Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.


グイを、追う

「・・・・・」

「顔色が優れませぬな」

「何人死んだ」

「・・・・・」

バンダーウの声は黙った
大きな損害を出した、港突入から帆船による爆撃
その後の交戦まではよかった、犠牲も出していたが
押せ押せで今一歩まで、実際、敵本部に
先発隊が突入を試みていた

「数え切れぬほどか・・・・・くそっ!!!!」

怒りを自分にぶつけるグイ、馬に乗り、急ぎ東ツィーゲル宮へと戻るすがらだ
停戦の後始末のため、翌朝までは港に駐屯した、その帰り道になる
戦況が一転したのは、デハンの後詰め、武威公が到着したからとも見えるが
どこの輩かともわからない、商隊の騎士どもが原因だろう
地上での戦闘なら、絶対に負けないと踏んでいたが
敵は戦巧者だった、市街戦でも、下手に打って出ず
バンダーウ方が攻めてくるまでじっくりと待った上で攻撃をしてきた
守勢でありながら、確実に攻め手の気勢を殺ぐやり方で苦戦を強いられた
その挙げ句、敵増援の到着

「しかし、グイ様は生き残られました」

「それがなんだというんだ、俺は司祭でありながら・・・・また、多くの民を、バンダーウの仲間をっ」

「いえ、彼らは貴方の為に、また、バンダーウの膝元へと旅立ったのであります」

「・・・慰めはよせ」

「そうでは、ありません、ありませんよ、グイ様」

ぐっと、熱情を帯びた調子で男はグイに告げた
驚いて、それまでの冷たい軍容などから想定していたそれらとは
似ても似つかぬ、感情に揺れた声に戸惑った
グイは、男の顔を見る、不思議でもなく愛するべき従者と重ねてしまう
あいつも、同じことをきっと言ってくれただろう
代替とするほど、グイはアサハカではない、あくまで憐憫を宿すに留まる
この男の叶わぬ片想いに他ならない

「いい、それよりも確かめなくてはいけないことがある、宰相だ、腕の宰相様のことを」

愛しい人を二人も亡くすなんて
それは神が与えたにするには、あまりにも辛い試練だ
グイの瞳は既に悲しみに支配されている
馬は走り、瞬く間に第1区に戻ってきた
どよどよとした教徒の動揺が見てとれる
グイの姿を見て、いくつかの歓声があがる、混乱は極まっているのだろう
他宰相は何をしているんだ

軍勢は当初よりかなり減って
今では黒衣も合わせて700程度だろう
それでもまずまずの軍団ではあるが、グイからすれば一人でも欠けることは
悲しみ以外の何者でもない、時に任務遂行のため、下働きの教徒を
ムシケラのように扱うが、それは、その後、間違いなくバンダーウの元へ
また、そういった満足感を与えて逝かせることができるから、さほどの問題と考えていない
犠牲の上に自分の作戦が成功することは、
証と言うか、誉れというか、彼らが無為ではなかったと思うはずだ
そういう詭弁やエゴイストのそれらをひっさげているから
彼の中で、その感情は一貫している
教徒を失うことは悲しい、無為に失うことが悲しい

「グイ様だ、前線の司祭様のお帰りだ」

「おおお、グイ様」

「グイ様」

あちこちから声が上がった
前線から引き上げてきていると思われる教徒が
グイの姿を見つけて、すがるように声をあげる
グイはそれに答えつつ、真っ直ぐに留まることなく進む
宮についてからは早足で廊下をかける
宰相達のところへと向かうが、途中

「グイ様」

「宰相様について、詳しく聞かせろ」

「いずれについて」

「宰相様といえば、腕の宰相様の他におらぬ、早く申せ、急いでいるんだ」

カリカリとした様子は以前のまま
それを見て、宮仕えの従者の一人は安心したようにして
主の怒る姿にむしろ、感激を覚えて言葉を零し始める

「前線にて、デハン方のサモン神官と交戦され、相当の深手を負って帰投なさいました」

「戻ってこられた時は、間違いなく生きていたのだな?傷は、どの程度だった」

「正直、並の人間ならばとうの昔に死んでいる、そう思わせるほどの深手、胸元が大きく裂けて
よどみなく血が流れておりました」

「医術部は何をしていたのだ」

「それが」

ここで従者は口ごもった
一瞬伺うようにその瞳を見てから、一つ

「容態が一時持ち直したように見えたのですが、シヴァ様が見舞われて、そのすぐ後に急変し・・・」

「・・・・・・・その時、他の宰相はどうしていた?」

そこへ、泣きながら童子が現れた
シヴァの従者だ
グイと話をしていた男は、童子を側に寄せ
グイに向けて、視線を飛ばした

「シヴァ様の従者が?」

「はい、グイ様、あの時はシヴァ様の奇蹟を止めようと、宰相二人が付いてきておられました」

「奇蹟を止める?」

童子の説明にグイは訝しげな顔をするが
子供相手に詰問するような調子は絶対に出さない
この男の性質とも思われる
じっくりと、子供の視点から言っていることを大人の、分かり易い言葉に変換しようとする
その上でわからないことは聞き返す

「私が門番をしておりましたら、お二人がシヴァ様をお呼びしろと邪魔を、拒みましたら、
小走りで帰っていかれました、信徒の祈りは、確かにあったのに、届かなかったのです、
グイ様、ごめんなさいっ、私の祈りが足らなかったのかもしれません、グイ様」

ぐしぐし、グイは黙って慈しむ視線を落として
その童子の頭を撫でておいた、何も言わないでおく
はた目で、子供をあやす優しい男だ
表面、グイの表の顔はそれを本当に心の底から見舞っている、これも一つの顔
裏面、グイの裏の顔はそこから本当のことを探している、これも一つの顔
表裏を同時に養うことができる
表向きが嘘というわけでも、裏面が真実というわけでもない
同時に二つのことをしているだけだ

「よい、仕方が無かったのだよ、お前が悪いわけじゃない」

グイはそうだけ言って童子をもう一度強く見つめた
童子はきょとんとした瞳を向ける

「いいか、お前の純粋な心は間違ったわけでも、至らなかったわけでもない
お前ではない誰かが、私のように高位なものが、真剣に祈らなかったせいだ、
お前が悪いのではない、私が悪いのだ、気づけなかったこと、祈れなかったこと・・・」

童子はしとしとと泣いたが、静かにグイから離れた
まるで、グイを解き放ち、先へと促しているかのような仕草だった
それを受けたグイは、当然のように、促されたままのように立ち歩く

「グイ様、いずれへ」

「シヴァ様だ、直接問いたださなくてはなるまい、どこだ?従者がいるなら、おられるだろう」

「ご存知でないのですか?」

こつ、石を打った足音が止まった
ずっとこの土地に、この宮に、東ツィーゲル宮に響き続ける
人の足音は、この石を蹴る音のそれだ
グイは振り返る、従者は答える

「今朝方、停戦の調停へ向かい、5区へと、童子は傷心のため置いておかれたのですよ」

「宰相も伴っておるのか」

「も、もちろんですが・・・・ぐ、グイ様?・・・!」

この時、従者は己の瞳に視力があることを呪った
一瞬にして憤怒にまみれた高位司祭の表情など
二度と消えない傷として心に刻むしかない
それを目の前に見たのだ
何かを、その司祭は叫んだが、彼は聞き取れなかった
それよりも、怒り狂った形相が、ただ恐ろしかったという

グイは今回の顛末に気付いたのだ

5区

作り替えられた壁、ここ数日の戦闘と雨の影響で
廃墟のようにそちこちが崩れている
その中央、戦が始まる前、ツィーゲルの中心でバンダーウ方に属していた広場に
急ごしらえの陣地(テント)がはられ
東西に両者の旗を掲げ、会場は作られた
空は晴れている、集まった人員は両陣営の重鎮ばかり
それらを守る護衛ばかり
下々の人間は一人も入れないでいる
戦災で焼き出されたのだから、居ないのは当然だが、入ることを赦されていない
5区内には、かれら政治家と軍人が揃っている
大多数が、宗教家である

「では」

声を上げたのは、宗教家ではないもの
この場で第三者となる者が、取り仕切った
西方よりの使者
赤い盾の国の貴族三名

「始めましょう、ここにツィーゲルにおける両教団の争いの調停を」

にこやかに、第三者は話を続ける
三人を上座にして、東西にそれぞれ、バンダーウ、デハンが陣取る
東側首座にシヴァ
西側首座にスビエ
そして、
下座に傭兵とその妻

上、東西はともかく、下について、一同不審を募らせているが
それぞれの長である、教祖は何一つ言わない
彼らが、そこにこの夫婦を置いたと思われる
上座の三人もいぶかしく思っているが、彼らが上座であることに
なんら不平も無い様子に気をよくして
この陣取りで始まった

「調停の上座へと、我々をご指名戴いたことまことにありがとうございます」

貴族はそう言った、真ん中に礼を見せた後
軽くデハン方へと笑顔を見せるそぶりがあった
本来ならば、彼らはデハン方であるのは間違いがない
だが、それをバンダーウ方は許している
戦の趨勢はバンダーウ方が有利であるための余裕だろうと貴族は思う

「では、先に両長によりご同意いただいている事項について」

一つ咳払いをした
そして続ける、演出じみている
笑いを堪えたようにも見える
事実はいずれだろうか

「一つ、本日をもって両教団の争いを停止する」

一つずつ条文を宣言してから
バンダーウ、デハンの順に、表情を伺う
沈黙をもって返事となす
何もなければ、承諾され進む

「一つ、デハン側よりバンダーウ側へ、停戦への友好の証として、金銀、食糧を贈る」

量は宣言されない
条文はもともと、二人の教祖が書いたものを合わせたのだから
スビエ王がよしとしなかったのだろう
だが、その量は圧倒的なものだと伺える
でなくば、バンダーウ方がここまでの譲歩、三者を席に入れるなど赦さなかったからだろう

「一つ、バンダーウ側よりデハン側へ、停戦への友好の証として、オースト地方西側の統治権を認める」

ざわ、デハン側がざわめいた
とりわけ、サモン神官の動揺は大きかった
実際、この条文については、スビエ王が一夜の内に書きあげたものだ
サモン議会を通していない以上、承認できる文書ではない
デハン内からすれば、これは公式文書にあたらない、王個人の勝手な約束だ
そこにサモン議会自体は激しい反感を覚えている
しかし、黙って見守る
金融公が処分されず、そのままの地位で、しかも同席を許されている上、
彼が何も言わないのだ、それ以外の神官が何を言える
政治に遅れた神官達は、趨勢を見守るしかなくなっている
今、デハンの政治はスビエ王と、金融公がバランスをとっている

(それにしても、西側を認めるなど、もともと我々のものではないか、馬鹿なことを・・・)

と、他サモン神官は全て思っている
これがバンダーウからの贈り物だとすれば、空箱を渡されたのと相違ない
憤慨はもっともだが、デハンの負け戦である以上、
バンダーウからすれば当然、あるいは足らないくらいだろう
黙る金融公は、感じ入った様子でそれを聞いている
この条文について、彼はスビエ王から相談を受けていた
処分されると思ったが、意外なことをこの王はした、金融公を知己として手を取り合った

(・・・王は頭がいい、サモン会議を無視することで、この条文については反故とする保険がかけられた、
王の独断だと言ってしまえば、いつでもこの条文全てを蹴散らすことができる)

クサビを打ったというのだろう
苦しいことではあるが、世界的に戦争の大義を語る時に必ず役立つ
金融公がかつて考えていた、一時、力を蓄えた上での反撃
その時を稼ぐための条文だと信じる、こんなことをバンダーウは知らないのだろうから受諾が進む

「そして」

シン、場内が静まった
いよいよ、最後の条文が読まれる
ここでまた、貴族は咳払いをした
今度ははっきりと解る
笑いを堪える、誤魔化すためのそれだ
両陣営は不審の目を飛ばすが、最早そんなものはどうでもよくなっている
一際大きな声で、貴族が宣言する

「一つ、今後争いを控えるため、ツィーゲル地区より両教団は撤退する」

今度はバンダーウ方からもざわめきが起こった
流石に驚いた様子で近しい教徒がいくつかシヴァを見る
だが、教祖は微笑みを浮かべたまま
うんうんと頷いてばかりいる

「その後、ツィーゲルは第三者による統治を求める、依存無いですね?」

わざとらしく強調して伺う貴族
望むべくした調略ができたと満面の笑みだ
貴族三人はありとあらゆる接触を試みていた
戦場で、グイと武威公に近づいたが些細なことだ、あんな様子で
それより以前、特にデハンとは通商もあり、金融公と相当の縁をとっている
デハンからすれば、第三の地区となった以上
少しでも親デハン派のものが治めれば好転する、デハンにとって問題はクリアしている
その裏で、バンダーウの経済宰相とも接触をしていた
バンダーウの宰相は利に聡い男で、その利潤を生み出す港を活かすシステムについて
港を手に入れてもバンダーウでは発揮できないことを憂えていた
そこで、肩代わりとするため、貴族達、とりわけ、西方の国との取引の有益を歌ってきた

「バンダーウ方も、シヴァ教祖、よろしいか」

こくり、頷いて沈黙をもって答える
ただ、沈黙でなければこう答えている
「よろしいもなにも、それは私からの提案である」と
貴族にとっては予想外ではあったが
これを好感触として、今後のよき政治材料にしようと思っている
デハンと癒着が激しいが、軍事的に、またオースト地方に今日をもって支配権を強めた
バンダーウとしては、こういった恩を着せることで
西方への派教を考えているのだろう、貴族達は喜んでそれに飛びつく、派教程度などと言ってだ

バンダーウの世界戦略への一手と
デハンの地盤強化への一手が
まったく同じ手になったのだ、運がいいといえばよいのか
政治とは、不思議な縁があるものだ
貴族はそう感じ入った

何もかもが好転するときは、こういうものだ
生まれついての楽観だろうか
選ばれた人間として、貴族として、ずっと生きてきたから
当然のようにこれを受け入れる

「では、お互いこちらにご署名を」

サラサラ、羽(ペン)が走った、そして
交換され、お互いがそれを確認した
これにて、この調停は終了した
まだ、場内はざわめいている、動揺が会議全体に伝播している

冷静なのは、貴族三人、両教祖
宰相二人とサモン神官

「さて、調停は終了した、残りの議題についてお願いしたいが、ツィーゲル統治におけることだが」

「左様、ここについては、もうシヴァ教祖と話をつけていることを発表させて戴こう」

両長が言葉を投げ、目を見て言葉を合わせる
初めて会ったというのに、息がピタリとあっている

「「カイン殿、および、ランディシー傭兵団に自治区を任せたい」」

昂揚をもった二人を指した

「なっ!!!馬鹿なことを、何をいきなりっ!!!」

「失礼ながら声が大きすぎる、貴族殿」

「何を、バンダーウ教祖っ、そのような冗談、まるで笑えませんぞ」

「冗談もなにも、何をそんなに怒っておられるのだ、第三者ではないか」

「馬鹿な、奴らはデハンに雇われ・・・」

「口を慎みたまえ貴族殿、デハンとしてはこの戦の終了と同時に契約が切れる、第三者である」

「スビエ王っ、貴方も、金融公、これはいったいどういう」

「よして戴きたい、まるで私があなた方と何か話をしていたみたいではないか」

「しら、しらばっくれるなっ、これまでどれほど昵懇としてきたかっ」

はた、ここで貴族はしまったという顔をする
当然そこを逃さない、狡猾なバンダーウの耳の宰相

「おかしなことだ、それではまるでデハン方だ、第三者とは言えませんな、貴族殿」

「それは、言葉の、揚げ足を取るようなっ」

「そう、先の会議は終了したのです、そもそもその場にあなた方が立たれているのがおかしいのですよ」

目の宰相も笑いかけた
先に接触を試みて来たときと同じ表情をしている
そういう男なのだっ、怒り狂うが貴族は下がらざるを得ない
怒りにまかせて傭兵を見る、そちらは涼しい顔をしている

「しかし、契約が切れたとはいえ、金で動く連中ですぞ、どれだけ信用があるというのだ、賤しい」

「今度は、品格に頼るか」

「何か言ったか?」

耳の宰相が小さく笑って、すくんだ様子で虚仮を飾る
すっかりピエロになりながら、演者はまだ板の上、貴族は踊る
傭兵が口を開いた

「納得のいく説明をさせていただきましょう、買ったんですよ」

「はぁ?」

貴族はマヌケな声で聞き返した
かりかりと、頭をかいて傭兵がもう一度言う

「買ったんですよ、ツィーゲルを」

「ば、ば、ば・・・」

「契約書が整ったんですから問題はない、バンダーウ方に8000を払ってますから」

「そのような金をどこから・・・・まさかっ、金融公っ!!いや、スビエ王っ」

「何か?」

王は笑っている、金融公は耳をほじって目を逸らしている

「何かではない、先の条文にバンダーウへと贈る品の内、量が記されていなかったがいかほどかっ」

「下世話な話ですな、お答えできませんよそんなこと、失礼だな」

「!!っっ、傭兵にそれを渡したな、傭兵にそれだけを投資したのかっ」

「人聞きが悪い、我々は契約通りの賃金を支払ったに過ぎない」

「ふざけるなっ」

「ふざけるのは、あなた方だ、さぁ、そろそろ退場して戴こう、調停者様」

皮肉の聞いた調子で、カインがそう言った
あわせるように、陣の外から彼の部下がやってきて貴族達を抱えるようにして外へと連れだした
何かをあれこれ言っていたが、もう聞こえない
場には元来あるべき者達が残った

「では、今後ツィーゲル自治区については、我々が自警団として治安を守り、
バンダーウ、デハン両教徒を迎え入れる、新しい地区とさせて戴きますこと」

「「確かに」」

両教祖が笑い手をとったと伝わる
そこにカインが遠慮がちに、それを後ろから妻が支え
三方の手が重なった

言うまでもなく、短期間で街の売買をしたのはローザヴィである

かくして、200年の諍いの末、新たに始まった闘いの調停が済んだ
両陣営とも相当の被害と消耗を余儀なくされた
200年続いたそれを、これ以上続けるのは無益だと感づいての、
破滅前の軽い自爆
ガス抜きに似た戦争だった
そんな理由で、何千という教徒の命が消えたのだが
それを正義とする政府が、支配しているのだから問題は無い

この戦いにおいてバンダーウは、
オースト地方における覇権と、
貧困を解消するだけの金銀、食糧を得て
今後の浪費に繋がる危険な地域を失うことで、一時的な安寧を得た
西に愁いを無くせば、バンダーウはさらに東への派教に力を入れられる

この戦いにおいてデハンは、
ツィーゲルと騎士と教徒を多く失った
元々人的数量が少ないデハンではこれ以上失うことは大損失だったが
それを止めることができ、なお、減らす心配のある危険な地域も失ったため、一時的な安寧を得た
東の愁いを無くせば、西でもう一度強い地盤を作ることができる
元来産業力を秘めた国造りがされている、内憂であった派閥が解体されたことも好材料だ

バンダーウが勝ち
デハンが負けたのは事実
バンダーウが大きくなり
デハンは生き残ることができたのも事実

それがこの戦争の顛末だろう、か



調停は終わり
両陣営が下がっていく、普通の戦争ならばこれでなんとかなるものだが
宗教や信条が絡むと、土地の人間同士の憎しみは決して解消されない
そこをうまくいなしていくには年月がいると信じられている
だが、おそらくバンダーウは前線にいたツィーゲルの民をまた地方へと移住させ
その気持ちを薄めていくだろう
デハンもこの地に留まることに益がない以上他へと移動する
当面はうまくいくだろう
両方にとって聖地がここにあるという教典だけが問題ではあるが
それは解決を見せられることとなる

調停会場から、夫婦は最後に席を外した
二人は昨夜、ようやくの再会を果たし、零れる涙の迎えと、熱い抱擁での応えがあった
この場でも、同じように、ローザヴィの瞳が濡れて、カインの顔が熱を帯びる
しかし、人目をはばかってか、先にローザヴィを帰し
カインは片づけを部下に言い渡すため、一時離れた

カインが一人で歩く

「カイン殿」

声がかかる

「武威公、お待たせ、しましたか?」

「気付いていたか・・・・・、愚問だな、策士殿」

柔らかいが、ぎこちない作り笑顔をカインは見せる
そういう仕草は気にしない、武威公はためらうこともなく剣を抜いた
銀色が天日に輝く

「貴様を騎士と思っていたが、とんだ間違いだった」

「・・・・」

「他のサモン神官や、王の考えることがよい決着なのだろうが、教義、信条により俺は貴様を赦すことができない」

じり、カインが間合いを取る
剣に手をかけ、するり、音もなく抜いた

「政治だの、統治だの、時流だの、趨勢だの、そんな難しいことはわからぬが、
俺は、自身の誇りにかけて問いたださなくてはならない」

抜いた剣を平に立てた
合わせて、カインも立てる
それだけで決闘の申し合わせが完了する
奇しくも、初めて彼らが出会った時と同じ
ただ、その時の相手は医術公だった

「最初から、貴様はここを手に入れるため取り入ってきたのだな」

「・・・・・全ての利害が一致したのですよ」

「答えにならん、騎士でもない貴様に求めるのは詮無いことかもしれんが、貴様の心意気で答えろ、
狭義に従ってついたなどという言葉、嘘でたらめであったということかっ!!!!」

「嘘ではありませんよ」

「俺には、貴様のせいで、治安公を失い、多くの信徒を失ったように思えて仕方がないのだ」

「・・・・」

「この戦、デハン、バンダーウのいずれも失いながら得たものがあるのは解った、
しかし、最も得るものが大きかったのは、貴様だカイン」

「仰ることは最もだしそれについては弁解できない、だが誤解もある、それを解く方法は・・・」

チャイン、二人の刃が翻った
お互いが半身になって構えた
一陣の風が二人の間をすりぬけた
確かめる為に、剣を用いなくてはならない

騎士の語らいは言葉を必要としない

つぎ

もどる







す、すいません、終わりになりませんでした(;´Д`)
結局説明しないといけないことが
山もりに残ってるせいで、また一話消化という具合に・・・ああ・・・

強引すぎて、鼻で笑える展開になっておりますが
暖かく見守っていただきたく
今暫く、おつき合い願いたく存じます

駄文長々失礼いたしました
R(06/01/30)