鬼斬り
「逃げるのよっ!!!!」
「だけど、お母ちゃん」
「いいから、隠れて早くっっ」
「お、おかあちゃんっ」
どだん、
音がして、蓋を閉じられた
小さな娘は何が起こったかわからない
わからないまま、大きな瓶(かめ)の中に入れられ
入った口を塞がれてしまった
「おかあちゃんっ、おかあちゃんっ、おかあちゃんっっっっ」
叫ぶが声はごわんごわんと、瓶の中を廻って
外に出ているか妖しい
中で暴れてみるが、どうにもならないようだ
「いぎぃぃぃ・・・・おがぁちゃん・・・・・・・う?」
どんどんと、何度か叩く内に
ヒビを見つけた、いや、よく見れば小さな穴が空いている
そこから一筋薄明かりが射して、一本の線を作っている
よしたほうがいい
「え?」
声がした気がする、娘は一瞬ぎくりと冷やし
真っ暗な瓶の中で、幾たびもきょろきょろとした
しかし、果てしない闇の、狭いそこには
自分の他には何も居ない、とりなおしてそっと
穴から外を覗く、母が見える狼狽える母の姿が見える
どごごごおおん
突然大きな音がすると、壁の一部が壊れ
暗闇がもたげてきた
外は夜だ、その闇がろうそくの灯る小さな家に侵入してきた
「おかあちゃんっっ」
叫ぶ声、しかし穴からは出ない、喫驚する母
畏れを顔中に漲らせて、涙を流し
命の限り怯えている、がたがたと人とは思えぬほど
不規則に身体を震わせ、壊れた壁の方向を見ている
何か居る
娘の位置、瓶の中からでは伺えない
だけど、言い得ぬ恐怖がそこに居るのは
母を通して感じ取った、自然、瓶の中で娘も震えだした
恐怖が伝播している、ふつふつと
全身が粟立って、不安が、どうしようもないほど大きく心を喰い始めた
じわり、じわり
闇がにじむ音がする
母はどうしたのだろう、ありったけの恐怖に
もう人である事が苦しいような表情だ
原形を留めておけるのにも、忍耐が必要
自分を留めておくことが、どれほど辛い作業か
「難しくて、イミわかんないいぃいい・・・・・」
娘は、よくわからない言葉が
頭の中を巡るのを必死に散らす、才子きどりの
気取った言葉を、一心に振り払う
自分の持ちうる言葉で、目の前を、見る
つまり、これは
お母ちゃんが、死ぬ
とぷん、ぱしゃ、
液体の音だ、瓶の中の音は一つたりとも外へと漏れないのに
娘の耳には、目の前の小さな穴の外の音が
残らず伝わった、鼓膜を震わせたのか、目で聞いたのか
目の前で、象っていたモノは水風船のようにぽしゃりと爆ぜて
四方に液体が飛び散った、娘の目は
穴から微動だにしない、できない
ふわっ
風が吹いているらしい、壊れた壁のほうから
幾枚もの櫻の花びらが舞い込んできた
そういえばもうそんな時節だった、櫻吹雪が
あれよあれよと、小さな家を塗り替える
幻想的なそれのおかげか、娘はまだ意識を飛ばさず
呆然として、ただ黙っていられる
よくよく目を凝らす、舞い上がる幾千の花びらの向こう
母の亡骸は、未だ人の形をしている
よかった、さっきのは幻だ、まやかしを見たんだ
何度も信じた、念じた、唱えた
ひらひらと櫻が、母の身体いっぱいに咲いていく
積もり積もる 薄紅の花びらが 覆い隠す
「おかあちゃん・・・・・・」
ぴし、小さく呟いた声は
初めて瓶の外へと漏れた、同時に
何かが瓶の存在に気付いた、娘はわからない
のっと、影が伸びてくるのが見えた
穴の中で、ぱちくりと何度か瞼を合わせ
ひたすら凝視する
来る、何か来る、なんだろう
娘の鼓動がやけに早くなってきた
おかしい、暑苦しい、辛い、脂汗が全身からにじんできた
じわじわと衣服を邪魔くさくして、どろどろに身体が熔けるように
全身の脂が抜けてくる
「くるし・・・・・・」
呟いた
と、
突然穴の前に瞳が現れた
娘は音を立てず、驚愕が全身の毛を逆立てさせた
怖い
思わず瓶いっぱいに引き下がった、ぎょろりとした白目に
ぐりぐりと動く黒目が一つ、しかと、狭い闇の中を見回している
瓶の中の様子が見えないのか
すぐ目の前に居る娘を、捉えているようで、その瞳は決して
見ていないようでもある
はわわわわ・・・・・・・・・・・わわ・・・・
娘は両手で口を塞いだ、必死に恐怖に堪える
嗚咽が少しずつ漏れてしまうが、どうにか我慢する
目からはぼろぼろと涙がこぼれ、先ほどから止まらない脂は
とめどなく溢れている
涎が垂れる、なんでだろう、怖いから?全身に締まりがなくなってきてる
足の震えは酷く、腰が抜けて、骨がとろけたように
ふにゃふにゃになっている
こわいよ・・・・・・・・・・・・こわいよ・・・・・・
目玉は依然、ぎょろぎょろと動いている
娘はそれから目が離せない、落ち着いて、押し殺して
自分はここに居ません、私は空気よ、ほほほ、空気は見えなくってよ、ほほほ
何度か心で叫ぶ
ちょろちょろちょろ・・・・・・・
あうあ・・・・・やばい・・・・
弛緩が過ぎてる、漏らした
まずいよ、恥ずかしいよ、怖いよ、助けて、お願い
心臓はうち破るほど大きく膨らんでは、破裂し血を巡らせている
その度にばくばくと、揺れる身体が酷い
ぱち
覗く目が瞼を閉じた、途端
瓶の中は真っ暗になった、白目が無いだけで、瓶の中は
何も無い、真っ暗な魔境だ
どぉ、疲れが緊張が一気に切れて、味わったことのない疲弊の波を覚える
助か
ギヨッッッ
!!!!!!!!!!!
再び開いた瞳と、完全に視線が交錯した
瞬間、全身の力はとうとう全て抜けていった、ずるずると
自分自身が見えない管から、魂を吸い出されていくような不安定
もう全身が自覚できない、どろどろになって熔けてしまいそう
気を失ったんだろう
こてりと死んだようにして、まさに、事切れた
朧気に瓶が割れる音が聞こえ真っ白な光りがやってきて、
ぐにゃぐにゃになった身体を抱き起こされると
櫻がともかく、薄紅色を載せて舞っていたような気がする
覚えているのは
それに埋もれる母親の死骸と
植え付けられた恐怖
目の前に自分を抱き上げる、大きな人の形
鬼だ、鬼が居た
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「てな事を聞いた私は、ほら、義侠心に打たれたってわけよ」
「いや、イミわかんねーし」
長い昔話をし終わると
甲冑を纏った、侍姿の娘は、満足そうにうなずいた
側に居る大柄の男は、さっぱり要領を得ていない様子だ
「なんでわかんないのよ、このうすらトンチキ」
「だって、それでなんで、お前がわざわざオニギリなんてなりたがる・・・・」
「シャーーラーーーップ、このアンポンタン、誰がオニギリよ、鬼斬り、お、に、【き】、り!濁らないのっ」
娘は噛み付きそうな剣幕で男に言い寄った
どんどん、と何度か地を踏みならし、睨み付ける
男は困った様子で、それを適当にあしらう
端から見ても、いったいどういう二人なのか皆目見当も付かない
「なんでわかんないかな」
「なんで義侠が出てくんだよ」
「だって、うら若い娘が母親を殺されて、その上かどわかされたのよっ!!」
「されたのか・・・・」
「多分」
「多分かよ」
「だってそうじゃない、その子曰くー、その後なんだか色々触られたような感触と
はぁはぁ言うような息づかいがあったー、とかなんとか言ってたもの、操を奪われたに
違いないじゃない、かわいそうに・・・・ひいーん」
バカじゃねぇのか?
男は、真剣にホンモノのバカを見る目で、慈しみの視線を注ぐ
可哀想に過去に辛い目にあったから
そういう、得体の知れないバカ話に付き合わされてしまっているんだね
そんな具合で、男はしげしげと目の前で、すすり泣く生き物を見る
ひんひんひひーん、て
「馬っぽいな」
「誰がよっ!!!っていうか、文脈おかしいわよっ、聞いてたの?今感動するとこよ?なんで馬なの
っつうか、誰が馬よっ」
二度目の猛抗議、うっさいうっさい黙れバカ女
そういう加減だけど、そう言ってしまうと、いよいよ取り返し付かないくらい
ヤな事になりそうなので、うまいこと男は繕った
なんにせよ、この雇い主と喧嘩をしているわけにはいかない
そう、二人は、雇い主と雇われ主の関係だ
娘が雇い主だ
鬼とやらを斬る為に、味方を探していた
そこへ、この男が名乗りを上げた
いや、別に上げたわけじゃない
たまたま、道ですれ違った時に
「へいお兄さん、あたしと、いいことしない?あはーん」
「新手の宗教か?」
すぱかーん☆
とかいうような感じだ、感動もへったくれもない
男は夜鷹にしては、頭が悪すぎる女を不憫に思ってか
他の本気で妖しい男にどうにかされる前に、助けてやろうと
話を聞いてやったのが冒頭
娘曰く、
昔どっかで聞いた話から、鬼を懲らしめてやる必要があるという義侠心に打たれた
んだ、そうだ
「バカだろお前さん」
「バカって言うな、バカって言う奴がバカなんだ、ばーかばーか」
驚くほど子供だな
珍しい生き物を見るような目で、男は目の前の雇い主を見ている
舌をべろべろ出しながら罵る輩など、今日日なかなか見られない
珍妙だ・・・・とか思いながら男は歩く、随分と山の中まで来ている
「しかし、オニギ・・・」
「オニキリ!」
「そ、そうそう、鬼斬りって言えば、相当な名誉だ、お前みたいな小娘にできるのかよ」
「そーーーなのよ、だから、味方を付けて、そんで手に入れるのよ、その栄冠を、その栄誉を、その称号を」
目を輝かせて、高らかに宣言する娘
その欲望にまみれた面構えから、男は全てを悟る
「なんだ、お前、名誉欲か、結局」
「な、気付いてしまったわねこの野郎、知ったからには、後戻りはできなくってよ?」
「いや、そんな真面目な目ぇされても・・・っつうか、お前勝手に喋ったんじゃねぇか」
「っるさいわよ、うきぃ〜〜ーー」
「猿っぽいな、今度は」
「誰がよっ!!!!!」
飽きないなぁ、男はわめき散らす小娘を見てそう思った
からかい甲斐がある、気の毒だがそういう性質の少し小頭が不自由な娘らしい
なるほど、義侠心とやらは適当な建前で、鬼斬りという称号が欲しいようだ
古来から、熊殺しだの、虎追いだの、獅子喰いだのと
強さに対する称号というのがある、それを名乗るだけで立派なステータスになるし
今後、流れモノ稼業をしていくには便利な代物だ
娘も大方、その称号で楽して金儲けと思っている口だな
二人が今居るのは、鬼が出ると噂の山だ
最近よく、村に鬼がやってきて畑を荒らし
牛や馬を喰っていくという話があるらしい
幸い村人には被害が無いらしいが、それもいつまでかわからない
そんな戦々恐々としていた所、鬼退治に金300と
まぁ、2ヶ月くらい遊んで暮らせる金を積んで、鬼退治を募集したらしい
「なぁ、前に何人もやってんだろ?」
「らしいわ、でも一人残らず帰ってきた試しが無いんだって・・・・・」
「見つからないから、逃げたんじゃねーのか?」
「でもないらしいのよ、ほら、遺留品みたいなのは見つかってるらしいから、たいてい血にまみれて」
すと、言うと表情が落ちた
男は驚いて娘を見る、普段はバカっぽい顔をしているが
時折こうやって真面目な顔になる、そうなると、なかなかいい女だ
つくづく
「ほっておかなくてよかった、今頃大変だったなお前」
「はぁ?いきなり、何よ」
遊女にされてたら、そこそこ人気出たかもしれん
男はそうやって心配してやった、つれづれは続く
森が晴れた
「綺麗なもんだな、こりゃ」
「櫻・・・・・・・・本当、きれい」
山桜が咲き誇っている
薄紅の花と若葉が茂り
いいようの無い景色を広げている、立派な世界だ
「?どうした?」
「いや、思い出したの・・・・ほら、聞いた話、櫻の花があったって」
印象深い声、なんとは言い難いが重たさを感じるそれは
薄暗い表情で呟かれた
男は少し思う、しかし口にはしないで先を促した
娘も賛成して、また深い中へと沈んでいく、二人もくもくと
「ところでよ」
「なに?」
「鬼ってのは・・・・・・・・・本当に、そんなに悪いコトをするのかな」
「?なに、いきなり」
「いや、ほらよく聞くけどさ、本当なのかって・・・・・なんてーかな、鬼にも言い分があったりしないかなーとか」
「アンタ、バッカじゃないの?」
「てめ、今、本気でバカだって言いやがったな」
「だってそうじゃない、げんに、下の村では家畜を喰われたのよ?一家が困ってるのよ?牛が居ないと畑も耕せないのよ?」
「いや、小さいじゃん、悪事が鬼の割りに小さいじゃん」
「小さい事ないわよ、あんたほとほと経済ってのがわかってないわね、牛一頭でどんだけ養えると思ってんのよ」
「まぁ、そりゃそうかもだけど、それくらいは、ほら、野党とかでも、っつうかそっちのほうが」
「どっちでもいいのよ」
娘は、ぽつん、と言った
目は妙な光をたたえている
男はじっと、その瞳を見る、睫毛が長いな
「正直、鬼が悪いとか正しいとか、そんなのはどうでもいいの、鬼さえ斬れば、みんなそれで喜ぶんだから」
不敵だ
名誉欲が目の前にごろごろとしている表情だ
山師、そういう顔つきをしている
男は少し不快になった、大義名分なんてのはどうでもよく
自我の為に、無実の異形を葬る
そういう奇天烈な事が、世の中まかり通っているし
目の前の若い娘すら、そんな事を思っている
「有り難いじゃない、ほら、鬼みたくそもそも、人間とは違う生き物がうろついてるだけで気味悪いんだし」
「そうか?」
「実際そうだっつてんだから、いいのよ、それさえ斬ればみんなハッピー、ステキでやっぴー、
あたしを立派にしてくれたらどっちだっていいのよ本当、些末な問題」
「やっぴーはどうかと思うぞ、というか、それって可哀想じゃないか?」
「・・・・・何?やたら、鬼に肩入れするわね」
「いや・・・・・・別に」
娘は、嫌悪の視線で男を見る
進む内にまた、櫻の森に出たようだ、そうそうと咲いている姿は
本当可憐以外の何者でもない、ただ、ぼんやりと明るく灯った
灯籠のように、木は並んでいる
「ともかく、私は鬼を斬るの」
「そうか、いい奴でもか?」
「あはは、バカじゃないの?鬼にいい奴が居るわけないじゃない、鬼は悪い奴よ」
「・・・・・・・・・・そうなのかな」
「そりゃそうよ、うちの婆ちゃんも言ってたもの、それに」
風が吹く、櫻が舞った
「若い娘は、母親を殺されたのよ、悪い奴に違いないじゃない」
その顔は、どういう事だよ
男はそれ以上言わなかった、男にも言い分があったんだが
言う前に、事態は急転した、ちと、忙しくなった
がざがざがざっっっ
「!!!!!!来たっ??」
娘はすぐに刀を抜く
ぎらりと、生々しい色が晒される
男もすぐに構える、槍を手にしている
音のした藪を注意深く観察する
ハンパじゃなく大きな生き物が動いた感触だ
「さぁ、来たわ、とっととやっておしまい」
「って、押すなバカっ」
ずわっっ!!!!!
揉めてる最中、でかい物体は藪を飛び出した
間一髪で二人それをかわす、危ない
昼のお天道様の下、現れた生き物
「て・・・・」
「熊じゃんっっ!」
娘が、つっこんだ
同時に男が、熊のパンチにふっ飛ばされた
熊のパンチて、正直、洒落にならん
男の吹き飛びっぷりから見るに、死んだかもしれない
娘、焦る
「冗談じゃ・・・・・・」
すぐに
「きああっっ」
がうんっ
爪が頭上をかすめていった、直撃なら
上半身はもげて死んでる、いけない
アサハカだった・・・・娘は、色々反省をするが
今はそれどころじゃない
「くのぉおぉ」
ずんっっ
乾坤一擲、刀が熊の脇を捉えた
確かな手応え、そして、ずぶりと血が爆ぜた
娘、頼りなさげでも、実際はそこそこの使い手らしい、が
「って・・・・・くそ、重いっ、固いっっ・・・抜けないじゃな・・・」
ぶぅんっ、どぉっっ
もたつく娘を、熊の左フックが捉えた
頭に、ボーリングの玉が当たったみたい
凄まじい衝撃が襲った、やばい
脳味噌が出ちゃうっ
末期的な事を感じながら、それでもまだ、生きたまま、ごろごろと地べたを這い蹲った
「やばいやばいやばい・・・・・うわあああはわわわわああああ・・・」
ぺたぺたぺた
思うように身体が動かない、すぐ後ろに荒い鼻息
はぁはぁと獣特有の息づかい、迫ってくる恐怖
とくり
怖い、怖い、怖い、怖い・・・・・
血の気も失せて、娘は振り返ることすらできない
重い一撃で、内臓が悲鳴を上げている
ずくずくと受け身を取り損ねた背中から、殴られた頭から痛みが絶え間ない
死ぬ、死んじゃう、ヤダよ、やだよ
あわてふためき、よたよたと四つん這いは逃げ続ける、ただ遅い
逃げる娘に、熊は、追いついた
影が重なる
「助けて、助けて・・・・だ、だれかぁぁ、おかああちゃああんっっ!!!」
っっっっっっっっっっどむぉっ!!!!
あうあぁぁ・・・・・・・・・・・
ぶるぶると、涙を流しながら
頭を抱え小さく震える姿は、相当女の子してる
「ったく、仕様がねぇ」
「ぅえ?」
天から声がした、凄まじい衝撃の音はあったが
娘に傷一つない、大きな影がのっと伸びている
おどおどしながら、自分を確かめそして伏せた顔を上げる、
ゆっくりと陽光を背にして、目の前
鬼だ、鬼が居る
「どいてろ、邪魔だ・・・・・・・ったく、鬼斬り目指すっつうから、そこそこ使えると思ってたが・・・」
ういせ、そんな荷物をかたすような調子で
暴れ回った熊を、男はさくさくと片づける
猫を扱うように首もとを掴み、片手で持ち上げる
ひょいと、浮き上がる巨大な獣
「さて、おいたが過ぎたな、度し難ぇ・・・・・まぁ、成仏しろや、熊よ」
ど、
と首を掻いた、村を脅かした「鬼」は死んだ
血がどばどばと流れる、じっとそれを見ている男
いや、鬼
「あわわあああ・あ・・・ああああ、あんた・・・」
「・・・・・・・・・・」
黙ったまま、へたりこんだ娘を鬼はじっと見つめた
凄い目をしている、娘は落ち着いて過去を振り返る
そうだ、鬼なんて悪い奴ばっかりで、殺しても困らないとか
凄いステキな事を言った気がする・・・・・・
「さて娘さんよ」
のっと、鬼は近づいた、いや
よく見ればやっぱりさっき歩いていた男だ
一瞬だけ、凄まじく大きな人の形に見えたが
やっぱりそこそこの大男でしかない?
錯乱する娘に
「いい鬼ってのが居たらどうするって?」
にやりと、薄気味悪いくらいに顔を崩した、目が笑ってない
男は、懲らしめるでもないが、色々の言い分を聞かせようと思っている
が、しかし、娘は自分をすっかり取り戻していた、次の動作は
彼女にとって、最速だったろう
「うぉっしゃあああっっ、もらったぁぁああああああああああ”””””””!!!」
ゴインッ☆
「ってぇっ!!!!い、いきなり、何しやがんだ、この小娘っ」
「れ?斬れない?・・・っかしいなぁ、て、ちょっと動かないでよっ、刀外れるじゃないっ、黙ってあんたが斬られたら
あたしゃめでたく、鬼斬りになれんのよっ」
「ちょ・・・・まて、このバカ女、てめ、今までの話の流れわかって・・・」
「もういっちょああああああっっっ」
ゴキンゴキンゴキンッッ☆
「ってええええっっ!!!!!」
「うわぁっ、刀が曲がったぁぁっっ、最低っ、あんたちょっと弁償なさいよっ、こら、鬼、待て、斬らせろっっ」
「お、鬼か、お前わっ」
「誰がよっ」
ゴインッ
フルスピードで娘の出した結果は、結局名誉欲だったようで
かくして、娘の刀はぼろぼろになりながらも
なんとか鬼に切り傷を負わせたらしく(まさにかすり傷だが)
無事、鬼斬りを名乗ることとなったらしく
「はっはーんっ、鬼斬り様のお通りよっ!ほれぃ、はきはき歩けぃ♪」
「おいこら、バカ女、お前、義侠がどうしたとか、親の仇とか・・・」
「はぁ?誰が仇よ、あたしゃ、ありゃ聞いた話だっつったでしょ?あたしにとっては、鬼なんてのは」
よくてもわるくても
私を立派にしてくれたらいいんだから
娘の台詞
それをどう受け取ったのか
鬼はしばらく、娘と旅を共にする気になったそうだ
「そういやお前、名前は?」
「先に名乗りなさいな」
「俺か・・・・・・・・良夫だ」
「驚くほど普通の名前ね」
「うるさいな、で?」
「ん、桜子、鬼斬り桜子よ」
「また、似合わねぇ名前だな、全国の桜子さんに謝らな・・・」
「るさいっ!!!」
ごいんっ☆
音が響く、歩く二人に櫻の花が、風に舞う
マタタビモノの二人が征く