Edelstein ”Karfunkel”


「ぐ、グラスさん・・・だ、だめだよ・・・・う・・・あ」

「ダメ?・・・嘘ばっかり」

淫婦がいる
虜になった少年がいる
絡め取られた少年には、女の肢体が絡みついていく
上半身は既に裸に剥かれている
下半身を優しく、何度も、擦り上げて表情を楽しんでいる
無論、女が男子に施している

「ダメだよ、よくない・・・・明日から出陣なんだ・・・これはいけないんだよ・・・」

知らないと思うけど、男のそれを戦の前に発してはいけないんだ
マリーネは後生大事に言われたことを守り続けるタイプだ
この教練は、古く、先生に言われた言葉だ
ゼーあたりは、鼻で笑って、戦の前となれば高ぶる気を抑えきれず
行きずりの女だとか、囲ってる女だとか、・・・・他人の女だとか
そんなのを犯してしまうものだ
マリーネは、体力を温存するためにも、戦前には絶対にコトを起こさない
無論、グラスと出会うまで、女相手には童貞だったのだから
一人であれこれしない、そういうものだったのだが

この日の朝、女王よりマリーネは出陣の触れを授かった

皇子のツエクが心細い、とは違うが、何か物憂げな顔をして
マリーネの表情を伺っていたのが印象的だ
少年王は、兄のように慕うマリーネの出陣を見守るだけで
己は征くことができない、その哀しさに溢れていたように思われる
マリーネは当然、その視線に笑顔を見せて出てきた
既に騎士隊に通達は終わっている、あとはゆっくりと静養して
明日の出陣に備えるだけだ

だが、ゆっくりと静養できずに、隊長であるマリーネはグラスとまぐわいを重ねている

「だって、何日も会えなくなってしまうもの・・・」

「グラスさん・・・そんな顔しちゃいけない」

少年はころりと騙される、純粋で無垢で、何も知らないというのは
知っている側からすると、いたく嗜虐の部分をくすぐられてしまう
グラスは思う
私はこんな悪い女だったろうか、あの頃憎み嫌っていた女のそれになっていないだろうか
なっているのだ、グラスはその側に立ったことでようやく
憎んでいた対象が憎まれてまで、どうしてそんなことをやっするかわかった
あらがえない魅力がそこにある
その単純な動機に突き動かされて、グラスは撫でて大きく育てたマリーネの棒から手を離す
両手でマリーネの胸板を撫でる、おずず、くすぐったそうにマリーネの表情が困惑を形作る
グラスはゆっくり、とてもゆっくりと唇をミゾオチに圧し当てた

「ふ・・・あ・・・・」

マリーネが感じているのがわかる
自分ではわからないが、他人からすると唇というのは酷く柔らかで温かいものなのだ
それを最大限に使って、ミゾオチから、よく鍛えられた腹筋の上を通る
やがて舌先を唇から割だし、ぬろり、嘗めながら自身はかがんでいく
かがみ、ゆっくりと己の衣服をはだけさせていく、たわわに実る肉の房が二つこぼれる

「うぁ・・・」

「おおきくなってる・・・大丈夫、挿れてほしいなんてお願いしないから」

今日は全部をリードしよう
グラスなりに気を使ったつもりなのだが、あまり意味がない
ともかくマリーネはマグロのままで今夜それを放つことになるのだそうだ

「あむ」

「・・・グラスさん・・・」

あご、いや喉元に突きつけられたようにグラスは感じる
マリーネのそれは反り返って腹につくほどだ
その鈴口部分を、布地ごしに口にふくんだ
思わずだろう、マリーネはそっとグラスの頬を撫でた
剣を握り続けたその指は、それぞれが太くけわしい
だが、若者らしい柔らかさと肌のよさがとれる
頬を撫でて、髪をすくい、目をつぶりつつ、自然と腰は前に出てしまう
何度か含んだが、やはり布ごしというのはする方もよくない

ぺのん、っ

下布を剥ぎ取ると、紅くテラみを帯びた物体が猛々しく現れる
何度も見た、ただ、昼のまだ明るい時分に
外の青空の色が部屋に映り込む、その陰影の中でそれを見るのは初めてだ
興奮を覚える、グラスはそっと根元のほうから指でさする
紅いというのか、紫色味が見えるそれを何度もさする
ぷくり、破裂するのではないかと思うほど、亀頭がつやつやと血液をためこむ
ぎゅっと一度強く掴む、するとチアノーゼのように亀頭がぷっくり膨らんで紫色を強める
緩めると、きわめてわずかな皺が全体に現れる
同時にだろう、ぷつ、尿道から透明な液体がしみ出した
いや、植物の朝露のように、円く、つるりと出される

「ふ・・・む・・・・ん・・・・はぁ・・」

吐息が荒くなってしまう、グラスは思いながらも
その現れた甘露にそっと舌を当てた、そのまま、全体を口に含む
ぬるるるる、ぞくぞくと背筋を走る快感
これは両者に奔った、肉感として生温かい柔らかさに包まれる
いや、ふくまれる、その感触にマリーネはますます固くなる
それを感じて、グラスは女の部分、それとも、淫乱な部分か
そのいずれか、あるいはどちらもを刺激されてよじる

ちゅく、ちゅく・・・

「グラスさん?」

「ん、ごめんなさい・・・でも、ん、あむ」

ゆぷゆぷとグラスの口が奉仕を続ける別に
水音がした、マリーネが視線を落とすと
懸命に自分のそれをくわえる女は、片手で竿の根元を持ちつつ
もう片方は、たわわな胸の下に消えている
両脚は広く開かれている、音はおそらく、その間から出ている
そう思うと、また一段と興奮を覚える

「グラスさん・・・」

「あまり、気持ちよくない?」

「ち、違うよ、その・・・・しようか」

マリーネは真っ赤になってそう言った
グラスは、その申し出に酷く悩まされる
誘惑に負けてはいけない
変なところで意固地らしい、それが焦らすということになっている
そんなことまではわからない、断ったまま
今度は激しく吸い立てる

「う・・・あ・・・は、激しいよ・・・ぐ、グラスさん・・ちょ・・・」

あむあむあむあむ
激しく上下に揺さぶる、だが、決して強すぎず、歯を当てることがない
何度も練習をした、男のそれは意外と弱々しく、歯を当てると萎える
そうじゃない男もいるのだが
グラスは当然それを知らない

「んっんっんっんっんっんっっっっ!」

「は・・・あ・・・あ・・あっ」

精一杯に前後させる、しかし
固くなるだけで、いっこうに果てるというところまで連れていけない
グラスは焦ってしまう、焦れているようにマリーネは眉根を寄せて
その奉仕を受けている
アゴが疲れてしまった・・・
そう思うほど、随分と施した、若いマリーネはまだ自分の射精を制御できない
尽くしてくれた女に対して、頃合いで出す、そんなことはできない
ただ、与えられる刺激を受けて、どんどんと高ぶらせていくばかりだ

「グラスさん・・・やっぱり」

した方がいいよ
続かない言葉はそれだった、マリーネはとんと解っていない
こんな時、言わずに力尽くで犯ってしまえばいいのに
ゼーあたりなら笑うだろう、その哀願のような様子は
グラスを少しだけ落胆させてしまう、自分ではダメなのかなどと
自己嫌悪に陥ってしまう、だが、その視線を受け止めたグラスは
マリーネの視線がゆっくりと自分の瞳ではないところに動いたのを見逃さなかった

何を見てるの?

少しだけ考えて、すぐわかった、自分の露わにした乳房を見ていたのだ
おっぱい大好きか
年増の女らしい台詞ではある、しかし、そこで閃いた
口で奉仕する最中、溢れて零れた唾液が胸元を汚している
だが、これを使って
話にしか聞いたことがなかった、しかし、いけるだろうとそっと自分の胸を寄せる

「このまま、絶対にイかせる」

小さく、決意のように呟いて
グラスはすぐに、反り返るそれを胸の谷間に押し入れた
そして、左右から腕を絞って締め上げる
そして、上下に揺らす、たゆたゆたうたう

「グラスさん・・・そ・・・・あ・・・・・・」

反応がいい、また固くなった
胸の中のその固さはわからないが、はみ出した亀頭の具合でわかる
これなら大丈夫、グラスは聞いたままに、全てを尽くそうと急ぐ
胸で挟んで、しごきつつ、頭の部分にれろれろと舌を
その時に、零れる唾液はそのままにして、どんどんと胸元へと流していく
にゅむにゅむにゅむにゅむ

「グラスさん、グラスさん・・・も、う・・・・あっっ」

ふるふるふるふる、マリーネの腰が自然と動き始める
こらえているのか、臀部のあたりが少しだけ、痙攣をしている
胸の間で、男子の竿が暴れる、必死にそれを抑え込もうと
グラスはさらに締め付けを強める、ぬるり、唾液の滑りがよくなっている

「グラスさん、ぁ、・・・・っ!!!!!!!」

びゅるっ、どぷどぷどぷっっ
胸からはみ出たところで、それは勢いよく発射された
驚くグラス、一気に胸元が生ヌルイ液体で汚れていくのがわかる
ぞくり、いつも尻や背中にかけられるそれが、胸元にほとばしる
その感触が、生温かさが、卑猥だ、とても卑猥でどうしようもない

「・・・・よかった?」

「グラスさん・・・」

「ダメよ、帰ってきてから続きを・・・・ね」

思いの外落ち着いている自分に驚いてしまう
イかなかったのが良かったのかもしれない
女の部分はずっと濡れたままだが、吐きかけられても
なんとか我慢できた、軽くでもイってたら、多分今夜いっぱい
ずっと抱かれたいと思ってしまっただろう

「キスしよう」

「え・・・・・ん」

グラスは突然のことに驚いたが
すぐに降りてきた唇を受け入れた、柔らかい
早く、この唇で自分の、そちこちを愛撫されたい
そんなことを思いつつ、優しい青年の愛をしかり、受け取ったのである

「戦勝を、約束します」

それは、女王に贈る言葉だ
部隊の隊長が出征前に必ず女王に向かって宣言する言葉だ
だが、今は

騎士隊長がグラスに向けた言葉だ

ゼーが放った刺客、偵察兵はブライテストタールに入っていた
そこで、あらかじめ潜入していた者とコンタクトをとる
厳重な見張りの目をかいくぐり
彼はようやく中に入ることが許されていた

「どう、いうことなのだ」

彼は呆気に取られてしまう
占領された街の風景ではない
それが第一印象だ

「パンはいらんかえー」

「面白い大道芸が見られるよー」

わー、声をあげて子供が大道芸人の近くにと走っていく
平和すぎる、と言えばいいのだろうか
確かに、港町だからこんな賑わいがあるのは当たり前なんだろう
それに統治が済んだ後なのだから
必死になって、彼は平生を取り戻そうとしている
だが、現実があり得ないことになっている

「もっと、暗い街だったのに・・・」

慌てた様子で、すぐにともがらを探した
偵察の人物が潜入する場所は決められている
そこに、それまでと同じようになんだろう
やはり屋敷はあった、そっと周りに視線がないかを確かめて入る

「!」

「おう・・・よく、入れたな」

「ああ・・・・いや、それより、どうなってるんだ、なんだこれは」

「先に聞いておくことがある、お前、一人で来たのか?」

「も、もちろんだが・・・・なんだ?」

「ならいい、ゼー騎士の命令で動いているということか・・・いいか、
お前は俺にとっていいツレだから、これから言うことをよく聞いて欲しいのだ」

急に改まった調子で、先行偵察の男は喋りはじめた
ゼーの使いは狼狽えてしまう、確かに、ガキの頃から遊んだ中だし
自分よりも遙かに偵察能力に優れて、その能力をかわれて
ブライテストタール常駐の任務についている
それが、どうも、言葉を拾うかぎり、よくない話をしようとしている

「おい、密偵の末路を、お前」

「今は違う、なんならあれだ、カフェにでも行くか?そういう話なんだよ」

「そんなの、割り切れるかよ」

「そうでもない・・・お前、まだしっかりと見ていないだろう、街のことを」

「どういうことだ、デハン教徒がはびこっている、当局の睨んだ通りのことだろう?」

からから
その言葉を聞いて、駐在員は大きく笑った
よほど面白かったのか、なんかわからないが、涙を浮かべて笑っている
おかしい、何かあったんじゃないだろうか
ゼーの使いは、一瞬、この男を消さないといけない
そういうミッションを思いつくほどだった

「いや、すまん、気が触れたと思われて殺されるわけにはいかん、ともかくかけろ」

「・・・・・謝るのは俺の方だ、正直に言おう、俺は、お前を殺そうと思いつつある」

ぎらり、言うなりナイフが姿身を晒した
反射的なものだろう、駐在員もすぐに身構えた
一瞬で暗がりの小屋の中は緊張する
りろりろ、小さく焚かれた炎のゆらめきが、より一層その重厚感を増している

「落ち着け、すまない、お前をからかうつもりじゃないんだ」

「・・・・」

「単刀直入に言おう、いや、駐在員として報告をいたします、女王・・・いや、姫様が帰られたのだ」

「?・・・・何を言って・・・!!!!ま、まさ・・・いや、そんなはずは・・・」

「本当だ、この俺が見て間違いがないのだ、ほら、そして
お前がここに来るまでに見てきて、不審に思った全てに納得がいくだろう
お前のことだ、平和すぎると勘ぐっていただろう、それにこんなに明るい街じゃなかったと」

確かにその通りだ
ゼーの使いは、激しく動揺を覚えた
自分が完全に動転しているのを理解できる
ぎぃ、急に音がして、思わず身をすくめた
その瞬間に殺されていてもまったく不審はない、完全に虚を突かれていた
だが、その虚を突いて、駐在員はイスに座る動作をしただけだ
話に続きがある、そう言うように、再び座することを促した
今度はようやく従う

「この街で、ここ10日か?、その間に起きたことをお前に話そう」

駐在員は宣言して、静かに酒を薦めた
ゼーの使いは、平生を取り戻したい、その一心でそれをあおった

「街の損傷はどうだ」

「問題ありません、市民に負傷者は今のところ出ておりません」

「そうか・・・治安公殿はどうしてる」

「既に城に入られております、続かれますか?」

「いや、俺は港で待機せねばならんよ」

騎士、いや、海賊のほうが近しい
そんなアルという男が一人、慌ただしく部下との意見交換を行っていた
陥落させた後だ、実に鮮やかに街というのは獲ることができるのだな
つくづくそう思っていた、方々でデハンの旗がなびいている
動揺している街衆の姿がよく見える
今は、そちらに気を配っておかなくてはいけない

「街衆はどうだ、抵抗はないか?」

「今のところは・・・ただ、不審がつのっているのは確かの様子です」

「お早く・・・・」

アルは呟いて、絶対に待ち人は遅れてくることを確信していた
自分が、望んだことが、いつだって叶ったことが、適えてもらったことがない
そんな人を待っている、少しだけ笑いが起きあがってしまう
いや、笑っている場合ではない

「城内と綿密に連絡をとっておけ、治安公殿に城内探索を急がせてくれ」

「わかった、それがしが向かおう」

「頼んだ、ゴンロク殿」

言われると、馬を一頭、軽やかに操り
東方の異人は颯爽と城へと向かった
今、場所は港、停泊している軍艦3隻は全て支配下に置いた
まだ、幾分かの軍人が潜伏しているが、その全てをなんとか捕らえる
殺すではなく、捕らえるという方向で対処している
アルは現場指揮官として、完璧を施したといえる
しかし、戦時下、しかも占領都市の中
完璧といえる努力の力は、たかが知れているのだ

「アル様っ、大変です、街衆が、徒党を組みはじめております」

「さっき、大丈夫って言ってたじゃないか」

「追いつめた兵士を助けようと・・・突然、いかがいたしますか」

「武装はどうなってる、鍋の蓋とか持ってる分には問題がないんだが」

冗談を交えたようだが、アルは本気でそう願っている
住民が武器を携えているとなると、状況は非常によくない
市民が兵隊になってしまうと、数で蹂躙される可能性がある
アルは焦る、ともかく早く抑え込まなくては、伝播されてはどうにもならない

かたわらで、まだ来ぬ主人を待つ心が揺れる

「治安公の方はまだか?」

「何も、だいぶてこずっておられる様子です」

先行隊は、現在城内を鎮圧する任務にあたっている
それと同時に、ある物を探している
主人が探しておけと言ったものだ
本当にあるのか、そういうことはどうでもない
無くてはならない、無ければ造らなくてはいけない
騎士は守るべきもののために全力を尽くさなくてはならない

犬は忠義を尽くしてこそ、頭を撫でられるのだ

「どれだ?」

「あそこです、どうします隊長」

先行していた捜索隊が盾を並べて市民と対角を造っている
非常によくない現場だ、アルはすぐに相手方の人相と
それに与している者の顔ぶれを眺める
どれかが扇動しているとすると厄介だ
ブライテストタールが、紅の国から独立しているとはいえ
おそらく、手のものが幾人か潜んでいるはずだ、それらが扇動しているとなると
少々厄介になる、ここは無傷で手に入れなくてはならない

「それまでだ、双方剣をおさめろ」

とりあえず、そんな風に出てみた
バカな話である
戦争中の喧噪に、そんな街の喧嘩の仲裁のように入る者がいるだろうか
当然の如く、相手方はすぐにしゃしゃり出てきたその隊長格の男を
一番の標的と見定めた、一気に畳みかけてくる、しかし

ぶぅんっ!!!

一撃で三人ばかりを吹っ飛ばした
そして、一喝をする、どぉっ!!!、声というよりも衝撃になって
辺り一面を少し震わせたように思われる
大した大声だ、アルは力の限りで発したそれによって
市民を沈黙させた、そしてゆっくりと伺う、それに制御されない奴がいる
それが・・・

「・・・・てめぇ」

探しているつもりが、つくづく運がない
アルは自分を呪った、吹っ飛ばした一人が明らかにまずいことになっている
泡を吹いて、びくびくと見たこともない痙攣を起こしている
その様子をまざまざと見せつけられ、恐怖するものと
怒りを催す者に別れた、いや、怒りを催す者の方が多い

「隊長、こいつはまずい・・・」

「すまん、しくじ・・・」

じり、下がったところだろう、わぁっっと声はあがって
市民達は一斉に飛びかかってきた、もみくちゃになる
相手は市民で防具をつけていない、いないが、手には酒瓶やら
どっから持ってきたかわからない棍棒のようなものを携えている
それでぼこぼこと殴り散らかす
部下の何人かがたまらず倒れる、なんとか助けようとアルも思うが
もみ合いでまったく前に進めない、それどころか押し返されて自分の身も危ない

わぁああっ、ここだっ、あそこだっ!!

遠くで扇動している奴がいる、まんまとはまったようなものか
市民はだんだんと、寄せ集められ、知らない内に衆愚の怒りに飲み込まれていく
一様に、何か鬱屈していた、鬱積していた、溜まりに溜まったそれを噴出しにやってくる
暴動になる

「隊長これはもう・・・」

「ならんっ、殺したらいよいよ収集がつかん」

「あんたが最初に殺したんじゃねぇかっ」

部下の一人が悲鳴のようにそう声をあげて
とりあえず近づいてくる市民をぶん殴ってのかした
剣は使わない、とりあえず殴る蹴ると、盾による防御でなんとか
思うが、だんだんと数がましてきて団子になってしまう
なんとかしないといけない

「これは耐えきれない、これ以上はまずい、殺そう」

「ならん、誰も殺してはならんのだ」

「あんた、さっき殺したじゃないか」

「ありゃ、事故だ・・・」

と、言っている間もない
もう、暴徒がそちこちに現れはじめている、撤退が必要か
アルはそこまで考えた、大きな失策だ
主がこの状態を見て、どうとするか

主の視線を思い出した、何も怖くなくなった、アルの目が据わる、剣に手をかける
部下もそれを見て、気合いを入れる、暴徒に軍人が制裁を加える算段が整う

こつん

靴の音が聞こえた

まだ、喧噪はやまないし、いよいよ兵隊も力の限りに反抗する暴徒を嬲りはじめた
そんな大変やかましい中なのに、靴音を聞き逃さなかった
いや、靴音だけなのか、何かもう、アルは石化していくかのように
全身が冷たく固くなっていくのを感じる

「アル、どういうことか」

声、主の声がする

「も、もうしわけ・・・」

「阿呆、私はどういうことかと事象を訊ねておるのだ、貴様の申し訳なぞ聞いておらん」

「姫様、すぐに鎮圧を」

「暴徒に力で攻めてどうするか・・・やれやれ、手のかかる犬を飼ったものだ」

一人の女はゆっくりとアルの側から前へと出る
目の前では、街の喧嘩ではない、戦争行為に近しい暴虐が振る舞われている
アルは、白い汗をにじませながら、その女の背中を見る
美しい背姿、しかし、その暴力の背景が酷く、曖昧に見える
空間をどうにかしているかのような、そういうものがある

じゃらりっ!!!

「!?」

「!!???」

じゃらりっ、じゃらららららっ!!!
続けざまにその音は鳴った、鳴らしながら、その場全ての頭に降り注がれた
喧噪は次第に静まり、やがて、全く別の声があがりはじめた
呆気にとられている、何もかもが、一瞬で彼女の意中となる

「敬愛なるブライテストタールの市民よ・・・この騒動によって、心痛の負担をおかけして申し訳ございませんでした」

シン、、、、
急に喋りはじめた女に全員は視線を奪われた
美しい女だ、高貴な女だ、小柄だが威光に溢れた女だ
そう思い、その場のものは視線をそこに向けた

「それらは、悪政を強いた、ブライテストタールの公爵殿があなた方から搾取していた金銀です」

「おおお・・・・」

「あるべき場所へと、あなた方のもとへとお返しいたします」

「おおお、おおおおお!!!」

「慌てない、今はまだ、その程度しかありません、しかし今より、城内からその財宝を分譲いたしましょう、
新君主として、私の最初に執政となります」

新君主?
いけしゃぁしゃぁとそう言いのけた様に、市民は狼狽える
よりも不審を覗かせる、緊張がはりつめた極限の戦争状態ではなかった
だから、よくわかっていないのかもしれない
思えば、ブライテストタールは雇われた兵隊によって、守られた街だった
それを雇う金を市民は搾取されていた、使役していたのは王族達
その儲けの大半を搾り取る領主が倒された
新しい領主というものは、その自分たちのものを返すという

「アル!!!」

唐突に、女は側の騎士の名前を呼んだ
ぎょっとして市民はそちらを見る、さきほどの間抜けな男ではないか
そういう奇異の視線を送る、送りながら
少しずつ、何人かが、気付きというものが

ゆっくりと伝播して広がる

「あ、アル・・・・騎士・・・・マイグレックヒェンの英雄騎士?」

アルは、ただ黙って立つだけだ
主人がそうせよとサインを送る
だから、言われるままにただ立つ、雄々しく、猛々しく、その面構えを険しくして立つ

「アル、あれらを」

「かしこまりました」

立ちつくした市民を嘲笑うように
不意に女は騎士を使った
刹那、騎士は剣をひきぬいて、斬殺体を一つこしらえた
続いて、彼の部下である傭兵達もそのあたり一面を真っ赤に染めた
きゃああああああっっ!!!
大きな悲鳴があがる、恐慌状態に陥る市民
女は、微笑みながらそれを見ている
そして、舞台女優のように、ゆるやかに、返り血を浴びた騎士の側に歩みを進める

「これらは、そなたらを苦しめ続けた紅の国の間者、そして、それらを大事にした怯懦のものだ」

ざわり

「さぁ、城を奪還する、いや、もともと私のものではなかったかな?」

「間違いなく、かつては」

騎士はうやうやしく頭を垂れて一拍を置く
そして、周りが充分に聞いているのを確認してから、はっきりと告げる

「姫様のものです」

市民は混乱をきわめる
まことしやかにささやかれていた、
現女王が前王である姫様を追いやったという陰謀
その意趣返し、いや、もっと
どうしたらよいのかわからない、一国の元首となりうる人物が
ようようと港を闊歩している、それだけで混乱はきわまる
その中、屈強の騎士を引き連れて毅然とした態度で姫様は足早に進む
横のアルに囁く

「どうだ、民衆など愚かなものだろう、お前は阿呆だ」

「面目次第も」

「だまれ、貴様に喋ることは許しておらぬ、同じ狂わせるなら手の上で狂わせろと」

きぃ、視線が鋭く、そして零下を覗く
精神を萎縮させる視線
しかし、ふと、ほのかに揺らいだ、笑みが浮かんだ

「言っただろう?騎士殿・・・」

アルは青ざめて、ただ、それでも
なじられるだけで済んだことに安心している
失態のせいで、いよいよ殺されると思っていた
だが、思いもかけず、姫様はこの余興を楽しまれた
そんな、些細な心づもりでこの男の生き死には決まる

この二人を語るのに、多くの物差しが必要になる

現女王が、この騎士と姫様を追い出したのは事実
現女王は、その事件を友好的な禅譲であったと偽証
そんな嘘で塗り固められて10年が築き上げられた
そこに、騎士と姫様が帰還したのだ
それが表向きの事情

裏、というほどでもない、別の軸でまったく隠されている
知られていないことがある

騎士は、姫様の絶対従者なのである

つづく

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読み直しなし
とりあえずこれでお願いいたします、へこへこ
おっぱい大好きだ
(07/03/20)