ein rotes Kleid,
Sie ist Prinzessin.
がらんがらん
車の音は軽快だ
二台の車が走っている
いずれも紅に塗り込められていてどちらにも、王族が乗っている
乗る主が同格ならば同格の車でなくてはならない、そう言い訳されて
二台は、区別がつかない
片方には、迎えの使者であるキルシェ、かつての王族ヘヴォン家の娘
そして一方に、真の女王、紅の姫君
二台がやや離れて走っている
騎士隊長のアルは露払いのようにして
先頭を白い馬で悠々と導いている
ヴェステンから、王都までは
7日ほどかかる、少し急ぎ5日程度で辿り着くような
そんなスピードで車は、そして一軍は駈けていく
途中、町々にて宿場を設けて
大いに金を落としていっている
戦場から遁走した敗軍の将たる姫君に
どこからこの金が涌いてきたのか
皆、不思議に思ったが、何一つ不自然ではない
ヴェステンからの手土産だ、キルシェが口利きをし(無論、例の事件を盾に取った強請りだが)
献上せしめた金だ、きらびやかなことが殊更似合う
そういう姫君を満足させる内容
「明日、到着されるようです」
「そうですか」
本国、紅の国で
その情報がもたらされた時、正式の使いが来た時、
この時既に、早馬にて報告を聞いていたが、
粛々とそれを妹姫が受け取る様子、どこか緊張が見られた
この公式の場にて、最も顔色の悪かったのは
紅の軍師どのだ
いくつかの臣が彼を慕い、その視線には期待がこめられている
誰よりも彼自身が一番感じている
どうしたらよいか
軍師は、何度も自らに問いかけている
彼が丹誠込めてこしらえた
この新たな組織、和議を用いることで一体感をなして
集団でやりくりしていくという方法
これを良しとするそういった臣は、決して少なくない
たった一人に極大の権力が集中する、君主制を否定し
皆の意見を反映するという一見、民主的な方法は、いまや、一つの勢力として
(勢力という概念が、この方法論に基づくが)
この国に芽生えている
しかし、彼は己の未熟をここに来て、ようやく悟った
「遅い、スピードがまるで足らない」
ほくそ笑む姫君の声が聞こえる、無論聞いたことがないから憶測だ
彼の愚鈍とミスはここにある
近づいてくる紅の車を歓迎する国民の姿
それを見て、彼は知らず内にこの
宮中という得体の知れないバケモノに喰われていたと悟った
「・・・・・民意を、誰、分け隔て無い国家を作るつもりが」
気付けば、彼を取り囲む派閥による
偏った階級思想と、策謀と権力が蠢く、妖しからん政局をこしらえた
気付けば、利権という名のミツにすがる
様々な欲望と驕りと蔑みが、その格差のありどころを民へとシワ寄せている
気付けば、国民が不満を訴え、なにより、姫様の帰還を願っている姿は
今、この期に及んで初めてわかった現実だ
「軍師殿」
「ハンプ騎士」
暗い面もちの軍師に話しかける、精悍な青年
ここ数日で、さらにその顔つきには厳しさが増したように感じられる
何かを振り切ったような、一つの山を超えた顔つき
だが、それは、軍師殿にも共通する
「暗いが、何か、迷いの無いふっきれた顔だな」
「そうですか、初めてお会いする姫様を思って、いささか緊張しておるのですよ」
嘘を並べる
「しかし、驚いたな」
「何が、ですか?」
「そこかしこに弓でもしかけているかと思ったが、伏兵は無しか」
「なにを・・・」
「そんなに驚くことじゃない、そうだろう?軍師殿」
騎士の言葉は、彼の耳に新鮮だった
他の誰もが、うすうすそんなような雰囲気をしているが
絶対に声には出さなかった、それを言ってのけた
目の前の若い騎士を、若さではない熱情を持って見てしまう
「それは、背任・・・」
「軍師殿は味方であろうから伝えているだけさ、なに、俺が言っているだけだ、勇気は騎士に備わる能力だ」
騎士は饒舌になっている、やはり心の底ではこの決心に
かなりの動揺があるのだろう
いつになく多弁で早口な様から
踏み越えてしまった人間の脆さが見える、にじみ出している
「俺は、姫様を愛している」
無論、妹姫のことだろう
いちいちこの程度のことは、軍師も聞き返さない
しかし、その意味は深く理解している、妹姫を姫様と呼ぶことその意味
ハンプはじっと、真っ直ぐな視線をぶつけて言葉を続ける
「そして国を愛している、今の、お前が布いたこの政治のおかげで、随分と国らしくなった
何よりも、姫様が、姫様たるに充分なものが整った、それをみすみす壊す必然は無いだろう」
「そう、おっしゃられたのですか?」
軍師はこの期でもミスを犯さない
主語を隠す、「褐色の娘」の呼び方を露わにしないで会話する
「俺が思っているだけだ、何一つ、姫様は関わりない」
矛盾している
軍師はそう思ったが、自身気付かないほど
この演説に昂揚している、顔色が優れてきている
味方を得たと頭のどこかが感じているらしい
「式典は明日だ、明日、旧姫様には王位を正式に引き継いでいただこうと思う」
「・・・・・・」
「なに、別段問題は無いさ、宮中で行われるわけだ、国民の誰が見ているわけでもない」
「しかし、そう易々と」
「既に政局が形成され、誰しもが不安を抱えている、これは事実だ
ただ誰もが畏れて踏み出せないでいるだけだ、その一歩を俺が踏み出す
いや、既に踏み出している、そうだろう」
確かに、ここまではっきりと態度を表すことは
歴の浅い軍師でもわかるほど異例だ、この蛮勇ともとれる勇敢さが
時代を転がすのに必要だ
軍師殿は微笑みかける、若騎士はそれを受ける
クーデターの算段だ、式典で剣を用いて押し迫る
そういう物騒なことを彼は考えている、それを少しスマートにこしらえる
その仕事を引き受けよう、軍師はなびいている
いや、前々から、かの、南征の時に誓っていたのだ、おびえを振り払うように
自然、お互いが手を伸ばし、握手を求めようとした
「た、大変です」
「どうした?」
「ひ、姫様が、もう、と、到着されました」
遅い、スピードが足らない
どこかで、誰かの声が聞こえた
二人の若者は青ざめて、さしだした手は止まったままだ
薄暗くなった部屋でそれを聞くばかりだった
☆
「久しいなハンプ、それにそちらが国を救った英雄か」
「は、初めてお目にかかります」
変わらぬ姿、むしろ、さらに凄みのようなものが増した・・・
ハンプはそういう印象を受けた
思ったよりも若く、何より美しく得体の知れない存在感がある
軍師はそういう印象を受けた
王間にてすでに王座へと姫は返り咲いている
その傍らに、うやうやしく、ひと月前とまるで変わらぬ様子で
褐色の妹姫、白騎士アルが控えている
今この場にいるのは、この5名だけだ
「心配するな、式典は明日行う、とり急ぐ必要もない、それよりもだ」
区切った
「不在の間、随分と世話を掛けた、おかげで私が再起を計ることもできた、礼を言おう
ついては、ささやかながら、晩餐の用意をしている、無論諸侯も合わせて呼ぶ、今晩」
蒼い瞳がろうそくの光に揺らめいている
ハンプの顔は目に見えて白く透き通った
紅の軍師は、その様子を見て、その恐怖が伝播しつつある
「1時間、そう、1時間ほどあとに催す、よしなに」
言って姫様は立ち上がり、するりするりと自分の部屋へと帰っていった
続いて、妹姫、アルも消えた
残された具合で、若者二人はただひざまづいている
立ち上がることができないほど、疲弊が酷い
「ハンプ騎士」
「ああ・・・・そうだな、準備がある行こう」
王間を出ると、廊下で一人の爵位とすれ違った
「ハンプ、聞いたか晩餐の話」
「あ、ああ、今し方」
「妹姫様直々に通達に来られてな、そうか、お前も聞いているなら本当だな・・・」
その慌てぶりからして、今夜帰ってくるというのは
まったく想定外だったのが読みとれる
むしろ、この事態を当たり前のようにして受け入れられている人間が居るだろうか
慌てた様子の爵位は、またうわごとのようになにやら述べて、そわそわと廊下の暗がりへ消えた
「軍師殿」
「はい」
「こうなれば予定と違うが、晩餐で決行するしかない」
「!・・・・それは・・・」
「先手を取られたのだ、あの方の速さは尋常ではいかん、この晩餐にかける他、光明は無い」
「確かにそうかもしれないが・・・・」
方法がない
と、思った
晩餐には確かに、諸侯が招かれその大半がこちらの味方になり得るとはいえ
屈強の白騎士アルが向こうにはついている、力技で押さえるには事が大きくなりすぎる
「数で押すさ、それに騎士隊長はまだ全快していない、なんとでもなる」
「乱暴すぎる、もっと」
「確かに、軍師殿は賢い、が、遅いんだそれでは」
ずきり、それは常々承知していることだ
改めて指摘されると、反論することができなくなる
聡明で、理知的な軍師殿だが、ただ、経験のせいか姫様より遅い
これはむしろ仕方がない気がするが、戦争ではそうも言ってられない
ただ、それはそれとしてハンプが急ぎすぎているとも見える
なぜそこまで焦る必要がある
軍師は思ったが、遅い、という言葉で一笑に付される
それが見えれば言えるわけがない、彼なりにプライドは傷ついている
ハンプは苛立っているかのように、性急さを求めている
それだけ、あの姫様が恐ろしいのだろう・・・
1時間の待ち時間は、長い、短い、どちらともとれず
不安ばかりが横たわっていた
晩餐
集められたそれぞれは向かい合う長机に座る
あらかじめ席には札が立ててあり、序列通りの配列となっている
ただ、お誕生日席にあたるそこには、姫様が座り
その左右から向かい合いとなり、アル、妹姫
アルの隣にハンプ、妹姫の隣に軍師殿
あとは諸侯が続いた、10分前には、既に全員が集まっている
首座の姫様はまだ現れない
「ハンプ、久しぶりだな」
「アル騎士もお変わりないようで・・・」
師弟にも似た二人は軽く言葉を交わしている
アルは、何か話しかけてやらないといけないと
常々思っているが、バカなので、気の利いた言葉が出てこない
もっとも、ハンプはハンプで違うことを考えているから
この場は、もっともなるべくして治まっているとも言える
「そういえば、傷の具合はどうですか?」
「ああ・・・・まだ、痛むな、うまく剣が握れない、困ったものさ」
力無く笑うアルの姿に、ハンプは少し安堵する
この人は芝居を打てるほど器用な人じゃない、そう信じている
ただ、それは半分が間違いだ、確かにアルはこんな所で芝居は打てないが
姫様の従者で奴隷であるという姿については、長年芝居を打ち続けている
その点は異なると言えるだろう
「すまないな」
「な、何がですか?」
「お前には迷惑をかける、しばらくはこの体だ、お前に全権を委ねるよ、強くなったなハンプ」
横顔で騎士隊長はそう呟いた
公の言葉ではないが、本心なのだろう
急なことで、ハンプは理解できていなかったが
その重みとありがたさに、思わず瞳が潤んだ
ダメだ、そんな感傷に浸る場面じゃない
一騎士としての誉れに流されそうになるハンプ
自らを叱咤する、本来は、そういった純真な青年だったのだ
だが、それを覆い隠して、今宵は全てを否定するほど
これまでの自分を破壊するかのように、仕事に徹する必要がある
ハンプは少し視線をはずし、前を見てみる
軍師殿が、ちらりと視線を交錯させた
それだけで決意を固められる、味方がいれば・・・
ハンプはぎゅぅと、コブシを握る
コンッ、固い音がして、姫様の登場が報せられた
「重畳、皆、急なことでも集まってくれてありがとう、うれしく思う」
相変わらず、くだけたような
それでいて冷たい言葉
美しいドレスで着飾った金髪の姫君が座につく
あれこれと、それまでの事を簡単に話し
「さて、長くなってもつまるまい、そろそろ料理を出そう」
言うと、ぱちんと指をならし
つられて従者が食事を運び入れてきた
前菜から静かに始まる様子だ
「変則のコースになっておる、では、乾杯をしましょう」
言うと真っ赤な液体を注がれたグラスを手に持つ
ならうようにテーブルの面々は皆掲げる
チアーズ、唱和がなされ一口、全員がそれを喉へと流し込んだ
バラのような香りが喉から鼻へと抜ける
深みがあり、渋みは少ない、クセが強くないせいか呑みやすい
「ヴェステンから持ち帰ったワインだ、あとあと、料理もゆかりのものが続く」
ゴキゲンな様子で、姫様がそれを言う
しばし、歓談と食事の風景が続く
いつになく多弁で、姫様自らが主導を握り
テーブルの話題を、二転、三転とさせている
いつになく上機嫌な様子、暖かみのあるテーブルには
よどみなく料理が運び続けられた
ハンプは、食べながら様子を伺い続けている
どこで切り出すか、どこで勝負をかけるか
姫様との間には、最も警戒すべきアルという壁がある
とりあえず籠絡するために、酒を勧めて呑ませているが
まだ酔うまでに時間がかかるだろう・・・どこで・・・
「さて、次のディッシュですが」
そこで、姫君が一つ断りを入れた
談笑していたそれぞれが、少し静かになり
姫様のほうへと視線を向ける
それを浴びて、じっくりと味わったあと、言葉を続ける
「スズランの花を知ってますか?」
「知っているもなにも、我ら騎士団の紋章ではありませんか」
「そう、確かにあなたやハンプにはそのイメージが強いでしょう、マイグレックヒェンこと白き香りの花」
おもむろに姫様は席を立った
既に次のディッシュは運ばれてきている
見る限りスープ・・・いや、シチューのようだ
「実は東の国との交易から様々な文化を学びましたが、東方では、百合の花の根を食べるようです」
「百合の根?」
「そう、茹でるとアーティチョークのような歯触りを楽しめます」
「なるほど、今宵はその百合の根を?」
「いえ、百合は百合でも、同じユリ科の、スズラン、マイグレックヒェンで作りました」
一同が凍り付いた
スズランの根、いや、スズランそのものに、神経性の猛毒が含まれていることは
この国、この地方全土の子供ですら知っていることだ
全員が水を浴びたように目を醒ます
「なに、私も毒があることは知っています、すずらんを活けた花瓶の水を呑んでも死ぬことがあるほど
強力な毒があることくらい・・・」
妖艶な瞳が輝きを増してきた
紅の軍師は、初めてその本性を見ている
美しい、それを感じて、恐ろしい、それを刻んでいる
無論、諸侯については、来るべきときが来た、そういうあきらめにも似た感情が涌いている
懐かしさを覚えるほどだ
「それを中和する、この粉、これをよく混ぜれば、極上の食事を味わうことができるのです」
言い終わると、とてもとても素敵な笑顔を全員に向けた
同時に、シチューが各々の前へと配られ始めた
給仕のものも、緊張か、恐怖か、手元が震えているのがわかる
かちゃかちゃと、今までには聞かなかった、食器が泣く声がたわる
ばかげたことだと全員がわかっているだろう
すずらんの根など、球根とはならない、全くの別物だということを
食べるものであるはずが無いと、解っているが言えるわけもない
「折角ですから、私が自ら中和粉はお配りいたしましょう、皆は、席についていなさい」
言い終わるとゆっくり、一言一言
それぞれに何かを告げながら、姫様は粉を渡していく
妹姫のほうから回りだしたので、ハンプ、アルは最後になる
無理だ
ハンプはこの瞬間を千載一遇のチャンスと捕らえたが
騎士として、人間としての感性が制止を求めている
原因はアルの様子、それにつきる
「・・・・・」
「・・・・・・」
お互い黙っている、が、アルから並々ならぬ気配が漏れている
おそらくは姫様が一人で諸侯をまわっているせいだろう
ハンプを警戒してのことではない、ではないが
やはりこの人は凄い
改めて、騎士隊長の恐ろしさを感じた
怪我をしているとはいえ、一分の隙もない諸侯もそれには
気付いているだろう、武人でなくとも気配を悟れるほど強い意識が放たれている
ハンプは、それを浴びて頭が冷えた、そして冷えたことで初めて気付いた
姫様が自ら、解毒剤を播いて歩いている、その意味に
「!」
気付いて、見回した、沈痛な面もちの軍師が見えた
軍師も気付いている、いや、感じている
己に配られる粉が、本当の解毒剤なのかどうか
てき、ぱき
姫様は、一言ずつおそらくは謝辞だろう
声がけを行いながら、無作為ではなく、明らかに
作為的に粉を選んで配っている
諸侯それぞれも顔を蒼くしている、おそらくは
今席についている全員、いや、上位席以外のもの全てが
この恐怖に凍り付いているのだろう
しかし、彼らよりも、間違いなく、今までの、在りし日の所業を見てきたからわかる
狙いは、俺でしかない・・・
ハンプは握りしめていたコブシに
凄まじい汗がにじんでいるのがわかった
その汗ですら、判断を間違いなくさせる材料だろう
いや、既に標的は決められている
考えてみれば、この晩餐がそのために用意されたのだ、先手を打たれたのだ
「ハンプ、世話をかけたなありがとう」
「い、いえ、騎士として、当然であります」
ぽん、考えている間に姫様は冷たく語りかけていった
言葉が過去形であることも、そうでしか感じられない
そして無情に、通り過ぎていった
アルには声もかけず、粉を渡した様子だ
というよりも粉を選ぶ必要がなくなったから早くなったとも思える
「では、手元の解毒粉をしっかりと混ぜるように」
かたん、
「!」
「姫様・・・・」
グラスが倒れた、妹姫が緊張のためワインを倒してしまった
姫様の足下を濡らした、慌てたように給仕よりも早くアルが側へと寄った
おろおろと、謝りながら妹姫もそこを始末する
ハンプは、反射といっていい、それほどのスピードでこの妙案を思いついた
わずかなハプニングに乗じて、席を外したアルの粉と自分の粉をすり替える
そして、姫様の様子を伺うようなふりをしてその仕草がバレないように演技をはかる
「よい、今夜は気分がいい、粗相も気にはせぬ」
「大変、もうしわけございませんでした・・・・姉様・・・」
なでり、ぽろぽろと涙を流す妹姫の頬を姫様が撫でた
アルが戻ってくる、そして、すり替えられたとも知らず
その粉をシチューに取り混ぜて、ゆっくりと丁寧に混ぜている
これで、アル騎士が倒れれば、いよいよ
全てが好転した、ハンプはそう思うが、それと同時に
師と兄と仰いだ人を、だまし討ちの毒殺という形で始末することに
激しい後悔も覚えた、騎士であるのだ、戦って踏み越えるべきではなかったか
思う、強く思った、さきほどかけられた言葉
強くなったな、そんな台詞が悩ませる、だが
あのすすり泣く、か弱い人を守る為に、俺は鬼にならねばならぬ
そして、シチューにスプーンを落とした
ゆっくりとかき混ぜる、そして、アルが口元へと持っていくのを横目に
悟られぬよう、静かに、ハンプも自らの分を口へと運んだ
毒は即効性ではないのだろう
だが、ひとたび吸収されれば、それはもう
取り返しのつかないこととなる
めまいが酷くなる
炸裂するような光線が目の前を飛び交う
やがて座っていることができなくなる
神経系の毒は、苦しみが強い幻覚を伴うものもあるが
内臓機能が不調をきたし、脳へと障害を表す類のものは
短い時間に、多くの地獄を味合わせるに充分だ
ただ、それを理解することもできず、ただ
倒れた己にかけられる言葉を、一言も漏らさず聞く
それしかできない、言われたことの意味は理解できない
言葉を音として頭に並べるところで、意識は無理だと叫ぶ
当然の結果だろう、倒れているのはハンプだ
「不慮の事故が起きてしまいました・・・・ハンプ」
姫様が冷たい表情で、ハンプをそっと抱えた
がくがくと、最早死の間際となった男は
抱えられていることも理解できていない様子だ
「申し訳ない、私が不在の間に【活躍】された、あなたの勇姿は忘れません、あなたは【勇敢】でした
おそらく若さもあったのでしょう、【畏れを抱かぬ戦いぶり】には、驚嘆せざるを得ませんでした・・・
ありがとう、若き白騎士、そして、さようなら、若き白騎士・・・・」
さようなら
その言葉の意味だけは理解できた
そして、並べられた言葉から紡ぎ出せた
やはり全て見破られていたのだ、だが、最後のトリックが
どうだったのか
それは彼にわかることもなく、永遠に解けぬ謎として果てた
白騎士ハンプ・クライスラー、病死
そう報告された
静まり返った食卓は、全ての意気を消沈させたように
とこしえに静かだった
えーと、次回最終回の予定です
そして、今回のハンプ殺すくだり
これを書くために長くやってきました
描けたので満足です
次回、多分、行数余るので突拍子もないエロシーンとか
設けられたらいいなぁとか
思ったりなんだったりしながら
長々すんませんでした、本当にっ
R(04/12/06)