鬼斬り
2年前だったか
どうしても、さくらは人間の中に入って暮らしたがった
理由は、よくわからないが
多分仲間が多いというのがうらやましかったんだろう
鬼は孤独だ、さくらは物心ついた頃から
親鬼以外の鬼族を知らない、多分、物心着く前も会ったことは無いだろう
「父御(ててご)、私に、母は無いのか」
「ない」
「父御は奥さんいないのか」
「ない」
「じゃぁ、姉弟や叔父さんや爺さんや従兄弟は」
「ない」
「寂しいな」
「そうでもない」
「私は寂しい、人間はいいな、仲間がいっぱいだ」
「そうだな」
さくらの隣で、聞かれたことに短く答える大きな鬼
のそのそと歩く姿は熊と間違えるほどだ
さくらの言葉遣いが幼いが、この親の下ではこの程度の語学力が精一杯だった
「父御はどうして寂しくない?」
「寂しいのがわからん」
「なんでだ、人間はあんなにいっぱいでみんなで笑ったり、鹿とったり、喧嘩したり楽しそうだ」
「喧嘩したいか」
「父御と喧嘩したいわけじゃない、それに父御と喧嘩したら死ぬ」
「死ぬか」
「死ぬな、父御強いからな」
「そうか、お前が死ぬのはいやだな」
「いやか、なんでだ」
「死んだら、いなくなる」
「いなくなるのがいやか」
「いやだ」
「そうか、気を付けよう」
なんかわからないが確か旅をしていた
山から山へ、そして山から山へ、基本的に山にしか居なかった
人里には、鬼の身体は大きすぎて目立つし
何よりも、嫌われる、無用なものは招かないようにしていた
だからなのか、さくらはともかく人間の生活に憧れた
鬼はさくらの想いが良くわかったらしく、一つ小細工を提案した
鬼を倒すような奴なら、人間は、守り役として仲間に入れてくれるだろう
小芝居を一つ打とう、鬼をさくらが斬ればいいという算段
さくらは手放しに喜んだ、これが2年前だ
おあつらえ向きに人間が一人倒れている
「ホーナー?」
なんでその台詞思い出すかな・・・・・
ともかく鬼は例の鍛冶屋を不憫と思ったわけでなく、さくらに人助けをさせて
少しでもよい方向に傾くようにしたのだろう
鬼の血は人を蘇らせるほどの力がある、さらに、鬼のような力も与えることがある
「刀で俺を斬れ」
「父御を斬るのか」
「そうだ、それでお前は鬼斬りを名乗れる、人間が喜ぶ」
「父御を斬れるかな」
「大丈夫だ、その刀は強いらしい」
「そうか、やってみる」
「あとだ、あっちに人間が倒れてる血を飲ませてやれ、それで全てうまくいく」
「うん」
「もう一つ、これを飲め」
「薬?」
「そうだ、お前の言葉が人間風になる、いいか、鬼と関わりあると知られるな」
「ダメか」
「ダメだ、それではうまくいかない、きっと」
「わかった・・・・でも、斬ったら父御どうなる」
「気にするな」
「凄く気になる、なんだか気になる」
「そうか、気になるだけで充分だ、さ、やれ」
「意味わからん、父御、どうなるんだ」
「やればわかる、さぁ、早くしろ」
どん、言われた通りに刀を振り下ろすと、意外と簡単に首が落ちた
斬った後、丸薬を飲んだ、頭の中が凄くすっきりとした
次の瞬間には溢れるほどの博識が駆けめぐった、物を知った、解った
どんな薬なのかわからないが、ただ知識が泉の如く頭に湧いた
すると粗暴さが無くなった、立派な武家の女という風情が出た
すぐに血をすくい、鍛冶屋に近寄った、そしてそれを助ける
一通り済んだ後、父御の所に戻った
何もなかった、血すら消えていた、虚無だった
手はず通りにふもとの村に入った、違和感は無かった
喜ばれた、畏敬を浴びながら、喜ばれていた、今日まで
さくらは、今しがた叩き落とした鬼の首を手に持つ
意外と重い、頭というのは脳味噌やら血やら容積の割りに重いものの集合体だ
ずしりとくるのは当たり前、でなくては、居眠りで寝違えたりしない
落ちた鬼の首、顔は苦しそうではない、なんとなく
気怠そうな顔をしている、どばどばと血がしたたり落ちる
「・・・・・・・・・・」
何かを呟こうとした、だけど、何かを捉えきれなかった
さくらは、後悔でもないが、何か暗いものを覚えた
丸薬を飲んだ後をなんとなく思い出した、父御のした事が
どういうことなのか、自分が望んだことがどれほど大層だったか・・・
父御が自分から消えた、いや、父御から自分が消えた
いやだと言っていたそれ
さみしい
さくらは、そこまで解ってぼろぼろと泣いたことを思い出した、
だけど後悔しては全てが無駄になる、そう喝を入れたのも確か、だから今は
煙る社から外へと意識を向ける
この鬼の首を持って外に、そして、改めて
鬼斬りとして、村の守り役として過ごせる日々をなんとか説得したい
想いはそれだけに執着する、邪魔ならば外に居る、あの鬼斬りも殺してしまおう
ぎぃぎぃと床を鳴らして、外に出た
喫驚する
ぱこーーん
かなりの数の村人が、鬼斬りに蹴散らされている
おい、ちょっとまて、いや、なんていうか・・・・おい
「お、おいっ!!!!」
「やかましいんじゃ、わりゃーーーっっ」
すぱこーーん
村人がまた一人宙を舞った、漫画みたいな体術で
ぼかすかと桜子が暴れ回っている、思わずつっこんでしまう、さくら
シリアス展開じゃなかったのかよ
しかし聞こえていないらしく、戸惑う間にまた一人村人が飛ぶ
ポップコーンのように人が撥ねている
「なにをちんたらしてんのよ、あんたらヤルっつうんだから、あたしが手伝ってやってんのに」
「だ、だ、だ、だ、だけどですよ、そんな、社殿に火をつけたりしたら、中で死んじゃうじゃないですか」
「アホかーーーーーっっ!!!!骨の随までやんないといけないのよ、ふざけんじゃないわよ」
「そ、そ、それになんで私たちが徒党を組んで、鬼と戦わにゃ・・・・あなたがしてくれるんじゃ」
「何云ってんのよ、あたしゃ七人の侍じゃないのよ、自分の手は比較的汚さないのよっ、犠牲は顧みないのよっ」
「そ、そんな、ちょ、ちょっと懲らしめて頂きたかっただけで、せめてほら、追い出してもらえたら・・・」
「まだ言うかーーっ、鬼やるのになにチンケなことで悩んでんのよ、ぶっ飛ばすわよっ、甘えんじゃないわよっ」
ばちごーーーんっ
阿鼻叫喚だ、なるほど話はだいたいわかった
どうやら、桜子は良夫ごと鬼さくらを抹殺するつもりだったらしい、恐ろしい
しかも村人を使ってやろうとしているあたり、姑息というか大胆というか、ともかく凛々しい、ステキすぎる
「ひぃっ!!!」
「あによっ・・・・・・・・・・って・・・・な・・・・・うそっ!」
ようやく気付いたらしい、すっかり出るタイミングを失った形で
さくらは今ひとつ、台詞が思いつかない、申し訳ない感じで登場
そんな様子になってしまった、驚く村人、そして桜子
さくらの手にある、良夫の首を見て皆が絶望くさい顔をしている
「・・・・ああああ・・・・お、鬼が殺された・・・・・や、やはり鬼斬りだ・・・・さくらは鬼斬りなんだ・・・わわわ」
「さくらわって、なんだ、さくらわってっ!!!!あたしも鬼斬りだ、バカたれ、さっきあいつ斬ったじゃない」
「でででででででも、き、傷無いですよ、ほら、切れた気がしただけじゃ」
「黙れっ!!!!!」
ばごーん
桜子の情け容赦を知らない拳がまた一人を屠った
村人は怯えている、どっちかっつうと桜子に怯えている
「・・・・・・・・・・・・・さて」
桜子がにやりと笑った、相変わらずさくらを見下した視線だ
頑張って蔑んでいるつもりなんだろうが、どう見ても
すねている子供にしか見えない、気の毒に・・・・・
さくらが小さく同情をするが、今はそんな些細なことを気にする時じゃない
どう来るか、静かにさくらは桜子の声を待つ、開口
「・・・・・・・さくら、大変よ、村人があんたを殺す気だわっ!!!!」
!?
聴衆全てが特○の拓風に驚いた
虚を突いたように桜子は素早く社殿を駆け上がる
すり寄るようにして、さくらの近くでさらに続ける
「あいつらが、あんたをやれって言うから、ほら、あいつらが、あいつらがね、あいつらがなのよっ」
「な、な、あんたって人わっ!!!!!」
「はわわわ・・・・・・こ、この世の終わりじゃ・・・・」
あいつらが、と逐一指さしする桜子に、村人の不満が爆発する
くだんの爺にいたっては涙を流している
っていうか、村人全員がなぜあんな奴に頼んだんだと後悔に打ちひしがれている
してやったり顔の桜子、村人を売って、とりあえず自分の保身だけは出来たと信じた顔だ
「・・・・・・・・・・・・」
「さぁ、ずばっとやっちゃいなさい、ほらほらっ、あいつらが悪いのよ、悪い奴なんて懲らしめてしまえー」
呪いの言葉のようにつらつらと喋る桜子
さくらは戸惑っている、鬼の丸薬で百識を手に入れたさくらですら戸惑う
なんだこの小娘わ
桜子の、まったく後悔とか、悔恨とか、後ろめたさとかを感じさせない
真っ直ぐすぎる瞳に戸惑ってしまう、どういうことだ
「何を戸惑ってるの、いい?あいつらがあなたを殺せと私に頼んだのよ、私は頼まれて仕方なくしたのよ」
理路整然と喋る風景は、なるほど妙に説得力がある
桜子の言うことには一理も二理もある
村人の側は反論の余地もないのか
また、けしかけたという事実が本当で、その後ろめたさがあるのか
黙って、申し訳なさそうな顔、そして、悔恨
「ははーん、さては私が信用できないってことね、見てなさい」
桜子は言うや否や、刀を抜き放ち、目にも留まらぬ速さで
さくらが持った良夫の頭に、かちこんだ
体重の乗ったすばらしいスイングが再度炸裂
社殿の奥の方へと、消えていく、130m弾だ
「どうよ!!!」
驚いたままのさくら、どうリアクションしたらいいか皆目見当がつかないのだ
ただ戸惑うばかりの様子を、どうしても信用してないとしか見えない
心浅ましい桜子、すぐに次の動作に移る、めまぐるしい
「まだ信じないか、しゃぁない、あたしが先陣をきってあげようっ、さぁ、やるわよ」
言って、さっきまで仲間のように接していたはずの村人に向かって
刀を構えて飛び出した、どだんっ、床を蹴った音、同時に
全てを悟った村人が、蜘蛛の子の如くちりぢりに走り惑う
けぇぇえええええええーーーーーっっっっ←桜子
ぎゃーーーーーー←村人
うわーーーーーーーーー←村人
阿鼻叫喚とはこの事か、八つ墓村の如く
桜子がぶんぶん刀振り回して、村人を追いかけ回す
本当に怖いとは、こういうことだ
わらわらと村人達はちりぢりになり、奇声を上げながら桜子が追いかけ回す
とん、
軽い音だ、だけど全員の耳になぜか届いた
床を蹴って高く、さくらが跳んだ、誰もがそうわかった
村人がいよいよ諦める、桜子がにやりと笑う
笑う桜子の頭上、さくらが構えた
「っっっっっっっってっ、ちょ、ま、な、なに!?」
きぃんっ
着地と同時にさくらの刀は、桜子を襲った
いきなりでもなんとか対処しきれた所は、流石
元祖鬼斬り娘、打ち上げて辛うじて身を庇った
「相手が違うっ、っつうかあんた頭悪い?状況わかってんの?」
「わかってるとも」
凛々しい声、さきほどの一瞬の怒気に我を失っていたさくらとは
全くの別人だ、もう狼狽(うろた)えてもいない
「私は、この村の守り役で、お前は村人を困らせる悪者だ」
「な、何云ってんのっ!!!このうすらバカっ、さっきあたしが・・・」
「問答無用っ!!!!村の治安を乱す奴は、許さないっ」
きゅぅんっ、切っ先が笛のように鳴る
桜子が間一髪でかわす、髪がぱさりと何本か切れて散った
こいつぁまずい、思うが、逃げ切れるような間合いではない
「っっっっっったく、頭悪い奴ってだいきらいっ」
「おとなしく村から出ていけ、やはり、お前達が来たせいでこの混乱が起きたのだっ」
村人は遠くから囲い込むようにして見つめている
さくらの声はそれぞれに届いているだろう
さくらの気持ちが届いているだろう
「くそっ、この鬼女ぁっ!!」
反撃する桜子の刃は鋭い、が、それ以上にさくらの動きは俊敏だ
いつでも桜子は殺せる、だが敢えてそれはしないで、あくまで追い出す形を選びたがっている
村人に害するとはいえ、人間を殺すわけにはいかない
さくらは、そこをよくわきまえている
「んおうっ、あったまきたっ、っつうか村人どもも手の平返したように逃げやがって、助けなさいよっ!!」
お前に言えた義理か
村人全員がそういう視線で見ているが、口には出さない
ずるい・・・・・桜子ではなく、さくらは思った、けど
それも仕方ないと許した、人間は弱い生き物だからと
ずりっ、桜子が足をすべらせる
瞬間を逃さない、さくらの刃が返る
「冗談キツイぜ、しかしよぉ・・・・・」
どん、地面が揺れた
三度目の着地音、今度は地響きを伴った
さくらの刃と桜子の刃がぴたりと止まる
止められている、切っ先が指でつままれて、微動だにしない
「双方それまでだ、ついでに囲んでるてめぇらも、良く聞け」
声の主は、がんがんと怒気を滲ませて喋っている
顔は不敵に笑っているらしいが、鬼のそれ以外の何者でもない
首には、随分と酷い傷がついている、そう、確かにさっき
首を落とされた鬼、良夫の身体と頭だ、それが喋っている
「・・・・・・・・・・再生したのか」
「いきなり首かかれるたぁ、俺も予想しなかったが、なるほどだ、姉ちゃん」
首の傷口からずぶずぶと煙が上がっている
どうやらすぐに溶接するようにしてくっついているらしい
描写したら、ただのキモ画像祭みたいだ、いやんだわ
「通常なら倍返しにしてやりたいところだが、まぁ、それよりすっぱり解決する方法が」
「ちぇすと・・・・」
「ちょっと黙ってろ、桜子」
びくっ、機先を制された
そろそろ来るころだろうと良夫も解ったもので
止められた刀を棄てて、脇差しに手をかけたまま
桜子が止まる、ちぃ、舌打ちをする
「まぁ、とりあえずだ、俺達は去ろう、そもそも立ち寄っただけだったしな、暴れたのは悪かった」
「それで許すと思ってるの?」
「最後まで聞け、非常に重要な話だ・・・・・・・お前な、鬼じゃねぇよ」
・・・・・・・・・。
ぱちくり、さくらが驚きのあまり、すげぇ可愛い顔になる
なんつーかな、ほら、女の子の無防備な顔ってかわいくね?そういうの(趣味かよ)。
ともかく可愛くなるほど驚くさくら、だが、その驚きは周りの村人達にも伺える
全てのキモの所が崩壊した瞬間だ
「お前は、アレだ、鬼の血を飲んだ口だな・・・・・・どういういきさつかわからんが、鬼じゃねぇ」
「な、何を根拠に」
「見ての通り、俺ぁ鬼だ、俺が言うんだから違いねぇ」
「理由になってない」
「お前、角が無いだろう」
「つの?」
「そうだ、こういう奴だ」
ぬぅっ、言うと良夫の額の左右に角が現れた
自然、歯が刃、いや、牙に変わって人相ががらりと悪くなる
鬼の面魂が出た、さっき怒り狂ったさくらには無かった、充分な説得力だ
「お前、こんなもんが生えたことがないだろう、それが証拠だ、そしてだ、お前が人間ならだ」
言って、ぐるりと良夫はアタリを見回した
見回された村人達はおびえる、鬼に見られる恐怖にただ凍り付く
「こいつらも、別に追い出そうとかしない、むしろ、守り役として本当に崇めるだろう?」
こくこく
脅迫のようにも見えるが、本心だろう
村人の目の色は随分と変わっている、というか
さくらに向けていたような敵意は、既に、桜子に集中している
問題はあらかた片づいているのだ
する、良夫が力を抜く
さくらの切っ先を自由にして、桜子の方にゆっくり下がる
桜子は微動だにしない、状況を良く見ている
今は良夫についていくのが、この村人どもの妙な視線(注:当然の報い)から
回避できる唯一の方法だと見切ったらしい、賢い
「じゃ、俺達はそろそろ、おいとまさせて頂く、な、桜子」
「う?・・・そ、そうね、めでたしね、なんつーかな、ほら、真実に気付かせてやったって奴?大儀よね私ら」
いきなり話をふられるが、バカとは思えないほど素早く
状況をどうやっても自分有利に作り替える桜子
人の好い村人達は、一瞬それで二人を許す気になった
「じゃ、そゆことで」
「そ、そうね」
そそくさ、
言って、さっぱりくっきりと一人と一匹は背を向けた
そして、大通りを意気揚々と引き上げていく、何か凄く偉いことをした人のような風情だ
村人は騙されてる、一人と一匹を見逃したような形になった
すぐに気付いたらしいが、追っ手をかけるでもなく、さくらの周りに人だかりを作った
「さくらさん、すまなんだ」
「・・・おきな」
「なんというか、確かに浅ましい限り、鬼だというのに怯えていた」
「・・・・・・しかし、鬼のようなものです、この身体わ」
「いや、もうどっちでもいい」
爺はことさら優しい目をして首を横にふった
「どう考えても、どう比べても、さっきのあの恐ろしい娘から比べれば
あの、無銭飲食はするわ、人を脅すわ、物は壊すわ、口は悪いわ
頭も悪いわ、手癖も悪いし、素行は極悪、自分が生きる為には人を虫のように殺すような
あの悪党と比べれば、たとえさくらさんが鬼であろうと、妖怪であろうと、百倍、数千倍有り難いお方じゃ」
うんうん
村人が、何度も頷く、違ぇねぇ、違ぇねぇ
口々にそうやって言う、恐怖から解放された喜びのせいか
一体感が凄まじい、よほど桜子が怖かったのだろう
というか、悪し様言われ続ける桜子、良夫とさくらが社殿でもめてた時に
いったい何をしたんだか訊ねるのも恐ろしい
「そうだそうだ、さくらさんが居ないと、また、あんな奴が来たときに村は滅ぼされてしまう」
「ああ、考えるだけでも恐ろしい、どれだけの食い物を食い逃げして、どれだけ村を壊したことか」
「俺なんか、死ねと言われたぞ」
村人が次から次へと桜子に対する不平を爆発させていく
次第にそれは、さくらを讃える言葉にすり替わり
「確かに、一度・・・さくらさんをこらしめようと思った、だけど今は違う、間違いに気付いた」
「おきな」
「遅いし、身勝手なのもわかる、申し訳ない、・・・・自分たちが怖かっただけなんだ、悪かった本当に」
「そうだ、ごめんよさくらさん、本当、俺達が悪かった」
「・・・・・・そんな」
「これからも、村をよろしくお願いします」
「お願いします」
「お願い」
「お願いだよ、守り役・・・・さくら様」
手の平を返したと、桜子が言った
確かにその通りなんだが
それでもさくらはうれしかった、静かに頷いて役を引き受ける
嘘ではなく、本当に村を救ったことで、やっと仲間になれた
もしかしたら、あの二人はこうなるのを見越して・・・・
ふと、父御の姿を思い出していた、首の斬れた良夫が復活したのを見て
父御は生きてると、一人で生きてると悟る
自分の為に独りになった情よりも、独りになった父御の寂を
伝わるに、さくらは、静かに涙をこぼしたそうだ
「追っ手は?」
「安心しろ、多分来ねぇ」
「まったくもって、本気で、危なかったわ・・・・・・」
ひたひたひたひた
一人と一匹は小走りに高山から離れていっている
危機から脱した喜びよりも、まだ追われているような
おびえが勝っているのか、ともかく二人
ちらちらと後方を気にしながら走っている
「しかし・・・・・・」
「しかし良かったわ、私、良夫が死んだらどうしようかと」
「な、おい、」
「本当、私、良夫がいないとどうなってたかわかんない、ありがとぉ、感謝してるよー、よしおー」
「猫撫で声で気持ち悪いこと言うなバカ娘」
「だってぇ」
「てぇ、とか言うなっ、っつうか、お前何度俺を殺しかけた、あまつ頭の俺をぶっ飛ばしたりしてたろ」
「演技よ、演技、そうでもしなきゃあたしゃ死んでたもの、全て良夫を信じてたからの技よ
全て心を痛めながら、でもあなたを信じてやったのよ、嘘じゃないわ、私、良夫に嘘なんてつけないもん」
「・・・・・・・・・・・そ、そうか」
「そうよ、そうなの、そうなのよ、はいこの話、オシマイ・・・・それよりさ、さくらの事」
「ああ、あれか」
「凄いわね、鬼の血って、驚いたもんねー」
「ああ、そりゃ、あいつぁかなり上の級数の鬼だったからな」
「は?」
「いや、あいつは強いぞー、本気で怒ったら国が一つ消えるくらいだな」
「おいおい、あんたさっき、あいつは違うって・・・」
「違うわけねーだろ、鬼でなくて、どうやって俺の首落とすんだよ」
「ひ、酷い、騙したのねっ」
「お前が言うな、しかも被害者ぽく・・・・ま、円満解決したからいいだろう」
「・・・・・・・納得いかないけど、ま、いいか、そうよね、私以外に鬼を斬れる人間が居るわけないものねって、あっ」
「なんだ」
「あいつの刀、鬼斬りが二人に」
「諦めろ、つうか心配するなあの村から鬼斬りの噂は外に出ないよ、あいつぁ村に居たがってるし」
「・・・・・・・・釈然としないわね、火ぃつけに戻ろうかしら」
「どうしても死にたいのかお前わ」
心底残念そうに桜子は言う
良夫はとりあえず笑った
「そういえば良夫、あんた首よく繋がったわね」
「鬼の回復力を舐めるな、凄いぜー、なかなか死なないぜー」
「なに?鬼って死なない生き物なわけ?」
「死ぬよ、滅するさ、地にちゃんと還る」
「どうして?首取れても生きてんのに、どうやって死ぬの、弱点とかあんの?」
「教えない」
「な」
「お前、さりげに俺殺すこと考えてるだろう」
「そ、そんなわけあるわけないじゃない、なにいってんの、このおばかさん、いやん」
「だから、平仮名で喋るな、甘えるな、キモいんだよ、教えない、教えてやるかよ」
良夫は笑いながら答えた
不服そうだが、桜子は仕方なしの顔をしている
鬼と小娘が歩いていく、とりあえず、あてはない