Edelstein ”Karfunkel”


誰が状況を正しく理解できているか
こと、ここに至り、運命を司る神というものがいるとするならば
それは神の名に相応しい全知全能の持ち主、あるいは、
無責任極まりない、全てを因果と時流と虚妄に任せている無能
そのいずれかだろう、おそらくは後者ではないか
でなくては、どんなに複雑であろうと答えが用意されているならば、誰かに破られる
それが仕込まれていないからこそ、今、全ての携わる者達が
智恵をこらし、予測をたて、考えた挙げ句
望み、願い、祈る
それらの行為に没頭して、未来を切り開いていく、受け入れていく

自分の目が、視線が届く範囲、視界の中
そこにおいてですら全てを把握することはできない
なおさら、
見えない遠方の誰かの情事に至る生活までを見通せるわけがない
事象が起きたのか起こされたのか
些末なこと、一等の博徒なら、全財産を賭け続け、
ただ、運の波にノリ続ける、それが続いたものが最後まで立っていられる
計算も、打算も、謀算もあるだろう
それが当たるか、外れるか
理屈を重ねた結果よりも、思い切りにより運命の手綱を握った者が勝つ

勝者は結局、運が良い、それが必要条件なのだ
十分を満たすには、能力が必要だろうが、無くてもなれる
必要なのは運だ、大事なのは幸運だ

勝者は常に強運を掴み続けるのだ

間違えてはいけない
人事を尽くした末で、そういう勝負になるという前提を
誰も彼もが考えなしに賭をすれば負ける
それは、勝者が、そんな弱者と出会えた幸運をまた引き寄せたからだ
どちらが先かという話でもない
どうどうめぐりで、つまらない説教、年寄りの話は長い
そしていつだって

若い奴は頑張らねぇと愚痴る

「クラフト将軍!?」

驚きの声があがる
北部ヴェステンのゼー陣地でのこと、叫んだのは隊長である大騎士ゼー
彼は、クラフトが現役だった頃、師事したことがある
いや、若手騎士の教官めいた仕事をしていたから
ゼーの同年代は全て、クラフトの当時をよくよく知っている
そして、その後何があって、どうなっていたかも無論、認識している
だからこそ声を上げて、目を円くするのだ
その見開いた目が、たくましい歩く岩を映し込んだ
間違いがない、現役にあっさり復帰してやがる、鬼め
ゼーが半笑いになる
今は、大騎士で、しかも現地司令官の権限がある、後任に誰がこようとも
現状では自分の方が偉い
軍隊気質というのを振りかざそうと考える、それを教えたのが誰であろう、クラフトなのだが

「将軍、ご復帰なされたとのことで」

ぎろり、
鈍い光を放った瞳で睨(ね)め付けられる
司令官を睨むなよ・・・、ゼーは思うが心にゆとりがあるというのか
まだガキ過ぎた当時に怖いと思った相手をしっかりと見据えることができている
そもそも調子にのってきてるからだろうか、恐怖に対して高圧で相手をする

「大騎士ゼー殿、お役目ご苦労であります」

「いや・・・・その・・・」

「恥ずかしながら、戦場復帰いたしましたので、年寄りながら最前線へと配置が叶いました、
当地における総司令の権限を移譲いただきたい、交代であります」

「了解した、その後私は別地域へ移動となるわけか?」

「その様子、南ヴェステンあたりをとの話、本城へと戻って、女王様じきじきにお尋ねするがよろしい」

「わかった、ただ現状を説明してお・・・」

「いや、司令官殿、譲ってくれといったのはワシだが、ひとつ、譲られる前にしておきたいことがある」

「なんだ?」

ゼーがやれやれといった顔で老将を見る
鎧で覆われた体がどんなものなのかわからないが
退役していた老人が、いきなり復帰して
どのようなものなのか、ゼーが撤退する間の時間を稼いでくれるかを
値踏みするように見る、それが態度に表れているが
クラフトは気づいた風もなく、言葉を選んでいる

「ふむ、物見を出したところだいぶ陣地の形がよくないと見えた、だからワシが整えてこようと思う」

「整える・・・って」

「勝ってくる」

「ばっ!!!な、何を!!!」

「ああ、だから総司令が前線で大暴れでは、万が一の時困るだろう、だからな、
ワシがまだ派兵された一将兵である内にやってくる、総司令としては悪い話であるまい」

「いや、理屈としちゃぁそうだが、越権行為だ」

「だから、総司令より指示を賜りたいのだが?」

ぞわ、
ゼーの脳裏に鉄拳で殴られた自分の姿が映った
思わず、殴られた方の頬をなでてしまう、しかし、いまは何もされていない
かつてされたのだ、同じように調子こいてたときに
まったく・・・・っ、そんないい思い出じゃねぇんだがなっ
認めたくない感情を握りつぶすように、にやりと精一杯笑ってみた
ああ、笑顔がゆがんでいるだろう、まったく上手く笑えない

「好きにするがいいさ、大騎士ゼーより命ずる、クラフト将軍、戦勝の獲得をせよ」

「了解した」

言い終わると憮然とした態度で、ゼーの背中側、前線に向かって
そのまま歩みを進めてきた、すれ違う

「・・・ガキが調子こいてるからこんなザマになんだ、戦略も考えぬ敵殺しばかりしおって」

「教官・・・っ、ぁ、将軍!」

にや、
老将の顔はてらいのない笑顔だ、クラフトはそっとゼーのケツを叩いた
誰からも見えていないだろうが、完全にたしなめられている
だが、クラフトは決して規律を乱さない
軍人は面子で飯を食っている、上に行くほどそうなる
ゼーの位置はどれくらいの割合で面子だろうか
先行く、そういったものとかかわりの無い背中を見送る
眼前に展開する北大国の軍の包囲網に一人で向かっていく
進むクラフトの背中に幾人もの黒い騎士が集まり始めた

「将軍!」

「おう、お前ら、気ぃ入れて戦争するのは司令官が安心してお帰りになってからだ」

「司令官とは・・・あの子供も随分と出世し」

ばごっ!!!!
凄まじい音がした、無駄口を叩いていた重騎士の一人がもんどりうって倒れた
なれたものなのか、他の重騎士は笑いをかみ殺しながらクラフトの背中についていく
数は200もいる、そして、この200が紅の国が持ちうる重騎士の最大数だ
全員がクラフトとともに、労役についていて
このとき、前線に復帰してきている、そのいくつかは当然
ゼーの若い頃を知っているし、今の若手だけで構成された人員のことも分かっている
紅の国が封じ込めた、旧世の全てと呼べる

「総司令に向かって、バカなこと言うんじゃねぇ、お前はそこで俺が帰ってくるまで腕立てしてろ」

「帰ってくるまでとは」

「俺のような古い人間のすることだ、北の国の気骨も見極めてくる、遠巻きで強弓を構えておけ、
何かあればかまわず威嚇射撃だ、ロートホルンも奪ってこい、重騎士の戦争をするぞ」

言い捨てて、ずかずかと間隙地域へと乗り込んでいった
重苦しい黒光する鎧に、ビロードのマントをたなびかせていく
戦場に異変が起きた、両方の陣営に緊張が走る
起こしている本人は、ずかずかと、真ん中まで進む
大通りを境にして南北に対陣している、紅の国は南に、北大国は北に
それぞれ騎士を並べてにらめっこだ

遠くから矢がいくつか射られてきた
クラフトはかわすこともない、鎧にまかせて防ぐしぐさすら見せず
かきんかきんと硬い音を立てて進む、真ん中に到着した
立ち止まったことを知らせるため、その場で二度ほど足踏みをした
そして、大音声を披露する

「お初にお目にかかる、紅の国重騎士将軍クラフトだっ、申し出があり参上した、よぉおく聞けぇい」

ざわ

「ここで、一騎打ちを所望する、こちらの獲物はナイトキラー、そちらはなんでも構わぬ、
ワシが勝ったら貴公ら、陣地を1000歩引いてもらおう」

「おい、年寄り!こちらが勝ったらなんとする」

炙り出されるようにして、一人の男がクラフトの声に答えた
そちらを向いてクラフトはさらに続ける

「貴様が相手か?聞いていなかったのか、ワシは重騎士将軍のクラフトだ、それを打ち倒す、
その意味を考えてみろっ!!!」

大見得を切ると、部下の一人が持ってよこしたナイトキラーを大きく振りかざした
長槍だ、大層な名前をつけているが、騎馬相手に使われる長柄の槍を示す
愚鈍な重騎士が長柄の武器を使う
間合いを消されたら何もできなくなるのが目に見えている
せせら笑うでもないが、この前時代的な生き物の声に侮蔑を投げる北大国の騎士たち
クラフトは知った風もなく、じっと、出てくるのを待っている

「よかろう、クラフト将軍、貴公の噂、いや伝説と言ったほうがよいか?
我が国にも聞こえている、聞いたとおりのその剛勇ぶり、いまどき流行らないが、
一騎打ち、受けて立とう」

バカが一匹出てきた、集団戦が戦の趨勢を決める絶対の指標となっている
太古の昔は、その数の劣勢を破るため、沽券と面子を賭けるだけの酔狂な手段として
一騎打ちが用いられていた
その太古の戦い方をきわめていくにつけて、重騎士という軍人がもてはやされるようになった
クラフト将軍は、その最果て、最後の末裔と呼べる
馬が一頭走ってきた、ナイトキラー相手に騎馬がやってくる
クラフトが大きく左右に槍を振るうと、前かがみに腰を沈めた
ずじり、足がめり込んだのではないだろうか、重い体が地面に沈み込んだ印象を与える
槍先は微動だにせずクラフトの右へと穂先を伸ばしている
正面から騎馬がやってくるのに、まだ槍は横を向いているらしい

「鉄裂き」か・・・

クラフトは遠間で敵の獲物を確かめた
鋸状になった逆刃と、柄の長い、厚身の剣
重騎士や戦車などを切り裂く、いや、叩き潰すために考案された武器だ
槍相手に剣で来る時点で阿呆だな
クラフトは笑う、自分にとって、その剣が天敵であるにもかかわらず

「いざ、勝負っ!!!!!!」

騎馬が勢いよく走りこんできた
間髪いれずに間合いを消して、移動速度のまま剣でなぎ倒す
技もなにもない、先制攻撃で必殺の構えできたらしい
クラフトは開いていた体を向かってくる相手に平行となるように軸足を移動させた
重たい体はその動作をするだけで、敵との間合いが消失する
転回させた拍子にクラフトの槍先は相手と逆の方向を向いた
騎馬の速度が増す

槍尻を向けてきた、すれ違いざまに俺を馬から払い落とすつもりかっ

騎士は笑う、その前にクラフト自身が吹っ飛ぶことを想定しているからだ
馬はとどまることなく、恐れを知らずまっすぐに進んだ
遠くで黒々とした岩のようだったものが、騎士のそれだと輪郭をはっきりとさせた
勝った
つぶやいた瞬間に、その黒い騎士が、とてつもなく大きく重厚で
瞳の鋭さが尋常ではないことに気づかされた
馬をぶつけたって倒せっこない

ずぐむ

「けぇあぅぁああっ!!」

目の前が一瞬真っ白になって
そこからどこを向いているかわからなくなった、空が見えて、空と地面が交わるものが見えて
何も見えなくなる、痛みはわからない、漠然とした攻撃を受けた感触だけが
どこかに鋭く残っているのがわかった、確かめようにもどこたりとも動かない
やがて、考えることもできなくなる

「ったく、最近の若ぇ奴ぁ、一騎打ちの作法も知らねぇか・・・名乗ってから死ね、阿呆が」

ぶぅんっ!!!!
クラフトは、大きく槍を振るうとそのまま、敵陣に背中を見せて自陣へとゆうゆう歩いていった
槍尻をそのまま突き出した、ただそれだけだ
無論、突き出しは、下から上への軌道
だから、突っ込んできた騎士の胸元をえぐり上げるようにそれは突き刺さり
勢いのまま、頑丈な槍先が地面に深く埋まる
クラフトは何もせず、その一本の槍にぶつかるという、事故を起こした騎士を見守っただけだ
ただ、それでも凄まじい勢いで重騎士殺しが顔をかすめていったが
目をつぶることもない

騎士を弾き飛ばした槍は、大きくうねったが折れることはなく
ばいんっ、と派手に音を立てて空を泳いだ
落ちてきたそれをつかみあげて、勢いを殺すため振るったのが上述の姿
あとは、敵が下がるのを見るだけ
戻っていくクラフトの視界には、ロートホルンの姿が見えた、恫喝のために用意している
あれと重騎士の親和性の高さはバカでもわかっているだろう
一騎打ちで面子を立ててやったのだから、さっさと下がってろ
敵にはそうやって、無言で投げかけている

潮が引くように、敵陣は実際1000歩を譲ったという

「よし、腕立て辞め、戻ってよし」

「はいっ」

あっという間についた決着であったが
久しぶりの懲罰だったのだろう、腕立て騎士は全身をぐったりとさせながら
仲間に担がれて体を起こした
クラフトはそのまま、指令に報告をしに進む

「総司令、任務遂行を完了いたしました」

「ご苦労・・・では、あとはよろしく頼む」

「心得た」

どぉ!
自陣の兵士たちはその勇姿に歓喜の声をあげた
煩い、そう言いたげな表情をしつつ
細かい引継ぎやりとりのためと称し、ゼーとクラフトは天幕の中へと消えた

「将軍、さす・・」

どがむっ!!!

「っっってぇっ!!」

「馬鹿野郎っ、てめぇなんだこのザマは・・・変わっておらんな、バカガキがっ」

天幕の中は二人だけだ
そして、外の連中は中のようすが聞こえないようになっている
だから、と言ってよいのか、それまでにためていた怒りという怒りを
拳に乗せてゼーに見舞った、どっかりと椅子に腰をおろす
頑丈な椅子だ、重騎士が座っても壊れたりしない

「まぁ、戦場に女連れ込んでねぇだけでよしとしておくか・・・」

「てめ・・・クラフト将軍、あんた、分かってやってんのか?いまの俺ぁ・・・」

どげしっ!!!!
悪びれた風もなく、オヤジが息子を叱る調子
いや、それにしたって、本気で殴っている
手甲の硬さと重さが、ずしりと頭蓋骨をゆがめる
悶絶して、じたばたと転がりまわるゼー

「阿呆が、まぁ、お前のそういう調子のりで軽薄なところを買われてんだろうが、覚えておけ」

「ってぇっ・・・・ちくしょうっ、あんた、本当に」

「まだ、殴られ足りてねぇかぁああっ??」

押し黙ってしまう、いや、黙らされた
ここに来てゼーは戦勝に戦勝を重ねていた
もっとも、ほぼ奇襲の形であらわれて、北の大国が躊躇していた
街を破壊するという悪虐行為をやすやすと行ったおかげで
有利な陣地を形勢し、ともかく勢いだけで勝ち続けた
しかし、勝てるところで勝つという方法が故
戦線は大きく広がり、守るのに難しい形で陣地を形成
じわじわと、その不具合をついて反撃に出てこられる直前、それが今だろう

「安心しろ、ワシに交代後、ワシが陣地を減らす分には、お前の名誉とやらは守られる」

「教官・・・」

「ふむ、それよりたずねておきたいことがある、マリーネが死んだとか?」

ゼーの表情が曇る
その様子をじっくりと髭を撫でながら老将は見ている

「話をよく知らんのだが、戦死にしては妙だと聞いた、相手も気になっとる、正直に答えろ」

「英雄騎士のアルが、獄中にあったマリーネを殺ったんだ」

「ワシの目を見て、もう一度言えるか?」

すごんでくる、それくらいどうというわけがない
ゼーは、じっくりとその目を見ながら、はっきりと言う
言い終わると、その顔面にまた、拳がめり込む

「ぎやああっっ!!!」

じたばた

「嘘吐くんじゃねぇっ!!!、お前は本当の阿呆だな、言えるかどうかじゃねぇんだよ、
言った時に瞳に嘘が映るんだ、覚えておけ・・・しかし、アルが帰ってきとるのは本当のようだな」

「まさか、結託して裏切る気じゃ・・・」

殴ろう、クラフトがまた視線をそちらに移したが
それを睨み返す顔が、本気の度合いを知らせてきた
ゼーの顔はすでに真顔だ、そして片腕が剣に伸びている
国のために戦う騎士であることは間違いが無い

「そんなわけあるか、そういうんじゃねぇよ」

「???」

意味はわからないが、ひどく楽しそうに見えた
クラフトが立ち上がる、よっこいせ、声を出さずに
だが、その音が聞こえるような姿でずしりと起きる

「ともあれ、同盟国のヴェステンを守るのは確かな仕事だ、ワシが死守する、安心して欲しいと
女王様に伝えておいてくれ、道中気をつけてな、元ヴェステン住民に殺されるなよ、馬鹿野郎」

言い終わるとクラフトは天幕の中からでていった
外ではあわただしく陣地の再構築が始まっている
ここで何日保守戦闘をすればいいか
守るべき者達を追いだし、その守るべき土地を破壊しつくし
さて、何をするためにここにいるのか

「相手が見える範囲内だけならいいんだがな・・・おい、そこぅ!!しゃきっと働けバカ野郎っ!!」

クラフトがつれてきた援軍は重騎士200を中心としながら
多くの工兵や一般兵も従えている
有志の輩もいくつかまぎれている、士気は高い
しかし、相手の引き際の鮮やかさに不安が募る
増援を待っているんだろう、どれくらいやってくるのか・・・
どっちにしろ死守の言葉どおりになろうか

そんなだからなのか、クラフトはまた笑う

「ったく、敵がどれだか、解ってねぇ奴ばっかりじゃねぇか」

敵は目の前にいる
クラフトは敵を見て、睨み、咆哮を上げる

「南港はまだ落ちてないのか・・・北も早く援軍が、いや、南から攻め・・いやいや」

そわそわと、居心地悪そうに南ヴェステンに覇を唱えたレーヴェが
独り言を呟いてばかりいる
まわりには旧臣だったヴェステン・ヘヴォン王家ゆかりの者達がいる
どれもこれも、久しぶりの玉座近くというだけで浮き足だっているかのような
そういう、軽薄極まりない空気が漂っている

「いかがなさいますか、北大国、紅国、デハン教、いずれも利用されるとはなかなか難しい・・・」

「局面は、そうだ、局面はそうだけど、未来を僕たちは見ないといけない、未来を・・・」

ああ、ダメだこいつら・・・
そういう空気なんだが、その場にいる全員はその通りだと頷いては
先ほどから、アテのないことばかりをそわそわと考えている
こんなバカでも生きていられるような現状、三竦みの真ん中という大きな策は
確かに功を奏していると言える
いっそ、このまま無能のままなら、ここに一つの国として君臨できるかもしれない
そういう期待もあってか、無能ばかりではないはずの臣下達も表立って大きなことを言わない

「北部から逃げてきた住民が城下に溢れかえっておりますが・・・」

「ああ、そんなのはほっておけ、貧乏人なんざ・・・いや、そうか、そいつらを兵隊にしたら・・ああ」

「お、お言葉ですが、兵隊などと、ただの平民には難題」

「五月蠅いな、お前は報告だけしていればいい、下がっていろ」

レーヴェはかりかりと、いかにも解っているツラをして
注進した男を無理矢理さげさせた
今、彼に必要なのは大丈夫だよと言うだけの人間だ
大丈夫かどうかは後からついてくる、そうじゃなかった時にそいつは死ぬ
そういう役目を平気でやれるような人間が必要だ

「うう、今の兵力でどこに荷担しても、バランスが崩れる、でもしないと
それを不義として、どこからも攻められるような気もする・・・どうしようか、どうしたらいいか」

「そういえば、紅の姫君がご帰還されたとか・・・あの噂は、その後・・・」

「ああ、姉上がそう仰っていたが、おそらく南港にいると思われる、デハン教を従えているんだろう」

「本当にそうなのですか?蛮族の女王と思しきものが、南港に入ったという話などが伝わっておりますが」

「そんなのどっちだっていい、大事なのはそこに誰かがいるおかげで、紅の国がもたついていることなんだ、
そういう確認事項じゃなくて、未来に向かって・・・」

やみそうもない
現状南ヴェステンの首座であるこの場所
かつてヘヴォン王家が別荘として建てた豪勢な城
それなりに街作りもできているが、まだまだ発展途上で
流れてくる避難民を受け入れるようなスペースはほとんどない
知らず、溢れたものたちは、最下層の地域である火石採掘場へと流れていく
混沌として、そこかしこで暴行や盗みが働かれ、城の外の治安は如何ともしがたいことになっている
城はまわりを高い壁に囲まれ、それなりに堅牢だと見える
レーヴェ達首脳が口論をかわす大広間とは、別の建物、敷地内にある塔の中にキルシェが囚われている

「・・・・・」

どうしたらよいか、極めて危険なバランスを保っている現状に対して
最高の選択をしなくてはならない、キルシェはそれを考えている
とらわれの身となり、しばらくは行動の自由を全て奪われていたが
今は、監禁という状態で済んでいる
食事も与えられているし、生活をするだけに問題は何もない
ただ、それだけで、無力なその身一つでは何もできないのも確か

時間が経過しすぎた、姫様はいかがされているだろうか

もしかすると、ヴェステンには来ず、そのまま紅の国へと入るつもりかもしれない
入ってから身分を明かせば、その場ですぐに政権をひっくり返すインパクトを与えられる
それをするのだろうか、だが、危険極まりない
現状で、姫様を守る勢力はデハン教徒だが、彼らは南港に釘付けのはずだ
よしみを通じたバンダーウ教は、不可侵の約束を取り付けている
となると

「・・・・アル様・・・」

亭主の名前を呟いてしまう
きっと、あの騎士ならば姫君を守って城都へと帰還を叶えるだろう
そういう絵物語が大層似合うのも確かだ、間違いがないほどに
そして、そうするということは
私を捨てるということ

あの人は、躊躇いもなく、いや、ためらっても逆らうことができず、捨てるのだろうか

そんな終わらない絶望感を己で膨らませている
いけない、いつもならそう自分を引き締めることができるが、
こと、ここに至って強さがすっかり潜んでしまっている
弱々しい、一人の皇女
その姿は、王子様を射止めるにはよいが、戦争状態の祖国を救う力は全く持たない

「随分と、弱々しいことだな」

「!!」

トンと、中空に満月が煌めいた
窓から見えたその光のまぶしさに気を取られる
月光を浴びると、それがシャワーを受け止める時分と似た
肌にとけ込むような感触があった
声は月影より現れた、光が闇に喰われた世界で、ひそり、
その空間に広がるとキルシェの自由をあっと言う間に奪った

「や、た、助」

わけもなく、暴れて逃れようとするが
何人かに取り押さえられているらしく、全く自由を失った
そのまま、ずるずると引きずられて、部屋の淵へと連れていかれる
本能が悟る、その方向には何があったか
目隠しがされて、光を失ったが、力まかせにされるままに
その未来だけが、煌々と輝いて見える

そこには、拷問用の磔台がある

口元も塞がれてしまった、騒ぐこともできない、じたばた
両手足を少しだけ動かしたが、もうダメだ
背中に硬い感触がある、両腕に枷がはめられる
ばたん、磔台が倒された、仰向けに寝かしつけられたのと同じことになる
一瞬で、何が起きたのかわからない、けど
耳は何もかもを覚えている、でもどうして、いや
不思議なことなど何もないのだろう
口を塞いでいたものが除かれた、そっと、一番の声を絞り出す

「ひめさま・・・」

「らしくないではないか、どうした、キルシェ皇女」

目元はまだ布で覆われていて、姿はわからない
しかし、間違いなく姫様がそこにいる
声も間違えようがない、なによりも空気が異なっている
キルシェの脳裏に、哀しい予想だけが浮かんでは消えていく
辱められるのか、壊されるのか、殺されるのか
全てか
かつて、政敵と言うまでもなく、姫様に反抗を抱いた愚か者は
残らず消されていった、とても自然に、判然と、当然のようにされる
私は、抱いただろうか、反抗を?憎悪を?嫉妬を?

「申し・・・」

「外は大混乱だ、おかげで易々とここまで来られた、世の中は忙(せわ)しいことだ、
南港もいい加減に危ういところまで来ている、デハン教の治安公や法律公が智恵をこらして、
大奮戦をしているようだが、なかなか難しい、噂の軍師殿とやらはなかなかの戦上手だ」

「・・・・」

「だが、人心を集め切れていないらしい、そのあたりはキルシェ皇女、
貴女の方がよほど優れていますね、ヴェステンの民はどうやら、貴女をお待ちの様子、
混沌の時、宗教に傾くのが常だが、デハンもバンダーウも入っていない、それでいて
指導者を待っている・・・アイドルだな」

「そのような」

「羨ましい」

言われると、口元に柔らかい感触が乗った
ほんのりと暖かみのある、ぽってりとした感触、唇で触れられた
それは、口づけをされたということか
視界を塞がれたまま、キルシェはされるままにしている、そうしかない
両の手は万歳の形で留められて、動かすこともままならない
耳に扉の閉まる音だけが聞こえた
なんとなく、部屋に姫様と二人きりにされたと感じた
そう思ったからなのか、目隠しをされた脳内に、桃色の何かが広がるようになった
どうして
しかし、その想像を裏切らない、とても巧緻な優しい接触が
そす、そす、己に降り注がれるのがわかった
吐息が漏れてしまう、なぜだろう、紅潮している自分の姿が見えるようだ
磔にされ、目隠しをされ、頬を上気させるなんて

「流石皇女、それそこの女とは肌理がまるで違うな」

「姫様、お戯れを・・・なに・・・」

「目隠しをされた囚われの皇女、殿方の喜ぶシチュエーションだと思わぬか?そういうことだ」

はっきりと耳に届く、そしてのしかかられたのがわかった
一人分の重みが自身に載ってくる、触れ合う部分が熱を持つ
興奮しているの
ほんのりと色づいただろう、己の裸を思い浮かべてしまう
犯される
そういう単語ではない、でも、意味はそれだ
抱かれるではなく、食べられるような、無抵抗のままされるがままとなる
まとっていたドレスが一つずつ剥がされていくのがわかった
肌に直接触れている衣服がはだけていく、それを感じ取った肌が
ぽぅ、と紅くなっている、多分
目隠しで見えないのは、よいことなのか、そうでもないのか
真闇の中で、もがくこともできず、裸にされていくことに、堪えられないほどのふるえを覚えた

「震えて・・・・怖い?それとも、快感が奔るか?」

「その・・・ような・・・」

声がうわずってしまう、ダメだ、いつからこうなったのだろう
そんな趣味はなかったとか、そういう言い訳がせり上がってくるが
全く説得力がない、自分の呼吸が乱れて、実った乳房が上下しているのがわかる
見えずとも、自分の乳首がどれほど形を明確にしたのかが解る
恥ずかしい、知覚するほど、目隠しをされた顔に赤みがさすことだろう

はむ

「きゃっ!・・・んっ」

乳首を吸われたのが解った、一度強く吸った後は
ゆっくりと、舌先で転がされている、くすぐったいとは思わない
体の如何はまるでわからなくなったが、全神経だけが異常に高ぶってるのが解る
乳首はぴんと立ち上がっているらしく、何度か舌で嘗められている内に
乳房そのものを刺激するほどかたくなった
いきなりのコトで声を漏らしたが、そのあとは必死に抗う
それでも、視界が無いだけで全てが不意打ちのように感ぜられて
とてもじゃないが、抗いきれない
それをわかってなのか、右の乳首が解放されると、次は太股、首筋、腰脇
体のいたるところに優しい感触が現れる
触れられる度に、ひくひくと、いや、びくびくと驚きに身を竦ませてしまう
しかし、次第にその竦ませる行為が別の色を帯びてくる

「やだ・・・やだ・・・・あ・・・ぁ・・・・」

小さな声で抵抗をしてみる
姫様はすっかりと黙ってしまった、もしかしたらこれは
全く別の誰かにされているのかもしれない
そう思うと恐怖がもたげてくる、いや、姫様にされているとしても安心できる材料にはならない
そのはずなのに、姫様にならばなどと、思考が随分とあやふやになってきた
考える力が弱り、堪える力も細り、気付かない内に吐く息が荒く、
切ない色を帯びてしまった、それがわかると堪えようと、少しだけつぐむ
しかし、結局堪えきれず、甘い声をあげてしまう

「ひひゃ・・・・んぁっああっ!・・・だめ・・ひめさま、だ、だめです・・・ああ」

はしたない
自分の羞恥心がいよいよ壊れんばかりに膨らんでくる
油断をしているでもないが、時折快感に浚われそうになっているのがわかってきた
単純な愛撫を続けられているだけだというのに、次第に、触られる部分部分が際どく
そして、強い調子になってきたおかげで、肌が、体が、脳が
もっと、もっとなんて、情けない気持ちになってしまう

「だめ・・・あ・・そんなに、胸ばかりやめてください・・お、おねが・・・ぃあっ!!!」

がくっ、派手に飛んだ、体が一瞬浮いたように思う
驚きに目を見開くが、目の前は真っ暗なままだ、どうなったんだろう
今、私は何をしたの?
わからないまま、続けられる愛撫に、どんどんと脳が熔けていくように思う
かくかくと、全身をりきませ続けていたツケがまわってきた
緊張からか、それとも筋肉が負荷に耐えられなくなったのか
ぷるぷると震えてしまう、汗ばんだ自分の肌もわかる、ただ、汗で濡れているだけだろうか
ことさら、尻の下にたまった、湿った感触が居心地を悪くする

「ああ・・・やめてください、おねがいします、んぁっ!だぁめんっ」

体をよじるが、執拗にというのだろうか
どんなことをされているのかわからない、ぴとり、人肌が当てられているのがわかる
いつの間にか、姫様が衣を脱ぎ去って、自分に取り付いているのかもしれない
あの白い肌が、ひたり、お互いの肌がそっと湿る
その湿度の高さが、蒸れるような色香を漂わせた
自分の肌が、相手の肌を求めている、吸い付くように
ぴとり、合わさったところの濃密な感触、うねうねと己を溶かして混ざり合うような錯覚

「あんっ・・あんっ」

可愛い声をあげてしまう自分に、気が狂いそうなほどの恥ずかしさを覚える
優しく筆で撫でるような愛撫は、しっかりと時折乱暴に、
両の乳房を揉みしだいて、滑らせて腰や尻のあたりを撫ではじめていた
唇による愛撫が首筋に注がれる、時折強く吸われる
びくり、体を撥ねると、乳首を指先で弾かれたりもする
やがて、その強い刺激が上半身に集中しだし、息苦しく空気を求める口元が
また、柔らかいそれに塞がれた、息が詰まる、苦しい
胸から快感がせりあがってくる

「ぷぁはっ!はぁっはぁっ!・・・・やっんっ!!!!!」

不意打ちだ
口を解放されて、新鮮な空気を思いっきり吸い込んだ
その瞬間に、太股の間に手をさしこまれた
デリケートな、その柔らかい肉に、他人の指が這う
その感触に、自分の制御を失ってしまう、かくんかくん、何度か激しく揺れて
抵抗することもできず、股が割られた、膝立ちにされて
その太股はふるふると震える、もっと、その間ではどんなことになっているだろう
尻の下にぬっとりとした、粘液の感触がある
両手が太股の内側に触れられたままで、姫様の動きが止まっている

「み、見ないでください、お、お願いします、見ないで・・・」

口は正直に哀願をした
見られている、そんな気がしてしまった、いや、本当は見て欲しいのじゃないかしら
もうわけがわからない、ただ、抵抗できずに股を開いている自分の体
その重たさと、熱だけが、高ぶった神経に載って、脳を揺さぶってくる
なぜ、どうして、どうされているか見えないのか
見えないから、目を隠されたから、興奮している、変態っ

「あああっっ!!!きゃぁっううんっっ!!!」

ゆっくりと、内腿を撫でていた手は、平が浮いて指先だけが太股に触れていた
その10個の点の感触が、ざわざわと、蠢くようにして、不規律な軌道でゆっくりと
付け根に向かって移動をした、ゆっくりしていたのに
まるで無駄がなくて、当然のようにして、その中心に到達した
ほとの左右、ぷっくりと膨れたそこを、何度か指先で圧される
強く、乱暴に圧されたり、撫でられたりをした
堪えきれなくなって、声は大きく、そして、はしたなさはいよいよ窮まってしまう

「ひゃんっ。。ああっうんあんあんっやんっやんっ!!」

はぁはぁっ、声がとぎれると、激しい息づかいだけが虚空に消えた
汗が、蒸発して空に昇り、己の淫猥な匂いとごたまぜになってる
そんな風に思えた、鼻は、その自分の淫乱臭を嗅ぎ取っている
独特の匂い、甘いではない、たるく、粘る、あの匂い
自分の体全体からねっとりと立ち上るそれ
その匂いに、よりいっそうの詳細を与えるように音が届く、触れられた音

ぴちゅ、

「くぅっ・・・・・・・・っっっっっ!!!!!んっっっ!!!」

かくかくかくかく、また軽く飛んだ
自分のそれを、触れられた、全神経がそこに集中しているかのように
今なら、息を吹きかけられるだけで、もっと強くイけるように思う
ダメ、ダメ、だめだめだめだめっ
必死に抗おうと、いやいやをするが、手の主は構った様子もなく
撞き入れた指を、そっと一本だけ動かす、まだ第一関節くらいしか入れてない
なのに、触れられているそこは、飲み込もうと蠕動をしている
求めてしまっている、女のそこが、とうとうと液体を垂れ流して、異物の侵入を望んでいる

「やめてっ、おねがいします、やめてくださいっいやいやっ!!!」

どうしようもないほど嫌がる、しかし
体だけはその声とは逆に、中途半端な位置で出入りを繰り返す細い指を
必死にくわえこもうと収縮を繰り返している
ちゅぴゅ、ぴゅぽっ!
水に濡れた壺は、粘膜と圧力の変化で、大きな音を立てた
指が抜き取られたのがわかったが、その指先からとめどないほどの液体が垂れている
その垂れた橋が、ひやりと太股についた
どれだけ、どれほどのことになっているんだろうか、自分ではわからないが
そこは粘液によるというよりも、肉そのものが熔けて火照り、はみ出ているかのようだ

「もうっ、これ以上は・・・・おねがい・・・」

懇願
しかし、無情にもそれは裏切られる
注がれる指技、ぴと、一瞬だけ何もかもが終えられたかのような静寂があって
視界のない女の股ぐらが、乱暴に犯される

「んあああっっ!!いやああっぁうううんっっあんっきゃああああんんっっ!!!」

ちゅく、ぴゅるるぴゅちゅちゅるるるるっ
何をされたのかわからない、ただ、求めていた最上の刺激が股間に与えられた
喜びをあらわすように、キルシェのそこは派手に音を立てて
指を吸い立てて、音を上げて愛液をだだ漏らした
ゼリー状とまでは言わずとも、透明で粘性の強い液体が、
自分を可愛がってくれている指にとめどなく浴びせられる
膣口がきゅんと縮まったようにも思える、どうとも言えない、大きな快感に浚われた
声はもう上げられない、目を塞がれていてよかったのかもしれない
こんなにはしたなく乱れる自分を見ることがなく
嬉しそうに口を開いたであろう自分の表情と、股間の下口も
見ないで済んだことに感謝をする

「あんっあんっあんっあんっ!!!」

その後は、しごく単純に、指が何度も出し入れをされた
ゆっくりと、二本の指が、ばたばたと暴れながら出たり入ったりをする
恥骨の裏あたりを強くひっかかれたり、膣奥を指腹で圧されたり
その動作と同時に、最も敏感な肉の芽をつままれたり、弾かれたり、押しつぶされたり
一通りの行為が行われて、残っていた理性がかけらもなくなるほど飛ばされた
涙を流して、イってしまった

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・」

「さて、溜まっていたものも無くなり、理性を取り戻せたかな?キルシェ皇女」

「ひめさま・・・・」

いつだったか、船の上で言っていたことを思い出した
そうなんだろうか、そういうことで私は、いつもを失っていたんだろうか
目隠しのままだが、悪戯っぽく笑う姫様の顔がありありと浮かんだ
視界を奪われることで、様々な垣根をこえられる、知らない世界が見える
そういう、体験をした

想像力がたくましくなる

「姫様・・・」

そっと、手を伸ばすとそこに、確かに姫様の体があるように思われた
快感に腰はおろか、体中の大事な部分がぐにゃりと抜けてしまっている
だけど、精一杯の力で、その目の前にあるはずの体を逃さないように抱き締めた
己の柔らかい体を自覚している、潤いが戻った、そんなバカなことを思うが
光の無い世界、自分の想像だけの世界で
キルシェは触れてはいけないところまで、意思の腕を伸ばした

こんな布きれ一枚で、人はどうとでもなれる、もしかしたら

「急にど・・・ん!」

とっぷりとキスを見舞った、見えていなくても間違いなく捕らえられるものらしい
しっかりと唇を吸った、強い抵抗をされるが、それを吸収しきる
自分の柔らかい体は、そんなことを造作もなくやってのけられる
組臥すようにする、情事が終わってから枷より解放されていた
反撃に移るように、姿が見えないからこそ、恐怖も覚えず
それを行える

アル様も、この布一枚あれば、果たせるのではないだろうか、いや、果たしたのではないか

キルシェの怒りに近似する嫉妬が時計仕掛けのように
今、時が来たと告げられ、作動していく
この行為自身に己を見失わせる、いや、見ることなど今できていない
布はどうなっているだろう、もしかしたら、瞳の部分だけが濡れていないだろうか
乱暴にか弱い姫君を押し倒した、艶めかしい、自分の今がそう見える
手先に力が入る、心臓が大きく拍動を立てる、自分の呼吸がどうなっているかわからない

「・・・・・キルシェ・・・どうする?殺すには、その指を喉に圧し当てるだけだ」

「ひめ・・・さま・・・」

頬を撫でられた
四つん這いで覆い被さっているが、そのまま
何もできずにいる、とくりとくり、己の心音が聞こえる
頬を撫でる手を優しく握った、ぱたり、何かが途絶えたように思う

「乱暴にして申し訳ございません、でも」

「でも?」

「こうでもしなくては、この機会でなくては、こんな姿でなくては」

キルシェは微笑んだはずだ
ただ、顔の半分が隠れている、だからそうだったのかは解らない

「嫉妬を抱く相手は同じでも、抱く種類が異なることに、今、気付きました・・・姫様、お赦しください」

そう言い終わると、もう一度口づけた
覆い被さり、なめくじの交尾を思わせる、女の痴態が始まった
操られているのだろう、かまわない
キルシェは夫の姿を忘れることにする、裏切っていたのは私だったのだろうか
そうではないのか、この人に狂わされてしまう

喘ぐ声は静かに漏れて、二つの体は今暫く、一つであることを望み続けた

つづく

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書きたかったエロシーンのはずなんだが
もう少し足らない、攻守逆転の後がねぇのがな・・・

思ったりするのでありますところ
しかし、これはエロ小説という形態をとってしまったので
物語にならねばなりませぬ
今更そんなことを思いましたが、とりあえず書きたいこと書いたから
あとは流します、ご愛読ありがとうございました
(07/07/23)