Edelstein ”Karfunkel”


国主が、近隣の大国へとおもねりに行くため留守とした
そういう国家のお話
国の名前はブライテストタール
広い谷という意味の名前を冠する、谷の街を首都とする国

まずは平穏な、いつも通りの日々が過ぎていた
国主が養っている私兵が常に警備を怠らず
難攻不落と呼ばれるほど、頑強な城壁の中に首都を抱えている
いわゆる城塞都市を形成している
谷の近くだが、谷と街との間に広い平原が広がる
谷は道筋が狭くまた、険しいことで有名な難所だ
正直なところ、冒険家と呼ばれる無鉄砲くらいしか
その道を通ろうとする者はない、圧倒多数が海路を使い
陸路をとることが無い

「異常なし」

この日も見張りは、常に海の方を見ていた
いくつも帆船が港にやってくる、また、旅立っていく
港湾近くに形成されたこの城塞は、港に大きく街を開いた
そういう造りになっている
だから、自然と海に対しての警戒が強くなっている
警戒をしながらも、交易で繁盛するためには大きな港が必要
それに迫られて港は、防備の点では甘い造りになっている

それを補うため、この国は数多くの戦艦を備えている
敵を発見すれば、それらが急進し撃滅をする
隣国の紅の国より、多くの火石を仕入れて、戦艦は大砲を搭載している
弓矢の類で攻撃する船如きは敵でない

だからだろう、海への警戒ばかりで
まさか、谷を超えて敵がやってくるとは想定していなかったのである
それは、突然現れた

「なんだあれは」

見張りではない、城塞に住むいち住民が最初に気付いたのである
不穏な一行、街からは随分離れた、谷に少し入ったところに
そのテントは現れた
物好きがいるものだ
そういう具合で、いち市民はそれを見過ごした
街の人間の内、猟を生業とするものが時折この谷へと足を踏み入れるのだが
その何人かが、不穏なテントを発見していた
ただ、そのテントが日ましに数を多くしていたと
気付くことが無かった

「谷にどこかの部族らしきものがやってきたらしい」

そういう不穏な噂が立ち上がったのは
ちょうど、公爵が紅の国へと旅立った頃だった
その噂を聞き、偵察が放たれた
そして、その行動を見て、紅の国が潜ませている間者もそれを追った
まず、間者の話を片づけておこう
この様子見に出た間者は戻らなかった
戻らなかったことで、よからぬことが起きたと察知し
別の間者が紅の国へ手紙を書いた、実際は自分が届けたいと思っていたのだろうが
現状を探るために、彼は残らなくてはならなくなったのだ
本来ならば、もっと人手があるはずなのだが、紅の国へと向かった公爵を見張るため
数名がそちらに割かれて、彼だけとなっている
仕方なく手紙だけが、紅の国へ向かった、内容は以下の通り

『峡谷にて不穏のきざし、不明部族が集結し、斥候を消した模様』

間者の仕事というのは難しい、不確かな憶測を伝えることは許されないが、
持っている情報というのは大方が不確かなものだ
色々とさっ引いてみると、上記のようなものになってしまう
この危機感を煽ることができない文書だけが、紅の国へと向かったのである
間者はこの事件を見張るため残ったのだ、一方、同じくして城内

「斥候が戻らぬ」

「敵ということか」

ブライテストタールを治める公爵一家の
家族会議が行われている
重い腰を上げるでもないが、貴族達は現状から
少なくとも東方に敵がいることを発見した

「すぐにでも紅の国に使者を・・・」

「それは無用だ」

「なぜ」

「この程度、我らで解決せねばならぬ、一門の沽券に関わる」

「そういうものか、父上に相談せずともよいのか?」

居並ぶ面々は、公爵の息子とその血族という輩だ
全て等しく、貴族、というくくりで説明が足る
そういう者どもが会議を開いている

「考えがある、戦争をしたいというのだからさせてやろうというのさ」

「勝てるのか?」

「愚問だな、考えてもみろ、奴らは谷を越えてきたのだ、それだけで
奴らの浪費が見てとれる、おそらくほとんどの力を失っているだろう」

「確かに、そうかもしれん」

「弱った奴らが求めてくるのは短期決戦だ、だからそれに乗ってやるのだ」

「?・・・お前の言い分からすれば、籠城するのではないのか?
長期化すれば、去るという話じゃないのか」

「籠城なんぞしたら、紅の国に知れ渡り、報告を怠ったことをなじられ
いらぬ不興を招きかねん、だから殲滅する必要があるんだよ」

得意げに、親戚筋にあたるボンボンが講釈を垂れる
部族が谷に住む者どもだったらどうするのか
普通なら思うものだが、そういう辺境の輩は人間と思ったことがない
だから負けるわけがない、下等部族に何されても困らない
そういう侮蔑が根底にある

「奴らは、確かに今までとは異なる方法で攻めてきた、
我々は今まで、港での海上戦ばかりだったからな、おそらく地上戦に弱いと思ってるんだろう」

「実際そうだがな、自軍のことを言いたくないが、陸戦では劣る」

「そう、だから奴らの狙いはなかなか正しい、だから図に乗っているはずだ」

「話が見えんなぁ」

飽きた様子で、ボンボンの事を王子が見る

「そこを、海上から叩く」

「!!は!?」

「戦艦を出す、そして港湾から地上部に砲撃を行うんだ」

「・・・・・」

「資金も潤ってきた、それに火石も古くなってはいかん、何よりたまに使わないと使い方を忘れる」

「お前、砲撃したいだけじゃないのか・・・ははは」

王子は言うと、堪えきれないように大きく笑った
その声がまわりにも移っていく
この作戦をよしと考えたらしい、全員が笑ったことから
満場一致ととらえて問題がない
作戦を立てた親戚のボンボンは、得意げに胸をはっている

「その為にも、先制攻撃で北側から、海へと奴らを押し込むように陸隊を指導するのだ」

「押すだけなら、弱くても問題がないということか、なるほどな」

「それらしく見せかけるため、東側の城門入口は全て封鎖し戦闘配備を見せる、
裏口から大きく、北回りで騎士隊を移動させれば不自然なことはあるまい」

「確かに、しかし、谷の中からやすやすと出てくるものか?」

「なに、奴らは我々の斥候を発見したのだ、うかうかしているとは思えぬ」

得意げなボンボンはそう言うと、その台詞を待っていたように
見張りからの伝令が入ってきた

「申し上げます!峡谷に敵影確認、前進しブライテストタール東方に向かっている模様」

「ほらみたことか、では手はずの通りに」

ざざっ、貴族達はそのままそこを散開して
各々の戦場へと向かっていった
ボンボンは港へと向かう、船に乗り込むためだ

「ところで、相手は誰だ?」

「ふん、辺境の部族、あるいは」

「?」

「ツィーゲルを追い出されたとかいう、デハンの阿呆どもだろう」

「・・・・まさか」

「なに冗談だ、だが、そうだとしたらあの時の敵討ちだ」

「敵討ち・・・思い出したくもない過去だがな」

「健闘を祈る」

こうして、二人はそれぞれの持ち場に消えた

敵方

「前方、城壁の防備を整えた様子」

「正面封鎖か、さて、籠城の心づもりかな?」

白銀の鎧で備えた男達と
一風変わった、異国風、おそらくは極東のそれで
身を包んだ男達が、その軍団を為している
男達の数は思ったほど多くない
当然だ、そんなに大勢の侵入をこの谷は許さない

「ここからは、貴殿らに一任してよいのか?」

「無論」

大将格と見える、白銀の鎧に身を包んだ大柄の男は確認を促した
相手は極東風のそれだ、顔立ちからして
のっぺりと平らな具合、間違いなく極東の人間なのだろう
だが、その少しだけ細く、きりり、引き締まった視線と表情は
小柄な体から、得体の知れない気合いを発している

「我らが突撃を試みます」

「ならば、前線を頼む、後衛は我らが務める」

「よしなに」

言うと、極東の男は立ち上がった
そして、全く別の言語で雄々しく吼えた
その声に木霊するように、極東風の集団全員が大声を上げて拳を突き上げた

「治安公、よろしいのですか?」

「いいに決まってるだろう、黙ってついてこい、彼らの武勇をまなこに刻め」

大将格の大柄の男、治安公、は部下の心配に笑いかけた
かつて、東方オースト地方ツィーゲルにて
デハン教とバンダーウ教の大戦争があった
その戦争で破れたデハン側の神官騎士が彼なのである
教団の武力全てを司る「聖なる槍」を受け継いだ男

「敵は、懐かしの阿呆ボンだ、適当に蹴散らしてやるぞ」

「うおおおおっ!!!!」

今度は治安公がそう言って、残りの白銀鎧達に鼓舞を促した
彼らはデハン教徒だ、先の大戦で敗れ
流転を強いられた経歴を持つ、バンダーウ教に追い立てられるよう
西へ、西へと、気付けばこの谷を越えていた
そう、思われる、実際は異なるが
紅の国周辺に住む人間は、そう思うだろうということを記しておく
彼らは、己の場所を勝ち取るためやってきた山賊なのだと

山賊達は突撃を試みた
馬が駆ける、この長旅で疲弊しているせいだろう
速度はほとんど出ない、出ないが迫力は出るだろう
戦術において、相手を畏れさせる、ハッタリをきかせるのは常道
彼らはそれに賭けて、使えない馬で駆ける

「右方より敵方出現!!!!」

「右から・・・・敵さんも察知してたと見えるな、さて、ゴンロク殿がどう動くか、我々はゴンロク隊に続く!」

白銀の騎士は、先行する極東の戦闘集団に全てを委ねた
その先行する極東衆、ゴンロクというのが唯一
彼らの言語を理解して、部下をまとめることができる指導者だ
極東で居場所を失った男達なのだそうだが
詳しいことはわからない
ただ、その馬を操る様、弓を引く様、剣を扱う様
全てがケタを外れて強い、美しいとすら思える
強力な軍団だ、この谷越えを易々とさせたのは彼らの力によるところが大きい
彼らはそういった谷駆けなどを、屁とも思わない技術を持っている

「右方より敵方!!!」

「よし、弓を射よ、我らの力見せつけてやろうぞっ!!」

うおおおおおお
地鳴りのような木霊が響くと
極東のそれらは、一斉に馬の上から弓を放った
敵が、どたどた、何人か倒れたのが見えた、そして
怯んだ隙に、側方を前方とするため、馬を走らせて敵と対面する位置に移動した
そこで、あろうことか馬を捨てた、馬はどこかへと逃げていった
彼らは一斉に歩兵と身分をやっした
その後方に、馬に乗った騎士隊が居る
異様な陣容だ

敵方、異人が紛れこんでおる模様

そんな触れが、全軍に響きわたった
陸隊を率いている王子は、その知らせにとまどいを見せた
どういうことだろうか、罠なんだろうか
だが、すぐに思考を次に進める
辺境部族のやることなぞ、理解できるわけもないのだ

「かまわん、ならば騎馬隊で奴らを蹴散らせ、海に押し出すのが目的だが
このまま、陸戦で片づけてもかまわん」

侮りが臭いを放ってやまない
言われるまま、私兵達は前方の異人に突撃を開始した
弓がやってくる、どうってことはないそう思っていたが
その威力が尋常を逸している
鎧で身を固めた兵達が射抜かれているという事実

「バカな・・・・何者だ」

「物見の報告によれば、極東の者どものそれだと・・・」

「極東など、辺境極まりない、底辺部族ではないか・・・それらに劣るようなこと・・・」

王子は頭に血を上らせて
すぐさまに、前進を命じた
このせいで、無駄な血が流れたことはいなめない、だが
無駄な血というのは、存外、対価と引き替えにしっかりと利益を得ることがある
ゴリ押しというのは、最高の無駄を利用して、結果だけを求める方法
今、王子はそれを用いたに過ぎない
結果だけを見れば、最高の将に成りうる、素晴らしい作戦を強いたのだ
戦術などというまどろっこしいことはしない、物量と力だけでどうにかする蛮行

「ぜ、前線が崩壊しております王子!!!」

「バカを言うな、俺がここで生きているのだ、前線は崩壊しない、さぁ、屍を踏み越えて押し込めっ!!!」

防衛側は、その犠牲を顧みず、ただただ
真っ直ぐな突撃を試みた
事実、これは正しかった
ここで怯んで逃げれば、最悪のしんがり戦を強いられていただろう
真っ直ぐにすすめば、どうにかなる
その愚行は、それなりの効果を治めたらしく
敵前線を司っていた、幾人かの極東戦闘員を死に至らしめた
じわじわと、海岸線へとそれを押し込んでいく

「よいか、海岸線までともかく押し切るのだ、絶対に引くなよ」

味方の鼓舞する声はそこかしこから上がった
さらに、封鎖していた城壁の一部が解放され、そこから援軍が放たれた
いよいよ、この作戦の完了が目に見えてくる
相手はやはり、谷を越えてきたことで消耗していたらしい
いちいちの武力は強かったように思われるが
いかんせん、戦力、人量が少なすぎる、それでは勝てるわけがない
王子は完勝を確信した、そしてその勝ち鬨を得て
いよいよ、全軍が圧進を始めた

「それ、追い込めっっ!!!!!」

「うおおおおおおおお」

声とともに、全戦力は押し込みを始めた
たまらず、逃げていく敵方、案の定、南の海岸へと逃げていく
海岸際には、複雑な地形があり
なるほど、防御陣地をかまえるにはうってつけとなっている
そこにめがけて逃げていくらしい、誘われているとも知らずに
全て予定通り、その防御陣地は海から見ればがら空きなのだ
そこを、戦艦が迎え撃つ、いよいよ完成する
意気揚々と王子は馬を進めさせた

すわっ!!!!

その途中、突然空気の音が変わった
空気を切り裂いた何かが、とてつもない衝撃をもたらした
その音と衝撃から、砲撃だと理解できた
凄まじい破壊力で、当たり一面を暗闇に変えている
これは予定通りじゃないのか?
王子は戸惑う、照準がずれている、しっかりしろ、我らを打ってどうする、もっと手前だ
そう、親戚のボンボンのことをなじった
まだ、理解できていないのだ

既にそのボンボンが死んでいることを

地上で激しい押し合いがされていた時の海上
予定通り、ボンボンが指揮を執る戦艦が港から姿を顕わした
戦闘状態になっているが、海路は封鎖されることなく
通常の航海が許されている
だから、旅船ともすれ違う、よく出入りしている大型の船とすれ違った
その巨体は遊覧船で、ブライテストタールを経由して、ツィーゲルと南港の街とを行ったり来たりする
主に豪商が利用しており、金持ちの道楽的要素も大きい

「ツィーゲルからの戻りか、折角だあの豪商共に我々の戦果を見せてやろう」

ボンボンは嬉々として指令を飛ばす
もっと海岸に近づけろ、狙いを定めろ、砲を向けろ
言われるままに、海岸線に対して平行に戦艦はゆっくりと照準をあわせる
出撃させたのはこの一隻のみだ、他にも二隻あるが、人員を多く城門付近と陸隊にまわしたせいで
一隻を機動させるにとどめた、充分な戦力だ、そんな風に考えている
陸地では、王子の騎士隊によって押し込まれてきた
不気味な敵が幾人か見え始めた
もっと近づいてこい、もっと、もっと

「なんだあれは?」

「て、敵じゃないのか!?」

ざわり、見張りが騒ぎはじめた
興が殺がれた
ボンボンは苛立ちの表情をそちらに向ける
巨大な遊覧船の後ろから、何十、いや、数はよくわからない
ただ、小さな船が凄まじいスピードで近づいてきているのがわかった

「なんだあれは・・・」

「隊長どうされますか!!」

「射殺せ、あんな小舟、上から沈めてしまえ!!!」

ボンボンはそう指令を出した、だが、その小舟は
実に巧妙に、もともと港湾というのは波が静かなせいもあるのだろう
小舟がすいすいと近づき、あっと言う間に取り囲んだ
そして、わらわら、そこから人が昇ってくる

取り付かれた

思った時には既に遅い
用意周到な、実に手際のよい海賊に襲われた
そういう感覚が全身を襲った
マヌケだ、自慢の大砲は全て反対側に向けられている
もう、そちこちで、海賊戦闘は始まっている
どこかしこと縄をかけられ、またハシゴをかけられ
城攻めにあう小城を思わせる戦艦は、うじうじと何百という蟻にたかられて崩れ落ちる

「バカ野郎、何してる、戦えっ、ブライテストタールの海兵の底力を見せろっ!!!」

ボンボンは大きく脅しかけて、側にいた騎士達をともかく追い立てた
己も剣を抜いて、なんとかよじのぼってくる敵を振り落とそうと縄に剣を叩きつける
しかし、縄は切れない、そのはずだ
ご丁寧に、鎖が中心に施してあるらしい、鎖を荒縄で包むことで
容易に切断されないようになっているのだ
しかも縄先は突き刺さるとなかなか抜けない、かぶら矢のそれになっている
それが凄まじい強弓で放たれて、次々と突き刺さる
こんな時のために、自慢の斧を振り回す力持ちも四苦八苦する
二度、三度と叩けば切れる、しかし、その二度、三度と叩く暇に

「ぜいああああっっ!!!」

「ぎゃぁあああああっっ!!!」

斧の男は断末魔の叫びをあげて血を噴いて倒れる
敵は瞬く間に乗り上げてくる、よく見れば
よじのぼってくる輩と、縄を幾十にもめぐらせて、その上に板を敷き
ハシゴはおろか、橋を造るものまでいる、船に昇った者は
後続が昇るための時間を稼ぐため、その奪った陣地を死にものぐるいで守る
守りながら、混乱を催すよう、モグラたたきのように、あちこちから現れる
船上はパニックに陥った

「何が、最強の海軍だかな・・・」

海賊の頭目は薄笑いをすると
完成した橋に足をかけて、一気に駆け上がった
海賊ではあるが、全身は美しい白い鎧に身を固めている
肩には紅いスズランの花の刻印をつけている
海賊というよりも、こちらこそ正規の騎士海軍のそれだろう

どだっ

「これは、調停者殿」

「貴様・・・」

「懐かしい限り、7年ぶりですかな?」

「おのれ、貴様ら・・・傭兵無勢がこのように愚かなことを、貴様解っているのか?
これでブライテストタールが落ちると、我ら一族が黙っておらぬっ、何よりも
同盟国である紅の国が・・・」

「7年前と変わらないな、何もわかってない、お前は阿呆貴族なのだよ」

「7年前の仇を取らせて貰うっ!!!」

「仇?貴様らがマヌケだっただけだろう、漁夫の利を得ようなどと、
ヨダレをたらした結果ではないか、我らにだしぬかれたとでも思ってるのか?
己の失敗がまだ見てとれないのか」

ぶぅんっ!!!!
怒りに狂った様子で、ボンボンは剣を大きく振り回した
海賊の頭目は軽やかにそれをかわす、船上だが、まわりに取り付かれた小舟のおかげで
すっかりと船は揺れなくなっている、もともと揺れは少ないそれだ
しかし甲板を滑るように舞い、頭目は目を鋭く、笑顔を捨てた
同時に、剣はうなりをあげて、ボンボンの腕を吹き飛ばした

「ぎやああああああああっっ!!!!」

「黙れよ為政者、愚か者に率いられた、哀れな民の総意と心得ろ」

「な、何を、貴様ら貧民上がりの野心家がっ!!!」

「我々がここに居られることが不思議だと思わないのか?」

「な、なにを・・・」

「手引きされてるからだと言ってるのだ阿呆よ、さぁ、愚かな貴族よ屍を晒して懺悔しろ」

「この、デハン教徒めっっ、神の存在を弄び、信じぬ者を貶める犯罪集団が」

「それは違う、俺はあいも変わらず宗教はやらん、それに貴様は宗教を誤解しすぎている」

「はは、ならばお前は、先の宗教戦争を利用し成り上がったのだ、そして今、またデハンを焚き付けてどうするつもりだ?」

「話はこれまでだ、死んで償え」

ど、が、

剣を振り下ろして、ふらふらとしていたボンボンの首は跳ね飛ばされた
ごろごろと甲板を転がり、すぐに他の海賊がそれを拾い上げた
海賊の頭目は勝利を確信し、すぐに船の乗っ取りを完了させる
そして、地上へ援護射撃を行い、もう一人の愚かな貴族をうち負かした
おそらく、地上部隊が残党を掃討するだろう

「よし、愚か者が君臨する都市を解放するぞ、堂々の入港だ」

「おおおおお!!!!!!」

戦艦は、まったくといっていいほど傷つかずして拿捕された
さらに操舵はあっと言う間になされる、海賊無勢が
最新鋭の戦艦を操る、港へと揚々と帰還、そして港湾から大砲を見舞う
狙いは違うことなく主城の粉砕、もっとも虚仮威しの一撃でしかない
だが、この効果は充分だろう
雄々しい声が聞こえてくる、城門を突き破り突撃を開始した陸隊の勇姿が見える
遅れるわけにはいかない、接岸するとすぐに海賊達も街を駆けていく
街の人間は呆気に取られている
よからぬことが起きている、そうは、思っている様子だが
具体的にどうしたらいいかはわからない
ただ、自分たちを眼中におかず、城へと向かう不気味な戦闘集団を見送ったのだ

瞬く間にこの国の旧主は全てくびり殺されて
屍を街の辻に晒されたのである
極めて短時間、朝開かれた戦端が
昼過ぎには、完勝の形で終わったのだ
城攻めの常識では考えられない

全て、無能な君主の暴挙が産んだ破滅

戦略家はありえないと鼻で笑う展開だろう
なにせ、あからさまな陽動にひっかかり、
主戦力を奪われて、逃げる間もなく壊滅
どんな戦下手でも、こんな結果はとうてい起こり得ない
誰も予想だにしない結果だった

しかし、極めて単純にこれは行われたのだ
おそらく、彼らでなくても出来ただろう
この国の偽称最強伝説が、全く風説だけで造られていたこと
そして平穏の間に、すっかりと腐っていたこと
無能と暗愚をそのまま放置されていたこと

これらは全て、紅の国がこの国にひそかに望み、その通りに仕組んでいたことなのだ

紅の国のこのしざまが
誰かにバレた、それが問題だったのである
暴いたのは彼ら海賊と山賊、傭兵上がりの不逞集団と国を追われたデハン教徒
何も不思議はない
本当に弱い者を、全力で叩いた、さも当たり前の結果だった

「ブライテストタールが襲撃されている?」

手紙がようやく紅の国に届いた
この時既に、ブライテストタールは陥落している
全ては済んだ後なのだが、それはまだ知らされるわけもない

「グイ導師を呼んできなさい」

女王は嘆息を一つ見舞った
言われた通りかもしれない
グイが指摘した、自分ならあそこを攻める
それを具体的に行った愚か者がいるということだろう

「陸戦でくるとは考えた、いや、いつかはバレることだったか、まぁ、仕方あるまい」

いつか攻め滅ぼそうと企てていたのだが
その先を越された感がある、もっとも、あそこは
敢えて弱点としていて、そこに執着した敵にすぐ対応できるよう
全ての連絡線は保たれている、だからすぐに異変はこの城に到着している
これから、その愚か者をどうにかすればよいだけの話だ

「ふん、愚かにも己の力で対抗しようなどと・・・籠城して、我らに援軍を乞えば
このような結果になることもなかったろうに」

「・・・・・」

「まぁ、ちょうど平和にも飽いていたところ、程良いかもしれぬな」

「・・・・」

グラスはそれに対して、何かを言うようなことはない
じっと、女王の独り言を聞いているという気配だけを漂わせて
それに賛成、反対等の私意を挟まない
眼鏡が少し曇るような光を帯びた、遠くの扉が開いたのだ
そこから呼び出されたグイが入ってくる

「導師、早速ご足労いただきましてありがとうございます」

「はい、伺いました、ブライテストタールが狙われたと」

「おそらく、既に陥ちていると思ってもよいでしょう」

そこまで考えるか・・・
グイは少し早計ではないかと思ったが
その情報を悲観としてとらえていない女王を見て
陥落如何によって戦況が左右されないという確信を汲み取った

「導師に問いたいのは、相手が何者かということです」

「さて・・・谷を越えて陸戦に長ける、そのような部族がおりましたか・・・」

「戯れ事はよしましょう、アテが既にあるでしょう?」

女王は、伺う視線を落とした
冗談を言っている暇はない、そういう表情を冷たくさらす
グイは、やれやれとその表情をさらりと流しつつ
確かに、脳に浮かんだ単語を告げる

「デハン教でしょう」

「やはり・・・だが、彼らが動くのは、いささかおかしいのでは?」

「いえ、まったく必然だと私は考えております」

「地勢的・・・という言葉が当たるのか、私はわかりませんが、
ブライテストタール峡谷のオースト側出口に、デハン教は追いやられていましたな?
となると、谷に追いつめられた形で東側からバンダーウ教の脅威を受けているのでは」

「ええ、ですから、彼らは放棄したのでしょう」

「!」

「彼らは国を追われてただただ西へと、こちらへと向かって逃げてきたのです、全軍をもって、
彼らは東側のブライテストタールを陥としにきたのだと私は考えます」

「バンダーウから逃げた、そういうことですか?」

「そうだと思われます、そして女王様もお気づきの通り、全力で攻撃をされた結果
ブライテストタールは陥落したのでしょう」

女王は少し考えた
グイの言い分をじっくりと吟味する、彼女には
デハン教というものがもう一つわからない
だから、グイの予感を信じる他無いのだが、盲信するでなく
自分でかみ砕きたいと考え込んでいる

「ともあれ、奴らの第一の目的がブライテストタール陥落にあったのは間違いない、
それが達成された後もしかすると、昨今、港に増えているデハン教徒は、
ブライテストタールからこの紅の国を攻めるため潜ませているとも考えられますが」

「そう、その路線が一番危ない・・・さて、どうしたものでしょうね、グイ導師」

女王は誘う視線を飛ばしてきた
ぞく、背中に奇妙な汗をかいてしまう
この女は魔物なのではないか
グイは女王の視線に、魔力を見たが、魅入られることなく決して視線を逸らさず
そのまま会話を続ける
この男もまた、魔物である、怪物である

「迎え撃つ準備をしましょう、私はその為にここに残ったのですから」

「頼みます、戦争となりますね」

「無論、ただ、私の役目はすぐに終わるでしょう、軍師殿が戻るまでですからね」

グイは柔らかく笑顔を見せた
童子を見る時と同じ笑顔だ
それは、とても楽しい時、嬉しい時に見せるそれ

彼は、その表情を、戦争に挑む時に見せる

笑顔を見て満足そうに
女王も笑いかける
紅の国の平穏がうち破られる、誰もが躍る、戦争に突入する

つづく

もどる

遅れまして申し訳ございません
エロシーン入れる甲斐性がありませんでした
というか、最近エロシーンと物語が全く分離してるので
書くのに凄い労力が居ると痛感、ごめん、エロ無し、しばらく
そんなスタンスで、いきなり客の期待を裏切っていきます
本当ごめんなさい
(07/02/27)