Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.
東ツィーゲル宮
「シヴァ様・・・」
「さて、ここからが正念場となるであろう、神の力はここに降臨している、我々の
信仰が問われる時が来たのだ」
静かに、それでいて力強い
神々しさを帯びた教祖の声は、耳の宰相と目の宰相を
溶かして、沸騰させた
観念的に、もう、宗教心という安い言葉では表せない力が
二人の権力者に漲っている
1区にあたる東ツィーゲル宮から見える、3区と5区の攻防戦
3区に、負けを覚悟していた腕の宰相のもとに、神の声が届いた
「神の声」という名の、戦士達が姿を現したのだ
漆黒の姿、黒い旋風(つむじかぜ)、絶対の力
予定よりも早く、それらは降臨し
瞬く間に形勢を逆転せしめた
飢えに苦しみ、全ての事象に嘆いた信徒達も、その突然の味方
あまりに強力な味方に、心を奪われ、躍らされている
シヴァは、全てを見越した上で、最高のタイミングで
その最も愛するべき味方を投入したのだ
予定よりも半日早い登場、そして、ただの登場ではない
後方、地方への遠征から、兵糧という土産を持参した
これで、港を攻略する時間を稼げた
目の宰相は、そのあまりにも予想外で、それでいて最高の贈り物に
感謝をしてやまないでいる
全ての目算がこれで立つ、持ち帰られた物資は
実質3日ほどしか保たないだろうが、それで充分、その間に
デハンの補給線を抑えることができるだろう、しなくてはならない
そうすることによって、長引くかと思われた戦は
瞬く間に終結するだろう、バンダーウの勝利という帰結
「腕の宰相の戦ぶりが見物だな」
「はい、もっとも早い情報がここに集まります、シヴァ様」
得意げでもなく、気の利いた台詞だと自分で思いながら
耳の宰相は恭しく、額を床にすりつけた
やはりこの人は偉大なのだ、神の声を聞けるということは
こういうことなのだ、滲み出る功徳とも言える、神の光を仰ぎ
東ツィーゲル宮は、相変わらずの球体構造を解放している
空気が澱むことがない、それでいて音は自然ここに集まる
美しい建築が、とても自尊心を満たしてくれる、宰相二人は、酔っている
そう言っていいものだろう
「・・・・恐ろしいものだ」
戦斧を持った、腕の宰相は目の前で
あっと言う間に戦場を蹂躙していく黒い部隊に釘付けとなった
自分の部下と、今まさに、負けるための戦をしかけようとした矢先だった
あまりにも唐突で、あまりにも正確な、それは神と言うに相応しい
憎むべき異教徒を一瞬にして祓い、瞬く間にバンダーウの光をそこに宿した
美しき漆黒の部隊「神の声」
戦闘のエリートは、どこまでも美しく、そして強いと知らしめて輝く
「白い闇に、黒い光か」
呟いて、その寒気を催すような詩的な語感に嘲笑を浴びせる
だが、心の内はふつふつと沸き立つように煮えている
凱歌が聞こえる、バンダーウの祝福を謳う、信者の声がのぼってくる
その歌声が、追い立てて、5区の囲いを少しずつ小さくしていくのだろう
戦の宰相もすぐに仕度を整えた、作戦は当初と変わったが
結論は一緒だ、勝つために戦う
「いくぞ、遅れるな」
戦の宰相を先頭にして、闘争に参加するバンダーウ教徒は次々と集まっていく
うぞろうぞろとその姿を膨らませて、5区の壁へと向かう
それをのぼって壁向こうへ進行を試みようと、とりついては落とされ
まとまりはないが、持続的な攻撃が続いている
バンダーウがもっとも得意とする、長時間の攻撃が続く
その間、止むこと無い歌声、それが雨の音をかき消して
ざくりざくりと、一歩一歩重たくなる己の足をさらに前へと押し出している
「敵がとりついてきてる、どうする」
「黒いのの様子だ、それが一番だ」
「雨でよく見えないが、壁にはいないらしい、遠い、距離50くらいだ」
カインはそれを聞いてすぐに振り返る
復活した虎の子が、それを待っていたように整っている
「よし、一撃、距離50、方角はこれでいいか?」
「ちょい、右」
ぎりぎり、音がしてぴたりと動きが止まった、そして直後
雨の音、不気味な歌声、鳴り止まない喧噪
それらを全て台無しにしうる、どでかい一撃が雨空に吸い込まれた
「どうだ!!」
「命中っ!!やったぜ、ありゃ2,30人は・・・!!」
ぱすっ、軽い音がして、壁の上の物見が落ちてきた
即死、眉間を射抜かれている
わらわらとそれに集まる仲間だが、その暇もなく
その矢は、そこかしこにいる味方全てにめがけて降り始めた
「雨の次は、矢玉かっ」
「盾で防げ、防ぎつつ、次弾装填いそげっ」
壁の上で必死に射返す傭兵達も死にものぐるい
必死の形相で、それらを迎え撃っている
物見の一人がかけてくる、カインに告げる
「妙だ、妙な兵器を持ってやがる」
「兵器?」
「ああ、矢が異常に強い、それに速射が可能になってる、弓ではないもので撃ってきてる」
「弓じゃない・・・噂にきく、ガンとかいう武器じゃないか?」
傭兵達が口々に噂する、カインもそれを知っている
女子供でも、容易に矢を射ることができる便利な道具があると
だが、実物は用意するのに時間のかかる
後ろでちんたらやってる虎の子大砲と同じようなものだったのだが
「最新式なんだろうか、いかんぜ、黒い奴らは全員あれを装備してやがる」
ひゅんひゅんっ、鋭い音が雨に混じって聞こえる
矢が弧を描くではなく、真っ直ぐに貫いていく
明らかに強い、強弓を速射しているにしては早すぎるし
しかも正確だ
「厄介だな、先の玉でどんだけ蹴散らした」
「死んだあいつの報告が確かなら2,30が適当だろう、まだまだ腐るほど居るぜ」
「隊長、敵、増援が到着の模様」
「そんでもって、それかよ」
傭兵達がすっかり倦んでしまった
戦勝目の前での敗走というのは、とことんまで
やる気をそいでくれるな
カインは、焦燥にかられるが、それだからといって、ほいこら
ここを退却するわけにはいかない、前向きにとらえるなら
あの強力な輩をここに引き止めているという非常に重要な仕事をこなしている
「いかん、味方に死人が増えだした」
「今、どんだけだ、正確に数え直せ」
点呼をとらせる、その間に二発目が装填できた、すぐに発射する
やや遅れて、大きな着弾音が響く、だが、それに臆した風もなく
バンダーウの歌声がじわじわと、心を締め上げるように迫ってくる
馬鹿にならないものだな、カインは現状を悲観する
敵の声がずっと聞こえるというのが、こんなにも重いことだとは知らなかった
戦場でまさか歌声を聞くなんて機会がくるとは
雨は相変わらず降っている、それだけが今は唯一の救いのように思える
現状、ちんたらとしている作業は全て、この雨のおかげだと言える
こちらも準備が進まないが、相手も攻略が進んでいない
さて、どうしたものか、陽が落ちたらしくすっかり暗くなりつつある
相変わらず味方との連絡はとれず、ほぼ孤立していると思って相違ない
「隊長、黒い奴らが引き始めた」
「なに?」
「いや、増援と交代したような具合だ、まずいんじゃ」
「まさか」
治安公が本隊で向かっている先か?
そこへ向かわれるとなるとこの話は破談となる
引き止めたいが、流石に外に出るわけにもいかない
「数、現在186人」
「減ったもんだなしかし」
「まぁ、ほとんどは怪我で済んでるけどなぁ」
この人数ではもう無理だろう、カインはそう判断して
黒い敵は諦める、時間からすれば、突入が間に合うだろう
雨で作業が遅れていなければ、そう思っている
いや、そう信じることにした、これからは次のフェイズを考える
「よし、退却の準備にかかるぞ、お前らの大好きな遅延戦闘だ」
「またかよ」
言って、カインが立ち上がった、そこに流れ矢が飛び込む
スカンッ、音とともに矢を粉砕する、剣には傷一つない
相変わらず格好をつけさせると派手さと美しさでは引けを取らない
バイザーをおろせば騎士と言われても違和感がない
傭兵隊長が壁に上る、部下がそれを見て行動を悟る
配置が転換される、傭兵隊の遅延戦闘という劇が幕を上げた
☆
話は少し前のことになる
治安公のこと
「間もなく開通、あ、光がいよいよ」
壁を拡げて進めてきた、腰くらいまで水がきていたが
ようやく終端に辿り着いた、男達は少し安堵する
ぱらぱらと天井が少し崩れる、崩落の危険を覚えたが
先に抜けてしまえば問題がないと思える
「先にここを空けて、通りやすくしておくぞ」
治安公のその声がひきがねとなり、穴はいよいよあけられ
ついにデハン側の人間が東ツィーゲル宮のある第一区へと足を踏み入れた
外は雨、鬱陶しいそれがずっとまわりの音をかき消している
「バイデン騎士団はまだか?」
「雨で少し行軍が遅れている様子です、間もなく」
その刹那だった、敵の声が聞こえ
そして後ろの天井が崩れた、一瞬のことで混乱したが
治安公はその一つ一つから現状を把握しようとつとめる
悪いことが起きている、それもとてつもなく
そう思った時には、敵の声が耳に届いていた
「今だっ、後ろ落とせっ!!!」
罠か、いや、露見したのかこの作戦が
絶望で真っ暗になりかける
後ろを振り返る、騎士団がすぐそこまで来ている
まずい、後ろはさらに崩落させられる、ここで騎士団まで失うわけにはいかない
「戻れ武威公っ!!!!!露見した、撤退しろっ、急げっ」
ごあらががががららがらがらがらっらががががっ、その声は届いただろうか
視界は土煙とともに塞がって、何もなくなった
今まで繋がっていたそこに現れた壁、その壁向こうから声が聞こえる
こちらを呼ぶ声が聞こえる、前では仲間が何人も殺された
やられた、治安公はかすかに震える、己を襲っているこの全てのことに
恐怖を覚えて震える
「治安公っ、治安公っ」
「武威公か・・・戻れ、早くしろ」
「できるか阿呆っ」
「お前らまで殺すわけにいくか、急げ、この地区は既に敵の手にある、急いで撤退しろ」
「それはどういう」
「もう、時間がない、血路を拓け、あとは港を死守しろ、さすれば敵は疲弊で和議を申し込んでくる」
がらがらがらがら、さらに大きな音がした
もうダメだろう、武威公が埋まったとは考えられない
というよりも、今の声が届いていたのか、聞こえたものは自分の心が描いた幻聴ではないか
そんな泡沫が浮かんでは消えて、どろりとした心に
敵の声がもう一度届いた
「ようこそ、東ツィーゲル宮包括第1区へ」
「わざわざのお出迎え感謝するよ」
9区のグイとかいう男ではないか、治安公は直感というか
集めていた情報の断片からすぐに理解した
そうだとすれば、ここは皆殺しになるだろう、だけども、殺される前にできることがあるだろう
かき集めた、この目の前の男の修正をもう一度反芻する
デハンサモンというものが、このような場所でこんな最期を迎えるとは
夢にも思わなかったが、現状でもっともよい方法を選ぶ必要がある
それはこの男と差し違えることだろう、安いものだな聖なる神官の最期としては
お前に慣れないことをさせている
ふと武威公の声がリピートされる
まったく、慣れていないな、虚勢をはり、目の前の男を見つめ
その実、足は震えがやまない、怖い、ただ怖いんだな
そう思いつつ、味方が次々と殺されていく
それを後目にして、機会を伺い続ける
すまない、正直俺には、お前達が何人死んでも悲しいとは思えないんだ
懺悔にも似た、自分だけに悲痛な声を大事に温めている
薄情なんだ、もっとも、死んだらそれはそれでデハンの側に行くことができる
立派なことだろう、お前達、普通の信者にとっては
「お前のがんばりに免じて、もう少し活かしておいてやろう、おい案内して差し上げろ、
デハン側からの特使様ということでな」
まるで話を聞いていなかったが、目の前の9区の司祭は
その熱しやすく褪めやすい性格を遺憾なく発揮している
間もなく、治安公から興味を失う、いや、既に失っている
治安公は、自分の仕事を思い出そうと躍起になる
現世にあるデハン教会の力を絶対とし、より多くの信者を
デハンのもとへとお送りすることが使命
目の前の異教徒司祭は背中を向けた
渾身の力をこめた、冷静なままで
それは治安公だからできたことだろう、無駄な力みはまるでなくて
周りで味方が殺されたことは意中にない
手に握った、隠し短剣、剣というには複雑な形をしており
ともかく投げつける武器
誰に習ったわけでもない、商家に産まれた身の上、自然と身につけた
貿易商が旅商で身を守るすべ、投擲術
振りかぶるという動作が無い、直立の姿勢から
右手の武器を投げることができる
最小限の力で最大の速力と攻撃力を導き出すよう磨き抜かれた武器
術者の力は3割、残り7割はこの武器そのものの能力
空気を切り裂き、雨粒を薙ぎ払い、寸分違わず軌跡は真っ直ぐに司祭の背中に向かった
「グイ様っ!!!!、ぁああああっぁあああああああああああ」
「なっ!」
初めて、その場で初めて考えない内に口をついた言葉を発した
言葉じゃない声だ、その全てに裏切られた時に呟く
本能の音が口から漏れた、目の前で渾身の力を込めた一撃は
その司祭ではなく、一教徒を葬るに至り使命を終えた
呆然としてしまう、雨音が酷く鬱陶しいと思う、絶望が横たわる
物憂げな建物が並ぶ、ああ、煉瓦の色とりどりの様は
雨模様で白黒にしか見えない、ざぁざぁと耳をうつ
「殺・・・・いや、奴を残して、全て殺せ、血祭りだ、バンダーウに捧げよっ!!」
激昂した敵司祭の声に従い、残っていたデハン教徒は葬り去られる運命に
身を投じることとなった、彼らを見ることはない、だが
なんとなくわかる、彼らは治安公を恨みなどしない
それだけの信奉を治安公に向けている、治安公という
サモン神官というデハンにとってとても大切な地位に向かって
それから、やはり一言も発しなかった
すぐに味方は敵の刃にかかって殺されていく
断末魔というに相応しい声がかしこから上がる
それ一つ一つを目で追う、背けない
神官としてそれが職務だ、ただ、暖かい目を向けてやる
それだけで、どのような凄惨な死に様も最終的な安らぎをえるに違いない
信仰は死ぬ恐怖を抑え込むための代価
約束してやるのが神官のつとめ
ああ、支離滅裂な思考だ、何に、誰に、どうして説明しているのか
治安公は瞳が濁るのを抑えきれなくなる、その頃にはデハン教徒は無惨に
現世を旅立っていった、もういいのだ、
瞳が濁ろうと、恨み言を呟こうと
恐怖に、怯えようとも
「・・・・・貴様」
目の前で怒りをそのままにした司祭は睨み付けている
治安公は物憂げにそれを見る、いや、瞳はもう隠すこともない
おびえを宿してしまっているだろう
やはり、慣れないことをするものではなかったのだな
喧嘩の仕方を私は知らなかったんだ、だからこのざまなんだ
「今貴様が殺したのは、他でもない俺の従者だ、デハンにその習わしがあるか知らぬが、
バンダーウ教にとって、司祭の従者は、その宿命が他とはまるで異なる」
突然に語られる上辺、治安公はこの期に及んで、怯えながらも
だんだん脳が落ち着きを取り戻し、様々なことが解ってきて
そして視界が拓けてきたのを悟った
今まで目の前も見えているかわからないくらいに狭まっていた視界が
空の高さと空間の広さを認識できるくらいまでに戻った
当然、目の前のことも聞いている、自分用に訳す
「最愛のものを失った」つまるはそういうことを言いたいのだろう
「シヴァ様のところへ連れていこうかと思ったが、もういい、死体でも役目は変わらぬだろう」
冷たい目で睨まれる、それを直視できない
怖い、そればかりが胸の辺りにたまっている
そして、褪めてきた頭は大きな間違いをいくつも犯した自分に
気が付かせてくれる
なぜ、ここで、この司祭如きを殺そうと思ったのだろうか、
シヴァのもとへと連れられれば、その場で、シヴァを殺る機会に巡り会えたのではないか
アサハカすぎる、そして、馬鹿げている、犬死にをするのか
治安公ともあろうものがどうして、そのようなことを過ったか
「ふん、その声を出さぬということがどこまで続けられるか、おい」
グイは声をかけただけで、人間を何人か仕事に向かわせた
随分と影響力がある、強い指導者の素質が伺える
分析していると、その仕事をこなす信者は、見るだけで
どうしようもない気分を味わわせてくれる物体をいくつも持ってくる
ノコギリ、木槌、鉄鍋、焼きゴテ
冷静になった頭でなら、推測ができる、それらがどういった働きをするのか
それに気付き、身体の震えがもう、抑えられないレベルに達した
「ふん、まるで小動物だな、デハンサモン、噂に聞いていたが、なんてことはない、ウサギと変わらぬ」
何を、と思うが声には出さない
いや、声は出ないのだ、もう、震えるそれは今歯を食いしばることで
叫びたいのを必死に抑え込んでいる
確かに、ここで無様な死に様を見せてしまえば、デハン全てに対して
大変なことをしてしまうこととなる
これも慣れないことだな、でも、慣れないなりに思うことはある
やってやる、武威公、見えないだろうが見ていろ、俺は引き際を知らない
熱くなりやすいと馬鹿にしたが、そういう意地の根幹をここで見せてやる
じうぅぅううううううっっ、
凄まじい音がしている、焼きゴテを火に掛けていると思っていたが
鉄鍋で、中に何か、とてつもないものが熱せられている
もともとどこかで溶解してあったのだろうか、どろどろの鉛だ
ぐるりぐるりと、焼きゴテでかき回されるそれ
どうするつもりか、どうするつもりでも考えるだけで嫌になる
そもそも絹売りをしていただけの男、兄弟揃って教会に入信し
めきめきとその実務能力を発揮し、気付けばサモンに入っていた
兄弟でうまくお互いを補完してこれまでやってきた
無論、サモンの中に入ることでいくらかの利権を欲したのもあったが
経済よりも政治が面白いと思ったのが単純な理由だっただろう
絹を売るよりも、人間を、また絹以外のものをどう売れば
さらに多くの人が豊かになるという、そんなことに憧れた
二人がお互いを補完するため、サモン神官となるのは一人と決めた
迷わず、弟をそこに推した
兄の私にはとてもよくわかっている、弟は優しく人当たりがいい
俺のように冷たくない、だから役割がそれぞれあるだろうと
「熔けやすい鉛なのだ、知っているかそれでもその熱は一瞬で大木を焼き倒すくらいだ」
そのもくろみは見事に的中する、やがてデハン教の教義を実際に理解した上で
さらなる布教を目指した、経済圏が大きくなる、そういう理由もあったが
利害が一致したのだ、また、武威公という掛け替えのない友人を得たのもあった
彼の神に対する真摯さを見て、国民は皆、そう思い生きていると痛感する
彼らが望むものを与えられるだけのことをしなくてはならない
サモンはそういう組織で、そして、兄弟にはそれができる
そう思うからこそ、次期王として弟を推挙し、その根回しをした
黒い噂はいくつも飛び交った、実際、多くの混乱も招いた
だが、スビエ王が即位した後、治安公となった俺はより強固に
デハンの繁栄を目指して政治を執ってきた
「安心しろ、我々の教義にのっとり、貴様がしでかした罪は全て償わせてやる」
法律を作る、それが新しい、そして俺にとってもっとも正しい仕事だ
そうだ、そんな話をした気がする、もともと
政治がしたかったんじゃないんだろう、ルールを作りたかったんだろう
俺はまだやらないといけないことがある
とても大切な、全てを守るため、皆を活かすために
法律という教義をより拡大した、生き方の模範を作ることが
というか、何を、どうしてこんなことばかり考えて
ああ、そうかこれが死に間際に見るという
本当か?そういうことじゃないだろう、だって、どうして
武威公の声が聞こえないじゃないか
デハンの神の遣い、武威の神官が、その迎えの声が
王の声が、何もかも、迎えの声が聞こえない、神よ、デハンよっ、私を救いたまえっ
「償いの時間だ」
再び視界が戻ったことに気付いた
寝かされて、腕と足を縛られている
その目の前に鬱陶しい雨雲が垂れている、それが
デハンサモン神官治安公が最期にその目で見た景色だ
その鉛色の雲を遮るように、とけた鉛がその二つの水晶に注がれる
じぅっ、その音を発した表面が爆ぜたのがよくわかるそんな音がした
そして、凄まじい煙と肉を焼いた匂いが漂う
一瞬、それに食欲を催されそうになる、なにせろくなものを食べてきていない
バンダーウの教徒にそれがよぎったことだろう、それをわかっている
だからグイは叫ぶ
「いいか、よく嗅いでおけ、この臭いを、我らと異なり四足の動物の肉を食らう野蛮極まりない者の肉だ、
わかるであろう、牛や馬とまるで変わらぬ臭いを放つことを」
目の前は、お約束通りに派手に頭を動かそうとし
全身を不規則に動かす生き物がいる
グイはそれを見て溜飲をなおも下げられないでいる
苛立つという生やさしいことではない
眼孔に注いだそれは決して致死とはならないはずだ
そのまま、次の一通りの拷問を施すことにする、彼らの言う償いだ
その身を以て、犯した罪を償わせる
何が償われるか、それは、残されたものの心だ
「よし、木槌」
グイは命令をして、ただじっと見つめる
目の前で施される度に、まさに悶絶をする生き物を見て
少しでも、少しでもと、それを見ながら涙を流す
愛しい従者よ、哀れな従者よ、お前は産まれて親の愛を知らず
それでも神の愛と駕籠を受けて育ち
その宿命を理解し、より高等な司祭となるべく育ちつつあった
哀れな子よ
グイは折れそうになる自分の心を感じた
愛しい者を失う辛さを、また味わってしまった
グイも親や兄弟を亡くしている、だが、それらを超えるほど
この別れを強く胸に刻む、だからこそ早く終わらせよう
この戦いが続けば、こんな目にあう者が増えてしまう
気付けば、周りの信者達も泣いている、この戦いによって
また何人ものバンダーウ教徒が帰らぬものとなっている
その縁者が泣いているんだろう、シヴァ様はこれを知っているのだろうか
「・・・・・・・」
「?」
ふと目の前の哀れな焼き肉は何かを呟いたらしい
しかし、叫び声を挙げなかったのは恐ろしい
もう声帯を切ったのかとも思ったのだが、そうではなかったらしい
悲鳴をあげる形を口で象りつつ、一つも声を挙げなかった恐るべき男
それが、何かを呟いた、聞き取れなかった、神の名でも呟いたか、見上げたものだな
どうでもいい、死ね、死んで償うとはこういうことだ
それまでと同じように、グイはもう興味を失っている
すぐに次の動きを指図する
薄暗い空、雨粒を弾いて、鍋にたまる鉛が湯気を上げる
武威公
治安公が最期に呟いたのは神の名ではなく
最愛の親友の名前だった
急げ急げ
そう思いながら毎週書いておりますが
なんだろう、頭の中で勝手に作ってたストーリー以外のことをもりこんでるから
どんどん無駄に増えて、支離滅裂になりつつ
すぐに20くらい超えてしまいそうで大変なこのごろ
もっと短いのでテンポよく書かないといけないと
気を付けて、最近は1話で2話仕立てにしています
誰にも聞かれないから言っておくあたり
切ないですね、とかなんとか
駄文長々失礼しております
R(05/10/31)