Edelstein ”Karfunkel”


「これは・・・」

「貴様、俺の顔を知っているのか」

「いや、最近では知らぬ者を探すほうが難しいですぜ」

「そうか、気を付けねばならぬかな」

「それは大丈夫です、こう見えて、こういう場所は御仁の秘密を守りますので」

「そうか、だとすると、少し」

間をおいて、言葉だけ
ゆっくりとした喋り口調のおかげで
青年の動きの鋭さが、より際だって見えた
場所は娼街、青年は蒼騎士ゼー、相手は宝石商いりびたりの娼館の主
その主の前に、すらり、抜いた剣が突き立てられた
ゾス、鈍いというのか、木を擦り合わせたような音がしたと思うと
そこに残頭台が出来上がった

「残念だな、これは尋問になっちまう」

カウンターに突き立てられた剣、そこにゼーが乗り上げる
そして、主人の髪を掴み、カウンターに叩きつける
首筋に、突き立てた剣の刃が殺意を放つ
突き立てた剣先では、ゼーの靴が歯止めの役目をしている
あとは柄の部分に力を入れて、刃を寝かせていけば男の首が落ちるというわけだ
紙を裁断する器械にも似ている

「じょ、ご、ご冗談をっ!!」

「さて、ここに通い詰めている宝石商について調べている」

「ひ、ひへぃ」

「俺はお前が知っての通り、蒼騎士だ、その醜聞どこまで及んでいるか知らんが、ぬるく無ぇよ」

「うひぃ・・ぃぃっ」

「宝石商が、ついぞ先に来ただろう、どの部屋だ」

「た、助け」

「聞こえないか、それとも、流石高級娼館と言うべきか?客の情報守秘のため死ぬか?」

ぐい、無造作に力をこめた、刃は容赦なく首に傷をつけた
死期を悟る主人は、無理とわかりながら刃から離れようと
精一杯カウンターに這い蹲る

「いい姿勢だ、責め甲斐のある男だな、震え方が初々しい、叫べば首が飛ぶがな」

「お、お、奥です、奥の一番部屋です」

「奥?VIP待遇になってんのか、女王様も甘やかしすぎだぜ・・・もう一つだ、相手の女は」

「り、リズという、うちで一番の売れっ娘で、奴のお気に入りでしゅう」

でしゅう、って気持ち悪いんだよ
侮蔑の視線と、一瞬だけ、このまま首を転がすのも悪くない
そういう気分になったが、後々面倒は御免こうむると
ゼーは剣を抜いてカウンターから降りた
振り向くこともなく、じゃらり、金貨の入った袋を投げた

「通行料だ、指名料込みな」

「え、そ、ど」

「そんだけありゃ充分だろう、店一番の娘、貰ってくぜ」

言い終わる頃には、もう闇の続く廊下に消えていた
主人は、へこたれたまま、首筋の傷をおどおど拭いながら
それでも金貨の数を数えている
浅ましい、しかし、その浅ましい命と引き替えに得た金は相当だ
それに、こういった事はこの一度で終わって欲しい
そう思うだけで、奥でこれから起こることには一切関知しないと決心した
させるに足りうる金額を手に入れたらしい

「・・・・大人ってのは、要領がいいのか悪いのか」

ぶつぶつ言いながら青年は部屋の並ぶ廊下をずいずいと歩く
既に至るところから、最中の嬌声が聞こえてくる
若いが既に女を知っている、騎士としてあるまじきと言えるが
この国の騎士は神に仕える天使ではない
女王を守る人間なのだ、だから、淫行なにするものぞ
品行方正は尊ばれるが、適度に遊ばなくては人間らしさもあるまい
ともあれ、ゆるい、そういう騎士風がまかりとおる

「女なんざ、その場で口説いて姦っちまうもんだろうがな」

わざわざ金を払ってまで、女とどうこうするということを
彼はまだ知らない、恋愛めいたものも多分知らない
彼の知っている恋愛から性欲までの一連は
性欲が先にあって、一方的にいたした挙げ句、相手が惚れてくる
それのみだ、そういう性質の人物であるし
そういう経験しかしたことがない、そしてそれ以外に興味がない

どが、扉を蹴り開けた音、奥に光が少しだけ入る
ふるりと蝋燭の炎が踊った、ゆらめく

「!!」

「おう、久しぶりだな、羽振りいいじゃねぇか」

「あ、あなた様はっ・・・はぶっ」

半裸、いや、全裸か
薄汚い、たるみきった腹をぶよぶよと、そして油でぎとぎととさせて
醜い豚状のヒトガタを躊躇無く蹴り脅した
ぶひぃ、そういう音がしたような気がする、肺にきついのが入ったらしい
知ったことじゃない

「・・・女王様の前で、お前、嘘を吐いたらしいな」

「め、め、滅相も」

「五月蠅ぇっ」

どごぉっ、いらいらが急に募ってきている
若いから感情の制御ができない
言い訳はいくつでもできるが、蹴り上げるにつれて、不思議と
ゼーの瞳は嘲笑を浮かべて、やがて口の端を上げ角度を持つようになる
薄い、残忍な笑顔だ、ちゃちっこい表現がぴったりの嗜虐の笑みだ

「お前にゃ、もう用がない、石をよこせ、どこだ」

「ひぎっ、ひぎっ、ひぎっ、ぴぎぃっ」

「豚みたいに鳴くな、気味悪ぃ、どこだつってんだよっ」

どごっ、今度は殴りつけた、籠手をつけているから
その破壊力は相当なものだろう、若者は手加減というものを知らない
殴る時は全力でぶん殴る、宝石商は肉の塊という様相になってきた
ぶるぶると震えて、汚い液体を赤と言わず、血と鼻水と涙と汗と
ともかくどぶどぶと、澱んでいく
ゼーのイライラがさらに重なる

「お、おやめください」

「?」

か細い声、ああ、そういえば女も連れていくんだった
ゼーがうっかりでもない、当初の目的を忘れつつあったのに
いささか驚きつつ、声のほうを見た
色素の薄い女がいる、値踏みの視線で睨む
人を殴っている時だから、おそらく、女には相当恐ろしく写っているだろう
ちょうどいい

「お前が知ってるのか?」

「い、石は」

「り、リズやめ」

「黙れ、豚」

どずっ、アバラを折った手応えが脚に残った
あーあ、ゼーはこの汚い男を連行しないといけないことを
さらに思い出した、アバラだけでよしておこう
歩けなくなっては、連れていくのも面倒だ

「知ってるんだな、どこだ」

ゼーが訊ねる
暗がりに目が慣れて、女の姿がよりはっきりと浮かんできた
男は全裸だったが、女の方はまだ服が残っている
いや、ひょっとしたら着せられたのかもしれない
安くはなさそうな、赤いシルクのネグリジェのようなものが薄く身体に張り付いている
恐怖のせいか、脅えが全身を細かく震わせる
ゼーは、やれやれ、少し考えて、それなりに気を使ってみる

「よく似合っている」

「?」

「赤い絹が似合う女は、なかなか見たことがない」

「あ、ありがとうございます」

「おまけに、可愛い声じゃないか、怖いか?」

ゼーが近づいた、別段殺気のようなものは放っていない
純粋に目の前の女が、対象とした際にデキがいいと踏んだ
そういう下世話な話だ
ゼーは、更に、二、三と他のことで褒める
褒めながら、目は違うことを告げる、女はこういう目から言葉を読み取ることに卓越している
そうでなくては、女と言えない
ゼーの歪んだそれだが、リズは違わぬように口を開いた

「こ、ここに・・・」

おず、音がするような、おずおずした調子というのが出来ている
リズの指先は自分の下腹を示す
ゼーは一瞬理解に苦しむ、リズはそれを見て言葉を継ぐ

「中に、あります」

「・・・・ほぉ」

言われて、任務をこなす調子で
シルクのそれを、ゆっくりと身体に沿わせてめくる
びくっ、リズは身をすくめるが、気にすることなくゼーの手が絹を剥ぐ
太股が露わになる、その付け根、真ん中のほの暗いそこ
粘液が見える、しかしそれだけだ
確かに事後のように口を開いているが、そういたした様子は見えない
ゼーが、無造作に指を入れる

「ふぁっ!」

「・・・・・確かに、そうか・・・」

指先がそれらしいものをひっかいた

「出せるのか?」

「そ、それが・・・」

ふるる、身体のこわばりが戻ってきたらしい
露わになった白い肉が再び、細かく震えて
表面に粟立ちを覚えさせている

「い、いつもは、うまく出せるんですが・・・その、び、びっくりして・・・だから・・・の」

ぽろぽろぽろ、急に泣き始めた
ゼーは黙ってその女の動転を見守る
紡がれる言葉から、大変貴重な証言も得た
何度もこうやって、情事に用いていたらしい
男は間違いなく死罪だな、しかも凄惨たる死が与えられるだろう
その役目はゼーではない
ゼーの役目は、あくまで宝石の確保にある
一瞬、腹をさばいて取り出すということも考えたが、それを見透かしたように
ぽろぽろと涙は途方もなく溢れて、肩を抱きすくめるようにして
赤いシルクが皺を重ねている

「膣痙攣みたいなもんか・・・仕方ねぇな」

言うと、ゼーは卓上の酒壺を手にとった
中を確かめる、とろり、黄金の液体がある
ミード(蜂蜜酒)らしい、聖なる情事に用いられるそれが
娼館にあるところが笑える、そう思ったが、その粘りと不自然なアルコール度の高さに
別の目的も見えた

「これを使うか」

ごと、手にとった酒壺をテーブルに置いた
豚は後ろでひぎぃひぎぃと、喘ぎ声を上げている
歩くこともままならぬ様子だ
それを確かめつつ、ゼーが腰の布の留め紐を解きはじめた
泣いていた娼婦は、腹を割かれると思ったそれが逸れたことで
少し落ち着きを取り戻したらしい
目の前で、臆面もなく腰布を脱ごうとする男の肢体をよく眺めた

怖いとしか感じていなかったそれが、随分と若い青年だとようやく気付いた

どきり、そしてその若さと美貌に視線を
目の力を奪われてしまう
蒼を基調とした服装は瀟洒なそれだが、シルエットに逞しい体躯を想像させる
上質な生地を使っているらしく、己を飾る赤シルクと同じく、青年の体躯を影にしっかりと描く
ゼーが腰布を解き、上着を脱いだ、隠れていた素肌が、いや筋肉が姿をあらわした
美しい、整えられたそれ、暗がりで解る若さが匂うような張りのある肌
リズは思わず唾を呑んだ

「?・・・娼婦は、本当に淫乱なのだな」

「え、や、ち、違います」

「違うものか、年上の女は全部そうだ、若い男を見ると見境が無い」

ゼーはとりあえずの用意ができたらしく
一度前髪に手ぐしを通した、金色の髪がさらりと額をあらわにさせて後ろに流れた
色気がある、鎧と同じ蒼い瞳がリズを嘗める
どきどきと、魅入られたまま、地蔵のように固まったリズの前に
ずかずかと、ゼーは立ちはだかる
割れた腹筋から胸にかけてのラインが、一際美しいと思った
リズのその見惚れた視線を満足そうに見た後

宝石商を殴っていたあの瞳が戻った

ぐいっ

「きゃぁっ!!」

「折角だ、相手して貰おう、あんたにゃ言ってなかったが、さっき金を払ってきた、客だよ」

「う、あ・・・っ」

髪をつかまれて、のど頸を晒すリズ
そこに薄い瞳が侮蔑を投げつけつつ、キスをするほど顔を近づける
嗜虐の視線を投げ降ろしたまま、小さく囁く

「舌を出せ」

「ふ、ふぁい」

えろー、短い舌が喉から伸びて出る
口をあけて懸命に出している姿は微笑ましい
ゼーは、従順な姿をしげしげと眺めて、その舌をそっと吸った、粘膜が絡む

「ふむっ・・・んっ、、、ん、、、、んっっ」

リズがくぐもった声を出す、相変わらず
髪を強くひっぱられて、無理矢理上を向かされている
背骨が軋むようで辛い、それでも突きだした舌を懸命に奉仕させる
ゼーは、そんないじらしい姿など、気付くこともなく、適当に唇で弄び
先ほど確認したミードに手を伸ばした
瓶の首を持つと、唇を離す、つぃ、糸を引く
リズの身体を反転させる、背中を向けさせると、引いていた糸は輝いて消えた

「尻を高く上げろ」

「こ、これ以上わ・・・」

「まだ上がるだろう」

ねぶりながら、内腿から尻にかけてをゆっくりと撫でた、
ぶるぶるっ、その突然の感触にリズの下半身が躍る、恐怖と快感が入り交じっている
言われるまま、撫でられるままにつま先立ちとなった
細くくびれた腰、それよりも、背中のラインが美しい
肉付きは物足らなく薄いが、それでも肌理の細かさから肌触りが心地よい
その綺麗な背中に、とろり、瓶の中の液体を垂らす

「ひぁっ」

「黙れ」

琥珀色の液体は、思った以上に粘度が高い
どうも、そういう用に置いてあったと見える
背中にとろとろと貯まったものが、すぐに、尻の間に流れていく
頃合いを見て、瓶を置く、たっぷりとその液体を塗り込める
念入りに、背中からすくって、尻の穴の付近、そして己の分身にも

「ぁ・・・ら、乱暴には・・・」

「うるせぇ、力抜けよ」

ぬち、ハチミツでよく潤ったそこに頭を圧し当てた
ひくり、すぼまったそれが小さく答えたように動いたのが見えた
後はもう、見ることもない、ゼーが腰に力を入れる
棒は当然のように屹立して、固さに申し分がない、やすやすと
滑りのよくなったそこへと埋もれていく、腰をうまく使う
棒に手を添えて、支えるだけ、

のぬり

穴の出口をくぐった
亀頭がうずまったのが感触でわかった、そこさえ入ってしまえば
後はやすやすとうずもれていく、念のため、さらにミードを垂らしておく
とたりとたり、粘液が茎を包む、二度、三度、出し入れをすれば

「うぁああああっっぁうぅぅうあぁはあぁああっ!!」

「いい締まり具合だ、どうせ初めてでもあるまい、終わるまで砕けるな、よっ」

ぱちゅんっ、派手に音を立てた後は
ゼーの一方的な撞き入れが続く、ずぬずぬと陰茎は奥を求めては引き出される
ひたすらに叩きつける、女を気持ちよくさせるとか、そういうものではない
あくまで、自分さえよくなればいい、そういう慈愛のまったく存在しない性交
ぱんぱんと、腰を打ちつける音にあわせて、リズの嬌声が大きく、小さく
人というよりは、獣のように喉から音を発する

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っっ、うっんっぅぅぅっっ」

「ほら、もっと締めろ、力を入れろっ」

「ぅあんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっっ!!ひゃい、ひゃい、ひゃはひぃっ」

叩きつけられているせいだろう、リズの尻が赤く色を帯びてきた
ぴたりぴたり、肉がぶつかり合うたびに、その部分は濃さを強める
どんどん腰の振りが強くなる、立っていることが耐えられない
リズの膝ががくがくと、弱々しく内股に折れる
その姿にゼーが舌打ちをする、すぐに髪を掴み引き上げる

「い、いたぃっ、痛ぃっ!!!や、っ、痛いのやなっっ!!」

「黙れよ、突っ込みにくいだろ、腰を上げろっつってんだよっ」

どむどむどむっ、ベッドにつっぷした女の尻にむけて
ストロークを決して緩めることがない

「いやあああっぁうぁうぁうぁうぁうっっ!!うぐっ!、あうっ!!あんっ!!」

「売女が生意気に痛がってんじゃねぇっ、俺の締めるための奉仕はどうしたぁっ」

「ひひゃあああっっ、ご、ごめんなんっ、あんっ、あんんっ、ああんっ、こわ、壊れる、っりゅっ!!ぅあっ」

リズが苦しさに涙を流す
入れられる度に、暴力を働かれているという感覚だけが
全身を酷く震わせていく、怖い、怖い、早く終わって欲しい
思えば思うほど、言われるままにしてしまう腰を高くあげて
締まりをよくしようと力を入れる、その抵抗を超える力で
どんどんと撞き込まれる、犯される感触が、全身を嬲り続ける
それが、ようやく終わる

「よし、そろそろだ、いい加減、時間が無い」

「は、はやく、はやくっ、くださいっ、くださぁああいっっ」

「うるせぇっ、やるのは俺が決めるんだよっ」

「ごめんなしゃいっ、ご、ごめんなにゃいっ、やめて、もう、ぶ、ぶたないで、早く、頂戴っ」

「ケツ上げろっ」

「ふぁいいっっ!!!」

必死な女の哀願と、その自分の限界を示したような姿勢が
ゼーの支配欲を静かに満たした
眼下に見える、ケツを突き出す女の、その尻に赤く己が付けたアザを見て
腫れ上がった赤い腫れを見て、それでもなお、震えてつま先立つ姿を見て
ようやく、射精の感覚が腰を突き抜けた

どぶっ!!
リズの直腸に生暖かいものが染み込む感覚が広がる
それが解った、ようやく終わる、苦しかったことも怖かったことも
一瞬、緊張が限界に達した痙攣を見せてから、ゆるり
弛緩が全身に広がった

ぬぽぃ

抜けた、抜けたそれは、まだまだ屹立を緩めていない
ぺのん、と反り返ったまま天を衝いている
先から、白濁の糸が自分の尻に向かって橋を渡している

「んっ・・・・・・ふ・・・・ぁ・・・・・ぁ」

くたり、激しい運動の後、そういう感覚がある
ベッドに倒れ込む、じん、ふとお腹の奥に鈍い痛みを覚えた

「ふ・・・ぁ・・・ぁ・・んっ」

細かく震えながら、その痛みを逃すように
身体を少しよじる、上気したまま、目はつむっている
赤いシルクはすっかりと汚れてしまった
だが、それらが形作るものが卑猥さを際だたせる
ベッドに沈みつつ、ゆっくり、先を思い出したように腰を高く上げた
その拍子に、鈍い痛みをより強く覚えた
我慢できなくなる

「ふぅっ・・んぁっああっ」

がくがく、アゴを揺らして
股の間に強い痛みと熱を覚えた
いきむ、やがて、それが一杯になった

「ご苦労さん」

ぽとり、まだ濡れた石は確かに女から産み落とされたのだ
確かめてみる、やはり黒い、いや、より黒みが増したようにも見える
ゼーはとりあえずの任務の達成をここに覚えたのである

「やりたりねぇが、まぁいい、さて二人とも連行する、自分で歩けよ、わかってるな」

ゼーが一つ言って、先ほど使ったミードの瓶を持つ
直接口をつけて、ごくり

「お、意外と美味ぇな」

笑顔はやはり、子供じみたそれ
年齢相応のはにかみだ

港町

「導師!」

「おお、これは、マリーネ殿」

「ご機嫌いかがですか、ご無沙汰しております」

「はは、こそばゆい」

導師と呼ばれた男が、朱騎士を笑顔で迎え入れた
そこは丸を基調とした建物、教会と呼ばれる
相手の名前はグイ、彼が開いた宗教の教祖であり宗主である
導師というのが、その教義における最高位を示す

「わざわざ来られたということは、女王様からのことですかな」

「流石です、招待状を持って参りました」

「おお、10年の式典か・・・」

「ご出席は?」

「無論、女王様と、ツエク様の晴れ姿、間近で見られるという機会を逃すつもりはありません」

「ご冗談を、導師ならば城門は開いたまま、城内も宮中も思いのままです」

「はは、私はまだ至りませんからね、控えさせて戴いております」

マリーネは残念そうな顔をする
グイ導師は、紅の国と周辺諸国を遊説にまわっている
バンダーウ・グイという宗教を率いている
数年前に遠い東国よりやってきた優れた宗教家である
東国ではバンダーウという宗教の司祭を務めていたが
新たな教義と使命、なによりも神を見出し、新天地であるこの土地で新興宗教を立ち上げたのである

「急がれますか?」

「ええ、残念ながら、マイグレックヒェンが出陣しておりますので、城をあまり長く空けられません」

「遠征ですか、本来ならば私達がするべきところを」

「いえ、充分です、港や南部の地域のほとんどをグイ導師が治められた、それで充分です」

バンダーウ・グイには、僧兵団がある
エリートと呼ばれる私兵団であるが、全てがグイ導師のために
命を賭けて戦う者で構成されている
それらが、紅の国が手を焼いていた南部周辺を掃討してまわった過去がある
宗教が武力を持つのは古来からの習い、そして、政治と絡むのも習い
しかし、バンダーウ・グイは決して国に対して刃向かうマネはしない
むしろ、国が持つ軍事力の一つとなっている

バンダーウ・グイには、難しい教義や宗教的行事はまったくといっていいほど無い
あることは、貧しいものに勉強をさせる、ただそれだけである
政治に対してではなく、ただ、生きるためにどうするか
その手法を学ばせて、貧民に地力を与える、育む、そういったことに尽力する
紅の国は、その教義に表向きはいたく感服し国教として流布を許しているのだ
実際は、教育という難しい分野を任せたというところ
文武両道を教える教育省、そういった役目をグイ導師に与えているのである

「また、導師の説法をお伺いしたいものです」

「マリーネ殿ほどになれば、私から教えることは何も」

「いえ、私はやはり、実戦が足りませんから、血の、戦の、闘争のそれを」

グイ導師は、自分よりも遙かに若い騎士を見て
そして、その言葉を聞いて、心持ち優しい目を見せた
静かに諭す

「闘争は悲しみしか産みません、できれば、それを亡くすようにせねばなりませんよ」

「亡くすため、我々騎士は戦わなくてはならない、そうではないですか」

「ははは、確かに・・・しかし、貴方のように若い人にそれを任せることが・・・」

「侮られては困ります、言葉過ぎることと存知ますが、グイ導師よりも若いからこそ
ありとあらゆる力と速度を持って、情熱と昂揚を持って立ち向かえるのです」

「そうですな、若い人の特権だ・・・何も言いますまい、その力があれば
私の説くような、細かな戦術など意味がない」

「いや、そうでは」

困った顔でマリーネがしどろもどろと弁明をする
確かに若い、そして拙いが美しい
グイ導師は青年の姿を見て、ほとほと己が過ごした数年
この国に来てからのことを思い返した
随分と疲弊してしまったものだ

「では、式典では特等席をこしらえておきます」

「ははは、皆にやっかまれぬ程度にお願いいたします、時にゼー殿は?」

「相変わらずです」

「ははは、結構なことだ、それではまた」

「はい、導師もお体に気を付けられますよう!」

言って、マリーネはお使いを終わらせた
馬を駆けさせ、数人の騎士を従えて颯爽とグイの眼前より消えていった
グイはその背中を見守り、見えなくなったところで
ゆっくりと自分の仕事をまた始めることにしている
子供達に、貧しいものたちに計算を教える
今、それが最も港に必要なことだと、彼はそれを生業としている

「マリーネ様?」

「お前達は町外で待っていろ、少し用がある」

マリーネが騎士達を先に行かせた
それらが振り返らないのを確かめてから、細い路地へと馬を誘う
こじんまりとした通りに、輸入雑貨を扱う店がある
港に来る度、マリーネが密かに愛用している店だ

「おお、これはマリーネ様」

「ご無沙汰、何か面白いものはあるかな」

異国の物に囲まれていると
なんだか、不思議な気分に浸れる
マリーネはそういう安穏としたことを生活に求める性格だ
巧緻な細工物や、見事な絨毯、そういったものに心奪われることもある
何よりも、自分のおっとりとした調子が、その場所では
完璧な速度であるように錯覚できるから好きなのかもしれない

「最近は極東のものも手に入っておりまして」

「極東?交易が潰れていたのではないのか?」

「いやいや、最近、東国オーストのツィーゲルが、極東貿易に力を入れているらしく」

「へぇ、導師の故郷がねぇ」

グイ導師がかつてバンダーウ教を学んだ街「オースト地方ツィーゲル」
そこは、東西の貿易の中心として、クロスロードの役割を担って発展している
見せられたものは、美しい黒い箱だ、ぴかぴかとしている

「弁当箱か?」

「まぁ、そのようなものでしょう、が、細工が凄いのです、中を空けてみてください」

カタ、蓋を取ってみる
中は相変わらず、美しいつやつやとした素材だ
鉄でも、石でもない、表面に何かを塗ってあるのだろう
その中身の黒いそこに、輝くほどの金がちりばめられ、美しい絵画が浮かび上がっている

「な、なんだ・・・す、凄いな・・・」

「マキエと言うのだそうです、素材は驚いた事に木です」

「マキエ?・・・極東は、やはり、一度行ってみたいものだな、気に入った、貰っていく」

「おっしゃると思っておりました」

雑貨商は満面の笑顔で、金額を提示する
当然それに、どちゃり、金貨の入った袋を投げてよこす
無頓着なものだ、マリーネはほとほと気に入ったらしく
角度を変えては、にこにことそれを眺める

「マリーネ様にはお譲り甲斐があります」

「そうかなぁ」

「金持ちが、自分を飾る為に買うでなく、ただ、気に入ったからという理由で
そのようにたくさん眺められて」

「はは、また買いに来るさ、あ、そうだ」

白々しい?
商人はそう思ったが、若い男のそれを咎めるようなことはない
ただ、にこにこと上客の次の言葉を待っている
少し、顔を紅潮させている、マリーネは思い切った調子で言う

「櫛を探しているんだが」

「ほう?」

「その、じょ、女性向けの・・・」

合点がいく商人
だが、それを決して表情には出さない、そのいじらしい恥じらいを
なんとも、うれしく思ってしまう

「それでしたら、極東より届いたものがあります」

「おお、そうか、貰っていくよ、いくらだい」

「いえ、先の分で充分でございます、こちらです」

「いや、その悪いじゃないか」

「とんでもない、実は手前が女房に黙って、別の女に贈ろうとしたのですが」

「ですが?」

「女房にバレてしまいそうでして、それならばいっそと」

「その曰くはいらんなぁ」

「ははは、失敗しましたか、いや、間違いのない上品です」

「まぁ、いいか、ありがとう」

やりとりの後、商品を受け取って
馬にまたがり、マリーネは町を後にした
紅の国の騎士は若い
二人の騎士は若く、それぞれが青春を謳歌している

国のそちこちに、こんな若さが満ちあふれている

つづく

もどる

エロ話に気合い入れると行数が足らなくなるとか
そういう問題じゃないくらい、物語が無いです
ごめんなちぃ
(07/01/15)