Ost.
Die Sonne geht im Osten auf.
Ost
[オースト]とは、東を意味する言葉だ
遙か遠い西方より移住してきた人々が
辿り着いた時に名付けた
ここオースト地方は、西方にも負けぬ大きな街をいくつも抱え、貿易や商業が発展した
素晴らしき土地となった、海も近く、より広い世界との交易は、陸路海路の
いずれもとることができ、理想的な商業都市を形成してきた
最初は誰も居ない土地だったここで
開拓者達は、結託して、多くの富を生み出すことに成功した
オーストの中でも、ツィーゲルという街はその最たるもので
周辺の国々の様々な建築要素が取り入れられた、異国情緒というか
ごった返した文化の片鱗が、無造作に置かれていてどことも似つかぬ表情をしている
敷き詰められた石畳と、煉瓦で組み上げられた家々は
どれもこれも同じ材質とは思えないほど、姿形が異なっている
居住区により、それぞれ人種というべきか
生まれの違う人々がコミュニティを形成しているから
それらが家の壁の色になって現れている
白い家、テラコッタ色の家、原色の家
西方の富裕層では、この東の地へと観光にくることが
ちょっとした流行を呼んだし
東方や南方でもこの街は憧れの街として認識されている
訪れる人々は、観光だけが目的ではない、もともと観光は副産物でしかなかった
観光という言葉はいつ頃から生まれたのか
それはわからないが、この街へは最初、それ以外の目的で
人々が行き来することとなっていた
ただ、それも少し前までの話、今は西方からの客はめっきりと減っている
見かける人々の顔は、どれもこれも、西方の顔つきではなく
むしろ、さらなる東や南のそれを顕著にしている
ツィーゲルはとてつもなく大きな街だ、なにせ端から端まで歩いて渡るのに一日以上がかかる
それにも関わらず、この街には、どこに居ても見つけられるほど
とても大きな建物が二つ存在する、それほど大きな建物が二つ存在する
それぞれは、東西の端近くにあり、形は対極を為すようにまるで逆さまだ
西のそれは角の立った、立方体が重ねられた城塞のようなもの
東のそれは丸みを帯びた、ドームを備えた宮殿のようなもの
西方からの来客は皆、西の角張った方へと
東方からの来客は皆、東の丸っこい方へと
それぞれが街へと辿り着いた初めにやってくる
というよりも、オーストへ来ることはこの建物へくることがそもそもの目的なのだ
建物にはそれぞれ神が祀られている
だが、お互いはまるで干渉がない、世界観がリンクしていないというのが適切だろう
もっと分かり易く説明すると
この街には、宗教が二つある、そしてその二つはそれぞれが異なる一神教である
二つのシンボルは、それぞれの総本山なのだ
ただ、どちらの宗教もまだ、日が浅い
それほどの歴史が見られないのが難点ではある
欠点とも言えるが、新しいからこそ、その熱意はどちらも譲ることなく大きい
興きたばかりの集団は、ともかく熱い、灼熱だとか紅蓮だとか
そんな炎を司る言葉が、とてもよく似合い、また相応しいほど荒れ狂っている
どちらも200年程度の歴史でしかない
だが、その始祖たる神については
その時間軸を遙かに凌駕した、この大地が生み出される頃にまで遡るとされる
西の宗教をデハン
東の宗教をバンダーウ
それぞれが、宗教を基礎として国を形作っている
二つの宗教が同時期に起こり、そして、同じ場所を聖地と定めたのには
理由があったのか、わずか200年の間にそれは忘れ去られてただ
お互いを排除するしかない
その情念だけが受け継がれて今日に至っている
当然であろう、どちらも、己の神以外は認めぬ、いや、
教典に出てきもしないものを神となど呼べるわけもない
それぞれの教典には、その地に己の神がいることによって
自分たちの幸せが確約されていると記されている
だから、争いになる、異教徒がいるような地では己の神が
愚かな下界の民に傷つけられているようなものなのだ
そういう思考が、ある意味の共通認識で、敵対意識となり
小競り合いが戦争を呼び、攻防を繰り返してきた
しかしここ数年、互いの勢力に差が現れ始めた
事が起こってからおそらく初めての状態だろう
東のバンダーウが、連勝を続けている
ツィーゲルの街は、区画毎に城壁のようなものが巡らされているので
一方的に戦況が悪化することはないが
占有した区画の数でいえば、確実にバンダーウがその数を多くしてきている
そのため、西方からの来客達は身の安全を確保することが難しくなり
自然、西方からの観光も組まれなくなり、東方や南方からの来客が必然的に増えた、
この地を発祥とした宗教はすっかり、物資とともに世界へと波及し「聖地」として
ツィーゲルは位置づけられている、だから熱心にないにしろ一度は訪れたいと遠方の国の民は思うようになった
それが観光を呼び、また宗教心を強めていたのだが均衡が崩れてしまい、ツィーゲルに居る内は
バンダーウの世界がやってきたかのような錯覚にすら陥ることがある、
実際は西方からの客が減少したので、街ではあちら方面の顔つきが自然と目に付くようになり
東や南に宗派を持つバンダーウが大半を占めてきているそんな風に見える
ツィーゲルの現状はそんなところだ
デハンの本拠である
西方の方城「西ツィーゲル」
「バンダーウの五代目、侮れんな」
「侮るどころか、ここまでひっくり返されて、流石にまずかろうて」
「王はなんと?」
「瞑想中だ、声もかけられぬ」
「そうか、神託が降すと思うか?」
「・・・・・」
西ツィーゲルの城塞には、大きな円卓が一つ備え付けられている
そこに10人の法衣を纏った僧侶、いや、神官が首を揃えて並んでいる
デハンは、一人の法皇と言うべき「王」の下に10人の審議会「サモン」が統治に関わり
教徒である国民を従えるよう国造りがされている
教義がそのまま、国是であり、法律となる
「騎士の数はどうだ?」
「かんばしくない、集めてはおるが、いかんせん年端の行かぬ若いのばかりでな」
お手上げとしているのは、サモンで武威をまとめる神官だ
デハンの教義により、教徒は神官、騎士、教徒に分けられている
紹介の順序で優劣が決まり、神官は、いわゆる政治家と医療に携わるものが大半である
その下に武威である騎士階級が続く、騎士は教徒の中から有志で募られる
一見すると誰でもなれるようだが、生活の手当が少なくそれなりの財政基盤のあるものしか事実上志願できない
なので、富裕層の第二子、第三子などが多い
「そうか、騎士団としてどうだ、こないだの第4区戦で多く天上に向かったと聞いたが」
「そうだそれが痛い、多くの優秀な騎士を失うことになった、新参ばかりでは熱意はあるが戦略には苦しい」
「こればかりはどうにもならんな」
「それよりも、資金は大丈夫なのか?」
「布施が多く集まっている、民は現状をよく理解している、特に高商人から多くな」
「それに応えなくてはなるまい」
首座を務める神官がそう言って、場を一つ引き締めた
雑談のようになっていた円卓がシンと静まり
首座の後方に掲げられた、旗が、松明に照らされゆらめいている
「バンダーウは、相変わらず交戦の意志を貫いている様子だ、和解や勧告等は一切無い」
「ふん、今に見てるがいい」
「そうだ、王が瞑想に入られて三日が経った、明日には出てこられるであろう」
「・・・・何かあると睨んでいるのか?」
「おそらく神託が降りる」
シン、また更に静けさが強まった
じりじりと松明が焦げる音が、不気味に響く
狭い四角の部屋は、少し暑さを秘めている
神官はそれぞれが、法衣の下に淡い汗を帯びている
ただ、それが暑さによる汗というよりも、何か悪い意味での汗のように
全員が固唾を呑んで、揺れる松明、いや、首座を見守る
「おそらく、」
首座はそこで黙った、神官全員はその黙った先を
心の耳、つまるところ、己の答えでつじつまを合わせている
「戦」
本格的な軍事始動が幕を開けるだろう
それを10人の神官は、胸に秘めた
この日のサモンは、そのまま何事も発せられることなく解散した
円卓の部屋から出て、それぞれが己の部屋へと帰っていく
その中で、武威の神官に治安の神官が近づいた
「おい、耳に入れておきたいことがある」
「なんだ?治安の方には騎士は割けんぞ」
「わかってる、それは民間でなんとかする、そうじゃない、一つ提案なんだがな」
「提案?」
「かつてないことだが、貧困、いや困窮している今だからやれる戦争の方法があるだろう」
「・・・・・何が言いたい」
「傭兵だ、傭兵を使わぬか?」
「バカな、異教徒を組み入れるなど・・・」
「無論主力とするわけではない、お前も解っているだろう、戦争には捨て駒が必要だと」
「・・・・・・」
「そこに騎士を投入すれば、先のように手痛いこととなり、今後さらに逼迫する、そこに投入するのだ」
「しかし、聖戦が発動すればその軍に異教徒を組むなど」
「そこは任せろ、治安とすれば問題が無い」
「貴様・・・」
「どうだ?ちなみにな、あたりもつけてある」
「・・・・俺だけでは決められん、明日のサモンに提出しろ」
「そのつもりだ、ただ、お前の賛成が欲しいのだ」
「・・・・・・明日だ」
「朗報を待つ、それに、先の「聖戦」については聞いてないことにしておく」
「ふん」
武威の神官は、それ以上何も言わずに治安の神官に背を向けて部屋へと
大きな足取りで去っていった、残された治安の神官はただ
その背中を黙って見送った
「聖戦」とは、王のみが発することを赦される神託の一部だ
一神官如きが口にしていいものではない、もっとも、サモンに属する神官
全てが脳裏にその言葉を予期してはいるが、それとこれとは
教義に支配された世界で、形だけの意味がとても重要となる
それはどうでもよい、今、デハンにある問題は兵力の不足
これを解決せずして、神託もあったものではない
バンダーウの本拠
東方の宮殿「東ツィーゲル」
「戦勝を報告せよ」
「はっ、第4区を激戦の末、バンダーウの力により勝利を得てございます」
「よい、これでいかほどとなった」
「はっ、30の内19までもがバンダーウの地に還りました」
宮殿の王間とでも呼べばよいのか
中心に位置する、国王の間において
最上座に大きなソファーを横たえ、そこに寝そべるようにして
一人の男が存在をただただ放ち続けている
バンダーウ教五代目教祖「バンダーウ・シヴァ」
目の前には三人の宰相と呼ばれる男がひれ伏している
バンダーウ教は、最上位に教祖を置き、その指令が神の言葉となり
教義となり、国是となり、絶対となる
全ての権力が王である教祖に集中していて、宰相や
その下の組織は全て、彼の手足に過ぎない
バンダーウ教は、あくまで唯一神バンダーウが、教祖というコネクタを通して
国という体を形作っていると考えられている
いわば、国民一人一人が神の細胞なのだ
そのため、便宜上の上下関係はあるものの、全ての民がそれに忠実で、
自分たちの役割を最大限に発揮することで神へと尽くすこととされている
職務を全うするということに
何一つの疑問も差し挟まなければ、裏切ることもない
もっとも宗教組織というものはそんなものであろう
狂信的であればあるほど、その度合いは強い
「諜報の話によりますと、スビエ王が瞑想に入っているとのこと、おそらくは」
「そうか、攻勢に出てくるか、いよいよ」
「は」
香を焚いた部屋、いや、空間は
不思議と世俗を離れたかのような錯覚に陥らせる
教祖の近くにて小姓童子が団扇をはたりはたりと扇いでいる
その音だけが、今、この世界にあるかのような
球体建築は、反響までもがどこか外と違った風に仕立てる様子だ
白塗りの壁に、ゆったりとした教祖は、ゆっくりと姿勢を立て直して
あぐらをかいた姿となった、目の前でひれ伏する宰相に鋭い視線を向けている
「これまでにないほどの、徹底抗戦となるであろう、全教徒の力を集結しことに当たる必要があるな」
「仰せの通りに」
「地図を、今一度持て、そして諜報からの情報を全て余のもとへと集結せしめろ、神の言葉を仰ぐ」
「ははっ」
それだけを言うと、立ち上がり団扇で仰ぐ童子をつれて
すたりすたりと裸足の教祖は奥間へと引き下がっていった
その間、宰相達はひたすら額を地にこすりつけている
その気配が無くなるや否や、すぐに、言われた執務をこなすため
それぞれが何も語り合うことなく、職務へと散っていった
自分たちの事は自分たちでわかっている
それぞれが、神から与えられた仕事をしているという自負を持つが故
余計なものが排除された、美しい組織が立っている
「おい、諜報に敵情配置について入念な探りを入れるよう伝えよ」
「わかりました」
宰相の一人、情報を司る男「神の耳」と呼ばれる宰相は
配下の者へすぐに通達をし、それぞれを更に細かく散らせた
2,3日中の動向が決め手となるやもしれぬ
神の耳の名に恥じぬ、全ての口端に昇る噂を集める
無論、それを精査することも忘れない
神の脳であり、口であるシヴァにそれを告げ続けるのが彼、そして
彼ら組織の務めである
「そういえば宰相」
「どうした」
「まだ確かとは言えませんが、先だっての戦にて多くの騎士を失ったデハンが、異教徒を導入するとの噂が」
「まことか?」
「いえ、まだ確かではありません、デハンの治安部への配慮に注力し、動向を見極めさせます、しばしお待ちを」
「急げ、それが確かならば事になる」
神の耳は、愁いを秘めた表情で
きつくそれを言い渡すと、己の部屋へと戻り
神の座に向かって三度頭を下げて祈った
礼拝は決して欠かすことがない、信仰というよりも生活の一部である
己が神の体の一部であるならば、当然、日に何度も
それを確かめ、神に報告する義務を負う
それが礼拝という形で顕わされている
ひれ伏する間、ただ神への感謝を忘れない、そうした優れた者達が
この国の宰相を務めているのである
西ツィーゲル デハン教のスビエ王
東ツィーゲル バンダーウ教のシヴァ教祖
今、この二人の宗教家により
オースト地方は、バランスを保っている
宗教は麻疹の如く土地のものに浸透している点で
この後に続くであろう未来が
とても悲惨であると、哲学者や歴史家の間では噂になっているという
だが、それぞれの末端教徒達は、純朴なほどそれに慣れ親しんでいるし
どちらの教徒にせよ同じように、末端へとなるにつれ熱心さが薄れているものの
子供の頃から培われた道徳が、そこに根付いている以上
国民意識の根幹は揺るがない、
二つの国が和解する道は無い
誰もがそう考えているし、事実そうなっている
というわけで、なりもので新連載してみました
もろにイタリアというかカトリックとイスラームの話と
被らせてありますが、そんなに確かじゃないですし
私の脳内設定ですので、浅いのであります
説明的になりすぎないように
そして、誰が読んでも解って面白いように
そんなのが書けたら、今頃俺も億万長者だよと
思ったりしながら、これを続けていこうと思っています
しばし、駄文におつき合い頂きたく思っております。
R(05/07/28)