8月9日。
・・・晴れ!
先輩、魔術が効いたよっ!!雲のかけらすらない晴天。これなら今晩の夏祭りは
実施されるだろう。今の時間は・・・AM9:00 そういえば、先輩ともちゃんと約束してなかったっけ。
「ふーじーたーくーんっ!!」
窓の外から元気な声がした。窓から外を見ると、道路の真中に理緒ちゃんが転んでいた。
・・・また転んでるよ・・・。
「どうした、立てないのか?」
「そ、そんなことないってば。んしょ。えっとね、今晩、夏祭りがあるでしょ?」
「ああ」
「そのときの焼き鳥とかヤキソバの引換券、配ってるの」
「それだけで、大声で呼んだの?」
「うーん・・・なんでだろう?」
人の玄関先で、理緒ちゃんは考え込んでいた。
「ほら、こんな気象予報士泣かせの上天気だから、ついこっちも元気になっちゃったのよ」
「そうだな、いい天気だ」
先輩、喜んでるだろうな。
「ちょっと待ってなよ。降りていくから」

「はは、藤田君、寝癖がすごい」
(ここで「お前もな」と思ったあなた、勘違いです。
理緒ちゃんは寝癖ではありません。絶対です。絶対なんだってば;_;)
「起きたばかりだから・・・それより、その引換券、理緒ちゃんにあげるよ」
「ええっ、何で?」
「今年は志保・・・長岡のやつをこてんぱんにして、あいつにおごらせるからいいんだ」
「ああ、そう言えば勝負してたもんね、小さい頃から」
「何で知ってるの?」
「あ、ううん、たまたまよ。で、あの子のこと、聞けた?」
「・・・え?」
あの子のこと、って?
「ほら、あの時、藤田君、祭りではじめて見かけた女の子がいたとかで、長岡さんからその子の情報を
聞き出そうとしてたじゃない。で、聞けたの?」
・・・そう言えば、そんなことがあったような…。
「その様子じゃ、聞けなかったみたいね」
「ねえ、その子、どんな顔をしてた?」
「藤田君、あれからあの子に会ってなかったの?あんなにかわいかったのに」
「いや、だから、会っていないどころか、まるで思い出せないんだ。頼むから教えてくれ」
「・・・えっとね、そうだなあ、大きなかわいい目だったことくらいしか思い出せないけど…」
大きな…目?
一瞬、数日前にプールで見かけた女の子の姿が頭をよぎった。
「それじゃあ、また何か思い出したら教えるね。わたし、まだこれ配らないといけないから…」
理緒ちゃんはそう言い残して去ろうとして、また俺の目の前で転んだ。

          ☆

「・・・あんた、本当にバカね」
開口一番、相変わらずの志保節だ。だけど、ここはガマン・・・。
「あたしが何であんなガキみたいな勝負を続けてると思ってるの?
全部あの勝負のせいじゃないの。それをあんたすっかり忘れたっての?」
「・・・ごめん」
「・・・な、なによ、下手に出たって今夜の勝負に手加減はしないからね!」
「・・・頼む、俺が忘れてしまったあの子のことを、教えてほしいんだ・・・」
俺は、大事なことを忘れている。
忘れちゃいけないことを。

『・・・約束だよ』

「・・・わかったわよ。あんたがあの時ほしかった情報を、また1から教えてあげるわよ。
・・・彼女の名前は吉行かすみ。あの頃、あんたと同い年だったわよ」
「よしゆき・・・かすみ・・・」

『かすみね・・・ううん、なんでもない』

「隣町に住んでいて学区も違ってたから、普通の人は知らなかったのよ。
でも、あの頃から志保ちゃんネットワークは完璧だったからね」
「そうか・・・で、今、どうしてるんだ、彼女?」
「そ、それは・・・追跡調査なんてしてないし・・・」
「頼む、調べてくれ・・・お前が唯一の頼みなんだ」
「・・・わかった。この志保ちゃんにまっかせなさいっ!!」

          ☆

俺は急いでいた。あかりや雅史、そして志保との約束の時間からすでに1時間くらい経過していた。
約束の場所には3人はいなかった。自分の倍以上の背丈の大人達をかき分けながら、俺は二人を探した。
露店のちょうちんなどの灯りが不思議な世界を作り出していた。
様様な声があちこちから波のように押し寄せてくる。
・・・少し怖くなった。
まわりには知らない大人達ばかり。昼間は見慣れている神社の境内も、まるで違う場所のようだった。
俺は何処にいるんだろう。
ここは何処なんだろう。
誰でもいい、知っている人はいないだろうか?
これじゃ、まるで迷子だ。
どんっ。
誰かに突き飛ばされた。
あれよあれよと言う間に、俺は人ごみから外れた一角に押し出されてしまった。
・・・どうしよう。
戻ろうかとも思ったけど、また押し出されるような気がして行動に移せなかった。
俺は馬鹿みたいに、棒のように立ったまま、あたりをきょろきょろしていた。
すると、少し離れたところで、泣いている女の子を見つけた。
年は俺と同じくらい、あかりよりも華奢な感じの女の子だった。
「・・・どうしたの?」
「う・・・う・・・」
その子は俺の手をつかんだまま、静かに泣いていた。

「・・・ごめんなさい」
女の子は涙をぬぐいながらあやまった。
「いや、いいよ。俺も泣きそうだったし」
「うそ・・・」
「うそじゃないって。ほら、目がちょっと赤い」
「こんなに暗くっちゃわからないよぉ」
彼女は笑った。その笑顔がとてもかわいく見えた。
「君・・・見かけない子だね」
「あ、うん、ここの子じゃないから」
「そうかあ。あ、俺、藤田浩之。ヒロでいいよ」
「わたしは、吉行かすみ」
「なあ、何か食べない? まだ来たばかりで何も食べてないんだ」
「うん。わたしもお腹すいた」

俺とかすみはいろんな店を見て回った。
今までこの雰囲気が怖かったのがうそみたいだ。
かすみは大きな目をきょろきょろさせて、楽しそうにあちこちを見て回った。
「なんかさあ、かすみって動物っぽいよね」
「何に似てる?」
「モモンガみたい。目がくりくりしてて」
「それ、よく言われるんだ。だからあだ名が『モンちゃん』なの」
「へえ、そうなんだ、モンちゃん」
「うん、モンちゃんそうなの」
笑顔のかすみはかわいかった。普段は見ることがない浴衣姿のせいだろうか、なんだかどきどきした。

「はあ、楽しいね」
神社の石段に腰を下ろしたかすみの両手には、ハニーバンタムと綿菓子がしっかりと握られていた。
俺の手にはりんご飴が握られていた。
「ああ、これからもっと楽しいよ。もうすぐ花火があがるんだ」
「見たいなあ。こんな近くから見たことないから」
「そうかあ。お嬢さまなんだな」
「ううん、そんなんじゃないの。かすみね・・・ううん、なんでもない」
少し、かすみは沈んでしまったみたいだった。
「いい場所があるんだ。そこから見ると大迫力だぞ」
「本当? そこへ行きたい!」
「かすみ、ここにいたのね」
その声に前を向くと、年配の痩身の女性が目の前に立っていた。
「ママ」
「そろそろ戻らないと・・・」
「・・・もう少しだけ・・・」
「かすみ・・・」
かすみのお母さんは悲しそうだった。かすみに対して強く言いたいのを我慢しているようにも見えた。
「・・・ごめん、ママ」
「もう帰っちゃうのか」
「・・・うん・・・ごめんね。でも・・・約束してくれる?」
「約束って・・・何を?」
「18歳になったら、またここで会ってくれるかな?その時に、とって置きの場所に連れて行ってね」
「18歳じゃなくても、来年でもいいって」
「ううん。18がいいの。お願い、約束して」
「わかった。モンちゃんも忘れるなよ」
「・・・約束だよ」
かすみは笑った。その目には涙があふれていた。

かすみを見送ってから、俺は金魚すくいの露店のそばにいたあかり達3人を見つけた。
「ヒロ、見たぞぉ、あたし達との約束を破って、かわいい子とデートなんかしちゃって!」
目ざとく俺を見つけた志保が、予想外の攻撃をしかけてきた。
「そ、そんなんじゃ・・・」
「浩之もやるなあ」
雅史がのんきに言うと、あかりが少ししょげた顔で、
「浩之ちゃん、デートしてたんだ・・・」
「いや、だから違うって・・・」
「問答無用! 約束破りはヤキソバで償ってもらうわよ!」
志保は両手を腰に当ててふんぞり返ってそう言うと、一転して俺の耳元に顔を近づけてきた。
『あんた、隣町の子とどうやって知り合ったのよ?』
『え・・・あの子のことを知ってるのか?』
『この志保様の情報網を甘く見ないでもらいたいわ』
『・・・あの子のこと、知っているだけでいいから教えてくれ』
『・・・ふーん・・・』
志保は不適な笑みを浮かべると、再びふんぞり返り、大声で宣戦布告した。
「ヒロ、そんなにあの子のことが知りたいなら、金魚すくいで勝負よっ!!」

つづく

もどる