Edelstein ”Karfunkel”


太陽は東から昇る

これは、ごく当たり前のことを顕わした言葉であるが
この紅の国、ひいては、周辺国一帯にて
『幸福は東方よりやってくる』と解されている
国の黎明期の頃にまで話が遡るが
東方との交易によって、瞬く間に大きく発展した歴史を持つ
そのため、富をもたらした東方を有り難がる
そういう民族性を備えているのだ

東方よりやってきた、グイ、という若者が
ごく自然に受け入れられ、また導師として崇められた所以もそこに
少しばかりのゆかりを感じる
その才覚と人格が太陽の如きまばゆさを備えた姿を見て
市井の人々は皆「東から来た太陽」として、グイ導師を迎えいれていたのだ

太陽は知性をもたらした

紅の女王は、グイの知識、品性、人格全てを最上と讃え
その教えを国民に示して欲しいと嘆願した
かくして、バンダーウ・グイと呼ばれる宗教が
紅の国の国教となった
宗教というくくりで語られるが、本性は教育方式の一つにすぎない、前述した通り
ただ教練と、少しばかりの道徳を教えることで
国民の貧富を問わず、品格を備えさせることに成功したのだ
文明国家となったと言うこともできる

「グイ導師、ゴキゲンいかが?」

「これは女王様、変わらぬ美しさ、眩いばかりです」

鞘当てのように見えてしまう
二人の優れた指導者の会話
女王は国の統制をとるために導師を利用し
導師は己の教えを広めるために女王を利用した
表面上は、お互いを尊重しあった結果であるが
事実は、ごく単純な利害関係の一致だった

「軍師殿が留守でな、まことに申し訳がない」

「いえいえ、とんでもございません、女王様、またツエク皇子直々にお言葉を頂戴できるなど」

「グイ導師、また、多くのことを教えて戴きたいのですが・・・」

ツエクがよそよそしく、伺うようにグイの表情を目に写した
グイはその童子の仕草に、柔らかい笑顔で答える
しばらくの滞在をここに決したと言ってよい
女王は滞在させるためにツエクをしかけたし
導師は滞在するためにツエクに笑顔を向けたのだ

「ところで女王様、最近、随分とまた東方との交易を拡げておられる様子ですな」

「ああ、南の港にも多くの船が入っていることでしょう、何か問題が?」

「いえ、極東のそれは確かに素晴らしいものばかり、輝く宝が集まっており
港も随分と活気に溢れております・・・ただ、随分と多くの人間が入り乱れている様子」

「そう、オースト地方を経由してくる船ですからね、ツィーゲルあたりからやってくる人間も多いのでしょう」

「私も、昔懐かしい、故郷を思い出されております」

「そうでしたか、昔の馴染みでも見つけられましたか?導師」

グイは鋭く女王に瞳を向けた
うっすらと女王は笑っている、まだ、この会話の真意には到達していない様子だ
グイは少し迷った、解っていてわざと、グイの仇であるデハン教徒を迎え入れているのではないか
そういう疑いをもってここにいる、それを糺す機会かどうかに迷いが生じた
女王に場所を与えられたことに敬意と感謝は表するが
今後どのように扱われるか、それを見極めなくてはならないそういう視線を向けてみる
つまるところ、女王は自分を謀り殺そうとしていないかを見極める

「いえ、なにやら諸国の思想も入り交じっておりまして、なかなか、刺激的な日々です」

「ほう、思想ですか」

ここで、女王の瞳が紅く燃えたように見えた
怒り、ではないのだろうが、秘めていた熱いものが瞳に宿った様子だ
グイはそれを見て安心する、情勢に敏感でムシケラのように他人を捨てるが、
まだグイのことを捨てる算段には至っていないらしい、他の介入をよしとしない様子を見て判断した
グイはそういう自分の直感を信じる、静かに、今、思っている危ういところを話題にする

「デハン教徒がいくつか紛れこんでおります」

「デハン教というと・・・・確か、グイ導師の仇敵ではありませんか?」

「ご存知でしたか」

「そう・・・それは、申し訳のないことを・・・その教徒と何かあれば、すぐに申し出てください
国の司法全てをかけて、貴方を擁護することを約束します」

「ありがたき幸せ・・・・しかし、流石にそのような荒っぽいことはありません、ただ」

「ただ?」

「あまり諸国の人間が入り乱れるのはよろしくないのではと思っております」

女王は瞳の色を元に戻した、そして、殊更に長い睫毛を
少し濡らすように、瞳を細くした、笑顔の形に似ている
だが、そうではない、柔和と見せかける表情を作ったにすぎない

「さて、どうやって封鎖したものでしょう?導師さま」

「愚見ながら・・・」

女王は少しばかり会話を飛ばした
「よろしくないならば、どうすればよいでしょう?」
そう聞くのが流れだろうが、女王はそこに規範を付け加えた
あくまで自分発案で、自分の掌でしかグイを動かさない
そういう意味をこめたらしい、瞳は濡れたように輝いている、グイの整った顔がそこに写る

「交易が順調である以上、船の出入りを封鎖するわけにはいけません」

「確かに、港の発展はますます必要なことですからね、それに極東の物資が惜しい」

「税関の監査を私にお任せいただけますか?」

「ほう?聞きましょう」

女王の睫毛は渇いたらしい、ツンと上を向いて開く
その間に備えられた眼が、少しだけ収縮して見えた

「貿易税の取り立ての時、身元調査をさせて戴きたく思います」

「・・・・」

「そこで宗派を、あるいは思想を見ます」

「短時間で、あれだけの人数を見られるというか?」

「いえ、全てではなく、妖しい物だけとなります、それを見極めるのは我々しかできない」

「確かに、同族であろうからな」

「ご無体な・・・ともあれ、それにより見つけたものに宗派や思想の流布に対して関税を設けましょう」

「金さえ払えば、流布してもよいという札を与えるのか?」

「表向きはそうなります、が、実際危険なものは税率を跳ね上げて、払えぬものを罪人とするためです」

「荒唐無稽だ」

「しかし、女王様の権勢ならば可能でありましょう」

「測るか?導師」

「いえ、願うのです、主」

さて、独断でせねばならぬにはちと重いが・・・
女王は、少しばかりの苦笑を漏らす
軍師がいない、そしてこちらからの願い、それを受けた後での提案
受けざるをえない状況は整えられている、女王はいっぱい喰わされたでもないが
相手に有利を運用する機会を与えてしまった
少し、敗北感を味わう内容ではあるが、言っていること叶うこと全てに問題はない
金が集まるのも、思想制御できるのも大変な僥倖だ
だが、対価としてグイの才覚をさらに認めることを払うのが・・・
少しばかり考えてしまう、まだ、制御の範囲内でいる男だが
民衆の心をよくよく掴みつつある、掴んだところ、その上に立ち続けることで
女王は盤石を得ようとしているが、今のところ、まだグイは女王に心底からの感服をしていない
どうするか

「グイ様・・・」

「おお、どうされましたツエク皇子」

一瞬戸惑った女王の様子を見て
皇子は突然口を挟んだ

「いえ、生意気なことをもうしますこと、お許しください・・・関税についてですが、その権限は、
女王様ではなく、私の下にあります、そのため、私の許諾を必要とする事項なのです」

「これは・・・まさに、その通りでありました、こちらこそ失礼いたしました」

ツエクの言に助けられた、女王はそう感じた
じっと、息子の言葉に耳を傾けてしまう

「お伺いした限り、間違いはないと思われます、なので是非ともお願いしたいと思います」

「これは、ありがたき幸せ」

「ただし、その成果あるいは方法、それらを私に報告する義務を申し渡したい」

「!」

「そして、面倒かもしれませんが、頂戴した報告を見て、再度それらを私の手勢にて吟味いたします」

「それは、念入りなこと」

グイは、少し怒りでもないが、不審を覚えてしまう
自分の仕事をもう一度やり直されるというのは面白いことではない
だが、ツエクの言い分はわからないでもない
女王の面目を保つためにも必要なのだろう、今度はグイが考える番だったが
すぐに答えは出た、今本当に必要なのはデハンの進行をくい止めること、ならば

「いや、お願いいたします、いずれ国家直々のお仕事となりますでしょう、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、グイ導師」

かくして、重要事が一つ解決された
ツエクの助け船を、女王は確かに刻んだ
日ましに輝くように成長する息子を見て
少し、自分の中で変化するものを見つけてしまう
年齢を重ねたということだろうか、認めたくないそれに少しだけ哀しさを浮かべる女王
胸元では、黒の宝石が光っている

「ご会談中失礼いたします!」

話題がちょうど切れたところで、広間に雄々しい声が一つ響いた
伝令の声だ、彼はこのよく通る声にて誰かに何かを伝えるという業務を
ただただこなしている、そういう人生もある

「どうしました」

「はい、東方より使者の方が参られました」

「東方・・・ツィーゲルか?」

「いえ、ブライテストタールからです、いかがいたしますか」

「谷の国のバカ貴族か・・・・よい、通しなさい」

ふふん、女王は侮蔑を視線に乗せたまま、台詞も隠すことなくそのまま
嘲りを乗せて発している、伝令はただ言われたことを彼の声で伝えるのみだ
東方峡谷ブライテストタール(広い谷)
紅の国から、東に陸路を取ると、途中に大きな峡谷が立ちはだかる
尋常ではその陸路を超えることは難しい、大変険しい難所だ
そのため、その峡谷近くに港町ができた、それがブライテストタールという国だ
広い谷という意味の名前は、嫌味や皮肉の類でつけられたのだろう
ここから船に乗ってオースト地方へ渡るのが通例、谷を海により迂回するのだ
古くからオースト地方と結びつきが強い国である

「今度こそ、懐かしいお相手でしょう、グイ導師」

「ええ、私をここへお導き戴いた後、久しくご挨拶をしておりませんでした」

グイをオースト地方ツィーゲルより紅の国へと連れて帰ったのは
そのブライテストタールの領主貴族達だった
オースト地方の首都ツィーゲルにて宗教戦争が勃発した際
その戦災から逃れるグイを救ったと言われている
少し無駄話をしていると、使者がやってきた、いや使者とは名ばかり現国主が現れた

「これはこれは、女王様、ゴキゲンうるわしう」

「こちらこそ、公爵殿」

公爵などという位は女王の国には無い
勝手にこの目の前の男が名乗っているだけだ
ブライテストタールの国主にあたるのが公爵位というのにあたるのだそうだ
女王はそんなことに、全く興味はない、呼びやすいので使っている

「式典に出席できず申し訳ございませんでした」

「いえいえ、なにやらご多忙な様子、隣国の繁栄は我らの喜びと同じです、責めることはありません」

「ありがたきしあわせ・・・これは、グイ導師、お久しぶりですね」

「お久しぶりです、しかし公爵様直々においでとは、国は大丈夫ですかな」

「息子に任せておりますので、すっかり隠居のような身分です」

「国主が国元を離れられるとは、随分と治世が行き届いておられるのでしょう、羨ましい限りです」

「いやいや、古来よりの家を守り続けているだけです、愚民は我ら一家に逆らうことがないので」

公爵は褒められていると思っているらしく
ただただ、上機嫌な顔をさらしている
この男は、ヴェステン王とは違った意味で頭の悪い男だ
同じくらい低脳なのだが、気位がえらく高い
田舎の名門という言葉がとても似合う男なのだ
女王は、適当にあしらっておき、公爵から贈られる讃辞に返礼をし
形だけその会合を終わらせ、ゴキゲンのまま、公爵は広間より出ていった
後ほど食事会がある、今は簡単に顔を見せに来ただけなのだ

「五月蠅い男だ、だが、商売はできる、ブライテストタールの税収は侮れない」

「その様子・・・しかし、あれでは危ういかもしれませんな」

「デハン教が入っていると思いますか?導師」

「私ならば、あそこから陥とすと考えるまでのことです」

「確かに、だが、それを許さないために、定期の伝令を送り込んでいる、その報告では
教徒の類は見られないとのこと、それに守りが、ああ見えて自身の私兵を養っている、
それが随分と頑強らしい、戦術では、防御に優れるというのは戦争で優位になるそうですね」

「さて、私は詳しくない分野ですな・・・ですが、防御に優れれば、仮に攻められても
応援をすぐに、女王様へと要請できるというわけですから、強いに違いありませんな」

なるほど、ツエクは傍らで二人の会話をじっと聞いていたが
最後のやりとりだけ、とてもスムースに理解できた
東方だけでない、方々の国とこまめなやりとりや、密偵を送り込んでいるのには
事態が起きた時、すぐに対応できるようにするためなのだと
改めて思い至った次第である、気付いた調子のツエクを見て
グイがにこやかに笑った、賢い皇子だと、心から思っている

「ともかく、東方も異常はなく、北は鎮圧済み、西は軍師が、南はグイ導師・・・全て治まります」

「その通りです、10年ではなく永久の治世を適えるためにも、尽力を約束いたします」

「ありがとう、太陽の使い」

「お言葉感謝、紅の女王」

指導者達の会話は、ようやく終わったらしい

「東方の物資が、港には数多く集まっているのですよ」

「そうですか・・・その、一つがこれなのですね」

城内、バラの植えられた大きな庭がある
そこを、マリーネとグラスが二人ぎりで歩いている
グラスの手には、先日マリーネより贈られた極東の櫛がある
黒塗りのそれは、歯に一部朱塗りの部分があり、なんとも味わい深いものとなっている
グラスは、その物としての素晴らしさにも感動していたが
それを、男子より贈られたという状況に、最も感動を催している

「そうだ、先日の食事はどうでしたか?お口にあいましたか?」

「ええ、とても・・・」

あー、かゆいかゆい
誰と言わずそう思うような、大変ステキな思春期を過ごす年増女
先日のプレゼント騒動のあと、何度か食事にマリーネが誘い
さりげなく馬に乗せて遠駆けをしたりと、微妙ながらデートらしきことを
繰り返して現在にいたっている、城内かしこで
マリーネの入れ込みぶりが見られているせいか
グラスとマリーネの動向を、なんとも、微笑ましく見守る雰囲気ができてしまっている程だ
サロンなどでは、グラスのいないところで、その話題が
現在最も注目を集めている

「綺麗なバラですね」

「何色が好きですか?」

「・・・・・」

マリーネが素朴な疑問として質問をぶつけた
グラスは少し考える、ピンク色と言おうと思った口は
少しためらった後、別の色を告げる

「朱色・・・が、好き」

「そ、そうですか・・・」

ぐ、朱騎士マリーネが何か飲み込むように
一つ、気合いを腹の中で入れ直した
どんな教練よりもきつい、どんな実戦よりもしんどい
そこに今踏み込む、そういう気概を腹の下に溜める

「その、グラスさん」

「はい」

「・・・・いい、ワインが手に入ったんですが・・・その・・・」

じぃ、グラスは眼鏡を通してマリーネの顔を見ている
視線があった時、いずれも恥ずかしさが頂点に達したのか
顔を真っ赤にしてしまう、マリーネは思わず視線を逸らし
グラスも、見つめる先を口元に移した
艶やかな唇が、そわそわとしているのが見あたる、なぜか幸せが沸き上がってくる

「今夜、部屋でどうですか?」

「あ」

グラスは、その想定していたであろう言葉に
ごく自然に、思いもしなかったという淑女のたしなみを見せる
自分の中で、何度も、思い描いてついに来ることがないと
そう落胆していた事象が、今目の前に来たのだ
グラスの胸は大きく高鳴る、どくりどくりと視界を揺らすほどに拍動する

「いや、その・・・お、美味しいワインなんですよ、一人じゃ、も、勿体ないし・・・」

狼狽える男子は、本当に押しの弱い人だ
グラスは、少しだけ嫌いな男のことを思い出した
なるほど、あの蒼騎士のようなしざまを、今この状態で、朱騎士にされたならば・・・
初めて、女を意識したかのような自分の中でもやもやと広がる感情に
ぎゅっと口を結んで、少しずつ開く
夢の中で何度も練習した、自然、言葉はこぼれていく

「ちょうどよかった、私も、よいスモークチーズを手に入れたの」

「!そ、それはいいや、じゃぁ、ど、どうですか?」

にこり、言葉を使わず
グラスは年上の女として完璧に繕ったと見える
気の利いた台詞で返せたと、そのことに満足した
えへへ、そんな感じで二人は笑って、その約束がなされたのである

「それでは、私は、部屋で・・・」

マリーネは恥ずかしすぎるのか、それ以上たまらなくなった様子で
上の台詞を言うと、足早に逃げようとする
その弱々しいところが、たまらないとグラスの心をくすぐった
グラスは、自分に自信を持てずにいたが、マリーネとの会話と関係と感情で
急速にそのマイナスの部分を取り去っていく
年上の女のたしなみ、それを見聞きした全てを費やして
マリーネに応えようと費やす

「騎士様、女に尋ねろとはいささか無粋ですわ、迎えに来ていただかないと」

「!え・・・し、しかし」

「チーズも、決して軽いものじゃありませんの、夜も間もなく、ですから今から、
私の部屋まで取りに来てくださいませんか?」

「・・・よ、喜んで、美しき人」

かぁっ、言い切って、そして返されて
やはり恥ずかしいものなのだろう、グラスはまた顔を紅くしてうつむいた
何をしているんだこの愚か者達は・・・
誰かがそう言う声が聞こえる、それほどの青春白書をやれやれと展開
世界を形成した男女というのは、おしなべてこうなのかもしれない
それは、経験をしたものにしかわからない、したことないのでわからないのでそうしておく
ともあれ、二人連れだってグラスの部屋へ

「・・・?」

「あ、いや・・・グラスさん、こんな煌びやかなドレスを召されることがあるんですか?」

「失礼な、私とて」

かぁっと紅くなって少し怒るグラス
しまったと思ったのか、慌ててマリーネがそれを取り繕おうとする
部屋のクローゼットにいくつかのドレスがかかっている
以前にとりあえずの召し物としてリズに着せたそれもここにある
意外と衣装持ちなのだが、その性格と容姿と仕事姿ゆえに着る機会は
この狭い部屋の中だけに限られていた

「・・・・マリーネ殿、少し、後ろを向いていてくださいまし」

「は?」

「侮辱をされました、それを拭わせていただきます」

「侮辱などと、とんでも・・・」

鈍感なマリーネは慌てた様子でそう否定したが
その言葉を人差し指で遮った、すっかり、どこかで聞いた年上の女風が板についている
グラスは、眼鏡の奥の瞳を少しだけ潤ませて、静かにさせる

「着替えさせていただきます」

「!」

「どうぞ、決して振り返らないように」

「・・・む、無論です」

言って、おそらくマリーネはそれを全うするのだろう
グラスは残念に思うが、それはそれ、着飾った自分を誰かに見せる
それをマリーネに見せる、それだけで胸が高鳴る
そっと、衣擦れの音をさせて、侍女長ではなく、女性としてのグラスが登場する

「・・・・本当に、ずっと後ろを向いていたのですね」

「も、もう、よろしいのですか?」

「・・・・」

意地の悪いことだ、グラスは自分で笑ってしまいそうになる
あえて返事をしないことで、マリーネの反応を見てしまう
少し悩んだ様子が見える、やがて振り返る姿が見える、私を見て驚き喜ぶ姿が見える
ああ、なんと幸せなことだろう
グラスは、その幸せに、奇しくも最高の笑顔を付け加えた
喜びからこぼれる笑顔は、最上の、どんなステキな事象よりも極上の笑顔を見せる

「綺麗だ・・・」

「では、エスコートしてくださいまし」

「喜んで、麗人」

マリーネはどこで習ったのか
片膝をついて、差し出された手の甲に優しく唇を乗せた
騎士が淑女にひざまづく、なんと美しい姿だろうか
グラスは感激を胸一杯にして、緩やかにエスコートされる
チーズはマリーネが持っている、側をドレスで飾ったグラスが歩く
二人は、静かに、だけども誰彼にも姿を晒してから、男の部屋に消えたのである

切り分けられたチーズと、グラスに燃えるワインの色

ゆっくりと二人はそれをとりあえず味わった
おそらく、味についてはわかっていないだろう
意外でもなく、マリアージュは成功して、ワインにチーズがとてもよく合うはず
だが、二人は今、ワインとチーズの相性など気にしていない

「どうですか?」

「何が?」

「いえ、ワインの味を」

「ああ、とても・・・すぐにでも」

酔ってしまいそう
グラスはそう言おうとしたが、言葉が続かなかった
とろりと頭のどこかが熔けているように、不思議な感覚だけがある
ああ、本当に酔ってしまったんだな
見てみれば、ボトルが早くも空いている、何時の間に呑んだのか
言葉少なく、緊張したままで、くいくいと呑み続けていたせいだろうか
うろん、瞳が潤みを帯びたのが自分でもわかる
目の周りが、ぼんやりと熱い、鈍い熱がある、まぶたに湿りがある
そして、その瞳でマリーネを見てしまう

「グラスさん」

「はい?」

んく、
唇を奪われた、マリーネはまだ酔っていない
緊張はしているし、これからどうするかを考えると
おいそれと酔える状態じゃないとよく理解していた
目の前で、だんだんと乱れてきた女性に
我慢がきかなくなった、ゆっくりと、壊れ物を扱うようにして唇を重ねた
暖かい、ぽてり、そんな印象の柔らかいものがある
そっと抱き留める、ゆっくりと身体を預けられる
騎士の男からすれば華奢なそれだが、思ったよりも肉厚な、いや
柔らかみに溢れる身体に驚く

華奢というのは細いのではなく、柔らかいことを言うのだ

若い男なりにそう思った
見た目では、女などどれも全て同じに見えていたが
いつかにゼーが言った通り、グラスは肉置きゆたかな熟れたそれらしい
言葉づらだけで、どうにかなりそうな、股ぐらがもぞもぞとする
唇を離して、一度目をあわせる、うろんとした瞳が濡れている
求めてくるように、今度は逆に離した唇を奪われた
細い手が、胸元をゆっくりとなぞり上がってくる
やがて首に手をまわし、より強く抱き締められた

「マリーネ殿は、初めて?」

「その・・・通りです」

「ならば、ここからは私がエスコートしましょう」

驚いた
年上の地味な女は、夜に酒を煽ると娼婦になるのだ
マリーネは、そのまま主導権を奪われてしまう
いつもそうだ、こういう時に限らず、おずおずとして受け身になってしまう
だが、心地の良い受け身だと、ようやく酒が回り始めたらしい
マリーネも、任せるままになる

「背中の、そう、解いて・・・・ゆっくり」

言われるままに、正面で抱き合いながら
ドレスの後ろに手をまわす、縛り付けている紐を解いていく
すると、たわり、あっと言う間に淑女を締め付けていたそれは弛みを覚えた
便利なものだ、女性のドレスとはこういうものなのか
マリーネは驚きのまま、するするとはだけていくドレスを優しく扱う
実際は、そういう時用に、簡単に着られるし、脱げる、そういうドレスを召しているのだが
それは知らなくてもいいことだ

「・・・・・」

「驚いた顔、これだけ近いと、眼鏡はいりませんね」

言うなり、グラスは眼鏡を外した、そっと机に置く
二人よりかかったままだが、今は、グラスがイスに押し倒している
そういう具合になっている、イスといってもソファーのようなものだ
そのままその場所でもどうにかできるが
折角のこと、そんな些末なところではしたくない、広々としたベッドが目に入る
そちらに視線を伸ばす、騎士は気付くだろう

「ここはいささか狭すぎる」

台詞のように、棒読みとなるマリーネ
言うなり、すくり、易々とグラスを持ち上げる
きゃ、なんて女のような声を思わず出してしまう
しっかりと男に抱き上げられて、そのままベッドに
のたり、ゆっくりと降ろされる、包み込まれるように、その柔らかい布地に
身体が包み込まれるように、少しだけ沈んだ
ぎぃ、ベッドが鳴って、マリーネも乗ってくる、上は脱いでいる
裸身が、ほのかなランプの光で、橙色に輝いて見える

半脱ぎになっているのが居心地悪いと思ったのか
少し脱ごうという仕草を見せたグラスだが、残念ながらそれを待てるほど
マリーネは若くない、焦らしたつもりもないのに、随分と待たされた
そういう様子で、襲いかかるように、身体を重ねてきた

「ダメっ・・・・そんなに、焦っちゃ・・・あっ」

「グラスさん・・・」

名前を呼ぶだけ、何か、言葉めいた人間のそれは無い
求められるというのが、強烈に伝わってくる
グラスは身もだえして、なんとか自分の身体をよい位置へと誘う
重ねられた身体は重いと思ったがそれを分散させる
グラスは、見た目よりは慣れている、だが年下は初めてだ
それもそうだろう、こんな地味な女、若い頃に騙されたくらいしか
思い出がないのは、不自然なことではない
自分自身がそう思ってしまう

「ダメ・・・んっ・・・そんなに、激しくっ・・・ふあっ」

「グラスさん、グラスさんっ」

マリーネの隆々とした筋肉を感じる
押しつけられて、触れる全ての肌が自分とは異なり
硬く雄々しい、それなのに、艶やかで性的だ
若さのせいなんだ
そう思った、有り余らせた精力が全身に漲っているからだろう
グラスはくねり、うねりと身体をよじらせて
まとわりつくように、自分の身体の柔らかさ全てで
この硬くなった生き物を撫でてまわす
男は、そういうのに弱い、昔は嫌なこれを早く終わらせるためと覚えたそれを
愛おしい人に対して使っている、無論、喜んで貰うためという
間逆の状況で使う、ぅぁ、小さい声をあげて、グラスの喉元が光に晒される

「グラスさん、もう、ダメなんです、こ、これを・・・」

ひし

「・・・か、かた・・・お、おおき・・・」

少し言葉をつぐんでしまった
無理矢理に握らされたそこから、焼け付くような熱と
人の皮の感触の裏に潜む、堂々とした固さを読み取る
ぞく、全身に奇妙な震えが走ってしまった
それが通り抜けた後に、ぼんやりと滲むような快感が全身を支配した
グラスの瞳が淫猥のそれになる
マリーネは幸い、その瞳を見ていない、掴まれたという衝撃にじっと耐えるため
身を固くして、そすそす、這う白い指に抵抗を続けている
それを見て、嗜虐が色濃く滲みでてくる

「もう、挿れたいのですか?」

「そ、それは・・・」

「まだ、だめ」

ぎゅ、強く少しだけ掴む
びくっ、勢いよくそれは別の生き物のように撥ねた
男のここは、なんと正直なんだろうか
グラスは初めてのことのようにして、しげしげその様子を眺めてしまう
不思議な生き物だ、それを少し嬲ってみよう
握ったり、離したり、撫でたり、こすったり
そうしながら、自然と視線は、堪える男の表情に移っていた
ああ・・・これは

「・・・・ぐ、グラスさん・・・そんなにしたら・・・」

「まだ、ダメですよ・・・もっと、あなたはもっとおおきく、かたくなれます」

「そんな・・・うくっ!!」

ひくひく
何か、尋常ではないように反り返った
なんかまずいらしい、グラスは慌てて手を離した、ひくりひくり
何度かそう動くと、ぷくり、亀頭が少しだけ膨らむと先から雫をこぼした

「はっ・・・・はっ・・・・はっ」

ふつふつ、マリーネの全身に汗が浮き上がった
玉のようにそれは彼の体躯を飾る、ステキ、女としてそう感じてしまった
だが、その耐える表情が、たまらなく嗜虐をそそる
女の奥底には、そういうものが眠っているのかもしれない
グラスの場合は特に、あの女王の侍女をしてきているのだ
その淫靡を体現したそれを見て、ただただ、黙って過ごしてきた
女王付きの侍女となってからは、すっかりご無沙汰だった

濃厚に熟成されたメス臭が解き放たれるのだ

「可愛い・・・そんなに堪えて」

「グラスさん・・・性格変わりますね」

「あら、変わっていないのよ、あなたが見抜けなかっただけ」

微笑うと、また、強く一度握った
今度は必要以上に握る、ぎゅぅ、そういう感じで
でも笑顔のまま、じっと、マリーネの顔を見ている
見られているのを感じて、だらしない顔はできない
マリーネはこらえる、そう、その表情、それが見たかった
グラスは小躍りしたいほどの喜びを感じる
そして、念願かなったその時、ふと、いや、ずっと誤魔化していた
彼女の性欲が、ひたひたとその潮を満たした
ああ、私も欲しいのだ、硬いそれが欲しいのだ

「じゃぁ、挿れてくださいまし」

「グラスさん・・・」

「名前を呼んでばかり・・・もっと、勉強してきてくださいね、さ、ここへ」

言いながら、挿れさせない
手でゆっくりと操縦しながら、騎乗する要領でまたがる
押し倒した男子に、長い髪が垂れて広がる
その髪先が、こそばゆく、マリーネの胸元をくすぐる
腰に手が伸びる、それを受けつつ、ゆっくりと落とす、腰を
そして、包む、陰茎を膣肉で

「ふ・・・・・ん・・・・」

「くぁ・・・・」

ぬむむむ、潜る
そういう言葉が似合う、久しぶりの挿入感にグラスも頬を赤らめる
いや、軽く少しイってしまった感がある
心の底で、ふしだらに舞えなかったことに残念を覚える
受け入れた男のそれ、じっくりととっくりと味わう、うずうず、蠢くように
女の穴は、男の棒を絞る

「だめ・・・まだ、動いちゃ・・・んっ、あっ!!!」

「だって、グラスさん・・・・いやらしいよ」

マリーネも、慣れた様子が現れた
女は初めてだが、こういうのは初めてじゃない
騎士として当然、男とそれを繰り返している
乗られた時にどうするかくらいは、知っている、腰をつかって突き上げる
はね回る女の身体、相手にしてきたそれぞれより
はるかに軽いその身体は、突き上げるたびに
きゃんきゃんと泣きながら、精一杯に受け入れる

「ふむっ・・・な、長い………長いのっ、だ、だめっ、だぁめぇっ」

「グラスさん、グラスさん」

名前を呼びながら、子供のように泣く女を
腰の上で操る、奪われたそれを取り戻すように
ゆっくり、だが、力強く、ぱちんぱちんと音を立てる
どれだけ強く突き上げても、抜けることがない
マリーネのは長い、どうでもよい話だが、長いうえに硬い
それが女の奥を、しっかりと犯してまわる

「ふんっ、ぅあっあっぁぅっ、うんっっっ!!!」

ぱんぱんぱんぱん
安い音だ、そう思うものだが、気が入っている男女のそれは
官能のそれを呼び起こす、リズムを呼ぶ
騎乗位でここまで、淫猥になれるのはマリーネのそれに寄るところが大きい
ちゅぱんちゅぱん、狙うでもなく、グラスのほとは充分に潤い
ただただ、男のそれをぬめぬめと包み込んでやまない

「もっと、もっと撞いて、もっと、狂う、狂っちゃうっ、もっとぉっ!!」

「貴女は、淫乱だ」

「そぉ、淫乱なのよ、安心して」

すい、急に、あれほど乱れ狂った女は
突如正気を取り戻した
撞かれ続けながらも、突如、腰を半立ちにして
マリーネに撞かれるままとしながらも、両手で優しくマリーネの顔を撫でる
そして、美しい視線を落とす
女性上位という言葉をここに見る、騎乗位は女性上位なのだ
マリーネは、その瞳に魅入られる、目の前で女が笑う
自分のそれに貫かれた女は、まるでそれを他ゴトのようにあしらいながら笑う
かなわない、そう思った時、下腹のうずきが頂点を求めて蠢く

「さぁ、出しなさい、早く」

「ぐ、グラスさんっ!!!」

ぐいっ、マリーネが一等強く突き上げた
流石にそれに驚いたのか、いや、その力に抗しきれなかったらしく
初めて、とうとう、マリーネのそれが抜けた、ぬぽり音を立てて
太くたくましいそれが再び姿を顕わした
力強く勃起したそれは、その張力に耐えきれるわけもなく
のぺりと、腹に吸い寄せられるように倒れた、無論倒れたというよりも立ち上がったと言える
男のそれは、真っ直ぐに上を向いて、自分の身体に平行となるように勃つのだ
グラスは逃したそれを、しかと掴む手で犯す
せめて、そう思った刹那、目の前は白濁する

「うぁっっっ!!!」

どくっ、ぴゅるるるっ!!!!
勢いよく、それは吐き出された
無理矢理、直角に立てられた男根は、勢いよくそれを吐き出した
あまりの勢いに、グラスはおののく、そのグラスをどんどんと汚していく
どぷるるるるるる、マリーネはエビ反りになるほど腰を浮き上がらせて
ただ、その快感を甘受する、吐き出される白濁のそれは
等しくグラスの身体に降り注がれた、それが身体に張り付くたび
細かい快感に襲われる、女は犯された、男に精液をかけられて犯された
ぞくぞくぞく、グラスはかけられて、体験したことがない、凄まじい快感に犯された

二人は、そこに果てたのである

何も知らず、男女の契りが結ばれたその時
異変は起きていたのだ
この城に、その異変が伝わるのは、もう少し後のことになる
東方の町が陥落した、無敵と謳われたその街が

主君の居ないブライテストタールは、陥とされたのだ

相手は、まだ、解らない、解らないが
紅のスズランの旗がたなびいたという

つづく

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マリーネ童貞喪失については
もそっと考えるというか、もっと姉っぽい人に
めたくたにされるという、俺の性癖かっ!
とつっこみが入るような展開を見せたかったのですが
とりあえずこんなところで、さっさと進めます
遅れまして申し訳ございません
(07/02/19)