鬼斬り
朝
「鬼・・・・・・・・・ですか」
苦笑まじりに衣夢がちらりと良夫を見た、良夫はそっぽを向く
桜子は真摯な眼差しを向け、鬼の居場所を聞いている
桜子は、衣夢が良夫を鬼だと気付いてないと思ってる
だから、訊ねている
「衣夢様なら、何かおしりじゃないかと」
「桜子、無理して敬語使うから、言葉おかし」
おだまり
目でそう言って、哀願する乙女顔を作り直す
追いすがるようにして、情報を求める桜子
従者達はすっかり安心しているのか、桜子が衣夢に近づくことに対しては
全く警戒心を抱いていない、むしろ離れている良夫を全員が監視している
「そうですね・・・・・・高山に」
「さくらのコトは知ってるっつうか、もういいのです、違うのが良いのです」
「だから、言葉が」
おだまり
このやりとりが、随分面白いらしく
衣夢はいつもと違う、ほがらかな笑顔だ
ウケているという感じがする、日頃から素晴らしい笑顔で人を和ませるが
実際に自分が和んで笑うことは、少ないのかもしれない
良夫は少しだけ、仏を憐れんだ、仏は仏で大変なんだろう
「そんなに大変じゃありませんよ」
「うわぁっ」
良夫の脳内につっこみが入った
思わず自分の周りを見てしまう、考えたコトが、また色になって出たんじゃないかと疑う
会話としておかしいのに気付いた桜子が、きょろきょろと二人を見比べる
見ても意味はわからない、となると、また懇願するしかない
「衣夢様、あの馬鹿男はどうでも、どこかに悪さをする鬼の話ありませんか?」
「・・・・・・悪さをするのは、あまり聞いておりませんよ、彼らも彼らなりに最近は良いようですから」
「いや、そんな、鬼なんて滅法頭悪くて、ダメな生き物ですから、衣夢様優しいからって庇うこたぁ」
おいこら
思うだけで言わない
衣夢は優しく諭しているが、桜子は聞いた風もない
桜子の場合は、悪いから懲らしめるわけでなく
金が欲しいから、目立ちたいだけなのだ
このあたりが複雑で、「徳」如きではとうてい説き伏せられない
衣夢もわかっているんだろうが、一応道義を説いている、桜子の脳では理解できんだろう
「・・・・言いたくないんですが、ぶっちゃけ、当面の生活費に困ってまして」
「それなら、大丈夫ですよ」
衣夢が微笑んだ、言葉は続く
「あなたの強さは、随分知られています、必要とする方が必ず現れます」
「いや、そう、ゆうちょーなコト言ってられないんですよ」
桜子も必死だ
だんだん演技も本格的になってきた、というか演技じゃないか
良夫は遠目で見守っているばかり
桜子は衣夢をどうしても離さない方向だ、あわよくばくっついていこうとか、目論んでいるのかもしれない
持て余すようでもない、仕方ないか、そういう表情で
衣夢がちらりと良夫を見た、なんだろう、良夫が視線を返す
良夫に不安がよぎる
「桜子さん、なぜ、あなたは鬼を斬ろうと思うんですか?」
「そりゃ、あたしが・・・・・・・・・・が?」
「どした、桜子」
桜子が凍り付いた
顔が青ざめている、異変に気付くが良夫は容易に近づけない
衣夢の視線が良夫の動きを縛り付けている
ふるふると小刻みに桜子は震える、凍えるようだ
「どうしてなのですか?」
衣夢が冷たく重ねて訊ねた
いつになく平坦な息づかい、追いつめるようにして問う
桜子は、操られるような節で、目で、喋らされる
「あ、あたしが・・・・・・・・琥珀瞳を継ぐから、そういう血だから」
「桜子、おいっ、衣夢てめ・・・・・」
ざさ、従者が割って入る、依然、距離を縮めるようなコトはないが
視線を遮るように従者が良夫に立ちはだかる
そのわずかな隙間から、青ざめた女が見える、少女の独白はなおも続く
「お、おとうちゃんが・・・・・おとうちゃんの人が、鬼を殺す人だから、だから」
「そう、だから、あなたの母上は」
「お、おかあちゃんは・・・・おかあちゃんは・・・・」
その記憶は無い
良夫の左腕がどくどくと脈を打つ
桜子の魂で塞がった傷口が、主の波動に呼応している
記憶の無い部分を触れられる、桜子がまた頭痛を催す
痛みか、苦しみか、表情が尋常じゃない
「母上は?」
「お、お金が要るの・・・・・お金でおかあちゃんを買うの」
「誰から?」
「お、お、、、、、、、、おとうちゃんから」
桜子がだらだらと呟く、語るとは少し違う
思い出したコトを自分に言い聞かせている
一人芝居、それに似た行為だ
引きずり出しているのは衣夢、良夫は固唾を呑んでそれを見守ってしまう
「お、おとうちゃんの、女だから、危ないから、買って、鬼が来ないように・・・こない、きた?え?」
また記憶の無い部分に抵触した、桜子が嗚咽する
なんとなしにわかる、これ以上は危険だ
ようやくと、我を取り戻し良夫が叫ぶ
「ど、どけ、てめぇらっ、それ以上」
「子音・・・・・・・・・・・貴様が望んだんだ、一緒に居たいのだろう」
「その名前で呼ぶな、殺すぞ手前ぇら」
従者に力ずくで止められる良夫、力いっぱいに暴れるが術でもかけられたように封じられる
衣夢の視線は桜子にある、桜子を抱き留める
ぱ、何か薄い膜が破れたように空気が裂けた
世界は、尋常に戻った
衣夢が良夫に微笑みかける、従者が、する、と身体をかわす
つん、と、のめるように良夫が衣夢に近づく、口はすぐに開く
「おい、どういうことだ、桜子は何者なんだ、ていうかお前何してんだよ、ロリコンか」
「その内わかりますよ、わかると昨日お伝えした通りですよ、あと私は病気じゃありません」
衣夢は全てを終わらせた風で、桜子を静かに寝かした
桜子は気を失っているのか、地に寝かされるままだ
衣夢が馬にまたがる、そして良夫に言葉を下ろす
「寝ていた記憶を乱暴ですが起こしました、近い内にあなたが奪った部分も返した方がよいですよ」
「そりゃ・・・・そうだが、どうやって」
「左腕を取り戻しなさい」
「左腕?」
「今のあなたの腕は一時凌ぎですよ、ホンモノは、いつかの鬼殺しに持ち去られています」
知ってるのか、あの晩を
今更、不思議とも思わないが、倒れていたいきさつを
重々承知、むしろ見ていたのかもしれない
とすれば、当然知っているだろう
「・・・・・奴ぁどこにいる」
「それはお探しなさい、そうすることで桜子さんのコトもわかりますよ」
「いや、言えよ回りくどいのいいからさ、おい」
「占い師だって答えは言わないでしょう、それと一緒ですよ、
ああ、ちなみに良夫さんのラッキーアイテムはでんでん太鼓、カラーはブラック」
「いや、んなどうでもいいこたぁ、要らねぇんだよ、居場所をって、おい、こらっ待て」
しゃん、錫杖の音がして衣夢は馬を返した
良夫は呼び止めようとさらにすがったが、従者が邪魔をして叶わない
従者が続いていく、ぱからぱから、蹄の音を響かせて見えなくなった
言うだけ言って、肝心なコトを何一つ伝えないで去っていく
なんて身勝手な奴なんだ・・・・
良夫がそれに気付いたのは、立ち去ってしばらくした後のことだ
相変わらず、いちいちどんくさい
「・・・・・んん、都合のいいおとこ・・・・・・あれ?」
「起きたかって、今、何云った」
寝言を催してから目を醒ました桜子
寝言の内容がやや気になるが、元気そうな姿でとりあえず安心する良夫
桜子はきょろきょろと辺りを見回す、開口
「あれ?衣夢様わっ、か、金づるはっ!!!」
「いや、お前、様づけで呼ぶ方を金づる呼ばわりわ・・・・」
「あんた、あによ、なんで捕まえておかなかったのよ、あの一同の護衛なら相当の・・あああ、もう、どんくさいっ」
じだじだ
桜子が地面を踏みならして悔しがる
危険領域を覗いて、気絶していた乙女とは思えないほど元気だ
「それよか桜子、覚えてるか?」
「あ?なによポンコツ」
かちん、音だけするが
笑顔は絶やさないようにする、今更、慣れたもんだ
良夫が堪える
「どうして寝てたか、覚えてるかって聞いてんだ」
「そりゃキマってんじゃない、衣夢様が優しくあたしをだっこしたから、ちょっと乙女的に卒倒したのよ」
「どこの電波だこの馬鹿女」
ぱっかぁんっ
軽いジャブを返したつもりの良夫に
チョッピングライトがたたき込まれる、だがいつもより痛くない
不思議と良夫が桜子を見る
「覚えてる、思い出した、色々嫌なことまで全部」
「桜子・・・」
背筋を伸ばした少女は、相変わらず子供くさいが
寂しそうな横顔だけは、彼女の歴史を物語る
無理矢理思い起こされた記憶を、彼女も痛みを堪えて受け入れている
「あいかわらず思い出せないコトもあんだけどね、とりあえず、思い出したのはさ」
朝日が顔を照らす、輝くよう、左目は美しい琥珀
「わたしが、お嬢様っていうか、お姫様だってことよ」
「何を言い出すかと思えば、お前、やっぱりなんというか、頭が不自由な」
「あんですって、あんた、今までの独白シーン見てたらわかるでしょ、あたしゃきっと偉い人の娘なのよっ」
「きっとってコトは、お前、思い出したんじゃなくて、そりゃ勝手に思ってるだけじゃねぇか」
「るっさいわね、何一つ役に立たない、でくの坊のくせに、うっさいうっさい、あたしゃお金持ちの子だから
お金持ちになんないといけないのよ、生活水準は落とせないのよ、貴族のメンツにかけて」
知らない内に、貴族の落とし胤(だね)という設定にしている
前向きといえば、前向きな意見だが
俺はロシア皇帝の末裔であるなどとのたまう輩と変わらない
その脳の不自由さを心配する良夫をよそに、桜子はささっと旅支度を整える
ぽん、と膝を打って良夫に言う
「さ、行くわよ」
「どこに」
「伊勢」
「伊勢?なんでまた」
「あたしの、育った家があるのよ、あるはずなのよ、そこに」
言うだけ言って、すたすたと歩き始める
慌てて良夫がついていく、久しぶりの二人旅が戻ってくる
蒼い空が高く、夏ももう終わろうとしている
・・・・・・・・・・・・・・・・
「わかったか?」
「いや・・・・・・それが・・・・・」
部下の不甲斐ない声が聞こえる
愚鈍、男は烙印を押す
もう二度と、その男に声をかけることがない
マヌケやなんとかといった、劣るものが
自分の周りに居るのを酷く嫌う
そのマヌケのせいで、殺されるかもしれない不安がそうさせる
男は、例の国主だ
「琥珀瞳を継ぐ娘か」
国主の左目も琥珀色である、ただ桜子と違い
永劫琥珀を絶やさない、透明感のあるそれは
夜の闇でも光を絶やさない、鬼に睨み返されても潰れない
不思議な力があるらしい、あると信じられている
代々受け継いだように、子供にはその瞳が現れた
遺伝なのだろう、遠い昔に何か別の血が混じったせいなのだと
今はうっすらと解っている
鬼殺しも、所詮は鬼と同じ、人ではない異形だ
ただし、帝と同じ側の異形である
そう信じて、あるいは周りに言い聞かせている、異形であることに変わりはないが
性質が善であるとしてしまえば、上にいける
世の中はそうできている、同じものが集まれは自然そうなるに決まっている
息子は琥珀の瞳を、帝の側である証を継がなかった
代わりに、他よりも黒く深い瞳を持って産まれてきた
鬼子か忌み子とも、囁かれた
座に控えたまま、屋敷の外をちらりと見やる
平穏がそこにある、作られた平穏がある
鬼殺しの家系をひたすらに守り
襲いくる鬼を敵を全て粉砕してきた、それは自家の為でもあり、帝の為でもある
帝に降りかかる災いを振り払う、武の家として今はある
「伊勢にでも直々に行ってみるか・・・・・」
する、
ふすまが開いた音がした
国主は振り返らない、ただ
愛刀をたぐり寄せた、刹那の出来事
匂いで感づいた
ぴぃいいいいいいっ
振り向きざまに、横一閃
笛のように高い音を鳴らして、刀は光を零した
切っ先の通った跡が、微かに煙る
霧が発った、太刀筋はそれでしか見えない
振り抜いた瞬間は、誰にも見えない、振ると思った次には
全ては済んでいる
すぱ、
音が見えるように美しく
アジの開きの骨だけ飛んだ
そのすさまじさにも、慣れたもので下働きの娘は
眠たそうな顔で、はいはいと膳を下ろし、飛んだ骨を拾う
「いや、おい、もうちょっと褒めたりとか、驚いたりとかなんとか」
「あー、はいはい、凄いです、驚きましたさすが主様、いや、本当、汚れるからいい加減にしてください」
「ば、馬鹿者、貴様そのような口利き、い、言いつけてやるぞ」
「まったく、子供みたいなんだから」
しょぼん
褒められなかったのが口惜しいのか、寂しそうな顔になる
仕方なく、膳に箸をつける、もさもさ
さもしい一人の食事、ぶぅと屁をこいて少しだけ幸せそうな顔
鬼殺し、そして、桜子の父にあたる男だ
ここの所、毎話、次回以降新章突入みたいなヒキになってて
おいらの底の浅さがわかって頂けているかと存じますが
申し訳ございません、長くなりすぎてるのは
おいらが一番わかっているつもりですm(__)m
あまり、語るのはよくないですが
思いっくそ、ひねりもなにもなく
赤まるちの時と、展開、パターン一緒なのは
本当、狙ったわけじゃなく、これしか書けないからなんです
思うところ、つらつら描きたいところですが
このあたりで
駄文長々、ご愛読ありがとうございます
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