Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.
「サモンは?」
「中止だ、それよりも早く準備をしろ」
「準備って、おい、傭兵の話どうす」
「後だ、話は通す、賛成してやる、お前の言うことも一理ある」
「そりゃ有り難いが、ちょ、どういう」
慌ただしい足取りで、武威の神官が治安の神官を
あしらうような口振りで、ほとんど相手にしようと思わない様子
武威は冷徹な男だと評判がある
サモンの神官中で、数少ない騎士階級上がりの聖騎士だからだろう
厳格と正義の象徴として、法衣姿ですら、戦士の力を漲らせている
忙しそうに法衣の上に鎧をつけていく
続いて、腰に剣を差し、左手に槍を持つ
グレートランス、体と不釣り合いなほど大きなそれだが
戦場では実際、何百という敵を蹴散らしてきた、武威の神官にとって
この「武威の大槍」こそが力の象徴であり、己の片身
それをひっさげて西ツィーゲルの城を出ていく、当然戦場仕度
それを追う、かたや治安の神官は商家の息子だ
絹の貿易で大きく財をなした家の出で、その財力を惜しげもなく
この国へ、またデハン教へと貢ぎ、その対価を受け取っている
この男は神官の中でも、俗物に入れられる類だろう
それは悪いことじゃない、俗物に入るということは政治ができるということだ
きれい事だけじゃうまくいかないことを円滑にする
そういう神官として、治安を任され、サモンでもそれなりの発言権を持っている
ただ、どうも浮ついた、いや、軽い印象があるのは否めない
武威の神官と並んでいると、無骨とお気楽、そういう二人組のように見えてしまう
少し外見で損をしているとも言えるだろう
カツンカツン、石畳を蹴る音がだんだんと大きく
そして増えてきている、堂々とした歩調の武威
その後ろを治安は、頼りなさげについていく
納得行かない様子で、もう一度、今度は彼なりに商人顔を引き締めて強く出て訊ねる
「だから、わけわかんねぇだろ、何があったんだよ、神託か?まだ瞑想だって話だろ?」
「ああ、確かにそうだ、我らの神はまだ降りておらぬ」
「我らの?」
「そうだ、デハンではなくバンダーウの降臨だ、第15区、既に戦場となっている」
「・・・15区か、流石に負けられんな、あそこは水場があるだろ」
「ふん、もう二度と負けるものか、バイデン騎士団を投入する」
「・・・わかった、市民による援護は俺が「センドウ」しよう」
「センドウな、扇動(あお)るほうか?」
「失敬な、先導(みちび)く方だ」
笑って答える、その表情がやはり無骨のそれとは似つかぬほど
人間味に溢れているというか、よく移ろい美しい影をいくつも持つ
治安の神官は、そんな自分の顔をわかってか、少し引き締めて再び訊ねる
「相手は?」
「まだ何もわからん、唐突すぎてな、まぁ唐突すぎるということで大体察しは付く」
「なるほど、「バンダーウの爪」か」
「いかにも」
馬にまたがるとそのまま武威は後ろを振り返ることなく
石畳を蹴らせて、飛び出していった
外で待っていたのであろう騎馬隊の真ん中を走っていく
それが先頭に躍り出ると、やがて後続して騎士隊が方陣を固める
街ではおそらく喝采と鼓舞の歓声があがっていることだろう
流れゆく美しい銀色の鎧達、掲げられた蒼い旗は、大槍を旗印にして進む、進軍を開始する、出撃する
見送りながら治安の神官は静かに自分の仕事をするため
別のルートから戦場へと向かい始めた
ドワッ!
喚声なのか、それとも何かの音なのか
ともかく大きな振動が、壁を伝ってやってくる
15区の区画壁の内、二カ所が破られ
そこに敵味方、東西の軍が入り乱れている
デハンの守備隊が必死な抵抗をしているが
バンダーウの爪と呼ばれる、東側の者達は秩序のない攻撃で
次から次へとやってくる
「殺到しろ、殺到しろっ!!!この戦で死ねば、バンダーウの民として天上に召される、次世での繁栄が約束される!」
叫び回っているのは、バンダーウ教の修道士だ
そう叫び回ることで、「爪」達を次から次へと死ぬ恐怖から解放していく
恐怖を覚えない攻撃ほどおそろしいものはない
一度スイッチが入ってしまえば、もう、止めるには破壊するしかない
「爪」の恐ろしいところはそこにある
死ぬことを畏れないから、今まさにそこで
デハン15区守備隊の槍に、三度突き刺され息絶えた男など
冬物の服を二枚重ねただけだ、それを装備だと言い張る
そんな物しか持ってないような貧乏人が主戦力で
それくらいで充分だと思うような狂いようが、バンダーウ最大の武器だ
「爪」と呼ばれているのは、組織された軍隊ではない
有志で勝手に集まり、彼ら曰く
己の中のバンダーウがそう言った
それに、神の声に従って、バンダーウの細胞たる自分の役目を唐突に思い出し
デハンの民に、町に、水場に襲いかかっている
兵民ばかりだから数がともかく多い、圧倒的な人数で常に一揆のような突発的な軍事行動
いや、軍事行動とは規律の取れた攻撃の意思を示すだろう、
そう考えればこれは違う、ただ、無秩序な暴動を起こしているのだ
「ここが攻め時だ、ここを抜ければ15区は、水場は我らのものぞ、俺はいく、もう、我慢がならん」
誰に言っているのか
頭がどうにかしているのではないかという視線、いや、瞳で
狂気を口走りながら、ヨダレとも涙とも厭わず
だらだらと己のタガを外して、一人の男がデハン守備隊に突撃を試みた
衣装が他の爪とは違う、明らかに正装、それも軍事的な正装をしている
剣を抜きはなって、一直線に突っ込む
目の前に槍の穂先が見えても避けようとすらしない
どだどだどだどだっ、踏み蹴散らしていく足下の音が派手に響いた
正装の男は、運良く、槍の穂先を全てかわした
目に狂気が宿る、もう、彼の視覚は意味をなさない、見えているのは花畑だ
幾億という、見たこともない美しい花が咲く、バンダーウの国だ
男には見えている、ここで何人殺せばあの国へ行けるのかその答えが見えている
ここで5人を殺せば、ここが堕ちる、ならば花畑は私のものだ
約束された地、バンダーウの膝元、初めて会うことができる、夢の、憧れの、
その地は死の向こうにある
名誉を勝ち得た後の、美しき死を超えた時、扉が見える
「死ねぇええええええええええっっっっ!!!!!」
ずぎゅむ、鉄くちが肉をもとめた音がした
凄まじい勢いで吶喊を喰らった守備隊員が吹き飛ばされる
先頭で突撃を受け止めた男は絶命した、その剣がミゾオチを貫いて背中にまで達している
あまりの勢いで4人の守備員が雪崩のように倒れていった
飛び込んだ男は立ち上がるとすぐに守備隊の武器をぶんどり、それで
倒れた敵めがけてそれらを打ち下ろす、容赦のないそれが次々と命を奪う
「異教徒っ!!!!調子に乗りすぎたなっ!!!!」
ドグォア、肉が砕ける音で、腕と言わず、半身をばらばらに散らした
笑いながら死んでいく、男は花畑へと旅立っていった
それを見て、貧乏爪達がそこへと殺到を始める
口々に叫ぶ、吼える、声を挙げる
「司祭が召されたっ!!!、司祭が今、敵を殺し召されたまわれた、あそこだ、あそこに門がある、花畑へと続く門がある」
「俺だ、次は俺だ」
津波の如く押し寄せるバンダーウの爪
誰が指揮を執るわけでもないのに、バンダーウの意志とのたまう
司祭一人の死が、それをもって総攻撃の命令をくだした
これが神の力だとバンダーウの民は叫ぶ
完璧なタイミングで、勝負所をわきまえた総攻撃にかかった
デハンの守備隊もそれに気付き、対抗を試みる、だが、この流れは尋常ではない
この、突発的ながら的確な攻撃
作戦とは言えないのに、反射で下される決断が最善を選んでいる
バンダーウのこの戦い方にずっと手を焼いてきている
デハン側はいつもこれに悩まされ、狼狽えた挙げ句敗走を繰り返してきた
そして、この15区も、先日の戦同様に追いつめられている、ここまではだ
少ない騎士が率いる、町の守備隊程度ではその程度だった
本領は違う、それが、今、証明される
デハンの、神の大槍が証明しに、参上する
「守備隊、一時散解せよっ、盾を挙げろ道を開けろ、デハンの名の下にそれを命ずるっ!!!」
!!!!!
デハン守備隊がその声に後ろを振り返った
何人かはその隙に殺されてしまったが、それはおかまいなしだ
残った守備隊の志気が目に見えてあがる
大きな応答の声があがる、そして潮が引いていくように
とても綺麗な散開が行われる、守備隊は盾を掲げて攻撃を防ぎながら
壁の穴から人垣で道を作る、理性ではなく野生と本能で攻撃をしかけるバンダーウは
開いた道を真っ直ぐに進んでいく、その奥から光を背にして
真っ青な旗とともに、数十騎の騎馬が走り込んできた
「サモン神官到来っ、バイデン騎士団推参!!!!!!、道に迷うた敵は眼前っ
騎士よ、槍を持て、一人残らず天に捧げよ、殺すことでデハンの民へと浄化させるのだっ!!」
武威の神官の声、その後ろから二手に別れて騎士隊がそこへと躍り込んできた
けぽんっ、軽やかな音がすると、人間が一人宙を舞っている
騎士達は異教徒を葬ることに何一つの罪悪感は覚えない
自分と同型の動物を殺すということを躊躇もなく繰り返す
教義に従うまでだ、騎士はそう答えるだろう
何せデハンでは、教徒でないものは、教徒が殺してやることでデハンの民へと浄化することができるのだから
彼らは殺しているとは思っていない、犯罪とかそんなことを微塵も想定しない
あるのは救済、むしろ、助けてやっているという自負心、それだけだ
だから容赦の無い軍事行動を簡単にやってのける
デハンの騎士は、装備も強く育ちもよい、騎士1人で雑兵集まりのバンダーウ10人に匹敵するだろう
それが数で劣勢を強いられていてもなお、拮抗を保つ力の礎だ
「道を過ってもなお、デハンは救いたまうっ、魂を今一度返すがいいっ!!!」
ズガッ、50人からなるバイデン騎士団の活躍と
「大槍」自らの出陣によって志気があがり、ほつれた城壁での形勢が逆転する
騎士隊はそのまま、勢いを利用して、散々に蹴散らして
15区外に群がるバンダーウの爪に攻撃を繰り返す
守備隊の人垣に作られた一本の道を蒼い旗が、激流のように敵を飲み込んでいく
そしてその力のままに、城壁の外へとそれらを追い出した
そこにはまだ、百人近い爪どもが待っている
「よし、すぐに穴を塞げ、手の空いたものは壁に上れ、上から矢を射かけろ」
その声は治安の神官だ、同じ台詞を一定距離を置いた場所で、手下の者が繰り返している
それにより先導されてきた住民と工夫達が次々と破られた壁へととりついていく
或る物はそこを直し始め、あるものは壁の上から矢と言わず石でもなんでも
とばせるものは全て飛ばして応援をする
15区壁前に群がっていたバンダーウの爪が次々に退散していく
無駄死にをしては、花畑に行けないと思っているから、なかなか効率的にしか死なない
やがて喧噪が止んだ、バイデン騎士は確認のため、ぐるりと区画の周りを巡回し
それを終えてようやく終着を宣言する
「我々の勝利だっ!!!!守りきったぞっ!!!」
どおおおおぉぉぉおおおおっ
喚声が上がった、蒼い旗が大きく揺らめいている
戦勝の昂揚が、辺りを明るくしている
武威の神官はゆっくりと馬から降りて、15区の守備隊達と固い握手を交わす
「よくやった」
「いえ、本当にありがとうございます。サモン武威公のおかげです」
続いて、武威の神官は倒れた仲間のところを見舞う
倒れた守備兵は、騎士が多く含まれている
召された騎士は10人、また、大損害だ
それぞれの聖骸は、デハンの絹に覆われている
赤い染みがところどころに切なく広がっている
それを見て、慈しみの視線を落とす武威神官
素直に心からの表情だからこそ、周りへの影響も大きい
戦勝で浮かれていた気分が、それを見て、水を差されたとまでは言わないが
何か、醒めてしまったように消沈しつつある
ガザッ
あ、
誰と問わず、咄嗟の声が上がった
人ごみの中から、剣を持った男が一人、武威の神官に飛びかかった
近くに来るのを待っていたのか、万全の体勢で切り込んできた
間違いないバンダーウの民だ、平装が軍服だから潜んでいてまるで違和感がない
だから誰も気付かなかったんだ、そこに居る全員はそう信じた、そして悲鳴を挙げる
英雄の危機に心からの悲鳴を挙げて、その時を報せようとする
しかしそれが届くよりも先に、どうにかなってしまう、武威公の背中にもう殺意が迫っている
ぶぅんっ!!!ギィィンッ
超人的な体捌きだ、右脚を前に一歩出し体重をそちらへと乗せながら左手の方向へ回転する
武威の神官が振り上げるようにして、回転して差し出した左腕の籠手でその刃を退ける
ジャァアアン、鉄の擦り合い共鳴するかのような音がする
左腕でそれを振り払い、それと同時に跳ね上げる力と同方向のベクトルで右腕がうなる
武威公の体は、既に飛びかかってきた男の方へと向き直っている
そして、流れる動きのまま当然のようにして右の拳が振り抜かれる
ゴガッ
鈍い音がして、鉄の塊で殴られたのと同じ振動で
脳を揺らして男がふらふらともたつく
そこへ踏み込んでいく、一歩踏み込み一撃を見舞い
もう一歩踏み込んでさらに追撃、そして、ぐったりと倒れたところへ
ようやく剣を抜き掲げた
「異教徒、その勇気、これよりデハンに捧げるがよいっ」
「ぅ・・・・・・・ぁ・・・・・・・かぁちゃん」
ドズっ、死の音を演出する、赤い飛沫が上がった
がくがくと数度震えてから、死体は天へと召された
浄化が完了した、一瞥をくれると騎士は再び向き直る
そして、並ぶ味方の聖骸へ向かい、今一度祈り、祝福の言葉を降ろした
立ったまま、返り血を浴びた聖騎士が
片手で印を切って、静かに祝福の言葉を呟く
「・・・・サモン武威公・・・・サモン武威公っ!!!」
どあぁああ
今一度、沈静しかけていた情熱がそこらを席巻した
それに答える様子もなく、重い表情のままで馬へと戻る
ずいっと体をそこへと投げ入れると、馬を進めてそこを去る
騎士がそれに続く、賞賛の声が止まない
その一連を見ている男が、壁の上にいる
「・・・・流石役者だねぇ」
呟いた商家あがりの神官は
にやりと笑って、すぐに真顔を引き締めた
連れてきた工夫に指図をし、壁の修理を進める
そして自警団を組織し、守備隊の救護にも務める
治安の神官がここで力を発揮する
戦場の後かたづけは、戦争そのものよりも重要な任務だ
それを解って、顔を引き締める
壁から外を見ると、まだ遠くにうらめしそうな表情のバンダーウの爪が見える
お前らの相手は今度だよ、またな
そう心で呟いて壁を降りた、采配はこれからだ
傍らで、非戦闘員であるデハン教徒が、死亡した守備隊や市民などデハンの民を葬っていく
それらが終わると、バンダーウの民も葬ってやる、ただ、それらは壁の外にだ
それでも丁重に葬る、彼らも、死んだ以上デハンの民であるという教えがある
それもあるが、心のどこかで平民階級では、同じ人間という思いからくる
贖罪をここに果たすこととなる
トンカントンカン、壁を修復する音が暫くは続くだろう、15区はデハンが守り抜いた
騎士達が西ツィーゲルに戻っている
蒼い旗は戦勝の武功を知らしめる為か、城塞のそこかしこに掲げられている
西ツィーゲル近くの人々はそれだけで活気を取り戻している
久しく聞いていなかった戦勝だから尚更なのだろう、夜遅くまで
その騒ぎは静まりそうもない
「いい具合だな、そろそろ瞑想から帰られるであろう時、この教徒の情熱は」
「・・・・・・・」
「なんだ武威公、面白くないのか?貴様の勝利ではないか」
「治安公、貴様、わざとあの異教徒を残していたな?」
にやにや
治安公は、何も答えずいつものようににやにやとしている
鋭い視線で、武威公は彼を射抜いているが、それを受けてなお
柔和な笑顔を作成することができるのだから、相当な器量の持ち主だと悟れる
賢(さか)しい、武威公はそう思って、自分の正義と合わない事象に目くじらを立てている
「あれは凄かったな、あんなに見事な武力を見せられるのは、世界広しといえども、デハンの武威公以外に・・・」
「話を逸らすな、やはり、扇動させたかったのだな?」
「それは」
違う、と瞳だけで言う
ゆっくりとなだめるような調子で、無骨一辺倒の武威公の迫力を
最低限受け止めるだけで済むように、綺麗にかわしていく
芸達者な治安公の瞳は、恩赦を訴えるような光を讃えている
ただ、見る者が見れば、それすら高度な駆け引きの一つに映るだろう
「一つの尊い命を使って、民衆を扇動する、お前のそういうところは俺は好かん」
「そう言うな、お前のその自尊心に対する犠牲によって、15区は持ち直したんだ、たくさんのことが
順調に流れるようになったんだ、そういうのを受け入れてくれ、俺を怨むのは構わん、それだけを頼む」
「貴様の場合、その発言が純真なのかどうかすら疑わしいからいかんのだ」
吐き捨てるように言うが、その瞳には既に優しさが宿っている
武威公は甘い男だと、その筋のものからは言われるだろう
治安公はその筋のものだから、そう思わないでもない
だが、それ以上にこの男の一本気な所は、本当の意味での
自分では決して辿り着くことができない、偉大なる宗教心を抱いていると理解できる
そういう意味で、憧れもするし、疑いもする
治安公は、様々なずぶどろを見たせいで、何もかもを信頼することができない哀れに身を投じている
そういうのと戦い続ける武威公は、彼にとって英雄に違いない
そんな奇妙な関係のバランスをとって、この二人が、現在デハンの
武力部門について、様々な意見を交換し、提案、遂行していく
「俺は悪いんだろうな、お前から見たら」
「ああ、悪い、貴様の生き様はデハンの名誉を汚す可能性がある」
「まだ可能性で済んでいるか」
「・・・・・・・」
「どうした?」
「それは・・・・・」
俺の恩赦だ
武威公はそこまで思ったが、流石にそんな口説き文句のようなことは言わない
黙って旗の色と同じ空を見上げている、まもなく瞑想から王が帰ると聞き
サモンの神官達は、サモン会議を召集せずに、でも、西ツィーゲル城に集結している
時を待っている、夕闇がそろそろやってくる、この辺りは空が随分美しい
星達は、占星術の道しるべとなり、神話の基礎となるほど煌びやかで尊い
スビエ王
それは、デハン教の最高司祭に当たる
もともとはサモンの一神官に過ぎない
だが、デハン教では、最高司祭という最も尊い位を創造し
そこが神と同位になるほどに崇めている
人間が、そこへと上り詰めるが、その瞬間に最高司祭は人間ではなくなる
神そのものだと言っても構わない、代行者という立場だが、その声、仕草、美貌
何もかもが神のそれ、そのものだとされている
スビエ王は、それらの諸条件を必要以上に達成している、名君だと言える
美しい細面
備え付けられた神々しい声
毅然とした態度、仕草、所作
それぞれが神官のそれらを凌駕して、神の域に達しているのは確かだ
デハンの教義において、最高司祭の言葉は、神のそれと同等と見なされる
例えそれが間違っていたとしても、それは
人間の限界であるという理由で説明され尽くす
神は万能であるが、神はこの次元に降り立つことができない
だから、最高司祭という神に一番近い、この次元の生き物がその代行を務める
代行だから、神より劣ることはある
だが、それでも神に一番近いから崇めなくてはならない
そして、万が一に間違うことがあれば、それは、全教徒の力をもって是正する必要がある
デハン教は縦の繋がりも、非常に強い、よくできた組織形態をしている
三段階に別れた階層が、尚一層、それらに彩りを添える
スビエ王は、そんなことを信じるデハン教徒の象徴であり、偶像でもある
彼が下す言葉は、すなわち、神託
突き詰めると、宗教心を無しとすれば、まるで、バンダーウとその様式は一つも変わらない
それは、誰も言わないし、この場では信じられない、狂言でしかない
彼らの言い分では、バンダーウの神託は教祖の戯言、デハンの神託は神の言葉そのもの
デハンではそう信じられている
話を戻そう、今宵、サモンの神官が集う西ツィーゲル城に神が降りる
スビエ王が、神託を降しに参上する
夕刻となった
いつもの円卓に10人のサモン神官が並ぶ
そして、円卓とは離れた、それでいて上座、デハンの旗の前に座る
最高位の司祭、スビエ王がおわす
「スビエ王、サモン神官、集結しております」
「暫く留守にして、迷惑をかけた、ここに詫びる」
その言葉に神官全ては、その言葉への驚きと拒否(反目?)を表情に浮かべる
言葉は発せられない、当然とも言える、神託の途中で人間の言葉など入る余地がない
「ここ近時、我々は様々なものを失った、だが、それはデハンの神々が喜ぶべきことではない」
「・・・・・・・・」
「そろそろよいだろう、好きにさせてやっただろう、充分にデハンの寛容を見せ得ただろう」
「・・・・・・・・」
「今宵、聖戦を発動する、いよいよもって、我々は真の力を持って、様々な弊害に立ち向かうことを赦す、立ち上がることを赦す
争うこと、戦うことを赦す、神の名において、スビエの名においてくだす、聖戦の発動である」
円卓が震えた
神官全てがそう感じた、威厳と荘厳の同居した世界が
凄い勢いで、平生に浸透しようと荒れ狂っている、この激流は凌げない
ならば、激流にのって、荒れ狂うしか生き残る、いや、存在を発揮することはできない
10人の神官は全てがそれに対し、頭を垂れた
全員が満場一致でその命に従うことを誓った
デハンにおいて聖戦が発動される
それは、つまるところ、バンダーウとのもはや避けられることのない戦への第一歩を踏み出したことを意味する
武威、治安のみならず、治世、金融、法律、政治、全ての神官がその言葉に己の心を鼓舞させた
いや、鼓舞させられた、わかるだろうか
自分の力以上の情熱によって、自分自身が焼き殺されるような凄まじい熱情
圧倒的な狂信、己を正義と信じて疑わない、饒舌な己の浅はかさ
全てを赦すとされた人間の、傲慢で強欲で粗暴な生き様
それらの全部が解放された、神の名のもとに解放された
デハンが戦闘態勢に入ったことを意味する
その日の内にサモンは開かれる、いや、神託の場がそのまま
サモンへと流れている、だから、スビエ王は同席のまま
極進論的な、異常なまでに強気な全てが肯定されていく
デハンが狂い始めたと、心のないものは言うであろう、大戦争時代の幕開けだと罵る者も居るだろう
だが、それらを無くして、最早現状は打開できない
そういう空気、吐息、精神で充満してもう滞るまでに至っている
堰は切られた、あとは怒濤のように流れるのみ、全てを飲み込むため
聖戦の命のもとに、今、全デハン教徒が立ち上がることが義務づけられた
サモンの会議内で当然のようにして
治安公より挙げられた、傭兵の登用について、賛成が得られた
無論、第一に武威公がそれを支持したと伝わる
それら傭兵の選定は、治安公に任せられるとされた、サモンとしては
ただ、近衛である騎士隊のより一層の精進が提案されるのみとなった
戦が始まる、いや、戦が肯定される
その違いがわかるだろうか
知っているか?
誰かに赦されたという理由だけで、人間がどれほどの悩みから解放されるか
言い訳ができるというだけで、どれほど本性を野生を発揮できるかということを
誰がどれだけ知っているか
知っているのは、それらを下した最上級の人々だけだろう
悲しいかな、彼らは下々の犠牲を顧みない、だが、彼らが顧みないおかげで
国は形を作り、なお、それらを強めていく
繰り返す
デハンは聖戦を発動させた
散発的なバンダーウの攻撃に対して、ずっと守勢を選び続けたデハンが
攻勢を選んだのだ、これは記念すべき時である
後に記念日となっても問題はない
英断であり、戻ることのできない坂道へと踏み込んだ瞬間だ
その日、デハンの民は、全てが狂気を振り絞り
それでいてなお
西ツィーゲルへ礼拝をなしたという
ちょっとアクシデントがあってアップが遅れてしまいましたが
おおよそこんな具合で、もう少し短い感じで
連載は続けていこうと思います
相変わらず俺設定が炸裂しまくりで
読者を選びすぎの、おこがましいデキだなぁと思っておりますが
それでここを通させていただこうと思ってます
本当に申し訳ございません
思うままに書かせて貰います
そんな許しを請いながら、駄文失礼しております
R(05/08/03)