Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.
悪魔だ、悪魔がそこに居る、それも驚くほどの数が
罠を仕掛けた側であるはずのバンダーウ教徒の全てが
心の底から恐怖を味わうに至った
銀色の悪魔、実際、その勇姿、いや、彼らからすれば悪様を
聞いてはいたものの、体感はしたことがなかった
体感したものはほぼ、全てが死んでいるのだから当たり前だろう
それを眼前にして、その恐怖は、全ての肝をすりつぶした
バンダーウの教徒達は、その浮ついた心を沈めたいがため
己の信じる神の名を叫んだ、叫びながら
死んだ
強すぎる、理屈じゃない、これは力だ
カイン達傭兵隊はその自身の力の無さを痛感した
戦略や駆け引きに長けようとも、この戦場で瞬間の強さに関しては
まるで歯が立たないことを悟った
あまりに強い、規格外という言葉はこの時に振る舞われるべきだ
足りない頭でも、とても分かり易く説明されたように思われている
先を進む、銀色の騎士達、その全てが洗練された調練のたまもの
入れ替わり立ち替わり、躍るようにして、敵を殺し尽くしていく
手加減は無論、逃しもしない、かつて掃討という言葉を多く聞いてきたが
本当の、箒で床を掃くような、塵一つも残さない掃討はこの日初めて出会った
おう!おう!おう!
応答の声だけがしている、そして、美しい、全てが整えられた軍容が
ことごとく敵を粉砕していく、騎士達は銀色に輝き
その身が返り血に染まるのを、嬉々とするわけではなく
殺戮を仕事としてこなしていく、恐ろしい、ここまで割り切ることができる
その精神が恐ろしい
「隊長」
「言うな、俺達の出る幕はまるで無ぇ」
「戦争の概念がまるで変わるな、人数差だけは絶対に超えられないと思ったが、嘘だ」
目の前では数的優位を誇る敵を、ムシケラのごとく蹴散らしていく集団が見える
一糸乱れぬ整い極まった軍事行動は、完成された戦略行動は、畏れを知らぬその行いは
数による不利をものともしないのだと悟らされた
バイデン騎士団というのが、本当に特別なのだと痛感させられる
当然、これだけの数を相手にして、倒れる者もいる、が
倒れるものは満足の笑みを浮かべ倒れ、続く者は倒れる者を振り返らない
別次元の倫理がまかり通っている
ここだけはまるで異世界だ、だからこそこれだけのことをやってのけるのか
「いかんな、理屈ばってきた」
「どうした隊長」
「独り言だ、遅れないようにそれだけ守るぞ」
「最初っからそのつもりだ、が、隊長、気がかりがある」
「どれのことだ」
「あんたも解ってんのか、ならいいや」
傭兵達はひそひそと話をかわし
実際は喧噪の中なので、かなり大声で会話をしているが
先鋒隊に続いて、本当、拓かれた道を歩いていくだけのようにして
前へ前へと進んでいく、敵はなぎ倒されるばかりで、時折横から
思い出した攻撃をしかけてくるが、それは後続の医術隊に殲滅させられている
しんがりはしんがりで随分うまく敵をいなしている様子だ
もし、何かを運ぶという仕事をこいつらが請け負ったら、どんだけ稼げるだろうと
銭勘定をしてしまう、傭兵としてこんな仕事ぶりなら依頼殺到だろうに
武威公とはかなり離れてしまった
自ら離れたという気分も拭いきれない、だって怖いんだもん、近いと
とかなんとか思ったりしつつカインは、気になるところの整理をつける
黒衣の集団がいない、真っ直ぐに城近くへ向かってよいのか、しんがり報告で敵主力の声を聞かない
以上3点
最初のと最後のは、どちらかが見られればどちらかを消すことができる問題だが
どっちもいないというのは、判断しかねる
どこかに隠れているか、それとももっと別の
二つ目の疑問に繋がる、城ではないどこか主戦場となる場所があるのか
それはどこか、今からで間に合うのか
「見えた、急げっ」
!
いきなりの喚声に、気を取られる
どうやらデハンへの扉が見えてきたらしい
門は堅く閉ざされ、そこでは相当の戦闘があったのを伺わせる
脱出した壁からここまで距離としては短いが、密度が高かった
だがそれもほぼ掃討し終わったのだろう
希望が見えると人間は力を再度出すことができる
騎士達の動きがまた、一つ鋭くなった、疲れを知らぬ働きぶりで
門前に到達する
「カイン殿、中へ」
「!、いや、武威公、なんで」
「先導はここまで連れてきて、中に仲間を収容するのが任務だ、急いで入れ」
門手前まで来ると武威公が待っていた、門はもう開くのだろうにくぐる様子がない
鋭い視線とやや肩で息をした様子は、疲れを知らないといった遠目からの判断とは
まるで異なるそれだった、やはり疲れるのだ人間なんだ
カインは思い、滞るのを畏れ部下を先に進ませる
「よし、お前ら、中に急げ壁上から援護だ」
「アイ・サー」
またそれか
よくわからないかけ声に苦笑しながら、カインは武威公の傍らに馬を止めた
武威公は何か言いたげだったが、現状はそれを赦さない
すぐに指示を飛ばして、味方をずるずるとデハンの区画へと入れることにする
門は小さい、狭く、一度に殺到するには難しい
どうしてもこの門前で敵に追いつかれてしんがりが必要となるのが明らかだ
「なぜ行かない、早く城へと戻れ・・・おい、焦るな、隊列を乱すとその分遅れるだろうっ!」
「やはり、目指すのは城なのか?」
「ああ?そこ以外にどこへ行くというのだ」
「そうか、武威公はその、いつも戦場で戦略を立てる側なのか?」
「・・・・おいっ、けが人を先に入れろ、急げっ」
一通りが終わろうとしている、ただ、門がまだ開かないので
その前で人だかりができている
ここは5区と11区の間道だ
不規則に並べられた区という箱は、その隙間が道になっている
また、一部の区はそれら同士が隣り合って、同じ壁を共有していることもある
5区と11区は隣同士だが、一枚の壁も共有していない
だから区の間にこんなスペースと道があるのだ
「我々は槍でしかない、持ち手は神だ、神の声はスビエ王からのみ発せられる」
「そうか・・・ところでこういう場所はここだけなのか?」
「なんだ急に、それよりも質問ばかりするな、貴殿、何かあるのか?」
「いや、罠だとすれば、もう一つ何かある気がしてな」
「なんだと?」
「それよりも、こういうスペースが区画前にある場所ってのはここくらいか?」
「いや、貴様も見てきただろう5区と3区の間もこうなっている、もっともここは、
5区入口とは反対側の、この11区門より向こう側は袋小路になっているがな」
「そうか、もっと南の区画へと行く道は無かったのか」
「そこは厚かった、現状では苦戦を・・・・まさか」
誘導をされているのか、武威公はすぐに頭を回転させる
だが、彼の見通し力は本当に眼前のみしか照らせない
武威公の考えでは、誘導というのは殲滅するための誘導としか思いつかなかった
だが、もしそれを超えた目的に向かっての誘導だとすれば、
しかし、誘導されたとして11区の方向へと流されることがどうなのか
それはわからない、こういうとき、治安公がいればすぐにその理屈がわかるというのに
「カイン殿、これは罠だと申すのだな」
「ここよりも南に何かあるのではないか?」
「南、港があるが」
「ならば敵はそこを押さえるつもりなんだろう、敵の主力がここに来ないのはおかしい、
袋小路に追いつめながら、これだけ緩いのはどうだと、俺は思う」
雨足がまた強まった、遠くで壁の崩れる音が聞こえた
急ごしらえで作られた、バンダーウの罠が、その壁が倒壊を始めているらしい
この雨は幸いだったと言うべきだろうか、もう少し早くに降っていれば
今頃は、この罠に気付き、はまることも無かったろうに
しかし、雨のおかげであそこまで進めたのも確かだろう
恨めしく空を睨む騎士達
ようやく正門が開かれ、すぐに中へと退却が始まった
なんとかなったと、騎士は皆、そう思っている、そこへ声がいきなり落ちた
「バイデン騎士団、前へ出ろっ!!」
「おい、どうするつもりだ、武威公」
「貴公は、医術公とともに城へと戻れ、俺は騎士団を連れて南に向かう」
「無茶だ、道は他にもあるだろう、わざわざ敵の中を戻る必要は」
「そうも、言ってられん、この道以外は時間がかかりすぎる、それにアレが出て来たのなら」
どだっ、武威公が馬を前へと向かわせた
呆気にとられ、一瞬出遅れたがカインもそれに続こうとする
その眼前、敵が二つに別れるのが見えた
「武威公を畏れて、人の波が割れるのか・・・これなら・・・?」
カインは、その想像が甘いと悟る
斧が見える、大きな斧が
そこへ、勝るとも劣らない大きな槍が向かう
槍が向かう、大きな槍が
「宰相っ!敵が戻って参りました」
「なぜ・・・いや、好都合、貴様ら、準備を怠るなっ!敵は、かの銀色の悪魔だ、相手にとって不足あるまい」
「おおおっ!」
退却の尻を捕まえるぎりぎりだった、思った以上に敵の行軍が早く
逃してしまうかと焦っていたバンダーウの腕は安堵とともに
やる気を腹の底からにじみ出させている
目の前に、白い馬が近づいてくる
間違いのない、間違えようのない、その威圧的な槍に見覚えがある
「サモン武威公ぉおおおおおおおおおおっっ!!!!」
「バンダーウの腕がぁああああああああああっっっ!!!!!!!!!!」
馬に乗った騎士が、それも偉大な騎士、デハンの聖騎士筆頭がやってくる
武人としての、男ぶりが上がる、斧を持った彼は地に足をつけ
槍を持った銀将は馬に乗っている
斧の男は思う
「馬から降りろっ!!!!!!!!」
ぶぅうううんっっ!!!!
振り回されたそれは、長柄の斧ではない
手斧が飛んだ、しかも一瞬で二つ
宰相の両腕は、常人を遙かに凌ぐ太さ、その太さが裏付ける筋力
それが、この二本投げを会得させた
弧を描いて、敵に向かう
「小賢しいっ!!!!」
ズギィッ!!!
武威公はそれを一つ叩き落とす、しかし、一つが限界だ
もう一つが馬の首を殺ぎ落とす
やられたか、いや、そうなるのは解っていた
重い銀装飾の鎧は雨に濡れて、細かな光を鈍く反射する
雨音、雨粒を蹴散らし
空を飛んだ銀色の騎士が、敵陣ただ中へと飛び込む
どごぉっ!!!
鈍い音がした、一人殺された、やはり強い
腕の宰相はすぐに周りにいる味方を退かす
武威公との道を作る、武威公もイチモクサン、もはや
脇目をふることもなく宰相を目指してくる
「余計な横やりを入れるな、よいなっ!!」
叫ぶ、思わず武人の誇りがそうさせた
お互い、既に気がそれになっている
長槍、デハン武威の化身、ただランスのそれではなく
長柄の先に槍刃がついた、地上でも遺憾なく殺傷力を発揮するそれ
かたや
長柄の斧、宰相が持つ得意の殺傷器
柄の先に斧刃がつき、その柄尻には重さの帳尻を合わせるため分銅球がついている
並の膂力(りょりょく)では、これを振り回すことは叶わない
しかし二本の手斧を扱うこの男の両腕でなら、それが叶う
神に与えられた
両利きという、特殊な性質がそれを為すことを赦した
神の腕の名は伊達ではない、利き腕の概念を超える、腕という武器を持つ男
「ご高名な騎士殿に、同じ地へと降りて頂けるとはな」
「ゴタクはいい、俺は急いでいる、死ね」
言葉遊びをする余裕すらない
銀将は、槍をすぐに繰り出した、真っ直ぐに伸びるそれは
鮮やかにかわされる、しかしそれを薙ぎ払われることもない
斧の、破壊音を伴う回転撃も、なんなくあしらわれる
周りには追いついてきたバイデン騎士団員と
斧の宰相の部下達が小競り合いを始めている
どちらも、この両雄の勝負を邪魔させないため、
また
反するように己の将に加勢するがために、
それぞれが必死の戦闘をしている
近代戦では一騎打ちなどというナンセンスは成立しないはずが
どうだろうか、今、この場にその機会が訪れている
「ぬせぇいいっ!!!!!」
「ぬごぉぉああああっっ!!!」
ぶぅんっ、ガギィィ
火花を散らして、雨の下二人の男は武器を当て続けた
振り回される斧に対して、突く引くの攻撃を繰り出す槍
双方、どちらも良さを引き出しつつ、相手の良さを殺す
じゃいっ、足下がぬかるんでいる
やや足をとられる様子が両者に見られるが、それぞれの
銀色の鎧と、鬼の装束は、雨を弾き、敵の攻撃を弾いて
今を造り上げる、ギンギンと金属の音が、競り合う二人の
本体、身体から少しだけ離れた場所で発生しては消える
「どぁああああああっっ」
斧がとうとうその姿を消した
速さが、視力のそれらを凌駕した
消える斧先は、一瞬遅れて地面を深々とえぐり取っている
間一髪で武威公はその一撃をかわした
かわした拍子、背中のマントが大きく翻った
水を含んだそれは重く、それでいて、大きく雄々しくはためいた
まるで戦旗のように美しい
「せやああああああああっっ」
半身でかわした姿勢から上段に構えた槍を
ナナメ下へと向けて、刺し出す
こちらは見える、見えるが、その力は防ぎきれるそれではないと
目に見えてわかる、斧を地面に食われた宰相は
その両腕を、さらに太く膨らませ、柄の部分で槍先を封じた
常態では考えられないような奇蹟だが
これは二人ともの技量が極まり、起こるべくして起こっている
「ぜいぁっ」
ごいっ
「ぐぅぅううっっ」
受け止めた宰相はそれを横薙ぎにして、すぐに土を食った斧を
全身の力を込めてもう一度空へと放り投げる
斧尻についた分銅が地面を叩く
反して、湾曲した柄から、勢いを得た斧が武威公の首もとへと向かう
しかしそれを槍の尻で下からついてかわす
こちらも膂力は尋常のそれではない、銀色の騎士はまたマントを大きくはためかせた
それは彼が翻ったから起こったのだが、そうだと気付くのに
時間があまりにもかかりすぎる、そう気付く前に
翻った武威公の槍が半円を描いて遠目に柄の部分を薙いできた
ぎゃんっ!!!
「くぁっ!」
どごっ、当たった瞬間、不規則な揺れと唐突な振動が
槍から出たのか、斧の宰相が発したのかわからないが
斧の宰相の横面を槍の柄が殴った、ばいんっ、音としてはそんな
槍の柄がたわむ表現をまとい、その衝撃全てが
斧の宰相の兜の下へと浸透したのが見えた
間髪は入れられない、武威公は勝負に出る
たわみ、暴れる槍をもう一度握り直す、そしてするり、槍尻の方向へと投げた
空に向かい槍の尻が伸びる
ぴたり
しかし、その槍先は武威公の手、槍を支える手のわずか手前で止まった
そこで握り直しを完成させたのだ、槍尻が長く空を突く
槍先はナイフのそれと同じ長さになった、その長さのまま
「ぜやああああああああっっっ」
武威公の渾身の一撃が拳とともにふり降りる
雨とともに、槍の雨が降る、そして、血の雨が降る
拳をハンマーのように振り下ろすのと同じ要領で
槍先が全力と全体重を載せて、一人の人間の首もとへと落ちる
振り下ろされると形容しても構わないような勢い
じぎぃっ!!!!
「ぐぬぅぅぅぅうううううううっっ」
紙一重、槍先を握り、斧の宰相はそれを致命傷に至らしめる前に止めた
わずかに首もとに突き刺さったそれは、とても冷たい
銀色は冷たい色だ、悪魔の無慈悲なそれを写している
斧の宰相はそう感じ、その悪魔の武器を握りしめ押し返すことに全力を注ぐ
銀色は神聖な色だ、神の力のそれを顕わしている
槍の聖騎士はそう信じ、神の力が宿りし武器を、まさに神敵に向かい突き立てようと全力を注ぐ
ぐぎぎぎぎぎぎ、
恐ろしい力相撲となる
斧の宰相の劣勢を悟り、部下がどうしても助けに入ろうとするが
銀色の騎士達がそれを必死にくい止める
矢の類も、全てこの銀色の鎧に弾かれてしまう
雨が酷い、視界が暗く、そして冷たさが身体をすくませる、いや、堅くさせる
そのために、彼らは実力を軽装から繰り出されるそれらを見せることが叶わない
「ぬおおおおおおおおおおっっ!!!!」
聖騎士は大きく叫んだ、渾身をもう一度込めて槍先を
いよいよその首の奥へと立てようと咆哮とともに発揮する
しかし、それを易々と赦さない力を、この組み合っている男は持っている
いや、むしろ
「ふぬぅぅうううううううううっっ」
押し返す、盛り返す、跳ね返す
手先からは刃を握ったそれから、ずるずると血が流れて伝う
その鬼装束を赤く染めるが、もはや泥と雨を受けたその装束は
随分と汚れてしまっている、今更注がれる赤い血は
むしろ彩りを添えたようで、殊更美しくこの男を飾った
髭を揺らし、また、押し戻し、むしろ自分に優位なところまで返してきた
槍先はすっかり首から抜けている
そこから、とめどない血が溢れるが、それは
力をこめているせいだろう、失血で死ぬことはない
がぁ、がぁ、がぁ
アヒルの鳴き声のような
激しい息づかいがそこにある、周りの喧噪はまるで聞こえない
お互いの顔を凝視し、いや、その眼も雨が入って霞んで見える
声というか音と、その熱源を感じて二人は相撲を続ける
しかし、その相撲も終わる
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
お互いから声が無くなった、気合いから発せられる音の類は
いよいよその姿すらも見せる余裕をなくし
渾身を込めた二人の腕は、ぎりぎりと骨と言わず鳴るかのように
細かく震え、太く、膨張している
瞬間が訪れようとしている、二人それを感じる
その
形容するのに難しい、むずむずと鼻が感じ取るのだ
匂いではない、気配は鼻で感じ取る
吸う空気に多分、その予感が孕まれていてそれを感じ取れる器官は
鼻に備わっているのだろう、お互いの呼吸が呼応していく
同じ脈と、拍動を刻むことになる、この拍動はもう二つに別れることはない
なぜなら
次の瞬間に一つは止まるからだ
ぎぃんっ!!!!
「ぜやぁあああああっっ!!!」
同時にだろう、武威公が今一度の咆哮とともに
両手で掴んだ槍に力を注いだ、再び先が宰相に向かう
だが、宰相はこの盛り返した時間に充分のゆとりを持っていた
槍先が外れた、一瞬時が止まるようにお互いの位置は空を掴んだままになる
武威公の体勢は前に泳いでいる、バンダーウの腕は槍先を外した方向に崩れている
持ち直す、同時に、宰相の右手は震えながら、力をこめすぎて
まるで利かないかと思われるような腕を器用に滑らせ
腰元に控えさせている小斧を手に取った、とったまま
留め金を引きちぎって、振り上げた
腰から捻りを加えて斧が騎士の首に飛ぶ
ぶぅんっっ
また、止まった
振り上げられた小斧は、空を切り裂いた頂点で止まった
その先にかち上げられた槍が舞った
銀色のソレは雨空に吸い込まれるように空へと消えた
神の槍は失われた
「くそがぁああっっ!!!」
慟哭が響いた
宰相の声だ
その悔恨極まりない色を帯びた声は、切なくどんよりとした雲に向けて放たれた
渾身の一撃は槍のみと空を食い、その隙を逃すほどこの騎士はやわじゃない
乾坤一擲、神の槍をもってそれを防いだ騎士は、命よりも大切と思われるそれを
空に飛ばされて尚、マントは空へと翻り、本人は地面に這うような姿勢になって
槍を手放した右手に剣の柄が握られている、逆手で握られている、
ちぃぃぃぃいいいいいっっっ
そして、しゃがみ込んだ姿勢から立ち上がりザマ、こちらも
腰を大きく捻る、マントは空に上がった後、飛沫を散らして左右に一度
大きく半円を描いた、空から見たら、おそらく
飛んだ槍は見たのであろう、その美しき半円を
その半円の下より輝きを放ち現れた、長剣の姿を
キィィィィィィ、
剣が鞘を走る、装飾を施したその金は輝きと鉄飛沫と火花を散らして
その刀身を露わにさせた、ナイフよりも長いそれだったが
武威公の力と実力はそれを逆手で用意に抜かせしめた
逆手のまま、身体を反転させた勢いをそこに宿し
刃は敵の身体の上を滑った
薄く、刃の立ったその一撃が、やすやすと
鬼の装束を、赤く、黒く、茶色く彩られた敵の美しき姿に
仕上げを施す
赤い線を引き、真二つに割く、シュールレアリズムを思わせるその作品をついに
完成せしめた
きゅわん、音が鳴って、全てが終わる
刃は銀色に輝き、真っ赤な波動を走らせた
ぐわぁっ、音が、声が、何かが聞こえただろう
武威公はその瞬間に反転した後、相手に背中を向けている
必勝のそれは捨て身のそれと同意だ
相手が生きていれば、この格好ではやられる
が、それを赦さない渾身が
炸裂したのだ、槍が落ちてくる、ヒュン、と
鋭い音とともに、地面に突き刺さった
マントが、翻ったマントが降りる
同時に敵は地面に前から攻撃を受けたにも関わらず
前のめりに倒れた
背中に傷はなく、それでいて、前に倒れる
完敗だ
武威公は思った、沈痛な面もちで
生きながらえながら、負けを悟った
騎士の、いや、サモン神官としてあってはならぬ、神の槍を奪われたこと
また、敵に踏み込まれたまま死なれたこと
何一つ勝ちの要素はなかった、不覚をとった
バンダーウ如きに、不覚をとった、この偉大なる武人の前に
ざぁああああっっ
雨の音がまた、耳に戻ってきた、余韻
それを感じる間はない、周りの戦況にようやく眼を配ろうと
武威公は立ち上がる、立ち上がり、その一つの戦いから
集団の戦いへと、気持ちを切り替えないといけない
しかし、全力の一騎打ちからすぐに、そんな状態に戻れるはずもない
「武威公っ!!!!」
ジュィンッ
刃が走った音が近くでいくつか立った
そして、走り込んできた一団が解った
顔を見て、見知らぬ者だと判別できた、つまりこいつらは傭兵か
カイン殿がまた
「何をしている貴公らは、城へと」
「ほっておけるか、あんたを失う方が今後やばいだろう、戻れ、もう港は諦めよう」
「何を・・・」
と言いつつ、その劣勢をようやく悟ることができた
敵の大将を潰すことが直接の勝利に結びつかないと
当たり前のことを目の前にする
敵の数はまだまだ、腐るほど目の前にある
騎士達は確かに、気力を充実させ前へと出ようとしているが
今の一騎打ちの間、少しでも前に進めたか
それは否だ
皮肉にも、敵大将には踏み込まれて終わられている
劣勢だ、劣勢なのだ
「劣勢かっ」
「そうだ、だから戻ろう、武威公、あなたの武威は充分示された、相手が浮き足だった今、
戻るだけの時間は稼げている、戻るんだっ」
頭に血が上った、とは言い難いが、ただ
目の前に示された情報から乏しい知識と考えから
わけもわからず、敵陣に突撃をした
ダメだ、これはよくない時の気勢だ
いつもはこんな時、決まって諫めるのが治安公だった
その役がいないから?そんなの理由になるわけがない
「すまぬ、戻ろう、港へは、遠回りだがデハン側から通路がある」
「そうしよう、先導を頼む、武威公」
神の槍を再び手にとり、退却を始めた
見た目、勝ちはした、が、
これは負けなのだ、返り血に染まった銀色の体躯は
雨を受けて、酷く疲れていることをようやく思い出した
門をくぐり、それが閉まる音を背中に聞いた
一時、司令官を失った敵は追撃が整わなかったのだろう
バイデン騎士団はまだ、それなりの勢力を保ちつつ
医術公の手当を受けながら、この前線を保つこととなる
武威公のみ、城へと向かう
いや、武威公と傭兵隊が戻ることになる
☆
サモンの部屋に再び王が戻ってきた
「戻りました」
「スビエ王、5区より武威公ならびに医術公が脱出成功したとのこと」
金融公がすぐさま報告をしたのはそれだった
そこに、治安公の名前が無いこと
それが気がかりだが、口には出さなかった
出さない代わりに、瞑想と称し練っていたことを訊ねる
「港の守備にはどれほどの兵力があったか?」
「港ですか?騎士を50名ほど、守備隊員は100名ほどだったかと」
「そうですか、それだけ居ればなんとかなりはするが」
スビエ王は黙った
考えをほぼ整えている、情報も揃っているから
政治の視点から今後を占うことができる
おそらくバンダーウもそれに気付き港に攻撃をしかけるだろう
だが、港はバンダーウに決して落ちない、確信があった
落ちないが、我らの手もとにあるとも言い難いか
スビエ王は頭を抱えるまでもいかず
だが、あまりよい心地を覚えていない
今は、手駒が城に戻ることを切に願っている
もう一度、作戦を練り直す時間が欲しい、その願いは武威公に届くだろうか
それを考える
せめて兄が前線でそう告げていてくれれば
治安公を思い、絶望的な観測からは眼を逸らそうとしている
デハン方で、治安公の行く末を知る者はまだ、誰も居ない
だが、スビエ王のみは
その末を推測している、悲観的なそれは、認めたくないそれを
黙っているところ報が届く
「スビエ王!、前線に居られました、武威公、また、カイン傭兵隊長が戻られました」
夜が更けてきた、雨の日はまもなく終わるだろうか
雨の夜の西ツィーゲル城は、空模様そのままに
暗い雰囲気を醸している
話進んでねー(;´Д`)
集団戦略とかかっこいいこと書きたいなぁとか
思ったりしてた裏で、やっぱ、一騎打ち入れてぇなぁと
思わず入れてしまったばっかりに、ああ
一話無駄に使ってしまった・・・
そんな具合でありますが、とりあえず見直しもせず
仮更新しておこうと思うところ
明日出張なのにいいのかとか
近況を織り交ぜつつ
駄文長々失礼しております
R(05/11/21)