第1話 4/1 『十字キーの誕生』

今回から新たに始めました「ゲーム、そこんとこの話」。今回は比較的有名な、任天堂的方向キーについてです。

ファミコンやスーファミを遊んでいればお馴染みだと思う任天堂の十字キー。この使いやすいインターフェイスは他のハードではお目にかかれないですね。なぜなのか。それはこれ1つのパーツでも、立派な著作物であるということです。

まずはこのパーツ誕生の経緯について紹介しておきましょう。
このパーツが採用されたのはいつでしょうか。ファミコンから? 不正解です。正しくはゲーム&ウォッチの「ドンキーコング」からです。
当時は同社の販売したゲーム&ウォッチによって電子ゲームの市場が確立しており、各社から様々な種類のゲームが発売されていました。そんな折に任天堂では、アーケードで大ヒットを飛ばしたドンキーコングを移植することとなりました。
しかし制作していく上で大きな問題が立ちはだかったのです。そうです、コントローラーの問題です。薄くて耐久性のある部品を求められていたのですが、アーケードみたいなジョイスティックを取り付けるわけにはいかないのです。コストはかかりますし、何より大きすぎて収まらないからです。
開発担当の横井軍平氏によると、当初は自称「オッパイコントローラー」なるものを考えていたそうです。感覚的にはニンテンドウ64のアナログスティックを操作している感覚に近いでしょう。しかしこれではどこに入力しているのかがいまいち分かり難い。試行錯誤の上、現在の形に行き着いたそうです。

このパーツの利点は、入力している方向が指の感覚だけで明確に分かることです。片方に入力すれば反対側が浮き上がりますし、形自体によっても認識することが出来ます。さらには1つのパーツだけで済んで低コストですし、耐久性に優れているということも挙げられます。
このアイディアのおかげで無事にドンキーコングは発売できる見通しがつき、後にファミコンにおいても採用される運びとなったのでした。

さて、奇跡的な完成度を持つこのパーツ、しかし特許に関してはちょっとルーズだったそうです。
横井氏にしてみればすごいものを作った自覚はなく、こんなものは誰も真似しないだろうと思ったそうです。ほったらかしにしておいたのですが、特許課の人が一応申請しておきたいということで話しがきたそうです。書類を書くのが面倒だった氏は図面を書いてくれた人にお願いし、発案者の欄にしても「ほな、お前の名前にしとけよ」というくらいのラフな申請をしたそうです。
しかし家庭用ゲーム機市場が確立されていくにしたがって他のメーカーが真似をしてくるようになりました。そんな状況を見て、社長は特許課の人に「何でそんなルーズなことするんだ」と随分怒られたそうな。

今まで発売されている家庭用ゲームの方向キーの大半は形は違えども、ほとんどが内部的に同じような構造をしています。ルーズな申請をしていたからこそ恩恵にあずかれたのかもしれませんね。
それとドリームキャストの方向キーは全くといってもいいほど同じ形をしていますね。きっと任天堂に許諾を得たのではないかと思われます。