Edelstein ”Karfunkel”
北方、山岳地
「軍師殿」
「心得ております」
皇子ツエク率いる白騎士隊マイグレックヒェンは
北方の山間部に到達した
マイグレックヒェンは1500の人数からなる騎士部隊だ
1500人の精鋭を集めているというのは、軍事力としてずば抜けている
また、その強力な1500の内、さらに500人が特に優れた騎士で構成されている
その頂点にツエクは居座る
傍らに、軍師を控えさせている、紅の軍師は内政、外交、軍事のいずれにも才能のある人物だ
辺境の部族ごときが、勝てる相手ではない
1500人の騎士達は全て馬に騎乗している
敵である山賊は山の森の中に姿を潜めている
騎馬という戦力は、平地平原でこそ威力を発揮するが
山地では弱いとされている
「甘いと言わざるを得ないよね」
「その通りです、白騎士の力を今こそ見せる時ですツエク様」
軍師は、うまく、ツエクの意気を高めることに務める
既に軍師が放った斥候から、敵のあらかたの陣容は見えている
中腹に位置して、森深い場所にて歩兵を数多く隠しているらしい
なるほど、通常の騎馬隊ならば山道の途中でそれらによって
血祭りとなるだろう、しかし、軍師の手配により
もう、その伏兵は看破されている
しかもマイグレックヒェンはそこらの騎馬隊とはレベルが違う
生粋の、純血を保つ騎馬戦力の精鋭集団だ
弱点を克服する努力を怠るわけがない
「3隊突撃はじめっ!!」
どぉぉぉ!!!
地鳴りのような声をあげて、騎馬は狂ったように走りはじめた
寸分狂うことのない美しい騎乗、騎士達は蛮勇を誇るように
突撃の最中、己の鎧を剣で叩いて、大げさに音をたてて走る
この音が近づいてくる
真白な鎧が近づいてくる
恐怖が近づいてくる
「敵、攻撃っ!!!怯むなっ!!」
「おおおっ!!!!」
真正面から、敵の放った幾百もの矢玉がかかってくるが
まるでそれらは騎士達をよけるかのように当たらない
怯む事を知らない進撃は、木陰の蛮族に心底からの恐怖を与える
たまらず、折角の伏兵達は声を上げて応戦してしまう
ずるり、不器用にひきずり出されたそんな具合が見てとれる
そのおたおたした奴から順に屠られていく
「まだです、ツエク様」
「そ、そうか・・・」
焦れているらしい
前線からは少し離れている、山のふもとで500の精鋭とともに
ツエクと軍師は戦場を見上げる
軍師はじっと戦況を見定める、突撃した1000の一般隊員達は
それだけで充分と言わんばかりの戦果をあげている
山岳地でも圧倒的な速力と攻撃力を誇る騎兵部隊の降臨
早くその場に行かなくては、自分が拾える功名がなくなってしまう
ツエクはそう焦っている様子だ
やはり、まだ若い
「指揮官は無闇に前線へと出るものではありません」
「しかし、私は後方でくすぶっているだけのお飾りにはなりたくない」
「お飾りと呼ばれるのは、今の貴方のように狼狽えている大将に見えない者です」
「!」
「大将たるもの、毅然とした態度で、ご安心ください今に出番がやって参ります」
「勉強になるよ、軍師殿」
「・・・・」
軍師は言い過ぎた、そう思ったが、皮肉ではなく言葉の通りに従うツエクを見て
彼を育てる使命感を思い出し、あれこれと注文をつけている
軍師殿に子供はいない、自分の子供のようになのだろうか
よくわからないことを考えた、一瞬、いや、そもそも軍師殿も
ここ数年実戦から離れていたせいもあるだろう
当然予期していた事態が眼前に現れるが、戦場から離れていると
そういった奇態が、自分に狼狽を与えることを忘れてしまう
「・・・玉砕かっ・・・精兵!!!前を!!」
軍師の声が轟く、すぐに500の精兵は方陣を展開した
正面で受け止める
山中からあぶり出された敵の数十人が徒党を組んでやってきた
予想よりも速い、本来は出てきたところを矢弾で葬り去る予定だったが
その準備を怠った、白兵線は免れない
軍配により、精鋭騎士達は、次々と敵を破砕して回る
中央のツエクまで敵が届くことはない、そのままで事は成る
「軍師殿、すまない、やはり私は飾りは嫌だよ」
「ツエク様?」
言い残して
既にツエクは剣を抜いて走り出していた
騎士達が白い壁を作るそこへと、マントを翻してみるみる遠ざかっていく
慌てる軍師殿が、制止の声をあげるが
戦場ではそのような嬌声が届くことはない
命令ははっきりと、大きな声で発するものだ
「そこを空けろっ!!!!」
大きな声ではっきりとツエクはそう叫んだ
騎士達は後ろからやってきたその声を命令だと理解した
すぐに戦場への扉が開いた
白い壁の向こう側に、薄汚れた蛮族が三人見える、もう三人しか残っていないのか
ツエクは残念に思いつつ、ようやく、そのふわふわと居心地が悪かった自分の
本来の居場所を見つけた
「せぃいいいいいいいあああああああっっっ!!!!」
横殴り、白銀の剣が陽光を浴びて光りを散らす
ずぼんっ、衝撃音とともに人の首が跳ね上がったのが見えた
まだ、10歳の少年がするには見事すぎる芸当
いや、彼なりに練習をしてきたその披露に過ぎない
まだ幼い体躯を最大限に駆使する剣法は
思い切り振りかぶり、全力で叩きつける
シンプルで強力な攻撃だ
何せ不意をついたらこれをかわせる人間はいない
ブラインドだった場所から突如突進を受けたのだ
蛮族の一人は即死、あと二人狼狽えているところに振り切った剣を突き立てる
全力で突きつけると、動物の皮で作ったと思われる胴当てを
しっかりとえぐり、臓物を突き破った、がくがくがくがく、今際の人間の震えが剣を伝う
同じくして血が滴りはじめる、それは滲むように現れ、しまいにどばどばと
あり得ないような音と量とを発する
「う、うおおおああああっっっ!!」
残った一人が雄叫びをあげてツエクに刃を向けた
ようやく追いついてきたのか、慌てた軍師の声が微かに聞こえる
「皇子を援護しろ」
いらぬ世話ですよ、ツエクは敵の動きをよく見ている
よく訓練をしているが、実戦はおそらくこれが初陣のはずだ
それなのに全く落ち着いている、ゆっくりと練習通りに敵の動きを見つめて
突き刺した剣は抜けないので早々に捨てた
腰の小剣を抜いた、そちらも美しく光り輝いてまだ血の味を知らない
「皇子!!」
軍師が声をあげる、騎士達は壁のまま見守っている
そこで軍師殿では見留めることができないことが起こった
一瞬で、敵と立っている位置が入れ替わり
ツエクが、そち、こち、と動いた
待つ間を与えず、敵は血を噴いてひれ伏した
まさに、風のようだ
「ふむ・・・」
満足そうに皇子は息を吐いた
ツエクの右手の小剣は、赤々と血を乗せている
小剣というよりもナイフに近い、かなり短いものだった
短い武器は振りが速くなるが、敵に近づくリスクを冒さないといけない
ツエクはそれを冒す勇気を持っている
かかってくる敵に一歩自ら近づく勇気、そのまま右手を思いっきり振り抜くと
敵の首もとをスパっと風が通ったように抜いた
背後に立ってさらに背中に斬りつける、また逆に回りつつ反対側の首を斬りつける
そして、脇に一撃を見舞ったところで、敵はとうとう立っていられなくなったらしい
健と動脈を切り裂いた、猟師が血抜きをするように入れられたそれで
どばどばと血袋から溢れて流れた、赤い血がだ
「少し汚れてしまったな、心配をかけた軍師殿」
屈託のない笑顔でツエクは軍師を見た
軍師はぐっと、その少年の笑顔を見た
小さく、多分それは、ツエクにしか見えなかったろう
口が動いた、口の動きだけで声はない、でも聞こえる
ハンプ
父の名だ
ツエクは、どうしてその名前がここに降りたのかわからなかった
自分がしたことが、かつて父ハンプが得意とした小剣術のそれと
うり二つだったことをまったく知らない
軍師殿はその殺陣を見て、振る舞いを見て、ツエクにハンプの姿を見たのだ
似ている、と言うではない、本当に思ったことは
帰ってきたのか
そういう声がけだった、ぐっとそれらを飲み込む
そして軍師殿は自分の役目を思い出す、女王の声を思い出す
頼まれているのだ
「ツエク様、お見事でした」
「ああ、ありがとう」
「しかし、今後このようなことは絶対になさいますな」
「・・・ごめんなさい」
「貴方は確かに優秀な騎士になりうる、いや実際にそうですが、同時に指揮官です
指揮官が一騎打ちに応じるといった前時代的な蛮行は今後絶対にしてはなりませぬ」
しゅん、所詮は10歳の子供
言われて怒られたとわかって肩を落とした
躾のためだ、軍師殿はそう思うが
その二人のやりとりを見ている、白い壁達は全く別のことを考えているらしい
前時代的とはいえ、やはり、カリスマを得るには一番なのかもしれん
騎士達はこの子供に率いられることを女王命令として
優秀に遂行してきたが、この年端もいかぬ子供の実力を
戦場で目の当たりにしたことで、本当に忠誠を覚えた、そういう風に見える
弱いから守らなくてはならない、そういう気分で付き添っていたのだろうが
今は違う、この騎士皇子の下で働く、そんな心変わりが見えた
やはり、期せずしてツエクは女王と軍師殿が考えていた念願を一つかなえた
天然でそれをしてしまうのだ
未だ、個人の武力が優れることは英雄の条件に数えられる
いや、これについては今後、どれだけ時代が降ろうとも変わらぬ心理かもしれない
この子供は天才なのか
情熱と勇気と、若さが許す全ての天分を
人一倍大きく持っている、太陽の子供だ
そう思うと少しだけうれしくなった、だが、それをすぐ忘れなくてはならない
軍師はあくまで、そういった目に見えない力ではなく
見えるだけの力で全てを解決しなくてはならない
そういう使命を彼は受けて、ここに立っている、常に弛むことなく
「ツエク様、先発隊が戻って参りました、どうぞお声がけを」
「ああ・・・そうだね」
ツエクは、またぱぁっと表情を明るくした
そんな気遣いが、他人を迎えるために明るく振る舞うといったことが
10歳の子供ながら、隊長としてできてしまう
笑顔に返り血が鮮やかだ
足下に三つの死体を転がして、そびえ立つ姿、まわりを取り囲む
精兵達が剣を立てる
「まるで、王だ」
軍師殿は静かに小さく声にしてみた
誰も聞こえなかったろう、なにせ、剣を立てた騎士達が
お互いを鼓舞する鎧を叩く音を鳴らし始めたのだ
その音の中央で、ツエクがゆっくりと戻ってきた騎士達を迎え入れた
北方鎮圧はこれでなった
味方に3名の死者を出し、10人ほどの負傷者が出た
それらを弔うツエクの姿がその土地に刻み込まれたらしい
若き指導者が現れたと鮮烈な印象を植え付けた
☆
「まぁ、宝石に傷がないならばそれでよい」
「はっ」
蒼騎士ゼーが王城にて女王との謁見を行っている
ゼーの背後には豚のような宝石商と、ネグリジェのままの娼婦がいる
異様な光景だ、侍女のグラスがすぐにそれをどうにかしようとしたのだが
女王の命令により、そのような珍妙な席となっている
相変わらず居合わせる人間の数は少ない
先の三人の他は、女王と侍女グラスのみだ
「さて、蒼騎士ゼーよ」
「はい」
「私の命令を復唱しなさい」
「宝石商と宝石をこの場に連れ戻すことです」
「そうでしたね、では、なぜ宝石商はそのような姿なのです」
「それは・・・」
「答えなさいっ!」
ビンッ!!
石が敷き詰められたこの空間全てに一瞬見えないヒビが入ったように見えた
決して大きな声とは言い難い、女性の発する声の一つにすぎない
だが、それがこの大きな空間で、こぉんこぉん、丸みを帯びながらゆっくりと消えた
発せられた瞬間は、硬い岩盤を打ちつけたような衝撃で、石壁にぶつかった
そう思えた、ゼーはひざまづきながら、目を合わせないでよいことに密かに安堵している
目をつむり、その声に耐えた
この人は、怖い
ぐっと我慢して、一瞬だけ震えたが
その声の主に返事を投げかける
「申し訳ございませんでした・・・」
「ゼー、お前は阿呆か?質問に正しく答えなさい、理由を問うておるのです」
「連行に、は、反抗をさ・・・れ・・・」
一番やってはいけないことをした
自分の言動に何よりも、己自身がもっとも震えてしまった
恐怖に、子供の言い逃れを使ってしまう
次の言葉が易々想定できる
「・・・なるほど、ならば仕方ありませんね」
「・・・・」
「ところで、私も物忘れが酷くなってしまいましたが、宝石商はどうして連行されたのでしたか?」
「そ・・・それは・・・」
視線が突き刺さっているのが容易に解る
なぜだろうか解る、汗がとまることなく頬を伝う
どうするか、謝るなら今
いや、質問に正しく答えるのが先
同じ過ちは二度繰り返せない
「女王様に嘘をついたからでありますっ」
「そう・・・そうでしたね、よろしい、ゼー、下がりなさい、その件についてよくよく当人から伺うことにします」
ゼーが、あ、小さい口を空けて思わず顔をあげた
そこには、冷たい笑わない瞳と笑顔が座っている
美しい、褐色の肌に今日は白のレースが這っている
その瞳は何もかもを知り抜いているのだ
この後の尋問は、奴の嘘を暴くものだが、嘘をついたということを責めるつもりだ
本来はそうではないのにそうすることで
宝石商が、反抗などしていないなどと言い訳するのを待っている
「じょ、女王さ」
「早くさがらぬか・・・執務の邪魔ぞ」
「女王様っ!!!」
しん・・・
どうやったら、女王のように空気を張りつめたあと
バラバラに粉砕するような声を上げられるのだろうか
ゼーのそれは、沈黙を呼んだだけだ、傍らでそう思いながら
今を打開するために、すぐ声を続けた
「申し上げます、先に謝罪を伸べさせていただきます、真に申し訳ございませんっ
私、先の報告に間違いがございましたっ、反抗されたのではなく、正しくは、
手続きを自分本位に片づけようとしたからであります」
「そうか」
「はい、殴って連れていけば手間がかからぬと、お、思い」
「しかし、殴っただけであるまい、女にも手を出したのだろう」
見られていたのだろうか
ゼーは己の愚行を呪う
これも正直に答える他ない
「はい・・・しかしそれは、女の腹に・・・」
「腹に?」
「宝石をこの男が情事に使用しておりました次第で、女の腹より取り出すためやむなく」
「いつもの貴様なら腹を割いているではないか?」
「仰る通りですが・・・魔が差しました」
「便利な言葉だな・・・よい、ともかく下がれ、咎を与えるところであるが
マリーネが留守をしておる、門番がおらねば私も安らかに過ごせぬからな、追って通達する」
「はっ!!」
ゼーは、ようやく仕事を終えた安堵に包まれた
女王を敬愛している、だからこそ、叱られることが
また、不興を被ることが怖い
そんな理由が根底にあるのだが、まだわかっていない
植え付けられたトラウマのごとく、叱られるだけで萎縮してしまう相手なのだ
ゼーは去った、ゆっくりと部屋で眠りたい
そう思いながらも、今日一日は、寝ずの番をしなくてはならないと
女王の言葉を理解して立つ、彼はまだ日中の今から明日夜が明けるまで門番なのだ
「グラス、そうだな・・・女はそなたにしばし預ける、男は直々に尋問を行う」
「かしこまりました」
言われると、グラスはすぐに宝石商に手枷と足枷をつけた
あぐぅっ!アバラが折れた痛みが男を身もだえさせるが
その抵抗に対して煩うこともなく、テキパキとこなし終えた
続いて、娼婦に優しく手を差し伸べた
「女王様の命令です、私についてきなさい」
「は・・・はひ」
こわごわとリズは立った、おずりおずり、結局
一度も女王様のお顔を拝むことができなかった
残念というよりも、怖いという心がうち勝っている
ついぞの頃に、無茶苦茶に犯された相手、蒼騎士ゼーを怖いと思っていたのに
それ自体が恐怖を催す人、それだけでリズは見る勇気を失ったらしい
ただ、言われるままに、もう流されるままに伝うしかない
とてとて、裸足は石の床にすっかり冷たくなっている
少し痛みを覚えるが、この空気を吸うよりはずっとましだ
そう思って、前を歩く侍女にただついて出た
「あ、あの・・・」
「貴女の名前は?」
「り、いや、エリザベスです・・・娼館ではリズと呼ばれておりました」
「リズ・・・なるほど、娼館ではそのように高価な召し物を与えられるのですか?」
「あ・・・これは、お客様に戴きました」
「そうですか」
グラスは、他人からプレゼントを貰うといった経験をほとんどしたことがない
特に高価なものとなれば皆無だ
少し偏った感情を抱いてしまう、こんな女が
可愛いからといって、娼婦が
鈍く心が濁ったのがわかった
「貴女について色々と訊ねたいことがあります、その前に服を着替えなさい」
「は、はぃ」
おずおずとリズは、グラスの顔色を伺う
先輩娼婦と同じ目で自分を見ているとすぐに解った
だから、リズはできるだけ癇に障ることないよう注意を払うことにつとめた
言われるままにしよう、じっと相手の手先や口元を見て判断する
目を見ると、こちらの考えが読み取られてしまうから決して目では判断しない
グラスは着替える姿を冷たく見つめ続けた
娼婦はもたもたしながらも器用に着飾られていく
自分で服を着るのは当たり前だが、ドレスを一人で着られるのは意外
しかも
「・・・・」
「あ・・・あの?」
「いえ、随分と似合うものですね」
「ありがとうございます」
嫉妬がまた、どうしようもなくグラスを包んだ
安物のドレスとして扱われているが
城にあるものは、どれもそれなりなのは当たり前だ
だが、それらは似合うものと似合わないものを容赦なく分ける
娼婦は似合う側に、ごく自然に落ち着いた
グラスは自然と視線がきつくなる、感じたのかリズは、おじり、身をよじる
嘆息一つ見舞って、グラスが業務的な辞令をのべようとする
「女王様もお喜びになられるで・・・?・・・どうされました?」
「このように美しいドレスを纏うのは、とても、とても久しぶりで・・・懐かしくて」
「懐かしい?貴女、出自が・・・」
合点が行くというのではないが
ようやく、その不自然なほどよく似合う全てのことに納得ができた
グラスはもう一度、リズを真っ直ぐな目で見てみた
確かに美しい、整っている、とても娼婦とは思えない
娼婦ではないのだ
没落する貴族の娘が売られるという顛末を
サロンの痴話で聞いたことがある、その生き証人がこれなのだ
「貴女の本当の名前は?」
「ジッキンゲン、ジッキンゲン家のエリザベスと申しました・・・」
「・・・領主ジッキンゲン家のご令嬢・・・それが・・・」
くすん、エリザベスは涙を流した
その姿が一層、その逸話を鮮明にしたように思われる
グラスは少しだけ同情した、しかし、今この娘と
あれこれしている暇はない、もうすぐ別の用事ができてしまう
だから今は
「そうですか、ともかく暫くは私と共に過ごすこととなります」
「は、はい」
「貴族のご令嬢ならば、作法はおおよそ大丈夫でしょう、明日より教育をいたします」
「お、お願いいたします」
ふかぶかー
音がするようにお辞儀をした、金髪が若草色のドレスに這った
「私は別用があり、しばらく空けます、部屋で過ごしていなさい、決して出歩かないように」
「わ、わかりました」
ぱたり、そしてリズは取り残された
部屋を見回してみるが、それこれ、触るわけにはいかないと
それくらいの分別はできている、じっとまわりにある物
ありとあらゆる物に囲まれること、ドレスに包まれること、己の本当の名前を言ったこと
全てが彼女に夢を見ることを許した
いつかの情景が、少しだけあの時よりもまだ劣るけども、楽しかった毎日の頃が
戻ってきたように思い、自然笑顔ができて
当然涙が零れた
☆
蝋燭の炎が揺れる地下牢
独房、特別室、尋問部屋
そのどれかで呼ばれる場所
じめじめとして、陰鬱で、昼の明かりが届かないそれ
「なるほど、おおよそは解ったが・・・」
くだけている口調
女王が尋問する側として、情事に用いられる側の女王の意味
それと同じ様子になっている
宝石商は、相変わらず、ふぅふぅと痛みを堪えているが
この事態には、驚き、とは別の、しかしその単語でしか表せない
異様な空気に呑まれている
「情事に用いるとはな・・・ま、入らぬ大きさではないな、これに貴様の淫液はつけたのか?」
「え?」
「貴様の精液をかけたのかと聞いておるのだ」
「へひ・・・、それは娼婦の中で出しました時に、おそらくわ・・・」
「貴様、娼婦相手に中で出すとは、マナーを知らぬと見えるな」
「え?え?」
ぎぃ、座っているイスが泣いた
女王はじっと男を見る
豚のように醜い、ゼーが殴る前から醜かった
だがこの男の指先にかかると石が美しい宝石に変わるのだ
「不思議なものだな、お前の指は」
「そ、それは」
「そうだ、先の話しからすると、貴様は連行前の情事で、まだいたしておらぬのか・・・」
「・・・・」
真っ赤になって辱めを受ける
相手が女王様であるということではなく
他人にそう言われることを辱めととれる
まだそういう世俗の通念はわかっているらしい
「折角だ、相手をしてやろう」
「は、はぁっ・・・あ・あがっ!!」
「安心せよ、お前もいづこかで聞いたであろう、紅の国の女王は娼婦の女王だと・・・その手を見せてやるのだ」
女王が薄く笑った
ゼーのような笑顔とは違う、暗がりに浮かぶ蝋燭の炎のゆらめきが
彼女の笑顔を、ひときわ淫靡に写したように思えた
刹那、じめじめとカビ臭かったそこが、不思議と甘い匂いに溢れはじめた
宝石商は驚きばかりが続くその状態で
おろおろと、どうすることもできず、手枷と足枷のままもがく
もがく男の股間に
つと
「ふぉっ」
「だまれ」
「・・・・!!!!!」
足が置かれた
既に男は全裸にされていることを説明忘れていた
全裸の男の股間、つまり、直接陰茎に足を置いたのだ
女王はタイツを履いている、元々履いていたのか
このために履き替えたのかはわからないが、暗闇に浮かぶ白のタイツ
しかし、細かい黒のレースとが入り交じり、不思議な模様を描いているそれ
その足先が、うねうねと指を動かして、男の茎を撫でるのだ
「ぅ・・・ほっ・・・ほっ・・・ほっ」
「ふむ・・・・年の割には、それなりに硬くなるものだな」
「ふほっ、ふほっ」
「うるさい、山猿のように鳴くな気持ち悪い」
女王の足先は実に器用に
右の足が亀頭を押さえ、茎を左の足がさする
実に上手な動きだ、親指と人差し指で挟んで捕まえ
撫でる時は、中指を茎に這わせて、他4本の指で包むような
そんな形になって、前後に、しこしこと動く
娼館通いの酷い男だが、今までここまでの技術を持った娼婦には会ったことがない
「気持ちがよいのか?」
「は、はひ・・・きもち・・・いいでう」
「ほう、たまらず淫乱であると見えるな」
「う、はっ・・そ、そのようにつ、強くされ・・されては・・・」
「みるみると太くなってくるな、脈打つのがよくわかる・・・」
「はぁっ・・・・はぁっ・・・はぁっ・・・じょ、女王様、じょ、じょほおうさまぁっ」
ぴたり、止める
「勝手にイくことは許さぬ、守れぬ場合は死刑だ」
「そ、そのよ・・・ふ、おあっ!!」
男はのけぞる、女王の足先がまた陰部を嬲っていく
踏みつけるようにして今度は刺激されてきた
女王はイスに座ったままでそれをなしている
男は、手枷と足枷で磔のようになっているから、かわす手だてはない
既に、心はかわすつもりなどないのだが
「しかし、そのような淫行を、国の大事を担う石にまで及ぼすとは・・・」
「も、申し訳ございません、も、もうしわけっ」
すりすり、足の裏はタイツのせいもあるのだろう
すべすべと容赦なく男の茎を撫であげていく
男はたまらず、先走りをつるりと円く産み出していく、ウミガメの涙のようだ
手でたどたどしく触られるのとはワケが違う
ところどころ踏まれることで、海綿体の隅々にまで血が行き渡らされているような
しかもそれを他人にされるという事態が
ずるずると、上り詰めていく調子を覚えてしまう
「とんでもない変態だな、へんたい、しかも足で踏まれながらもじりもじりと、その醜い腹をさらして
己の情けなさを理解できておるか?情けないという言葉を知っておるか?淫語の類と、」
ぐいっ!
「たがえておらぬかっ!!」
「ひぅおおおおおお、ゆるしくださいいいいいいっつぅぅおおおおおおっっ」
強く踏みつけた、決して痛むことがない踏まれ方
これは膣圧が増した胎内に似ていると
宝石商は思った、耐えるのがこれほど辛いとは
ぐっと、それでも歯を食いしばって必死に抵抗する
やがて、それは離れた、耐えきった、しかし
もう一度、今度は優しく触れられたりでもすれば、あっと言う間に果ててしまう
そこまで連れてこられた
「中年男の勃起がここまで醜いとはな、まじまじと見るのは久しぶりで忘れておったわ」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「その中途半端にぐたりとした、海洋生物風のそれ、もう待てぬと見えるな」
「こ、これ以上は・・・お、お許しください、お許しください」
「何を?」
女王は冷たい目で見下した
その視線を感じて、どういうわけか、男の下半身は反応を示した
びくびく、少し動いて、何かが先から溢れたのがわかった
白っぽい、だが、まだ粘性の薄い液体、も、もうだめだ
「しゃ、射精を、射精することを、お許しくださいっ!」
「はぁっ?・・・お前は阿呆か?これは罰だぞ、罪を、罰を許せと懇願するのでなく
己の快楽をこそ赦せと言うか・・・・は?」
「ひぎぃ・・・も、もう、もう・・・・もう無理なのです、じょ、女王様っ、じょおうさまぁ」
くすくす
女王は悪戯顔で笑った
そして、男がよく見えるであろう位置で
その最高の笑顔を見せた、それだけで男はどうにかなる
だが、トドメは彼女がさす、あえて、手で
「ああ、ここまで来て、て、手で、手でってでっ」
「まだ、許さぬよ・・・・勝手にイくなよ」
そす、り
女王の手は薄いレースの手袋がはめられていたらしい
その布の柔らかさと、包み込む仕草、それらが
ゆっくりと、陰茎を温めたのがわかった、男はもう我慢できるわけがない
どく・・・どく、どぷっ、どぷっ!!
「う、はっ・・・お・・・おはっ・・・」
どくどく・・・・どぷぷぷ・・・
「中年の射精は醜いな、飛ばすということもできぬのか・・・ほら、どうした・・・飛ばさぬか」
「ふひっふひいひっ!!」
そすそす、男の射精のタイミングにあわせて
正確には、何度かの痙攣で精液を射出する筋肉の収縮にあわせて
女王の手が根元から、たまっていた精液を先へと誘う
完璧な、自慰に匹敵するほどの快感が全身をかけぬけた
いや、まだ、陰部からその感触は上り続けている
ぴゅるっ
少しだけ、飛ばすということができた
腹のあたりに薄汚く、腹毛とまぢって白濁液がたまりを作った
女王は手を離す、そして立ち上がり
どごっ!!!!
「ぎゃあああっっ!!!」
「誰が、勝手にイってよいといったか」
どごっどごっどごっ!!!
「も、申し訳、申し訳ございません、ごじゃいませんんんんっ!!!」
「死罪だ、死罪だ、よかったな世界一幸せな死罪を受けることができてっ、ほら、どうしたっ
貴様が欲しがっておった、足ぞ、足蹴にされて、ほらっ、豚のように喜ばぬかっ!!!」
どごどごっ!!!
「ぎぃやあああっぁあうああああうううううあおおおおおおおっつ、つ、潰れる、つぶれりゅうううぉおおお」
「豚わな、ペニスを温められると勝手に射精するのだ、先のお前は、まさにそれそのもの、ほら、豚となれ
豚になるがいい、醜く肥え太った豚になれ、鳴け、鳴かぬかっ!!」
「ぴ、ぴぎぃいいっ、ぴぎぃいいいいいっっ!!!」
どご、どごっ
一通り蹴り終わった、すっかり平らに見える
いや、本当に潰れたのだろう、不思議な感触がぺたぺたとした
最初にあった、柔らかい感触がなくなって肉の塊を蹴るのと変わらなくなった
女王は、ふぅ、一息をついてから、あとは
茎を踏みつけた
「ほ・お・ら・ど・お・し・た・あ?」
「あぶう゛ふうううう・・・おぶほおおおおおっ」
ぶるぶるぶる、醜い男を一層際だたせる
世にもおぞましい痙攣、男はあぶくを立てて気を失った
女王は舌打ちをする、男の陰茎はだらりと無惨な姿になりながら先からは白い液体を零している
「つまらん・・・男は、痛みに耐えれなさすぎる・・・・、グラス、グラスっ」
「外におります」
「片づけておけ」
「かしこまりました」
ぎぃ、重い扉をあけて、つまらなさそうな顔をした女王が出てきた
奥では、びくびくと不思議な動きをしている肉の塊が見えている
すれ違う時、女王から甘い匂いを嗅ぎ取った
随分と満足された様子だ・・・
静かに安堵する
女王の身体は甘い匂いがする、主に情事の時に
多分、興奮を覚えた時にそうなるのだろう
グラスはそう思っている、その匂いをまとった時は
いつだって機嫌がいい、それを知って、安堵しながら
したくない仕事に、身を投じることとなる
「ああ、グラス、先の女はどうした?」
「は、私の部屋にて待機させております」
「そうか・・・」
もしかするともう一つ片づける必要があるか
つと、グラスはそう思ったが
咎めることも止めることもできない
ただ、目の前の肉の塊をどう運び出すか思案するだけである
そう、この場所には他にも名前があった
処刑場である
屠殺場である
女王の私室である
戦争論が読み足らないので戦争描写が
陳腐きわまりなくなっておりますが
イリュージョンなので気にしないでください(端的に言い訳すると最低だな本当に)
広告文句:醜いおっさんがイく第4話
(07/01/22)