片想いーー後編ーー


しとしとしとしと・・・・・・・扉が閉まり、雨の音が消える、いやなほど

音が研ぎ澄まされる、そして沈黙が破られる

「・・・・注文はどういたしましょう」

さとみの声がわずかに震えている、様子を見る陸

「ふ、庶民のコーヒーを一つ・・・・・砂糖の数は・・・おっと、言わずともわかるな・・・・・さとみ」

そう言うと、陸のテーブルの横を通る、見下すような目線が

テーブルをなめ回す、そして美沙を見てその口が開いた

「・・ほほう、庶民らしく、つつましく生活してるようだな・・・・・・

あの馬鹿とはもう別れて、若いつばめを連れているのか?」

「・・・・・・ふん、やあねえ心が貧しいと、性格が歪むのね・・・・」

美沙が、何かをこらえながら、そう言い返した

その様子に、口のはしをあげ、

「そうか、あの馬鹿とは別れたのか・・・、こいつはいい、実に愉快だ

はははは、はーっはっはっっは・・・」

「お願い、席に座って・・・・・」

さとみがそう言った、少し遅ければ陸がどうしていたか分からない

いったんその場が収まる、陸の中に怒りと疑問がうずまく

(・・・・さとみさん、あの男、そして美沙とその彼氏・・・・・・・

何かあったのか?・・・・・さとみさんと・・・・・あいつが?・・・・・・)

さとみが、コーヒーを健二の所へ持っていく

「・・・・・・どうして、戻ってきたの?」

「僕のような天才には4年もの時間は無駄でしかないんだよ、

卒業を決めてパパの会社へ入ることになったのさ・・・・特別待遇でね」

ぐいっ、そう言ってさとみを無理矢理引き寄せた

がたっ!!「!!!」
「待って、こらえるのよ!!」

その態度に一瞬殺意に似たものさえ浮かんだが、美沙が、止めた

「ダメよ・・・・・・今は、さとみに迷惑かけたくないでしょ」

「しかし・・・・・・・・・・・」
ふと美沙を見ると

美沙も何かをぐっとこらえているのがわかった・・・・

陸も心を無理矢理落ち着けて言う

さとみを引き寄せ、健二は話続けている

「まあいいさ・・・・・さとみ、そうだ僕の秘書にしてやってもいいぞ

・・・・・こんな小さな喫茶店で働いていることもない」

「・・・・・・あなたには小さく見えるかもしれないけど、私には大切な場所なの・・・・・・そんな気はないわ」

さとみの答えに、薄ら笑いを浮かべ

「ふ・・・・、さて僕も忙しいんでね、帰るとするよ」

と立ち上がり、店を出ていった、人を見下した目を据えて・・・・・

 

・・・・それから、さとみの様子がおかしくなった・・・・

あれほど、楽しそうだった仕事も、何か物憂げな目を浮かべ従事しているだけのような感じに・・・・

そして、不定期ながら店に、さとみあての電話が何度も入っていた・・・・・

その電話をとる度に、笑顔が寂しさを増していった・・・・陸には苦痛だった・・・・・・・、

 

ある日がやって来た

「・・・・・・夜勤はつらいよ、早く仕事見つけないとなぁ」

もう、深夜にも近い時間、工事現場から陸が立ち去る

「・・・・さとみさん、元気ないな・・・・俺じゃどうしようもないのか・・・・・」

自分のふがいなさと、またその状況を打破しようという気力もない自分に、腹が立つ

・・・・・相原建設の前を通る

「・・・・・?・・・・・・・どうして?」

陸の目に、さとみが映った。時間的には、高校生が寝る時間女一人で、いるには少々危険の伴う時間だ

・・・・そんな時間にさとみが、相原建設へ入っていった・・・・・・陸の足が止まる

(・・・・・・・・・・・・・どうして?・・・・・・・なぜ、こんな時間にさとみさんが、相原建設に?・・・・・・・・なんで・・・・)

一つすぐにでも、出る答えがあるのにその答えは敢えて

出さない、いや、出したくないのが本音か・・・

色々考えている間に、もう、1時間半ほどが過ぎた・・・・・

扉が開き、さとみが出てきた・・・・・・泣いている・・・・・

(・・・・・・そういうコトなのか・・・・・、だとしたら・・・・・・しかし

俺に何が出来る・・・・・・奴を殴るのか?・・・・・違うそうじゃない

違う何かがあるはず・・・・・・・・今は・・・)

「確かめなきゃ」

追う陸、さとみは交差点の向こう側の歩道を、泣いて走る

距離としては、わずかな差、だが煌々と光る、赤い光
「・・・・・なんで、また・・・・・」

青ざめる陸、急速に身体がこわばり始める・・・足がだんだん

回転を緩める・・・・・・自分が小さくなっていくような感じを受ける

(またなのか・・・・・・・・どうしても俺は・・・・・・)

信号へと近づいていく

(また、ここで声をかければ、止まってはくれるだろう、けど・・・・)

陸のスピードが落ちる

(いずみさんの時と一緒なのは、もう嫌だ・・・・嫌だよ)

何かを振り払い、重りがはずれたように、陸は大きく踏み出した

信号の色が映り、紅く光る横断歩道の白い部分に足が

かかった・・・・・・・陸が全てを振り切る

「さ、さとみさ!!!!!」

ききききっきーーーーーーーーー!!!!!!

がしゃっ!!

・・・・・・・・そして、不幸は訪れた

 

しとしとしと・・・・・・しとしと・・・さーーーー

「・・・・・・・雨の音・・・・・・・?ここは・・・・・・・」

「病院よ・・・・よかった、気がついたのね」

うつろな目をした陸の横に、さとみが座っている

「・・・・・・・・・」

「陸君ね、トラックに撥ねられたのよ・・・・・、赤信号を無視して・・・・・」

物言いたげな目を向けた陸に、さとみがそう教える

「・・・・信号無視・・・・病院・・・!!や、やばい、お、お金が・・・」

入院費のコトを思う陸、身体を起こそうとするが、ぴくりとも動かない、

そんな陸にさとみが、そっと手をとり話しかけた

「・・・・大丈夫、心配ないよ・・・・・」

「・・・・・・さとみさん・・・・・・・どうして、あの日・・・・・・」

陸が聞く、さとみが困った表情を見せ、陸の手を離した

「・・・・・あの時泣いてましたよね・・・・、やっぱり、何かあったんですか?

・・・・・・出過ぎたマネだとは、わかってます・・・けど、心配なんです」

さとみは立ち上がり、陸に背中を向けて窓際に立った

「・・・・・あたし、彼に抱かれに行ったのよ・・・・・」

静かに、そう話す、陸に顔を向けるコトなく、窓際で続ける

「・・・驚いた?・・・あたしってね、そういう女なの・・・・・・・・

男に飢えて・・・・別れた男とでも平気でそういうコトが出来る女

・・・・・・・・幻滅した?・・・・・・・・・・・・・ごめんね、あんまり、

喋ると迷惑かかっちゃうし、もう帰るね・・・・・ばいばい」

するりと、病室を抜けていく、しかし、陸が袖をつかんで止める

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・さとみさん、俺、さとみさんのコトが・・・!」

陸にとって、全てをかけた一言だったが、言い切る前にその口を、ふさがれた

・・・・・・さとみの唇がそっと重ねられたことで

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ん、・・・・・・・・・・・・・」

そっと、唇を離し陸の頭を抱いた

「・・・・・・・・ごめんね、本当に馬鹿な女だから・・・」

小声で陸にささやき、今一度強く抱き・・・・・・・そして離れていった

ぱたん・・・・・・・・扉が閉まる音がなんだか、乾いて聞こえた

いつかの雨の日に借りた、タオルに残っていた香りが今も陸の前に

「・・・・・・・・・・本当に馬鹿な女・・・・最低よね・・・はは・・は・・」

ざああああざああざざざーー、雨の中さとみが、傘もささずに歩いている

どこへいくと決めたわけでもないのに、その足がある小さな公園へと

さとみを連れてきた・・・・・・・・・ブランコにそっと乗る

きこ・・・・・・きこ・・・・・・・きこ・・・・・・・・きこ・・・・・・・

ざざざああーーーざざざああーあーー・・・・・雨はさとみをうち続ける

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・ご親族の方ですかな?」

「い、いえ・・・・・そのちょっとした知り合いです・・・・あの・・」

「命に別状はありません・・・彼は強固な身体をお持ちのようで・・・ただ」

「?」「こんな時に言いにくいのですが、治療費の方が少々・・・・」

「・・・・・こ、こんなに」
「彼のご親族の方にご連絡をお願いできますかな」

「・・・彼、独りだと・・・」
「・・・・そうですか、国の援助が受けられれば

なんとかなるでしょうが・・・・」
「・・・・・・・・・あ、あたしが、なんとかします」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・で、この僕にどうしろというんだ?昨日、僕に言った言葉を忘れたのか?

・・・・・・・あなたには、もう関わりたくないの・・・とな」

「・・・・・・・自分本位だってのは、分かってる・・・・けど、どうしても必要なの

・・・・・お願い、どうしてもお金を・・・工面して欲しいの・・・・」

「・・・・・・・なら分かっているな・・・・・どうすればいいのか・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」ぱさ・・・・・衣擦れの音がした

その時、私の目は楽しげだった、酷い女だと自らを憎んだ、そして

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・驚いた?・・・あたしってね、そういう女なの・・・・男に飢えて・・・・別れた男でも平気でそういうコトが出来る女

・・・・・・・・幻滅した?・・・・・・・・・・・・・ごめんね、あんまり、喋ると迷惑かかっちゃうし、もう帰るね・・・・・ばいばい」

「・・・・・さとみさん、俺、さとみさんのコトが・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

きこ・・・・・・きこ・・・・・・きこ・・・・・きこ・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・タイミングも、行動も・・・・・何から何まで最低・・・・・・・罰なのかしら・・・・・性根の醜い女への罰・・・」

昔の男と決別をした日に、慕ってくれる男が大けがをする

その男のために、昔の男に身体を許し・・・・・金をせびりとり・・・

その後、慕ってくれる男の告白を踏みにじった・・・・・・・

「あたしの本心はどこにあるんだろ・・・・・・・本気で好きなのは誰なの?

・・・・・・自分を欲してくれる人なら、誰でもいいの?・・・

でも、健二の時は本気だった・・・・・・本当に好きだったのに・・・・」

ゆっくりと立ち上がり、唇に手を当て呟く

「・・・・・・じゃあ、陸君はなんだったの?」

なぜ、あそこで嘘をついて、出てきたのか

雨は降り続けた・・・・・・・・・

 

春が近づいてきた・・・・雨が降る度にあったかくなる

「・・・・・・加藤様、本日で退院となります、お気をつけてください」

「あの、精算は・・・」

「いえ、お支払いの方は既にお済みになっているようですが・・・」

「・・・・そうですか・・・・じゃ、お世話になりました」

陸は、頭を下げ病院を後にする、回復は思ったより早く二週間ほど

入院していただけだった、家に久しぶりに帰る

「・・・・・・ここに来て、ろくなコトないな・・・・自分の場所へ帰るべきか」

ちらかった部屋の中で自分の中を整理する、そして、外へ出た

「・・・・・・・馬鹿だな、俺って・・・・嫌なコトからすぐ目をそらすために

そこから離れてばかり・・・・・・」

何の気なしに、細い道を歩く

「?・・・・・・・ほう、いつぞやの若いツバメ君じゃないか・・・」

後方から、嫌な声がかかった・・・・

「・・・・・さとみは、いい女だぞ・・・・あの身体は最高だ」

ざっ・・・・・・陸の足が止まる

「ふ・・・・・、お前のような子供には、わからないか・・・いやあ、すまないな

さとみはな、みだらな女だよ・・・・これでわかるかな?」

健二がどうして、挑発してきたのか、そんなコトはわかるはずもなく

ざしっ!!
白昼、人気のない空き地だった・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・ねえ、さとみ、彼退院したそうだけど、なんか聞いた?」

美沙の問いかけに、首を横にふるさとみ

「・・・・・健二とはもう切れたんでしょ?・・・・・・彼に何をしたの?」

美沙が静かにさとみに問いつめる

「・・・・・・・・・・・酷い女なのよ、あたしは・・・・・・」

さとみが、皿を拭きながら美沙に言う、美沙は聞きながらコーヒーを飲む

「・・・・・彼ねえ、さとみのコト・・・・・」

「・・・・・・・うん、でもね、嘘ついてあたしのコト嫌いになってもらった」

美沙が意外そうな顔をする、カップを降ろしさとみの顔をじっと見る

「・・・・・・・さとみ、それでよかったの?・・・・あのね、後悔した時はもう、手遅れなのよ・・・・・」

美沙が、心配そうに忠告する、言葉に深みがある

「わかってる・・・・・・いいの、あたしはね、彼には汚れすぎた存在

だからさ・・・・・・・こういう女は、ああいう人にはダメなのよ」

店内は、さとみと美沙しかおらず、少し黙ると、永遠に沈黙が

続きそうな気配、そこに、静寂が訪れる

「・・・・・・・・・・お互い、変に幸せ逃してるわね・・・」

美沙が寂しそうに呟いた

からん♪ころぉん♪
「いらっしゃいませ」

ふいに、客がやってきてさとみがそう言う、ゆっくり客を見る、

ふと美沙も振り返る

「さとみ・・・・・・僕の所へ戻ってこい・・・・・」

 

空は雲一つない突き抜けた蒼、空き地に大の字になって

その空を見上げている陸、顔はすこし殴られた跡がある

「・・・・・・・・・・・・・あいつ、本気でやんの」

誰に言うわけでもなく独りそう呟いた、そこに美沙が来た

「・・・・・・・派手にやられたのね・・・・・」

「・・・・だって、あいつかわいそうだからさ・・・」

「・・・・・・・・・さっき、さとみの所に健二が来たわ、いいの?」

その質問にしばらく黙り、ふと声を漏らした

「・・・・・・・・・まだ、俺に勝算はあるかな?」

「んーー、どうだろうね、ちなみにさとみの応えはね・・・・」

 

もう、桜も咲こうとする、暖かい日になりそうだ

新しい季節が来る、この日は晴れだった

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