斬り


芥子屋が改心し、全国贖罪の旅に出たため
路頭に迷った、鬼斬りと鬼
これまで、芥子屋の財産を食いつぶしていたおかげで
随分暮らし水準が高かったのだが
それが望めなくなり、まったくもって困る

「どうしよう、もうオブラートで包まれたような生活が望めないわよ」

「とりあえず今回の報酬が無くならない内に、次の仕事見つけねぇとな」

「働くのやだな」

「我が儘言うんじゃありません」

お子様会話を繰り返している二人
事態はまったく進展しない、そこへ

「衣夢様、衣夢様っ」

「あ・・・・・・・・やぁやぁ、済まないな」

「困ります、勝手に離れて頂いては・・・・・他にも八方散って探しておるのですよ」

「いやぁ、迷惑をかけたね」

急に現れたのは、衣夢より少し歳を食っている武家だ
いや、武家風というのが正しい、きりり、端整な顔つき
いかにも育ちが良さそうと伺える男だ、僧兵とも思えるがともかく
話の分から察するに、衣夢の従者のようだ

「都なぞ何が潜んでおるかわからないのですから・・・・・・・・今日は、そろそろ」

「わかった、行くよ・・・・・・・では、お二人とも、お元気で」

「ああ、ありがとう」

「ありがとうね、お坊さん」

「??そちらは」

「ああ、少し縁のあった方だよ、なに気を張る相手じゃない、大丈夫だ」

「・・・・・ですか」

武家風は良夫だけを敵と見なしている風だった
衣夢が止めた言葉もそれを察しての台詞だ
なんだかわからないが、武家は使える様子で
衣夢は、とんでもなく偉い人なんだろう
良夫は、ぎこちなく笑って敵意の無さを見せる

「それでは、また何処かで・・・・桜子さん・・・・・よしおさん」

何か、静寂の余韻みたいなのが残る
思わずぼーっとしてしまったが、我を取り戻し
話題を振り出しへと返す二人
これからどうするか

「とりあえず京都は出よう」

「ヤダ」

ぐ・・・・・・
光りの速さで桜子が否定する
二人並んで歩き出し、今夜の宿を探している最中
うろうろしながら明日以降のプランも立てておこう
そのさい先、真っ向から二人の意見は別れた

「何云ってんだよ、こんな金のかかる町で・・・・」

「阿呆、あんたね都なのよ?全国の情報が集まる場所なのよ、あたしの目的忘れてる?」

「俺いじめ」

「違う、鬼を斬るのよ、鬼がどこに出るって情報を都で集めて、いちもうだじんよ」

「嘘、お前まだそんな見果てぬ夢を・・・・・」

「どっせぇええええいっっ」

ずがんっ
桜子のつっこみが冴え渡る
鬼殺しやら雷神やら、低級の鬼である良夫にとって
精神衛生上、さっぱりよくないこの町
桜子はいたく気に入っている、唐突に

「そうだ良夫」

「んあ?」

ぶわぁっ!!!!!!
振り返る良夫の目の前に、桜子のにたにた笑顔
それを遮るように、黄色い霧が突然あたりを包み込んだ
ばさばさばさっ、塵が積もるように、良夫の身体に粉が降りかかる

「・・・・・・・・・・・ぃえっきしっ!!!!」

「あれ?」

「・・・・・・・なんのマネだ、桜子」

「じゅーって、なんないじゃない、じゅーって・・・・おかしい、なんでよ」

「・・・・・・・おい」

「何?ひょっとして、輸入物の大豆だからダメなの?国産じゃないとダメなんて、あんた贅沢もたいがいに」

「ぶっ殺すぞ、お前」

凄い量の黄粉が良夫にふりかけられている
桜子が、どっからかっぱらって来たかわからないそれを
思いっきりぶち撒けたらしい

「可笑しいじゃない、さっきあいつが、黄粉に弱いって」

「黄粉で鬼が死んだら、誰だって鬼殺しだろうよ」

「って・・・・・・・う、嘘かっ!!!や、野郎、あたしをたばかってっ」

ぎぃいいいいいっ、めいっぱい歯を食いしばって桜子が地団駄を踏む
折角のステキ情報だと喜び勇んだ結果を裏切られたのだから
この怒りは、まぁ、わからんでもない
だけどもだ

「・・・・・・嘘だったのは、まったく残念だろうが、なんで俺にいきなりふりかけてんだお前わ」

「え?だって、手っ取り早く効果を見るなら、そりゃやっぱり」

「でなくて、お前さっきの見てただろうっ!!すげぇ勢いで鬼が一匹滅したんだぞ?わかってんのか?」

「えー」

「えー、じゃねぇっ、同じだけの効果があったらお前、俺が・・・」

じー、桜子が叱る良夫をつまらなさそうに見ている
親が子供に説教するような調子だから、なおのことかもしれない
そういう違和感に気付いて、良夫がクールダウン

「まぁ・・・・うん、そうだな、とりあえず大豆は効かねぇよ、ありゃもっと特殊なもんだ」

「そうなの?黒曜石も?」

「あれは・・・・」

本当だ
なぜだかわからないが、あんなに柔らかい石だけは
受け止めることが出来ない、下手をするとアレを粉にされて撒かれたら
それこそ一大事かもしれない
口ごもって良夫が真顔で黙る、桜子が悟る

「ちぇすとー」

ずがっ

「だから痛ぇっつうのっ、お前、シリアス展開が・・・」

「えー、隙だらけだったし、あんたが悪いのよ」

つてつてつて
言い終えると、すたすたまた桜子が先手を歩き出した
どうも虫の居所がよくないらしい、考えてみれば
鬼斬りをさしおいて、鬼殺しなんぞともてはやされた奴を見ていれば、まぁ、そうか
良夫は、殴られた(注:斬りつけられた)場所をさすりながら後ろを追いかける

それにしても

前を歩く小娘をじっと見てみる
そして、これまでを思い返してみる、何度考えてもやっぱり同じ答えが浮かぶ

俺は本当に、この娘に殺されるんじゃなかろうか

今は実際の所、桜子には致命傷を与えるだけの力が無い
だから、どれだけ殴られようと、罠にかけられようと、問題になってないし
笑い話で済むくらいの、かわいげがある
だけども、もし桜子が、例えば、さっきの黒い奴と同じ力を手に入れたら

「なぁ、桜子」

「あによ、無駄口きかずに宿探しなさいよ」

「探してる・・・・それよかだ、お前、本当に鬼を殺す力を手に入れたら、どうするんだ?」

「??なに?」

桜子が不機嫌そうに振り返った
足をぴたりと止めた
眉毛に不信感を募らせた顔
そこそこの顔立ちだから、見れる面構えだ
しかし鞘を払った抜き身の殺意がこもっている
今すぐにでも、良夫を殺そうとしているようにも思える

「・・・・・・・いや、例えばさ」

なんとなく緊張した、嫌なイメージがまとわりつく
『所詮鬼なんて殺してしまうのが得』
言いかねない、むしろ、初めての時は間違いなく言っていた
良夫も言葉を選びたいが、おつむが足りないから理解されないかもしれない
とすれば、直球勝負しかあるまい
鬼を睨む小娘に伺う、存在価値のキモの部分を訊ねる

「いや、お前がさっき見た奴みたいに、いとも簡単に鬼をこ」

ごぃぃんっっ!!!!!

「うぼらっ!!!!」←悲鳴@良夫

「あんた、たいがいにしときなさいよ、ブチとさかに来るわねっ、あんですって?あたしが
あんなカラス野郎に劣るとでも言いたいわけ?本気で叩っ斬るわよっ、あああ!?」

「わ、わ、わる、わるわるか・・・」

「あたしの腕が下みたいな言いぐさっ、あんたみたいのが下に居るから、他人があたしを嘗めるのよっ
鬼斬りだつっても、相手にされないのよ、子供扱いされんのよっっ、ちょっとは反省しろっ、阿呆、阿呆、阿呆っ!!」

いつになく鋭い一撃が良夫の首筋に叩きつけられていた
あまりの剣気だったからか、はてまた想いがのっかったからか
今までで一等の一撃だった、あ、あかん、本気で怒ってる
というか、感じていた殺気は間違いなかった、こいつは俺を殺す気だ(注:八つ当たりで)
思えば、便所の前で雷神と殴り合ったダメージの蓄積もあり
傷を受けると身体が悲鳴を上げる、今日はヤバイ、謝ろう、てな具合で
平謝りに謝り、慌てて宿を見つけに奔って逃げた

重要な問題提議だったが、日が悪い、聞く前に違う理由で死んでしまう

かくして奔走する良夫のおかげというか
ようやく宿を見つけ、相変わらず機嫌の悪い桜子と入宿
よほど腹が立ったのか、桜子は口もきかずに良夫との間に
仕切を立てて不貞寝となった

「・・・・・・・・・・鬼殺しか」

さて、いつもの通り、良夫の一人歩き、真夜中のコトだ
夕餉(ゆうげ)の騒動を思い出す、別に鬼が一匹滅したとか
そんなコトはどうでもよい
人間が鬼を簡単に葬ることができる
この事実が問題だ

和尚とか神主とかいうのの中に
実際法力だか、神通力だかを使って鬼を苦しめる輩は居るが
そんなもんは極限られているし、使えるような奴は
良夫から言わせれば、人間じゃない、むしろ鬼の側に近い存在だ

だが、黒い男は違う
訓練された動きからして、素人ではないが
戦闘を仕込まれた程度のゴロツキだ、ただの人間だ
そいつが、ちょっとした武器を手にしただけで
簡単に鬼を殺すことができるようになってる
こいつは具合が悪い
バカに刃物は与えてはいけない、人間のような愚物に力を与えてはならない
鬼の本能が訴える、まったくいけないと

「・・・・・・・・」

歩いた
丑三つ時とやらも、随分前に過ぎただろう
夜は相変わらず夜だが、あと少しで明るくなる
闇の黒さが蒼を纏いはじめ世界を支配している

予定と違う

良夫は思った
彼のプランでは、この後、いつもの通り
一人で歩く良夫に何かの事件が起こるはずだった
もっと具体的に言おう
あの黒い男が、必ず良夫を殺しに来るはずだった

「どういうことだ」

呟く、暗闇の向こう
相手は人間だ、だからぶらぶらと歩いている良夫の姿は
まったく見えないのだろう、良夫からは丸見えなのに
不思議なものだ、人間の姿が二つ
黒い男と

桜子

寝てるはずだ
良夫は思い返して、もう一度じっくりと先を眺める
じたばた、じたばた
いかん、あのアホを絵に書いた動き、間違いなく桜子だ
きょろきょろ、良夫が悟ると同時に、心でアホ呼ばわりされたコトに気付いたらしい
桜子がきょろきょろと辺りを見回した
自分の悪口に関しては、凄まじい六感を備えているようだ

良夫は足を止める
黒い男も不思議そうに辺りを見たようだが
道の真ん中で突っ立っている良夫は見えていない
所詮奴も、少々訓練をしただけの人間だ
何もないと判断したのか、また話をしている様子

耳を澄ます
でびるいやー、みたいなものだ
じっと耳を人間二人に集中させる、声が聞こえる
姿、身振り手振りも筒抜けに解る
盗み聞きのような、よくない気分、後ろめたさをわずかに抱えて
聞く、耳を立てる

「・・・・・・・・・あの鬼は、悪鬼だ」

「るさいわね、そんなコトはどうだっていいのよ、それよかね、あんたのその」

「聞け小娘、お前、あいつに喰われるぞ」

「あんたこそ聞きなさいよ、ふざけんじゃないわよ、あたしに声かけられたからって調子に乗ってんじゃ」

「あいつは、夜狂いの子音ていう悪鬼だ、天の邪鬼かなんかの出らしいが、本来は天燈鬼だ
そこそこの地力のある鬼だ、知恵があって人間をうまく騙す、そして喰うんだ、殺さないといけない」

「・・・・・・・・・あんた、またあたしをたばかろーってのね?バカじゃないの、あいつは良夫ってのよ」

「だから「よ」ぐるいの「しお」んなんだろうが、気付け小娘」

「・・・・・・・・・・・っき、気付いてたわよっ!!!!るさいわね、何よ、とりあえずあいつはあたしの下僕なのっ」

ぬーん
好き放題に色々言ってるな
良夫が頭を抱える、どういう面してここに登場すべきなのか
困ったな・・・・そういう顔をしておく、とりあえず、だけども
久しぶりに思い出したような感覚が疼く
どういうことか、良夫は自分の心が解らなくなっている、判別がつかない

野郎、殺ス

まずい、まずい、まずい、マズイ
いつものジョークと違う、旋律が違う、いけない、落ち着け俺
怒りなぞ、深く深くに沈めてもう忘れていたはずなのに
憤りや恨みなぞ、封じ込めて、俺は、いい鬼、なのだ、だから
鬼が、人を殺すなどと言っては

まずい、まずいのだ、人に危害を加えては

自制心がなぜか弱り切っている
良夫の様子は明らかに尋常ではない
そんなコトに気付くわけもなく、人間二人は喋り続ける

「下僕?バカかお前、体よく鬼に利用されているだけだ」

「バカ呼ばわりするんじゃないわよ、このウスラバカっ、あんたみたいなヘタレ野郎と違ってあたしは鬼を従えるのよ」

「ほとほと参るな・・・・・お前、本当の鬼を知らんな」

「あんたこそ、あんなカマドウマのバケモノ殺したからっていい気になってんじゃないわよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「なによ」

「・・・・・・・随分鬼に肩入れしやがるな、てめぇさては」

鬼殺しの声色が変わった
夕餉のあの声だ
桜子が反射的に身構えた
だが遅い、すぐに腕を抑えられる、危険を察する
だが遅い、身動きができない、声を出そうとする
だが遅い、それは叶わない、男の視線がそれを許さない

「・・・・・・考えてみれば・・・・・鬼と共に生きようなんて莫迦は・・・・・鬼と一緒だ」

「な、なにいってんのよ、あ、あたまおかしいんじゃないの?」

桜子の声が震える、気の強いそれは隠れてしまった
黒い男の声は野蛮だ、粗野で横暴だ
今まで意識したことのない、不気味な危機感だけが桜子の背筋を奔る
こいつ、危ない・・・・・・
かつてない恐怖を覚えた、しかし身体は抑えられている
じろりと睨まれる?見つめられる?わからない、ただ、不安が募る桜子

「お前はもう、鬼に喰われている」

「はぁ?何電波ゆんゆんなコト言ってんのよ」

「鬼は魂から喰うんだ、お前はあいつに魂を喰われて隷属してる、俺が解いてやる、安心しろ、俺が助けてやる」

「ば、バカじゃないの、何云ってんの、気持ち悪いから離せっ、寄るなっ」

ぐあん、ぐあん
良夫の意識が混濁しはじめた、よくない傾向だ
目の前の会話、内容、桜子の姿、黒い男の主張
聞こえる度に、良夫の中で黒いものが大きくなる
二人、三人と、良夫の中に声が弾ける
奴を黙らせろ
あの男を殺せ
鬼を蔑む人間を喰らえ

女の方も、喰ってしまえ

良夫が狂い始める、困惑して抗うが
ずぶずぶと黒い固まりは大きくなるばかり

同族を殺された
同族が蔑まされた
鬼というだけで、ただ、疎まれる現実

耐え難いほどの苦痛が
全身を駆けた
目が醒めるような痛み、気が狂う程の痛み、嘆きと憎しみと痛み

夜に狂ウ

つぎ

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