K
虚数がある
詳しくはよくわからないけども
二次元と呼ばれる、縦と横だけの空間で認識すると分かり易いそうだ
上と下のあるぺったんこを想像しよう
その上に進むほうが正数、+3だとしよう
その時、真逆、つまるところ180度の位置に同じ様に進むと
負数である-3にあたる
さて、この現象が起きた時、90度という位置に同じ様に進んだらどうなるんだろう
その答えが虚数だという、3iだ、iはイマージナリーの頭文字だそうだ
虚数は想像上のそれなんだろう、形而上ということにしてみよう
頭が悪いなりに解釈して、もっと単純に考えてみると
ある考え方と真逆の考え方があるんだけども
そのどちらでもと、少しずつブレている考え方の拮抗する位置
それが虚数であり、その主軸である話しと全く違うことを言う話しなんだろう
ご飯派かパン派かという話しをしているときに
納豆がついてたらご飯でもいいかも、
ジャム塗ったパンならそれなりに、
そんなベクトルの中で唐突に
俺はソバがいい
なんて言う話しなんだろうか
それとも
パンにご飯を挟むと意外とイけるんだぜ
という話しなんだろうか
ともかく、理解できなくてもよいものだと、虚数を理解している
そして、これからのお話はそうやって考えた虚数にあたるお話
話しになんないのだ、主題と違うことを喋るのだから
正しいという二つの平行線で、中間のことを言うでなく、間違った方向の話しを始める
これは想像上のそれでしかなく、酷く曖昧で弱々しい設定で出来ています
☆
「爺のそのまた爺はどのようなものだったのだ」
「殿下のお爺さまに、今の私が尽くすような、同じ仕事をしておりました」
「見たのか?」
「はい、この爺が成人となるまで健在でありましたので」
「違う、仕えていたところをだ」
「それは・・・」
「よい、では、爺の爺の爺はどのようなものだ」
「存じませぬ」
「ならば、爺の爺の父は」
「存じませぬ」
「爺の父の爺のことだぞ」
「ああ、そう言われますと、少しばかり、足の早い人だったと聞いたことがあります」
「それでは何もわからぬな」
「そうでもありますまい」
言うと、爺は諭す口調をさらに強めて
呪文を詠唱するように、朗らかな声で言葉を紡ぐ
両腕を大きく開く、古い人間にしては珍しい、大柄な人物で
手が、腕が長い
拡げると、鳥が翼を広げるそれに似ている
皇子はその姿を見つつ、言葉を拾う、爺の声は洞穴に響くそれのようだ
「人間はなるほどわからないかもしれませぬが、この書物が、石版が、木簡が、
全ての記録が残っております、宮廷の書庫にある、全ての知識があれば、
その頃の何もかもがわかります」
得意げでもない、教育係として当然の宣言なのかもしれない
皇子に対して、それらを学べという話しに繋げよう
そう考えているのかもしれない
だが、皇子はため息を見舞う
「その本にあったのだがな、神の系図、どうやら私の祖先、いや、祖王は神だ、
それについての、その当時のことが書かれたいた、天地を産み、空間を支配した」
「ほほほ、神話をご覧になりましたか、神代の話は興味が尽きませぬな」
「そうだが、喜ぶところじゃない、私は今不審を抱いている、
私が神の末裔であるという事実がな・・・あのような、人外の力を有した種族であるとは到底・・・」
「全ての御子は神の・・・」
「そういうことを聞いているのではない、凡百の貧民と一緒にするな、
我ら皇族がその末裔であるという教え、その通りだと信じてきたが、神話の世界をくぐり抜けた、
いや、その世界があったのか」
「ありました、疑う余地はございません」
「だがだ、辺境では、つい先の戦で私が滅ぼしたあの民族、あれらは皆、牛の神を崇めたと言うた、
どうだ、神が一つではないというのだ、我らの神話では神は一つであったのにだ」
「そのような邪教についてまで・・・皇子は、その咎を示すため誅されたのでしょう、
奴らが間違っておるのです、だからそれらを糺しておられます」
「そのような輩が山ほどいるのだ、かなりを滅ぼしたがきりがない、
やがて、自分が間違っているのではないか、神はいくつかおるのかもしれぬ、
・・・そう思えぬこともないのだ」
爺はぱちくりと目を開いて押し黙った
皇子は、老人に手加減をするという甘えを許さない
というか、この爺は老獪で狡猾なのだ
おかげで、皇子は若くして人を疑う、書物ですら真っ直ぐに信じることはしない
「殿下、貴方は神の直系であります、それでいてこの国の、この「東道(とうどう)」の象徴であります」
「・・・」
「そして、それが唯一の真実であり、それ以外に神はありえませぬ、それら邪教の全ては嘘偽りでございます」
「直系ならば、私に、東神(あずまがみ)の力が、天地を造り上げる力があるというか」
「無論」
大きく区切って、爺は珍しく真面目な顔で続けた
「貴方様は、東神が創造せし天地に、秩序という見えぬ力を行使するお立場です」
「それは兄上の役目であろう、私は、所詮三番手だ」
ふてくされるでもないが、そんな調子で皇子は愚痴た
彼はこの国の第三皇位と呼ばれる、現皇の三番目の子供だ
しかし、自嘲できるほど、その戦争上手の神童として知られ
その人気は、第三皇位のそれでおさまるものではない
「兄様のことはお気になさいますな、殿下には殿下のお役目がございます」
「もうよい、そろそろ礼拝の時間であろう」
言うと、静かに立ち上がり、宮へと足を向けた
彼の国は「東道」という、神話と思想による規律に基づいて機能している
皇族は神の系譜であり、民全てを統べるに値するものだと
その「東道」は教えている、信じられる神はその一柱だけであり、その正統が皇族である
そして、民草は皆、その教えに従い、彼らに従属をしている
(注:神を数える単位を「柱」としている)
「そういえば、姉上はどうされておる」
「妹姫様と同じくして、梅を見に出かけたと」
「まったく・・・」
言いながら、この若い皇子は少しだけ笑った
爺はその表情を逃さず、それでいて咎めるでも、誰に言うでもなく
心内に引き止めている
殿下は、姉姫様のこととなると、少し甘いご様子である
彼らの父が皇であり、
第一皇位が姉姫
第二皇位が兄皇
第三皇位が殿下
そして、
第四皇位に妹姫
四人の姉弟がそれぞれに力を、勢力を持ち合わせている
正式には上、三人が持っている
四人目の妹姫は、巫女、と呼ばれる
まったく別の地位にいる
皇位の端にかかっているが、皇族のそれらの仕事とは若干異なる
祖先と交信をする、巫女という責務を担っている
これは神に対する感受性が高い、選ばれたものだけがなれる、そういったものだ
妹姫はその地位になる資格を有している
伝説上に現れるとされた、神の生まれ変わりを精神に宿す人間だと言われている
☆
「姉様」
「どうかしたの」
皇女姉妹は梅の花を見に、御苑へと足を伸ばしていた
幾百種類の梅が、白、紅、絞り、八重、牡丹と
様々に咲き誇っている
軽い香りがまた、鼻をくすぐり心地よい、
しかし、まだ気温は、吐く息を白くさせるほどでもある
「今年は随分と梅が早いのですね」
「そのような年もあるのでしょう」
妹は不安げな顔をしている、巫女の影が落ちるように思う
姉姫は、自分が持ち得なかったその能力を目の前にして
軽い嫉妬と不安を覚えている
持っていなかったからこそ知った、皇族である、権力者であるための悲劇、
この妹は、その権力に弄ばれる格好のエサを持って産まれた
「まだ、池に氷が張るような季節なのに、もう八重のものまで咲くなんて」
「確かに、この梅園の花が咲き揃うのは初めてですね」
姉姫は、これでは梅園も商売あがったりだろうなんて、
俗物なことを考えている
一挙に咲かれてしまっては、見頃が短くなってしまい、観光客が減る、
そちらのほうが問題であろう
「よくない、前触れのように思われます」
「・・・巫女の、神の声が聞こえる?」
姉は興味深そうに、妹を見つめた
いや、巫女という職務の娘を見たというほうが正しい目
国政に関わる身分を思い出した
そこに姉妹という関係は希薄になる
「そうかも、しれません」
言いごもるようにして、巫女は黙った
その瞳は、真っ白な梅の花を見つめている
ふっくらとしたつぼみとそれが開いた花と、
雄しべが、最大限に解放され、寒気を味わっている
しべの色は、黄色である
寒気は色合いを鋭く見せる、それでいて儚さを抱かせる
☆
梅見の話から少しして、
第三皇子がまた、民族平定に乗り出していた
それはこの国のためのことであるし
彼が成功するにつけて、それは神の意志であると誰もが信じている
「爺」
「ここに、最早陥落は目前ですが」
「私が出る、それまで全てを殺すことないよう、前線へ」
「・・・」
「返事は」
「かしこまりました」
どた、爺は戦装束をひためかせて、
するすると前線の方角へと消えていった
伝令を用いなかった、既に戦が終わることを確信しているからだろう
いずれ自分がそこに行くのだから、爺を先行待機させておく
前線の斥候も兼ねている
「今回、少し苦戦したか」
「はい、しかし殿下のご指示通りに戦功を得ました」
生きのいい若い兵隊の声を拾ってみた
優等生の回答を満足そうに受け取り
馬でゆっくりと前線へと進む
戦争の日暮れが広がっている、夕陽を受けると
全てがもの悲しく見えるが、それは気のせいなのだ
計算した通りの人数がここに倒れて、案の定、私が勝った
皇子は自分の戦術が正しいことを理解している
そして、そのゲームのようなやりとりに飽き飽きしてきている
「今回のはどうだ」
「どう?・・ああ、流行病のそれですよ」
「流行病?」
聞き慣れない言葉だと思い、皇子は聞き返した
近衛の兵士は得意でもないが、皇子への直答を続ける
「最近、蛮族の間で流行っているのですよ、神とは別の部族であったと」
「ほう?」
「なんでも神話の頃は事実で、いわゆる神と呼ばれる部族は封印されていると、
邪教のそれらですよ、そのせいで奴らは今、このように苦戦しているとかなんとか」
「言い分はわかったが、じゃぁ、奴らはその神の部族なのか?」
「いやぁ、それを封じている部族だとか、笑わせるでしょう、
奴らを倒すと、奴らよりも強いものが出てくるとか、新しい力に目覚めるとか」
楽しそうに近衛の兵は笑い続けた
確かに、その主張は、子供の言い訳そっくりで笑うに値する
いぢめられそうになったら、兄貴がヤクザだとか言い出す奴に近い
「爺、報告を」
「思いの外、抵抗が」
ふふ、思わず空気が漏れるように笑ってしまった
その様子を咎めるような目つきで爺が見たのだが、皇子は理解している
私の活躍の場所がここに残っている
この男、戦術家としても実績を残しているが、生来のそれか、
自分が活躍する場所を好む、一騎打ちや突撃の先頭など、
皇子格がするようなそれではないことを度々している
それが人気を呼んでいるが、皇族として品格を落としている
「何か、敵方に都合があるのか?」
「最後の抵抗です」
そういうことを聞いてるんじゃない
皇子は思うが、爺がくちごもった所を見るに、
先日の問答の時のような、神について何これ言っているのだろう
ならば、直接聞いてこよう
「殿下!」
「爺、陣守を頼むぞ、近衛、ついて参れ!!」
おお!!!
呼応を聞いて、皇子は飛び出した
有無を言わさずと言った具合だ
相手は僻地、いや、谷間に陣地をこしらえている
というか、谷間に追いつめられたというのが正解だ
完全な死地である、戦術的に追い込まれて
戦争上、絶対に勝てない場所に布陣させられている、未来は見えている
坂をくだり、イチモクサンに敵陣地へと突撃をしていく
すぐに早馬の近衛が皇子を追い抜いて盾の役を担う
その盾どもが矢を何本か受ける、しかし、厚手の鎧がそれを致命傷としない
「来たな、阿呆な盲信に囚われる亡者どもよ」
「はっ、言語と文法を勉強してから出直せっ!!」
ゲゴッ、カエルが鳴くような音を立てて人間だったものが量産される
あっと言う間に、騎馬隊が蹂躙していく
粗末な板を盾代わりとしているらしい、蹴散らして、落とし穴の一つもない
ただ真っ平らな陣地をのしてまわる
やりたい放題じゃないか
「大将はどれだと思う」
「殿下、奴ら大将という概念が無く」
「はぁ?」
「全ては全ての神に仕えているとかなんとか・・・」
理解する必要もないか、皇子はそう思って
最早、活かしておくことはままならないと判断した
殲滅しなくてはならない、全てを殺し尽くさないと
よろしくない思想を世の中にはびこらせる
「殺せ、全て等しく、平等に、死を与えてやれ、慈悲だ」
「かしこまりました」
言われて、近衛の兵隊達はその通りに実行した
ただ、驚いたことに相手部族の誰一人として、命乞いをしなかった
今までにない反応だ、結局信じていたものだとか、守っていたものだとか、譲れないものだとか、
そういうのを放棄して、己の延命を望んだものだが
今回の相手は全く違った、それらを見せず
最後の一人までもが、敵対して死を選んだ
「・・・不気味だ」
「殿下、いかが」
「爺、顔の残ってる敵兵の死体を集めろ、確かめる」
ぱかぱか、馬の蹄の音がそれに対しての返信を断っていた
皇子は少しばかり厳しい表情で、死体が転がる平野を駆け抜けた
もう、誰も残っていない、敵が一人もいない
そういう異常事態を楽しんでいるようにも思われる
彼としては調べているという様相だ
「こちらの損害も相当ではないか・・・」
計算が狂ったと言えるほどかもしれない
味方の損害の大きさに驚いている
見回ると、兵士達は志気をあげて、皇子に手を振ったり
またそれに答える皇子を見て感動を催したりしている
だが、予定よりもけが人が多い
これは死人が多いということとも一致するだろう
想定外だ
「また、俺の知らない輩がいたということか」
勝ち続けてきたが、未知と呼ばれるそれと対する好奇心
それが強くなってきている
今回は、そういう意味で、不謹慎ながら期待を裏切られ満足した
それを叩きのめしたのだ、戦術としての満足度を高める
しかし、
「どうだ」
「ここに・・・しかし、このような」
がば、下馬して、爺には目もくれずに死体を見た
自分の中の疑念を晴らすそれが、そこに現れることを
祈りながら、反目して、望まなかった
思った通りでなければよいのだがと
「・・・笑って死んだか」
祈りが勝った、彼らは己の生き様を正しいと肯定したまま死んだ
望みが叶わなかった、また迷う材料が増えた、
蛮族が信じるそれが、我らの正義に屈していないと
「殿下?」
「奴らは、死に際に、死を畏れなかったらしい」
それ以上は志気に関わる
そう判断したのか、爺に小さく呟いただけで
冷たい視線をその死体たちに向けた
ただ、冷たいそれだが、同時に憧れのような、尊敬のような
そんなものまでも向けてしまったように思う
軽薄だったか
「この作戦は終了する、軽騎兵さえおれば、平地陣野において負けることはない、
それが解っただけでも、有益な戦であった」
「重畳であります」
「帰るぞ」
勝利宣言を行い、戦争と呼ばれるそれが全て終結した
全軍の志気は上々で、もう一戦繰り出せるほどのそれだ
戦を経験するたびに、皇子の用兵は鋭さを増してきた
今回に到っては、杜撰な作戦を心意気でカバーした趣が強い、
皇子としては、ここまで手を抜いても勝てるのか
そういう悪しきことがある、本当はもっとスマートに勝つ作戦もあったのだ
「殿下、本城より知らせが」
「本城より?」
不審に思うところ、すぐにその使いは姿を現した
戦場を見て、軽く舌打ちをするような
そんな顔つきだ、好ましくないと言わぬばかりの表情を晒している
「なんの用か」
「既に終えておられましたか・・・」
「残念そうな声音だな」
皇子は、少し癇に障った口調でそう告げてみた
まさか、この後のことを思うこともない
だからこそ言えたなりだろう
「残念であります、これで、神託は間違いのないものだと立証されました」
「し、んたく?」
巫女が神より賜った言葉を告げる
それが神託だと言われている
妹がそれを告げたということだ
「殿下、いや、サワン様、貴方を連行いたします」
「れんこう?」
「はい、全ては神託により、第四皇女サン様がお言葉により、貴方は咎人となります」
「バカを・・・」
「さぁ、従いなさいませ」
こうして、第三皇子は罪人となった
まだ、物語は始まるまで到っていない
(08/1/28)