Edelstein ”Karfunkel”


ツエク率いる親衛隊マイグレックヒェンは
その戦勝を喧伝しながら、ゆるやなかスピードで西の大国ヴェステンに入った
紅の軍師が、紅の国の正式な使者として訪問したのである
ヴェステンは、大層な歓待を設けて、ともかくこの白騎士と紅の使者と
何よりも、皇子ツエクを大変労った
政治的な配慮だ、当然のことだ、国を上げての一大プロジェクトだ

「ありがとう、このように大きな歓迎を受けるとは思いもしませんでした」

「いえ、皇子・・・我らヴェステンの民一同全てが紅の国への忠誠を誓っております」

「ありがとう、国への忠誠・・・頼もしい限りです、そうやって支えて戴きたい、これからも」

「無論です」

ヴェステンの若い外相はただ、頭を下げるだけだ
この10歳の少年に、これだけ慇懃な姿を見せる
その背後に立つ、紅の外套を纏った男を視界にいれつつ
ただ、その姿を見せ続けている

「王はいずこですか?」

「も、申し訳ございません、どうぞこちらへ」

軍師の声で、慌てて外相は二人を奥へと誘った
若すぎるな、軍師はそういう感想を持つ
ヴェステンという国も随分と左右した過去がある
この10年で、政権を担うものが様変わりしすぎた
ヴェステンと紅の国とには曰くがあるのだ

かつて、流星を思わせる才覚と威信が漲った若き皇子が居た
しかし、その皇子は紅の国の前女王の軍勢に破れ命を落とす
そこでヴェステンは恭順の意志を示すため
皇女を人質として差し出した
その皇女が、前女王の側近であった騎士の妻となったのである
現状では、前女王から紅の国を表向きは譲り受けた、裏では奪い取った
そんな経歴を持つ国、その奪い取られた側、追い出された側に近しいところへと
親族を出している
ヴェステンの抱える病は大きい、そう判断された
そのため、当時の外相や王族のほとんどは放逐され
今、若い者によりなんとか対面を保っている、そして若ければ若いほど
紅の国には扱いやすい、随分とうまく、懸念されるべき西の大国は日が沈んだのであった

「ツエク皇子、これはゴキゲン麗しう」

「ああ、ヴェステン王よ、お久しぶりです」

「なんと、覚えておいでか・・・まだ、皇子があれほど幼かったというのに」

「ご冗談を、今でも幼いと思っておいででしょう」

ひやり、ヴェステンの王はその言葉に追いつめられる
よい大人がその体たらくでは、この国は危うい
ツエクの後ろで軍師は一人考えてばかりいる
現在のヴェステン王は、紅の政変までヴェステンを治めていた「ヘヴォン王家」とは別の貴族だ
乗っ取ったと言ってまったく相違ない、
仇先へと嫁いだ主家ヘヴォン王の娘キルシェ皇女を憎むよう仕向け、
紅の国への絶対服従を誓ったこの王にこそ正義がある、そう流布されている
衆人に罪はない、衆人はあくまで、利用される数に過ぎない
大きくなれば大きな力を持つが、大きくするのは一部の先導者だけだ
そういう、古い政治の如何がとても綺麗に発揮されている国情である
そして、その国情が産み出した国主が、目の前で10歳の子供に頭を下げる王だ

「いかがですかヴェステン王よ」

「いやはや、紅の国との交易のおかげですっかり好況を得ております」

「しかして、貧困区で諍いがあると伺いましたが?」

「そのような噂・・・おそらく、旧主ヘヴォン家のものの残党でありましょう・・・嘘でございます」

「しかし、その貧困区に採掘地があると聞いておりますが、如何」

「それは・・・」

王は汗をかいて、軍師の問いつめに追いつめられていく
王は無能なのだろう、ただ、やってきた客人に接待をすることしか
外交の術をもたぬ、愚かな国主、ヴェステンは傀儡国家だ

「火石をいつもの通り戴いていきます、当然対価は払います、それで港の補強でもされてはいかがかな」

「はは、おっしゃられるままに」

王は平服する、王というよりもこの男こそ外相ではないだろうか
まるで国体を維持できていない哀れなものを見て
軍師はいささか、不安を覚えてしまう
ツエクといえば、ただ、その様子をじっと子供の視点から見ているらしい
幸いなことに、これをダメな見本だと思っている節があることそれくらいだろう

「ところで先の話の続きですが、旧主派が」

「ご、ご心配なく、それだけは絶対に、間違いなくございません」

王は力強く言い放った
軍師は少し驚いて、黙った、そこへ追撃を加える

「町々の者達は全て、前王の娘キルシェを忌み嫌っております、
キルシェが現女王ではなく、前女王についたことに激しい不満を覚えております
間違いはございません、ご安心くださいませ」

「ならばよいが・・・」

「結党しているという噂も聞きますが、極一部の貧困層のこと、大半は今の好況を喜んでおります」

王の報告を信じるならば、紅の国にとってとてもステキなこととなっている
旧主が憎まれ、現主が好まれる、現主は愚かで、現主は従順
軍師殿は、そのあたりを確認して、とりあえずの安寧を得たと思う
この土地へ来た充分の役目を果たした、そう、結論づけた

「軍師殿」

「ツエク様、いかがなされましたか」

「いや、政治向きのことを任せ放しで申し訳ないと思うてな・・・私に出来ることは言って欲しいのだ」

「ツエク様・・・」

「私は母とも異なり、政治向きの話に疎い、軍師殿がそうだと思えることには利用して欲しいのだ」

「・・・・・」

「これは、母上がおっしゃったことではない、私の本心からなのだ、父を知る、父の友人である軍師殿だからこそ」

拙い言葉ながら、しっかりとした口調は
軍師殿の心に深く突き刺さった、いや、刻み込まれたという
ステキな表現のほうが似合うだろう
軍師は黙って、一つだけうなずいた、何も要らない、この少年を奉戴していこう
気持ちを新たに強めつつ、純真の身で、何一つの打算もなくそう言う少年に感動を覚える

「ヴェステンでの用が済んだならば、いよいよ、帰国とあいなろうか」

「無論です、ツエク様、胸を張り女王様に報告なさいませ、何一つ
いや、どれをとっても、全くどの外相よりも立派にその務めを果たされました」

「そうかな、自惚れてしまうからよして欲しいよ、軍師殿」

「その謙遜こそ、王者の資質であります」

軍師殿は、盤石という言葉を
人生で初めて得たような気分に浸った
最高の主を持とうとしている、正義がある
そういった主君に使えている、軍師として最も誉れ高いことになっている
それに、最高の栄誉を感じているのである

「ツエク様率いるマイグレックヒェンがヴェステンを訪問されたそうですよ」

「そうか、報告ありがとう、書取は順調か?」

「もちろん、難しい字も覚えました、算術もすっかり!」

「はは、いい心がけだ」

「グイ様・・・」

童子が一人、導師グイのところでじゃれている
それを適当にあやしながら、グイはのびのびと自分の人生を謳歌している
先日マリーネがやってきた時とはまったく異なる表情
元来、もっと不遜で、傲慢とも思えるほど高い気位を備えた男だ
仮初めの姿、と言うのは少し異なるが、大人として
自分が生きていく上で社会的に見せなくてはならない姿
それを演じている
今は、それを脱ぎ捨てて、グイという一人の男としてのんびりしている
童子は幼い男の子だ
グイが学んだバンダーウ教では、童子を側仕えとして
様々な世話をさせ、愛情を育み、素晴らしい人物へと育てるという習慣があった
それをそのまま、実践している、グイは自分が宗教を開いたとは思っていない

「私をどう思う?」

「グイ様を?」

童子は少し考えた、そして笑顔を見せる

「父様!」

「そうか、ならば息子よ、父より言葉を与える」

「なんでしょう」

「強く、たくましく生きて、隣人と兄弟を愛せ」

口癖のようにグイが言う言葉「愛」
安っぽいようだが、グイにとってはとてつもなく重い言葉だ
かつて、バンダーウ教徒だった頃に父と慕った男に死なれ、息子と慈しんだ童子に死なれ
絶望の底で、彼を慕う信者が集まったことがあった
その時に、愛が自分を救ったことを自覚した、それを、家族愛だと解釈した
血のつながりなど関係がない、ただ、一緒にありたいという家族になりたいという欲求を満たす
それこそが最愛であると、家族と愛する人を失い続けたこの司祭が見出した世界
慕った信者をひきつれ、この土地へとやってきたのだ
もう、随分前のように思われるが、7年程度ではないだろうか

「そういえばグイ様、最近東方の人々が港によく来られているらしいですよ」

「東方の?どのあたりだ、極東か?それとも」

「オースト地方の人です、なんでも、デハン教という信者だそうです」

「デハン」

グイの瞳が鋭くなった、童子は驚いて口をつぐんでしまった
デハン教というのは、グイがバンダーウ教徒だった頃、オースト地方で
バンダーウ教と敵対していた宗教のことだ
グイがバンダーウ教を離れた時、デハン教との宗教戦争があって
デハン教は駆逐されていたはずだが
なかなかしぶといと見える

「そうか、それは好いことを聞いた、折角だから色々話を聞いておくとよかろう」

「わかりました」

屈託のない笑顔で童子は答えた
童子を斥候として使おうというのだから、導師でも教祖でも
そんな高尚なものではない、グイは己の成り立ちをよくわきまえている

「・・・そうか、デハン教か」

一つ呟いて、どういうわけか
瞳に憎悪が浮かんだ、童子がいなくなったのを確認して
さらにその色味を増した
愛する人を失った過去を思い出す
父と息子に死なれた
違う
父と息子を殺されたのだ
デハン教徒によって殺されたのだ

「?」

マリーネは職務に忠実な男だ
鈍くさいというか、相変わらず緩慢としているが
職務に関しては、そのおっとり加減とはまったく別の素早さが発揮される
今、その性質にのっとって、腰の剣に手をやっている

「マリーネ、よせ」

「ゼー?・・・しかし」

マリーネの視線は厳しくなっている
ゼーは、なるだけその瞳を見ないようにしている
本当におっかねぇツラしやがるな・・・
蒼騎士は心でそう思いつつ、目の前の事象の説明を始める

「女王様が許しておられるのだ」

「どこのご令嬢だ?まったく聞いていないぞ」

「まぁ、な、ともかく女王様の命令なのだ、怪我でもさせたら事になる」

マリーネは納得しない様子だが
この騎士二人のやりとりを知ることもないのであろう
金髪の不審者、少女を一人見送った、人物は娼婦のリズ
リズは、女王に気に入られて侍従の一人として新たに雇われた
表向きはそうなっている

「グラスの後任にでもなるのだろう、気にするな」

「え、グラスさんの?」

気弱ないつもの表情に戻るマリーネ
グラスの名前にそんな反応をすることに
ゼーは驚いたが、すぐに得心の顔を見せる
若い男が、年上の女にどうにか思うのはわからないでもない
それにグラスは体つきだけは、そこらの女でもかなり上等だ
やりたいという気持ちはわからんでもない
ゼーは本気で、真顔で、疑うこともなくそう思っている
心に欠陥のある男の思考だ
女をそういう対象としか見たことがない

「グラスが好みかよ」

「呼び捨てにするな」

「顔が赤ぇよ」

「るさいな」

マリーネはばつが悪そうにそっぽを向く
からかいがいのある男だ、ゼーはおかしいらしく
少しだけいじっておく

「まぁ、いいやお前がグラスとどうにかなれば、俺も随分助かるしな」

「はぁ?どういう意味だ」

「俺ぁ嫌いなんだよ、あの女」

「・・・・」

「ことあるゴトに、俺にケチつけやがるからな」

「それはゼーの素行が悪いからさ、あの人は潔癖の人だからね」

「余計なお世話だっつうの、うっとうしい、とまぁ、そう思うわけだからよ」

ぽん、ゼーはマリーネの肩に手をおく
よい肉付きの肩だ、強い剣を使える筋肉だ
数ある騎士を見ているが、若い集団の中で
隊長となれるだけの資質は、ゼーとマリーネにしかない
そう信じている、事実腕っ節も一番強い

「よしなにやってくれや」

「どこ行くんだ」

「仕事だよ」

ゼーの行き先は石塔だ
塔の中には部屋がいくつかあり
客人が泊まることもあれば
作業場のようになることもある便利な場所
今はそこに、職人が泊まり込んでいる
ゼーは職人を見張る仕事を任せられている
しかしその仕事もまもなく終わる

「できたか?」

「はい・・・ここに」

平伏する職人
彼は宝石をカットする装飾師だ
差し出した台座に黒い石がしずしずと光を放っている
こういう物の良さに疎いゼーでも、視線と心を奪われるに充分な魔力を秘めている
数人が作業できるスペースに
この職人がたった一人だけ、疲れ切った顔をさらしている

「これでようやく・・・途中で辞めていった奴らとは違うことがお見せできたでしょう」

疲労が漂う顔つきに、野心の漏れる瞳がある
ゼーは黙って、その台詞には何も言わなかった
最初は5人だった職人達は、それぞれ途中で脱落し
彼が残ったということになっている

「そなたの最高傑作だな・・・」

ギラギラとした瞳がその自信を顕わしている
この男はおそらく、紅の国近隣で最も優秀な創作者だと思われる
その最高傑作が、冠を飾るのだ
これほど素晴らしいことはない
この作品をもって、この男は装飾師として伝説に名前を連ねるだろう
それほどの傑作になった

「疲れておるだろうが早速これを、女王様に報告したいのだが」

「無論です、このようななりで許されるならば、今すぐにでも!」

暑苦しいことだ
ゼーは少し引いてしまったが、その手渡された石の価値が解るだけに
男の興奮は無理もない、ともあれ確かに汗くさい、汚らしい
そのままではとうてい連れていけない
とりあえず身体を洗うように指示を出した

「済んだか?」

「はい、久しぶりのことでさっぱりと」

「うれしそうだなぁ」

「もちろんです、ゼー様、さ、早く、お早く」

わかったわかった
そう思いながら、ゼーは重い腰をあげた
ゼーは青年騎士だから、当然相手である職人はずっとずっと年上だ
その男がまるで子供のようにはしゃいでいる
年下のゼーからすれば、本当にやれやれという具合なのだが
この足取りの重さはもっと別なところにある

石畳を歩き王間に到着すると、女王は既に着座していた
驚いてゼーが、すぐに敬礼を見せる
だがそんなことをまったく待っていない、一刻も早く石が見たい
そういうことなのだろう、職人の入室を促す

「ご苦労でしたね」

「ははっ!!」

石はグラスが受け取り、その手を伝い、女王の眼前に置かれる

「これが・・・・確かに、なんと美しいことか・・・」

うっとりとその黒い石を見つめた
石の表面だけが黒いのではない、
奥までも、あの真っ赤だった石の美しさをそのまま黒に塗り替えた
煙を封じ込めたようなくすみとは全く異なる
闇を閉じこめている、あるいは切り取っている、そんな石が
最高の装飾を施されてそこにある

「素晴らしいカット・・・この光の煌めきは・・・闇に光を閉じこめる、この美しさは・・・」

「私も、このように黒い石は、しかも光を通す黒い石は初めてでありましたが、
おっしゃる通り、おっしゃる通りに闇に光を封じ込める、そのような細工を施しました」

「素晴らしい、光は決して消えることなく、この石の中に留まるのか・・・」

職人は満面の笑みを浮かべている
彼の最高がここに極まったのだろう
興奮のあまりか、ふるふると震えを覚えているらしい

「おお、そうだ、石に見入ってばかりではいかぬな、本当によくやりました・・・褒美を取らせます」

「ははっ!」

「この石をもって、そなたは、またこの石も最高の栄光を手に入れました
それに対する最高のものを貴方に授けましょう、まずはこちらをどうぞ」

女王が柔らかくそう告げると、グラスが一杯のワインを差し出した
ラベルを見て驚愕する、100年ものの名酒らしい
男はこれから、そのワインをかわぎりに様々なことが起こる
その予感に酔いしれながら、よろこんで、酒をあおった

「この石がどれほどの価値となるか、それはこの後のことではある、
しかし今、この時点ですら、また後々に伝説を下げるにも値する素晴らしい物でもある」

「もちろんであります、古今東西全てにおいて、この宝石に勝るものはありませぬ」

「そう、それは貴方のように究めて優秀な職人が、最高の巧緻を施した末ですね」

「まったくその通りであります」

「そなたの他にも4人の職人がおりましたね」

「ええ、しかし奴らは全て途中で脱落しました」

「・・・・」

「私は違います、この作品を造り上げて、今なお、ここにて・・・」

ぐらり、職人は自分の身体が熱くなったのを理解した
それは興奮のしすぎなんだろうか
そう思った、思ったが、気持ちの高ぶりは抑えられそうもない
熱い、ただ熱い、そう思った時
ぺたり、ひんやりとしたものが頬に当たったと気付いた
なんだろうか、ごつごつとした肌触りのものだ

「そう、貴方は立派にやり遂げました、そして完成したのです」

女王はゆっくりと、その石を王冠の中央へと座した
さらに加えて、同じ石でできた、指輪、錫杖、首飾り、ブローチ、そのシリーズを揃えた
他の4人の職人により、それらは全て命を吹き込まれた
いずれも最高傑作のそれに相違ない
黒宝石で彩られた貴品5点、これをもって
あと一つ、金剛石の兜飾りが出来上がれば、10年の式典に披露される全てが揃う

「地下へ」

「かしこまりました」

女王は冷たくそう言うと
ことさら大事そうにその5種の宝石を持って広間を出ていった
残されたゼーとグラスは、床に這い蹲る男を黙って見る
男は酒をあおって、倒れ伏したのだ、冷たい石に己の熱を分け与えている
死んだわけではない、これから地下で褒美を授かるための儀式だ

「ゼー殿、ご苦労様でした」

「・・・あんたも大変だな」

「・・・・」

「無視かよ・・・まぁ、いい、後は手伝わなくていいんだよな」

「結構です」

ツンとして、相変わらずいらいらさせる女だ
一瞬、殴りつけようかという欲求にかられたが
ゼーは我慢した、それよりも一刻も早くこの場を離れたい
そちらの気持ちが勝ったらしい
グラスは、どこからか持ってきた台車に男を乗せると
カバーを被せて何かわからないようにして、ずるずる、運び出した
男は、過去に消えていった四人と同じ運命を辿ることとなる

「女王様、お連れしました」

「結構、中で下ろせ、その後は下がってよい」

「かしこまりました」

いつもの地下室にて
女王は宝石を本当に気に入ったらしく、既に身に付けている
王冠にあった、この男が作った石だけが、ティアラに付け替えられている
全てを備えた姿は、女王の威厳と威光を視覚的に訴えてくる
美しさに呑まれた、グラスは一瞬言葉だけでなく動作までも失ってしまった

「どうしたのか」

「あ、も、申し訳ございません・・・あまりの美しさに見とれてしまいました」

「正直だな・・・私は殊更機嫌がいい」

女王が笑う、とても美しいと思えた
その裏にどのようなものが蠢いているのか
それによってここまで美しくなれるのなら
少し、触れてみたい
女としてグラスはそんなことを考えたりもする

「では、失礼いたします」

ばたむ、扉を閉めた
返事がなかった
もう、地下室の女王なのだ、既にそういう状態だったのだ
少しだけ動悸を覚えた、グラスは気を持ち直して
音の聞こえないところまで、足早に逃げた

「・・・・お目覚めかな?」

「これは・・・・わたしは・・・」

「そう、ぼんやりとして、ぼうとして、もうろうとして、とかく気持ちがよかろう?」

「はい・・・・ああ、そうか、女王様より頂戴した名酒にこれは、私は酔っておりますのか」

「そうだ、お前は精根尽きるまで働き、その疲れが出たのだろう、そのままでよいぞ」

「きょ、恐悦至極・・・」

眠たそうな男
そういう印象のまま、だらり、ぐたりとして
身体を投げ出したように倒れている
すっかりと身体は洗われており、汚いということは全くない
むしろ清潔すぎるようにも思われる
全て、この男が自らしたことだ、だが、それをこの人物は待っていたのだ

「お前の仕事は本当に、最高だった」

「あ、ありがたき、幸せ」

「お前は、この今の世において、最高の細工師であろう?」

「無論です、師を超えました、弟子はおりませぬ、まさしく私が・・・」

「そうであった、貴様ら一門5人を迎え入れたのであったな」

「ああ、師も兄弟子も皆、途中で居なくなり申した・・・ただ」

「ただ?」

「女王様を飾るそれらの石は、兄弟子や師匠のそれに見えてしまいます」

その通りだ
女王が身に付けた、全ての黒石は彼が言う通り
彼の師匠と兄弟子が造り上げた、この世の美術の最果てが集結した
逸品という言葉すら憚れる、名品だ

「そう、全てはお前に繋がる栄誉の、伝説のために・・・わかるか?」

女王はゆっくりと、慈しんで職人の頭を掴んだ
重たい、成人男性の上半身を頭部を掴むことで揺り起こすのは
いささか筋力を必要とする
そうされていると気付きもしない男のそれをしっかりと支える

「お前は、この瞬間において、最高の装飾師だ」

「それは、無論のこと・・・」

「そう、かつてお前の兄弟子、師匠までも全てがそう呟いておった、この場所で」

「???」

「彼らは己の才覚の全てを費やした最高傑作をここに置いて、自ら命を投げ出していったのだ」

「ああ、なるほど・・・」

職人は脳が死んでいるのかもしれない
この事実を理解しながら、まったく怒りや憤りといった
感情を抱くことなく、ただ、淡々とその事実を受け入れてしまう

「その、それらの最果てにお前はいるのだ」

「・・・・そうか、兄弟子や師匠がいなければ、間違いなく私が一番の」

「そう、お前は生き残りで、最後の天才なのだよ・・・」

女王が最愛のキスを見舞う

「お前は、この傑作を残して死ぬのだ、死ぬことで傑作は伝説をまとう」

「・・・・死ぬことで」

「そうだ、これ以上のものをこれ以後作らなければよいのだ、わかるか?」

「ああ、なるほど、私が死ななくてはならない、これ以上生きてはこれより良いものを作るかもしれない」

「そうだ、お前はこれを最高として死ななくてはならない、でなくては」

「ああ、そうだ、死ななくては・・・じょ、女王様、わ、私を殺して、殺してください・・・私を」

女王は薄く笑った
そして、声色が甘い、優しいそれから
黒く冷たいものに変わった、主従が判然とする

「殺して欲しいか?」

「じょ、女王様・・・なんとしても、甘美な死を、私に最高の死を」

「よろしい、ならば奉仕せよ、そのかいがいしさに打たるれば、殺してやってもよい」

「奉仕を・・・なんでも、なんとすれば」

男の身体は自由を取り戻し始めた
だが、思考は残念ながら操られたままらしい
うろんとした瞳で、懇願の、ただただ哀願をねだるだけの生き物になった

「男が女に施す奉仕など、キマっておろう?」

誘う口調と瞳
男は中腰で、直立する美しい女王にすがるような形だ
降り注がれる視線が、どんどんと冷えていく
表情から笑みが消える、侮蔑が浮かぶ、職人は脅えた

奉仕をせねばならない、不興をこうむってはならない、喜びを尽くさなくてはならない

・・・・

「ほら、早ぅ、早よぅせぬかっ、まるで足らぬ、話にもならぬ」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!おおっ、おおおっおおっ」

男は娼婦を組伏して、ひたすらに腰を降り続ける
必死の様子がよく見られる、腰がぶつかるたびに
女の身体が砕けるかというほど、激しく揺れるが
その揺らぎの中でも、平然と、さらに深く、強く、早くと求める

「もっと・・・・奥まで、届かぬ、もっとほら、貪るように獣のように腰を振れ、
早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早くっ」

ぱんぱんぱんぱんぱんっ!!
肉の音は、激しい打擲のような音にかわっている
男は狂ったように腰を打ちつける
それでも、どれだけねぶられようとも、娼婦はうすら笑いを浮かべているだけだ
見下して、蔑視を向ける、それに脅えて、ただ
男は腰を振る、下半身だけがぎりぎりと熱を帯びて硬く太くなる

「職人は、石の扱いができても、女の扱いはできぬと見えるな」

「そんなことは・・・・もっと、まだ、まだやります、やれますともっ」

必死に、男は体位を変えようと、正常位の姿勢から
娼婦の片足をかつぎ、横倒しから衝き込もうとする
だが、それを器用に払い、逆に女王は馬乗りとなった
すっかり二人とも全裸だ
ろうそくで揺らめいた褐色の肌は、うすらと汗を玉にして浮かべている
冷たい表情が、凍るように笑った
男は、ほとんどくたばり損ないだ、腰を振りすぎて壊している
それほどまで衝き込んだ

「哀れな男だ、だが、その哀れに免じて褒美をとらす」

「女王さま・・・」

娼婦の指が男に絡んだ、男は屹立を緩めることがないで
ずっと、硬く太いまま最中を過ごした、とうとう一度として男はイかず
女王は、それなりに、楽しんだ
だが、やはりどん欲に食らう時がきた
娼婦の指は硬いそれにからみつき、てとちと、なぞるでも握るでもなく
弄びを続ける、女王の裸体が覆い被さるように男の上にある
馬乗りで、男の腹の上に腰を降ろした

ぺちょ

「わかるか?ほとの潤いがわかるか?」

ぬるり、ぬるり
娼婦の股ぐらが、水音を立てて
男の腹の上をゆっくりと這った
なめくじが通ったように、てらてら、その跡が光る

「ほら、わかるか?ぬるぬると、私のほとが淫液を垂れるところが、
貴様のその哀れに同情して泣いておることがわかるか?」

ぬるぬるぬるぬる
言葉とともに、娼婦の腰の動きは早くなる
相変わらず後ろ手で男の棒を弄んでいる
指先による刺激と、濡れそぼった女を押しつけられる感覚
男は、馬乗りになられながら、徐々に快感の糸口を掴みつつある

ぬちゃ

「さぁ、もう一度挿れさせてやる、いや、これが挿れるということだ」

女王は、うすら笑いのまま、腰をゆっくりと持ち上げた
後ろ手で嬲っていた棒を、入口へと持ってくる
そして入口の付近で、ぐにぐにとその柔肉を堪能させる
職人はたまらず腰を浮かせた、しかし、すぐに痛みでブリッジが崩壊する
生殺しにして、女王は挿れさせず、一度スジを押しつけた
のぬり、暖かい粘ったものが包みこんだ

「おおおっ・・・うぉおっ」

「まだ入ってない、前哨だ、焦るな阿呆」

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ」

「さぁ、とくと、とくと味わえ・・・・これが、女の膣に挿入するという感触だ」

ぬるり
びくっ、男は一度撥ねた
点字を読む指先のように、生の自身が女の膣道の形を知覚した
性器が触覚を最大に発揮する、ぬるるる、音がするような
粘る?ぬめる?まとわりつく?
いずれでもない、肉が包みこむ、事実はわかるが
そんな言葉ではまるで足らないほどのどうしようもない快感が、性器をくわえこんだ

「は・・・ぁ・・・ん・・・・・あ・・・・どうだ・・・わかるか?ほら・・・感じるか?返事をせぬか、どうした」

「おお・・・う、おおおお」

「阿呆になっては、話にならぬ・・・なっ・・・・んっ」

娼婦はもう、男が正気を失ったことを理解した
あとはたっぷりと、娼婦自身が楽しむだけだ
ゆるやかに腰をグラインドさせる、ぬるぬる、男の側からはその感覚が
前後、上下、出し入れ
薬のおかげで、男は相変わらずいけない、娼婦が楽しむだけ楽しむ

「まだ・・・ん・・・違う、、、も、もっと・・んっ、この、は、あ、はっ、はあんっ♪」

娼婦の声色が変わった、よい角度をつかまえた

「そうっ、これをっ、もっと、ほら、もっと硬くしなさいっ、硬く硬く、さぁ、あんっ、あんっ!!」

「はぁっ、はぁっ、女王、女王様っ、じょおうさまっ、はやく、おはやく、死を」

「あんっ、あんっ、あんっ、もっとよ、もっとよく振って、ちからいっぱいに、腰を打って
早く、奥まで奥までおくまできてっ、くるのよっ、きなさいっ!!いいっ」

♪♪♪
娼婦の声は、オペラの高音さながらとなった音楽を奏でる
ぴちゃぴちゃ、ぱんぱん、ずむずむっ
腰をふるたびに、淫猥な音をそこかしこに飛ばして
嬌声をあわせて囀る

「んあああっっ!!そう、そう♪、もっとぉ、もっとっ♪、はやくぅ・・んっ、んんんんっ」

ゆさゆさゆさゆさ

「早く、お早く、女王様っ、死を、殺してください、殺してください」

「んっ、んんんんっ、んんんんんんあああああああっっ!!!!」

がくっ!!!
娼婦の腰が、律動を乱した、快感を逃してしまう
その恐怖に脅えるように、腰は一瞬狼狽えたが、決して男を離さない
くわえこんだまま、すぐに、ずぶぶぶぶ、肉の中へと埋没させた
そして、膣が握りつぶすように男のそれを締め上げる
ちゅるぴゅるるるっ、締め上げる強さから、男の棒をつたって
粘液がどろり、いや、飛沫くように噴出された

「はぁあああっ・・・んっっ・・・んあっ・・・・はぁっ♪」

「じょおうさま・・・・じょお」

「そう、イきたいの?」

「早く、お早く」

満足そうに女王は微笑んだ
同時に、仕上げを施すこととなる
すぱっ、鋭利なそれを振り抜いた
どぱっ、真っ赤なそれを浴びる
かわぎりにして
職人は、白く濁ったそれも排出する、女王はその濁りを膣内で受け止める
ぱしゃっ、吐き出された感じが心地よい、褐色の汗を浮かべた肌に血がかかる
どくどくどくっ、男のそれは脈打ち、最後の痙攣を凄まじい震えとともに果たした
黒い石が一層光る

「甘き死よ、永遠なれ」

暗闇に満足そうな、最高の笑顔を浮かべた

つづく

もどる

遅れておいてこれかよ・・・
我ながら、がっかりであります
遅れまして申し訳ございませんでした
宣伝文句は「エロくない5話」
(07/01/31)