Edelstein ”Karfunkel”
「キルシェ・・・」
「アル様」
余韻を残したのはアルの方だった
キルシェに声をかけてから、言外に何かを濁した
そういう声のかけかただった
その返答に、夫の名を呼んだキルシェ
発音は判然として、迷いも、何もないそれだった
「・・・」
「アル様、何をまごまごしてらっしゃいますか」
言うなり、上背の夫をそっと抱き締めた
手を頭にかけて、ゆっくりと撫でる
されるままに、甘えるようにしてアルは膝を折って抱き包まれた
キルシェの豊かな胸に頭を抱え込まれる
情けない男だ
誰もがそう思うだろう、今は二人ぎり、離ればなれになっていた夫婦の再会
それにしては、燃え上がるようなそれらは、ついに、起こらなかった
「ん・・・」
抱かれるばかりではない、騎士様は立ち上がり
そっと妻の唇を奪った、重ねるではなく、奪う
少しだけ、たじろいだように妻は下がる
その体重が移動した分だけ、夫がのしかかる
自然と二人の密着が増す
「・・・」
「何も言わず、ずるい」
「愛してる」
「そういうことじゃありません」
アルとしては、精一杯気を使った、ある種のプロポーズだったのだが
妻はかるくいなす、そういう柄ではない夫を内心微笑ましく思っている
この戯れ事のような営みが、お互いの心を弛緩させる
しかし、この夫婦は今一度別れなくてはならない
それを二人ともよく解っている
「アル騎士、あなたは主人を守らなくてはなりません」
「キルシェ」
「わたくしは、今暫く祖国のために留まります、必ず紅の姫様をお守りください、
ここは大丈夫、クラフト将軍に、デハンの皆様が居られます、それに」
視線を窓の外へと向けた
下ではまだまだ喧噪がやまない、解放の喜びを露わにした民衆が
止むことのない宴を催している
実際は、安い葡萄酒とチーズが振る舞われただけだ
まだまだ予断を許さない、北方の敵を一時的に引かせた
そのうえで、ヴェステン市民軍が立ち上がった、頂きに皇女キルシェがいる
旧主どもはことごとく逃げ散った、なにより
キルシェの愚弟もこの場より消え失せた
おそらくは亡命をしたと思われる
無能な上層部はキルシェが率いた市民軍の抵抗にあっさりと屈し
いや、前線だけ戦わせておいて、自分たちは逃げるという選択をした
結局、彼らも先に倒した政権と同じ末路を辿ったらしい
裏切り劇も随分あったようで、キルシェ達が王城に登ると
特に敵対したわけでもないのに、そちこちに血の臭いがたち、死体が転がっていた
一瞬青ざめて、それらに愚弟が含まれるかと考えたが
ついに見つからなかった
生き残った臣下の一人によると、女とともに逃げたという
正式には、女が彼を逃がすことを手伝ったらしい
キルシェは、姉としての感情だろう、愚弟が生き延びたことに安心し、
なによりも、愚弟を助けた女が側にいたということに安息を得た
「わかりました、皇女」
ずき、キルシェが少し心に痛みを覚える
皇女と呼ばれることに悲しみがある
二人は今、身分が違うとお互いに宣言しあった
夫婦であるが、そういう問題ではない、国に仕えるいち騎士と国を治める皇族
その差は歴然
「私もまだ、いや、随分と市民から嫌われておりますが、大丈夫慣れています」
「皇女の人柄ならば、必ず市民は受け入れることでしょう」
「ありがとう」
「他ならぬ、私が言うんだ、本当に大丈夫だよ、キルシェ」
「アルさま」
今一度、二人は抱き合った
そして、今度は優しく唇を重ねた
ゆっくりと離れて、二人は視線を交える
お互いの何かが交換されたように思われた
「それでは、御武運を」
「騎士様の勝利を祈っております」
マントを翻し、白い鎧の騎士はヴェステンを出た
率いるのは極東異人団の生き残りのみ
残りの部下、あるいは、傭兵は全てヴェステンに置いた
手勢20人ほどである、全員が騎馬兵である
進路は紅の国王城、主人のもとへとひた駆ける
☆
詰問が待っているだろう
ゼーは覚悟を決めている
既に囚われの身のような処置をされている
大騎士であるが、そういうことは、今現在意味をなさない
皇子の側にいながら、己のみ無事帰ってきた
その怯懦は、いかなる言い訳も成り立たない
それはよく解っている
じっと、堪えて、ゼーは女王を待つ
「・・・?どうした」
「いえ・・・その、軍師様がお帰りになられた様子で・・・」
ゼーはのどを鳴らした
呻くように、少しだけ肩を落とした
落胆がその姿にありありと現れた
見張りの兵士はそれが意味するところを解っていない
ゼーは、祈りを捧げる
今暫く、この後に起こるであろうことに、少しでも慈悲のあるようにと祈っている
☆
「軍師様が戻られましたが・・・いかがされますか」
女王は戸惑っている
今、すぐにでもゼーのもとへと行きたいそう思っている
しかし、少しだけ落ち着いて考える
ゼーに一人で会った場合、殺してしまうかもしれない、血が騒いでいる
このところの殺し慣れた自分に恐怖を覚える
人を殺すことを厭わなくなっている自分の手を見つめる
落ち着く、沈静させる、冷静になる
軍師殿に先にあい、その成果を聞いた後
ゼーの、いや、ツエクのことを相談しよう、そのうえでゼーに会おう
それがよい
「軍師殿と先に会う、用意いたせ」
はっ、
従者の一人は頭を垂れると、急ぎそのセッティングに向かった
広間に通す用意をするのだ
心が騒ぐ、落ち着かなくてはならない
つと、視線がリズの姿を捕らえた、ちょうどよい
「リズ、暫く側に」
「は、はい」
驚いた様子だが、すぐに走り寄ってきた
グラスの代わりに色々と身支度を手伝わせなくてはならない
部屋へと連れ込んで、その場で一つ悪戯でもするか
そんなことも思ったが、そういう欲望で誤魔化して、今から逃げようとしている
脆弱な自分に苛立ちを覚えた
「女王様、こ、これを」
「?・・・ラベンダー」
「はい」
気が利くようになったな
少なからず驚いた、ラベンダーの香りをまとわせた小さな布を渡してきた
心を落ち着かせる効能があると、以前、誰かから聞いたのを思い出した
静かに、その香りを嗅ぐ、静まると思えばそうなる
そのきっかけを十分に与えてくれた
「グラスがしばらくおらぬ、側におり、玉座近くに控えよ」
「かしこまりました」
リズはうやうやしく頭を下げた
今までの頼りなげな姿が、少しだけよろしく整ったように思う
ツエクの側にいたからか
考えたが、答えはわからない
「宝石はいかがされますか?」
「よい、このままで出る」
「はい」
忌々しい
なぜか、そんな言葉を思った
宝石の箱を空けることすらしなかった
新しい石を探さなくてはならない、そう思い王座へと向かう
「リズ、これを返す、ありがとう」
「い、いえ・・・おほめにあずかり、こうえいです」
慣れない調子でリズは応えた
微笑ましいことだ
王座に腰を落ち着けると
一度だけ、広間を見回した
居並ぶ重臣の顔を眺める、どれもこれも石像のようで整っている
仮初め、とはいえ、十分に装備を整えた近衛兵もつけてある
広間であるにも関わらず、弓を持たせているのが二名
この二人は、女王の勅命にとても忠実な仕事を見せる
この場で、不手際のある大臣を射殺した実績を持っている
今日は使う機会がなかろう
「よい、通せ」
少しして、扉の向こうに人の気配を感じた
実際はおそろしく遠くだ
誰かがその向こうに来た、それにあわせて扉を開ける係が近づく
そういう当たり前の事象からそれを予見する
すむ、この扉は音を立てない
ゆっくりと、空気を割って開く
扉間近では、ばふ、と言った空気の音が聞こえるそうだ
薄暗いそちら側、そこに広間からの光が伸びる
見慣れた、軍師殿の顔が見えた
「おかえりなさい、軍師殿」
そう、告げるはずだった
一瞬で、めまぐるしく女王の脳は血液を巡らせ、酸素を消費した
神経や血管の類が焼け付くのではないかというほど
この刹那に酷使しえた
目の前で起こった事象を判断する
そして、次の手を考えなくてはいけない
広間は静寂を保っている、永劫続くかのような、わずかな間が全てを凍らせる
暗がりから軍師殿が歩みを進めてきた
武装をしている、まず違和感をここで覚える
続いて、女の姿が見えた、軍師殿が歩みを若干横へとずらした
その背中に隠れるように存在したそれが露わになった
紅のドレスに身を包んだ女
それが視界に入った
未だ、静寂は続く、何も聞こえない、彼らが歩く軍靴の音は
全て、分厚い絨毯が消し去っている
「!!!!・・・・弓っ、射殺せっ!!!!!!!!女を殺せっ!!!」
王座の上で、女王は吼えた
前傾になり、まるで、獣が威嚇するときと同じように
まなじりをつり上げて、右腕を大きく横へと振った
合図だ
この間、音は彼女の命令のみだ、わんわんと広間に響く
彼女の声だけが、この空間を支配している
パスパッッッ
言われて、弓兵はいきなりのことでも全く躊躇なく仕事をし終えた
こういう訓練をつけられてきていたのだ
猟犬のように、主人の命令に迅速な対応を示す
ただ、それだけのために毎日を生きている
その技が、声の直後、2本の矢を見舞うに至った
そして、なお、続けざまに2本を見舞った
いずれもが女を射抜いた
どぉ、音を立てて女は倒れた
声を出す間もない、軍師殿はまだ、女が倒れたということに気付いていないかのようだ
それほどの強弓が女を襲った、間違いなく致命傷を与えた
ようやくその事態にまわりの人間が追いついた
今、この時間時間において、女王は最速で生きている
誰よりもこの事象をじっくりと観察して、誰よりも速く行動を起こしている
軍師殿が驚き、みるみる顔を驚きのそれにかえる
明らかに遅いにも関わらず、今更に軍師殿は弓をかわすような動作を起こしている
軍師殿だけではなく、その他付き人も全て同じ様になっている
一種の騒乱がそこに起きる、ようやく、きゃぁっと言った声があがる
リズだ、その処置に驚きの声を上げたのだろう
女王はなおも油断しない、倒れた女に憎悪の視線を送りつつ
次のことを考える、軍師殿を問いただす必要がある?
いや、横にかわしたのは、合図ではなかったか?
わざわざ、私に殺させるためにそうしたのではないか?
疑問は誰かに応えてもらわなくてはならない
「軍師ど」
「・・・なるほど、よく躾けている」
すわ、
女王は凍り付いた、彼女が今度は石像となる番がやってきた
まったく気付くことがなかった
ただ、今は、首もとにナイフを突きつけられたように
軽くアゴを上げている、無論何も突きつけられていない
ただ、指先で嬲られている感触がある
その指先の動き、ゆっくりと撫でられるだけで、何もかもが恐ろしくなってくる
彼女の表情から余裕と、怒りと、ありとあらゆる感情の類が抜け落ちていく
一点、恐怖に脅えるそれを残して
「よくよく、代わりをつとめてくれましたね、妹よ」
「あ・・・・あねひめ・・・さま」
「今のも流石、お前でなくては、あの、私の偽物を不届きとして殺すことはできなかったでしょう」
「?????」
「この場にいる誰もが、あの仮装した女を不敬だと言う暇なく、お前は殺して見せた、
なるほど、私への忠節、未だ、衰えておらぬな」
そんな理屈
女王は一言一言、その、懐かしい旋律
声のトーン、諭すような口調、まだその姿を見ていないというのに
何もかもを、今思い出したのに気付いた
体中から、著しい甘い香りが放出される
かたかた、微かに震える、そうか、私の香りが増したのは
こうなることが、解っていたからなのか
「それに、この石も、よくよく好みを知ってのことか」
ゆっくりと、女王はそちらに目を移した
彼女が身に付けるのを拒んだ、紅い石、カーバンクルがそこで輝いている
紅い宝石の悪魔、まなこで捕らえた相手を石に変えるという魔の者
まるで血のような色、輝く命の石
自分が身に付けていた時とは、まるで違って見える
主人を得たその喜びを光として放っているように見える
女王は石を見ることができても、その主人と視線をあわせることができない
ただ、先ほど殺した女とは
比べものにならない、素晴らしいドレスを纏う女の肢体だけを見ている
「あ、あねひめさま・・・その・・・」
「そのように、言葉失うほど喜ばれると姉として嬉しく思う、ありがとう、随分と」
区切った
「待たせたな」
そこで、視線を交わらせた
いや、顔を見せられたというべきなのか
見つめられたというべきなのか
女王は、その両目で、しっかりと像を結んだ
ああ、麗しい、あの姉姫様がここにおられる
あの頃と、まるで変わらない、そう、あの禅譲の時に
『お前はこの目を忘れることができなくなるであろう』
そう呪われた約束が
今、目の前にある
女王の瞳から涙が零れた
「どうだ、覚えているか、あの時、私がお前に位を譲ったときと、まるで同じ光景」
「た、たすけて・・・ください・・・」
女王の返答は小さく、目の前の姉姫にしか聞こえていない
姉姫はその声にゆっくりと頷いて、対外的な会話
いや、演劇をして見せる
「つのる話もある、それに、この重臣達を付き合わせるわけにはいくまい、まずは解散を宣言せよ、
いや、してはいかがか、紅の女王さま」
これは、命令だ
女王は10年前の日常を思い出した
従順に主人の思う通りに居きる自分をなぞる
今は、言われる通りにする
そういうきまりだ
「皆、今の通りだ、本日は解散とする」
「じょ、女王さ・・・」
「弓、あれを」
スパム!
女王は、事務的に彼女にとって助けようと思ってくれた重臣を
あっさりと殺した、女王はもう奴隷である
今の状況から女王を助けることはすなわち
目の前の姉姫様に逆らうことになる
そんなことは、させられない
ロジックが強力な圧力を受け歪む
「というわけだ、では、明日、いや、あるいは今晩にでも」
姉姫は宣言すると、その場を強引に解散させた
誰も逆らうことができない
何よりも軍師殿がそれに与しているという事実が
強いクサビになっている
重臣達は戸惑うばかりだ、どうしたらいいのか、これからどうなるのか
不安が絶頂に達したと言って過言ではない
「これは、一大事・・・兵を急ぎ集めねば・・・」
忠臣と呼ぶべき大臣も中にはいる
それが、この大事において、女王を救おうと行動を起こした
ただ、それもまるでムイミであると悟ることになる
この重臣が慌てて広間から出て、城外の邸宅へと戻ろうとする眼前
「紅の姫様が、ご帰還なされた!!!!」
「紅の姫様がっ!!!」
「万歳っ、万歳っ、万歳っ!!!!!」
狂ったようにそのバケモノを有り難がる群衆が広がっている
少し調べてわかったことであるが
恐慌状態に陥ったこの民衆の目の前に
抜群のタイミングで姉姫が現れたらしい
英雄を、自分たちを守ってくれる力を欲していた、哀れな群衆は
その存在に酔いしれた
「紅の姫様が帰還なされた途端、全ての事態が好転した!!」
そんな扇動も十分になされていたらしい
確かに、南は治まり、西側はヴェステンが盛り返し
東側にはグイを王に掲げるバンダーウ教が覇を唱えた
北方に挑むかたちは整っているのである
だが、いずれも彼女が現れたから起こったのではない(実際はそうでもないが)
「南に現れた蛮族の女王とやらを、既に退治したとも」
そんな馬鹿げた話がまかり通っている
街辻の噂などというのはその程度のものらしい
何よりも、不安と悪い話ばかりだったその場所に
刺激物が投入された、それにより、全ての民衆が同じ方向を向いた
その姿を見て、女王の忠臣たりえた大臣も
また、女王に恐怖を覚えた大臣などは特に
全て、足並み揃えて、この状況に流されたという、まさに、席巻されたのだ
☆
女王を前に、後ろから姉姫が見つめる
二人だけで女王の部屋へと向かう
「なに、余計なことを考える必要はない、お前の望みはなんだ」
「!」
「それを叶えられるのは誰か?」
「・・・・っ」
「そういうことだ」
女王はまた、涙を零した
意中を整理する、何を望むのかわからなくなりつつある
だが、ヒントを与えられ、正式には誘導されたわけだが、
ツエクを助けなくてはいけなく、そして、それを叶えてくれる人はこの人しかいない
そう気付いた、だからもう、逆らうわけもなく
ただ、望まれるままにしよう
「お願いです、どうか、ツエクを助けてください」
「お前には無理をさせた」
姉姫は、まるで相手にしないで、一人話を始めた
褐色の女王は、おびえながら、既にベッドに押し倒されている
いつかと同じように、あの頃と同じように、夢に見たそれと同じように
今から、犯される
その予感に、自分がどうなっているか、まだわからないでいる
それでも、娼婦である、そんなことを思い出したようだ
「お前は私を見て、私のように、よくよくしてきた」
すい、ドレスはすっかりと脱がされている
ほどよく上気した全身から、芳しい香りがたちのぼる
よじるように、褐色の娼婦は恥ずかしさを全身で示した
姉姫は別の話をしながら、その手管を存分に発揮する
ぴとり、汗ばんだ褐色の肌にてのひらを当てると
ゆっくりと、それを伸ばすように肌の上を滑らせる
腹のあたりに乗せたそれを、まわすようにしながら
薄い胸のほうへとのぼらせる
「は・・・・ぅ・・・・・ぁ・・・」
「もう、ヨダレを垂らしているのか」
「っ!」
「お前は、私のようにしてくることで、無理をしていたのだ」
姉姫のキスが降りた
ぷくり、勃起した乳首にそれが静かに触れた
じんわり、そんな快感が胸先から全身に広がった
小さく、可愛い声で泣く
喜びとともに、自分が淫猥さを取り戻してきたのに気付く
それと同時に
彼女が10年で培ってきた、暴力の影も鎌首をもたげてきた
「無理なんて・・・して、おりません・・・私は、こうだと、教えてくださったのは姉様、貴女でしょう」
「ほう」
乳首から口を離した
姉姫は、少し驚いた様子で
急に何かを取り戻したように、反抗を覚える妹を見つめる
にやにやとするではない、ただ、猫の目のように
観察する瞳をるりるりと光らせる
「恐怖で人を支配する、欲望で制御する、己の力を振り回す」
「・・・」
「そのままに、ほら、振る舞ってきましたわ、それによって、こんなに、あのころよりもずっと
いい匂いになって、姉様の期待以上でしょう、責めることで疼くことを覚えた私が」
「・・・」
「なにより、私は、姉様にはないものを持っていますもの」
体を起こした、褐色の娼婦は瞳を濁して
姉姫と対面した
ツンと乳首を立たせている、指摘されたとおり
ヨダレが通ったあとを口元に残している
それでも、瞳は煌々と光り、ある種狂乱を見せたようにすら見える
自分の胸元へ、そっと手をおき宣言するように言う
「私は、自らの手で殺しますもの」
「・・・」
「手ずから、そしてその快感を覚えましたもの、あの頃と、まるで異なって、そう
姉様を、こ、こ、ころしてさしあげることだって・・・」
言うなり、両手をその白い首に伸ばした
今なら、殺れる
そんな風に、自分の心が、何かを凌駕したのを覚えた
踏み越えられるそういう気分に沸騰する
「その、震える手でか?」
「ふっ・・・・・・ふるえてなんて」
「何度も言わせるな、お前は無理をしてきたのだ」
娼婦は腰をつけたままでいる
姉姫は、柔らかいベッドの上にしず、立ち上がった
別段バランスを崩すこともない
ドレスは既に纏っていない、ただ、一等の裸身をさらす
その裸身の最も美しい部分に、瞳がある
瞳は、冷たく、ただただ娼婦を見下している、その視線に
いよいよ娼婦はふるえを強くする
「お前が他人を責める、馬鹿なことを言うなよ、よく思い出してみろ
お前は責めていたから喜べたか?責められる相手を見て喜んだか?
責めることで自らが何を欲するか覚えたか?
とくとく、その殺したことを思い出してみろ、お前が、どうして、何を思っていたか」
「なにを・・・も・・・・」
「お前は相手を責めていたのではなく、己を責める言葉を探していなかったか、
責めることで、責められたことを思い出していなかったか、
その倒錯に殺意という誤魔化しを覚えたのではないか?」
「そ、そんな・・・こ、ことわ・・・」
女王は再び押し倒されることになる
いや、圧されてなどいない
ただ、圧倒されて、自ら再び倒れた
まるで、乗りかかられたように、一人倒れた
「け、蹴られた・・・」
「蹴ってなどおらぬ、お前に、触れてなどおらぬ」
「そ、そんなこ、こと・・・だって、私は、今、た、たおれて・・・」
しず、女王が一歩踏み出した
倒れた女に跨るような位置、一歩目は腰の横に
足が沈む、しかし、少しも触れない
だが、倒れた娼婦は、たまらぬ表情を見せて喘ぐ
「んっ・・・や・・・た、助けて・・・・はんっ・・・」
「・・・」
見下したまま、姉姫は冷たく見下ろしたままで
もう一方の足を反対側の同じ位置に置いた
しず、また、沈んで、いよいよ跨った形になった
それでも、触れていない
「はぁっ・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・!!!ま、跨られて・・・」
「そうだ、お前は、跨られて興奮を覚えている、
わかるか?お前の今の痴態が、どうであったか、思い出したか?
責めているという仮初めの快楽に覚えていた
ムイミな10年間を思い出したか」
「む、ムイミ・・・」
ぽろ、唐突に瞳から涙があふれ出た
とめどなく流れる、でも、鳴き声はあがらない
顔をどんどんと涙が流れていく
娼婦は、大事なものが壊れたように感じた
そこへ、間髪をいれぬように
白い足が、ミゾオチに降りた
ぞくっ!!!!
「ぁあああっっ!!!!」
「まだ、何もしておらん、どうした、まさか、もういたしたか?」
「ち、ち、ちがいます、ちがいますっ」
言いながら、自分が漏らしたのを理解した
なぜ、わからないまま、全身をふるえが登ってきた
がたがた、歯の根があわない、そんな肉体の誤作動に脅える
「さぁ、足で撫でられて、お前はどうなっていく?どうだ、それまでと比べてみよ」
「あ、あ、あ、あ、あぅ、ぅ、あ、あ、あっ、き、気持ちいいです、気持ちいいですっ!!!」
足先がゆっくりと、撫でた
足で撫でられる、そういう言葉を頭の中で反芻して
狂ったように喜ぶ自分の下半身を知った
太股が痙攣を繰り返している
その合わせ根は、いったい、どんなことになっているだろうか
ああ、甘い香りがとまらない
かつてないほど、濃厚にそれが放たれる
「さぁ、領分を思い出したか、それ以上、どうすればよいか」
「ふぁ、ふぁい・・・ご、ご奉仕を、させて・・・い、いただきます」
言うと、またがられたその中心にそっと舌を伸ばした
それからは、もう、何もかもを思い出した
いや、そうだ、ずっと練習をしてきたのだ
他の、ありとあらゆるものにやらせることで
どうされるのがよいのかと、練習をしてきたのだ
リズの姿と自分が重なった
うまく笑えるだろうか
あの娘のように
この夜、女王の快楽への声は、それまでのいずれとも比べられぬそれであった
城内は、その情事の結果を声で知ったことになる
北方に敵が迫っている
そんなことは、些細なことである
そう思わせる
少なくとも、軍師殿はそう思っていた
☆
喧噪、と言うべきだろうか
そんな上層部の痴態ともいうべき事件の最中
ゼーが、虜の身から脱している
急展開すぎだろ
わかっております、ごめんなさい
もう、終わらせるにはこれしかないんです
そんな酷い話になっておりますが
エロ小説なのに、エロいれる隙間なくなってきてがっかりの昨今
無理矢理今回やってみたのでありましたが
本当は、SMの逆転というか
Sだった奴が、そのうえをいくSによってMに転換するとかいう
そういうのを書いてみたかったのでありましたが
無理はして、いけませんね、というか、そんな難しいことできるかよ
そんな具合で、迷走しております
(07/09/18)