Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.


正装で現れた男は、デハンのサモン達が見る限り
想像していた「傭兵」という姿とは似ても似つかない
よい意味で予想外の、優れた出で立ちだった
シルクのシャツを見せている、防具というと聞こえが悪いが
調度品にも勝るような美しい鎧をその上にしつらえている
一言でその感想を伝えるならば、騎士のそれだ
この騎士というものに酷く親近感、というよりも、絶対的な信頼を置く
デハンの神官達はそれだけでこの男を信用しようと
それなりの気持ちに傾いていた
まして、推薦人がサモンでも1,2を争う実力者である治安公だ
もはや疑うこともないと、サモンの間で空気が形成されつつあった

「ようこそ、デハンへ」

「こちらこそ、マスター」

マスターな、
呼ばれ方に馴れないことがあり、なんとなし、出迎えた治安公も
いつになくよそよそしい対応となってしまう、呼んだ本人とはいえ
ホンモノの傭兵、またデハン教徒以外の騎士のようなものを見るのは
生まれて初めてになる、それ故に緊張がある
目の前の男は、自分たちと変わらない、同じ人間の顔をしている
ただ、それでも、ガイジンという偏見だろうか
違って見えている

「早速で悪いのですが、待遇面について打ち合わせをさせて頂きたいのだが」

男はさらりと金銭の話を持ち出してきた
これでようやく、傭兵なのだ、とサモン達は理解でき、そして
瞳がすっかり蔑む色を帯びることとなった、嬉々として、とでも言おうか
鬱屈し、狭い中で育まれてきた彼らにとって、望ましい状態
常の状態となった、その偏見の目を別に大した問題ともせず
蔑まれたままで、傭兵はただ返答を待っている
治安公が、流石に失礼を知ってか、苦笑いで和らげつつ話を持つ

「300の人数と聞いております、一人頭、金500もあれば充分か?」

「それは・・・」

驚いた様子で、だいたいその男の金銭感覚が解った
おそらく食事はパンとスープだけで過ごしているだろう
サラダやデザートなど食べる習慣のない毎日だろう
そんな風に、やはりバカにしているというべきか、そう考えてしまいながら
その表情にはおくびも見せず、ただ、提示した額への期待を露わにしている

「いかがか?」

「その分、相当の仕事になるということですね?」

「まぁ、それは、なんというか戦争で、教徒でもない者に命を賭けて頂くわけですからね」

「おっと、死ね、という仕事は受けませんよ?いくら好条件とはいえ」

くぎを差すように、それでいてなんだか弱い調子が
不思議な調子を帯びている
傭兵はおどけるわけでもないだろうが、提案に対し、弱い反撃をしてきた
当然、そんな返答は予想の範囲内で、治安公は休む間もなく続ける

「無論、無駄死にを強要するようなマネ、デハンに誓ってしませんよ」

柔らかい笑顔、そしてデハンに誓うという言葉を聞いて
おそらく理解できていないのであろう
傭兵の表情は、苦笑のそれを象ってため息のようなものを一つついた

「勝ち戦にするため、本当に働いて頂かなくてはならない、戦勝の暁にはさらに200を上乗せするのを約束します」

「それは、なかなかどうして・・・」

金が700ともなれば今の生活を守れば10年は何もせず暮らせる
明日も知れない身の程で、考えうる限りの豪奢を気取っても、3年は豪遊できてしまうだろう
その額は傭兵にとって最高の魅力である
カインは、目の前の神に仕えるとは疑わしい、商人風の男の声を
本当かどうか、ただ、確かめるように瞳を使っている
射抜くような、脅すような、それでいて、その反応を逃さない
そんな目を使う、瞳には商人風の笑顔が映り込んでいる

「ただ、遂行上、誰も死なないとは約束できません」

「それは戦争ですからそうでしょう」

「作戦の大筋は教えられませんが、あなた方にしていただきたいことはここに説明できる」

治安公は、言うと地図を広げて見せた
全30区画からなるツィーゲル全体の地図だ

「今、われわれデハンは、この30のうち11を領有している」

「この青い方がそうか?」

「そう、見ての通り囲い込まれるようにして減ってきている、しかし反撃に出ることとなりました」

「・・・・・・それで」

傭兵は黙って地図の上をじっと見詰めている
傍で見守っているサモンは、何度も聞いた作戦の話など
気にとめるわけもなく、それを伺う、異人を興味津々に見つめている
その中に、武威公も同じ目をして並んでいる
ただ、少しばかり違う部分を見ている、たとえば腕の傷跡とか、腰の肉付きだとか
他人との距離の取り方だとか

「われわれは数が少ない、だから、短期決戦でしかも前線を極力拡大せずに本拠を叩きたい」

「なるほど」

「知っていると思うが、奴らは数が多い、いちいち相手にしていては身が持たないんだ、短期とするた」

「説明はいいよ、最前線の先鋒を務めろということなんだろう?」

ぴくり、治安公は少し驚いてしまい
一瞬言葉を失った、サモン達も少し驚いた様子らしく
ひそひそと、ざわめきたった、武威公はそういうのに興味が無いらしく
その反応を見た、傭兵の表情を気にしている
だが、それを見てもなんとも思わない様子で、ただ
じっくりと、前向きに判断するならば、己の仕事のことだけを考えている
後ろ向きならば、自尊心のかけらも無く己が辱められることに抵抗のない屑である
見掛け倒しの騎士ならば、それは、武威公の頭から
同じ人の形をしていても、全く下等なものとしか映らない
どちらかまだわからないので不機嫌な表情はそのままだ

「あまり侮られても困る、それなりに戦争を職業にしていますからね、それにそうでなくては
金を払う甲斐がないでしょう?」

「確かにそうだ、これは失礼をした、おっしゃるとおり先鋒の部隊に入って欲しいんだ」

「前線か、確かに価値のある働き場だ」

「そう言って貰えると、助かる」

治安公はにこやかに相好を崩して、申し訳なさげな声で言う
先の動揺を引きずらないようにしてその嘘を続ける
作戦は、彼らを先鋒とするのではなく、
彼らを囮として偽りの前線を作り、それに乗じて出来る薄手のところへと
本隊が殺到するというものだ、戦場戦略において、虚実の使い分けは
東方の戦術家が提唱するより前から、漠然と信奉されてきた手段の一つだ
ただ、正義という信念を持つデハン、宗教にとって、作戦とはいえ
嘘をつくということは、あまり歓迎されることではない
現状では切迫し、仕方ないという妥協がなされているが、それでも
味方の分隊に嘘をついて囮とさせるマネはできず、傭兵を雇い入れ、それらを騙すことにしている
それが今回の全容だ、武威公と揉めに揉めたが、なんとかやりこめて受諾された作戦
治安公は、なにがなんとしてもこれを成功させる必要があると踏んでいる
それしか必勝を約束できないとも思っている、だから、全ての段取りを彼が執り行っている
招かれた客が優秀なのは喜ばしいが、優秀すぎては困る
作戦の本筋は決して悟られないように、それを念頭に置いて演技を続けていく

「装備の類も用意しよう、もっとも、貴公の服装(なり)からすると、心配は要らないか?」

「いや、300人全員がこのような装備を持ち合わせているわけではない、有り難く使わせて頂く」

「もっともだ、ただ、教徒が自らの安全のため力の代わりとして差し出した金銀よりそれらは支給されている
それを忘れないで欲しい」

「当然だ、金は命と等価だと思っている、それを預けられる信頼、それを損なって生きていけるなんて
傭兵は一人として思ってない、そんな卑怯の噂が立てば、後に苦労をするのは解っているさ」

治安公は笑顔を作り直して受け入れた
シンプルな考え方だな、金銭が信頼と等しい価値になるとは
治安公は異人の考え方に少なからず理解できない部分を認める
デハンサモン全てから信頼を得るために金銭に対しての忠実さを示すことは、
毛程の価値もない、むしろポイントを落としているくらいかもしれない
それでも、なかなかの身なりだから、まずまずデハンサモンの「うるさがた」も黙らせることができるだろう
あとは、武威と後押しを強靭にすればなんとかなるか
そんなことを考えて、少し視線をはずす
武威とアイコンタクトで、そのタイミング、傭兵を認めさせるタイミングを知らせなくてはいけない

ちらり、視線を外して武威を見た
段取りと違う、というか
治安公はそこからすぐに事態の悪化を悟った
武威公の目が、他サモンと同じく懐疑に満ちている
それじゃ意味無ぇだろ馬鹿野郎
戦争馬鹿、阿呆、ボンクラ、おたんこなす
頭のなかで散々に幼稚な罵倒を繰り返しつつ、なんとか逆転する方法を考える
武威の瞳は、金に執着する男への嫌悪に溢れている
ここでまさか傭兵を雇えないなどとなってしまったら
考えるだけでまずいと思う、すぐになんとかしなくては、今回の作戦の卑怯に苛立つ武威公が
更に異端の人間と組み、その異端が下品であるとなっては、機嫌が悪くなるのも充分
せっかく賢そうなところを見せて、ポイントを稼いでくれている傭兵を擁護するため
次の台詞を繰り出す

「それだけの先見があれば、本当、頼りがいがあるというものだ、我々は必勝を誓って
この戦に臨みたい、我々の間では約束は神に誓うこととされている、君たちが、
この戦で我々とともにあることをここに顕わして欲しいのだ」

段取りを早めるようにして、治安公はさっさと契約書を取り出した
契約書の内容を破ることがあれば、神の怒りをもって罰を受けることとなる
分かり易く言うと、サモンより暗殺者の追っ手を出され、必ず
デハン教徒の手により葬り去られることとなる
この危急に迫った戦時下でそれがどれほどの脅しとなるかは、疑わしいが
教徒はツィーゲル以外にも居るのだ、芽吹いた宗教は消えることがない
必ずどこかで凄まじい不利益をもたらすであろう、そう思うが故にこの契約書は
生死を賭けての約束を顕わす、羊の皮で出来た書類に羽根つきのペンを渡す
調印を急がせるため、すぐにそれを手渡して、なお、促す

「ここに?」

「そう、名前を」

「いや、治安公、その前に」

「!・・・・・なにか?金融公・・・」

金融と呼ばれた神官は、疑わしいという視線のまま
調印の場へと出てきた、不審は声にも現れ、はなから不快感が漂っている
一歩前に出て、傭兵に一瞥をくれた後、まったく同じ色の目で
治安公を睨み付ける

「確かに仲間として受け入れたいと思う」

「ならば、何もこの場で話を止める必要は無いでしょう」

「いや、まて、なにせ異人とはあまり触れ合う機会の無い我々だ、もう少し彼の事を知りたいと思うのだ」

「調印の後でもよろしいのではないか?」

「わからんか?本人を前にして言うのも憚れるかと思ったが、なにせ我々サモンは民の代表だ、
間違ってはならぬ存在ではないか、何かを決めるのには慎重を期す必要があろう」

「それについては、前回のサモン会議で可決したではないか、今更蒸し返すことこそ混乱の根源となる」

治安公がいつになく熱を帯びた調子で、しゃしゃり出てきた金融公と対峙する
黙らせるとでも言うような、性急さでともかく調印を済ませようとしている
傭兵は、その突然に起きた内輪もめを目の当たりにしても、
何と思ったことも無い様子で、黙って事の成り行きを見ている
内輪もめを見て喜ぶような、人格の卑しさは無いと思われる
金融は、しかめっ面でもう一つ踏み込む、公式の場と思って落ち着いていたが
日頃から仲の悪い治安公に、ついつっかかるようになる

「先だっての会議も、貴様がほぼ取り仕切り当たり前のように可決させたのではないか」

「貴様、何を言い出すか」

「根回しで全て完了するなどサモンの意味と意義がない、今までは黙ってきてやったが、
いや、今回も確かに貴様の提案に乗るがな、それ相応のものを示して貰わねば困る」

「示し?」

「そうだ、この傭兵がはたして、民の財を与えるに足りうる男かどうか、それを確かめねばなるまい」

その言葉に、中立の立場にあるサモンが何人か同意した
治安公とてバカではない、いや、今の時点で充分な失態ではあるが、
それ以上の浅はかさを他人に見せるわけにもいくまい
すぐに、その提案に乗るようにして、引き下がった
引き下がりながら、その案を先に提示する

「ならば、武力でも見せていただければ充分であろう?」

「確かにそうだ」

「お見苦しいところを申し訳ない、済まないのだが一つ、力量を見せて頂きたいのだが」

「一向に構わない、無いのが可笑しいと思っていたところなんだ」

ざっくばらんな具合で、配慮したとも思えるほど寛容にそれを受け入れた
ただ、その方法については彼から提案するわけにもいかないだろうから
どうすればいいかと、問いを視線で向ける

「そうだな、デハンでもっとも武力に精通している、武威公と軽く手合わせを・・・」

「いや、待て」

「なにか?」

眼光鋭く治安公が金融公を睨み付ける
めまぐるしく展開する場面の中で、うまく軌道修正をして
彼が当初考えていた「武威公が認めることで傭兵を認めさせる」という方針に
戻していた最中だ、その流れに気付いたかのように
金融公が待ったをかけている、その声と同時にもう一人の聖騎士が歩み出る
武威公と並ぶデハンの武勇、医術公
神官の3分の1を勢力に強力なバックボーンを持つ男だ
彼は金融公と仲がよい、医療と金銭だ、仲がよいものだろうがそれは余談

「わざわざ武威公に出て頂く必要もあるまい、私と手合わせをした上で判断させていただこう」

「医術公、しかし」

「治安公、黙っていろ、武門の分野に携わる以上、貴公より私の方に発言権がある、よいよな武威公」

唐突に話をふられ、それまで場を見守っていた武威公が
医術公の問いかけに頷いた、何一つ依存はない様子だ
あのバカが・・・
もう一度治安公が苦虫をかみつぶすがもう仕方がない
傭兵の実力に賭けることとしよう、治安公は、というよりも
サモン神官のように、生粋のツィーゲル育ちは、異人と出会うことが本当に少ない
バンダーウ教徒はいくつか見てきたが、少なくとも奴らよりは
デハンの騎士が遙かに強いというのは見てきた、だから、デハン騎士は
世界で一番強いんじゃないかと思っている
そう思えばこそ、傭兵如きがどこまでやれるものか、侮ってしまう
医術公の武力は武威には劣るがそれでも騎士上がりの強さ、治安公の不安はそこにある、
金融公が傭兵に不満を持つのは、担当する金銀が得体の知れない輩に流出することが勘弁ならんこと
傭兵など雇わなくても勝てると思っているところがこじれる

「方法は?」

「剣でよかろう、決闘だ」

「決闘・・・・・まさか、殺し合わなくてはならないのか?」

傭兵が訊ねた
臆病風か?サモン達はそれぞれそう思って、蔑みを強めた
傭兵は平気な顔をしている、ただ、もう一度訊ねる

「模擬戦でよいのだな?殺されるのはかなわないし、こちらが間違いを起こしてもいけないだろう」

「言ったな、異人」

医術公がカチンと顔を赤くした
傭兵はなるだけ気を使って言葉を選んだつもりだったらしいが
傭兵が強いという想像が、現時点ここに居合わせた10人の脳裏にはまるで浮かんでいない
サモン全員が傭兵は、馬の骨だと思っている
だから当然と言える、口だけの奴だと伝え聞く「傭兵」という「品のない人間」への
軽蔑を想像で拡げてしまう、模擬剣が渡された、もうどちらも準備が出来ている
サモンの会議室はそれだけでかなりの広さだ、二人の男が喧嘩をするくらいのスペースはある

「よいか?」

「無論」

チャァン、模擬剣とはいえ、木剣に金属を巻いたものだ
殴られれば相当の怪我を負うに違いない
医術公と傭兵は対峙してお互いが構える、いや、構える前

「おお・・・・」

「これは」

ため息とも取れる、ざわめきが起こった
騎士の習わしであるはずの、礼を切った
目の前で剣を平にして立てる、お互いのそれを見てから
ゆっくりと自分の構えへと流す、流儀を知っている時点で
やはり、騎士の何かを備えているのではないか、見物人の一人である武威公は
そのことに目を付けた、というよりも引きつけられた
馴れた様子の、なんというか、ならず者では決してできぬ
訓練された礼の動作、実は、大した人物かもしれぬ
人物の良さを、礼節だとか武力だとかでしか計れない武威公からすれば及第点

「ぜぇいっっ!!!」

「ふんっ!!」

ジャァアアアアン、医術公の振り下ろし
大きな雄叫びが室内に響いたが、それをかき消すように
金属のぶつかる音が共鳴して耳をバカにする
傭兵は下から振り上げて打ち下ろしを跳ね返し、一歩踏み込みそのまま剣を打ち下ろす
医術公は負けていない、約束通り、練習通りに半身となってそれをかわす
そしてかわしながらよく捻った腰を使って、横薙ぎに首もとへと剣を振り抜く

ギャァアアアアン

獣のような声をあげる模擬剣
大柄な医術公の攻撃を、とてもうまく捌いている
武威公の目でなら解る、ただ者ではない、攻撃を捌くという技術を持つ騎士を
デハンは20人と持たないだろう、それを医術公相手にかます
充分な実力だ、それだけで素晴らしいと称賛に値するだろう
だが、それだけの技術を持ちながら、なぜ守勢に回るばかりなのか

「武威公・・・」

「?治安公か、どうした」

「それは俺の台詞だ、どうなんだ?あれは、負けてるんじゃないのか」

「・・・・・・そうか、お前らにはそう見えるか」

「は?てことは勝ってるのか?全くそう見えないんだが・・・」

「そうだ、わざと負けているんだろう、少なくとも俺の目にはそう見える」

「わざと?なんで・・・」

「わからん」

「そうか・・・いや、待て、気を使ってくれているんだろう、いきなり打ちのめしては医術公に悪いと見たんだろう」

「なんだと?」

「先の俺達が見せた見苦しいところから察したんだ、俺達サモン神官が絶対の力を持っていなくてはならない、
そしてそれぞれがその分野での最高位だからこそサモンで発言権を持っていること、
今、奴が簡単に医術公を負かしてしまうと、公に迷惑がかかると睨んだのかもしれん」

「なぜ、わざわざそんなことをする必要が、金好きの愚か者如きが」

「だからだよ、雇い主のことを考えてだろう、そこまでできるなら、ますます欲しいな」

「気に入らん、そのようなバカにした態度」

「バカにされるような弱さなんだろう?いつものお前ならそう言うじゃないか相手に」

「・・・・・・・確かに、そうか」

「一番見くびってるのはお前だな武威公、一度叩いて貰った方がいいんじゃないか?」

「ぶっ飛ばすぞお前」

「まぁ、しかし、俺ですら負けてると思ってる現状をどうやって・・・」

確かにどうするつもりなのか
武威公はそれを怪訝に見つめている、八百長めいたことをするならば
信頼に値しない、治安公がどう言おうとも、そのような品のない輩と共にする必要性は感じない
というよりも認められない、それを強く思い動きを見ている、相変わらずかわしている
いや、捌いている、受けながらそれを流しているのがよくわかる、医術公も
そうされているのを解っている様子だ、焦りが汗に滲んでいる
その表情を見た傭兵の、一瞬だけかいま見せた、鋭い視線を逃さなかった
エモノを狙う獣の瞳、いや、一瞬に勝負をかける戦士の視線だ、そうなのか、

「狙っている」

「狙い?何を」

「逆転をだ、実践慣れしているんだろう、練習通りの攻撃を全て見切りつつある、今にくる、思い違いだった、
奴は引き分けや負けを狙っているんじゃない、一撃逆転を狙っていたんだ」

「??くるってのは」

「医術公が次に左足から踏み込んだら、くる」

予言者のうわずった声通り、医術公が左足から踏み込んだ
この時には真っ直ぐ真上からの打ち下ろしをする、既に1度それを見せていた
傭兵はそれを待っていた様子で、その打ち下ろしに剣の平で立ち向かう
いや、向かうというよりも剣の方向へと攻撃を滑らせていく
凄まじい火花が上がる、金属同士が削りあい、身を焦がせて心血を吹き上げるかの如く
一瞬部屋が明るくなったように思える、ジャァアアアン、けたたましい音
そして流れた攻撃に吸い寄せられるように、医術公が体勢を崩した
傭兵の剣に力がこもる、それがわかった

ゾク

「!」

武威公が思わず身構えた、凄まじい殺気を放った
それは素人、他のサモン神官ですら感じ取れるほどの脅威だった
全員が竦んだ、そして脳裏に浮かべる、医術公が殺されること
しかし、医術公も武門の出身、それを受け入れる気合いを号として放った
名勝負だ、そんな説得力を帯びた一瞬が過ぎていく、決着、
その手前、打ち消すかのような軽やかな、寂しい音が鳴った

こぉん、

「残念、引き分けですかね」

「・・・・・・・要らぬ世話だ、俺の負けだ」

医術公が自ら負けを認めた
お互いの模擬剣は折れてしまっている、打ち合いに耐えきれずへし折れてしまっている
それを見て少なくとも互角の何かを見出すに充分な物的証拠となる
勝負の如何については、武力を知らぬサモンからすれば、どっちがどうなのかわからない
だが医術公と劣らぬ強さを見せたというだけで及第点だと悟った

「よろしいか?」

傭兵がそう言った、言って、見回した上で反対するものを認められず、
改めて書類にさらさらとサインをした、それで一つ仕事を終えた様子になる
無駄な口は叩かない、武力を持って黙らせた、そういう自負があるかのようだ
治安公の思惑はまるで的外れだったということになる、
ここまで完膚無きまでに叩いてくるとは夢にも思わなかった・・・これでは、俺達サモンへの心証が悪くなるだろう
場の空気を読めない、それは万死に値するんじゃないか?治安公がそういう目を傭兵に向けたが
それを遮るようにして武威公が前に出た、のみならず、握手を求めて手を差し出した

「結構だ、そして、よろしく頼む、カイン殿」

「全霊を持って忠義を尽くします」

「貴殿の強さ、そして、その礼節に感服した、驚いたとも言うべきだ、今まで済まぬ、蔑んで見ていた」

「いやなに、慣れています・・・というよりも、解って頂けるだけで恐悦至極」

固い握手が交わされた、さっきまでの懐疑に満ちた瞳とはまるで逆
その信頼しきった仲間を迎える様子に面食らう
治安公が狼狽えるが、武威公のその行為がサモン全ての意識を一つにまとめた
彼が強く、頼りがいのある仲間だと認める
金融公が面白くなさそうな顔をしている、そして医術公に近づいた
しかし、それを払い除けるようにして、医術公が傭兵に近づき
これもまた、満面の笑顔でそれを迎えた
それを見て、呆気にとられる治安公と金融公

「・・・・・・・・・どうした治安公、思惑通りで嬉しいのだろう?」

「いや、なんというか、俺には解らない世界だなと思ってな、金融公」

「お前の事は嫌いだがそれには同意できる、300の分の金、安く済むようにしろよバカ野郎」

「あいわかったよ」

文官に属する二人のサモンは、目の前でたたえ合う
もののふ達の感情を理解できないまま
それでもとりあえず、よい方向なんだろうとうっちゃって、その場をまとめにかかる
治安公がサモンの装束をなびかせて、その場に近づいていく
調印が終わったら、それに朱印を捺す必要がある、それは治安公の仕事だ

かくして、デハンの戦力に傭兵が300組み込まれた
その日からすぐに聖戦の重要な会議が始まることとなった
いくつか紛れ込んでいた間諜がその様子をバンダーウへと告げる
無論、バンダーウがそれを手に入れたということを
デハンが放った間諜も掴んでいる

開戦の合図など必要じゃない
どちらかが決断をした時点でそれは始まった
両国が戦争への昂揚を謳う

「ローザヴィ」

「はい、カイン様」

「この仕事、いよいよ大がかりになると思う」

「楽しみにしています」

西ツィーゲルの一角に隊員を集める場所を譲られた
そこの一室に妻を迎えて、ゆるりと、傭兵が一人くつろいでいる
二人で過ごすには少し広い間取り、もう一人くらい住むスペースが確保できる
そんな広い場所に彼は陣取って、戦の空気を吸い込む時を
待ちわびるようにして窓際に立っている

つぎ

もどる







展開遅っ

自分が楽しいだけで小説を書くと
こんな大変なことになるのだと、何本目の連載かわからない現在
ひしひしと感じております
畜生、どうして俺はいつも過ってばかりなんだ

そんな具合で、たったと先進められるように
どうせ中身が無いんだから、無理しないような
そういう進め方をしようと思ったりしつつ

長文、本当に失礼しております
R(05/08/18)