Edelstein ”Karfunkel”


戦火が広がっている

この戦争は、北大国と紅の国の間で起きたものだ
最初から最後までそう記録される
絶対に越えられない山と言われたそれを「くりぬいて」やってきた
ぞろぞろと、北大国の軍隊が押し寄せてきた
国対国の喧嘩で、大切なのは物量
その物量において、紅の国は劣勢に相違ない
わずかばかりの火石と、猫の額ほどの国土、仮初めの経済
何もかも、勝てる要素はない

「ゼー隊がどれほど保つとも思えない、クラフト将軍ともども引き上げさせて
本城で決戦を挑むべきではないか」

「南のデハン教とも一旦和議を結んで、兵力を結集させるべきだろう」

「軍師殿はどうしているのだ」

「東のバンダーウ教は同盟に則って援軍を差し出さないのか」

「ヴェステンはどうしてる」

円卓と呼ばれる作戦会議の場では、
様々な大臣や、政務官と呼ばれる者達があれこれと質問ばかりを並べている
質問をすれば自分の価値が高まるかと思っているかのようだ
誰も答えないし、答えがないから、導くべき回答もない
茶番だ、こんな無能ばかりでどうするというのだ

褐色の女王は、ぼうっとした瞳を揺らしている
目の前で繰り広げられる会議めいた何かは
まったく晴れることのない霧のようなものだ、掴めないし見えない、なのに視界は塞がる
早馬を軍師殿の元へと急行させた
南にも既に使いをまわしている、デハンとは和議を結ぶ予定だ
いや、デハンとはそもそも戦争状態に外面では突入していない
彼らなりの無茶な言い分があるのだが、それを認めてやるだけでいい
南港などくれてやろう
ただ、どれだけ、なんでも与えてやるが、ツエクだけは、決して奪われることがないように

祈ってしまう

「ゼー隊の救援に向かわれたというツエク様の様子はどうだ」

「マイグレックヒェンが鬼神の如く勝ちを得たとの話が」

「扇動偽伝ではないのか」

女王は歯痒い思いでその場に耳を傾けている
強権でならすわけではない、確かに、或る程度の力をもって政治を支配してきたが
こと、実務に関して女王は無能に近しい、極めて単純なルールに従って
どうするべきか、そうするためにはどうしたらよいか、そんなことはできる
だから内政はよくよく支配できていた
軍事はそうもいかない、しかも奇襲に対する反抗という
一つレベルの高い問題だ、こういったことは軍師殿に一任してきたこともある
だから、口を挟むこともできない
ただ、いたずらに流れていく議から、ツエクという単語を拾い集めるだけだ

「女王様・・・・」

「グラス?・・・遅かったではないか」

「申し訳ございません」

うやうやしく侍女長は頭をさげた
女王は鬱陶しいというよりも、混迷がきわまり、弱気が顔をのぞかせている

「リズはどうしてる?」

「はい、今はツエク様の部屋の掃除を」

「ツエクの?なぜだ、ゼーに付いているのではないのか」

女王は強い視線をぶつけた
弱っている時とはいえ、このような異常事態には敏感に反応できる
知らない内に、自分の足下が全て崩れてしまった
そういう錯覚を覚えている
目の前の腹心と思った侍女長が裏切っている
そう見えてしまうほどだ
裏切るという言葉は乱暴かもしれない、しかし、女王があずかり知らぬことをこの女が知っている
それは裏切りという行為に当てはまると信じている

「私が、ゼー殿と寝たからです」

「グラス・・・・」

「リズから奪い取りました、女王様がお取りなしをされていたのを知っておりながら・・・」

震えている、しかし瞳ははっきりとして
罪の意識を表情の影に置き、罰を受け入れるような強さを見せた
女王は嘗めるではないが、その全てを見透かす瞳で射抜いた
こういうずぶどろの事は、本当によく見える
女王は己を嘲笑ってしまう、目の前の、男に恵まれぬ女が
どういうつもりで、その人生を歩んでいるのかが見てとれたのだ
初めての男の仇をとるため、不細工に体を売っていく道程

「奪ったのは、それだけでもあるまいに・・・まぁ、よい」

「・・・・」

「ゼーが北に向かった理由がよくわかった、しかし、ツエクが追ったのはどうしてだ」

「詳しくは私もわかりませんが、ツエク様お抱えの諜報隊が何か掴んだのでは」

言葉の途中、おずおずとした様子のリズが見えた
会議の熱はいよいよ上がり、空気が異質を拒んでいる
明らかにリズはその場で浮いている
ためらうようにしながらも、その空気を振り払って
そすそす、小走りで女王の側にやってきた
会議は何も決まらず、それでいて首座の女王を交えずに進む

「リズ、ちょうどい、ツエクが何か言っていたか?」

「その、国の大事だから・・・と」

「それだけか?何か、知らせなどは受けておらぬか」

「わかりません・・・」

申し訳なさそうな顔で謝った
脳が足らないのだな
今更ながらに思い出した、この子はバカだった
女王は久しぶりに、嬲ってやりたい衝動を覚えたが
今はそんな時ではない、ともかく、ゼー、ツエクの騎士隊がそれぞれ
北方で敵と戦闘を開始している
敵は前隊だろうから、まだ序盤戦といったところ
焦るほどの敗退はあり得ないが、議題のとおり、今後戦況の悪化を辿る可能性がある
その可能性を一つずつ潰していき、いや、せめて
軍師殿が帰ってくるまで・・・

「?」

「どうされました、女王様」

「いや・・・覚えた景色だと思ったのだが・・・まさかな」

女王は独り言を呟いた
軍師殿の帰りを待つというフェーズ
デジャヴを感じるが、押し込めることにした
こういうことは思い出さない方がよいのだ
会議は止むことがない、飽きた様子で女王はそこを任せるとだけ言い
自分は外へと出た
円卓は成功だ、阿呆どもを固めておき、その間に外から政治を支配する
いつものようにするだけだ、女王の瞳が揺れる
血脈のように広がる、彼女手飼いの使者達が、ひたひたと仕事を始める
軍師殿が帰ってきたときには、彼の言動だけが全てを支配する
そうすれば何もかも大丈夫
10年が後押ししてくれる、ツエクもきっと助かる
女王の靴音は、少しだけ大きく響いている

「随分とお急ぎだったのですか?」

「何が」

「いえ、いつもの、宝石を身に付けておられないので・・・」

グラスが指摘した
女王は、一瞬だけ表情を強ばらせたが、平静を装い
飽きたのだ
などと答えた、部屋に閉じこめてある、宝石箱の中、紅い石の光を封じ込めてある

「北を破られてきたか・・・」

ヴェステン北部
クラフト陣営で、どっかりと暑苦しい男達が頭を寄せ合っている
地図には、現在の状況と、寄越された新たな敵の姿が書き込まれている
懸念の部分は、赤で描かれて他と区別がされる
あくまで想定の部分を赤で記すことにしている

「退路を断たれる可能性があるか・・・」

「その前に陣営を下げねばなりません」

「バカ野郎、そんなことしたらヴェステンを見捨てることになる」

「将軍、しかし、我々は紅の国の騎士です、今は本国の危機を」

ばごずがっ!
鉄拳が口答えした若い騎士を黙らせた
クラフトは目をつり上げて怒りを吼える

「てめぇっ!騎士は弱いもんを守る生き物だ、本国がどうだとか、そういうのはな
総司令官様の指令が届くまで、考えるような話じゃぁねぇんだよっ」

「将軍・・・あいかわらず」

「なんだお前ら、まさか、貴様らもそうか?」

ぎろり、睨みをきかせると
退役軍人からは、凄まじい殺気が漏れて出た
誰が、その視線を受けながら異論を唱えられるというのか
その場は、一瞬の静寂に包まれた
ごほん、クラフトが一つ咳払いをして、地図にまた目を移した

「しかし、確かに困ったことではあるな」

退路を断たれるというよりも、増援がいよいよ期待できない
それが問題だと考えている
敵は、西からも増援が到着してきている様子で
だんだんと、攻防が激しさを増してきている
朝の出撃では、敵の数が倍に増えたのではないかと思えるほどだった
こちらは減っていく一方

「ヴェステンの騎士どもはどうしたんだ?」

「期待しておいでで?」

「いや、懸念がな」

「敵方に寝返ると」

「わからんな、ヴェステンも南北に別れてるそうじゃねぇか、もともと、
その喧嘩の仲裁のふりして、ここをぶん盗るのがゼーの使命だったんだ、あり得る」

「将軍は解りづらい人だ」

「何がだ」

「悪徳をしつくして、世の中の裏表も知っているくせに、口を開くと
平たい、バカみたいな正義ばかり・・・我々は大変です、今回の裏もとっておいでじゃないですか」

がっはははは、重騎士達が一斉に笑い声をあげた
クラフトは、ぱちくりとまぶたを動かしたが、その笑い声に続いて自身も笑った
伊達に歳を食ってないし、将軍の地位まで登っていない
老獪さを持て余すほどに理解しているのに、妙な矜持にしがみついている
そういう男だ、不器用とは違う、実に器用に生きていると言えるだろう
しかし、政治家として一流には決してなれない、そこまで狡賢くはない
生きるために必要な智恵を持ち
少年でも今時抱かないほどの正義感を愛する

「伝令、残念な知らせです」

「動いたか」

クラフトが目をつぶった、伝令の話を聞くときの癖だと本人は言う
しかし、別にいつもしているわけではない
悪い話を聞くとき、何かに耐えているんだと付き合いの長い騎士が噂している

「現状のヴェステン領主が討ち滅ぼされました」

「南か」

「はい、旧主の、レーヴェとかなんとか・・・・」

「ああ、妾の子だろう、知っとる、頭の悪いバカボンだ、ブライテストタールのあれらと一緒だ」

クラフトは、はいはい、そんな調子で伝令の声に言葉を挟む
また、続けろと合図を送る

「北方から、まぁ、この地域からと言ったほうがよいかもしれませんが、逃げた国民が
そちらで結集をしたらしく、その力を使ってレーヴェとやらが、一日の間に」

「たった一日で陥ちる城か・・・もともと、腐ってやがったな・・・まったく」

「領主達は行方をくらましたとの話も入っております」

「ハナからやる気なんざ無かったんだ、逃げたのだ国を捨てて、よろしい、それで一番の知らせは?」

「はい、南ヴェステンのレーヴェが、この北方敵を焚き付けているとのこと、
どうやら、ヴェステンへと導いたのがレーヴェだということです」

「つまり、敵対してきたということか」

クラフトは一息をついた
地図にまた、書き足さないといけない
自分たちの陣地が真っ赤に染まる、南北で挟まれて
東への退路もほぼ断たれつつある

「守るべきものがなくなりましたな」

「いや、むしろ分かり易くなった・・・ここ、居住区がまるまる一個残ってるだろう」

あちゃー、そういう感じで側の騎士は顔を手で覆った
皆、うすうす気付いていたが、まさかそんなことはすまい
思っていた、というよりも、手が出せなかった
守るべきヴェステンの国民がレジスタンスを構えているらしい
敵方も流石に、それと結びつかれるのがまずいと思ったのか、
中間線をあっさり遮断してきた、救援するには、かなり陣形を崩し
危険を冒さなくてはならない

「朝が来ます」

見張りから、それが伝えられた
また、戦争を始める時間がきた
夜戦はほとんど行われない、朝、そして昼休憩があって、もう一度
そういう一日に二度の戦闘をして、日々を費やしていく
典型的な戦争状態を繰り返す

「各自持ち場につけ、さぁ、仕事だ仕事、午前はやり過ごせ、午後からレジスタンスの救助に向かう」

「おおおぉっ!!!」

誰も文句を言わず、この場の司令官の声に従う
ざざざっ、大きな音を立てて、持ち場へと散っていく
そこかしこで怒声を上げて、隊員達が陣を組んでいく
黒々とした騎士達の動きは、朝日の中で、うずうずと整えられていく
敵からは、虫だと罵られているらしい、彼らは笑う
我々は蜂なのだと
鉄の組織を持つ集団が、今朝も元気に出陣していく、何人かが帰ってこない
それを知りつつも、ようようと、己を鼓舞して突撃を開始する

「すまんな」

「将軍言いっこなしです、それに、私も十分生きました」

「そういうことだ、重騎士を続けるんなら、ここが墓場だ、これ以後は死に時が永劫こない」

「くすぶったまま生きていくのは御免被ります」

「よろしい、ならば貴様も突撃だ、俺は少し遅れていく」

「将軍?」

「なに、どうせなら午後だ、国民を助けてというシチュエーションがな、好きなのだ」

笑って、側近の一人を出撃させた
側近はその笑顔を胸に刻む、本当にそう思っている男を見て、羨ましいとも思った
その男を好きなのだとも思う、そう思っている馬鹿ばかりが黒々と並んでいく
前線では敵との交戦が始まっている

「よーーし、弓方、撃てぇえーーーっ!!!」

「勝てる、勝ってる、みろ、勝ってるぞ、あの紅の国にだ」

気が触れたように、激しい息づかいでレーヴェは騒ぎ立てている
紅の国に勝っているなどと言っているが、一兵たりとも
紅の国の兵隊は居ない
相手は、烏合の雑兵ばかり、仮初めにすえつけられていた
ヴェステン国防隊だ、脆い、あまりにも弱い
その弱い奴らを、農民によって殺させている
破竹とまではいかないが、国民軍の威勢の良さがよくよく出ている
国民軍は強い、戦闘への怒りの濃度が高いせいなんだろう
兵隊よりも勢いがあるから強い
そのまま、じわじわと北上をしている

「僕はもうたまらん、そうだな、ここは任せておく、お前らにも勝ちの気分を味わわせてやる」

偉そうなことを言ってから、奥へと逃げ込むように消えた
旧王家の者達は、確かにその勝利を噛み締めようと
飢餓状態だった、勝利への渇望をそこで具現化させている
彼らの使命は、現状のヴェステン宗主を討ち滅ぼして国を奪い
北の大国と合流することにある
彼らは三竦みから、北の大国を選んだ、北大国の先兵となって
ヴェステンだけを任されよう、そう算盤を弾いた

「ほら、どうだ、次期国王様だ、嬉しいだろう、もしかしたら次の国王を孕めるかもしれないぞ」

ぱんぱんぱん、青白い腰を必死に振り立てて
後ろに飛び込んだレーヴェは、女を一人てごめにしている
宮中で捕まえた、それなりの女の一人らしい
大人しい顔をしていたが、随分と豊満な体を持っていたらしく
すっかりレーヴェのお気に入りだ、あんあんと、可愛い声を立てつつ
言われたことには反応を見せず、柔らかく腰をくねらせて男を迎え入れている

「そうだな、女王の座は無理だが、第二婦人なら十分約束できるぞ」

「あん・・・も、ん・・・や、レーヴェ様・・は、はげし・・・」

「第一はもう決めている、そうさ、南で塔の中で待っている」

急にピッチがあがった
腰を途端に乱暴にぶつけはじめる、興奮がきわまったらしい
自分の言動に扇動されて、煽られるまま振り回される
楽しい人生だろうな
誰かがそう言ったという、己がどういう出自か忘れたかのように
目の前の女に、妾への扉を開いている

「ああ、姉上、姉上・・・姉上っ!!!うぉぁああっ」

「いやぁぁああっっ!!!!んぁああっっ!!」

びゅぐっ!!!、勢いよく女の中に精を放つ
他の女のことを叫びながらヤるなど、最低極まりないが
女は浴びせられたそれを十分に膣で感じ取っていた
レーヴェのことをどうとも思っていない
そういう女だから、宮中にいたのかもしれない、うつろな目をして
ただ、体を弄ばれている

「もう一回だ、もう一回」

まだまだ屹立を緩めることもないらしく
反り返ったそれを、口に含ませた
女は一瞬だけ嫌そうな顔を見せたが、従順に
玉をそっと片手で揉みはじめて、竿をしっかりとしごきあげる
口元から唾液をこぼしながら、胸を強調させつつ受け入れる体勢を整える
もうすぐにイく、それが解るらしい
レーヴェは突っ込もうと思っていた様子だが、我慢がきかない
立ったまま、くわえ込ませて乳をしっかりと揉みし抱いている
手頃な、いや、やや大きくこぼれるほどでその柔らかさがまたたまらない
女はしおらしく、膝をついて、目をつぶった
レーヴェはその姿を見て、たまらなくなったのか、また放った

どくどくどくっ
白濁した液体が、とぷとぷと鈴口からあふれ出して
女の顔をすっかり汚した
終わるまで、何度も細い指でそれを優しくさすり
最後に、笑顔を見せた
レーヴェの心は釘付けだ

「お前が上手いから、またすぐに出てしまった・・・そうだな、また、今晩、それまで休憩だ、私は忙しい」

言い終わるとレーヴェはいそいそと服装を整えてまた出ていった
女はそれを見送った、早漏野郎、などと罵ることもない
早いとは思っているが、それでもいいと受け入れている
自分のどこかが、きっと、彼の姉上に似ているのだろう
そういう理由も受け入れている、宝は、価値の解らないものの所になぜかある

「どうだ、もう完全に陥としたか?」

「お早いですな」

「当然だ、総大将が長期不在などありえない」

側近の一人が皮肉を見舞ってみたが
理解された様子はない
状況は相変わらずよいまま、わずか30分程度でそんなに変わるものでもない
順調に北進を続けているらしい、遠くでまた煙が上がり始めた
そろそろ、本隊もまた前進させないといけない

「よーし、ならば、前進だ!!」

大声でレーヴェが叫ぶと、ざがざが、本隊が慌ただしく移動を始めた
もともとの首都を奪回し、いよいよ北部の前線へと向かう
前哨隊は既に交戦領域に入っているらしく、喚声が時折聞こえてくる
いつだって戦場の後ろというのは、安穏として安全を貪ることが許される

「北大国と結ぶところまで進め、そこからは彼らの指示に従う」

得意げに言うが、その言動の全てが
まったく脳味噌を使っていない言葉だと本人気付いていない
もっとも、それをとやかく言うような優れた家臣を持たぬのだから道理だ

「直進途中、どうやら、レジスタンスが潜伏している地域があると情報が」

「レジスタンス?それは、言葉としてあっているか?」

「い、いや・・・ま、間違えました、反乱軍です」

「そーだ、よーし、そいつらから血祭りだ、かまわない、こちらの誠意を北大国に見せるんだ」

バカボンは吼えてそのまま、うつけ言葉を命令にした
彼が使役しているのは元ヴェステン国民、それらによって
今殺そうとしているのも、元ヴェステン国民
しかも、彼らはヴェステンという国の為に立ち上がった者達だ
政治の上で、そういった邪魔なことになったのだ
彼らが間違ったのだから仕方ない
そういう倫理がまかり通るようになっている、指揮官が無能な上に若い
全てはそれで説明たりうるらしい

「レジ・・・いや、反乱軍は、どうやら紅の国軍と結んだ様子ですが?」

ひくり、流石の楽観屋もその知らせには表情を曇らせた
本物の軍人を相手にして勝てると思うほど
流石にのぼせあがってはいないらしい

「そうか、ならば、使いだ、使いを出して北大国に退治してもらおう、そうしよう」

「流石、賢い選択でございますな」

「当たり前じゃないか、国王は絶対に間違いを犯さない」

得意げに、キレの良い笑顔を見せている
前線は、その地域に到達しつつある
この日は移動だけで終わらせるつもりらしい
包囲網を敷くようにして、じわじわ、国民軍は敵と呼ばれるものを囲み始めた

「第三隊まで崩れました、もう、持ちません」

「バカ野郎、誰が弱音を許した、まだいけるだろう、ぶん殴って気合い入れ直しておけ」

クラフトが荒々しく吼える
戦況の悪化は甚だしい、午前中いっぱいは持つなどと
高をくくっていたが、敵の増援は予想以上だった
ロートホルンではないが、大きな投石戦車を投入してきたらしい
これが大変厄介で、屈強を唄われる重騎士も相当数が、文字通り叩きつぶされている
散々にうち破られた後に、歩兵の突撃を受け蹂躙される、市街戦で最悪のパターンだ

「しかし、あの投石が・・・」

「敵、投石来ますっ!!!!」

近くの物見が叫んだ、あ、と言うまに大きな音がして
周りに凄まじい砂埃が舞い上がった
岩石は、人の頭ほどの大きさとやや小粒ながら
それを連射してきている、新手の戦法と呼べるのかもしれない
やはり、もう重騎士の時代は終わったのだ
近づくこともなく、戦場では標的になるしか仕事が残っていない

「将軍!!」

「バカ野郎!!、仕方無ぇ、陣地の放棄だ、全軍レジスタンス陣地にて再度布陣、いいな」

「あの細い道、通れますか?」

「通るんだよ」

「次弾きますっ!!!」

どががががっっ、また、霰の如く、岩が降ってきた
味方の何人かが倒れる、クラフトはそれを見て、ぐっと、力を込めた

「ぬぅあああっっ!!!!」

ばっがーーんっ!!!!、向かってきた岩石を鉄拳で砕いた、あり得ない、いや、実際起きている
度肝を抜かれる味方だが、その勇姿を目に焼き付ける、全員が大将の顔を見ている
その視線を十分に感じながら、クラフトが吼える

「バカ野郎っ!!!てめぇら何年重騎士やってんだ、力だ、力で解決せい、腕力を見せろ、重騎士のパワーを見せろ」

「うおおおおおっ!!!」

続くようにして、よくよく狙って何人かが岩石を叩いてはじき返した
当然、そんな芸当何人もできるわけもなく、失敗して即死する奴もいる
だが、その死に様は不格好で、どうしようもないが
重騎士全員に奇妙な誇りを感じさせた
自分たちならではの死に様だ
笑いを噛み締めるような表情が、黒い鎧の下より見える
戦場で歯を見せるのは、懲罰対象だが、堪えられないほどの愉悦が登ってくる
戦士達は今、狂人となるチケットを手に入れた
その様子を見て、クラフトは顔を曇らせてしまう
また、阿呆を導いている、誰も救うことがなく、ただ、戦争するだけのバカを育ててしまった

「将軍!!合流できました、増援がきますっ!!」

わーー、ここで、レジスタンスの連中が一気になだれこんできた
戦況が一瞬だけ小康状態を取り戻すだろう
味方に元気という起爆剤が投入された、みるみる戦地は整理されていく
大方の陣地を放棄したことになったが、活きのいい兵隊が手に入ったのは大きい
もう少し戦闘らしいことが継続できる
敵はいい司令官がいるらしく、その様子を見ると
一度兵を引いていった、ちょうど太陽が最も威力を発揮する頃
あまり兵を酷使したくないらしい

「よーしお前ら、おやつの時間だ」

クラフトが冗談を言うが、笑っているのは彼を知る幾人かの重騎士だけだ
相当減った、もう20人を切っているかもしれない
それでも、ありったけのロートホルンは持ち込んできている
堅陣地を布いて反抗すれば、数日はこちらに兵力を向けさせられるだろう
戦争に勝てるかどうかなど知ったことではないが
任務は果たせることとなる
規律だの、階級による戦略への注進だの、そういったことを忌み嫌っているくせに
クラフトの中で、一つの戦略が出来上がっている
自分たちは捨て石となって、本国の時間を稼がせる、無論、紅の軍師殿がどうにかするためのだ
それくらいしかやってやれることがない

「南から、レーヴェ軍が・・・」

「もう来てるのか?まぁ、どうせ攻撃はしてこんだろう・・・ただ」

「はい、レジスタンスの中で呼応するものが出る可能性があります」

「もともとは同国の人間だからな・・・人情だ」

「どうされますか」

「手はないだろう・・・・?」

クラフトがまた物を考える仕草を見せた時
後方で何か騒動が起きた様子だ
どうやら、その懸念が早速当たったらしい、レジスタンスの何人かが逃げたらしい
南の相手陣地に向かって、走っていく
その背中に弓を向けているが、射抜く勇気を持たないらしい
面白い光景だ、クラフトは見ている
その光景が、さらに面白みを増す

ぱすぱす!!

「こりゃ、ありがたい」

不謹慎を承知で、クラフトは思わず呟いた
側近があたりを伺ったが、それを聞いていたのは自分だけだったと安心する
目の前で、逃げていった男達が撃ち殺された
南ヴェステンの兵隊にだ、同じ国民であり、しかも農民構成のその集団に

「逃げられないというか、敵がはっきりしたな」

「その様子です、懸念が一つなくなりましたな」

「本当、無能が率いていやがる、さて、とりあえず茶だ、茶しばいて備えろ」

レジスタンスの中で物議をいくつか醸したらしいが
クラフトの思った通り、彼らもまたここで戦うという絶望を受け入れたらしい
彼らのほうが大変だろう、なんのために戦うのか、その目標を目の前で失ったのだ
戦力として期待できるかどうか、そんなことを考えてしまい
自分を一つ殴ってみた、そういうことじゃない、そういうことじゃぁないんだ
呟いて、空の青さを見つめた

「おじちゃん」

「おう?・・・これは、お嬢ちゃんも戦っているのか」

「おじちゃんは強い?」

「ああ、強いぞ、このお茶呑んだら敵を倒してくる」

「そう、でも、本当はおじいちゃん?」

おずおず、少女は伺うような表情を見せた
物怖じしないところ、凛とした瞳、戦場に一服の清涼感を与えるそれ
何か、懐かしいでもないが思い出すものがある
姫様も、この時分があったな
クラフトが思い出す姫様は、紅の女王ではなく、その姉姫と呼ばれるその人だ
よくよく少女を見て、似ているなどと思っていたが、
瞳の色、髪の色なにもかもが違うと、気付いた
心が弱ってやがるな、確かにおじいちゃんだ、クラフトはおかしくなって、歯を見せた

「おじいちゃんなのに歯が綺麗」

「がはは、そうだな、歯の綺麗な男と付き合うんだぞ、そういう奴は真面目で強い」

「そうなの」

「そうだ、さ、おじいちゃんはお茶を飲み終わったから、仕事に行く、奥で隠れていなさい」

追い払うようにして少女を他へと促した
見ていた兵隊の一人が、察した様子で少女を連れだしていく
クラフトが立ち上がり、側近達も続いた
にやにやしながら近づいてくる、殴らない

「守り甲斐がありそうですな」

「そういうことだ、一度あれだ、近衛兵隊のようなことをして見たかったんだ」

「マイグレックヒェンですか?」

「そうだ、あの白い鎧、憧れるわい」

「重騎士隊は馬に乗れませんよ」

「そうだな、どうせなら牛にひかせた戦車でもいいんだがな」

「牛では、姫様守れませんな」

「まったく、重騎士はいかんな・・・・さて」

言葉を切った、側仕えの兵が槍をもって寄越した
クラフトの長年の勘が、りんりんと何かを鳴らしている
まもなく始まる戦争の空気をよくよく嗅ぎ取っている
槍を手に持ち構え、何か言おうと全員の顔を見渡す、21人、思ったよりも残っている
どいつもこいつもいい表情を見せた、思わず言葉に詰まる

「将軍?」

「あ・・、いやな・・・」

改めて鼓舞の言葉を口にしようとした先を制して
敵方から大きな声があがった
タイミングの悪いことだ、クラフトは苛立ちながら一つ大声で呟く

「まったく、格好がつけられねぇように産まれたらしいなワシは」

「敵突撃を開始してきました!!」

「わかった、ワシらが前線まで行く、ちゃんと確保しておけよ」

告げられて物見は走って戻っていく、彼もおそらく死ぬだろう
準備はできた、重騎士達が陣地前まで移動をする、早くも乱戦となっているそこに
長槍を携えてイチモクサンに突撃を開始する

「よーーし、ゆけーーーっっ!!!」

「おおおお!!!」

呼応して、黒騎士たちがもりもりと影から現れる
敵はその這い出てくる生き物に畏れを抱いたらしい
前哨の勢いを十分挫く力がある、クラフトはそれを確かめると
怒濤の進撃を見せた、あっと言う間に盛り返して
敵の一陣をはじき返した

「次くるぞ!!!怯むな、弓隊、撃てぇええ!!!」

合図とともに、レジスタンス達の矢が敵を襲った
あわせて、ロートホルンの爆炎があがった
敵の陣地を一個爆砕した、まだまだ凄まじい破壊力を持っている
慌てた様子だったが、また投石攻撃がやってきた
重騎士が盾になり、なんとか弾いてやるが、一人、一人と衝撃に倒れてしまう
何度かは立ち上がるが、やがてぴくりとも動かなくなる
ぐむぅ、唸る声が聞こえるとそれ以降、その黒い物体は生気を失う

「弓だ、弓をもってこいっ!!」

クラフトが叫ぶが、誰も彼もが忙しい、仕方ないので
手頃な手槍を投げつけてみるが、数が無い、一人突撃するか?
そんなことを思ったが、長弓が差し出された

「遅いっ!!貴様なにを・・・あっ!!!」

「おじいちゃんっ、がんばれっ」

少女が最前線まで出てきたらしい
呆気にとられるというよりも、戦場で戦意を喪失するほど危険な状態に陥る
叱りつけようか、どうやって戻させようか、そんなことを考えてしまったが
ともかく、今は与えられた弓を引くことを考えた
かなりの強弓を持ってきたらしいが、クラフトの力なら造作もない
3倍以上の破壊力があるのだろう、弦からめきめきと伝わってくる引き絞る感触に恍惚を浮かべる

「ぜいっ!!!」

ぐううううううんっ!!!!
うなりをあげて、弓が敵の首を吹っ飛ばした
いや、首を突き抜けて後ろへと抜けていったらしい
凄まじい鮮血をあげて敵がばったりと倒れた
少女はそんな衝撃的な場面を見ても、ぱちぱちと拍手をしている
まったく

「お嬢ちゃん、危ないからまた戻って・・・・!!!いや、隠れなさい」

クラフトの視界に巨大な投石機の姿が入った
間違いなく、指揮官であるクラフトをねらい打ちする位置だ
ご丁寧に3基も並べられている、こりゃ
感想を伸べる前に、一番から岩が発射された
目の前が一瞬真っ暗になる、しかし、四肢を踏み固め
背中に少女の姿を感じ取って、息を止めた、

岩っ!!!死ねっ!!!!

グゴムッ、子供みたいなことを考えて
本気で殺す拳を見舞おうとしたが、思い直す、それくらいの冷静さは残ってる
すぐに受け止めるという暴挙をなし得た
全身をぶつける、死ぬじゃない、死なす
みぢぃ、自分の体のどこかが、生物から発するそれじゃない音を出した
まずいな、鼻血を吹き上げながら、目を血走らせながら、それでも
大岩を一つそのままはじき返した

「ぶはぁーーーーーーっっ」

「お、おじい・・・」

「後ろにっ!!!!」

全身にやばい感じがたまってきた
次の弾は呆気なく発射された、これは無理かもしれん
色々駆けめぐる、それでもクラフトの重騎士としてのプライドが
かわすことを許さなかった、いや、そんな素早い動きがそもそも無理なのだ
同じ要領で、そして、ありがたいことに目測を誤ったらしく、手前で一度撥ねた
衝撃が弛んでからのそれ、しかし、大岩には変わらない
ズドム、重力が無くなるような錯覚を覚えた
なんだ、やばい、もうこれは
それでもなんとか少女をかばいきった、だが、三発目

「逃げろっ!!!!」

思わず叫んでしまった、クラフト渾身のそれ
既に片膝をついてしまっている、立ち上がる力がまったく無い
残っていないとかではなく、そんな力を失った
もともと持ってなかったんじゃないか、ともかくだ、そういうのを覚えた
うおお、懐かしいそうだ、これが敗北で

絶望か

ズゴムっ!!!

音と衝撃がクラフトを襲った、せめて背中の少女にだけは当たらぬように
前傾姿勢で備えた、いや、倒れかかっただけだ
ぐらり、だが、その倒れる方向が急に変わった
衝撃は確かに襲ってきた、死ぬか、いや、岩にしては柔らかい
クラフトは天地を失ってそのまま転がっていく、その感覚だけある
きゃぁっ、少女の声もした、危ない、自分が踏みつぶしてしまう
驚異的な体さばきで少女をかばう、しかし

クラフトがいた場所で岩がその姿の大半を沈め込んでいる

「将軍っ!!!立てますか」

「・・・・・」

「将軍?」

「バカ野郎、遅ぇんだ、いつもいつもっ!!!」

「すいません」

「南方戦役の時から、成長しねぇな、アルっ!!!!」

白い騎士が降臨した
馬が体当たりをしてクラフトを吹っ飛ばしたらしい
馬はずんぐりとした格好の悪いそれだが
立ち居振る舞いは騎士の威光が溢れている

「おしかりは後から受けます、さぁ、勝ちにいきましょう」

反撃開始

つづく

もどる

PCがもうもたないかもしれない・・・
そう思うほど再起動を繰り返しております
ご、ごめんなさい、頑張ります、頑張って

思ったり考えたりしながら、凄い強引に風呂敷畳始めました
グイ?そんな人知りません(ぉぃ
(07/08/13)