<−第二夜

来栖川綾香が恋をした、神岸あかりが恋をしている。

不思議、恋をするとその相手の行い全てが
間違っていないと錯覚するようになる
それが魅力だと感じるようになる
自分では、そこに疑問を持つけども、その疑問は

「私、いままでタバコ吸うのってどうかと思ってたけど」

「けど?」

「見てたら、そうでもないかなって思うようになった」

綾香が男に微笑いかける
美しい横顔が、男の面長に声をかけている
男の口元からは、ふわりと、煙が上がる
紫煙とは言い難い、そんな”いい空気”を出せるほどの
彼は、まだその域ではない
しかし、綾香にはそれが紫煙に見える
ふわりと登る煙が、ふらう、と周りを白くするのは
美しい様と見とれる、だが紫にはまだ見えない

「吸ってみるか?」

「いいの?」

「・・・・・・・・いや、まだ早いな」

「なによ、同い年のくせに」

「バカ、重いんだよ俺の奴は・・・・・・・・今度、軽いの買ってきてやるよ」

どきどきした
別段、たかだかタバコなのだが
男から薦められる初めての事に、なぜだか心がおどる
アレをする事よりも、もっと、何か不思議と
こちらの方が、ずっとずっと不健全で、危険な匂いがするような
魅力に満ちている
綾香は、疑問を持つ、だけどそれは
すぐに風に忘れた、覚えていない、男に変えられて行くことが
原因であるなどと、まだ初めてなので知らない

綾香は知らない

「浩之ちゃん」

「あかりか・・・・・久しぶりに帰るか?一緒に」

「うん、一緒に帰ろう浩之ちゃん」

うれしそうに、幼なじみの笑顔を向けるあかり
あかりは、彼が好きだ、ずっと前から、遠く以前から
誰よりも古く、誰よりも深く、彼の事が好きだ
これは真実であって、彼女の確信でもある
だが、確信は心の底だけで、自分のあずかり知らぬ所で、自覚は無く
事実彼女は、自分でそう思いこむほど、子供ではない

「ふふ・・・・」

「なんだ?妙な笑い方をするなよ、変なモンでも喰ったのか?」

「ううん、だって、浩之ちゃんが倒置法で会話するなんてって」

「とうちほう?」

「ほら、さっき、”一緒に帰るか?”じゃなくて、”帰るか?一緒に”って言ったでしょ」

「・・・・・・そうか?いつもそうだろ?」

「違うよ浩之ちゃん、前は、普通にしか喋らなかったよ」

ぱしっ

「あう・・・・・浩之ちゃん、痛いよ・・・・」

「バカな事言ってると置いてくぞ、あかり、おら、追いつけるか?」

「わー、浩之ちゃん、待ってって」

ぱたぱたと幼なじみのように走るあかりと
追われることを、随分と昔から続けていると気付いているが
続いているだけだと、敢えて直視しない男
あかりはそれにも、気付いている、悲しいけども知っている

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・」

「わい、追いついたよ浩之ちゃん」

「あー・・・・・よくできました」

「ん」

あかりが、にこりと浩之をのぞきみる
少し走っただけで、随分と息が切れてるなぁとぼんやり思っている
ふと思い当たる節があって、とんと横に座れる所を探した
座れるところ、一緒に二人で
そう考えると

「ただいま」

「俺の家だっつうの・・・・・」

「ごめんね、なんだかいつも来てるから・・・・・・・自分の家みたい」

あかりが、少し辛味の利いた事を言う
無自覚に、限りなく自然に、だがそれ故に彼に刺さる
彼の部屋にあがる、彼がすいすいと、上着を脱ぎ捨てる
あかりは、それを拾って畳む
鼻を抜ける、煤けた匂い

タバコの匂いが、鼻を突く、ねとっとした喉を乾かす匂い

「タバコ、辞めないんだね」

「ん?・・・・・そんなに匂うか?」

「うん・・・・・浩之ちゃんの、重いんでしょ?」

「・・・・・・ん、まそうかな」

ばつが悪そうにしながら、イヤな空気を払うように
すぐにタバコを手に取った、あかりが苦笑する
ぽじおおお、とライターが火をつける
音が鋭い、ターボライターの音が続いて、かしん、と蓋が閉じる

「12mgは重いよね、やっぱり」

「お前は吸うな」

「どうして?」

「子供だから、ダメなのです」

「もう」

浩之が白い煙を吐いた
ふわりと浮いた煙が、部屋を包む
いや、あかりを包むと、本人が思った
煙が、喉と目と鼻を突く

なにげなくタバコの箱を取り上げる
浩之が気付かぬところで、あかりが取り上げる
どきどきしながら、それを持ち帰る
髪に、制服に、まだ匂いが残っている
仕様が無いなぁと、ぼんやり笑いながらそこを出て
自分の部屋に戻る

「あ、来栖川さん・・・・・」

「あ、えっと・・・・・神岸さん、浩之のトモダチの」

にこりと笑うと、思い出したのか
綾香が一、二言と話をした、他愛もなく
だけども品の高い話
そして別れる、すれ違う二人、あかりは知っている

部屋に戻る、がらんとしているが、整った部屋
きちんと整理と整頓の行き届いた、清潔な部屋
くまの縫いぐるみがたくさん、並ぶ部屋

しゅぼ、音が聞こえる

ふー、と息が通る声がした
そして、ふわりと、紫煙が上る
初めての事に、少しどきどきした、あかりがぼんやりと天井を見る
もう一息吸って、またすぅと吐いた

「・・・・・・・・・・・・・・・酷いよ、浩之ちゃん」

ほろ苦く、喉を焼くようにして
煙が身体の中を蝕んだのが、解った
あかりが、はらはらと泣いた、呟いた、彼の名前を呟いた
彼女は知っている
タバコが、軽くなっていた事に
それがすぅっと、軽くて爽快のモノになっていたのを知っている

倒置法で喋るひとの事を知っている

彼女は知っている、何が変えるのかを
長く居る人間が相手を変えた事
好きな人が自分を変えていく事
それが、どれほどどきどきして、痛いほど切ない事かを
彼女は知っているほどに、大人になっている

来栖川綾香が1mgを吸っている、神岸あかりが1mgを吸った

だが、1mgを吸う女は、二人ではない

なお続く、鳩の夢、十夜の二夜が耽る

つぎ

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多分、メンソールです(−−;
最近、仕事の関係でタバコの銘柄を好く見るようになって
一つというわけで
セッターと、マイセンという単語を覚えて
ショッポが無くなって、ラークと
ピースと、ハイライトが渋いって言われましたが
どうなんでしょう
よく分かりません
まだ吸った事ないので、ええ

いつか吸わないとなのかなと思いつつ
話と全然関係無ぇ(;´Д`)

関係の在る話をしますと
基本に、夏目先生を意識しましたが
おおよそ文体は、山田詠美に近いです
読みにくい部分は、わざと漱石風にした所だと思われます
申し訳ありませんm(__)m
現在形の事実による単文を羅列するという文体
これが漱石だと信じて疑わないおいらでしたヽ( ´ー`)丿

駄文失礼Rでした