勢が鏡を、熱田が剣を
それ以降、続いて別れていく社の序列
その中に加わらない神社は、ことごとく潰された
帝の名の下に潰された、存在自体を抹消された
どれもこれも、帝の威厳と伊勢の神秘性を高める為の行為だ

帝の世の中に、伊勢を越える神の宮を存在させてはならない
それが帝の安泰と太平の世を作る、第一にしなくてはならないこと

それが自然とされる世の中で
桜子の育った邑は、異端で、危険だと判断された
その社は、伊勢と並ぶほど巨大な、しかし
帝と関わりのない神が宿る地だった、だから

潰さなくてはならない

「お前も各地に妾を囲ったりしたいだろう、土地を掴む為にも便利だから、伊勢にも一人作りなさい」

「御意」

帝の近衛が、おばちゃんみたいな口調で言ったのがハジマリだった
近衛は苦心して様々な計略を考えた、仕掛ける相手も選ぶ必要があった
帝の権威を汚すわけにはいかない、使い勝手の良い輩が必要だ・・・
琥珀の目を持つ、黒い異形は帝に仕える身
命を受けたから、男は早速、この邑の巫女と通じた
男は無論、巫女と通じることで社を潰すこととなるとは
聞かされていなかった、ただ

「あんた、いい女だな」

「なによいきなり、百年早いわよ」

「俺の女になれ」

「・・・・・・・帰れ」

「あ、う、嘘です、マジなんです、本当、すっげぇ一目惚れなんです、お願いです、付き合ってください
日記とか交換してください、ケータイの番号とかください、お願いだから、マジだからっ、後生ですからぁっ」

・・・・・。
かくして、本気で泣き落としで三日三晩拝み倒し、念願かなって
無事(?)、男は巫女を籠絡した
実際の所、かなりいい女の様子で、男は随分入れ込んだ
入れ込んだおかげで子供もできた、手が早い
国元に正妻が居たが、子供ができていなかったので
この妾の子供は、好ましいものと思われた
その後、男は順調に鬼殺しとしての仕事を遂行していき
都と全国とを行ったり来たり、時折伊勢にも顔を出し、神宮のついでに
妾の所に寄るというコトが続いていた

まぁ、その頃には全国津々浦々に
そういう女を囲い始めていたので、正直
伊勢の女をそれほど特別とも思わないようになっていた
男なんて、そんな生き物だ、全国の婦女子は注意されたし(なんだよ)
正妻との間にも子供ができた、黒い瞳は気になったが嫡男ができた

さておき当然、身ごもり、子供を産んだ巫女は巫女を辞める必要がある
男との間にできた娘が産まれたため、次の女と巫女の役目を取り替わった
サンという名前は、この宮における最高位の巫女の継承する名前だ
だから、この女の名前もサンと言う
先代サンは、娘と共に暫く、宮の中にある家に住むこととなった

「おかぁちゃん、うちのお父ちゃんてどんな人なん?」

「鬼を殺す人よ」

「鬼殺すん、鬼って悪い奴なの」

「鬼は悪いね、人間の魂を喰らうから、それを懲らしめるのがお父ちゃんの仕事なのよ」

「立派なの?」

「立派だね、馬鹿だけど」

「馬鹿なの?やだな、頭悪い男って」

「いい?女にとって一番いいのは、バカな男なんだよ」

からからから
先代サンは娘に言い聞かせては大きな声で笑っていた
娘も随分と大きくなっていた、しばらく姿を見せなかった男は
ふらりと帰ってきた

「・・・・・・・随分、久しぶりじゃない」

「ああ、そうだな・・・・・・」

「・・・・・・」

ぎゅ、先代サンの衣服を掴んで
娘は後ろにさっと隠れた、男を警戒している様子だ
見て、納得したのか、安心させるためなのか
優しい口調は娘に諭す

「あっはっは、これがお父ちゃんだよ、大丈夫、見た目ちょっと危ないけど中身は違う意味で危ないから」

「だいじょうぶの意味がわかんないよ、おかあちゃん」

「それよか、何、その瓶」

指指す先には、男がでかい瓶を抱えている
明らかに不審だが、この男には妙に似合う

「おう、鬼除けだ、鬼はなぜかこの瓶には手を出せない優れ物だ」

「またまた、あんた馬鹿だから、そういう紛いもん商法で掴まされて、宗教関係のツボと一緒じゃない」

「あ、アホぬかせっ、お前な・・・・ったく、真面目な話、最近な、俺ぁ随分有名になったからか
鬼が狙ってきやがるんだ、その為にだなぁ」

「・・・・・・それで、あんた寝る時その瓶の中に入ってるの?」

「入るか馬鹿野郎、これはお前らに危害が及びそうになったらだなぁ、中でやり過ごせって」

からからからから
真面目な顔して喋る男の言葉に、また、先代サンが大笑いする
どこでそういうのに捕まるのか知らないけど、まったくしょうのない馬鹿だねぇ
とかそういう感じで、必死に男は説明をするが、説明すればするほど
訪問販売員のようにしか見えない、この時娘は一つ、物事を悟る

馬鹿な男を捕まえると人生は楽しい

立派な女の意見だ
ま、それはさておき、そんな珍事というか訪問があった
鬼が男を狙っているのは本当らしい
それで、ひょっとしたら危害が及ぶかもしれないのも本当だろうと
娘は思った

「おかあちゃん」

「あんだい」

「おかあちゃんが鬼に襲われないようにするには、あの馬鹿な男と別れる必要があると思うの」

「いけしゃぁしゃぁと、ステキな意見を言う子だねぇ」

「違うのよ、あたしも女だからわかるのよ、男なんて、なんていうかほら、そうじゃない、だからこそ」

「何云ってるかわかんないけど、そうだねぇ、それなら、アレだよ、あの男の分くらいの稼ぎがないと」

「お金が要るの?」

「そう、馬鹿だけど給金はいいから、仕送りが多いんだよ、お前も私も、男という金蔓で生活してるのよ」

「そうなんだ」

「そう、お前も早くいい男見つけるといいよ、いい男っていうのは・・・」

「馬鹿で、金持ってくる男だね」

からからからから
先代サンの笑い声は、いつになく大きかった
狭い部屋には、大きな瓶が置かれた、暫くして
梅干しをつけ込んだりしたが、穴が空いて使えなくなった
でかいばっかりで役に立たない、まったく困ったもんだよ
そのまま、アンティークとして飾りになった

邑は静かだった
世間とやや離れている
いや、世間と言われる里が、「伊勢の神宮」の向こうにあるせいで
往来がほとんど無い、「伊勢」のおかげで、この邑は隔絶されていると言っても過言ではない
宮司や禰宜は、代々この邑の宮を守り続けている
巫女は、舞女として神のよりしろとなる
この邑には、本当の神が降りる、この事実が

瓶をアンティークで終わらせなかった

ある夜、突如涌いた
荒れ狂う邪気が家を壊し社を潰し
宮へと侵入してきた
神域を犯し、なお、原形を留める強さがあった

鬼だ、鬼が来た

鬼の目的は、鬼殺しの妾を喰らうこと
名うての鬼は、鬼殺しによって大きく傷ついていた
怒り狂い、傷を癒すため、人を喰らう必要がある
まだ治りきらない傷口からは、だらだらとおびただしい液体が流れる
鬼の血が流れる、よどみが広がるように
村人を何人も喰った、その度に傷口から桜の花びらが散る

まだ足りない

妾を目指す鬼
狼狽える男、逃げまどう女
かきわけるようにして、人型のケダモノは
小屋にやってきた

「お、お、お、おかぁちゃんっ」

泣き叫ぶ娘を瓶に詰め込んだ
瓶の力なんてのはどう考えても嘘だろうと思ってたが
こうなっては、逃がしている暇もない
妾は娘を隠した、そして

「喰われた・・・・・のか」

言ったのは猫又だ
清聴が終わりを告げる
サンは桜子の顔を見る
桜子は、戸惑う表情を見せる

「どこまで信じたらいいかわかってないのね」

「そ、そういう・・・・んだけど、うん・・・」

「でも、本当に重要なのは鬼が先代を喰らったことよりも、そうし向けた帝の方よ」

舞女は話を続ける合間も
お茶を給仕している、食卓はすっかりがらんとしている
食べ尽くした、特に桜子が
まぁ、それはそれとして

「最初に言ったみたく、帝が、お伊勢さんがね、この邑を畏れてるの、だから先代を襲わせたの」

「じゃぁ、桜子さんの仇は鬼よりもむしろ・・・」

「・・・・・そんなのは、どうだっていいのよ」

猫又が言い切る前に
桜子はばっさりと否定した

「あたしは鬼を斬って、お金持ちになるの、しあわせなせいかつがまってるの」

「いや、でも、ほらお金が要るってのは、お母さんを・・・・」

きぃっ
桜子がきつい視線で猫又を睨み付ける
こうなると猫又は弱い、すぐに次の話題への転換を謀ろうと目が泳ぐ
舞女は桜子を見る、在りし日の先代の影を探している

「でも、おかしくないですか?その時すでに、代替わりしてたんだから、あなたの方が狙われるのでは」

「そういやそうね、なんで?」

猫のキラーパスが光る
狼狽える様子はないが、舞女は黙っている
桜子がじっと女を見る、嘘をついているんじゃないかと疑っている
むしろ、母を殺したのがこの邑ではないかとも思っている

「・・・・・・・私は、先代と違って、神を宿せないの、だからよ」

力のない笑顔が絞り出すように言った
舞女の風情は、薄倖を極める
この邑の巫女として、神のよりしろになれないことは、つまり
そこまで解れば、それ以上聞くことはできなかった
宅がしんみりしてくる、想像以上にこの娘はこの邑で辛いはずだ
憐れみがなんとなく視線に顕れた、それに気付いた舞女は続ける

「あ、でも・・・・・そんなに、不幸というわけではないんですよ」

「その口振り、声色、顔つき全てが不幸の女よ、あんた」

「それは生まれつきですから・・・・、それに身寄りが無い私がここに居させて貰えてるわけですし」

舞女が懸命でもないが、弁明をしている
曰く、巫女は誰の血筋とわからない女が代々引き継ぐものらしい
そういう意味で、先代も孤児だったらしく
その跡を継いだのが、実の娘ではなく、ただのお手伝いのようにして生かされていた彼女だったのも道理

「そういうもんか・・・・・・・ふーん、お通みたいよね」

「じゃぁ、やっぱり薄倖ですね」

「いや、だから今、違うって話したんですけど」

猫又と舞女の言葉遣いがかぶるから、判別つけがたいが
冷静なつっこみを入れたのが舞女の方だ
4杯目のお茶が注がれる、顔が少し和んだ様子で、舞女はさらにつづけた

「でも、宮司様が随分と優しくしてくれるから、それだけで随分幸せなんです、なんですよ」

さらっと言った言葉は
話の流れから、つられて出たような拍子だった
はっと、言った後に自分がどうしたか気付いたのか
一気に顔を赤くさせ、羞恥を帯びた様子だ
確かに見ている分には、彼女なりの幸せがあるらしいが

「バカじゃねぇの」

「桜子さん・・・・・乙女的な喜びを理解してあげましょうよ」

「明らかにダマされてるわよ、さっきのあたしに対する仕打ちから考えて
あんな男とは別れておしまいっ、バカはバカでも、使えないバカとは一刻も早くっ!」

「お、おかあさんみたいな口調で怒らないでください、宮司様はそんなじゃありませんっ」

「いや、舞女さんも逆らう家出少女節になってますし、というか、ほら落ち着いて茶が・・・」

なだめる猫又の声で
五杯目が注ぎ直される
こほん、と、一つ咳を置いて舞女はまた席についた
少し頬が紅潮しているのは、恥ずかしさもあるんだろうが
随分、うれしそうでもある、多分、他の村人とは決して話すことが無いのだろう
久しぶりの来客が嬉しいのかもしれない

「というかくだらないノロケ話はおいといて、ちょっと待って、なんであたしは食べられなかったの?」

「くだらなくありませんっ」

「瓶の力じゃないですか?」

「瓶は割られたのを、あたしゃ覚えてるわ、っていうか、思い出したわ、鬼の顔は忘れたけど見た」

座がぴたりと止まった
舞女は、そのことについてはわからない
実際、発見された時、ぐにゃぐにゃにへたれた娘は
だらしなく、割れた瓶の中に放置されていたのだ
鬼がどうしたのかは、誰にもわからない

「多分、巫女を喰ったことで力が補填されたんだよ、神のよりしろになるくらいだ、充分すぎる力だったんだろうよ」

良夫が初めて口をきいた
一同が視線を送る
鬼が語る鬼のことだからか、実感のようでもあり
実に腑に落ちる、桜子の目が冷える、呟く

「居たのかお前」

「てめ、桜子」

「だとすると結局、おかあちゃんのおかげであたしは助かったのね・・・・」

「桜子さん・・・・」

「っつうか、そもそも元凶はうちのおとうちゃんのような気がせんでもないわけよ、乙女的には
実の父親に憎しみを抱くなんて、アリっつうか、そういうもんじゃない?」

「何を言ってるか、全然わかんないですよ」

「つまりよ、おとうちゃんに問いただしに行くわけよ、おかあちゃんの為にも
佐藤浩一と三国連太郎だってそうじゃない、妾の子ってのは、実の子よりも父親に
色々と影響を与えるもんなのよ、ちがいないわ、ってなわけで会いに」

「いや、でもどこにいらっしゃるかは」

「大丈夫、来る時会ったし」

桜子が言うやいなや
さくさくと仕度にとりかかる
微笑ましく見守っていた舞女が訊ね、それに答えた
答えられた舞女は動揺する

「ど、どこで!?」

「ん、さっきお伊勢さんで、なんか黒づくめの集団と歩いてた」

「しゅ、守護の軍が?」

「どうしました・・・・・って、あ」

ばたんっ
聞いたなり、舞女は取り乱して小屋から出ていった
なんだかさっぱりわからないが置いてけぼりの三人
二匹は、なんとなく察しが付いた
だけどどうしたらいいかは、考えてない
一人はまだ気付いてない、バカだから仕方ない

「あによ、急に・・・・と、おいバカ二匹、あんたら外出てなさい、仕度するから、レディに気をつかいなさい」

「へいへい」

ぱたむ
桜子の指示に従って二匹は外に出た
良夫はあいかわらずむっつり顔だ
猫又が伺うような視線でそれを見る

「鬼は、随分悪者だね」

「るせぇよ、妖怪」

「それよか、どうしよう・・・・・・守護とやるのかい?」

外は知らぬ内に暗くなっている
もう秋が深まっている
空気は冷えてきて、夜も早い
三重の木々は針葉樹がなぜか多い
だから、紅葉は見られない、それでもなにか
冷えてきた空気が充分に秋を感じさせる
良夫は依然むっつりのまま

「それは俺が決めるんじゃない」

「だよね・・・・・・桜子さん、どこまでわかってるのかな」

「さぁな・・・・というか、俺もその守護っつうのがよくわからんのだが」

「空気読めばわかるだろう、帝のおかかえの異形集団だ、僕らの側だね
ただ帝に近いから、上だけども・・・・・前にも言わなかったっけか」

良夫は黙っている
知っていた、というか確認したかった
そういう感じで猫又に訊ねた
ぱたんぱたんとせわしない音が小屋からする
何をしてるか知らないが、桜子の準備がそろそろ整う

良夫がぱちりと、音がするようなまばたきをした

「さ、行くわよ・・・・って、あによ、あんた」

「いや桜子さんの正装に目を奪われたんですよ」

「違う・・・・・・・・・・猫又、匂わんか」

桜子が久しぶりに身なりを整えて出てきた
確かに、整うとかなり別嬪になるんだが
良夫はそれを気にしない、その態度を
桜子は気に入らないし、猫又もふざけんなという調子だが
良夫の様子が、いつにもましておかしいので黙っている
良夫は宮の外、いや、もっとさきの山の上を臨んでいる

「レディの前で、臭うとか臭わないとか、たいがいに」

「おい、お前らっ、何勝手に外へ出ようとしてる」

「お邪魔虫がきましたよ」

宮司だ
相変わらずいけすかない顔で
桜子を非難しに来た、少し遅れて禰宜と舞女も来た
宮仕えが揃ったような感じだ

「糺したいことがある、伊勢に守護が来ていたと本当か?」

「あんた、本当に口のききかた知らないのねっ、見たつってんでしょ、ぶっ飛ばすわよっ」

「貴様らが手引きをしたのかっ、神をおろせぬこの宮を、さらに潰すつもりかっ」

桜子の後の台詞は禰宜の声だ
舞女の表情が落ちる、やはり想像以上に
彼女の立場は悪い、宮司はそこについては何も言わない
ただ、桜子達が悪い物であるという視線を投げかけ続けている

「宮司様っ、宮司様っ」

慌てた声の来客
村人らしい、息を切らせて肩をずいぶん揺らしている
整えて、喋る

「大変だ、お、鬼が・・・・・・・・山に鬼が出たっ、さっき見回りの奴が報告にっ」

「そ、そんな・・・・・守護だけじゃなく・・・・・・・・・・くそ、貴様ら・・・」

「なんでもあたしらのせいにするんじゃないわよ、本当、いい加減にしなさいよ」

「それよりも、どうするんです、このままじゃまた邑中が、いっそその役立たずを生け贄に、前の時もそうじゃないか、宮司様」

村人が必死に叫んだ
反射的に良夫が桜子を抑えた
怒りが来た、目が琥珀になる
村人は気付かずに続ける

「前の時もそうじゃないか、巫女は邑を守るものだ、だからこういう時にっ」

「ば、バカなっ、前の時も決してそのような気持ちで・・・」

「だいたいそんな神をおろせぬ巫女なぞ、どうとでもよかろう、鬼はそれさえ喰えば帰るんじゃ、早く、宮司様、もうよかろうてっ」

「バカを言うなっ、サンはこの宮の舞女だ、そのようなことできるかっ、邑人を集めろ、垣の外でくい止めるぞ」

「バカを言うのは宮司様の方じゃっ、早うその女を、もう邑のものは皆そう思っておる、そこまで来ておるのじゃ」

「話にならん・・・・・闘う準備だ、邑の男を総出にしてっ」

「もう、いいですっ・・・・・・・いいですから、宮司様・・・もう」

「サンっ」

「おお、そうじゃ、この穀潰しがっ、とっとと喰われてその身体で邑を守れ、そうじゃそうじゃっ」

「貴様もっ」

浅ましい
そういう言葉が良夫の中に産まれた
いつだってそうだ、こいつらはそうなんだ
随分と冷たくそれを眺めている、身体はしっかりと
桜子を引き止めておくことに注力し
頭は他のことを考え続ける
身勝手な奴らの、見事な茶番をせせら笑う
さっきの匂いは鬼の匂いだ、山から静かに降りてくるのがわかった
前後関係はわからないが、この邑最大の危機なのは確かだろう
ふと、桜子が良夫に合図を送った

「・・・・・暴れない?」

こくこく
うなずく桜子の目はもとに戻っている
良夫は緩める、どごっ!!!!、何百編でもやってみせるよという
お約束の後に、桜子が、わめき散らすくだらない生き物のところへ踏み込む

「邪魔っ、やかましい、黙れっ」

「うるさい、忌み子っ」

「なんじゃ、お前は、よそ者が挟むな」

ばごっ、すかっ
禰宜と村人が死んだ(ぉぃ
いや、死んだような感じで倒れた
桜子が、ぎぃと宮司を睨む

「ったく、バカのくせに本当役に立たない、お前みたいに口だけで自分じゃ何もしないような男が
邑で長やってんなんて、聞いて呆れるっつうの、どいてな、さんざん人を疑って
バカみたいに古いものだけ守っておけばいいとか思ってるその、堅い頭でせいぜい、宮の中で隠れてなっ」

「な、なんだと、このバカ娘が・・・・っ」

「不幸女、あんたも、このバカ男とせいぜい寄り添って宮の中に隠れてな、鬼とやらはあたしがやる」

「桜子さん・・・・・・」

「いっとくけど、邑を助けようって魂胆だからね、倒したら相当の礼金貰うわよ」

「な、何を・・・・・貴様ごときが、日本語も満足にしゃべれないくせに」

「そ、そうよ・・・・お母さんの仇なんて、そんな危ないことで・・・」

「シャラーーーーーップ、違うつってんでしょ、仇とかそういうんじゃないのよっ、っつうか、日本語喋ってるわよ、そうよとは何さっ」

桜子が、かちかちと
頭に血を上らせてアジを続ける
禰宜と村人は、安らかな顔で倒れている
治療が必要じゃなかろうか

「たいがいに聞いときなさい、あたしわねっ」

ばさっ
身を翻す、久しぶりの正装
いつだったかの、鬼退治の時と同じ甲冑
ただ、あの時と違うのは、薄く琥珀となる瞳、それに

首に巻いた、一枚の白い布、多分小屋から、生家から持ってきたのだろう

「鬼斬り桜子様よっ、叩っ斬ってやるわさっ・・・・・・いくよ、良夫、宿屋っ」

とん、言われて当然の顔で二匹が続いた
随分とうれしそうな顔の猫又
そして、むっつり顔のままの良夫

三「匹」が宮を出る、鬼が来る、邑の外へと向かう

つぎ

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