Winter Air
「寒い・・・・・・・・・・でも凄い、イヴに雪が降るなんて」
ぱたぱたと歩く足音が「憩」を探している
相変わらずの赤いコート、ひっつめたおだんごとリボンは前と変わらないまま
もう一つの家に、あの年のクリスマスは確かに住んでいた家に近づく
大気は随分と冷えている、凛としている、っていうのはこういう状態を
言うんだろうな、寒さにそう思いながらかつての家へと静かに向かっている
鳴沢 唯
少し前に、あの家を出た
理由は、竜之介がある人と同棲を始めたからだ
そんなのイヤだ、と思う
結局妹の位置にしか居られなかった、いや、永劫に居るしかない
この位置についてしまったのは
涙を流したくらいじゃ、どうにもなりそうにない
だけども、そうなってしまった
どこで間違ったのだろう、あんなに好きだったのに
いや、今でももっと好きなのに
あれから時間が経って、色々と考えて、たくさん思って
好きだから一緒になるという
短絡が成り立つほど、お兄ちゃんは子供じゃなかった
そう考えるようになった
唯も大人になってきたのかな
そう考える姿がまだ子供のままだとは気付かない
足はゆるやかに懐かしい道を歩む
イヴの夜の喧噪は、静かだけど、賑やかだ
プレゼントを持ってうれしそうに走っていく人とすれ違う
きっと、幸せが今まさに目の前にあるんだろう
夜だからか、目立つのはそういう二人組ばかりだ
一人で歩いている人の数は、あまりない
「あ、唯じゃないか」
「?・・・・洋子ちゃん、それにあきらくん」
そんな人たちの側に、知った人を見つける
二人は幸せそうだ、聖夜でなくてもきっと幸せなんだろうと
空気がそう言っている
相変わらずおしゃれとは少し遠い所だが、それがスタイリッシュに
女の魅力を際だてている、洋子の脇に
とうとう柔道着ではなくなった、あきらが居る
「どうしたんだ?久しぶりだなぁ、元気かよ」
「うん、今は看護婦の見習いをしてるんだ」
「唯ちゃんが、看護婦かぁ、そりゃ病院大繁盛な上に、テレビの取材殺っと」
洋子が笑顔でこづく、なんて仲がいいんだろうと
唯の目には写った、そういう二人の形が出来ているっていう事は
幸せなんだよ、会話とは別の所でそう洋子に向かって言っていた
二人で作る形、それがなによりも大切なんだって
「そうか・・・・・・・・じゃ、また戻ってくるんだな」
「うん、そしたらまた遊ぼうね」
「あきら・・・・・・ちょっとタバコ買ってきてくれ」
「ん?・・・・なんだ?後でもいいじゃ・・・・」
「ああ、あきら、アレってドラマの撮影じゃないのかっ!!ほら、可憐とか居るぜ」
「な、なにぃっ!!!!」
どだだだだだだだ
走り去る男、まだテレビ中毒は治ってないらしい
変わらないところがあるのは、女にとって少しばかりうれしい所だったりもする
ま、そんな事を洋子が思うかどうかはともかく
意図的に二人きりになって、改めて洋子が口を開く
「竜之介とは」
「うん、久しぶりに会いに行く所・・・・・・」
「・・・・・・・・・そう・・・・・・・か・・・・」
洋子が押し黙る、深刻そうな顔で唯を見つめる
こういう所が洋子ちゃんの好いところだな
真剣に友達の為に悩む、自分の事のように考えてくれる
姉御肌な所、洋子の魅力だと唯は思っている、もっとも
そういう気質のさらに深い所に、ずっと女の子っぽい所があるから
なおのこと好きなのだ
「・・・・・あんまりあたしからじゃ言えないけどなぁ・・・・・まぁ・・・・そういうのも手だと思うぜ」
「??・・・・そういうのって?」
「いや・・・・うん・・・・・既成事実って奴は、何よりも強いって・・・・」
「きせいじじつ?」
「や、うん、そのな・・・・・・・・・、とりあえずなんだ、頑張れ・・・・・・」
「変な洋子ちゃん、でも、またね」
唯がぴらぴらと手を振って喧噪からまた少し離れていく
洋子はその後ろ手を少し見てから、小走りにあきらに組み付いた
「どうだ?」
「おお、生放送の歌番組らしい、お、俺ちょっと、感動しちまった」
「マジかよ、でも、ここより向こうのほうが空いてて見やすそうだ、他行こうぜ、あきら」
あきらのテレビ好きが少しだけ理解できた洋子
だけどもそれよりも、あきらと二人で居る事のほうが楽しい、それを体現する
そのためにずるずるとひきずってそこを離れた、心の内で唯を想ってやる
あたしと違ってあいつは可愛いから、そんな手段じゃなくてもいい気がするけど
・・・・・・・・・・・・悲しまない方法と、道を選べよ
空に少しだけ祈った、神教の教えなんざクソくらえと思ってるが、少しくらい信じてやる
クリスマスだしな、願わくば、私とあきらだけじゃなく、あいつにも幸せを
寒空が漆黒の彼方から、白い雪を舞わせている
「ふんふん、ケーキ一緒に食べるのは・・・・・・そうか、二年生の冬以来になるのか」
最後の年は、あの年は
寝ていた唯に、上着をかけてくれたんだったな
竜之介のその時を思い出した、あの冬はなんだか大変だった
気持ちが、もうすぐそこまで来てて
なんかみんなが慌ただしくで、というか
「ちょっと殺気立ってたような気もするなぁ、友美ちゃんとかいずみちゃんとか・・・・」
苦笑いを浮かべながらようやく近づいた
噂の女は、方や医大へ進み、方や令嬢としての地位を固めていた
残っているのはひょっとすると、唯だけなのかもしれない
でも、それも今日で終わるだろう、もう一度想いを伝えよう
卑怯だけど、仕方ない
りん、あの年には無かった、左耳のピアスが決意だ
そして今から踏み込むのが、勇気だ
最後に必要なのは
覚悟だ
りんごーん
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
雪は、ちらちらとしている、苦になるような降りじゃない
それに積もるようでもない、はらはらと、舞い散る雪
少し待つけども、返事が無い、おかしい
今日来る事はわかってるはずなのに
不審に思った唯がもう一度押す、しかし返事はない
ひょっとして?
ありがちに扉まで進み、ノブを捻ると
「開いてる・・・・・・・・・・やっぱり」
そのまま入る、勝手知ったるなんとやら、少し前まで住んでいたのだから
そのあたりはわきまえたもの、ささっと玄関を通り、かつて竜之介の部屋だった所へ行く
途中リビングを通らないといけないのだが
「・・・・・・・・・・・・・・・・って、寝てるの?」
リビングで死んだように眠っている竜之介を発見する
テーブルにつっぷして動く気配は無い、幸い暖房が利いているので
すぐに凍死という事はなさそうだが、それでも身体に良くは無いだろう
「お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・・・ここで寝てたら風邪引くよ、お兄ちゃんってばっ」
ぐいぐいぐい
ひっぱる、なんか懐かしい・・・・っていうか、変わってない
その姿にいとおしさを覚えたが、かつての習性もついでに呼び覚ました
起こすためになんかしないと・・・・
「・・・・・・氷?・・・・・・・ゴムびんた?・・・・・・・どうしよう」
色々と戸惑う唯、少し考えてコンニャクにしようと決意
冷蔵庫を開ける
「わ・・・・・・・・ケーキ・・・・・・・・・・・」
こじんまりとしたケーキが入っていた
ケーキは三つ、この家で三つ、普通のケーキが。
その冷蔵庫の中に唯が来る事を想定した風景がある
本来ならば、ホールケーキでもいいのに
どうして、違うケーキを三つなのか
唯の頬を涙が伝った、何をしようとしてたんだろう、何を期待してたんだろう、何で泣いてんだろう「今更」。
何も変わってない、結局それじゃ、お兄ちゃんにとって唯は妹でしかない
どうしてたんだろう、なんでこんな事を思って来たんだろう
突然堰を切ったように涙が溢れてきた、わかってた事なのに
ありふれた、ごく自然にある事で、どうしてこんなに悲しんでいるんだろう
「・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・唯か?・・・・よぉ、悪いな」
突然声がした、びくっと身体を震わせて、慌てて涙を拭う
ああっ、け、化粧がっ、や、ま、いいか、お兄ちゃんそういうの気にしないし
慌てて何もなかったように取り繕う
「えへへー、唯の好きなマロンケーキだ、これ唯が貰うねー」
「何勝手に冷蔵庫いぢってんだ、馬鹿野郎・・・・・・・・・」
振り向く、ケーキをとってテーブルに移動する
座ったままで、あの時よりわずかだけ大人びた顔の竜之介
屈託のない笑顔は、やっぱり大好きなお兄ちゃんのモノだ
唯はそれを見られる幸せを噛み締めた、無理矢理っぽい、いや、無理矢理だもの
「どうだ?勉強進んでるか?」
「それは唯の台詞だよ、お兄ちゃん本当にお医者さんなんかなれるの?」
「馬鹿俺様を嘗めるな、なんたって医者になったらそれこそ、色んな女の子とだなぁ」
「はいはい、わかったよ、お兄ちゃん」
そんな会話を続けた、少ししてすぐにケーキは無くなった
それと同時に、いやそれよりもちょっと前に、唯の用事は無くなっていた
ここに居る必要は、もう、無い
「さて・・・・・・・じゃ、帰るね」
「ん・・・・そうか・・・・・・・・・・・じゃぁ、今度は美佐子さんの結婚式の時だな」
「うん、お母さん凄いうれしそうだよ、愉しみだって、はしゃいじゃって」
笑顔でぱたぱたと良く知った廊下を歩く
寒い空気が玄関に近づくとやってくる
冷たい・・・・・・冬の大気だ
ぎゅっと気を引き締めて寒さに身を固める
「・・・・・・・・そうだ唯、クリスマスプレゼント」
「え?・・・・ってわっ」
ぼふっ
「これ・・・・・・・・・」
「コートの下に着てけよ、寒いだろう・・・・・」
「お兄ちゃん・・・・変だよ、普通コートの下にジャンパーとか着ないよ・・・・・」
「うるさい兄の心遣いを受け取れ」
「・・・・・・・・・・変なの」
「とか言いながら、ちゃんと着るから偉いな唯は」
「聞き分けのいい、妹だもの、ね」
!
語尾を強くして、そしてとんと飛びつくようにして、竜之介の唇を奪った
不意を付かれたらしく、完全に無防備な所を取られた
まさに、唇を奪われた竜之介
「ば、馬鹿・・・・・」
「へへーん、隙アリお兄ちゃん・・・・・・うん、お義兄ちゃん」
だだだっ
脱兎の如く玄関を抜けた、冬の空気に飛び込む
外
真っ暗な中に、白い白い雪がいっぱいに舞っている
「うわ・・・・す、凄い・・・・・・・・・・・・・・」
ちらちら、音が聞こえそうな、雪がふわふわと綿毛を散らしたように
たくさんたくさん、真っ暗な空からしんしんと降ってくる
包まれる、雪に、感じる、冬の大気を、凄いっ、心が震えるっ
そのまま走る
「唯っ、転ぶなよっ」
「もう子供じゃないってばぁっ!!!じゃーね、お兄ちゃん!」
「・・・・・・・Merry X’mas」
「うん、めりーくりすますっ」
たたたたたたた
暗闇に唯が熔けて消えた
雪が降り続ける、イヴの夜にこの雪、出来過ぎた演出だぜ
竜之介がそう思い、寒さに耐えかねて扉を閉めた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・優しいお兄さんね」
「・・・・・・・言わないでくれ」
くすくす、二階から笑い声が降りてきた
ぺたぺたとスリッパをならして温かいリビングへとやってくる
寒そうな仕草をした竜之介をそっと後ろから抱き締める
確かにその背中は、少しだけ冷たくなっている
「さて、お兄さん、妹さんはどうしたかったでしょう」
「知らない」
「・・・・・・・・・・・・・・本当、優しいんだから、妬けちゃうよ、竜之介くん」
後ろにとりついた女の子にケーキを薦める
ぱちんと手放しに喜んで、一緒にテーブルに座った
妹が座っていた席に、今は、妻となるべき人が座っている
そういう席なんだな
「だけど、私上手くやってけるかな・・・・・・・・・」
「大丈夫さ、仕事だって一緒なわけだし・・・・っていうか、俺が一番やりにくいよ」
「あら、どういう意味かしら」
「唯はともかく、桜子ちゃんも一緒だと、ほらなぁ、色々さ・・・・」
ぎう〜、桜子が竜之介の頬をつねった
竜之介のイスがぎしっと音をならした
何がそんなに楽しいのか、いつになく笑顔の桜子がそこに居る
☆
はらはらと落ちる雪
凄い、感動した、本当に凄い、身体が震えるっ
唯がたかたかと走って駅に向かう、何も見えない暗い闇から
幾千という白い雪が降ってくる、こんな幻想的な光景はそう無いだろう
ましてこの日は
クリスマスイヴだ、しかも身体を、大好きな人の匂いが包んでくれている
それは、あの冬の革ジャン
それを竜之介が覚えていたのが、唯には本当にうれしかった
年を越えると、もう、竜之介とは、戸籍の上でも兄妹になる
美佐子と竜之介の父が結婚するから
何かを不安に思っていたんだろう、それに気付いた
町はまだクリスマス気分が止むことはない
零時を越えてもきっと変わらない、朝が来るまで、この奇跡にみんなが酔うんだ
Merry X’mas
全てに感謝、唯は、立派な妹になって
速く自立しようと思います、だけど、今日は
お兄ちゃんの匂いに、大好きな人の匂いに、包まれて過ごさせてください
唯がうれしそうに誰かの横を過ぎる
今度は、唯が幸せを目の前にした人になってる
後日手紙が竜之介の元に届く
内容は、美佐子さんの楽しそうな姿と、式の明確な日時
そして
p、s、唯はチョコレートケーキを食べる人があまり好きになれません
お義姉さんとは、うまくいかないかもしれません(笑
「子供のまんまじゃねぇか・・・・」
「宣戦布告かな?負けられないわ」
それも楽しそうに読んでいた桜子が意味深に呟いた
竜之介にはこの件についての事はさっぱりわからない
とりあえず女の世界はなんだか大変らしい
冬の大気は、幻想を創るには必要な要素、唯の冬は準備段階の現れなのだ
クリスマスでした
時期外して上げたくさかったので、意味無かったんですが
まぁ、おおよそ
ほぼ一人のお客様のみをターゲットにして書いたので
受け良くなさそうですが、強い桜子をそのうち書きたいです
多分書かないけどな
書いて気付いたんですが
竜之介及び、卓朗は、やっぱり僕には扱えません
台詞とか浮かびませんし
そう言う点で、どこか欠点がある、それが特徴である女性キャラは
書きやすいなぁと、エラそうな事書いておいて
最近のおいらのキャラSSの台詞、そんな台詞、あの子はいいませんっていう意見多数
駄文誠に失礼いたしました R