姉SS

キーステーション


「この放送は、第313号緩衝区の放送室をキーステーションとして、全ての皆様に向けてお送りしております」

少しばかりノイズを混じらせて、いつもの通り女の声が戦場に届く
アテもなく、今日が何日かもわからず、
それでも時間の感覚だけをこのラジヲが教えてくれる
兵士達はしばし、この放送に耳を傾ける、23:00、
夜は静かだ、真っ暗でひとりぼっちでも、この音がある
そして終わるとき、明日が始まる

「では早速リクエストにお応えしまして、『天城越え』をどうぞ」

FM放送にありがちな、とても綺麗な女性を思わせる声
パーソナリティがどんな顔をしているのかはわからない
なぜだか、髪の長い、眼鏡をしている美人というイメージを浮かべる
好みはショートカットのあどけない年上だけども、
この声とこの放送からは、ロングで眼鏡の知的なおねーさんという具合だ

「前線の皆様に、せめてものステキな夜をお送りいたします今日の放送、ではお便りを紹介しまーす」

「甲軍命令番号第515号発令、該当地区員は明日、所定のポイントへと移動を開始ください」

「甲軍命令番号第516号発令、既に連絡を受けている隊員は、作戦開始時刻にあわせ、各員補給を開始ください」

「乙軍命令番号第BC号、BD号変更のお知らせ、開始時間を所定時間より、2時間遅らせてください」

最初は面食らったものだが、敵味方両軍に向けて放送されるこれ
本当のことも嘘のことも、何もかもがごたまぜになって流れている
誰がどういう意図でこの放送を始めたのかわからないが、どちらの軍のものでもない誰かによる、
両軍どちらも止められないのか、放置され、やがて、利用されるようになった
両軍に向けて、嘘情報でもあり、本当情報でもある指令がつらつらと流れていく

「さて、お待たせしました、ご好評にお応えしての特別企画リスナー様双方向放送でーす」

陽気な声でおねーさんが紹介を続ける、
もう久しく人の声を生で聞いていない身分としては、
このコーナーがたまらなく好きだ、

「どーも、こんばんわー」

「陽気な声で電波ジャックしてんじゃないわよ」

剣呑な声
怒っているといった声色

「あっと、まずは所属とお名前を…任意ですので嘘でも結構ですよ」

「何が任意よ、そっちからかけてきてんだからわかってるでしょうよ」

「電波にのせてますから」

「…3号、3号でいいわ」

「でわ、3号さん、思いの丈をどうぞ」

「気に入らないのよ」

「もう少し、詳しくお聞かせいただけますか?」

「あたしだったら、もっとうまくやってやるって言ってんのよっ!そこどけよ、あたしの場所なのよっ」

「なーるほどー、では、今からどうぞこの番組乗っ取ってください、電波ジャック、あなたの時間♪」

「え、ちょ…」

「はーい、では今から3号さんの番組は・じ・ま・り・まーす、どぞー!」

「え、えーと…はい、こんばんはー、今日もすっかり日も暮れて、太陽とともに敵も去っていきましたね、
私は今日5人ほどやりました、何をやったかは、曲のあとでー、では一発目、「津軽海峡冬景色」です♪」

「おー、本当に上手ですねー♪」

「あんた何してんのよ三下!、さっさと曲いきなさいよバカじゃないのっ能なしっ、アンポンタンっ!」

「いやー、もうちょっとアレかと思っていたのに、ちょっと残念です、そして夢の時間は終わりでーす、
3号さんありがとうございましたー」

「ちょ、まだ、何も私の思いの丈を伝えて…」

ぶつ、

「はーい、では、リクエストにお応えしまして「津軽海峡冬景色」お聞き下さい」

ぱぱぱぱ〜、
前奏の音とともに、3号さんは軽やかにスルーアウト
手際がいいというかなんというか、
もの凄い怒っていた風なのに、えらい簡単にあしらったな、
今頃、怒り狂ってラジヲ壊してんじゃないのか

「はーい、さっきはなかなかスリリングな感じでしたねー、ちなみに3号さんは、
女声で喋ってましたけど、男の方でした、最近の変声機は優秀ですねー、
たまにボーカロイドも混じってるらしいですから気を付けましょうねー、私は本物ですよー」

本当か嘘かもわからない話しを織り交ぜ、
相変わらずのテンションで、時折、電波の不具合を感じさせながら
ラジヲは夜にどんどん沈んでいく

「では、次のリスナーさんを呼んでみましょう、どうぞー」

「俺だー、いいか、もう喋っていいかー」

「はーい、随分元気ですねー、というか、凄い雑音が混じってまーす、どちらからですかー?」

「今日、ここでは、凄い戦闘があった、部隊は全滅、通信機器もヘボだから、この有様だ」

「なるほど、貴方はご無事ですか?できればお名前も教えてください」

「俺は無事だー、明日も戦える、だから言っておく、おい、今日、ここの攻撃に加わってたパンチパーマ、
てめー、明日も絶対出てこい、俺が、必ず、相手してやる、いいか、俺が必ずだ!」

「あのー、せめて特徴だけでも」

ザ、ザザ「いいか、」ザザザ「…俺が必…」ザザ・ザ・ザ「野郎!」

「…えーと、というわけでした、心当たりの方は明日、現地で集合くださーい、では次ー」

ぴりりりり

「え?」

唐突に無線が鳴った
こちらから鳴らすことができない機械、最近ではお守りみたいなものだと
よくわからない納得を押しつけていたそれが鳴動している
これって、ひょっとして

ぴりり

「はい、こちら…」

「どーもー、こーんばんはー」

「え、マジで?俺が、す、すげぇっ!やった、このラジヲに出られんだ、やた、すげっ」

「おー、いい塩梅でテンション上がってますねー、お名前をどうぞー」

「あ、え、えっと、その、ら、ラジオネーム『明日も元気』でお願いします」

「いい塩梅でラジオネームっぽですね、では、明日も元気さん、思いの丈をどうぞ♪」

「あー、結構前から、もう、どれくらいかわからないけど、すっかり一人です、
こうやって、ちゃんと喋れているのも奇蹟みたいで、なんというか、嬉しくて…、
つ、伝えたいというか、もう、思うまんまなんだけど、その、多分これはラッキーで、
最後のプレゼントみたいなもので、本当、マジ、嬉しいんだけど、
そうだ、3号さん、あんたの声よかった、すげぇ今怒ってるんだろうけど、またチャレンジしてほしい、
あと、さっきの人、もう通信機器ダメかもだけど、相手は俺じゃないのはわかってる、
けど、俺もそこへ行きます、多分今日の戦闘のことだと思うし、言ってた相手、
多分もういない、ていうか、そう…そうなんだ、それじゃなんていうか、つまらないだろうし、
俺が行くし、俺がやるから、ただ、やる前に、話しを、話しだけできたら…」

「よく、喋りますねー、そろそ…」

「そうそう、おねーさん、好きだ!」

「はい?」

「いや、ずっと、もうどんだけ長い間、おねーさんの声で癒されてきたか、
この想いを、いや、届ける方法がなくて、ほらFAXとか、ハガキとかそんなのないし…」

「でもボーカロイドですよ?」

「それでもいい、もう、言葉があるだけでいいんだよ、好きだ、愛してる、もっとずっと、その声を電波に載せてくれ!」

「気持ち悪いくらいステキですね、ゆんゆんしちゃいます」

「好きだー、結婚し…」

ぶつ

「はーい、ありがとーございましたー、ちなみに私からの答えは曲のあとで、曲はこれ『サヨナラ』」

23:00

「この放送は、第313号緩衝区の放送室をキーステーションとして、全ての皆様に向けてお送りしております」

「この電波を受信している全ての皆様に、せめてものステキな夜をお送りいたします今日の放送、ではお便りを紹介しまーす」

「甲軍命令番号第999号発令」

「乙軍命令番号第ZZ号発令」

「では、曲の紹介です、『チャンピオン』」

音が入り、声は電波から離れた
席には、髪の長いおねーさんがいる、眼鏡はない
電波は最大出力で放出されている
誰かが拾ってくれているだろうか、そんなことを考える

ずっと真っ暗な部屋だ
どれくらいの時間そうしきたかわからない
声を載せることしか、自分を確かめる術がない、
声に答えてくれることで何かがあったように感じられた

答えてくれる言葉、リクエストはもうこない、電波はとめどなく吐き出されるけど返ってこない

命令番号最大が発信されたいま、この区域で行われていた何かは終了したんだと考えられる
罵る声も、励ましのお便りも、参加企画も全てがなくなった
もしかすると、それらの声はよくできたボーカロイドだったのかもしれない
そんなことはどうでもいい、もう、曲が終わる
DJの仕事をこなそう
誰かが、気まぐれに、もしかしたら、チャンネルが、たまたま、受信されるかもしれない
そのためにも、ラジヲは元気で、楽しく電波を飛ばさないといけない

「はーい、次の曲いきまーす『レディオ・ガガ』!」

今日を終える1時間が広がっていく
おねーさんの声は、電波になってそこかしこを漂う
知覚されなくても、存在はする

ボーカロイドの人工音声に紛れて
本当の声が消えていく

おねーさんの声はまだ続く、誰かの受信を信じて

12/02/04

酷いなと思うところ
オチを用意しないというあんまりな出来映えで
自分の現状を理解する昨今です

書いたのは、ボットしかこないサイトの話しでしたとさ