Edelstein ”Karfunkel”


軍師殿が息の根を止めてくれるだろうか

褐色の女王は、自分が震えているのに気付く
最善を尽くしてきたはずなのに
何をどこで間違えたのだというのだろう
余裕をひけらかしてみたり
怒りで我を失ってみたり
荒淫にふけってみたり
どれもこれも、10年、続けるしかなかった過去が背中を叩く

ゆっくりと自分の下着をおろす
誰かに優しくされているのをイメージする
そういう気分だ、優しく抱かれているシチュエーションを求める
いつもなら片足にかけたままの下布は足首から取り上げ
そっと自分の核心を隠していた部分を見つめる
まだ、濡れてはいない
これからする、だからそれでいい

「・・・・は・・・・ん・・・・・ん・・・・」

自分の指を自分の指だと思わないように
己自身に暗示をかけて、ぼんやりとした状況を作る
うたかた、ゆめ、あいまい
指先が唇に触れた、ぽてり、そういう感触を少し楽しむと
娼婦の舌は我慢できずに釣り出されてきた
れろり、弄んでいた指を舌先でとらえると
そのまま、飲み込もうとするように執拗に嘗め続けた

片方の指は太股の内側をそっとさすっている
何度か深く、腿の裏までも指をさしいれるが肝心な部分にはまったく触れるそぶりもなく
やがて手は、腰を昇り、控えめな乳房に到達
下乳の柔らかさを指の腹で受け止めつつ、5本の指を開いて這わせる
肉に埋もれた指は、器用に乳首を避けて、何度か揉みしだいた
淡い吐息が漏れる、漏らしながら、舌はもう一方の手をもとめている
指が唇を割って、口唇に侵入した、待っていたように吸い立てる

「はん・・・んっ・・・ふっ」

指を必死に吸い立てて、その指が出し入れされる感覚に
擬似的な快感を覚えて、しばし没頭する
その間に形をはっきりしはじめた乳頭にようやく指を絡ませる
決して痛くならない具合、それがわかる、押しつぶすように
痛みにはならないが、限りなくそこに近づく指遣い
まだ愛撫のその様相を保ったまま、押し倒されて求められていく自分に恍惚の笑顔を浮かべる

当時、姉姫の絶対王政が敷かれていた、向かうところに敵はなく
民衆からの支持は絶大を誇り、非の打ち所の無い王道をひた走っていた
その姉姫が、なんの気まぐれか、娼館より一人の女を買い上げた
褐色の女王、現在の紅の国女王である、私だ
褐色の娘が珍しかったらしく、大層可愛がられ、彼女は私に名前ではない、表す物を与えた
「妹姫」という呼び名を

娼婦として買い上げられたのだから、当然、そのつとめを果たすしかない
そう思い、それまでと同じように自らをすり減らそうとしたが
それを、今でもはっきりと浮かぶ、おおよその生き物が浮かべるそれらとは
まったく異質な瞳の光、あの目で据えられた、拒絶というよりは、存在の否定だろう
以来、違ってしまった、変わったことをはっきりと自覚した、自分が別の者になった
同時に死の恐怖を思い出した
その恐怖から逃れるために、従属する喜びを見出した
私はその人を「姉姫様」と呼ぶよう義務づけられた、いや、自分からそう呼びたいと願った

姉姫様の政治は恐怖による支配だった

恐怖は政治に携わる者にだけ与えられた
衆愚には喜びを与え、支配層に恐怖を与える
具体的には死の恐怖ばかりだった
反抗すれば殺される、賛同しなければ殺される、失敗をすれば殺される
しかも直接ではなく、漠然としている濃密な殺意を浴びる
決して姉姫様が殺せと命じることはなかった
少しはあったかもしれないが、それは裁判の結果やルールに基づいたもので
誰がどう見ても姉姫様が殺せと命じたように見えるのに
どこにも確たる証拠はなく、ただ、対象は気づいたときには殺されても仕方ない空気ができている
誰一人としてそれから逃れられたものは無かった

宮中には漠然とした不満、恐怖に対する不安が充満していた
誰もかれもがそれから逃れたいと思うようになったが
その限界に耐えかねたものから順番に死んでいくようになっていた
気づくと彼らはその標的にならないよう全力をもって生きていた
そうすることが善政に繋がり、姉姫様の地位を揺るぎ無いものへとしていった
自分よりもずっと上等だと思っていた人間たちは
目の前の主人にひれ伏して、恐怖におびえて、虫けらのように殺されていく
命乞いをし、泣き叫び、嘆き悲しみながら死んでいく
私は、上等だと思っていた男をこの手で殺した、なぜだか自分が立派になっていくように思えた

全ては調教だ、この頃ようやく、唯一の拠り所である娼婦の仕事を許された
調教は執拗で、深く、暗く、重く
精神を直に触られるような、終わる頃にはいつだって、気を失っていることばかり

「はぁっはぁっはぁっはぁっ!!!んっああっ!!!」

指の踊りは随分と激しくなってきた
もう段階が次に進んでいる、柔らかく優しい愛撫から
気持ちが高ぶり、乗じて火照る体がそこかしこから熱気を吹き上げる
褐色の女王は興奮にともない、美しい香りを漂わせる
臭腺と呼ばれるものが他人のそれとは随分と異なる
甘い、たるくて、脳を弛緩させる匂いを放つ
部屋にその匂いが充満してくるのがわかる、空の器が満たされていくように
漂う霧のようなそれは、肌から蒸発し、たちどころに視界を塞いでいく
無論形而上の表現だ、目に見えないが、その香りを嗅ぐだけで目の前が歪んでいくように
甘くて、深く堕落するようになる

「もっと・・もっとぅ・・もっとぅっ」

求める、だらしなく舌を投げ出して
両手で必死に自分の体を慰めていく、脳内では激しく求められる自分が映っている
少々乱暴に揉みしだいていた手は、すっかり優しさを投げ捨てて
それを揉み潰そうとするかのように、しっかりと手形がつくほど強く乳房を握る
たわみ、形を変えて、痛みに紅く火照りながら、褐色の肌に手の花を咲かせる
もう一方の手は、我慢することもなく、股間の泉に熱心な愛撫を向けている

「激しくして、激しく・・・強く、痛くしてもいいの、いいのぉ」

甘い声が漏れてしまう
強くされたい、そんな一面が引きずり出されてきた
傍ら、本当に小さく残った理性が、そうやって乱れていく自分を見て
今夜の伽は激しくなると喜んだ、責められる快感は何百倍も愛おしいそれになる
痴態はどうあれ久しぶりに大きく激しく果てることができるだろう
その期待を裏切らぬように、指遣いはどんどんと激しくなっていく
すっかりと潤い整ったほとから、粘り気の強い透明な液体が吐き出されている
糸をひくそれは、肌に塗りつけると、できあいのローションかのように
愛撫に最高の刺激剤となる

「んっっっ!!!!ひぎぅっ!!!!!!」

軽く飛んだ、勿体ない、ちょっと思うがかまわない
うっかり呼吸を浅くしてしまった、浅く細かい自分の呼吸が
簡単に快感を求めてしまう、何か、いつもと違う状態になっている自分
それを自覚すると快感が浚いにやってくる
まだ、もっと、求めるままに乳房を嬲る手も股間へと移す

「きゃぁっ!!!・・ふぁぁぁぁ、ぁ、あぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁっっっんっ!!」

片方の指で穴のまわりを丹念に丹念に、何度も何度もねぶる
新しく参入した指で、縫合目にあたるような、恥丘のシンボルを嬲る
激しく片方は穴を犯すのに、もう一方は神妙に、とってもゆっくりと
肉芽の皮を剥いて、まわりを優しくマッサージするだけにしている
ギンギンと、その部分が充血しているのがわかる
自分の酷く濁った視線で、その有様を眺める
ああ、はしたない、はしたないそれが今にも触られたがっている

期待したまま、本当なら、まだ触らずに焦らすことをするのに
官能の方が強い、一人でそんなことを制御できないくらい
今、淫乱の性質が滲み出てしまっている
待つ間もなく、その部分を穴を犯していた指でこすりあげる
よくぬめらせた指先はデリケートなそれを触っても
痛みはほとんど昇らせない、快感だけが、腰のあたりで炸裂して
背骨を伝って脳を上下に揺さぶった

「っっ!!!!〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!」

声も漏らせずに、大きく今度は昇天した
スイッチが入ったのがわかる
今から、とりとめもなく、終わることのない快感がやってくる
期待が脳に浸透すると、うすら笑いを浮かべただろうか
後は、気を失うまで没頭するだけ
椅子から転げおちるようにして熱心にとりくんだおかげで
いただけない穴から溢れ出た液体が、床のそちこちにたまりを作って光る
汗が珠に浮く、それすらも床に弾かれて露になる

「まだ、まだっ!!もっとっ、もっとなのっ、ねぇっっ!!!」

言葉は空に消える
それでもいい、気持ちよくなれたら、もう、なんでもいい

より上等になろう、そう思い、何もかもを利用する
姉姫様の生き様をそのまま手本にして
娼婦であり、妹「姫」である自分を構築して
10年前、その完成を見せるため、姉姫様を謀殺することを企てた

姉姫様につくアルという騎士の代わりに
自分はハンプという騎士を手に入れた
ハンプは情熱を秘めた、若くて激しい男だった
体の相性もよかったし、何よりも、愛されている実感を与えて貰えた
そのハンプを失ってしまった
いや、失うとわかっていたようにも、今なら思える、利用しつくしたのだ
ハンプの魂が、自分の腹中に宿ったのをわかった時に
そう考えたのだったかもしれない

ハンプが姉姫様に殺される、その隙をついて政権を強奪した

その時に姉姫を殺し損ねた
騎士アルに守られた姉姫様は、まんまとこの土地から消えて失せた
そのまま死んだと、二度と出会うことはないと思ったのに
今、また、生きて戻ってきている
姿を見ていない、噂しか聞いていない、本当かどうかわからない
そういう願いを口にするが、自分だけにはわかる気がしている
褐色の肌は、いつにないほど濃い甘い香りを漂わせ
近づいてきたのを感じている

追い出してから10年間
紅の軍師殿という同胞とともに、国の運営に苦心してきた
何度も命の危険を覚えた
政権を強奪した事実を隠すため、そしてその為に、出来うる最大の幸福を民に与え続けた
軍師殿の内政感覚の鋭さ
それをサポートするため、姉姫様の手管を真似て政局を作り続ける

ハンプの子が産まれ、その子供すらも利用し
娼婦は体を売る、その通りに、国を体という対価で買ったのだ
造り上げてきた、何が欲しかったのか、どうしたかったのか
平穏だ、平穏がただ欲しかったのだ
誰も彼もが平和で安穏とできる、そういう世界を作りたかったんだろう
本当に?

何度も大きな快楽の波を浴びたが
気を失うほどの狂態はついぞ、来なかった
不完全燃焼だ
イけるのだが、もっとイきたいと願い、泣きそうな切なさを覚える
満たされていない自分に対して、大きな不安を抱いてしまう
それから逃れるため、指はずっと愛撫を続けているが
もう、それにも飽きてしまった

「女王様、火急のお知らせが」

扉の外から、突然の声がやってきた
全身をびくりと震わせて、あまりの驚きに一瞬動きが止まってしまう
しかし、声は遙か遠く、決してこの場所を臨めないところから来た
それに安心する

「なにか」

「ヴェステン北部のクラフト将軍陣地ですが、敵の増援が到着した模様」

そんなことか
既に解っていたことではないか、折角の余興を邪魔されたことに
少し苛立ちを覚える、しかし、その苛立ちの発散方法を思いつく

「なるほど」

「いえ、それだけでなく、北方より新手が城都目指して進撃してきていると・・・」

褐色の女王はその言葉の意味するところをはかりかねている
だが、そんなことは枝葉の事象にすぎない
そう断じてしまい、ともかく、今を満たす作業に移る

「よく報せた、褒美をとらそう・・・入室を許可する」

「!・・女王様?いえ、その・・・」

「早くせぬか、それとも反目いたすか」

「いえ・・・」

戸惑いの声をあげてから、慌てた様子で伝令は扉を開いた
暗がりのことだ、顔は見えない
しかし、部屋に侵入されたことで、男の匂いがそこに立ったことがわかった
男は全く慣れていないらしい
そういう奴のほうが、よいかもしれない
女王はくねらせながら誘う視線を投げる、そしていつものように
それまでの独りとはうってかわって、自分が上位に立つ

随分、責め甲斐のありそうな優男・・・

「褒美をとらす、私を抱きなさい」

「じょ、女王様!そ、それは・・・・いや、今は緊急事態が」

「愚か者、そのようなことは既に済んでいる、折込済みで何もかもわかりきっているのだ、
お前は、あとは与えられた仕事をこなすだけ、仕事は私を抱くこと」

「で、できません」

「ほう、命令に背くというか」

「いえ、そ、そのようなことではなく・・・」

しどろもどろに応えているが苦しい様子だ
そんな事態にも関わらず、見ていてわかるほど
男の部分がせり上がってきている、若い男は扱いやすい
女王はその部分にしっかりと視線を飛ばす
見ていると気付かせて、羞恥心を煽ってやる

「いいことを教えてやろう、お前は既に死ぬことが決定した」

「ぇ」

「お前に残された選択肢は、私を抱いてから死ぬか、そのまま死ぬかだ」

「そ・・・・」

「あるいは、お前を「色」にでもしてやれば長生きできるかもしれぬ、ともすれば、わかるな」

誘う視線を飛ばしながら、言葉を転がした
男は催眠をかけられたように、ぼんやりとした目を見せて
すぐに、女王の肌に執着を見せた、覆い被さるようにすがりついてきた男、
そんな哀れな彼に自由を赦さず、動物の捕食行動さながら
引き込みながら、押し倒させながら、気付くと上下が入れ替わり
男に女王はまたがっている

「さて、騎士は馬に乗るのは得意だろうが、乗られるのはいかがかな」

妖艶なシルエットが浮かぶ
褐色の肌は薄暗がりでは女体の影を浮かび上がらせる
その影のそちこちに、黒く光る宝石がちりばめられている
女王の宝飾のみが、輝くことを許される
瞳でさえも、漆黒をまとって深い闇の中

くちゅ、あいかわらずはしたない音を立てる
既に硬くなっていた男のそれをくわえこむと
ゆっくりと、馬を前に進めるように、ゆたりゆらり、体を揺らす
甘い香りがその濃度を上げた
女王の薄い体が汗を浮かべて、前後に揺れている
男はその姿だけでどうにかなりそうな興奮を覚える、興奮が屹立を強める

「んっ・・・あんあんっ・・・おおきい・・そう、もっとかたくなる?」

悪戯な笑顔を浮かべた
わざとらしい子供じみた台詞が男の情欲を煽った
下にされ、されるがままだったが、思い出したように腰に力を入れた
円を描いて躍る女王の尻に指をくいこませて
埋め込んだ自分の肉棒が、壺の中をくまなく蹂躙するように
必死に腰を動かし始めた
じゅるりゅ、粘膜の音がだらしなく垂れて、穴からたっぷりとした淫液が漏れる

ぱちゅんぱちゅんぱちゅんぱちゅんっ

「はん、あん、あん、ん、ん、ん、・・・・ふぁ・・・もう?」

「い、いえ・・・・くっぅあっ!」

ぴたり、女王は腰の動きをやめた
必死にこらえた男の表情をじっと見る、見下す
所詮こんなもんか・・・久しぶりの挿入感にうずうずとしたが
それも大きな快感には繋がらない
そう思ったら、それまでのうずうずとイきたがっていた感情がなりを潜めて
ただ、跨っている男を凌辱したい
そういう気持ちに切り替わっていく

「ほら、もっともっと、もっと奥まで撞かないと、届かない、さっぱり届かない」

「は、はいっ・・・はぁっはぁっ!!!じょ、じょおうさまっ、ぅぁっ!!」

純情そうな顔をしているな
女王は、違う喜びを覚えた、おぼこいものを転がすのもまた楽しいことだ、
そういえば、このところリズの相手をしていなかった
そういえば、ゼーの相手もしていないな
そういえば、グラスはどうしているか
余計なことをいくつか考えた、どれもこれも性的なそれを満たしてくれる可能性がある
そういう玩具だ、近く、あの玩具のどれかで遊ぼう、思いながら
ただ撞きこまれることに飽きて、仕方がないので
挿れられたまま、足だけを投げだし、男の顔を蹴ってみることにする

「ほらほら、どうした、奉仕をせよ、足を嘗めよ、決して腰の力を抜くな」

ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅっ、
結合部は大きな音を立てるが、それは中まで響いてこない
しかし、足を嘗めさせられて、男はいたく興奮をもよおしたらしく
陰茎の我慢が限界にきているらしい
抜き差しされるそこの首もとに、図太い筋が浮かんでいる
気持ちの悪い生き物だ、そして色も悪い、腐りかけた肉のような色だ

「じょおうさま、もう、もうだめです、女王様、ああ、申し訳ございませんっ
じょ、じょおうさま、あ、愛する女王様っ!!」

愛、
その言葉に驚いて、足が顔から外れた
すると、女性上位だった体位が逆転をされて、
男は覆い被さってきた、また、うわごとのように愛を唱えて
そして、力一杯なのだろう、この男の全ての命を見たような
その厚い胸板に押しつぶされながら、強く体を抱き締められる
腰はぱんぱんと、大きな音を立てて、鋭さを増して
もう引き出すことがなく、撞くだけの動作になった

ぱんぱんぱんっ、ぶるっ!!ずるずるずるっ!!るるるっ!

「ぁ・・・・・んっ・・・・」

ふるるる、中に吐き出されたのがわかった
いや、そんなことはどうでもいい、強く抱き締められて
その抱き締めている男が、快感に耐えきれず震えた様、
ダイレクトに腕の中でその熱気とともに受け取った
そこにいじらしさのようなものを見た、快感のシッポを掴んだ
吐きかけられ、懐かしさを覚えた、この感覚
思わず、男の顔を確認する、そこに見慣れた顔が現れた

「姫様・・・・」

「ハンプ!!!」

「愛してる、絶対に守ってみせる」

がばっ、
起きあがる、部屋いっぱいに充満している己の匂い
真っ暗な部屋で、一人大きく目を見開いた

「・・・・・?・・・・・はは」

渇いた笑いが、その充満したいやらしい空気を散らした
気付いてみると、手を相変わらずそこに差し入れている
にゅるり、十分すぎるほどに濡れている
腰にイった後の、あの感じが残っている
ただ、膣内からは透明なそれしか漏れてこない、何も無い

「・・・女王様、女王様」

聞き覚えのある声が聞こえた
それは、扉の外からだ

「なんだ」

「火急のお知らせが」

褐色の女王は自分の体をもう一度見た
少しはだけすぎている、服装をゆっくりと整えるため立ち上がる
そして、扉の外へ向かって言葉を投げる

「どうした、クラフトの所に敵増援が到着、そして北方より新手到来か?」

冗談めかした調子で言ってみた
半脱ぎでどうこうするのはよくないな、寝間着とはいえ
ところどころが酷く乱れてしまっている、整えて
宝石の類の所在だけ確かめる
今、女王の権威全てを示す、漆黒の宝石たち

「そ、その通りで・・・・あ、軍師殿が既に予見されておいででしたか?」

「!・・・そうか、いや、軍師殿にその知らせは?」

「いや、未だ・・・いかがいたしましょうか」

どうしたらよいだろうか、頭が上手く働かない
寝起きだからか、一人痴態の後だからか、どちらもか・・・
今一度、優先順位を思い出そうとしている
本当に、どうしてもしなくてはならないのは、近づいてこようとする
全ての、何もかもの権化、姉姫を殺すことだ
それさえすれば、あとは、どうにか、どうにでもなるはずだ
平穏な日々が、きっとやってくる
それならば、軍師殿は戻す必要がない、むしろ、戻してはいけない気がする

「ゼーがまだ、駐屯していたはずですね」

「はい・・・既に北側の守りに出ております、ただ、まだ不確定な情報ですが、
相当数の敵の援軍が・・・・その・・・」

「?・・・なにか?」

「山を、越えてきたのではないかと・・・」

「ばかな・・・・」

女王は目を円くした
ありえない、あの天蓋を越えるなど人智の到達できるそれではない
だからこそ、今のこの国はあり、10年間じっくりと内政の充足に務められたのだ
その絶対条件が崩壊するなど・・・しかし
10年は、こちらにとっても10年だが、敵にとっても10年だったのか
そういう、極めてあたりまえのことに思い当たってしまう
迂闊すぎた、北大国が本腰で攻めてきたら、防ぎきれるだけの軍事力をこの国は持たない

「その知らせを受けて、ツエク様がマイグレックヒェンを従えてゼー殿を追って・・・」

「ツエクが!!」

母の声が響いた
悲痛なほど研ぎ澄まされた悲鳴
伝えにきた従者は驚いた様子だが、決して中には入ってこない

「円卓を召集しておきなさい、私も参ります」

「かしこまりました」

従者の気配が消えた
どくどくと、心臓が撥ねている
ツエクが出陣した、断りもなく、なぜだろうか
ずっと安穏としていたせいなんだろうか
何もかもうまくいかない、どれもこれも自分が想定していないことになっていく
振り回されていくように、少しずつ、運命の遠心力にとらわれていく
己をそっと抱き締めた、かちり、宝石が鳴る
それを見る

「!!!!・・・・・・・・・・っ!」

宝石が、真っ赤に輝いている
あの、宝石商が原石として持ち寄ったあの時と同じ
煌々と灯る、血のような赤色が光を放つ

黒は晴れて、紅色に染まる

『守るから』

女王の脳裏に、すがる言葉が浮かんだ
その台詞は、愛する夫と、愛する息子の声が重なり
重く、のしかかるように、女王の胸をきしませた
その台詞はハンプが死の前日に言ったそれ
そして、

「ツエク・・・・・まさか・・・ぁ・・・・・ぐ、軍師殿、軍師殿を呼び戻さねば、軍師殿っ、軍師殿っ!!!」

ツエクもまた、そう言っていた
とても誇らしげに、屈託のない笑顔で

今、それらは、彼女の近くにはない
紅い宝石が、闇に妖しく浮かび上がり
何かに呼応するように光を揺らす

紅、『姉姫様』が最も好んだ至上の色、血のような忘れることのない色

つづく

もどる

すいません、先週末に上げるため
とりあえずの時間稼ぎに書いたはずの回だったのですが・・・
1話使って話が進んでないのはいつものことながら
これは酷いと、鬱々とした気分になります
しかも木曜日には上がっていたという・・・
駄文長々、失礼しております
(07/08/06)