あとがき
宝蔵院
裏庭の、四方を垣に囲われた
小さな庭がある
産女の産所と、滅地が隣接した場所
そこは、今は死にたがりが居ないらしく
のんびりとしている、地面は血を吸いすぎて
草の一本も生えていない
この庭に隣接した本殿の縁側に
小作りな女が一人、半裸で寝そべっている
背中には、おびただしい数の針が
竹藪のように天を衝いている
「気持ちよさそうだね、初」
「んーー・・・・これはこれは、然様、お帰りでしたか」
「お前がそう言うとくすぐったくて仕方ないね」
「あらやだ、何をおっしゃいますやら」
終わると、にしししし、と
口を横に開いて半裸の娘は笑った、初だ
会社を辞めて、宝蔵院で槍の教授や護衛をしている
その他、悪くなった体の具合もあり
鍼灸の勉強をし、立派な師になりつつある
「お前の鍼もたいしたもんだな・・・・・・・」
しげしげと、然は初の背中の竹藪を眺める
的確にツボを突いているらしく、感嘆している
「んー、半分は小鈴にやってもらったけどね」
「なるほど、頭のいい子だ、あの子も、お前も」
五条の芸妓だった小鈴は
初が買い上げた、退職金の全てを使い
ひきとってきたのだ、五条の店には随分と反対されたらしいが
小鈴は笑顔でそれを喜んだという
器量からすれば、もっといくらでも良い先があったろうに
「然様・・・・お帰りなさいませ」
「ああ、小鈴・・・・・・・すっかり慣れてもらって悪いねぇ」
にこやかに小鈴はやってきた
今では、初とともに宝蔵院に仕えている
小間使いや台所など、下々の事もするが
器量と、培った芸を活かし
時折訪れる、上層の人々との席を賑わせている
彼女にしかできないであろう仕事をしている
そして相変わらず
自分の世界を崩していない産女の然は
すっかり偉くなってしまい、宝蔵院の上等五衆というのに
名を連ねている、地位でいけば世間の上層などと対等だ
「膳所様はどうでした?」
「ああ、そうだ、近くやってくるよ」
「絣さん?」
「いや、ご当主じゃない、次期当主だ」
「音か・・・・・・・・」
「音様と言いますと、今わー」
「9歳になる、立派なもんだよ顔立ちとか、流石私が産んだ子」
膳所の家は、絣が継いで9年経つ
無刀の絣
とまで言わしめて、膳所の隆盛を今に誇っている
腕の自由を失い、刀が奮えなくとも、武器を持たず生きている
聡明で、生きる政治に強い所も今に至る理由だったのだろう
事実、体術の強さもあるが
賢明な判断が、膳所の家の格式を上げている
膳所は代が替わるほど、強くなると今では誰もが口にするほどだ
その次期当主に
然が産んだ、絣の妹、音が居る
幼くして英才を遺憾なく発揮し、既に将来を有望されている
膳所はこの数代でいよいよ盤石
と言われている
「いつごろ来られるんですか?」
「今日、もうそろそろかな」
「ち、近くって、近すぎるじゃないですか然様っ、電話あるんですからもっと早くに」
「悪い悪い、いや、でも、設宴の心配は無いから」
小鈴が怒るが、然は顔だけ困った風で
やれやれとそれをなだめている
初がゆっくりと起きあがった、この娘は
未だ鋭い感性で、物事を悟るらしい
「音、一人じゃないね」
「ご明察、初、お願い」
言う前に初は居ない
歩きながら鍼を抜いて廊下を滑っていった
慌てて小鈴が追う、危ないからじっくり外してください
小言のように声が聞こえた、廊下の闇に全て呑まれる
「綺麗な空・・・・・・秋空だねぇ」
然も腰を上げた
日の温かさに目を細めていると
使いが静かに近づく
「わかった、お通しして・・・・・・そうだね、他の誰にも言わなくていい、ナイショで連れてきておくれ」
使いの童に心付けの菓子を渡して
背中を押した、然は雪駄を履いて
庭に降りた
狭いようで広い四方
生死の縮尺を納めた庭
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪」
小さく唄う
然の声は、いつだって人の心に染み込む
不思議な音色を奏でている
歌なのか、経なのか
相変わらずわからないけど、唄っている
足音が二つ庭にやってきた
相手は解っている
音と、彼女だ
続いて、どかどかという足音が廊下を踏みならす
初に小鈴
「ようこそ、膳所 音様」
「ああ、然母、さきほどはありがとうございました」
目鼻立ちが、怖いくらいに周に似ている
ただ、まだまだ残るおぼこさと、何も知らない瞳が
大きく異なっている、膳所 音は可愛い娘だ
「お久しぶりです、然様」
「元気そうで・・・・・・・春」
近江 春
今の名前はそれだ、その後
武専の筆頭となり卒業後は、あの三菱の総務に務めている
時間は流れた
26歳になる
「春さん・・・・・・・・・で、今日は?」
音は何も知らないで聞く
「音、いい?・・・・・・・・・よく聞いて」
もう四方の庭には
二人だけしか居ない、他は皆
縁側に上がって、眺めている
事と次第は、予想通りだ
儀式みたいに美しくて、ただ黙ってそれを見守る他無い
初は静かに、先ほど取りに行ったらしい
大きな太刀を然に渡した、膳所の陣太刀
後ろの小鈴も二振り持っている
古びた居合い刀と長い脇差し
その3本をそれぞれ、音と春に手渡す
音は大太刀を、春は二本を
不思議そうな顔をする音、しかし、何かを感じたらしく
太刀を握ると、表情は膳所の女になる
春も二本を差す、義姉と兄の魂
伝えられた魂は、常に受け継ぐ必要がある
春はそうやって信じて、その後を生きてきた
花がそうしてきたように、同じ目で、寂しい心で
・・・・・・・・・・・さぁ、音や、お前は赦せるかな・・・・・・・私は
青空が、ただ高く続く
とかいう終わりにしようかとも思ったわけですが(最低だなお前)
満身創痍で、時間泥棒の隠し名を持つスピリット オブ ヤーパン
終わりました
終わりました
二度言うほどオワってしまったんですが
ごめんなさい、私にそんな才能ありませんでした
最初は1話の姉SSの予定で終われず
13話の中編でも終われず
ようやく24話の長編で切腹
読んで頂いた方に、顔向けできません、私は勘違いをしておりました(;´Д`)
名前話
長坂 花
居合道の長坂流とかいうのがあるらしく名字拝借
名前はテケトー
斉藤 春
素性隠してる設定から、新撰組の斉藤先生より名字拝借
名前はテケトー、花と区別つけにくいという最悪の選択
原田 初
小柄でショートで八重歯で勝ち気と、俺と高馬の欲望を集結させたわけだが
槍使うので新撰組の原田先生より名字拝借、名前は俺が最も可愛いと思う語感より
膳所 周
近所の地名より名字
名前は、園芸学に「西 周」先生とかいうひとが居たなぁと付けてみた
幕末にいらっしゃったらしい、西 周先生とは無関係
膳所 絣
もう、一字名しか付けられないしと会社の資料で見かけた漢字から
五条の小鈴
本当は鈴、芸妓さんは名前の頭に小を付ける風習があるので
鈴の付く名は好き
長井 六郎
斉藤道三の前の名字から名字拝借、名前は真田十勇士あたりということにしておこう
宝蔵院の然
坊主っぽいから
膳所 音
名前としてステキすぎると自分で思ったけど
俺の文章てば、音って単語頻出なので、あまり出ないキャラに付けてみた
佐々木、宮本 三叉
例の二人より名字拝借、雑魚扱いなので名前くらいは立派に
スピリット オブ ヤーパン
ドイツ語読みと混ぜてみる、俺得意の造語
連載半ばに、富野大先生による有名アニメにて、ヤーパンとかいうのが出てきたらしく
本気でどうしようかと悩んだ、趣深い名前
ドイツ語で、der Geist des Japanとか表記するがおそらく
文法その他大間違い
最後に
読んで頂いた方全ての皆様
本当にありがとうございます
ありがとう ございました
R