「片想い」ーー前編ーー
・・・・・・・・・・・・・・しぱっ、・・・・・・・かしゅっ
「・・・・・・・・・・・・」
ぴんと張りつめた空気を切り裂き、矢が放たれた、しかし的を外した
「ふう、・・・・・・・・」
弓をおろし、一息つく、白く丸い息が広がり消えた
「・・・・・・・・・・いずみさん?」
「!!・・・・・・・・・・・・な、なんだ、陸か」
陸の姿を見ていずみが、やや大きな驚きを見せた
「制服で射るなんて珍しいですね、演武でもあるんですか?」
「・・・・・演武か、・・・・・・そうかもな・・・・・・大切なコトを控えてるんだ」
少しこわばっていた、表情がいくぶん、穏やかになった
その様子を見て言葉の意味に気付き、陸はすぐに立ち去ろうとする
「・・・・・なあ、陸!・・・私って・・・・・」
ふいに、声をかけたが、言葉が途中で切れるいずみ
「大丈夫ですよ、いずみさんなら」
静かに陸が返した、いずみの表情がぱっと、明るくなり八重歯を見せた
「・・・・・・不思議だな、お前に言われると、安心する・・・・」
陸はその言葉には何も答えず、そこを後にする
・・・・・・・・・・・・しぱっ、かしぃっ!!
陸の背中で次の矢が、的を貫いていた・・・・・
この日、八十八学園の3学期が始まった
陸は、就職試験をパスし、静かな三学期を送った
あきらが洋子と付き合いだし、紹介されたりしていたが、
いずみのコトはわからず、また竜之介のコトもわからない内に
卒業し、陸は就職のため八十八町を離れた、そして・・・・・
「・・・・・・・・・・ここが、新しい街か・・・・・・・」
陸が、引っ越してきた部屋から、外を眺める
「さて、どうしようかな・・・・・」
ぴんぽ〜ん、
「すいません、速達ですが」
配達屋から郵便物を受け取る陸、とりあえず開けてみる
がさがさがさ、
「・・・・・・・・・・・・・な、なにーーーーー!!」
【採用取り消し 加藤 陸 様】
一枚のぺらぺらした紙に、そう書かれていた、当然切れる陸
「じょ、じょ、冗談じゃねぇ!!っざけんなあああああ!!
この、・・・ば・・・・って・・・・くおおおおお!!!」
怒り狂い既に、何を言ってるかわからないが、叫びながら部屋を飛び出した
どたどたどたどたどたどた・・・・・・・もの凄いスピードで、道を駆け抜ける
どたどたどた、ぴた・・・・・・・・・どたどたどたどたどたどた・・・・・・
途中赤信号で止まったが、会社に走り込んだ
「・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・、すいません、責任者を・・・お願いします」
血走った目に、息切れしながら陸が、受付嬢に言う
「君ねえ、間違いだったんだよ合格、悪いね・・・・」
「いや、その間違いとかそういうので、済む問題じゃ・・・・・・って、おい!」
ぐあしっ、責任者に食ってかかった陸だったが、いかついガードマンに
抱えられ、外へ放り出された、その後、2時間ほど抗議したが、無駄に
終わりふらふらと、新居へ戻った・・・・・・・・・うなだれるというか、
燃え尽きている陸、部屋の何もない所を見つめ
「・・・・・・・お、俺が何をした?・・・・・・有名企業だからって選んだバチ?
・・・それとも、背が低いから?・・・・・そうか元柔道少年だからか・・・・ふふふ」
うすら笑いをうかべ、へらへらとわけのわからないコトを呟いている、こうして
新しい部屋での初めての夜を、しくしく泣き明かすこととなった・・・・・南無
ちぃ、ちぃ、・・・・・・ちちちちちちち・・・・・
外では、朝日に照らされ小鳥達が朝の挨拶をしている、その声で
ゆっくりと、体を起こす陸、夢から覚め、悪夢が始まるような感じを受けている
「・・・・・・とりあえず、朝飯は食べないとな・・・・・ふふ」
悲しくたって腹は減る、もそもそと着替え、食料を求めに外に出る
「・・・・・食費も危なくなる・・・・早いところ職を探そう・・・・・」
ぼーっと、赤信号を待つ、今回はいつもと違いただ歩きたくないだけだが
「・・・・・・・・?ねえ、君・・・・・・・?ねえ・・・・・こら!!」
ばきっ、突然殴られる陸
「あのね、そんなに暗い顔してると、ロクな大人に・・・・・・」
どっかで、聞いたような台詞が陸の頭を上げさせた
「・・・・・・・・・へ?・・・・・ああああああああああ!!!」
「ああ!!ハレーカットの女!!」
ばぐっ!!
「ポニーテールよ!!・・・何?温泉からつけてきたの??」
「ば、馬鹿いえ!!どんだけ経ったと思ってんだ、俺はなあ・・・・」
つっかかろうとしたが、ふいに言葉から生気が抜けていく
「俺は?」
美沙が不思議そうに、元気がなくなった陸を見る
「・・・・・・・・・・・・なんでもない、じゃあな、暴れ馬さん」
ばごっ!!
「ぶっとばすわよ・・・・・わけのわかんないコト言わないで何があったか話してみなさい
・・・・・・ちょっとくらいなら相談にのったげるわよ」
美沙が、不器用に心配している所を見せた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・職を斡旋してくれ」
陸が力なく、そう告げる
「職?・・・・・・・なに?この時期にまだ決まってないの?何してたの!?」
美沙が驚き、声を大きくする
「お、俺だって、好きでこうなったんじゃ・・・・・」
ぐうぅ〜・・・・・・・・〜
言い訳しようとした陸だったが、腹から残念な音が流れ消沈する
「・・・・・そう、朝御飯食べる余裕も・・・ひもじいのね」
哀れみの目を向け、美沙が陸の手をとる
「・・・・・なんか色々、ありそうだし、どっかで、話聞いてあげるわ」
と、歩き出した
「・・・・・・・・なんか、楽しんでないか?」
そう聞くが、美沙はさも楽しそうに喫茶店へ、陸を連れ込んだ
からん、ころぉん♪・・・扉についてるべるが、軽やかな音を
奏でる。ずいぶんと、慣れた場所なのか、美沙はさっさと
席をとって、陸を座らせ早速聞く体制になった
「・・・・で?んと、温泉での私とのコトが忘れられなくて、就職活動
失敗したんだっけ?」
美沙が、陸に聞く、本人いたって真剣なようだ
「どこをどうしたら、そうなるんだよ・・・・、ちゃんと職は内定してたんだよ」
「内定取り消し?・・・・・・社長でも殴ったの?」
「なんで、そんなコトせにゃならんのだ!!」
「いや、男ならそれくらいやりそうだし・・・・じゃあ、社長秘書に手を・・・」
どういう男と付き合ってきたのか、疑わしく思う陸
ヒートアップする会話に、ふと水が入った
「久しぶりじゃない、元気してた?」
コト、水を置きながらウエイトレスらしき人が美沙に声をかけた
「・・・・・へー、美沙、男の趣味変えたんだ・・・・・」
ウエイトレスが陸を見て言った
「な・・・!!ば、馬鹿!!なんでこんな奴と・・・違うわよ!!」
美沙がものすごい剣幕で否定する、陸も続く
「そ、そうですよお、こんな馬女と・・・・・」
ばごおっ!!寸分の狂いなく、美沙の拳が陸の横っ面をはじく
「あははははは、いい雰囲気じゃない、面白いね君」
美沙の友達らしき、ウエイトレスが陸にそう言った
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
瞬間、そこにいずみの面影が見えた気がした、しかしすぐに
そうではないと思った、黒髪ショートだが、ぴんと真っ直ぐな
髪はいずみとは異なる、そして顔立ちがずっと大人びている
・・・・・年上だからではない何かがある
「?・・・・・どうしたの?何?」
その女性が不思議そうに陸に聞く、慌てて陸が真っ赤になった顔を伏せる
美沙がそれを見て小さく笑った
「そうだ、あたし、オレンジジュースで、彼にサンドイッチでも与えてやって」
美沙が、ショートの女性にそう言って、この場から離した
「・・・・・さて、さっきの続き・・・・・・」
「うん・・・・・・・・」
「内定が取り消しになったんでしょ、てことは何か不祥事でも起こしたの?」
「うん・・・・・・・・」
「そっか、じゃあ内定取り消しも仕方ないのね・・・・」
「うん・・・・・・・・」
「???・・・・・・いやに、物わかりがいいのね・・・・」
「うん・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・陸君?」
「うん・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・私って、やっぱかわいいよね♪」
「ううん・・・・・・・」
ばごっ!!、もう、ネタ合わせでもしたように、陸の微妙な行動に
美沙のつっこみが炸裂する、しかしものともせずに美沙に聞く
「・・・・・・なあ、あの人・・・・」
「あんた、・・・・・・今の今あったばっかりで・・・」
美沙が、陸に呆れる。陸には珍しいコトだ、女嫌いが治ったわけでもない
おそらく、あの人と喋ろうものなら、また動揺して何を喋るかわからないだろう
しかし、何か惹かれる・・・・・・・・・そう思っての行動だった
「・・・・黒川さとみ、年は私と一緒の二十歳、・・・・・・でもね、
今はダメよ・・・・・・・・・、多分、相手にされないわね・・・・・・・・・」
美沙が、水を含みつつ視線を陸と合わせないで、呟いた
いきなりの、失恋決定発言に、うろたえる陸
「とにかく、そんな話より、あんたの話よ、あんたはどこ内定してたの?、この近くなんでしょ?」
美沙が無理矢理、話を変えた
「ん、あ・・・・・・・・・・相原建設だよ・・・・・・」
「!!」カチャ、・・・・・「!さ、さとみ・・・・・・・・」
陸が答えたその後ろに、さとみが注文したモノを持ってきていた
それを、見て美沙がひどく狼狽した
「馬鹿、もう、なんでもないわよ・・・・変に気をつかいすぎよ、美沙・・・」
さとみが、注文の品を二人のテーブルに降ろす
明らかに、様子がおかしい二人をじっと見る陸、その視線に気付き
さとみが、声をかけた
「サンドイッチちょっと、おまけしといたから、ゆっくり食べてってね」
「え・・・あ・・あ、は、はい、その、・・あ・・ありがとうございます」
うっすらと、笑顔を向けてカウンターへ戻っていった
思わず見とれてしまう陸、視線をサンドイッチに戻すと
野菜サンドと、卵サンドの他に、特別に作られたフルーツサンドがある
おそらく、これが、おまけなのだろう、ちょっと幸せになる陸、だが
「へー、おいしそうじゃない・・・・・・・・はむ、もぐもぐもぐ・・・・」
「な、何しやがる!!!この、ば、・・・って、くをををおおおお!!」
そして、追い出されたのは言うまでもない
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・あたしのおごり、だったんだから、いいじゃない・・・ったく」
「・・・・ごめん、でも、あれは・・・・あれは・・・・・・」
陸が泣きそうな顔で、美沙を見る、ちょっとうろたえる美沙だったが
「と、とりあえず、バイトなら、あそこの工事現場がいつも募ってるわ
食いつなぎながら、新しい仕事みつけなさい」
と、優しい所を見せて、どこかへ行ってしまった
陸は、言われた通りに、工事現場へ向かうことにした
「・・・・・さとみさんか・・・・・相原建設と何かあったのかな?・・・、
っとそんなことより今は、先のコト考えなきゃ・・・」
この時、先に明るいコトしか考えるコトが出来ないほど、上機嫌だった・・・・・・・・
たたたたったたた・・・・・がががががっっがが・・・・・・・
たたたたた・・・ととと・・・・「よし、これくらいにして昼にするぞ」
工事現場の音が鳴り止み、労働者達が、一服し始めた
その中で、いそいそと現場から出ていく者がいた、陸である
「・・・・・・この時間だと、すいてるし・・・・・今日はBランチいけるな」
現場から走り去りながら、自分の財布の中身を確かめる陸
からぁん、ころん♪
「あ、いらっしゃい陸君、今日は?」
「あ、あと、・・・あのBランチ・・お願いします・・・」
走ってきたからでもないのに、顔が赤らむ陸
「マスター、陸君にBお願ーい」
と、さとみが注文を告げる、店内はちょうど、一段落ついた
ようで、客は、陸しかいないようだ、さとみが水を持って陸の
テーブルに来て、前の席に座った
「え!・・・・・・」
「あ・・ごめん、ちょっと疲れたから座らせてね」
そう言うと、静かに目を閉じて、身体をのばした
「〜ーーーー〜〜んん・・・・っと、ふう、疲れたぁ」
「お仕事、大変ですね・・・その、いつも、忙しそうですし・・・」
陸が、思わず声をかける、それに、さとみが静かに答える
「・・・・でもね、私、この仕事好きだし・・・そんなに気にならないんだ」
そう言って、きれいな笑顔を陸に向ける
「さとみちゃーん、Bできたよお」「あ、はーい・・・」
さとみが、Bランチをとりにカウンタへ移動する、別の客が入ってきた
陸に品を渡すと注文をとりにいってしまった
・・・・陸はあれから、ほぼ毎日こんな生活を続けている、仕事を
探してないわけではない、どこへいっても断られ続け、打ちひしがれる
けど、ここで、さとみに会うだけで、それもそんなに気にならずにいられた
・・・・・・・・・・・・・・この日は雨が降っていた・・・・・・・・・・・・・・・
「あぁ、こいつはダメだな・・・・おし、今日の作業は中止だ!大雨になる
らしいから、気いつけて帰れや」
現場監督が、作業員にそう言った、降りしきる雨に皆が音を上げてる時
だけに、歓喜の声をあげ、みんな帰っていく
「・・・・・・・ちょうどお昼・・・・・混んでるかなあ・・・・・・・」
早く終わられて困る奴も珍しい、傘はないので、走って行くことにした
からん、ころぉん♪
「あ、いらっしゃい、今日は早いね」
心配ははずれ、この雨のせいか客はいなかった、
きょろきょろする陸に、さとみがタオルを手渡した
「はい、身体拭かないと、風邪ひいちゃうよ・・・・・注文は?」
「あ、えと・・・・・Cランチを・・・・・その、これありがとうございます」
タオルの礼を言い頭を拭きながら、いつもの場所へ移動した
「・・・・?・・・・なんか、いい匂いがする」
タオルから、うっすらと何かの香りがする
(さとみさんの、香水の香りかな・・・・・・・・)
「はい、お待ちどう様・・・・また、前いいかな?」
陸が香りになんだかやられてる内に、さとみが品を持ってきた
「え・・ああ・ど、どうぞ・・・その、気にしませんから」
慌てて、タオルから顔を離し、箸をとり食べ始めた
「今日は、暇なのよ・・・・・・よく、降るわよねぇ雨・・・・・・」
「ぼ、僕も、この雨で仕事が早く終わったんですよ・・・・」
「そっか、今現場でバイトだっけ・・・・・・・・?あれ、陸君、親は?」
「・・・・・・・俺一人なんですよ、親のコトは知らないし、妹がいたけど
子供の頃事故で死んじゃったんで、天涯孤独です・・・・・・」
「え・・・・ご、ごめんね」
さとみが、眉を寄せ謝る
「あ、いいっす、もう気にするような年でもないですから」
陸が、笑ってそう言い、また食べ始めた
「・・・・・・・・・、元気ね、陸君て・・ねえ・・・本当に美沙と何も・・・」
「ないです!!!!俺は、・・・・・」
さとみが言い切る前に、光の速さで否定したがとんでもないことまで
喋りそうになり、あわてて口をつぐんだ
からぁん、ころん♪
「ふー、ったく何よこの雨・・・さとみ、コーヒーね」
タイミング的には、非常によい時に美沙が入ってきた
「・・・・あ、あんた、仕事見つかった?」
どよっ、陸が沈黙する
「誰が落ち込めって言ったのよ・・・・・でも、難しいわね、確かに」
「・・・・この町って、少ないのよね会社って・・・はい、コーヒー」
陸の向かいに美沙とさとみが座る形になった、他の客もいないし、会話が自然と弾む
「さて、私もさぼってばっかりじゃ叱られちゃうし・・・・・」
さとみが席をたって、カウンタの方へ行ってしまった
「・・・・・・・・・毎日来てるの?」
それを見計らって、小声で美沙が陸に聞く
「・・・・・・・うん」
小さくうなづいた
「そう・・・・・・・・・・・」
美沙はその答えに困るような顔を見せたが、コーヒーを飲んで目を伏せた
からんころぉん♪
「は〜い、いらっしゃいま・・・・・・せ・・」
しとしとしとしと・・・・・・外の雨の音が中に響く、扉が開いたままのようだ
雰囲気が明らかに一転した、そして空気が静止しているように感じる
「どうした、さとみ、何をそんなにおどろいているんだ?」
陸がその声に酷く嫌悪感を覚えた、振り向くと男が一人立っている
その前で、さとみがおびえるように身をすくめている
「な、なんであんたが・・・・・・・・・健二・・・」
美沙がそう呟いた