K
「殿下、いずこへ」
「声の主に会いに行く」
「声の主、さて、どこの占い師でしたかな?」
「軽口を叩くな、急ぐぞ」
ふほほ、
爺は低く笑うと、言われた通りに部下達を率いた
総勢10名程度、力を宿しているのは皇子サワンのみの
脆弱な部隊を編成している
徒歩ばかりだが、一頭だけ馬を調達している
それにはサワンが乗っている
「しかし、サワン様もこれで皇族が神の子孫であると」
「その話については、少し状況が見えぬ、爺はどこまで知った」
「そのように広義の質問では、お応えしようが」
「そういう言葉遣いの教育は、今、するべきことか?」
「ごもっとも」
うやうやしく爺は頭を下げた
反省したというそぶりはないが、話題の転換にはなった
老人特有の長話になる
長い腕をいっぱいにふるって熱弁となる
「力を得られましたのは、まず、領主と閣僚貴族でございました」
「初めは、兄上でないのか?」
「はい、少しばかり遅れて、シャロム皇子にも同じ力が現れたご様子」
「どれほどの時間の差が?」
「先ほどの、街の様子の通りでございます」
「?謎かけか?こんな時に…」
爺はそっぽを向いている
サワンは腹を立てつつも少し考える、見た景色を思い出す
燃えていた街はすぐに沈黙した、ということは
「私の力と同じくらいか」
「領主が荒らし回った後にございましたので…しかとは解りませぬが、遠くはないかと」
「そうか…」
爺は敢えてサワンに考えさせた、先入観を持たせないためにそうする
軍隊上がりだからだろう、そういう上官に向けた所作については、
若い兵隊に見習わせたいそればかりだ
いや、正式には状況から判断させる斥候兵の手習いをした
結局は教育係のそれなのだろう、苦笑いをしてしまう
「ともあれ、暴れ回るあれらを瞬時に、力を持った部隊長を従えまして、
見事な指揮でございました」
「使いこなしておられるということか」
「おそらくは」
「…爺、お前から見て、力はどう映った」
「はて?」
「いや、また今度でいい、考えておいてくれ…それよりも、来客だ」
サワンの目が敵を察知した
追っ手が迫ってきている
数はあまり居ない
「少人数、どう見る?」
「最低二人は、力の者がいるかと」
「二人程度で私を抑えるというのか」
「兄上様は慎重な方ですが、今はそれが手一杯ということでしょう」
部下達を散らせる
便利なもので、地形から相手の動き全てが、
ぐりぐりと脳内に描かれていく、姿まではわからないが
敵という個体が複数近づいてくるのがわかる
近づいてくるほどにその姿が鮮明になってくる
問題は、どれが力の者なのか、うまく当たらないといけない
「爺、俺から離れるな」
「かしこまりました」
爺は言うと外套を翻して構えた
鈎爪を装備している、爺は体術もたしなんでいる
「老骨」と呼ばれる殺人術
文字通り老人の骨がとっちめるといった内容だ
あと数十歩の位置、敵も当然わかっているのだろう
小細工なしで、真っ直ぐに向かってくる、迷いがない
森の中でこんな形の戦闘は初めてだ
「これからは、まるで戦闘風景が変わるな」
「そうでありますかな、爺はいよいよ役立ちませぬな」
「ああ、いや、それは違うな、爺に教えておこう、力があっても、
使う輩はどうやら人間のままだ、殺せば死ぬ」
「血が出て、骨が折れ、痛がるのですか」
「そういうことだ」
「ならば、怖くはありませぬ」
ゾザ、森が揺れた
そうきたか、サワンがそれを打ち消そうと意識を向ける
見えない力が部下達に襲いかかろうとした、
透明な、空気なのだろうか、それにしては殺傷能力を秘めたそれ
だが、そういう「空気弾」を一つ残らず叩き落とした
わっ、続いて敵が出てきた交戦が始まる
部下達が当たっているのは、ちょうど力のない者達だ
だが、こちらの勢が押されている
「落ち着け、そいつらは違うっ、いつもの力で押せっ!!」
サワンが吼える、狼狽えていた部下達がそれで持ち直す
だが、そのわずかな間に後れをとり、二人ほどが負傷した
それを助けるため、「空気弾」をお返ししてやる
ブワッ、
音が立った瞬間に、襲いかかっていた敵方を吹き飛ばしている
ただ、余波を受けたのか味方の若い兵士もすっ飛んでいった
なかなか扱い方が難しい
「殿下っ」
そのすぐ後だった、待っていたのか
二人、約束通りに飛び込んできた
空気弾を打つことに気を取られ過ぎていた
近づいてくる敵の察知に遅れた
それまでにはあり得なかったことだ、力に頼りすぎているのか?
違う、今は
「爺っ!!!」
「心得ておりますっ」
す、爺がゆっくりと動く
誰の目にもわかる速度で動く
だが、誰にでもわかる速度だというのに、動き、場所に無駄がない
必然の場所に、必要な形で体を置く
真っ直ぐにつっこんできたそれは、尋常の速さではない
力を得て調子こいているといった具合なんだろう
武道の素人が、本物の武道家に挑む愚かな行為
爺が、左足を前にして、静かに腰を沈めた
そして、左肘を撞きだす、ゆっくりと柔らかく動いていたのに
その最後の動作、撞きだして固まる、これを極めると呼ぶ、
インパクトの瞬間に最大限の力、重心とは異なるが、
破壊力という目に見えないものが、全身を伝わり肘一点に集中される
ゲグゥ!!!!!!
「っっっっ!!!!!!」
血反吐がまき散らされる
みぎみぎみぎみぎぃ、軋む音が届く、
爺の老骨が炸裂したが、爺自身にも僅かながら反動がやってくる
やはり、これまでのようには行かぬか
今まで、この爺が味わったことがないような、大きな衝撃を受けた
相手を攻撃するということは、それ相応の負担反動が自分にふりかかる
今のカウンター肘打ちなど、相手の動きを止めるための一撃でしかなかったが
目の前では死体が一つ転がっている
「殿下っ」
「爺っ、離れてろっ」
巻き添えをくわすわけにはいかない
サワンは、離れていろと言いつつ自分から離れた
飛びかかってきた敵の首に喉輪をけしかけて
そのまま、一気に押し返した
「!!!!」
その喉輪が外される、そこで蹴り上げでもくるかと睨んだが
相手は手や足を使うという攻撃以外の一手を打ってきた
「ま・た・そ・れ・か」
ぐわっ、空気弾、それをかわす
しかしその動作の内に相手はまた、何発ものそれを打ち込んできた
前方を注意して、飛んでくるそれを叩き落とす、
その内に前後左右、ありとあらゆる方向から飛んでくることになった
目の前の敵は、力をより使いこなしはじめている
ばがんっ!!
「痛っ…」
「貰った、賞金首」
不用意にそう叫んだ
なるほど賞金がかかっているのか、それを狙うような輩か
サワンは、痛みに顔を歪めつつも、一つのイメージを造り出した
連弾はやまない、いくつかは落としているが
くぐり抜けた分が、どんどんと痛みを増やしていく
一個に一個を当てるからいけない
点には面だ
「食らえっ!!!!」
サワンは目を見開く
ぐっと耐える姿勢のまま、意識を全方向に伸ばした
空気の弾を打つのではなく、自分を中心に空気の弾を一つ大きく膨らませる
全方位に攻撃性を向ける、範囲内に味方がいないのだけは確かめている
うわん、たわむ音が響いた
うまくいったらしい、ガラスの壁にへばりついたような
そういう面白い顔をして、目の前の力の者は森の木に叩きつけられた
みぎぃぎぃぎぃっ、爺が鳴らしたのとは別だが
何かが破壊される音、それが耳に届いた
瞬間に敵は絶命した、大量の血液が穴という穴から吹き出ている
「我ながら惨いことをするな」
「殿下、お怪我は」
「打撲だ、それよりも」
味方の存在を確かめる、怪我をしているヤツの介抱をする
傷を治す、そんな力もあるのだろうか、思うが試すのは危険すぎる
「命に別状はないか、すまぬ」
「殿下、そのような、勿体ない」
兵士達はありがたがるばかりだ
なんだか拍子抜けするな、思うのだがよき部下に恵まれたと信じる
「爺、今のは正規のそれではないらしいな」
「どうもその様子、貴族ばかりが目覚めるかと思いましたが」
「なに、出自の怪しい中にもよくある、落胤と呼ばれるそれらだ、
ご先祖のどれこれがいたして回ったツケというヤツだな」
「そのような下品ないいざま…自重なさいませ」
「追っ手が来ないところを見ると、街でまだ何かあるのかもしれぬな」
「は」
爺は小さく返事をするのみ、その脳裏で
敵と思われていないがためとも思われる、
そういう返答を用意だけしている、爺の目には兄シャロムと、
力において、大きな差があるように見える
そのために、相手にされていないのではないか、
だが、説明がつかないため、それ以上は言わない
「殿下、道が拓けます」
「わかった、ともかく国から離れる、幸い地方への道に私は明るい、
遠征のつもりで行くぞ、けが人は馬に乗せろ」
10人の落人はゆるりと山を進む
(08/03/03)