Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.


ゆっくりとした行軍
しかし中身それぞれは、戦を待ちに待った具合で、
ランディシー傭兵団の志気は異常なほど高まっている
どれもこれも、傭兵としての領分を果たせると
息巻いている様子だ
先頭を白馬にまたがり進むカインの背に
299人の部下が続いている
きちんと整頓された、美しい陣形のまま、悠々とそれでありながら
緊張を保ち、きりきりと弓を引き絞るようにして、分秒刻む度に鋭くなっていく

「後方に支援があるとか?」

「ああ、マスターの懐刀がついているらしい、心強いことだ」

「なんだ見張りですか?」

「まぁ、そういうことだろう、気合い入れてやらないとな」

先頭の軍馬が数頭寄り添って
真ん中の白馬にまたがる傭兵隊長と小さく会話をとりなす
遠くから見て悟られないように、声が小さく口元はマフラーのような布で隠されている
300人の軍団は、それぞれがほどよくばらけて、あまり規律がとれているとは思われない
そういう様相で、早いのか遅いのかよくわからない
伸びたり縮んだりしながら、隊列が先へと歩んでいる
後方では、噂になっている武威公がその姿を眺めている
部下を50人程度ひきつれているが、バイデン騎士団員ではない
騎士には違いないが、やや格が落ちる者を集めている

「もう少し近づきますか?」

「いや、むしろもう少し離れた方がいいかもしれんな」

「後詰めですからね」

「そうだ」

ぶっきらぼうに言うと、不機嫌な様子で武威公は馬を進めた
ゆっくりとした足取りで、こちらは整理された
美しい隊列を成して前へ前へと意識が向かっている
前方に広がる、無秩序とも思える汚らしい行軍風景が
デハンの名を汚していると感じている様子だ

その聖騎士の機嫌を知ってか、伺ってか
部下達は誰に命令をされたわけでもなく
静かに歩みを遅め、そして、やや高い台地へと移動する
伸び縮みする烏合の衆がよく見える
そんな見晴らしを手に入れた
陣内中盤に居た聖騎士が前へと出る
完璧な見晴らしを確保したと確認し、休憩の命令を与える
いわゆる高みの見物という状態に身をやっした

「ここからなら9区もよく見える、まぁ、遠くから戦況を眺めるだけでよいでしょう」

部下の一人が聖騎士の側により
兜のバイザーを上げた、凛々しく蒼い瞳がそこに備わっている
武威公は、部下の軽々しい言動に注意を与えるでもなく
黙って眼下を見下ろしている、視線の先で
蠢いている、一見烏合の衆
不可解なことだと思って、その様子を探っている

「お前らは、阿呆だな」

「は?」

いぶかしげに眉をひそめて、若い騎士達がその長へと目を向ける
大きな独り言だな、そうも思ったが内容が聞き捨てならない
一人が当然のように口答えをする

「阿呆というのは、あちらのあれですか?」

「いや、お前らだ」

言った先、眼下の軍勢の動きが活発になった
活動状態になったとでも言うか、上から見ている限り
何か起きたということだけしかわからない

「いいか、ここからひとときも見逃すな、あの300の軍容を頭にたたき込んでおけ、
軍事行動の演習教本に勝る、これを貴様らは体得せねばならん」

ならなくては、バイデン騎士団へと入隊は望めない
そこまでは言わずとも、いや、言おうとする言葉を失った
眼下の人影は、一つの生き物のように
美しく展開していく、伸び縮みしていた行軍の右舷から敵が現れた

物見がそれに気付いたらしく、奇襲を知らされて進軍が止まる
止まった位置から、全員が、おそらくあらかじめ決められていたのであろう
自分の位置へと最短の距離を使って移動する
この時間はまだ、見ている限り、うろうろとして戸惑っているように見える
しかし、5分も経たない内にその動きがぴたりと止まり
気付けば先ほどまで右舷だった位置が正面となる陣形が出来上がった
その5分の間、行軍の前がかりの位置に居た騎馬隊が一部、敵と交戦をはじめている
敵の出足が止まったおかげで、衝突する前に陣形を整えられている
遅延戦闘を行いつつ、敵をひきつれて戻ってくる騎馬隊
騎馬隊が歩兵陣の間を縫って、後方へと下がっていく、すれ違いながら
槍を前にした歩兵が一斉に衝突をしかける

「・・・・・」

言葉を飲み込む見守る騎士達
正面となった部分は、定規で計ったかのように美しい直線を作っている
そして、必ず敵と対する時に優位な人数であたれるように
それぞれが位置を変えていく、やはりここも
あらかじめ誰がどいつをやるのか聞いていたかのように
迷いのない攻撃だ、一瞬で敵の劣勢が確定する

「初手を挫くと、それだけで奇襲は失敗になる、しかし」

敵もさるもの、奇襲に失敗したと見切ったからだろう
すぐに退却をはじめた、この見極めの良さが
バンダーウ教徒の優れたところだ
小さな負けはよく拾っても、大敗を喫したことがない
大損害を与えた覚えがないと言うのが正しいだろうか
聖騎士はじっくりと、傭兵達の動きも見ながら
バンダーウ教徒の動きも見つめる、どちらも今後の糧となる

「意外と歯ごたえがないな」

「引き際の見事さには畏れいったが、さて・・・隊長追いますか?」

カインは味方の損害を見ているが皆無のようだ
誰に言われたわけでもないのに、すっかり陣形は解け
うずらうずらと、烏合の塊になっている
ただ、このうにょうにょする姿で敵からの目をごまかしてるし
移動速度を計らせにくくしている
10区から9区への距離が短いからこそ
こんな手の込んだことをしているわけだが、その短い距離の途中で仕掛けてきた奇襲
罠と見るべきか、本打ちと見るべきか、普通なら迷うところだろう

「追い打ちをかける」

「了解、急がせます」

通達がすぐに届く、隅々までその意思が満ちた時
うずらうずらは、速度を早めた、相変わらずよくわからない
無駄のある、体力を浪費する行軍だが、明らかに早くなった
上で眺めているデハンの騎士達は驚きの声で
それを自分の中へと吸収させている

「追い打ちに出たのでしょうか?これは、あからさまな陽動で罠じゃ・・・」

「どうしてそう思った?」

「敵の数が少なかったので、それに、簡単に勝ちすぎていて・・・」

若い騎士はそうやって聖騎士に見解を述べた
聖騎士は一つだけうなずいて、答えはまだ出さずに
行軍の動きを目で追っている

「俺もそう思った、理由もほぼ、お前と同じだ」

「そ、そうですか」

「だけど、一つ目の理由はともかく二つ目のものについては疑問が残る」

「疑問ですか?」

「簡単に勝ちすぎたと、確かに手応えとしてはそうだが、今の戦ぶりを見ている限り、
奴らが本当に強いから、当然の結果だったとも考えられる」

「それは・・・」

自分たちの騎士団よりも強いものが、この世の中に居るわけがない
まして、神の加護を受けず、金のために戦争をたしなむ輩が
そのようなわけがない、正義の無いものは弱い
決まり切った、若い騎士の条理から外れたことに、承伏をしかねている
おそらく、武威公も心の内でそう思っているだろうが
もう一つの可能性を否定することが、彼が今まで信じてきた自分の眼力から
棄却することを拒んでいる

「それも、この後を見ればわかるだろう」

「しかしそれでは」

罠で壊滅してしまったとすれば、本営の作戦が台無しになってしまう
それを若い騎士は心配しているが、聖騎士は睨み返すようにして
その不惑の瞳を使い、指令を言い渡す

「その為の後詰めが我々だ、行くぞ」

デハンの別働隊が丘から降りる
相変わらず距離は離れているが、それくらいがちょうどよいだろう
騎士が整列をし、足早に傭兵達の後ろを追った

第9区の城壁内側

「グイ様」

「まさか、全くの損害も与えられなかったというのか?」

報告に驚きの声を上げる若い司祭
ここ数年、前線で着々と自力をつけ、バンダーウの司祭の中で
戦上手の名を欲しいままにしてきた男だ
名前はグイ、幸運の意味を持つとされるその名前、
細面で、黒い髪と小麦色の肌、黒い瞳に大きな耳
それが彼の外見的な特徴だ、声がよく通り戦場での資質はよほど揃っている
ただ、報告には驚きを持って対するしか方法を知らない
意図せぬ、というより想像だにしなかった結果だったと物語る

「あり得ないぞ、バンダーウの耳にすら届いていなかった動きからの牽制で」

「それよりも、追撃に出てきた模様です、先よりもかなり早く、間もなくこちらへ」

くっ、喉を鳴らすようにして立ち上がった
伝えに来た従者を跳ね飛ばすようにして、部屋から出る
部屋の外、砦の下には、次の出撃を待つ教徒が溢れている
ただ、その中で、先の先鋒隊が紛れて、負け戦の雰囲気を醸造しつつある

「くそ・・・余計なことを言うから、浮き足立ってるじゃないか」

「グイ様、いかがいたしましょう」

「お前は黙ってろ」

「は・・・」

「おいっ、耳を傾けよ、バンダーウの子供達よ!!」

砦の最上部から、大声で広場に声を投げ降ろし
注意を向けさせながら、己は足早に階段を降りていく、広場の衆目が
全てそこに集まってくる、絶対の権限と力を見せてきた
そのたまものだろう、グイに今のところは全員が従っている、信奉もしている

「全ては作戦の通りだ、やや外れたところはあるが、考えてもみよ教典に記された、
『神に劣ることより災いを招く』、今その時にあるのだ、狼狽えるな、続く言葉を皆、思い出せ」

グイが、大きな声で演説めいたことを続ける
思い出せと言った後に、指揮を執って声を出させる
台詞を操るようにして、広場のもの皆がその教典を唱える

「『しかし招いた障害は、神が与えた試練だ、乗り越えられるだけの試練のみを与える、
全力を賭して、乗り越えられぬ試練は存在しない』」

「そうだ、少々の読みハズレは全て、神の手の内、これからが本領となるのだ」

もともと、先の牽制は囮だ、今ここへとひきずりこんで叩くというのが本営作戦、
その為の陽動奇襲だったのだが、当初の予定ではこの陽動でいくらか崩すはずだった
その分当て込み外れ、囲い込んで叩くという作戦が果たして通用するか
若干の疑問が浮かんでいる

「戻ったものから聞いただろう、敵はやはり300、こちらの500で囲い込めばどうとものでない」

張り上げられるだけの声と、振り上げられるだけの拳
必死の形相で鼓舞をしてまわる
これが、バンダーウ教の戦場における司祭の仕事における全てだ
萎縮しつつあった空気は、少しだけもとの熱を帯び始めた
全部がそうでなくてかまわない、火種がいくつか、もう一度発火すれば
それで充分だ、導火線に炎を近づける

「さぁ、敵の勢いを逆手にとるぞ、手はずの通りに囲い込む、皆の者少々早いが、戦闘配備だ」

ざわざわざわ、言われるままに
すぐに制御の下に入った衆目が、右往左往しながら持ち場へと散っていく
その背中を満足げに見て、もう一声を考える、グイの目が光る
側近はそれをただ見つめるだけにしているが、期待をはらんだ瞳で見ている
側近は、この司祭の従者だ、グイが18で司祭となったとき、12で仕えた
そして今、23となったグイのもと、17の若い身体をそこに預けている

「我々は神へと同化しつつある、声を揃えろ、張り上げろ、腹の底から絞り出せっ!!!!」

そのかけ声は、前々から毎朝、グイの傘下では必ず行われてきた
そしてこんな戦の前にも必ず行われてきた
反射的に配置へと行く者達全てが、その声に反応して足を少しだけ緩める
全員が同じ刻を見る、3、2、1

「バンダーウの骨身となる!」

煉瓦が組み上げられた家が震えるような大きな声が一致した
否が応でも昂揚し、各々持ち場へと走って向かった
導火線には火がついた、500の内、導火線は5本もあれば充分
あとは火薬が100人も居るだろう、それらが爆発する、と、

「残りの400弱は、破片となって辺り構わずちりぢりに爆裂するんだ」

含み笑いをしつつ、第9区の最高司祭であるグイは
従者と二人だけ中心の砦にどっかりと腰を据える
がらん、空間を極力もつように設計されている砦は、
もともと教会の役割も担っている、だから、あちこちに出入り口があるし
正直なところ、屋根があるだけの集会所という程度のものだ
強度だとかそんなものは期待できない

「見えましたっ!うだうだとした、徒党ですっ、特に隊列は見られません」

「奇襲隊の物見と同じか・・・よし、全教徒に告ぐ、バンダーウの戦を見せてやるぞっ」

この言葉だけで、後は何も指揮せずに戦が開始し遂行されていく
教徒は司祭の声をバンダーウの声だと思っている
だから、完全に従うし、疑うことすらない
それにグイにいたっては、わずか5年で地区の大司祭になったほどの戦上手
すなわち、神の声を聞き漏らさない、特に優秀な司祭だ
信奉が集まるのも当然だ、また信奉によって勝利をもぎとってきた
今回もその一つに過ぎない

「少々てこずったほうが、後の戦勝報告が派手になってよいものだなぁ」

従者にそう言うと、我慢がならない様子で
ギラギラと戦の空気を解かしこんだ瞳を輝かせる
黙っている従者に、もう一度同じことをいい
頷かせると、その唇を強引に奪った

「続きは、なに、少しだけ後だ、さぁ、お祭りだ」

グイが立ち上がった、軽やかな正装で遠目からも司祭と解る出で立ち
砦の一番高いところへと出て、そこから声をもって作戦の仕上げであり
根幹に触れていく、高々と掲げられたバンダーウの旗の直下に位置して
すっかり近づいた砂煙を見る、間もなく速度を緩めるだろうか
グイが思いっきり腕を振り上げた、その様子を方面に散った教徒が凝視する
見張りも全てが、敵を見ずに司祭を見上げる

司祭が物見で、司祭の目は神の目で、だから

「今だっ!!!!!突撃を開始しろっ!!!!」

振り下ろされる拳っ、ぶわっ、まるでその拳が起こしたかのような
凄まじい追い風が背中を襲った、拳は一心にただ、真っ直ぐに正面の門を突いている
その風が届いたのか、それによったかのように正面の門がいきなり全開になる
そして、そこから一斉に決死の信者が飛び出していく
絶妙なタイミングで、敵がそれまでの進軍を弛め始めたその時に

「!!!!隊長っ!!!」

「いきなりとは、しかも正道からか」

左右の物見からは何もない、正面からのみだ
全方位に対して注意を払う陣形だったが
本当に正面からこられると、整える時間がかかる分だけ
今の状態は劣勢だ、いつものように騎馬が前で応戦をして、その間に陣を立てたいが

「数が多い、やっぱさきのはハッタリか」

狼狽えた様子で、何頭かの騎馬が敵の波に飲み込まれた
流石に数が多いとやられてしまう、騎馬は30程度、30で500は相手にできない
時間を稼ぐにもかなりの損害を受けてしまう
最初の5頭が呑まれた時点で劣勢を悟った、尋常では間に合わない
すぐにカインが声をあげる

「遅延だ、遅延戦闘でひきこめ、騎馬は隊を組め、歩兵、陣立てを継続しつつ整ったものから応戦だ」

言われるままに、慌ただしく戦場で人の足が動いていく
どかどかと5頭ずつに別れた騎馬が、とりあえず敵の動きを攪乱するために突撃して、
攻撃よりも暴れ回ることで役目を果たそうと走る
馬の鼻息がどこまでも聞こえるほど、必死の疾駆に加え、急転を繰り返す
そして早くに整った歩兵の部隊が10人を一組として突撃を開始する
劣勢だった戦況が、だんだんと戻りつつある、しかし

「いかん、隊長っ、敵さん各個撃破を目標にしてやがる、こいつは不利だっ」

「わかってる、頭だ、頭潰したら勝てる、バンダーウっつう奴らは頭さえ無けりゃどうてことは」

「しかし、獰猛だってのがこれは・・・・」

噂に振り回されてはいけないと思いつつ
情報を集めていて、その悲惨な戦争風景を耳にしてしまった
バンダーウは、教徒全てが暴徒となって、まさに殺戮をやってのける
殺すために、何度でも刃を振り下ろすし、何度でも襲いかかる
殴る、突く、斬る、なんだってやって、ともかく殺しにかかってくる
そいつは正直、戦闘するには怖すぎる

「うわがぁあああああぎゃああああっっ」

「いかん、助けに行くぞっ」

「お、おうっ」

カインが組んでいる騎馬に声をかけて、劣勢になっている部隊へと救援を試みる
しかし一歩遅く、ほぼ壊滅となっている、一部はちりぢりになりながら
別の部隊へと吸収されるため、走って逃げているが、逃げ遅れた奴が

「ひ、酷ぇっ・・・」

「怯えるなっ、見ろ、まだ死んで無いんだ、助けにいくっ」

捨てるように放って、カインが馬を飛ばした
白い馬が戦場を叩き斬る、取り残されて、無惨な肉塊になった仲間を
強引に引き上げて、その場に集る敵を文字通り蹴散らす
馬の足が、ばこすかと、農民としか思えない輩を踏みつけて先へと急ぐ
槍などが伸びてくるが、へろへろとしたもので
止まっていない限り、怖いものではない、大振りで
よく見て当たればどうということもない、ただ

「大丈夫かっ!!!」

「う、い、痛ぇ。。痛ぇよぉぉおお・・・た、隊長、痛いよぅ」

下手くそだから、何度も打ち据えて、何度も殺しにかかるのだ
残虐な行為というよりも、一撃で殺せないから
そういうことになっているという必然
デハンのほうが、正直、殺し慣れているだけに厄介だとカインは思っている
ただ、これだけの仕打ちをされると思うと萎縮してしまい
どうしても守勢に回る可能性がある、歩兵の数個の部隊が
そういう恐慌状態に陥っている、これは逆転のためどうにかせねばなるまい

「隊長っ!!!司祭が5人、ただ、一番の大頭は、中のあれだ」

「そうか、一旦隊をまとめろ、騎馬隊3隊でケツを守れ、あの中に入って戦線を縮小する、
全部出てきたらしいが中の大将が丸裸だ、ねじこむぞ」

「わかりましたっ」

すぐに離れていく、残りの騎馬部隊はカインの部隊を合わせて二つ
もう一つの部隊に合図を送り合流をする
足並みが揃ったのを確認すると、稲妻のように馬を駆け出した
その耳に聞こえる、狂ったような嬌声

「ゆけっ!!!あそこだ、あの馬のものを殺せばバンダーウの涙が癒される」

「何が涙だ、バカ野郎」

すれ違いそう思ったが、そこには目も向けず
その声に従い、驚くような勢いで吶喊を開始した部隊を
見ないようにして門の中へと突撃した10騎で先攻し、先への道を確保する
大きな声をはりあげて、10頭の騎馬が走り抜けた、当然
それを見て黙ってはいない、1つのグループが気付いたらしく
司祭の声がまた戦場を揺らす

「中だっ、今の馬どもを切り裂けっ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せっ」

ばらばらばら
かくして、数にモノを言わせることになれているせいだろう
陽動されて動きが鈍った、そこで傭兵達が一斉に集まり門へと殺到した奴らよりも早く
カインはそれを確認しながらも中に突入した、入ってみると
思った以上に広い道だが、切り立つように高い建物が印象的な街並みだ
中心部に砦は見えるが、時折建物の影にはいり見えなくなる

「位置を見失うな、急ぐぞ」

言われるまでもなく、と騎馬がすぐついてくる
だが、数歩進んで急に、急げと言った本人の足がとまった
正確には、馬の脚がとまった
ぶひひんぶひひんと馬らしい嘶きをして、シッポをぱたぱた振っている

「隊長?」

「いや、これは・・・・」

言うと黙った、ついてきた騎馬9頭が不安げに見ているが
すぐにその不安はぬぐい去られた
過去のことで彼らもわかっている、この隊長が何かを感じたということは
多分、それは実感であり、間違いのないことなのだと

「急ぎ戻る、戻れ、しんがりに伝えろ、お前らが先頭だと」

「はいっ」

言われるままにすぐにとって返した、
もともと入り組んではいるが狭い区画内、すぐに門近くに到達する
まだ一部が門の前で先頭をしている、既にそこにも指令は渡っているだろう
じわじわと正門付近で前線を拡大していく、そこでカインが指示を渡す

「さて、マスターにいい所見せるか」

「お、てことは」

「久しぶりに派手なのやるぞ、いいな」

うへへ、うれしそうに後ろに続く9人が馬に備えていた手槍を持った
そして壁の際へととりついて、上を見る
壁の向こう側の景色など見えるわけもない、わけもないが
見て無くても、こうあって欲しいという図形は描ける、だから
そうなって貰うわけだ

「雨足だっ!!!!!」

大声で、そう叫ぶ、そしてすぐに手にもった槍を投げまくる
一人5本は携えているので、全部で50本近い槍が投げ込まれたことになる
そして、その結果を見ることもなく、すぐに門から外へと飛び出した
手には何ももたず、散っている敵を馬で蹴散らす
さらに、先ほど投げた槍を馬の上から
地面からぬきさってすぐに攻撃へと使う、あらかたは敵を貫いている
味方はこの流れ弾には当たらない、先の声がけにあわせて
一斉に堕ちるタイミングに合わせ盾を振り上げたはずだから
それを知らないものだけが槍の雨を食らう、当たらなかった分は、
歩兵が拾って、地面へと突き刺しておく、ちりぢりになる敵

「やはり、その通りだったな、行くぞ、表にいる奴は全部追い散らせっ」

「おおーっ!!」

続いてきた9騎が勢いよく槍と敵を求めて走り去る
中にいったはずの敵が出てきたこと
それに喫驚しているのがありありとわかる
おびき寄せて何かあったに違いない、だが、それがなんだろうと構わない
ともかく敵の手だてを封じたことがここでは重要だ
カインも雄叫びをあげて敵を散々に蹴散らす

中央の砦では、その鮮やかな戦況の変化に言葉を失っている

「バカな・・・・・今、確実にひきこんだのではなかったのか」

従者は仕えてから初めてみる
主人の狼狽えぶりに、ただただ身をすくめている
あっと言う間の敗走劇だ、空城を襲わずに敢えて敵の多い地点を襲うなど
それは、この作戦を見抜いたからとしか思えない

「なぜ解ったんだ?どうして」

「グイ様、それよりも」

はた、と気付いて外の様子を探る、そうだ
教徒達に話していたのとまるで違うことになった
だから、完全に浮き足だった、約束と違うとでも言っているかもしれない
これはもうダメだな、そう気付くとすぐさま、本来、引き込んだ後に使うはずだった
脱出口へと身を投げた、後を続いて従者も出ていく
グイの計算が初めて外れた、どうしてだかわからない
正門はその後、先へ進んでも袋小路だが、暴れると左右に道ができるように
壁に細工をしてあった、ただ、その左右へは
表で暴れていた教徒がそれぞれ先回りをしている
それらの様子を一番よく見える位置、それがこの砦の最上部だったのだが
嘲笑うように傭兵どもは外へと出ている、口々に声を交わしている

「敵の数が減ってる、まさに、好都合という奴だな」

「ということは、他のは」

「おそらく左右にでもまわってんだろう、ここだけ散らしたら劣勢悟って逃げると見た」

「そうとなれば、ここで手柄を」

言うと血気盛んな傭兵どもは大暴れを続ける
総崩れになった、もうあちこちで敗走を初めている
勝機が訪れたと、そういうのに敏感な彼らは
決してその機会を逃さない、容赦ない追い打ちをしかけて散々にする

「隊長!」

「騎馬で手の空いてる奴ついてこい、敵の大将を追うぞ」

「そいつはいいなっ」

功名心にかられ、ばらばらと馬を駆っていく
敗戦を悟ったと思われる敵は既に9区の周りから四方八方へと散っている
途中で何人かとすれ違いはしたが、不思議と攻撃を、反撃をしてこない
どうも司祭がそこで賞が与えられると、エサをつり下げないと
命を捨ててまでの攻撃をしないと見える、不思議なものだな
信仰を持たない傭兵達はそう思いつつも、騎馬を急がせる
カインはまるで知っているかのように、一点に向かって一心だ

「出口、知ってるんですか?」

「いや、なんとなくわかるだけだが、隣の区画に一番近い出口に向かえばいい」

言う通りに、従っていく先に慌てて逃げる一団が見えた
さっきまでのと少し違う、衣装が違う、それだけで
砦の上にいた、ここの主だと知れる

「見つけた」

「!!!!グイ様、お早く」

死の者狂いで逃げることとなった、生まれて初めてかもしれない
いや、死ぬ恐怖はこの地位に登るまで何度も味わってきていた
だが、調子に、波に乗ってからはついぞ忘れていた
力の限り、ただひたすらに自分の命を守るために逃げる
そして、逃げる心の内に助けを求める、誰に、神に、バンダーウに
やがて、その気持ちが、教義を頭に巡らせる
バンダーウは己自身、だから、今自分を救えるのも己自身
ただ走る、走って逃げるしかない
そう思いつつも、幸いだったのか、バンダーウ1とも噂される駿馬にまたがり
逃げ散る教徒の一団へと合流したおかげで追撃を振り切った
命を拾った、命を拾った、命を拾った
何度も繰り返した、そして、繰り返してから噛み締める、苦渋が
苦い何かが口の中いっぱいに広がるのがわかった、わかったが、今は、
戦勝とともにあった司祭は、逃げるしかない
逃げた先には、様々な苦悩が待っているだろう、だが、そんな些細なこと今更
あの傭兵どもは必ず、必ず滅ぼしてみせる、殺してみせる、無くしてみせる
どす黒い憎悪を口から漏らし、軍馬は砂煙になって消えた

「隊長、本気で追わなくてよかったのですか?」

「まぁ、これくらいでいいだろう、今回の目的はここを獲ることだったんだからな」

「確かに、無事、おつかいは果たせましたな」

「仲間の安否を確認しろ、大分けが人が出てるだろう、すぐに手当だ」

馬を返すことにする、もう逃げていく敵には目もくれない
ぱからぱからとゆっくりと歩ませる
ふと、一人に声をかけた

「あとは、お前先行って茶の用意しておけ」

「茶ぁ?」

「ああ、マスターの出迎えが必要だろう、さぁ、お使いのご褒美を貰わないといけないからな」

げはははは、大笑いをしてから、一騎が駆けていった
戦勝の気分に浸ってはいるが、とりあえず歩兵をはじめ
元気な奴らは中を略奪しまくっていることだろう
陥落させた町から掠奪するのは、当たり前のたしなみだし
それが楽しみで傭兵やってるわけだから、誰も止めるわけにはいかない
それでも紅茶だけは呑めるように、そんな場所をしつらえる仕事だけを渡して
この場は済んでしまった

「しかし隊長、本当、よくわかりましたね、知ってたんじゃないんですか?あの抜け道」

「いや、あれは知らなかった」

「??・・・・あれは?」

「あ、いや・・・・なに、言葉を選び間違えただけだ、気にするな」

いつもの英断から時折見せることがある、なんとも情けないほどの歯切れの悪さ
部下の何人かもそれを見ているが、そういう人なんだと割り切っている
鋭い時は、見てきたかのように何もかもを言い当てる
だが、そうでない時が希にある、どうってことはないんだが
それだけ鋭い目を持ちながら、やたらと賭事が弱い
そこがこの隊長の面白いところだと、傭兵達ははやし立てる
全部が整っている奴なんて面白くない、どっか足らないから面白いんだとかそういう話じゃない、
単純に、自分より偉い奴がへっぽこだと笑えるそういう下品な話だ

カインが、傭兵が戦勝にて初陣を飾った
けが人は多く、戦線を離脱せねばならぬものが10人出た
死人は出なかったが、失ったものは多い
手厚い看護をして、それを見つめているとき、後詰めがそこに到着する

涙を拭って、マスターを迎え入れる
心の底から、部下の為に涙を流す
それもまた、カインの一面である

つぎ

もどる







他人に読んでいただかなくてはなりません
そう思うことで、好き勝手に書いてるよりも
なんかこういうことがあるからこの小説を読んでみたい
そう思っていただけるようななんかがいるなと
今さら気付いたのでありますが
いやー、ギャグねぇし、エロ入れる予定ねぇしと
頭を抱える惨憺たる状況

駄文長々失礼しております
R(05/08/29)