誘拐物語


春を待つ季節のコト

部活の帰りにいずみが、歩いて学園を出た
ドドドドドドドドドドド、バババババ・・・・バッバッバ・・・バ
「よう!いずみ帰りか?」
けたたましい、爆音とともに、洋子がバイクを横付けしてきた
「相変わらず、うるさいなぁ」
呆れた口調で、いずみが言う
「ふん、まだまだ、お子様ないずみにはわかんないんだよ」
洋子がそう言い、いずみの頭をなでて笑う
「そうだよなぁ、女の子にはわかんないよなぁ」
いずみも、お返しとばかりに、ちょっち棘の利いた言葉を浴びせる

いったい、これで本当に仲がいいのか疑わしいが、二人談笑する
のきゃきゃきゃーーっききーっぐももーーーー!!

「ん?」
二人の横を、ワゴンがドリフトしながら走り抜けていった
すると、少し遅れて友美が走ってきた
「どうした?」
ひどく慌てた様子の、友美に声をかける
「た、大変なの・・・ゆ、唯ちゃんが・・・・さ、さらわれたの・・・」
息を切らせながら友美がそう告げる
「!!い、今のワゴンか!?」
洋子が振り返るが、もう見あたるはずもない
「さっき、校門を出た所で、いきなり男が出てきて・・・」
「友美には目もくれずに、唯をさらったのか?」
いずみが、真剣に聞く、が、言葉が悪い
少々カチンときた、友美だったが、それにうなずく
「間違いないな」
いずみが、洋子を見る
「ああ、ロリコンだ、大事件だぞ」
洋子が力強く応え、バイクを起こす、バウン!!!
「まて、わたしも乗せてけよ!」
いずみが、その後部に素早くまたがり、ワゴンの走っていった方向へ、走り出した

「・・・あのロリコンなのが事件じゃなくて、誘拐なのが事件だと思うよ」
取り残された友美が、一応つっこみを入れていた

ウオオオオオオォォォォォォオオンンンン!!甲高いエンジン音を響かせ
公道を法定速度ぶっちぎりで走り抜ける(注:マネしてはいけません)
幸いワゴン車は、カーブの度にホイルスピンでもしたような、タイヤ跡を
残していたので、追うのは容易であった、が、角を折れた所で
道に子供が!!
「ちいいいいぃぃぃ!!」
洋子が驚異的な反射神経と運動神経をフル稼働して、それをかわす
しかし、かわした所に、西園寺がいけ好かない顔して歩いていた
「!!み、みなみが・・・!!!!」

ガズ!!!!

「ぐわああああああ!!」
さらば西園寺、ごろごろと転がる様を見て、いずみが聞く
「い、今、跳ね飛ばさなかったか?」
「唯のためなら、奴も本望だろう」
どこ吹く風で洋子が応える、いずみも納得する(ぉぃ)
その矢先、今度は道の端で芳樹がカメラを構えている

「・・・・・・・・」
グオオオオオオンンン!!(エンジンの回転数が上がっている)
がしょ!!!!
「ひ、ひでぶぶぶ!!!」
宙を舞う芳樹、わざわざ、道の端によってまで、洋子が撥ねたのだ
これについては、何も言わないいずみ、うーん、平和だ

そうこうする内に、古ビルのある空き地へと出た、ワゴンがある
「あれだ!!」いずみが叫ぶ、するとビルの中から、男が三人出てきた
「なんじゃあ、貴様らあ!!どこの組のもんじゃあああ!!」
男が叫ぶ、洋子がなんとなく危険な奴だと判断し、少し速度を落とす
「洋子、出来るだけ揺らさないでくれ・・・」
いずみが、突然立ち上がる、膝で身体を固定し弓を出した
「!お前・・こっから打てるのか?」
「大丈夫だよ、正月によく「流鏑馬(やぶさめ)」とか、やってるし」
いずみが矢をつがえた
「あたしゃ、馬か」洋子が呆れた声を出す、そして
「さあっ!!」いずみのかけ声と共に、矢が光になった
スコン!!男の眉間を捕らえた、もんどりうって倒れる男
「残り二人・・・曲打ちは得意じゃないんだよな・・」
いずみが、文句を言いながら矢を二本つがえまた、放つ
二本の矢が男どもを捕らえる、そして倒れ伏す

「お前・・・・・」
「心配するなよ、対竜之介用に作った、死なない程度に刺さる矢だよ」
洋子の心配に、いずみが答える
そのまま、ビルにつっこむ、中に何人かまた、新手が待っていたが、跳ね飛ばし
二階へあがる、がこがこがこがこがこ・・・・・
器用にバイクで階段を上る、洋子。
二階、奥の部屋に唯の姿を見つけた、しかしその刹那
「おうじょうせえええやあああ!!」

がご!!

油断した二人に後ろから攻撃が加えられた
二人、バイクから落ちる、洋子が素早く立ち上がり
その男に長い脚をとばす、いずみも、寄ってくる男どもに
鞄でばしばし殴りかかる、奮闘するが、所詮女の子二人
いくら、八十八の双璧をなす、二人とはいえ多勢に無勢捕まってしまった

「なんだ、この中学生のお友達か」
一人の男が、唯の横で二人を、見て言う

「ゆ、唯は中学生じゃないよお!!」
「誰が中学生だ、こら!!」
「そうだぞ、馬鹿!!」

女三人、ぴーぴーわめく、事態がわかってるのか怪しい
「うるさいわ!!ったく、小学生までまじってるのか」
男が、いずみを見て呟く、当然切れるいずみ
「ふ、ふざけるな!!わ、わたしは・・・・・!!」
憤るいずみを、大きな男が腕をつかんで持ち上げた
「どうする?・・・・ボスは一人でいいって言ってたしよお」
「そうだな、このリボンだけ連れてけばいいだろ、好きにしろ」
その言葉に、いずみの血の気がひく
洋子が必至に抵抗をみせいずみを、救おうとするが一撃のもとに気を失ってしまった

「・・・な、何するつもりだ・・・」
いずみが、虚勢を張る、声がかすかに震えている、その様に気をよくしたのか
大男がいずみを、壁におしつけ、なめるように視線をはわせる
「ひひひ・・・・たまには、ガキもいいかもしれねえなあ」
下品な笑い声で、いずみの髪を撫でる、必至にいやいやするが
それさえも、この男には愉しむ材料でしかない

「・・・・・・・・・・・」
無言だが、その心の内には恐怖が渦巻く、自分が今無力であり、
その先に待つ未来が、あまりに屈辱的な光景だと気付く、怯えるいずみ
「ひひひ・・・いい顔してるじゃねえか」
男の手が、いずみのスカートにかかる

「おもしろそうだな、俺も混ぜてくれるか?」
聞き覚えのある声がいずみの耳に響いた、伏せていた目を開く
ばごっ!!!!
瞬間、いずみを捕まえていた男が、吹き飛んだ
視線をずらしたそこに、竜之介がいた
「お、おまえ、どこから出てきたんだ・・・・・・・・」
もっと、気の利いた女の子らしい台詞が出ない自分が情けなくなる
しかし、胸の中はうれしさと、驚きで溢れる
「な、なんだ、てめえ!!」
唯の横の男が、吠える
「俺か?・・・・俺はな・・・・・・・・・」
「うるせえ!!てめえ、それ以上動いたらこの女、どうなるかわかってんのか!?」
男が、唯の髪をつかんで、首元に刃物をつきつけた
「おっさん、やめときな、今なら二階から突き落とすくらいで勘弁しておいてやるからよ」
「てめえ、今の立場わかってんのか!?」
男がすごむ、しかし、竜之介には妙に余裕がある、いずみの方がびびってしまっている

「りゅ、竜之介・・・・・お前、唯がどうなってもいいのかよ」
「・・・・・・・・・・・」
口の端を上げた笑顔をたたえ、静止している竜之介
「へ、なんだ、口先だけか・・・・・何もできねえなら、でかい口・・・・!!!」
どたどたどたどたどたどたどた!!!!!ばぎゃ!!!!
「う、うわあああ、な、なんだてめえ!?」
男の後ろの窓から、地響きとともに、何かがあがってきた

「よ、洋子ーーーーーーーーーー!!!!!!」
八十八の核弾頭ミサイル、あきらだ!!
「お前かあ!!、洋子に妙なコトした奴は!!」
怒り狂うあきらが、男をつかみあげる、その隙に唯が逃げる
「て、てめえ、こら、これが見えてん・・・・・・」
男が、刃物を向けるが、毎日サスペンスドラマを見てる奴が畏れるわけがない
ぼこぼこに、投げ飛ばす、踏みつぶす、蹴り上げる、締め落とす、テレビの話を聞かせる
もう、あきらの独壇場、男が息絶える

「終わったか・・・・」
竜之介が、そう言って初めていずみの緊張がとけた、口を開くいずみ

「りゅ・・・・」
「お兄ちゃん!!!!!」

がばっ、遮るように唯が待ってましたと竜之介に抱きつく
「ば、馬鹿、こらよせ・・・・・・」
竜之介が、困り果てた顔をする。その様子を遠目に、いや、近くなのにずっと遠い所の
情景のように、いずみが見守る、端では、あきらが洋子を起こして、感涙にむせばんでいる

「・・・・・・・・・・・・・・」
バッグを拾い、静かに外へ出るいずみ
(よかったじゃないか、唯は助かったんだし・・・・・・・・)
とぼとぼと、ビルを一人出て、家路についた

自分の部屋、さきの恐怖が帰ってきて、いずみが身をすくませる
「・・・・・・・・・・はー・・・・」
怖い怖い怖い・・・・怖かったんだ・・・・あたし、すごく怖かったんだ
孤独感も手伝いフィードバックしてきた恐怖が、いずみを取り込む
一人暗い部屋でかたかたと、小さな身体を震わせる
「・・・・・・・・・・竜之介・・・」
小さく震える声は確かに彼を求めていた

わん、わん、わん・・・・・・・・どこか遠くで犬の吠える声が聞こえる

色々と考えるコトがある、この震えと恐怖は、さっき男につかまったから
というだけでない・・・・

わんわんわん・・・・犬の声が聞こえる

・・・・あたし・・・・・ダメだ、また唯のコト意識してる・・・・
ぐっと膝をかかえ、頭をうずめる

わんわんわんわんわん・・・・・犬の声がうるさい

「うるさいなあ、あたしは、悩んで・・・・・」
いずみが頭を上げ、窓を見るとそこにいもりのごとく
竜之介が張り付いている
「い、いずみ、は、早くここを開けろ!!犬に喰い殺されちまう!」
「お前、何してんだよこんな所で」
「お前が、弓忘れていったから、わざわざ届けにきてやったんだ、早くあけろ」
苦笑するいずみ、ふと、なんでこんな奴のコトで悩んだのか笑いがこみあげてくる
「こ、こら!笑ってないで、早くなんとかしろよ!!」
「突き落としてやろうか?」
「ふざけるな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「な、なんだよ・・・・・・・・」
いずみが、ふいに黙る、窓にしがみつく竜之介が居心地が悪そうに呟く
からからからから・・・・・・・・・窓を開いた
「ふぅ、ったく、お前の家の犬どうにかし・・・・・・・」

外は、月が出ていた
まだ、春は遠いけど、確実に近づいてきていた

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